著者
服部 泰宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.4-17, 2012-09-20 (Released:2013-10-01)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本論文は,「契約とは何か」という点をめぐる哲学や法学,社会学における議論を整理し,それをもとに,組織と個人の雇用契約に関わるこれまでの研究を捉えなおすことを目指す.具体的には,契約をめぐる哲学,法学,社会学の議論をもとに「自由主義的契約」と「関係主義的契約」という契約観の理念型を導出し,そこに雇用契約に関する2つの研究群──契約の経済学と心理的契約──をあてはめることで,こうした研究の特徴と偏りを明らかにする.
著者
堀田 結孝
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.33-42, 2019-12-20 (Released:2020-04-08)
参考文献数
23

社会心理学及びその周辺領域において,実験ゲームを通して人間の協力行動のメカニズムを検討する実証研究が盛んに行われている.本稿では代表的な実験ゲーム研究を概観し,協力行動の重要な基盤として知られている“互恵性”の役割について紹介する.また,人間の大規模な協力社会を支える仕組みとして理解されている制裁制度の機能についても紹介し,組織管理の文脈における応用可能性について議論する.
著者
稲水 伸行 牧島 満
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.29-40, 2016-06-20 (Released:2016-09-05)
参考文献数
28

本研究の質問紙調査により,オープン化・メガフロア化の進展したオフィスでは,既存研究では指摘されてこなかった多様性(画一性)・整然性(雑然性)がオフィス環境の満足要因となることが示された.さらに,コンピューター・シミュレーションを用いた思考実験により,人間の認知的限界がその背景にあることが示唆された.
著者
保城 広至
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.4-13, 2017

<p> 社会科学者と歴史研究者との間には,認識論的あるいは方法論的に埋められない溝が存在し,両者の和解はとうてい不可能である,というのが一般的な理解である.保城(2015)では,そのような溝を埋めるための条件と方法論を提示し,両者の融合可能性を模索した.本稿ではその方法論の概略を改めて述べるとともに,その中で提案した「過程構築(process creating)」の具体例を紹介する.筆者の専門分野に即して外交政策決定過程の分析に特化するが,国家だけではなく企業や国際機関といった,他の組織分析にもその方法は有用であると考える.</p>
著者
渡邊 克巳
出版者
The Academic Association for Organizational Science
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.16-22, 2014-06-20 (Released:2014-10-03)
参考文献数
39

組織科学と脳科学は,人間の主観・客観両方の観点からの理解を必要としている点で共通している.本稿では,個人および組織の意思決定は,我々が主観的に感じているほど内的な理由に基づいているわけではなく,多くの部分が意識されない外部・状況・他者の存在によって強い影響を受けていることを示しながら,組織科学と脳科学の融合の方向性を探りたい.
著者
楠見 孝
出版者
白桃書房
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.6-15, 2014

ホワイトカラーの熟達化と,それを支える実践知(暗黙知)の構造,その獲得について認知心理学の知見に基づいて論じた.そして,ホワイトカラーに質問紙調査を実施し,マネジメントの暗黙知の獲得は,管理職経験年数,経験学習態度,批判的思考態度,類推,省察,職場内の暗黙知と形式知の知識変換が関与していることを示した.最後に,個人学習と組織学習の相互作用が実践知の獲得を促進し,管理職への熟達を導くことを議論した.
著者
鈴木 宏昭 横山 拓
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.4-15, 2016

<p> 本稿では,組織の中に蓄積された暗黙知の明示化,公共化に関わる困難を認知科学的に分析する.その困難は,意識化すら不可能な知識が存在すること,言語が断片的であるがゆえに状況の復元に十分なパワーを持っていないことに由来する.こうした困難を克服するためには,知識を,場の中でマルチモーダルシミュレーションによって生み出され,改変され続けるものとして捉えることが必要とされる.また状況や身体の情報を豊かに伝える象徴的言語の利用も知識の伝達には有効である.</p>
著者
髙瀬 武典
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.4-14, 2015-12-20 (Released:2016-06-29)
参考文献数
48

組織のエコロジカル・パースペクティヴは1970年代の組織研究や社会学理論のなかにニッチを見出し,社会学理論としての有用性に関する批判や新制度派理論との交渉を経てAldrichによる進化アプローチ,あるいはHannanたちによる社会的概念形成過程研究へと進化していった.Hannanたちの流れは,「組織における表象」あるいは「組織化」といった研究課題への応用の可能性を豊かにはらんでいる.
著者
一小路 武安
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.72-89, 2016-03-20 (Released:2016-08-29)
参考文献数
34

本研究は日本のアニメーション産業の確立した既存企業を事例に,3DCG(新技術)と手描き(既存技術)を組み合わせるハイブリッド製品の開発マネジメントに関して,ハイブリッド技術構造構築,技術者間融和という二つの課題をいかに克服するかという観点から分析を行った.結果として,新技術部門マネジャーが主に前者に対して貢献し,既存技術に熟達しながら新技術への積極性ももつ“適応的技術者” が主に後者に対して貢献していることが明らかになった.
著者
山川 義徳 金井 良太
出版者
The Academic Association for Organizational Science
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.6-15, 2014

近年,脳科学を通じた人(の心)の理解には著しい発展が見られている.その中では,心の状態を数値化する脳計測技術とその状態を解釈するための脳解析技術,さらに意味づけし制御するための脳活用技術が存在している.そこで,本論文では,それぞれの技術についての解説及びそのマネジメントについての提言を行うとともに,ビジネスパーソンや経営者に対してこれらの技術をどのように適用できるかという点について論考する.
著者
石井 晃
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.5-20, 2015

ヒット現象の数理モデル(石井他2012)を社会の中の人間間相互作用の力学として紹介する.このモデルを社会的ニュース,映画興行,ドラマ視聴率,AKB 選抜総選挙に応用した.
著者
小江 茂徳 櫻井 雅充
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
pp.20240401-1, (Released:2024-04-01)
参考文献数
30

本稿では,ジェンダーとそれに伴う権力関係の観点から,実践共同体における参加者の個別性に応じた学習を検討した。大手部品メーカーが工場内に設置した女性育児者専用生産工程における女性作業員の学習プロセスの事例分析を行い,参加のあり方の相対化,権力関係に根ざした有能さの構築,社会物質的な排除による包摂,という3つの理論的含意を明らかにした。
著者
清宮 徹
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.63-78, 2023-03-20 (Released:2023-06-02)
参考文献数
34

本研究は東日本大震災の被災地におけるディスコースを分析し,復興過程におけるアイデンティティの形成・変化がどのように相互扶助や協力関係を推進したか考察する.南三陸町をフィールドとして2013年から5年間の現地調査を実施し,被災地において喪失,感謝,利他的というディスコースが明確化された.これらディスコースの動態的連動がアイデンティティ・ ワークに関係し,その遂行性の視点から復興を推進するプロセスを考察する.
著者
藤原 綾乃
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.37-49, 2023-06-20 (Released:2023-07-12)
参考文献数
30

近年,大学等の研究機関から研究者がチーム単位で国内外の他の研究機関へ移動するケースが増加傾向にある.人材の組織内あるいは組織間移動に関する研究は多いが,組織間移動の形態(個人移動,チーム単位移動)に着目した研究は少ない.本研究は,大学等の研究機関に所属する研究者が海外の研究機関に移動する際におけるチームでの移動の決定要因を,研究者のインフォーマル及びフォーマルなネットワークの観点から明らかにする.
著者
田尾 雅夫
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.29-35, 1993 (Released:2022-07-15)

地方自治体における行政サービスの生産性を考える場合,その組織が本来的にハイコストであることを前提とすべきである.なぜならば,企業組織と比較すると,何のために,誰のためになど目標が具体的に提示されず,客観的な指標を確定することも難しいことがある.また,公正や正義のような規範に準拠したり,結果よりも,それを得る過程に関心が向けられがちでもある.効率的に組織経営ができないところが多々あるとされる.
著者
山下 裕子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.75-86, 1993 (Released:2022-07-15)
被引用文献数
3

本論は,秋葉原の事例を通して,価格形成という市場プロセスを情報的相互作用という観点からとらえようとする試みである.「秋葉原価格」は,さまざまな商品の価格の差異と変動から,価格サーチや価格交渉を通して,マクロの需要,競争構造をとらえようとする個々の顧客や店の相互作用から,全体として生まれるマクロ秩序であるが,その形成プロセスには,「場」が重要な役割を果たしている.それは,「場」が,個々の価格の差異と変動とに意味を与える「関係情報」を共有させるような状況設定を提供するからである.
著者
浅川 和宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.4-12, 2019-06-20 (Released:2019-10-30)
参考文献数
29
被引用文献数
1

世界の経営研究の国際標準化の流れの中,日本の経営学は独自路線を維持しつつも変化の兆しも見え始めている.このような状況の下,日本の経営研究にとって目指すべき質の高い論文の要件とは何だろうか.本稿はこの論点を,日本的文脈に根差した知見と,国際標準を満たした水準の2つの側面から検討する.第一に,何よりもまず国際標準をクリアする必要がある点,第二に,その国際標準を満たした後は,むしろ日本的文脈に根差した知見は国際的な文脈で極めて有力な武器になりうる点を論じている.国際標準を満たしたうえで,日本独自のユニークな視点をフルに活かして世界に貢献しうる論文を,国際化時代における質の高い論文と考えたい.