著者
辻村 和佑 溝下 雅子
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.49-62, 2003-06-25 (Released:2015-03-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

本稿では資金循環分析の枠組みをもとに,外貨準備の保有形態,さらには政府短期証券の発行と国庫余裕金繰替使用との相違にまで遡って,外国為替平衡操作の効果を分析した.その結果,邦銀国内店や外銀国内拠点への預託のように,外貨準備を国内で運用する場合には為替相場への影響が限定的であるのに対して,海外で発行された外貨建債券の買入や海外の中央銀行への預託のように,これを国外で運用する場合には比較的大きな介入効果が得られることを確認した.また外国為替平衡操作に対する日本銀行の対応を一般化すると,非不胎化,不胎化,逆非不胎化,逆不胎化と4分類することができる.本稿ではそれぞれの場合に対して,利用する金融市場調節手段ごとに海外への資金流出と海外からの資金流入の値を計測することで外国為替相場に与える影響を峻別した.この結果,不胎化もしくは非不胎化が外国為替平衡操作の効果を減殺するかどうかはひとえに金融調節手段の選択に依拠しており,これを一概に定性的に論ずることはできないことを確認した.
著者
泊 敏男
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.19-30, 1992

通産省の日欧国際I-O表シリーズの連載として,今回は日英I-O表をとりあげる。この日英表を通じて1985年の両国経済構造の相互比較と両国経済の相互依存性が今回初めて解明されいくつかのユニークな事実が以下に指摘される。例えばドル表示では日本の生産額は英国の3.3倍,付加価値では英国の3.1倍,生産のシェアーでみると,日本は建設,機械,鉄鋼が高く,英国は鉱業,石油,食料品が高い等々。また日本は輸出依存度で英国の約2倍,逆に輸入依存度では英国の2分の1以下である。このほか英国の鏡に映った日本の顔はどのような特徴があるのか,以下詳細な部門別分析を通じて,この興味ある2国経済の比較を行ってみよう。
著者
米本 清 菅野 玲
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.215-227, 2012
被引用文献数
1

東日本大震災・福島第一原発事故は,東日本各地に直接的な物的・人的被害をもたらしただけでなく,被災地を中心とする輸移出入の構造を変化させた可能性がある.結果として,当面,復興需要や政策の効果は,従来の構造から予想されるものとは異なるものとなってしまう可能性がある.本稿では,福島県,特に浜通り地方(相双・いわき地域)に焦点をあて,震災前における産業連関・輸移出入構造を概説した上,「福島県生活圏別産業連関表」を拡張し,グラビティモデルによって地域間産業連関表の作成を試み,後方連関効果の変化を論じる.特に相双地域で輸移入依存が高まった産業などでは,復興の正の効果を享受できにくくなっている可能性がある.
著者
伴 ひかり
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.45-54, 2003

ヘクシャー=オリーン理論にしたがえば,熟練労働豊富国である先進国と非熟練労働豊富国である発展途上国の間の貿易拡大は,先進国における賃金格差の増大と,発展途上国におけるその縮小をもたらす.近年,東アジア地域においても自由貿易協定の構想が活発化しているが,それらは日本の労働市場にどのような影響を及ぼすだろうか.本稿では応用一般均衡モデルの1 つであるGTAP モデルを用い,日本と中国,NIEs,ASEAN,東アジア,全地域のそれぞれの間で関税を撤廃するという5つのシナリオのシミュレーションを実行した.対東アジアと対全地域のシナリオでは賃金格差は拡大するが,他のシナリオでは確認できない.対中国では若干縮小する傾向さえみられる.賃金の動向には生産や貿易の構造が複雑に影響することが明らかになった.
著者
宍戸 駿太郎
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.10-17, 2000 (Released:2015-07-03)

日本経済の低迷は曇天模様のなかで続いている。計測によると部門別の稼働率は平均で65%で,これか四半世紀に及んだ慢性的「政策不況」の帰結である。このままでは失業と社会不安や円高圧力は中長期的に継続する。IT革命のみで、このギャップを埋めるには,あまりにも深刻で,いまや日本経済にはニューディール型の巨大なインパクトが不可欠である。21世紀初頭の長期戦略として,まず経済を5%台の回復軌道にのせ,デフレギャップを解決させつつ,次いで大胆な財政再建という長期2段階の再建方式を提案する。
著者
長谷川 良二
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-15, 2023 (Released:2023-07-15)
参考文献数
18

本稿はアマチュアリーグ所属のサッカークラブである,福山シティフットボールクラブを事例として,その地域経済効果を産業連関分析により検証した.分析においてサッカークラブを運営する経営母体を産業部門として捉え,その支出や産出を産業連関表において特掲し事業活動の一部を内生的に取り扱った.経済効果として,直接効果は69.80 百万円,経済波及効果を考慮した総合効果は94.47 百万円であり,直接効果の1.35倍の規模に及ぶという結果を得た.また経営母体を特掲した産業連関分析により,福山シティフットボールクラブがもたらす経済波及効果のメカニズムや連関効果の形成などの検証が可能となり,より詳細な視点で経済効果の実態を明らかにした.
著者
藤川 清史 川村 匡
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.39-52, 2021 (Released:2021-09-15)
参考文献数
24
被引用文献数
1

近年欧米では文化芸術が成長産業の1つとみなされるようになった.日本でも「未来投資戦略2017」において,文化芸術による付加価値を拡大する方針が示された.また2017年には「文化芸術基本法」が成立するとともに「文化経済戦略」が策定された.これらが日本での文化の経済的評価の契機となり,文化庁内に「文化GDPの推計のための調査研究会議」が設置された.本報告では,UNESCOの文化GDPの推計基準を紹介するとともに,それに基づいた上記会議による日本の文化GDPの推計を紹介する.日本の文化GDPは10兆5,385億円でGDP総額の約1.9%となった.このシェアは米国や英国と比較するとやや小さい,今後は文化GDPの推計法を改善するとともに,文化雇用者や文化商品の輸出入を含めた文化サテライト勘定を推計することにしたい.
著者
高山 和夫
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.10-18, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿では,数次の国民経済計算体系(System of National Accounts,以下「SNA」とする.)改訂の歴史をたどりながら,SNAにおける産業連関表の位置づけについて説明する.また,1968SNA時の「U表」および「V表」を源流として,1993SNA時に供給・使用表(Supply and Use Table:以下,「SUT」とする.)が勧告された背景及び理由について,主にヨーロッパの影響に焦点を当てて,歴史的経緯について説明する. 以下では,第一に1968SNAにおける「U表」および「V表」導入の理由と背景,および1968SNAにおける産業連関表の位置付けについて述べる.第二に1993SNAにおけるSUT導入の理由・背景と,更にSNA改訂の国際的な議論の経緯を明らかにする.第三に2008SNAにおけるSUTと産業連関表の位置づけについて説明する.
著者
浜田 文雅
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1-2, pp.39-52, 2010-06-30 (Released:2015-03-28)
参考文献数
8

この小論は,日本のマクロ経済の景気循環の特徴を単純化して補足することを主眼としたマクロ計量経済モデルを構築することを主な目的としている.今 回提示するモデルは,本来の目的からすればあまりに単純であるが,モデル開発の方向を示す一つのプロトタイプになるのではないかと考えている.このモデル の特定化においては,(1)就業機会を失う危険確率の指標として,失業率を取り上げ,(2)経済活動を活性化したり沈滞化したりする地球規模の外生要因と して太陽黒点相対数を導入し,(3)失業率の決定メカニズムとして労働と代替関係にある資本設備ストック,労働供給源としての労働力人口および総需要の効果を陽表的に導入している.マクロ計量経済モデルが政策シミュレーションや予測に使われる場合の必要条件は,そのモデルが現実のマクロ経済の変動をどの程度まで説明できるかが明示できることである.このモデルは,最終テストの結果を主要なマクロ変量についてグラフによって明示する.その結果を踏まえて,2015年までの予測および2007年またはそれ以前を起点とする政策シミュレーションの結果を明示する.そこでは政府赤字累積残高およびその対GDP比率の予測結果も含まれている.
著者
石倉 智樹 石川 良文
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.51-59, 2013-10-31 (Released:2014-08-07)
参考文献数
6
被引用文献数
2

東日本大震災は,地震や津波などの直接的被害に加えて,発電所被災がもたらす電力供給力不足という間接的な経済被害を引き起こした.本研究は,東日本大震災に起因する電力供給力不足,ならびに電力需要抑制策がもたらした経済ダメージについて,空間的応用一般均衡モデルを用いて分析した.分析では,首都圏経済とその他地域それぞれにおける不便益と,各産業部門における生産額変化に着目し,いかなる影響が及ぶのかを定量的に評価した.
著者
久保庭 真彰
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.40-48, 1994

混迷の度を深めるロシア経済も,いったんI-O表というレンズを通して眺めてみると意外にその経済の構造と病理の実態がつかめてくる。とくに日本と関連の深い極東ロシアのI-O表は貴重な分析と政策提言のためのベースを提供する。今回は1987年のロシアI-O表(内生111部門)とその極東バージョンの地域I-O表を比較しつつ,現在のロシア支援や極東地域開発のための基本的問題点の所在を,以下に探ってみよう。
著者
川島 啓 内山 洋司 伊東 慶四郎
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.16-29, 2000 (Released:2015-06-30)
被引用文献数
4 4

近年,地球規模の環境問題への意識の高まりから,経済活動に伴う環境負荷やエネルギー消費量の定量的評価か盛んに行われている。LCA等の環境影響評価手法は個々の品目や個別の産業を対象としているが,産業聞の波及的影響,一国全体の負荷を定量化するためには産業連関法を用いた定量分析が有効とされている。本研究では過去からの産業連関表を利用して,単位数量当たりのエネルギー消費原単位およびCO2排出原単位を1次的な統計資料の物量データから推計し,時系列比較を行っている。また,こうした原単位をLCAの研究事例と出較している。結果としては,原単位の推移はエネルギー消費原単位,CO2原単位とも長期的に低下傾向にあることがわかり,我が国の技術進歩を生産物の数量当たりの投入量で裏付けることを説明している。原単位のLCA事例との比較では,単位当たりのエネルギー消費量か多くの耐久消費財においてもほぼ近似し,逆行列法を用いたエネルギー消費量推計が詳細な品目分類の分析においても有効な手段であることを示している。
著者
篠崎 美貴 中野 諭 鷲津 明由
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.40-51, 2005
被引用文献数
1 2

近年,UNEP(国連環境計画)は,持続可能な発展は持続可能な生産と同時に持続可能な消費によって可能となるとして,消費の見直しを呼びかけている.また,エネルギー経済学者達の間でリバウンド効果(エネルギー効率改善目的の技術進歩がかえってエネルギー消費を増加させてしまうという効果)の議論も盛んになっているが,こうした流れの中で,われわれがかねて取り組んできた産業連関的環境家計簿分析は,新たな分析目的を持つようになった.本論では1985-90-95接続環境分析用産業連関用を用いてこの新たな分析課題に取り組むため,家計消費が引き起こす環境負荷の変化を3つの効果-消費構成比変化の効果,所得増加の効果,技術変化の効果-に分解し,持続可能な消費の問題にアプローチした.
著者
井上 智夫
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.4-10, 1993

21世紀を目前に控えて,石油価格の推移は,世界のエコノミストの注目の的である。中東情勢を含む世界の政治・経済体制の変化のシンボルとして石油価格の推移を眺めると,冷戦後の新世界秩序の構築に,石油の需給と石油価格はどのような役割を果たすであろうか。地球環境問題の重大化,先進国と途上国の省エネのスピードのギャップ,産油国側の政治意識の変化など,多角的な側部から21世紀への石油需給について興味ある石油価格の予測を試みよう。
著者
岡本 信広
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.4-11, 1996

アジア経済研究所のおなじみのアジアI-O表のプロジェクト,その第3ラウンドの成果としての1990年表が,これから続々と発表されることになった。今回はその最初のシリーズとしてフィリピン表をとりあげ,日本とフィリピンの貿易と投資を通じての密接な交流の実態を分析する。とくに海外直接投資の興隆期を迎える日本経済にとって,果たしてフィリピンは魅力あるパートナーとなりうるのか否か,2国間I-O表はこの点多くのことを語っているようである。以下その詳細について検討してみよう。
著者
村田 俊也
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.50-54, 1991

テレビ番組などマスメディアを通じた地域活性化の動きは全国でみられるが,特にNHK大河ドラマは注目度が高いだけに舞台となる地域には様々な経済効果が発生する。本稿は,山梨県を舞台とした昭和63年の「武田信玄」の放映による経済効果を試算してみたものである。
著者
浜田 泰
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.78-87, 2009
被引用文献数
1

本稿では,まず国土交通省が推進するツーリズム・サテライト・アカウント(TSA)について,観光経済研究の観点から現状と課題を整理した.次に TSA の実践的研究として,山口市湯田温泉宿泊者観光消費調査に基づく産業連関表と連携した地域観光経済分析を紹介した.ひとつの観光振興策が効果的に機能し,宿泊客数が増加することによって,地域経済への波及効果がどれくらいの規模になるかを考察した.ここで取り上げる観光振興策のテーマは,本調査とあわせて行った湯田温泉の魅力に関するアンケートの中から抽出したものである.自治体で概念的に行われがちである観光振興策に対し,TSA 導入と魅力調査を組み合わせによって客観性により近づける振興策構築の有効性と可能性を示すことができた.
著者
木地 孝之
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.36-43, 1991

1985年のプラザ合意(主要5カ国蔵相・中央銀行総裁会議)を契機とする急激な外国為替相場の変動の下でわが国の経済構造が大きく変わりつつある。おそらく1985年は,わが国の経済史において1つのターニング・ポイントと位置づけられるのではないだろうか。本論文は,8月に通産省が公表した「1986年及び1987年産業連関表〈延長表)」並びに「進展する輸入」と題する分析結果について,作成担当者が分析手法を含めてわかりやすく解説したものである。
著者
武田 健太
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.21-38, 2020
被引用文献数
1

<p> 熊本県産業連関表を基に,ノンサーベイアプローチにより県内を熊本市,県北,県南の三地域に分割し,県外を加えた四地域間産業連関表を作成した.そして,それを用いて当該地域間の経済構造及び「くまモン」関連グッズ売上による経済波及効果の分析を行った.その結果,熊本市は都市型産業,県北は製造業,県南は電力・ガス・熱供給に特化していることが示された.地域間交易を見ると,熊本市は県外からの製造業製品の移入及びサービス業の県内移出,県北はサプライチェーンを通じた県外・海外との製造業製品取引,県南は電力・ガス・熱供給の県内移出がそれぞれ大きかった.また,「くまモン」関連グッズ売上1,409億円の経済波及効果は熊本市内648億円,県北556億円,県南636億円,県外1,287億円の計3,128億円と推計され,県内外に大きな効果をもたらすことが示された.</p>