著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.298-314, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
19

本研究では社会的ジレンマの回避メカニズムを探る試みの一つとして,集権的組織における試行錯誤ダイナミクスを検討することを試みる.1人の管理者が複数のメンバーにサンクションを与える集権的組織では,サンクションの過小供給や管理者による利得の過剰徴収が生じる可能性がある.シミュレーションと解析的な分析を行ったところ,管理者が長い時間間隔で戦略の修正を行う場合にはサンクションの過小供給を回避しうること,複数の集団の間をメンバーが移動できる場合には利得の過剰徴収を避けうることを示す結果が得られた.
著者
金澤 悠介 朝岡 誠 堀内 史朗 関口 卓也 中井 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.141-159, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
41

本稿の目的は,エージェント・ベースト・モデルの方法の特徴を明らかにするとともに,この方法を用いた研究が社会学の中でどのように展開されてきたのか/されうるのかを議論することである.最初に,エージェント・ベースト・モデルの方法的な特色を,数理モデル分析や計量分析という既存の社会学の方法と比較を通じて,明らかにする.次に,社会学において,エージェント・ベースト・モデルを用いた研究がどのように展開されてきたのかを,社会秩序の生成と社会構造の生成というトピックを題材に確認する.最後に,社会学の重要なテーマでありながら,エージェント・ベースト・モデルを用いた既存の研究ではいまだ未探索となっている領域について議論する.
著者
高坂 健次 吹野 卓
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.93-116, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
12
被引用文献数
2

天然の漁業資源は、一方では自然的再生産メカニズムを享受しているものの、他方では、人間の手による乱獲のためにしばしば枯渇の危機に晒されている。本稿では、資源の再生産メカニズムの仮定をモデルに組み込み、(1)漁獲規制を遵守した漁獲戦略と、(2)規制を無視して可能な限りの漁獲をする漁獲戦略、の2戦略が選択可能な状況について考察する。そして、漁獲活動がDawes(1975)の定式化による「社会的ジレンマ」に陥るのは、資源再生産と漁獲に関するパラメータが特定の関係を持つ場合だけであることを示す。あわせて、囚人のジレンマ・ゲーム論的な観点から、乱獲の数理モデルの社会学的含みについて考察を加える。
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.115-132, 1995-12-01 (Released:2016-08-26)
参考文献数
30
被引用文献数
8

社会的ジレンマに関する実験社会心理学的研究のなかでもっとも有力な立場の一つに「社会的価値理論」がある。これは、自己の利得と他者の利得の考量の仕方に含意される個人の価値指向の「社会性」に注目して、個人の価値指向と状況認知が社会的ジレンマ状況における個人の行動にどのような影響を及ぼすかを解明しようとするものである。本稿はまず、この社会的価値理論が考察している問題状況をゲーム理論にもとづいて「不完備情報ゲーム」としてフォーマライズすることを試みた。そしてそのゲーム理論モデルから、ある特定の条件のもとでは社会的価値理論にもとづく実験研究から得られた経験命題とは対立する事態が成立することを明らかにした。本稿では、そうした結果を踏まえて、社会的価値理論における社会的価値指向の概念化にそもそも問題があることを指摘した。
著者
宮野 勝
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.101-114, 1986-11-20 (Released:2009-03-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2

投票率を例として、標本調査が社会の実際と異なる理由を三分し、その相対的重要性を調べる方法を考察する。データとした1980年衆議院選挙に関する明るい選挙推進協会の全国3000サンプル調査の投票率は、選挙結果より12.4%高かった。第一に、この差を、(1)標本誤差、(2)「誤答効果」、(3)非回答バイアス、の三原因に数学的に分解できることを示した。第二に、層別二段抽出法による標本誤差の5%信頼区間はわれわれのデータでは±2.2%であることから、標本誤差以外の二原因によって10.2%~14.6%の誤差がもたらされていると推測した。そこで、第三に、点推定である12.4%を用いて、この誤差を「誤答効果」と非回答バイアスとに分解することを試みた。一つ目の方法は、非線形回帰分析を用いた統計的手法で、データが十分に存在する場合に適用できる。二つ目の方法は、先験的にまたは他のデータから仮定を導入して、数学的に解く手法である。われわれは二つ目の方法を用いて三種類の異なる仮定の各々について推定した。その結果、非回答バイアスが重要で、7~13%の差をもたらし、「誤答効果は」0~6%の差をもたらしたと推測された。第四に、性別などの属性別の分析が可能であり、投票率のデータでは、男性の方が誤差が大きく、非回答バイアスのウェイトも大きい。また、投票―棄権と回答―非回答とが正の相関を持ち、特に非投票者に非回答バイアスの影響が大きい。以上の検討は、標本調査データの特質の理解に重要であり、かつ、投票率以外の項目、例えば、投票政党、教育年数、所得、等にも適用可能である。
著者
林 雅秀 金澤 悠介
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.241-259, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
72
被引用文献数
1

多くのコモンズ研究は,人々の過剰利用によりコモンズが荒廃するリスクがあるという想定のもと,過剰利用を防ぐ制度的な仕組みを解明してきた.しかし,現代日本のコモンズに目を転じると,近代化や少子高齢化といった社会変動の結果,従来のコモンズ研究が想定しない状況が生じてきた.本研究の目的は,既存の研究を検討することで,このような新しいコモンズ問題を解明する糸口を探ることである.まず,新しいコモンズ問題の特徴を把握するために,従来のコモンズ研究の到達点を確認した.次に,新たなコモンズ問題として,社会変動の問題,資源利用の多様化の問題,過少利用問題をとりあげ,それぞれの問題の解明を試みた.その結果,社会的ジレンマモデルに基づく従来の研究では利用者のコミュニティが大きな役割を果たしているが,新しいコモンズ問題では利用者のコミュニティとその外部の関係が大きな役割を果たしていることが判明した.加えて,新しいコモンズ問題を探求する研究の絶対数が少ないことも判明した.
著者
高橋 正樹 岸野 洋久
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-60, 2001-03-31 (Released:2016-09-30)
参考文献数
13

人生の各段階で私たちはさまざまな出来事(ライフイベント)に遭遇する。困難な状況下における人の意識や行動(対処)の様式は、イベントの有無や置かれた環境のみならず、幼児期から現在にいたる個人の人生経験にも大きく影響される。そして、この対処が続く人生の行動様式を形作って行く。こうした人生の長期にわたる履歴をはかる手法として、詳細な口述記録に基づくライフヒストリー研究や人生のある側面を投射した記録を繋ぎ合わせて行くライフコース研究がある。本稿では、集団解析を通じて、記憶化された人生の出来事の持続時間と他の出来事による置き換わりの過程を定量化することを試みる。目黒区住民を対象とした質問紙調査から、結婚や親の死、子の誕生などが強い出来事として記憶化される、という全体の傾向を明らかにした。ライフコースに添った思い出の置き換わりが見られるが、女性に比べ男性の方が置き換わりの程度が大きいこと、置き換わりは職業上の出来事の記憶化によって促進されること、通常の人生軌道では予期されていないような出来事は長期にわたり記憶化される傾向があることなどが明らかになった。また、集団の探索的解析により「戦争体験」といった同時代経験の重みを量的に位置づけることができた。人生の実証分析というテーマの中に、質的アプローチと量的アプローチの統合への可能性を読み取ることが期待される。
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.277-290, 2016 (Released:2017-01-16)
参考文献数
39

本稿の目的は, 数理社会学が社会的不平等研究に貢献するためにはミクロ・マクロ・リンクを意識する必要があることを示すことである. この目的のために, まず既存の量的研究と質的研究の問題点を指摘し, いくつかの数理モデルの論理構造を検討し, それらがミクロ水準とマクロ水準の移行を適切に扱っていることを主張する. 既存の量的研究は高度な統計分析により重要な知見を得てきたが, その知見を生み出した社会的メカニズムの分析が弱い. 一方, 質的研究はその社会的メカニズムを丹念に解明しているが, その知見の一般性について留保が必要である. この両者の問題点の解決策の1つとして, 数理モデルによる社会的不平等の解明がありうる. そこで本稿では相対的リスク回避モデル, 地位序列の生成モデル, 信頼と不平等のエージェント・ベースト・モデルの論理構造を検討し, それらがミクロ・マクロ・リンクを踏まえたものであることを示す. 今後の数理モデルもそのような方向性を持つことで社会的不平等研究に貢献するだろう.
著者
松本 雄大
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.99-112, 2019 (Released:2020-06-25)
参考文献数
25

本稿の目的は,ベイズ統計モデリングによってAPC分析の既存モデルを体系的に整理することである.年齢・時代・コーホートには線形従属の関係があり,識別問題を解消するための制約条件が必須となるが,その分析枠組みは現状においてまとめられていない.そこで本稿では,パラメータの縮小化に着目し,正規分布を事前分布として仮定することで各モデルが表現できることを示す.Intrinsic Estimatorと同等なリッジ回帰モデルは,デザイン行列のランク落ちを純粋に数理的な現象として捉え,すべてのパラメータの2乗ノルムを最小化することで「あらゆる特殊解の平均」に相当する推定値を得る方法である.ベイズ型コウホートモデルとして知られるランダムウォークモデルは,パラメータの1次階差の重み付け2乗和を最小化する制約であり,時系列構造を想定した付加条件というAPCの識別問題を考慮した克服方法となる.他にも等値制約モデルとランダム効果モデルを紹介し,シミュレーションによって各モデルの推定値と,その結果が得られる数理的なメカニズムを検討した.
著者
海野 道郎 長谷川 計二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.5-19, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本稿の目的は、(1)社会科学において「意図せざる結果」の概念が持つ重要性を主張するとともに、(2)「意図せざる結果」について概念的検討を加え、今後の分析のための枠組みを提供することにある。社会科学の古典において「意図せざる結果は繰り返し論じられてきた。さらに現代においても「自己組織性」や「社会運動論」などの現代社会学の最先端で「意図せざる結果」が論ぜられており、この概念の重要性が示唆された。 これらの研究の中でとりわけ重要なのはマートンとブードンである。そこでまず、マートンの「潜在機能」および「予言の自己成就」の2つの概念に検討を加え、これらの概念が「意図せざる結果」の下位類型であることを示した。次に、ブードンの研究を取り上げ、「意図せざる結果」の類型化の問題点を指摘するとともに、個々の行為が集積されるプロセスに着目した類型化の必要性を示唆した。最後に、ブードンによる「意図せざる結果」に関する社会理論の4つの形式─「マルクス型」、「トックヴィル型」、「マートン型」、「ウェーバー型」─を取り上げ、これらの類型が、ブードンの「方法論的個人主義」の立場と密接に関連して設定されていることを示し、「意図せざる結果」が生ずるプロセスについて一般的な枠組みを示唆した。
著者
藤山 英樹 鈴木 努
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.45-48, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1
著者
浜田 宏 七條 達弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.107-123, 2010

Boudon (1982)および Kosaka (1986)によって定式化された相対的剥奪の数理モデルは,主に同質なメンバーからなる集団のみを分析の対象としていたが,Yamaguchi (1998)およびReyniers(1998)の発展モデルにより,異質な成員からなる社会での相対的剥奪を分析できるようになった.本稿ではこれらのモデルを統合してさらに一般化することで,『アメリカ兵』に代表される経験的データをより体系的に説明することを目指す.モデルを分析した結果,投資コストについて恵まれた集団のほうが,恵まれていない集団に比して相対的剥奪率が常に高いという命題が得られ,この命題はデータによっても支持された.また理論的には,コストが連続分布に従う場合でも相対的剥奪率が昇進率の増加関数となる領域ならびに減少関数となる領域が存在する,というインプリケーションが得られた.
著者
橋本 健二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_5-2_22, 2008

「格差社会論」が注目を集めるなかで、階級研究・社会階層研究は、拡大する経済格差と「格差の固定化」など、社会的に注目されている諸現象を十分解明することができず、社会学に対する社会的要請に応えることができない状態にある。このことは同時に、現代日本の階級研究・社会階層研究が、社会学の諸分野に階級または社会階層という有効な独立変数を提供するという固有の使命を十分に果たしえない状況にあるということを意味する。<BR> 階級研究・社会階層研究の困難をもたらしたのは、その戦後日本における独特の展開過程だった。そこでは階級という概念が、政治主義的な主体、あるいは前近代的性格を残した世代的に固定的な集群とみなされ、対称的に社会階層は、連続的な序列、あるいはその中に人為的に作られた操作的カテゴリーにすぎないとみなされた。このため日本において階級と社会階層は、その有効性と現実性を大きく制約されてしまった。<BR> 階級研究・社会階層研究のこうした弱点と困難を克服するためには、(1)Marxの両極分解論を明確に否定して、資本家階級、新中間階級、労働者階級、旧中間階級の4階級図式、あるいはそのバリエーションを採用するとともに、(2)階級所属が産業構造、労働市場、家族、国家などさまざまな制度によって媒介されることによって形成される社会的カテゴリーとして社会階層を定義することが有効である。本論文ではこうしたアプローチを「階級―社会階層研究」と呼び、1965年SSM調査データ再コードデータの分析によってその有効性を明らかにする。
著者
林 直保子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.19-32, 1993
被引用文献数
1

これまで行われてきた囚人のジレンマ(PD)研究は、PDを孤立した2者関係として捉えるにとどまり、集団内に存在する2者間におこる状況として捉えることをしてこなかった。本稿では、3者以上の集団と、その中に生れる複数のPD関係を考えることにより、従来のPD研究の限界を克服することを目指している。そのために本稿では、集団の各成員が自分のつきあう相手を選択し、相互指名によってPD関係が成立するという状況――「ネットワーク型囚人のジレンマ」を設定する。このような状況では、特定の2者間に将来の関係が保証されていないために、PDにおける戦略的行動によって相互協力関係を築くことは難しくなる。従ってこのような選択的交際状況においては、孤立した2者PDにおける相互協力達成のためには最も有効であるとされてきたtit-for-tat(TFT)戦略は、そのままの形で有効性を発揮することはない。本稿では、ネットワーク型PD状況ではどのような戦略が可能で、また有効なのかということを調べるために、Axelrod(1984)が同一相手との反復PDにおいて行った「戦略のコンピュータ選手権」という方法をネットワーク型PDに用いた。その結果ネットワーク型PD状況で最も有効な戦略は、相手の裏切りに対しては非指名という形で対応するout-for-tat(OFT)戦略であることが明らかにされた。このOFT戦略は、TFTと非常に良く似た性質をもつ戦略であり、対象選択レベルに適用されたTFTと言うことができる。
著者
鈴木 譲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.331-344, 2000-10-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
15

本稿では、これまで主に哲学者、論理学者の間で議論されて来たニューコーム問題を数理社会学の観点から論ずる。ニューコーム問題とは、予言者の存在を仮定したパラドックス的設定の下での意思決定の問題である。予言者の能力によってこの問題の性質は大きく異なるが、本稿ではいわゆる予言者の完全性を仮定した場合に議論を限定し、この問題を2つの観点から論じる。第一は数理論理的な観点、特に公理系の無矛盾性の観点である。結論としては、ニューコーム問題は合理的意思決定の問題としてはそもそも決定不可能な命題であり、因果律の方向が本質的に重要であることを示す。因果律はその方向に応じて、順因果律と逆因果律の2種類を考えることが出来る。第二は社会学的観点であり、前述の数理論理的観点から得られた定式化を社会現象に応用することを試みる。この応用の具体例として、Weberのプロテスタンティズムの倫理のフォーマライゼーションを行い、カルヴィニズムにおける信徒の意思決定が逆因果律の論理に対応していることを示す。