著者
中村 英昭
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.310-320, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
5

平成19年,統計法が60年ぶりに改正され,改正後の統計法(平成19年法律第53号.以下「新統計法」という.)では,統計データの利用促進と秘密の保護に関する諸々の規定が盛り込まれた.政府は,おおむね5年ごとの法定計画である「公的統計の整備に関する基本的な計画」(以下「基本計画」という.)に統計データの有効活用の推進に関する事項を具体的な施策として盛り込み,統計データの二次的利用の促進に努めてきたところである.その後約10年が経ち,平成28年末に経済財政諮問会議が決定した「統計改革の基本方針」に基づき,平成29年1月に統計改革推進会議が設置され,5月には改革の大きな方向性が取りまとめられた.本稿では,新統計法施行後の統計データの二次的利用の状況や課題の検討状況,統計改革の動向や基本計画見直しの議論,今後の方向性等について紹介する.
著者
一針 源一郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.93-106, 1998-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
11

日本企業のグローバル化で、かつての貿易摩擦よりも深刻な投資摩擦が引き起こされる可能性が高い。そこで、不連続な変化を扱うカタストロフィー理論を応用して、投資摩擦の発生メカニズムを解明し、防止の一助とすることを目的とした。 日本企業の海外進出は、「働き口が多くなる」と一般に歓迎されているが、「競争が激化し自国企業が苦しい」という反対もあり、被投資国の景況の悪化は、歓迎・反対の両方の世論を高める分裂要因であり、不快指数(失業率+インフレ)で表わした。一方日本のプレゼンス拡大は「日本人・製品が増えて欲しくない」という反対を常に高める平常要因であり、日本の直接投資残高の伸び率で示した。 この2つを外生変数とし、日本の投資を歓迎しない人の比率を被説明変数として投資摩擦モデルを作成した。「くさびのカタストロフィー」関数を用い、欧米亜13力国の経済環境と大蔵省「対外直接投資状況」、外務省「対日世論調査」のデータに基づき係数を推計した。 今回の分析では、投資摩擦を2つに分類することができた。(1) 集中豪雨的な企業の直接投資は、やや遅れて「不満型」投資摩擦を引き起こす。(2) 失業率・インフレなどが低くなる経済的好況も、「自立型」投資摩擦のきっかけになる。
著者
田中 愛治 日野 愛郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.201-224, 2015

政治学におけるCAI調査は,とりわけ選挙調査の文脈で発展してきた.本稿は,選挙調査におけるCASI調査の取り組みを概観し,CASI調査には,集計の迅速さ,設問や選択肢のランダム化,回答に応じた質問内容のカスタマイズ,回答時間の測定,画像や動画を用いた調査実験の実装,社会的望ましさバイアスの軽減,代表性の担保という7点のメリットがあることを論じる.一方,コストの高さや回収率の低さといったデメリットがあることも指摘する.その上で,回収率の低さというデメリットは代表性を損なうことにつながるのか,そして,CASI調査は,社会的望ましさバイアスを軽減するというメリットをどの程度活かしているのかを,過去に実施された選挙後の世論調査と公式発表されている選挙結果を比較して検証した.その結果,回収率の高低は,必ずしも投票率の乖離(回答データにおける投票率と実際の投票率の差)や得票率の乖離(回答データにおける各党の得票率と実際の各党の得票率の差)に結び付いていないことが明らかになった.一方,CASI調査は,投票率,得票率のいずれにおいても最も選挙結果との乖離が小さい調査モードであることが明らかになった.ただ,コストの高さという課題は残っている.
著者
福井 康貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.309-324, 2014

本研究の目的は,自己に対する希望,社会に対する希望,それぞれの規定要因の関係を,日本に居住する中高年者を対象として明らかにすることである.先行研究では,自己に対する希望の規定要因は検討されてきたが,それが社会に対する希望の形成につながるメカニズムは明らかになっていなかった.そこで,2010年に実施された「中高年の生活実態に関する全国調査」のデータを用いて,自己に対する希望と社会に対する希望の関連を,階層や社会関係などの要因に着目して検討した.分析の結果,(1) 自己に対する希望が階層や社会関係などの直接的な影響を受けていること,(2) これらの要因は自己に対する希望を通じて社会に対する希望に間接的な影響を与えていること,(3) 自己に対する希望と社会に対する希望の間には,他の変数を統制したうえでも,相互に高め合う関係があることが示された.以上の結果から,自己に対する希望を規定する社会的な次元の不平等を取り除くことにより,自己および社会に対する希望の格差を解消するという道筋が示唆された.
著者
片岡 栄美
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-20, 1996

本稿は、多様な文化活動に対する文化評価の根底にある認識図式の集団的・社会学的特徴を解明した。主な知見は、以下のとおりである。(1)文化活動の序列評価は異なる社会集団間で共通性が高いが、階層上の地位が高いほど文化弁別力は大きい。(2)社会階層と文化活動のヒエラルヒーは対応し、階層上の地位か高い集団は文化による差異化戦略を採用している。(3)文化評価の構造を検討すると、階層上の地位は文化評価に影響を与え、各階層成員は自らの所属集団の文化を高く、社会的距離のある階層の文化を低く評価することにより、自らが優位となるような評価分類図式を採用する。すなわち文化弁別力の階層差は、客観的な社会経済的な条件のなかから生み出される階級のハビトゥスとなった文化の知覚分類図式である。(4)世代間地位移動が文化評価に与える効果は男女で異なり、男性には文化同化仮説があてはまるが、女性は結婚による下降移動による影響は受けず、出身階層の文化評価パターンを相続する。
著者
中井 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.345-358, 2000
被引用文献数
1

流行には、1960年以降3回あったスカートの流行や、幕末以降4回あった新宗教ブームなど、「ほぼ同一の様式がある程度周期的に普及と沈滞を繰り返す循環型」の流行現象が存在する。<BR> このような循環型流行現象の原因としては、従来いくつかのメカニズムが提案されていたが、本研究では「社会の気質」が周期的に変化している可能性に注目し、石井モデルを拡張したモデルを立てて、気質の周期的な変化が自律的に生じることがあるかどうかを検討した。<BR> 具体的には、石井モデルにおける流行採否戦略の社会的分布を社会の気質と解釈し、それを学習によって変化させるモデルを立ててシミュレーションを行った。その結果、あるパラメーターにおいて、採否戦略の周期的な変動と、それに伴うアイテムの流行の周期的な変化が見出された。<BR> 更に、採用に敏感な者同士のクラスターの発生と消滅が、この変動を駆動していることが分かった。
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.157-173, 1996-12-31 (Released:2016-08-26)
参考文献数
8
被引用文献数
6

数理社会学は、社会学を科学として自立化させることをめざす「啓蒙のプロジェクト」として出発した。そのさいそれは、「論理合理主義」のプログラムにもとづき、社会学理論を科学と非科学に峻別し、あわせてこれまでの社会学理論はほとんど非科学的な類似理論であると喝破し、真に科学の名に値する社会学理論の確立を標榜した。しかし現在、数理社会学は社会学のなかで確固たる地盤を築いたにもかかわらず、社会学全体の状況は数理社会学のもくろみどおりにはならなかった。その根本的理由は、論理合理主義のプログラムにこだわるかぎり社会学そのものが非科学にならざるをえず、したがって数理社会学の思い描く社会学理論なるものが多くの社会学者の思い描く社会学理論と乖離していたからである。そもそも、検証(反証)という普遍的基準で科学と非科学をアプリオリに判定するという論理合理主義の科学哲学が厳密には容認できないものであることは今日では明らかである。しかしその一方で、本来、数理社会学のポテンシャルは論理合理主義のプログラムを超えている。すなわち、数理社会学とは、社会学理論としての数理モデルの妥当性を超越的に宣言するのではなく経験的に追求していくプロジェクトであり、その意味で、このプロジェクトは今なお未完なのである。
著者
坂元 慶行
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-88, 2001-03-31 (Released:2016-09-30)
参考文献数
37

筆者は、「日本人の国民性調査」に長く携わり、これまで、この調査研究を継続する過程で三つの研究目的(計量的日本人研究、社会調査法の研究、統計解析法の研究)に関して調査の現場でどのような問題に直面し、どのように対処したか(あるいは、どのように対処すべきか)について、さまざまな報告や主張や提案を行ってきた。本稿はそれらの記録である。記録の内容は、計量的日本人研究に関しては、20世紀後半期の日本人の意識動向の概括、社会調査法に関しては、実査を専門調査機関に委託する際の調査結果の連続性に関する問題と対策、統計解析法に関しては、実用的な統計学の構築をめざして、統計モデルと情報量基準によるその評価という立場からの情報量統計学の提唱、等である。
著者
長谷川 計二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.249-260, 2000

「生活環境主義」、「地域共同管理論」と、社会的ジレンマ研究に代表される数理的アプローチはともに、利用者としての地域住民自身が、いかにして自分たちの居住する地域を再編成し環境を保全していくかを問題とする点で探求の方向性を共有している。本稿は、資源管理問題と環境保全問題の具体的事例を手がかりに、これら諸アプローチ間の相互理解を図り、より一層の対話を促進することを目的としている。「生活環境主義」は、その方法が明確であり、数理的アプローチにおいて、たとえばゲームの構造を事例に即して考察し比較する上できわめて有効である。また「地域共同管理論」は、地域住民による主体的な地域の運営・管理を可能とする条件の解明に取り組んでおり、そこで明らかにされた諸条件は社会的ジレンマの新たな解決可能性を示唆する。他方、数理的アプローチは、地域社会に共通して見られるシステム安定化装置(たとえば、村八分)の存在根拠を示すとともに、地域管理に向けた諸条件の有効性を明らかにすることで、「生活環境主義」、「地域共同管理論」による研究に貢献することができる。
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.223-236, 1994 (Released:2016-08-26)
参考文献数
7
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.287-298, 2000-10-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
59
被引用文献数
4

本稿のねらいは、社会学における合理的選択理論の伝統を概観し、今後の発展の可能性を示すことにある。合理的選択理論は行為の目的合理性を過剰に強調すると同時に、選好と機会構造の形成過程をしばしばブラックボックスのままにしてきたため、社会学の中では異端でありつづけてきた。しかし、マイクロ-マクロ・リンクおよび行為の多元的合理性を梃子にしながら社会批判・政策提言を行っていくことは、社会学の良質の伝統に属する。そして合理的選択理論もそのような良質の伝統に属する。そのことが一見異端とも思える合理的選択理論が社会学の中で発展してきた理由の一つであり、このような伝統を共通の基盤にしながら他の学派との対話も可能であることを示す。
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.131-133, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)
著者
山口 一男
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-153, 1999

本稿は合理的選択の論理と行為の数理モデルを用い混合交換ネットワークにおける勢力分布の主な決定原理を明らかにする。混合交換ネットワークとは代替的な関係と補完的関係を共に持つ行為者の存在する交換ネットワークである。またそれらの原理を論理的に明らかにする具体的例示として少年2人少女2人よりなる15の異なるデイトネットワークを分析する。
著者
富山 慶典
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.69-84, 1991

集合的選択の正確確率と個人的選択能力,集団構成員数,集団の決定規則との間の関係は,コンドルセの陪審定理において初めて理論的に分析された.数名の研究者がこの定理を様々に展開してきているが,単一の集合的選択領域を暗黙裡に仮定し,その領域における個人的選択能力だけを導入しているという点で共通している.しかし現実には,&ldquo;経営戦略と人事移動&rdquo;というように集合的選択領域は複数存在し,&ldquo;経営戦略には強いが,人事移動には弱い&rdquo;というように集合的選択領域によって構成員の個人的選択能力には違いがあると考えられる.領域の違いによって構成員の個人的選択能力が異なり,かつ集団の構成員が限られているという条件のもとで,集団はどのような集合的選択領域にどのような個人的選択能力を持った構成員を配置すればよいのであろうか? この集団分割問題は陪審定理からの従来の展開研究のモデルでは取り扱うことができない.集合的選択領域が1つという仮定のもとでのモデル展開になっているからである.この論文では,陪審定理の証明の前提になっている基本モデルを集合的選択領域が2つある場合に拡張し,新たに集団2分割問題を一般的に定式化し,すべての領域に対するすべての個人的選択能力が等しいという完全同質性の仮定を導入した場合の集団2分割問題に対する解を定理の形で与える.最後に,今後の課題について言及する.
著者
Hiroshi HAMADA
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.242-260, 2016 (Released:2017-01-16)
参考文献数
58

The purpose of this study is to formalize a generative model for income and capital inequality by focusing on the accumulation process of human and network capital. Using this model, we attempt to provide theoretical explanations to three empirical questions. First, why is the relationship between economic growth and income inequality expressed as an inverted U-curve? Second, why does societal relative deprivation increase when economic growth rises (the so-called China puzzle)? Third, why is income inequality stable despite the reduction of human capital inequality? The model assumes that people in a society experience repeatedly random chances of gaining capital interest with a success probability p. People gain additional capital as an interest when they succeed and incur a cost when they fail randomly. We show that the capital distribution approaches a lognormal distribution, and as an output of Cobb-Douglas production function, income distribution is also subject to a lognormal distribution. Analyzing the Gini coefficient and the average income as a function of parameters of the model, we derive the following implications. 1) The inverted U-curve is realized by the expansion of success chance. 2) The China puzzle occurs because the increase of average income and Gini coefficient are simultaneously followed by the expansion of success probability p under the range p∈(0,0.5). 3) The income inequality is stable, though human capital inequality decreases because of human and network capital elasticity and network capital diminishes the impact of human capital equalization on income inequality.
著者
富山 慶典 細野 文雄
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.2_73-2_88, 1999-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
18

研究室配属とは,大学における卒業研究やゼミナール活動などのために,学生を研究室に配属させることをいう。“学生は1つの研究室にしか所属できず,研究室は定員をもち,学生と研究室の両方の意向にもとづいて配属するということを前提として,すべての学生をどこかの研究室に必ず配属する”という要請を満たす研究室配属制度を対象とする。社会的マッチング理論に基づく学生志願型GS制度は,この要請を満たし,かつ,いくつかの理論的に望ましい性質をもっている。しかし,すべての学生がすべての研究室に対する線形の選好順序に基づいて全研究室数分の順位を表明するということを仮定している。実際の研究室数はそれほど小さくないため,非現実的である。この制度を実際に利用できるようにするためには,比較的小さな学生表明順位ですべての学生の配属が可能であるか否かを調べなければならない。そのため,モンテカルロ・シミュレーションを実施した。その結果,学生の情報処理能力からみて無理がなく,配属される研究室に対する学生の希望順位の格差を小さくできる比較的小さな学生表明順位と,配属される学生数を研究室間で均一化できる小さな研究室定員との組の存在が明らかになった。
著者
鈴木 貴久 小林 哲郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.31-50, 2011

本研究は,異なる寛容性を持つ評判生成規範が協力に対してもたらす効果について,先行研究より現実に即した制約を課す進化シミュレーションによって検討した.具体的には,エージェントはネットワーク上で隣接する相手のみと社会的交換を行い,社会的交換における行動決定時とネットワークのリワイヤリング時に評判を参照するが,すべてのエージェントの評判情報を参照できるのではなく,評判が参照できるのはネットワーク上で2 ステップの距離に位置する他者までに限定された.こうした現実的な制約の下で,全エージェントがimage scoring(IS)規範,standing(ST)規範,strict discriminator(SD)規範のいずれかに従って評判を生成する条件を比較した結果,(1)全エージェントが寛容なST 規範に従って評判を生成する場合にはネットワークは密になり社会的交換の数は増加していくが,非協力行動が適応的になって協力率が大幅に低下する確率が高くなること,(2)全エージェントが非寛容なSD 規範に従って評判を生成する場合には協力率は安定するが,ネットワークが疎になり社会的交換の数自体が減少することが示された.この結果から,評判の生成規範の寛容性は,社会的交換における協力率だけでなく,社会的ネットワークの構造に対しても効果を持つ可能性が示された.このことは,協力率のみに注目した非寛容な評判生成規範では,副産物的に社会的ネットワークを縮小することで社会関係資本に対して負の効果を持ちうることを示唆している.さらに,相手の評判値を誤って知覚するエラーを投入したところ,寛容なST 規範に従って評判を生成する場合でも協力率が安定した.このことは,社会的交換がネットワーク構造を持つ制約の中で行われる場合には,寛容な評判生成規範でも高い協力率の維持が可能になりうることを示唆している.
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.39-52, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
15
被引用文献数
2

従来の社会計画論は社会計画の失敗メカニズムを的確に捉えることができなかった。その理由は、従来の社会計画論が「社会システムは通常の行為者の『理論や知識』(一次理論)に依存する」ということにあまり注意を払わなかったからである。このため、「社会計画の実施によって通常の行為者の一次理論が変動する」というようなケースを適切に扱うことができなかった。 本稿では、分析モデルの構成要素として、計画主体の一次理論(政策と結果を結びつける理論)、通常の行為者の一次理論、通常の行為者の一次理論に依存する社会的メカニズム(政策と結果の実際の関係)を設定する。さらに、「社会計画の実施は通常の行為者の一次理論を変動させる」、「通常の行為者の一次理論の変動は社会的メカニズムを変動させる」という二つの仮定を置く。そして計画主体の一次理論と社会的メカニズムの一致・不一致、上の仮定の成立・不成立を組み合わせて、六つのケースを得る。これらの中、社会計画の失敗メカニズムに対応する三つのケースを検討し、失敗メカニズムを解明する。さらに、成功メカニズムに対応する残りの三つのケースも検討し、成功メカニズムの解明も行う。
著者
大﨑 裕子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.35-48, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
19

多くの主観的ウェル・ビーイング研究において,経済的な豊かさの向上が主観的ウェル・ビーイングの上昇に必ずしも結びつかないことが報告される一方で,近年,経済的な豊かさ以外の要因としてソーシャル・キャピタルのもつ可能性に関心が集まっている.本研究は,ソーシャル・キャピタルのうちとくに一般的信頼に着目し,主観的ウェル・ビーイングにおける経済的豊かさの限界を補完する可能性を検討した.その方法として,東京都に住む1,033人の個人レベルデータをもちい,従属変数を生活満足感,独立変数を一般的信頼と経済的安心とする回帰分析をおこなった.その際,これら2要因が生活満足感を高める効果に対し客観的な所得レベルが与える影響について,交互作用効果を検討した.分析の結果は以下のとおりである.(1)所得レベルが高い人ほど,経済的安心が生活満足感を高める効果は小さい.(2)所得レベルが高い人ほど,一般的信頼が生活満足感を高める効果は大きい.すなわち,所得が高い人々は低い人々に比べて,経済的安心から得られる生活満足感は少なくなり,それを補完する形で,一般的信頼が生活満足感の向上により強く結びつくことが明らかとなった.以上の結果から,理論的および政策的含意について論じた.
著者
山本 啓三 宮島 佐介
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.133-138, 2001
被引用文献数
2

経済現象の一例として、毎年5月に発表される前年分の高額納税者リストを取り上げ、その納税額と順位の関係を考えた。これは複雑な入れ子構造的経済活動の結果の一側面であり、フラクタル的な規則性があると考ている。全国、都道府県別の高額納税額順位リストより、次の特徴を得ている。高額納税額はその順位に対してベキ乗則となり、その全国のベキ乗則の指数は米国のCEOの給与と賞与のみから得られる指数と一致している。又、各都道府県のベキ乗則の指数はその地域の経済活動の指標となり得ることも示唆している。