著者
野呂瀬 朋子 大池 信之 佐々木 恵子 杉野 隆
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.258-265, 2020-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

漿液性嚢胞腫瘍(serous cystic neoplasm:SCN),粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN),充実性偽乳頭状腫瘍(solid pseudopapillary neoplasm:SPN)の典型例の臨床病理像は確立しているが,実臨床の診断や治療に関わるいくつかの病理学的課題がある.SCNは大多数が良性の経過を示すが,切除材料を詳細に観察すると,局所進展所見がみられることに留意したい.MCNでは,卵巣様間質が不明瞭な場合の対応の仕方,また,経過観察の基準や手術適応の病態の検討が望まれる.SPNでは転移例や高度悪性転化例の検討が望まれる.
著者
祖父尼 淳 森安 史典 佐野 隆友 藤田 充 糸川 文英 土屋 貴愛 辻 修二郎 石井 健太郎 池内 信人 鎌田 健太郎 田中 麗奈 梅田 純子 殿塚 亮祐 本定 三季 向井 俊太郎 糸井 隆夫
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.199-209, 2015-04-20 (Released:2015-05-08)
参考文献数
18

High intensity focused ultrasound(HIFU)治療は,その超音波発信源を多数取り付けた発信源から超音波を腫瘍の目的部位の1点に集束させ,体外から組織の焼灼を行う治療法である.焦点領域のみを80~100度に加熱し,熱エネルギーおよびキャビテーションの作用により組織を凝固壊死させ,焦点領域以外の介在組織にはほとんど影響を与えないという治療法である.われわれは切除不能膵癌に対するHIFU治療の安全性と有効性を検証するため,Yuande Bio-Medical Engineering社のFEP-BY02 HIFU Systemを用いて臨床試験を2008年12月より行った.膵癌に対するHIFU治療は問題点もあり,さらなる検討や症例の蓄積が必要であるが,われわれの検討では切除不能膵癌に対し安全にHIFU治療を行うことが可能であり,今後,予後不良な膵癌への低侵襲治療のひとつとなりうる可能性が示唆された.
著者
古川 徹
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.944-948, 2018-12-25 (Released:2019-01-21)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

BRCA1,BRCA2,PALB2はBRCA経路遺伝子と呼ばれ,その産物はDNA二重鎖切断の相同組換え修復に関与する.BRCA経路遺伝子の生殖系列変異は膵癌発症のリスクを高め,また,BRCA経路遺伝子異常を持つ癌腫は白金系薬剤やPARP阻害剤に特異的に感受性が高く,臨床的に劇的な効果を見ることがある.我々は孤発性膵管癌,家族性膵癌,膵腺房細胞癌においてBRCA経路遺伝子変異を検索し,それぞれ2.4%,9.3%,43%に明らかな病原性変異を認めた.孤発性膵管癌例においては病原性あるいは効果不明のBRCA経路遺伝子変異を持つ患者群が有意に予後良好であった.また,BRCA経路遺伝子変異を持つ膵腺房細胞癌の多発肝転移がcisplatin投与で完全寛解した例を経験した.BRCA経路遺伝子変異を持つ膵腫瘍を見出すことは今後展開されるゲノム医療上極めて意義深いと考えられる.
著者
伊藤 鉄英 李 倫學 河邉 顕
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.773-776, 2015-12-25 (Released:2016-02-18)
参考文献数
23

慢性膵炎診療ガイドラインが2015年に改訂され,新規糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬の慢性膵炎に伴う膵性糖尿病の使用についてのClinical Questionが追加された.現在のところ,慢性膵炎の糖尿病に対するインクレチン関連薬の有効性を示すエビデンスの報告はなく,診療の上でベネフィットがリスクを上回ると判断した場合に限って使用することが提案された.さらに,sodium glucose co-transporter 2(SGLT2)阻害薬も新たに登場してきたが,現在のところインクレチン関連薬と同様に慢性膵炎に合併する糖尿病に関しての有効性を示すエビデンスはない.
著者
松本 慎一
出版者
Japan Pancreas Society
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.176-182, 2011

膵島移植は提供された膵臓から膵島細胞を分離し,分離された膵島細胞を移植するインスリン依存状態糖尿病に対する移植治療である.移植手技そのものは低侵襲であり,患者にとって優しい治療であるが,膵島を分離する技術は難しく,膵島分離の技術革新は重要な研究テーマである.我々は,膵島分離の成績を向上させるために,膵管保護技術,酸素化二層法膵保存,密度を調整した密度勾配遠心法などを導入した.その結果,最新のプロトコールを用いると膵島分離成功率は90%に達し,さらに,1名のドナーの膵臓を用いてのインスリン離脱が可能であった.膵島分離成績の向上は,直接膵島移植の成績に貢献し,膵島移植を標準治療とするために重要と考えられる.<br>
著者
高松 徹 大竹 はるか 上原 健志 新藤 雄司 池谷 敬 東海 浩一 池田 正俊 牛丸 信也 浅野 岳春 松本 吏弘 岩城 孝明 福西 昌徳 鷺原 規喜 浅部 伸一 宮谷 博幸 吉田 行雄
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.695-700, 2012 (Released:2012-11-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

症例は50歳の女性.繰り返す膵炎と心窩部痛の精査目的に当院紹介.造影CT,USで腫瘍や膵管・胆管拡張は認めなかったが,胆道シンチグラフィにて十二指腸への胆汁排泄遅延を認めた.入院時血液検査所見(無症状時)では肝胆道系,膵酵素,IgG4値の異常は認めなかった.ERCP所見は胆管挿管困難にてprecut施行後に胆管造影・IDUS実施したが器質的閉塞は認めなかった.主乳頭からは膵管像得られず,副乳頭からの膵管造影で背側膵管のみ造影された.膵炎の原因は膵管癒合不全と診断し,副膵管口切開術を施行した.また,biliary typeの十二指腸乳頭括約筋機能不全(SOD)も合併していると診断し,乳頭括約筋切開術も同時に施行した.その後,内視鏡的乳頭バルーン拡張術の追加を要したが,以後は膵炎の再燃も認めず自覚症状も改善している.膵管癒合不全を伴ったSODの報告は稀であり若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
谷内田 真一 髙井 英里奈
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.10-16, 2016-02-25 (Released:2016-03-15)
参考文献数
27

膵臓がんは「がんの王様」に君臨している.膵臓がんは他のがん種と比較し特異的ながん腫で,4つの遺伝子異常のみ(KRAS,CDKN2A/p16,TP53,SMAD4/DPC4)が高頻度に認められる.その一方で,他のがん種と同様に低頻度ながらも治療標的となりうる遺伝子異常も有している.例えば,DNA損傷・修復パスウェイの遺伝子変異(BRCA1,BRCA2,PALB2,ATMなど)である.これらの遺伝子異常を捉えるために,手術や生検検体を用いたClinical sequencingが行なわれている.しかし,がんにはHeterogeneityがあり,一ヶ所だけの生検材料だけでは,がんの全体像を把握できない.さらに,がんが生検困難な部位に存在する患者や全身状態の悪い患者には生検は躊躇われる.低侵襲かつ複数回の検査が可能で,その時々にドミナントながんクローンを検出する技術が開発されつつある.“Liquid clinical sequencing”である.血漿から遊離DNAを抽出して,治療標的となる遺伝子異常を探索する.未だ発展途上の技術ではあるが,今後の“Precision Medicine”には必要不可欠な検査法といえる.
著者
中山 雄介 大江 秀明 松林 潤 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 花本 浩一 北口 和彦 浦 克明 平良 薫 吉川 明 石上 俊一 田村 淳 白瀬 智之 土井 隆一郎
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.613-618, 2011 (Released:2011-11-07)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は42歳,女性.冷感とふるえを主訴に近医にて精査されたところ,腹部CTで膵尾部に8mmの腫瘤を認め,膵インスリノーマが疑われた.選択的動脈内カルシウム注入法にて,脾動脈刺激でのインスリン値の上昇反応を認め,膵尾部のインスリノーマと診断した.脾温存脾動静脈温存膵尾部切除術を行ったところ,膵尾部の腫瘤は肉眼的に副脾であり,術中超音波検査で副脾以外に腫瘤を同定できなかったために,(1)脾動脈領域の微小インスリノーマの存在,(2)膵島細胞症の可能性を考え,脾動脈領域を網羅する体部の追加切除を行った.病理組織学的に,膵島細胞症と診断され,また膵尾部の腫瘤は膵内副脾と診断された.術後,低血糖症状は消失した.成人発症の膵島細胞症は稀であり,さらに膵内副脾を合併した報告は今までにないが,インスリノーマと術前診断した場合でも,膵島細胞症を念頭に置くことで,適切な治療が可能になると考えられた.
著者
浦上 淳 平林 葉子 富山 恭行 河瀬 智哉 吉田 浩司 岡 保夫 平井 敏弘 角田 司
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.38-44, 2012 (Released:2012-03-21)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

症例は76歳女性で糖尿病,慢性膵炎の既往がある.第12胸椎の圧迫骨折のため脊椎短縮術,後方固定,後側方固定術を施行された.腹臥位で,手術時間6時間20分であった.麻酔覚醒後から腹痛が出現し,術後1日目も腹痛は強く,膵酵素,WBC,CRPの上昇を認め,予後因子スコア5点で重症急性膵炎と診断.造影CTでは膵頭部の腫大および膵頭部内の造影不良域を認め,右腎下極以遠までの滲出液貯留を認めたため,造影CT grade 2と診断.蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法などの治療を行った.術後16日目の造影CTでは膵頭部の造影不領域が増大し,右後腹膜膿瘍も増大した.十二指腸の壁構造は消失し,十二指腸壁の壊死と考えられた.術後18日目に膵頭十二指腸切除術(PD)を行った.手術では十二指腸は広範に壊死に陥り,後腹膜膿瘍を形成していた.術後は縫合不全など大きな合併症はなく,PD術後101日に退院した.
著者
植木 敏晴 松村 圭一郎 丸尾 達 畑山 勝子 土居 雅宗 永山 林太郎 伊原 諒 野間 栄次郎 光安 智子 松井 敏幸
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.116-122, 2015-02-25 (Released:2015-03-24)
参考文献数
18
被引用文献数
2

自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)の国際分類における2型(type 2)の頻度は,北アメリカ(14%)やヨーロッパ(13%)に比し,アジア(4%)では低値である.本邦における炎症性腸疾患に合併するtype 2 AIPは,国際調査によるtype 2 AIPと異なり,黄疸がなく,腹痛の頻度が高かった.膵頭部腫大例は約半数で,下部胆管狭窄例は10%程度であった.膵管狭細化は多くが全膵管の2/3以上の長さで,膵石の合併はなかった.炎症性腸疾患以外の膵外病変の頻度は低かった.ステロイド投与例は約半数で,約1/3が保存的に経過観察されていた.切除例は少なかった.本邦のtype 2 AIPは,膵のコア生検による十分な膵組織と,臨床医と病理医との緊密な連携によりさらに解明されるであろう.
著者
高野 幸路
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.710-715, 2008 (Released:2009-01-23)
参考文献数
1
被引用文献数
1 1

機能性の神経内分泌腫瘍では,腫瘍としての問題(腫瘍増大·浸潤,遠隔転移)に加えてホルモン過剰分泌によるさまざまな症状が出現し,患者を苦しめる.機能性神経内分泌腫瘍には進行が緩徐で経過が長いものが多い.この間,腫瘍よりもホルモン過剰症状が患者を日々煩わし,生活の質を著しく損ね,生命予後も悪化させる.一方,非機能性腫瘍は遠隔転移後にみつかることも多く手術で根治できないことも多い.ホルモンの過剰分泌の抑制,転移性神経内分泌腫瘍の治療にソマトスタチンアナログが有効でありその導入により患者のQOLの改善,stable diseaseの維持が可能になっている.本稿では,ソマトスタチンアナログの特徴,適応,有用性について述べる.
著者
佐藤 晃彦 小泉 勝
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.736-741, 2014 (Released:2014-09-04)
参考文献数
12

症例は99歳,女性.2010年11月中旬,心窩部痛,吐気・嘔吐のため当科を受診した.血清アミラーゼ1,553IU/lと高値.CT所見と併せ,急性膵炎と診断した.膵体尾部実質造影不良と腎下極以遠までの広範な炎症波及を認め,厚労省重症度判定基準 造影CT Grade 3の重症膵炎と判定した.日本酒2~3合,毎日,35年間の飲酒歴があり,成因はアルコール性と考えられた.心不全が増悪して一時重篤な状態に陥ったが,徐々に病態が改善し,最終的には,膵炎に伴う重篤な後遺症を残すことなく第137病日に退院した(退院時年齢100歳).我が国において飲酒習慣を有する高齢女性は少なく,高齢女性のアルコール性膵炎は稀である.本例は,超高齢女性に発症したアルコールが成因と考えられる重症急性膵炎であり,極めて稀な症例と考えられた.高齢者の急性膵炎では,重症化,既往合併症の増悪や廃用症候群の続発に特に留意が必要である.
著者
山口 裕也 山縣 元 平瀬 伸尚 塩崎 宏 桑野 晴夫 渡辺 次郎
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.70-75, 2006 (Released:2006-12-08)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

症例は83歳男性.心窩部のつっぱり感を自覚し当科受診.血中膵酵素の増加とCTにて膵全体のソーセージ様腫大を認め,自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)が疑われ入院となった.ERCPでも膵体部を中心に主膵管の狭細化を認めAIPが強く疑われたが自己抗体,IgG,IgG4の増加を認めず確診にいたらなかった.一旦退院となるも退院2日後より排便困難が出現し再入院.大腸内視鏡で直腸の狭窄と粘膜の浮腫を認め,CTでは膵腫大に加え新たに腹水を認めた.直腸生検にて異型リンパ球の粘膜内浸潤を,また腹水中にも異型リンパ球を認めたため可溶性IL-2レセプター(sIL-2R)を測定し3,183U/mlと高値を確認,悪性リンパ腫と診断した.化学療法(THP-COP)にて膵腫大,膵管狭窄は改善し腹水は一旦消失したが,その後短期間のうちに治療抵抗性となり呼吸不全にて死亡した.
著者
辻 喜久 渡邉 翼 塩川 雅広 栗田 亮 澤井 勇悟 上野 憲司 塩 せいじ 宇座 徳光 児玉 裕三 小泉 幸司 磯田 裕義 渡邊 祐司 山本 博 千葉 勉
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.59-65, 2011 (Released:2011-03-07)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

[背景と目的]脳虚血性疾患では,虚血領域は2種類に分けられ,壊死に至る不可逆性の領域と,虚血であるものの治療によって壊死することなく治癒する可逆性虚血領域である.今回,重症急性膵炎にPerfusion CTを用いれば,可逆性虚血領域が診断できるか検討した. [方法]発症3日以内に,Perfusion CTを撮像した71人の重症急性膵炎患者を対象とした.全ての膵実質を,頭部,体部,尾部に分け,膵血流速度(FV),膵血流量(VD)をPerfusion CT(Single compartment kinetic model)にて測定した.3週間後に造影CTを行い,頭部,体部,尾部がそれぞれ壊死したか診断した. [結果]発症早期に,FV,VDどちらも低下している場合,高率に壊死した.発症早期に,FV,VD片方だけ低下している場合,壊死する場合もあれば,回復する場合もあった.発症早期に,FV,VDどちらも低下していなければ壊死しなかった. [考察]発症早期にFV,VDどちらも低下した実質は高率に壊死し,このような実質は不可逆性膵虚血/早期壊死であると考えられた.単一のParameterのみ低下した実質は,必ずしも壊死しない場合があり,こうした実質は可逆性膵虚血である場合があると考えられた.以上から,複数のPerfusion Parameterを用いることで,可逆性-非可逆性膵虚血を診断しうる可能性があると考えられたが,こうしたPerfusion CTの所見と病理との比較や,用語の定義など,今後の課題であると考えられた.
著者
川畑 康成 石川 典由 森山 一郎 福庭 暢彦 田島 義証
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.620-625, 2015-08-25 (Released:2015-09-08)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は71歳の女性.心窩部痛を契機に上部消化管内視鏡検査で十二指腸第II部に変形・狭窄および易出血病変を認めた.腹部造影CTでは膵頭部に径50mm大の充実性腫瘤を認め,門脈・脾動脈および十二指腸への浸潤が疑われた.ERPで主膵管は膵頭部で途絶していた.膵液細胞診はadenocarcinomaであり,門脈および脾動脈浸潤を伴う切除可能境界膵頭部癌(cT4, N1, M0, cStage IVa)と診断.門脈および脾動脈切除・再建を伴う膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織所見では,腺管構造の不整を伴う高分化型腺癌が主体で,腫瘍間質の線維化が強く,門脈浸潤を認めた.術後補助療法として放射線化学療法(GEM+RT)およびS-1による6ヶ月間の維持療法を施行した.術後の栄養状態とQOLは良好で,7年7ヶ月経過した現在,無再発生存中である.
著者
伊地知 秀明
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.28-34, 2010 (Released:2010-03-03)
参考文献数
19

ヒト膵癌に高頻度な遺伝子やシグナル伝達系の異常をマウスの膵臓に導入することにより,通常型膵癌をよく近似する膵発癌モデルが得られるようになった.恒常活性型Krasが生理的なレベルで膵臓に発現すると前癌病変であるPanINが生じ,同時に癌抑制遺伝子(p16,p53,TGF-βシグナル等)の不活性化が加わると浸潤癌に進行し,著明な間質の増生・線維化を伴う管状腺癌というヒト膵癌の組織学的特徴をよく模倣する.これら膵発癌モデルは,従来のxenograftモデルに比べ,多段階発癌過程を模倣している点・腫瘍の微小環境が保たれている点において臨床の膵癌像に大きく近づいたモデルであり,その詳細な解析から,膵癌の発癌から進展までの病態をよりよく理解することができ,膵癌の新たな診断法・治療法の確立や膵癌の起源細胞の解明へとトランスレーショナルリサーチ発展への寄与が期待される.
著者
森安 史典 糸井 隆夫 永川 裕一 土田 明彦
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.210-218, 2015-04-20 (Released:2015-05-08)
参考文献数
22

IRE(Irreversible electroporation)は,2008年に米国で市販され,軟部組織の悪性腫瘍の治療に広く使われるようになった.中でも膵癌は放射線療法以外によい局所療法がないことから,IREの治療対象として注目されている.IREはnon-thermal ablationの局所治療法であり,胆管,膵管,血管,消化管などの構造を温存して,細胞のみに細胞死を惹起せしめることから,切除不能局所進行膵癌の治療法として期待されている.本稿では,IREの原理から臨床応用まで,膵癌の新治療法について概説する.