著者
八木 孝司 佐々木 剛 尾本 惠市
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.137-147, 2006-03-20
参考文献数
31

日本を含む東アジアに主に分布するカラスアゲハ亜属各種の系統関係をミトコンドリアDNAのND5遺伝子部分配列によって解析した.その結果,カラスアゲハ亜属は2つのグループに大きく分かれることがわかった.第一のグループにはカラスアゲハ,クジャクアゲハ,ミンドロカラスアゲハ,タイワンカラスアゲハが含まれる.第二のグループにはミヤマカラスアゲハ,シナカラスアゲハ,タカネクジャクアゲハ,オオクジャクアゲハ,ホッポアゲハ,ルリモンアゲハ,カルナルリモンアゲハが含まれる.各グループの種間には斑紋の共通性があるわけではなく,グループ間にいくつかの斑紋が似た種の組み合わせが存在する.たとえば中国四川省のガラスアゲバとミヤマカラスアゲハ,北インドのクジャクアゲハとルリモンアゲハなどである.このことは2グループの分岐後にグループ間の種どうしで翅の斑紋の収斂が起こったと考えられ,平行進化の一例といえるかもしれない.各地度のガラスアゲバは4つのグループに大さく分かれることがわかった.すなわち第一はトカラ列島以北の日本列島・サハリン・朝鮮半島度,第二は奄美大島・徳之島・沖縄島産,第三は八重山諸島度,第四は中国大陸南部・台湾諸島産である.これら4グループのDNA配列の違いは,各々が種であるとしても妥当なほど大きい.また,カラスアゲハ原名亜種とクジャクアゲハのDNA配列,ミヤマカラスアゲハとシナカラスアゲハのDNA配列は同じかほとんど違いがなく,これらはそれぞれ同一種であることを強く示唆する.ネッタイモンキアゲハは幼虫と蛹の形態からカラスアゲハ亜属と分類されることがあったが,シロオビアゲハ亜属とすべきであることがわかった.
著者
小林 茂樹 広渡 俊哉 黒子 浩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-57, 2010-05-31
参考文献数
33
被引用文献数
1

チビガ科Bucculatricidaeは,幼虫が若齢期に葉にもぐる潜葉性の小蛾類である.成虫は開張6-8mmで,世界ではおよそ250種が知られる.中齢期において幼虫は潜孔を脱出し,老熟すると本科に特徴的な縦の隆条をもった舟底形のマユを葉や枝上につくり蛹化する.日本では,アオギリチビガBucculatrix firmianella Kuroko,1982,ナシチビガB.pyrivorella Kuroko,1964,クロツバラチビガB.citima Seksjaeva,1989の3種が知られており,最近筆者らによってハマボウチビガB.hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009,ならびにコナラチビガBucculatrix comporabile Seksjaeva 1989とクリチビガB.demaryella(Duponchel,1840)が追加された(有田他,2009).しかし,本科にはヨモギ属を寄主とするヨモギチビガBucculatrix sp.など,多くの未同定種の報告があり,種の分類・生活史の解明度が低く,種レベルの研究が不十分であった.そこで本研究は,日本産の本科の新種を含む未解明種の形態・生活史を明らかにすることに努め,既知種を含めた本科の分類学的再検討を行った.野外調査とともに大阪府立大学や小木広行氏(札幌市),平野長男氏(松本市),村瀬ますみ氏(和歌山市)などの所蔵標本を用い,日本各地の成虫を調査した.奥(2003)が同定を保留した4種についても,交尾器の形態を確認した.その結果,4新種,11新記録種,2学名未決定種を加えた計23種を確認した.確認された23種を,交尾器の特徴から10種群に分類し,16種の幼虫期の習性をまとめ,3タイプに分類した.幼虫習性は,11種で多くのチビガ科の種でみられる型(1.中齢以降は葉の表面にでて葉を摂食する.2.脱皮マユは2回作る)が見られ,茎潜り,ヨモギにつく3種に見られた脱皮マユを一度しか作らない型は,Baryshnikova(2008)の系統の初期に分化したと考えられるグループに属した.ヤマブキトラチビガとシナノキチビガはシナノキの葉の表と裏側をそれぞれ利用していたが,形態は大きく異なっており,それぞれ,ブナ科とバラ科に潜孔するグループに形態的に近縁と考えられた.また,メス交尾器の受精管が交尾のうの中央に開口することが本科の共有派生形質であることを示唆し,さらに調査した日本産18種でこの形質状態を確認できた. 1.Bucculatrix firmianella Kuroko,1982アオギリチビガ(Plates 1(1),2(1-11),Figs 3A-C,10A)開張6-8mm.前翅は白色に不明瞭な暗褐色条が走り,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは丸く,挿入器は細長い.幼虫は6〜10月にアオギリの葉にらせん状の潜孔を作る.住宅の庭木や大学キャンパスなどで発生がみられた.分布:本州,四国,九州.寄主植物:アオギリ(アオギリ科). 2.Bucculatrix hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009ハマボウチビガ(Plates 1(2),2(12-17).Figs 1D,3D-F,10B)開張5.5-8mm.前翅は白色から暗褐色で黒鱗が全体に散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは長く,バルバの先端に1対の突起がある.幼虫は初夏から11月初旬までみられ,若齢幼虫はハマボウの葉に細長く線状に潜り,その後茎内部に潜る.三重県では,蕾内部に潜孔している幼虫や種子の摂食が観察されている(中野・間野,未発表).分布:本州(三重,和歌山)寄主植物:ハマボウ(アオイ科). 3.Bucculatrix splendida Seksjaeva,1992ハイイロチビガ(新記録種)(Plates 1(3),2(18-20).Figs 1C,3G-I,9E,10C)開張8mm内外.前翅及び冠毛は黒色で,容易に他種と区別できる.本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.4として記録された.幼虫は,夏にみられヨモギの葉の表側表皮を残して薄く剥ぎ,点々と食痕を残す.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 4.Bucculatrix laciniatell Benander,1931アズサガワチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(4).Figs 3J-L)開張9mm.前翅は白色で,前縁から後方に明るい茶色の斜列条が走る.雄交尾器の挿入器は先端が鉤爪状に反り,バルバの先端には細かい棘状の突起がある.平野長男氏採集の長野県梓川産の1♂にもとづいて記録した.ヨーロッパでは,Artemisia laciniata(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:本州(長野);ヨーロッパ.寄主植物:日本では未確認. 5.Bucculatrix sp.1(nr.bicinica Seksjaeva,1992)(Fig.9D)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.3として記録された.雄交尾器は,挿入器の先が大きく反り返り,把握器は長細くなる.沿海州産のB.bicinica Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明.6.Bucculatrix maritima Stainton,1851ウラギクチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(5),2(21,22).Figs 9A,10D)開張75mm.前翅は濃茶色に白色が混じり,基部に明瞭な白斜条が走る.雄交尾器の把握器は先端が深く切れ込み,雌交尾器の交尾口は,おわん型になる.小木広行氏採集の北海道鹿追産の1♂と山崎一夫氏採集の大阪府大阪市産の1♀にもとづいて記録した.山崎(私信)によると潜孔とマユを大阪市北港処分地で観察している.同様に淀川河口付近のウラギクでも潜孔痕が観察できた.ヨーロッパでは,ウラギクAster tripolium,Artemisia maritima(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:北海道,本州(大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:ウラギク(キク科). 7.Bucculatrix notella Seksjaeva,1996ヨモギチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(6),2(23-28).Figs 1C,4A-D,10E)開張6-7mm.前翅は乳白色で,茶から暗褐色の斜条が前縁1/2および2/3に走るが,斑紋の変異が大きい.雄交尾器は,テグメンの先端が発達し,雌交尾器の交尾口はカップ状になる.幼虫は,春から秋にかけてみられ,近畿地方では冬にも若齢幼虫がみられた.後齢幼虫はヨモギの葉に小孔を開け,そこから組織を摂食する.北海道では,ハイイロチビガと混棲しているのが観察された.分布:北海道,本州(長野,三重,奈良,大阪,和歌山,兵庫),九州;ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 8.Bucculatrix nota Seksjaeva,1989イワテヨモギチビガ(改称,新記録種)(Plate 1(7).Figs 1C,4E-G,9B)開張8mm.前翅は乳白色に褐色の斜条が走る.本種は,奥(2003)によってヨモギチビガBucculatrix sp.1として生態情報とともに記録されたが,ヨモギを寄主とするチビガとしては全国的に前種の方が普通に見られるので本種をイワテヨモギチビガとした.形態,生態ともに前種に似るが,雄交尾器のソキウスが長く発達し,挿入器の先端は大きくフック状に反る.分布:本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ,オオヨモギ(キク科). 9.Bucculatrix sp.2(nr.varia Seksjaeva,1992)(Fig.9C)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.2として記録された.雄交尾器は,ソキウスの側面が広がり,把握器は先が指状になる.沿海州産のB.varia Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明. 10.Bucculatrix sinevi Seksjaeva,1988シネフチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(8).Figs 4H-I,10F)開張7.0-8.0mm.前翅は乳白色で,茶鱗が散在する.雌雄交尾器は,特徴的で雄交尾器のソキウスは小さく,バルバは幅広く先端が尖る.雌交尾器の交尾口の両側には牛角状の突起が伸びる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 11.Bucculatrix altera Seksjaeva,1989アムールチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(9).Figs 5A-E,11A)開張7.0-8.2mm.前翅は白色で茶〜暗褐鱗が散在する.雄交尾器は,挿入器内に多数の鉤爪状突起がある.雌交尾器は,前種と同様に角状突起を有しアントゥルムは幅広の筒状になる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 12.Bucculatrix pyrivorella Kuroko,1964ナシチビガ(Plate 1(10),2(29-32),3(1-7).Figs 1A,2,5E-G,11B)開張7.0-8.0mm.前翅は白色で,不明瞭な明るい茶の斜条が走る.雄交尾器のソキウスとバルバは弱く硬化し,エデアグスは長い.幼虫は,奈良では5月から9月まで発生し,街路樹や庭木のサクラでよくみちれる.かつてはナシ園の害虫として問題となった.分布:北海道,本州,四国,九州;韓国,ロシア極東.寄主植物:ナシ,リンゴ,サクラ類,ズミ(バラ科). 13.Bucculatrix citima Seksjaeva,1989クロツバラチビガ(Plate 1(11),3(8-11).Figs 5H-J,11C)開張6.0-7.0mm.前翅は乳白色で,前縁1/3と2/3から後縁に濃茶の斜列条が走る.雄交尾器は,ソキウスを欠きバルバ先端は櫛歯状になる.本種は,奥(2003)がクロツバラから採集した幼虫を飼育・羽化させ,日本から記録した.本研究では,クロウメモドキを新たに寄主に加え,幼虫の発育過程を記載した.また,雌交尾器を初めて図示した.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:クロツバラ,クロウメモドキ(クロウメモドキ科). 14.Bucculatrix armata Seksjaeva,1989シナノキチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(12),3(12-21).Figs 6A-C,11D)開張6.0-7.5mm.前翅は白色で,不明瞭な燈褐鱗が散在する.雄交尾器はソキウスを欠きバルバは強く硬化する.幼虫は8月に発生し,シナノキの葉の表側を主に利用する(小木広行氏観察).北海道では,本種とヤマブキトラチビガが葉の表と裏側をそれぞれ利用するのが観察されている化分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:シナノキ(シナノキ科). 15.Bucculatrix univoca Meyrick,1918ノアサガオチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(13),3(22-30).Figs 6D-H,11E)開張5.0-6.5mm.前翅は茶色で1/2に黒点,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器は特徴的で,バルバの中ほどに突起が発達し,その先端は櫛歯状になる.幼虫は9月にみられたが,村瀬(私信)によると2月初旬に採集されたことから,年間を通して発生すると思われる.分布:九州(鹿児島[奄美]),琉球(沖縄[沖縄本島,石垣島]);台湾インド.寄主植物:ノアサガオ,サツマイモ(ヒルガオ科). 16.Bucculatrix demaryella(Duponchel,1840)クリチビガ(Plates 1(14-15),4(1-13).Figs 7A-C,11F)開張6.0-7.5mm.前翅は黄白色で,茶褐鱗が散在する.本種,クヌギ,コナラ,ケヤキ,コギチビガは斑紋が酷似し,確実な同定は交尾器の確認が必要.幼虫は7月初旬から10月まで発生し,クリ,シラカンバの葉に短い螺旋状の潜孔を作る.本種はヨーロッパでは他にカエデ類,ハシバミ類を利用することが知られる.那須御用邸(栃木県)の調査で日本から記録された(有田他,2009).分布:北海道,本州(栃木,長野,愛知,奈良,大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:クリ(ブナ科),シラカンバ(カバノキ科). 17.Bucculatrix serratella sp.nov.ケヤキチビガ(新種)(Plates 1(16),4(14-22).Figs 7D-F,12A)開張5.0-6.0mm体前翅は黄土色で,茶褐鱗が散在する.雄交尾器の挿入器とユクスタの先端は鋭く尖る.雌交尾器の第8節腹側は硬化し,しわ状の模様がある.本種は,大和田ら(2006)によって皇居で採集されたマユと食痕からケヤキチビガBucculatrix sp.1として記録されたものである.幼虫は,5月から10月に発生し,ケヤキの葉に線状の潜孔を作る.本種は,街路樹や寺社林などでよく見られる.分布:本州(東京,長野,愛知,三重,奈良,大阪).寄主植物:ケヤキ(ニレ科). 18.Bucculatrix kogii sp.nov.コギチビガ(新種)(Plate 1(17).Figs 7G-I)開張7-8mm.前翅は白色で茶鱗を散布する.雄交尾器は前種に似るが,挿入器先端に多数の棘状突起を有し,ユクスタも小さい.♀は未知.分布:北海道.寄主植物:不明. 19.Bucculatrix thoracella(Thunberg,1794)ヤマブキトラチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(18-19),4(23-30).Figs 1B,7J-K,12B)開張6-7.5mm.前翅は山吹から燈褐色で1/2に黒色帯,同様に中央から翅頂に黒色中線が走る.北海道産の個体は,斑紋が明瞭ではない.本州では奈良県大台ヶ原で成虫のみが得られており,北海道では幼虫は6-8月に発生し,シナノキの葉の裏側を主に利用する(小木広行氏観察).8月の世代はマユで越冬する.ヨーロッパでは,カエデ類,クリ類,ブナ類も利用することが知られている.分布:北海道,本州(奈良[大台ヶ原]);ヨーロッパ.寄主植物:シナノキ(シナノキ科). 20.Bucculatrix muraseae sp.nov.ハンノキチビガ(新種)(Plates 1(20),5(1-6).Figs 8A-B,12C)開張6-8mm.前翅は乳白色で明るい茶の3斜線条が走る.雄雌交尾器は次種に似るが雄交尾器のソキウスの形で区別できる.幼虫は7月初旬から9月に発生し,黄褐色のマユを作る.分布:北海道,本州(奈良,大阪,和歌山,兵庫).寄主植物:ハンノキ(カバノキ科).
著者
児玉 洋 広渡 俊哉
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.59-73, 2023-09-30 (Released:2023-10-03)
参考文献数
30

Larvae of the tineid subfamily Harmacloninae are thought to be wood borers without firm evidence. Moths of this subfamily have also well-developed tympanic organs on the second abdominal segment. Among microlepidopterans, this type of organs occur only in Harmacloninae and Pyraloidea. In 2022, we obtained larvae of Micrerethista denticulata Davis, 1998 belonging to Harmacloninae from tunnels in the dead trees of Quercus serrata in Hashimoto, Wakayama Prefecture, Japan. The life history of M. denticlata, including the morphology of the immature stages is described on the basis of field observations and rearing. This represents the first definitive evidence of wood-boring habits in larval stage for the subfamily. The evolution of the larval and pupal morphology associated with wood-boring habits is discussed and the role of the tympanic organs in Harmacloninae is speculated.
著者
鈴木 信也 神保 宇嗣
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.13-17, 2022-03-31 (Released:2022-05-14)
参考文献数
14

Eupoecilia ingens Sun & Li, 2014 is recorded in Honshu, Shikoku and Kyushu, representing the first record from Japan. A diagnosis for this species is provided based on the Japanese specimens.
著者
綿引 大祐 吉松 慎一 竹内 浩二 大林 隆司 永野 裕
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.53-60, 2017-08-31 (Released:2017-12-01)
参考文献数
22

属 Acidon Hampson はインドからオーストラリア地域にかけて21種(そのうち2種は雌しか知られていない正体不明種)が知られ,Kononenko and Pinratana(2013)でいうところの“Mecistoptera generic group”に属する一群である.本グループには Acidon 属のほか,Mecistoptera Hampson,Perciana Walker,Hiaspis Walker,Hepatica Staüdinger,Coarica Moore,Ruttenstorferia Lödl,Lophomilia Warren の7属が含まれており,さらにHolloway(2008)は形態学的な研究から Gonoglasa Hampson も本グループに含めるべきとの見解を示している.また,本グループは全世界でおよそ600種を含む大属であるHypena Schrankと近縁であることから,ヤガ上科の中でも特に分類学的問題を抱えたグループに属している.ヤガ上科の高次分類は今なお混沌としており,本種を含む“Mecistoptera generic group”の種は,日本産蛾類標準図鑑2(岸田,2011)に従うとヤガ科アツバ亜科とカギアツバ亜科にまたがって含まれる扱いとなる.ここでは最近の分子遺伝学的な研究であるZahiri et al. (2012) に従いトモエガ科アツバ亜科として扱った.以下に本新種の特徴を示す.Acidon sugii Watabiki & Yoshimatsu sp. nov. シマイスノキアツバ(新称)前翅長:♂12.3-16.0 mm, ♀12.1-15.4 mm. 雄の触角は両櫛歯状で,下唇髭は非常に長く頭部の5倍程度の長さを有する.雌の触角は糸状で,下唇髭は雄より短い.雌雄ともに前後翅の色調は黒褐色から赤褐色で,前翅の内横線と外横線の間および亜外縁線より外側は暗色になる傾向があり,個体によっては薄紫色の鱗粉を散布する.環状紋は通常白色あるいは黒色の点状であるが,大きな白色紋状となる個体もある.前後翅とも裏面には黒褐色線があり,後翅はその内側に黒褐色紋を伴う.本種は日本における本属の初記録種で,交尾器の形態からボルネオ島より記載された Acidon calcicola Holloway が最も近縁な種であると考えられる.両種は外見上よく似ているが,本種の雄は触角が両櫛歯状,下唇髭が頭部の5倍程度の長さを有するのに対し,A. calcicola を含む Acidon 属の他の種は,雄の触角が繊毛状や毛束状であり,下唇髭は頭部の2-4倍程度の長さであることから容易に識別できる.また,雄交尾器からも明瞭に識別できる.分布:小笠原諸島(兄島・父島・母島). 寄主植物: マンサク科シマイスノキ (Distylium lepidotum Nakai)本種の兄島と母島から得られた1雄2雌の標本を用いた分子遺伝学的な検討も行った結果,得られた分岐図と解析データから,兄島と母島間においておよそ1%の塩基置換率が確認された(Fig. 14).また,チョウ目における同属内の種間のミトコンドリアDNA (COI) 領域の平均塩基置換率はおよそ7~8%であるとされるほか (Hebert et al., 2009; Hausmann et al., 2011),ヤガ科ヨトウガ亜科 Tiracola 属における近縁種の塩基置換率がおよそ5.1%程度であったことが示されているが (Watabiki and Yoshimatsu, 2013),今回分子遺伝学的解析を併せて行った Perciana marmorea Walker,ナンキシマアツバ Hepatica nakatanii Sugi, および本新種の平均塩基置換率はおよそ6.2%であり,属以上のレベルで一般的に見られるような大きな遺伝的差異は見られなかった.本種は日本産ヤガ上科の分類学者であった故杉繁郎氏の助言をもとに竹内・大林(2006)においてクルマアツバ亜科の属名・種名の未決定種として初めてリストアップされた種である.そこで本種の学名は杉繁郎氏に献名し,和名は杉氏が竹内と大林に書面上で提示していたもの(杉私信,1996)と同様に,シマイスノキアツバとした.なお,竹内・大林(2006)では“シマイスアツバ”として扱われたが,これは杉氏提案の和名を誤って略してしまったものである.
著者
吉田 周 平井 規央 上田 昇平 石井 実
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3-4, pp.109-136, 2019-11-30 (Released:2019-12-20)
参考文献数
26

Based on the label information of butterfly specimens collected in Kyoto Prefecture, Japan by Dr. Tadachika Minoura, the distribution of butterfly species in and around Kyoto City in the early Showa period (1930’s to 1950’s) was inferred and compared with the Red Lists of Kyoto Prefecture and the Ministry of the Environment. The specimens contained 63 species and 961 individuals collected at 50 sites in Kyoto Prefecture from 1904 to 1969, including 7 species listed in the Red List of Kyoto Prefecture 2015 or Ministry of the Environment 2018. In particular, it became clear that several species listed on the Red Lists such as Fabriciana nerippe and Eurema laeta were distributed in the Saga or Kinugasa areas, which are now an urban area. Thus Minoura’s collection was proved to an important means for inferring the butterfly fauna in and around Kyoto City in the early Showa period.
著者
長崎 二三夫 山本 毅也 北方 健作 脇坂 昇
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.5-16, 2014-04-25

はじめに オオムラサキは,最も大きなタテハチョウの1種であり,日本,朝鮮,中国,台湾等に分布している.通常年1化で,幼虫越冬をする.翅表は黒褐色を基調に,♂は翅表の基部を広く紫色が被い,♀では紫色を欠く.日本のオオムラサキの♂の翅表については,紫色が少し薄い北海道から黒みを帯びる九州まで,微妙な地方変異が知られている.海外に目を転じると,台湾において青く輝くオオムラサキが知られており,また最近,長野県産の輝きの強い個体が提示されており(小舘,2009),これも青いオオムラサキの1型である可能性が高い.著者の一人は大分県北部から1頭の青みを帯びた輝きの強い♂を飼育により得ている.そんななかで滋賀県の同好者の間で(ブルー)と呼ばれているオオムラサキの存在を聞くに及んだ.同産地の越冬幼虫をたまたま累代飼育していたところ,青いオオムラサキの出現を記録し,遺伝形式を解明すべく累代実験を行うこととした.最初の越冬幼虫は,2005年に滋賀県の鈴鹿山地より得たものである.飼育はそれぞれの著者の庭に植えてあるエノキを用い,ナイロンネットの袋掛けを行い,越冬幼虫を4月のエノキの芽吹きに合わせて放ち行った.成虫の羽化後♂は約10日経ち成熟してから,♀は羽化後2日目から7日目までを交配に用いた.交配はハンドペアリング法で行った.採卵はエノキの袋掛けネット内で行った.12月上旬に越冬幼虫が木を降りる頃を見計らい回収し,土を入れた植木鉢に保管した.2005年12月に野外採集で得られた越冬幼虫からF2世代まで3世代累代して青い異常個体を得,その後出現した青い異常型個体から世代を重ねて純系作成を試みた.内交配を繰り返し,得られる翅色彩についてすべての組み合わせによるペアリングをして,純系の作成を目指した.一腹から得られた次世代の全個体が青色異常型となった後には,純系であることの確認のために純系個体同士の交配を行った.青い異常型が出現する遺伝形式を見極めるために,青純系と新たに野外から得た幼虫より羽化した正常型との間で交配実験を計画した.2010年原産地より5km離れた地点から得た30頭の正常型と青純系の2頭の♂,2頭の♀との間で4組の交配を行った.飼育結果 1.青い異常型個体の出現 Table 1の通り,2005年12月採集の同一産地に由来する正常型の1♂1♀を交配し,内交配による累代飼育の結果,2008年6月に3世代目として羽化した3頭の♂のうち2頭が青く輝く異常型であった.2.青の純系の作成の試み 累代を続けた結果,3世代後の組み合わせの一つから羽化した♂は,30頭すべてが青で,F5世代で青の純系が誕生したことが示唆された.これらが本当に純系であるかどうかの確認を行うため,純系と思われる2家族同士の交配を2011年6月から7月にかけて行った.翌年2012年6月から7月にかけて,Cross11#1,#2それぞれから38頭と91頭の青の♂のみが羽化し青の純系であることが確認された.3.青純系と野外の正常型との交配実験 前節で得られた青の純系♂と♀を,野外の正常型と交配させた.これらの4組の組み合わせから,翌年2012年6月から7月にかけて,正常型の紫の♂46頭のみが羽化した.青が1頭も羽化しなかったことより青は劣性であることが強く示唆され,羽化した♂,♀ともすべて青の遺伝子をヘテロの状態で保持していると考えられた.最後に2012年7月に上記のF6-3,4,5,6同士の間で交配を行った.すなわち青のヘテロ同士で交配を行ったことになる.2013年6月から7月にかけてCross12#1-4のそれぞれから青と紫の両方が羽化した.上記の交配に用いた両親は,いずれも青に関してはヘテロでありまた青の遺伝子は劣性と想定していたので理論的に導かれる交配の結果は次のようになるはずである.♂Aa x ♀Aa→AA+2Aa+aa→3紫+1青 ここでA:優性の紫の遺伝子 a:劣性の青の遺伝子 AA:ホモの紫 Aa:ヘテロの紫 aa:ホモの青 すなわち理論的には青対紫の分離比は1:3であり,青出現率は0.25(1/4)のはずである.そこで実験結果につき統計学的検討を行うこととした.Cross12#1-4それぞれについて理論的な分離比から仮定される青出現率(p_0)に対し実験で得られた比率(p)が有意に異なるかを正規近似を用いて検定したところ,4組ともメンデル遺伝の理論分離比で劣性遺伝すると判断された(Z検定:Cross12#1-4それぞれ|Z_0|=0.425,p=0.67;|Z_0|=0.994,p=0.32;|Z_0|=0.478,p=0.63;|Z_0|=0.266,p=0.79).考察 以上の飼育実験より青い異常型はメンデルの劣性遺伝をすることが確かめられた.飼育実験を重ねるうちに集積された標本を検討すると,青の青さにスカイブルーから比較的暗いダークブルーまで,連続した微妙なバラツキのあることに気付いた.青と正常型の決定的な違いは,青は斜めに傾けて翅表を観察すると強く金属的に輝くことである.この金属色は構造色とよばれ鱗粉の微細構造に由来するものである.正常型オオムラサキの鱗粉は大きく2種類に分けられ,そのうちの1種類が櫛状構造に外皮様のヒダが何層にも重なってついており,これが構造色を生み出しているという(Matejkov-Plskova et al.,2009).鱗粉の櫛状構造の櫛についている多数のヒダの間隔が正常型では103nmに比し青では169nmと広く,この広いことが光学的研究により,青く輝く原因となっていることが突き止められている(永井ら,2009).この間隔が169nmより少し狭いと,濃い青へ,広くなるとスカイブルーの方ヘバラツクのではないかと想像される(吉岡,私信).スギタニ型にも青い遺伝型が出現し,スギタニ型での青はギラツキ感がやや弱く,また青みが暗い傾向がある.これらの微妙な変異をまとめてFig.7からFig.38まで提示してみた.連続した変異が理解されるものと思う.青い異常型の存在は,各地でささやかれてきた.先に示した大分県をはじめとして,福岡,京都,山梨からは報告は無いものの知られており,栃木,北海道からは最近報告されている.栃木県の報告では,同一のエノキから得られた8頭の越冬幼虫より青が2頭出現しており,遺伝の関与を示唆している(瀬在,2012).北海道では2011年と2012年のオオムラサキの大発生の年に,計6頭の青い異常型が採集されたと報告しており(上野・高木,2013),それぞれの年に,500〜600頭のオオムラサキが容易に捕獲できたとのことである(高木,私信).そうであればおおざっぱであるが,青の出現率は約0.5%(6頭/600×2年)となり極めて稀であることが理解される.オオムラサキは、蝶の愛好家の間では最も人気ある蝶の一つであり,過去半世紀以上数知れぬ越冬幼虫が飼育されてきた蝶である.にもかかわらず青い異常型の報告は,上記のように最近の数例しかない.それほど稀な型ということであろう.この青い異常型は極めて稀で,分布が限られており,保護が計られねばならない.その理由で詳しい産地の公表は控えさせていただいた.その一方で保護の目的で著者たちは累代の努力を継続中である.
著者
井上 寛
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, 1999-01-20

Milionia fulgida Vollenhovenのボルネオ亜種はM.fulgida reducta Gaede,1914として知られるが,reductaは初めaberrantとして提出され,規約のもと亜種より下のtaxonと考えられる.この名称を種群名として適格としたのは,従ってProut(1932)となるが,M.elegans reducta Rothschild,1926の一次ホモニムとなって使用できないので,新名borneensisを提出した.一方,Prout(1931)はM.elegans reducta Rothschild,1926をM.fulgida reducta Gaede,1914の一次ホモニムと考え,置換名conductaを提出していたが,上述のようにreducta Rothschild,1926が有効なので,conducta Prout,1931をそのシノニムとした.
著者
西中 康明 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.202-216, 2006-06-30
参考文献数
36
被引用文献数
10

里山林における下刈りがチョウ類の種多様性および群集構造に与える影響を明らかにするために,1999年および2001年に,大阪府北部の三草山の里山林「三草山ゼフィルスの森」においてトランセクト調査を行った.調査地の林床は1999年にはササに被われていたが,2000年の秋以降,下層植生の下刈・非下刈帯を25m間隔で縞状に配置する管理(縞状管理)が試験的に行われた(Fig. 2). 2年間の調査の結果,合計52種1750個体のチョウ類が観察された(Table 1).そのうち日華区系(日浦, 1973)の種は35種(4種の日本固有種を含む)と全体の約67%を占めた.寄生植物に注目すると,落葉広葉樹食者(14種)や高茎草本食者(11),藤本食者(8),低木食者(7)などが多かったが,常緑広葉樹食者(2)は少なかった.低木食者にはササ食者を含めたが,そのうち3種のヒカゲチョウ類(クロヒカゲ,ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ)が両調査年ともに最上位の優占種であった(Table 2).このほか,落葉広葉樹食者であるミヤマセセリやミズイロオナガシジミ,アカシジミ,高茎草本食者であるヒメウラナミジャノメやジャノメチョウなども優占種に含まれた.チョウ類の種数と個体数は,縞状管理の完成前(1999年)の調査では41種975個体であったが,完成後(2001年)には46種775個体となり,種数は増加したものの,個体数は減少した(Table 1).チョウ類群集の種多様度や均衡度(H', 1-λ, J')は,いずれも2001年(3.99, 0.89, 0.72)のほうが1999年(3.40, 0.83, 0.64)よりも高かった.2001年のみに確認されたチョウ類は11種で,その中にはミドリヒョウモンやオオウラギンスジヒョウモンなどの森林性草本食者やウラミスジシジミ,ウラキンシジミ,ウラジロミドリシジミなどのゼフィルス類,環境省のレッド種であるオオムラサキなどが含まれていた.一方,1999年のみに確認されたチョウ類は6種で,そのうちの半数はオープンランド性の種(イチモンジセセリ,ジャコウアゲハ,ツバメシジミ)であった.寄生植物や成虫の食物,分布,化性などに基づいて分類した各グループの種の割合は,種数については調査年間での違いは認められなかった(Table 3).しかし,個体数の割合については,両調査年とも,日華区系の種であり,多化性,樹液食,ササ食の種でもあるクロヒカゲ,ヒカゲチョウ,サトキマダラヒカゲの3種が優占していたが,これらの種の割合は2001に大きく低下した(Tables 2, 3).それに対して,2種の1化性ヒョウモンチョウ類(ミドリヒョウモン,メスグロヒョウモン)を含む花蜜依存種や森林性草本食のチョウ類の個体数は2001年に増加した.季節変化をみると,種類は1999年には6月(16種)と8月(19)に2つの,2001年には6月(19),7月(16),8月(18),9月(12)に4つのピークが認められた(Fig. 3).密度については,両年ともに6月と9月にピークが認められたが,9月のピークは1999年(約フ5個体/km)の方が2001年(35)よりも高かった.また,種多様度(1-λ)は,両年とも5-9月の間,約0.8前後で比較的安定していたが,夏期と秋期については2001年の方がやや高かった.ヒョウモンチョウ類の密度は1999年より2001年の方が高く,特に9月下旬に最大(約3.5個体/km)となった.それに対して,ヒカゲチョウ類では2001年に密度が低下し,特に夏世代の密度は1999年(最大約65)に比べて,2001年(30)は2分の1以下であった(Fig. 4).以上のような結果から、縞状の下層植生管理は,調査地のチョウ類群集の種構成に大きな影響を及ぼさす,優占種であるササ食者の密度の低下や森林性草本食者の増加などを通じて,群集の種多様度を増加させることが示された.
著者
泉 健司 加納 一三 佐々木 健二
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.155-162, 1984
被引用文献数
1

従来,翅の形態の比較検討は数個所の測定値の相互比などにより行われてきた.筆者らはカラスアゲハの翅形の地理的変異を比較検討する目的で前後翅9部位の長さを測定し,さらに理論性と客観性を加える目的で主成分分析を行った.その結果,第1より第4主成分(Z_1〜Z_4)に意義のあることを確かめることができた.Z_1は大きさを表わす主成分で,台湾産の集団は小型であることがわかった.また他の地域集団間では,差異はほとんど認められなかった.形を表わすZ_2〜Z_4では地域差が認められた.Z_2は前翅の細長さを,Z_3は後翅の細長さを,そしてZ_4は後翅の幅を表わす主成分であった.Z_2とZ_3を座標軸として得られた個体の散布図をみると,地理的に近接する地域集団は互いに似た形態を示すことが多い.しかし,中国の上海,韓国のソウル,済州島,日本の本州,中之島,および台湾から得られた個体は,F(後翅基部から第4脈末端までの長さ)が長く後翅が比較的細長い傾向がみられ,前翅は細長いものからずんぐりしたものまであったのに対し,奄美より西表にかけての島娯群,紅頭喚および八丈島から得られた個体は,いずれもC(前翅翅端から第1b脈末端までの長さ)とFが短く,前後翅ともにずんぐりとした傾向を示すことがわかった.
著者
有田 豊 木村 正明 大和田 守
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.189-192, 2009-09-30

チュラスカシバ(新称)Paradoxecia chura Arita,Kimura&Owada,sp.nov.本部半島乙羽岳で9月に性フェロモン・ルアーに誘引された雄1頭が採集されている.腹部2-7節の各節に幅広い黄帯があることで,同属の種と区別できる.Paradoxeciaは亜熱帯アジアから12種が知られているが,日本からは今まで記録がなかった.クロスカシバ(新称)Nokona nigra Arita,Kimura&Owada,sp.nov.腹部が黒く,黄帯を欠いているので,同属の種とは容易に区別できる.沖縄島ヤンバル地域で6月と9月に採集されている.
著者
岸田 泰則 猪又 敏男
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.49-51, 1993-08-30

著者らはボルネオから未記録のリボンマダラガ科に属する1新種を見出し,記載した.リボンマダラガ科Himantopteridaeは,マダラガ科Zygaenidaeに近縁な小さな科で,後翅が細長い棒状をなすか後翅の一部が同様に変化した特異な外形を有する種群で構成される.アジアとアフリカに分布し,アジアでは広義のヒマラヤ地域とミャンマー,ジャワ,スマトラに2属4種2亜種が知られる.今回記載したボルネオ産は,アジアでの同科5つ目の種となる. Himantopterus nobuyukii Kishida & Inomata, sp. n.インド東部のナガ丘陵から記載されたH. dohertyi Elwesおよびジャワから記載されたH. fuscinervis Wesmaelに近縁であるが, donertyiとは前後翅の形状が異なる他,頭部,胸部,および腹部の色調の違いで区別され,またfuscinervisとは前翅の色が薄墨色で橙黄色とはならないことで区別できる.種小名は,本種を採集され著者らに研究をゆだねられた川崎市の小林信之氏に因む.
著者
矢後 勝也 矢田 脩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.181-184, 2002
参考文献数
11

2001年4月23日,福岡市西油山にて採集されたウラギンシジミCuretis acuta Moore,1877の越冬個体1♀を用いて採卵実験を行ったところ,蔵卵数と生存日数に関する著しい結果が得られた.この個体はやや汚損していたが,翅型は明らかに秋型の特徴を表わしており,前年秋に羽化した越冬個体と判断された.筆者らは本個体を用いて,原則として1日おきに採卵実験を行った.実験にはナイロン製のネットでできたケージを使用し,食草としてフジの新芽を入れ,午後の一定時間に高さ約1mの屋外で採卵した.また採卵時以外の時間帯はインキュベーター(20±1℃;14L-10D)による室内保管を行った.その結果,本個体は捕獲後87日間生存し,その間の産卵総数は343卵を記録した.本個体の産卵能力のピークは4月下旬から5月上旬で,その後,日々の経過につれて産卵数の減少が見られたが,7月中旬に死亡するまで本個体は確実に有精卵を産んでいた.本種の越冬♀は神奈川県や九州では3月下旬から産卵を始めるといわれており,それゆえ本個体も採集以前の時点で,すでにかなりの卵を産んでいたと想像される.本種の♀は条件が整えば,おそらく約400卵あるいはそれ以上の産卵能力を持つものと考えられる.本個体は明らかに越冬個体であるので,その羽化は前年の9月から10月に行われたとすると,本個体は10から11ヶ月間生きていたと考えられる.筆者らが知る限り,多化性かつ成虫越冬するチョウでこのような長期生存するものは,国内ではクロコノマチョウMelanitis phedima(Cramer,1780)(法西,1996,2001;白水,2000;石島・中島,2001;森田,2001)を除いて他にいない.
著者
有田 豊 大和田 守
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-4, 2006-01-10

ホソハマキモドキガ科は旧北区から54種類が記録されている(Diakonoff, 1986).また本邦からは21種類産することが知られている(Arita, 1987).国立科学博物館が行っている皇居の蛾類調査でこの昼飛性のホソハマキモドキガ科の未記載積の一種が採集された(Owada et al., 2000).またこの未記載種は赤坂御用地からも見出された(Owada et al., 2005).精査の結果この種類は今までに知られていない新種と認められた.Glyphipterix mikadonis sp. nov. トウキョウホソハマキモドキ(新称)(Figs 1-4) ホソハマキモドキとしては中型の種類で,前翅後縁上の薄い黄色の2紋が特徴的で,容易にほかのホソハマキモドキと区別される.皇居吹上御苑と赤坂御用他のやや開けた草地で5月下旬から6月上旬の日中に飛翔しているものや草地のスイーピングによって得られた.
著者
裴 良燮 那須 義次
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.185-201, 2000-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
31

本論文において,韓国と日本産のPhiaris属のうちolivana種群に含まれる9種を扱った.本種群は雄交尾器の次の3特徴により他の種群と区別できる:(1)uncusは顕著な鉤状で通常2葉,(2)tegumenは高い,(3)valvaは細長く,内面に明瞭な切れ込みを持つ.扱った9種のうち2種toshiookui Bae,hokkaidana Baeは日本から新種として記載し,残りの7種は従来から知られていた種であるが,そのうちの4種castaneana(Walsingham),dolosana(Kennel),examinata(Falkovitsh),transversana(Christoph)については今回新たにOlethreutes属から本属に移した.
著者
北原 曜
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-4, 2014-04-25 (Released:2017-08-10)

Interspecific hybridization between Thymelicus sylvaticus and T. leoninus was carried out by placing in cages. Nine F1 hybrid adults between T. leoninus ♀ and T. sylvaticus ♂ were obtained.
著者
阿江 茂
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.65-89, 1962-08-20 (Released:2017-08-10)
被引用文献数
1

(1)筆者は1957年から生物の種間の本質的な差を調査して,その分化の過程を研究するために,日本及び北米産のアゲハチョウ属を用いて,種間交配を行ってその受精率,ふ化率,羽化率,種間雑種の生殖能力等より種間の近縁度を調ペ,又種の差を形成している形質の遺伝様式を研究している.1957年度はロッキー山生物学研究所において,それ以後は南山大学において研究を続けているが,この研究の完成には長年月を要するので,中間報告としてこれまでの研究結果を要約した.(2)交配はhand pairing法により,採卵には螢光照明を用い,幼虫飼育には普通の飼育箱を利用した.(3)クロキアゲハ×ロッキーキアゲハ,キアゲハ×ロッキーキアゲハ,クロキアゲハ×キアゲハの3種の交配は種内交配と殆んど同程度の受精率,ふ化率等を有している.(4)1対のクロキアゲハ♀×ロッキーキアゲハ♂より78♂♂と1〓を得,2対のロッキーキアゲハ♀×クロキアゲハ♂から10♂♂と20♀♀を得た.成虫は殆んどクロキアゲハと同様で,♂♀共に生殖可能であった.(5)キアゲハ×ロッキーキアゲハの3対の交配から3♀♀2♂♂を得た.成虫は大体両親の中間となった.(6)クロキアゲハ×キアゲハの1対の交配から6♂♂3♀♀1〓を得たが,成虫は後翅眼状紋が両親の中間である以外は,ほぼクロキアゲハと同様であった.(7)アゲハ×キアゲハ,アゲハ×クロキアゲハ,アゲハ×ロッキーキアゲハの3種の交配では大部分の卵が受精し,過半数に近くふ化したが,得られた成虫はすべて小形で♂のみであった.(8)上記の3交配より得られた成虫数及び外見は夫々,11対より29頭(両親の中間)3対より10頭(クロキアゲハに似る),1対より5頭(両親の中間)であった.食草は主にセリを用い,第1第2の交配ではカラタチも用いた.幼虫,蛹は夫々大体両親の中間となった.(9)アゲハ×クロアゲハ,モンキアゲハ,オオガアゲハ,ナガサキアゲハの4種の交配は夫々数対又はそれ以上より卵を得た.受精率,ふ化率等は一般に非常に低く,最良の結果を得たアゲハ×オナガアゲハの交配でも,3令幼虫の終期に達したのみであった.(10)アゲハ×カラスアゲハ,ミヤマカラスアゲハの交配の受精率,ふ化率等も非常に低く夫々1令幼虫,2令幼虫で死亡した.(11)アゲハ×メスグロオオトラフアゲハの1対の交配の受精率は高かったが,ふ化したのは1頭のみで蛹期で死亡した.幼虫,蛹は小形である他はメスグロオオトラフアゲハと同様で,食草にはユリノキを用いた.(12)モソキアゲハ×クロアゲハ,シロオビアゲハ×クロアゲハ,シロオビアゲハ×モンキアゲハの3種の交配では,大部分の卵が受精し過半数がふ化したが,得られた成虫はやや小形ですペて♂であった.(13)上記の3交配より得られた成虫数及び外見は夫々,5対より1 頭(両親の中間),1対より4頭(両親の中間),1対より18頭(シロオビアゲハに似る)であった.幼虫,蛹も大体両親の中間であって,食草は主としてナツミカンを用いた.(14)ナガサキアゲハ×モンキアゲハ,ナガサキアゲハ×オナガアゲハ,オナガアゲハ×クロアゲハの夫々1対の交配は,夫々蛹期(2頭)蛹期(1頭)5令幼虫期(1頭)に達した.(15)カラスアゲハとミヤマカラスアゲハの1対の交配からほぼ両親の中間となった2♂♂を得た.幼虫の食草にはイヌザンショウを用いた.(16)カラスアゲハ×クスノキアゲハの交配で2個の受精卵を確認したがふ化しなかった.(17)カラスアゲハ×モンキアゲハの健全な5対の交配から得た189卵のいずれからも発生開始を認め得なかった.(18)キアゲハ,クロキアゲハ,ロッキーキアゲハは互に非常に近縁と考えられるが,ロッキーキアゲハの1化性が雑種において複雑な遺伝様式を示すものと思われ,顕著な逆交配の差を生じた.(19)アゲハは上記の3種に対して非常に近縁ではなく,種間交配の点からアゲハをキアゲハ群の典形的な一員とすることは出来ない.(20)アゲハと"ク口アゲハ群"は幼虫の色彩が類似しているが,その関係はアゲハとキアゲハ群の間の関係よりはるかにはなれている.
著者
田中 章
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1-2, pp.28-31, 1967-02-25 (Released:2017-08-10)

鹿児島市で採取したクロアゲハ♀より採卵して得た5卵より,クロアゲハとモンキアゲハの種間雑種と推定される成虫3♂♂を得た。これらの個体はモンキアゲハとクロアゲハの両種の特徴を有し,阿江によって得られた研究室における種間雑種とほぼ同様であった。従って上記のクロアゲハ♀は野外においてモンキアゲハ♂と交配したものと考えられる。
著者
北原 曜
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.53-66, 2022-07-31 (Released:2022-09-09)
参考文献数
13

Following up on many eyewitness reports of Eastern Pale Clouded Yellow (Colias erate) in the Alpine Clouded Yellow (C. palaeno) habitat in the Asama mountain range as well as several reports of C. erate ♂ mating with C. palaeno ♀, distribution surveys and feeding and mating studies were conducted to clarify the presence and effect of C. erate in the C. palaeno habitat. The results confirmed mating interference of adult C. erate ♂ with C. palaeno in C. palaeno habitats of Mt. Yunomaru and Mt. Eboshi but that geneticintrogression was unlikely. Measures for the conservation of C. palaeno were discussed.