著者
武村 俊介 奥脇 亮 久保田 達矢 汐見 勝彦 木村 武志 野田 朱美
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Due to complex three-dimensional (3D) heterogeneous structures, conventional one-dimensional (1D) analysis techniques using onshore seismograms can yield incorrect estimation of earthquake source parameters, especially dip angles and centroid depths of offshore earthquakes. Indeed, detail analysis of 2016 southeast off the Kii Peninsula earthquake revealed that observed seismic and tsunami record could be explained by low-angle thrust faulting on the plate boundary (e.g., Kubota et al., 2018; Takemura et al., 2018; Wallace et al., 2016) but regional 1D moment tensor analysis showed high-angle reverse faulting mechanism.Combining long-term onshore seismic observations and numerical simulations of seismic wave propagation in a 3D model, we conducted centroid moment tensor (CMT) inversions of earthquakes along the Nankai Trough. Green’s functions for CMT inversions of moderate earthquakes were evaluated via OpenSWPC (Maeda et al., 2017) using the Japan Integrated Velocity Structure Model (Koketsu et al., 2012). We re-analyzed moderate (Mw 4.3-6.5) earthquakes listed in the F-net catalog (Fukuyama et al., 1998; Kubo et al., 2002) that occurred from April 2004 to August 2019. By introducing the 3D structures of the low-velocity accretionary prism and the Philippine Sea Plate, our CMT inversion method provided better constraints of dip angles and centroid depths for offshore earthquakes. These two parameters are important for evaluating earthquake types in subduction zones.Our 3D CMT catalog of offshore earthquakes and published slow earthquake catalogs (e.g., Kano et al., 2018) along the Nankai Trough depicted spatial distributions of slip behaviors on the plate boundary. The regular and slow interplate earthquakes were separately distributed, with these distributions reflecting the heterogeneous distribution of effective strengths on the plate boundary. By comparing the spatial distribution of seismic slip on the plate boundary with the slip-deficit rate distribution (Noda et al., 2018), regions with strong coupling were identified.Acknowledgments We used F-net waveform data and the F-net MT catalog (https://doi.org/10.17598/NIED.0005). Our CMT catalog and CMT results of assumed source grids for each earthquake are available from https://doi.org/10.5281/zenodo.3661116. The FDM simulations of seismic wave propagation were conducted on the computer system of the Earthquake and Volcano Information Center at the Earthquake Research Institute, the University of Tokyo. This study was supported by the Japan Society for the Promotion of Science (JSPS) KAKENHI Grant Numbers 17K14382 and 19H04626.
著者
奥田 花也 片山 郁夫 佐久間 博 河合 研志
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Brucite (水酸化マグネシウム)は蛇紋岩の主構成鉱物の一つであり、超苦鉄質岩の水和反応によって形成される。これまでbruciteは粒径が非常に小さく天然環境で観察されにくいことから注目されてこなかったが、近年の研究では含水下マントルウェッジにおいてantigoriteと安定に共存し(Kawahara et al., 2016)、さらにマントルウェッジでの長期スロースリップがbruciteの形成に伴う高有効法線応力によって説明される可能性も示唆されている(Mizukami et al., 2014)。さらに、bruciteの存在はマントルウェッジ中の岩石の摩擦の安定性を変える可能性がある。このようにbruciteは水和した超苦鉄質岩帯における地震活動に影響する可能性があるが、bruciteの摩擦特性はこれまであまり調べられていなかった。本研究では一連の摩擦実験によりbruciteの基礎的な摩擦特性を報告する。摩擦実験は粒径70 nmの合成試薬を用いて広島大学の二軸摩擦試験機により行った。大気乾燥下と含水条件下の両方で、様々な垂直応力下(10, 20, 40, 60 MPa)で実験を行った。最大の剪断変位は20 mmであり、実験初期の剪断速度は3 μm/secとした。33 μm/secでのvelocity step testを数回行い、それぞれのstepから速度状態依存摩擦構成則(RSF)を用いて定量的に摩擦の不安定性を解析した。乾燥下において、定常状態の摩擦係数はおよそ0.40であり、不安定滑り(velocity-weakeningまたはstick-slip)が全ての垂直応力で観察された。剪断変位が2 mm程度において摩擦係数に明瞭なピークが観察され、このピークの摩擦係数は垂直応力に反比例した。含水下においては、ピークの摩擦係数は乾燥下と同様垂直応力に反比例したが、摩擦係数自体は乾燥下の場合より低かった。垂直応力が10と20 MPaの場合はvelocity-weakeningが観察されたが、40と60 MPaの高い垂直応力の場合はvelocity-strengtheningに変化した。こう垂直応力での安定滑りは100 MPaの垂直応力での先行研究と調和的である(Moore & Lockner, 2007)。RSF則のaとbの値は乾燥下の場合の方が含水下の場合より小さく、臨界すべり距離dcも乾燥下の場合の方が含水下の場合より短かった。Antigoriteはbruciteよりも高い摩擦係数を示すため、bruciteの不安定な摩擦挙動は含水した超苦鉄質岩帯において地震を引き起こす可能性がある。なお本研究では温度依存性については調べていない。発表では、実験したガウジの微細構造観察を通して摩擦特性のメカニズムについて考察を行い、実験結果と先行研究でのモデルから天然の超苦鉄質岩帯における地震活動について議論する予定である。
著者
箸野 照昌 田中 寿美玲 野口 愛天 峯元 愛 園中 智貴 徳田 佳秀 山畑 雅翔 内田 海聖 大城 新秀 畑島 康史 吉盛 巧人 園田 倭可 谷口 大介 兎澤 瑛太郎
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

研究の動機 過去4年間「関口日記」「二條家内々御番所日次記」「妙法院日次記」「守屋舎人日帳」「弘前藩庁日記」に記述された天気を分析した。 そこで、今年は「鶴村日記」を分析した。「鶴村日記」とは、江戸時代の石川県の儒学者、金子鶴村が書き残した1801年(文化4年)から1838年(天保9年)までの災害、文化、生活等の記録である。 研究の目的(1)過年度に調べた「関口日記」「二條家内々御番所日次記」「妙法院日次記」「守屋舎人日帳」「弘前藩庁日記」と合わせてデータベースを作る。(2)インドネシアのタンボラ火山の1812年からの噴火の影響で「夏のない年」と言われた1816年と、天保の飢饉で一番被害が苛烈であった1836年を比較検証する。 研究の方法 天気は現在の気象庁の分類に近づけて、雪>雨>曇>晴れと判別した。1年の1/3の欠測のある年は集計から削除した。ただし、1836年を検討する際は、欠測のない5月~7月、及び9月のみデータを使った。 取得したデータは21年間で、7,148日だった。 データ1 鶴村日記の天気の全期間の出現率と、タンボラ火山の噴火を含む期間である1812年から1816年を算出した。火山の噴火期間は晴れの出現率が低下し、雨の出現率が上昇していることが分かった。 また、1836年の天保の大飢饉においてはさらに晴れの出現率が低下し、雨の出現率が大幅に増えたことが分かる。 データ2 1808~1832年の天気の出現率を季節ごとにグラフにすると、タンボラ火山の噴火の続く、夏の期間の雨の出現率が晴れの出現率を上回っていることがわかる。 データ3 4つの古文書で1816年と1836年の5月から9月の天気を比べると、7月の曇りの出現率が高いことが共通している。 1816年と1836年の違いは、1816年の8月の晴れの出現率の持ち直しが顕著である。 データ4 雷の発生率を四季でみると、1816年の夏の雷は前後の年に比べて減少している。一方、秋は1816年が一番高く、大陸からの季節風の影響の可能性が高い。 データ5 国立情報学研究所の市野美夏さんの論文を参考に天気階級と全天日射量を計算して比較した。市野さんの論文に倣い、日記天気階級は(1)晴れ、(2)曇り、(3)雨天・雪の3つに分類した。そして、現代の気象庁データの平均から得られた地上の全天日射量Qd、地理的データ及び天候から得られるQsを使い、qを求める。 qは地球上にそそぐ太陽のエネルギーの減衰する割合を表している。 求めたQsと天気階級の積を平均したものがQeである。このQeを平年値と比較する。 古文書の天候の情報から毎年の全天日射量に換算し、複数年で比較したのがグラフ6で、1816年、1836年のいずれも1821年から1850年の平均値より低い量になっている。つまり、この2年に関しては、年間通して、全天日射量が低く、寒い時期が続き、農作物などへの影響があったことが読み取れる。 考察(1)データ1のように、タンボラ火山の噴火活動期の1812年~1816年の晴れの出現率は36.12%で、全期間より1.88%低いことから、日照時間が低下し気温も低かった可能性がある。 さらに、データ2から、1816年は鶴村日記の夏から冬において、雨の出現率が晴れの出現率を上回る。夏や秋の気温が上昇しない年だったと考えられる。(2)天保の飢饉は特に東北の冷害が深刻だったとされるが、調査した古文書の緯度があがるにつれて1816年と1836年の晴れの出現率の差が大きいことがわかった。(3)鶴村日記において、 1821年から1850年までの全天日射量の平均と、1816年と1836年の夏の全天日射量を比較すると、両年とも通年で全天日射量が低いことから、気温も低下していたことを示唆する。 まとめ(1) 「鶴村日記」のタンボラ火山の噴火活動期の晴れの出現率は36.31%で、全期間より1.71%低く、日照時間が低下し気温も低下した可能性がある。(2) 天保の飢饉は特に東北の冷害が深刻だったとされるが、古文書の書かれた地点の緯度が上がるにつれて、1816年と1836年の晴れの出現率の差が大きくなっていく。(3)「鶴村日記」の全天日射量をみると、1816年、1836年のいずれも1821年から1850年の平均値より低い量になっていた。 つまり、この2年に関しては、年間通して、全天日射量が低く、寒い時期が続いたことがわかる。 今後の課題 「鯖江藩日記」(福井)をデータ化してデータベースを作り、気象変動を調べて、本年までの分析を裏づけるとともに、オリジナルな全天日射量の計算式を作り、江戸時代の日射量を算出する。
著者
原田 靖 菊沢 悠斗
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地磁気は宇宙放射線や太陽風が地球表面に侵入することを防いでいる.しかし,地磁気が逆転するとこれらが地表に到達し,その放射線の影響で地球上の生物に絶滅や突然変異などの影響を与えるのではないかと考えられている.本研究ではA Concise Time Scale 2016と, Hounslow et al., 2018 から得られた地磁気逆転数データと Alroy, 2010 及び Rohde and Muller, 2005 を用いた遺伝子レベルの多様性データとの相関を調べることを目的とする.検証の結果,この内 375Ma と 250Ma の大量絶滅イベントと逆転頻度の相関が見られた.さらに Shaviv, 2003 の鉄隕石の宇宙線照射年代との比較をすると,250Ma,375Ma で宇宙線が強くなった時期と生物絶滅から回復した時期が一致し,かつ 375Ma(Alroy,2010), 250Ma (Alroy,2010, GTS2016) の地磁気逆転頻度との同期が見られる.さらに一億年スケールで両者共に移動平均を取ると最小値と極大値,極小値を取る位置が一致していることがわかった.これらのことから地球磁場が弱くなったことにより宇宙線放射線が増え,そのことが生物の遺伝子の変異を促したと解釈できるが,170Maの磁場逆転頻度の極大値の時にはこの現象が起こっていない.地磁気逆転頻度データの問題点として,ジュラ紀後期以降の古地磁気極性データは海洋底地磁気縞模様由来であるのに対して,三畳紀以前は陸上の地層由来であるのでデータに連続性がなく,各研究によってもばらつきがあるため,信憑性が低い.また,遺伝子レベルの多様性は海洋属のデータであり,陸上生物よりも太陽風や宇宙放射線の影響は低いと考えられる.
著者
橋本 学
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地震調査委員会は,南海トラフにおいて今後30年間にM8〜9クラスの地震発生確率が70〜80%(2019年時点)と評価している.最近,地震発生確率が「水増し」された,との報道があった.筆者は,2011年からの南海トラフ地震の長期評価に分科会委員として関わった.その中で,さまざまな点,特に時間予測モデルを用いた確率評価について問題点を指摘した.この評価に関する問題点をまとめておく必要性を感じたので報告する. 南海トラフの長期評価は第1版が2001年に公表された[地震調査委員会,2001].M8クラスの東南海・南海地震,連動すれば最大M8.7の地震が,今後30年間に60〜70%の確率で発生すると評価された.確率の計算には,Shimazaki and Nakata(1980)による時間予測モデルが採用された.東日本大震災を受けて,この評価が見直され,2013年に第2版が公表された.最大地震規模はM9.1になり,個別の地震に対する評価はなく,多様性が強調された.しかし,地震発生確率の評価においては,2001年と同じく時間予測モデルを採用した.ただし,第2版において,時間予測モデルによる確率評価に使用されたデータは,室津港のデータのみである.すなわち,宝永1.8 m,安政1.2 m,昭和1.15 mの隆起量である.そして,これらの数値を時間予測モデルに当てはめて,昭和の地震から次の地震までの発生間隔(88.2年)を推定している.この値を用いて計算をすると,標記の確率が算出される. 計算の元になった室津港のデータは,宝永・安政については今村(1930),昭和については沢村(1953)が原典である.今村(1930)は,地元に残る古文書の記載から,安政の地震では約4尺海面が低下したことと,宝永地震から52年後の宝暦9年(1759年)までの間に約5尺の変動があったことを発見した.Shimazaki and Nakata (1980)は,室津周辺の水準測量から推定されている沈降率(5〜7 mm/年)を用いて補正し,宝永地震直後の変動としている.一方,沢村(1953)のデータは,旧汀線の高度の実測である. ところが,再来間隔の計算では測定誤差を一切考慮していない.宝永と安政の地震については,(1)計測方法や地点に関する情報がないため,計測誤差の評価ができない,(2)計測日時の記載がないため,月齢による潮位変動を見積もることができない,(3)波浪等気象・海象に関する記載もない,等の問題点がある.また,宝永の地震については,地震発生から計測時までの約50年間の変動の補正において,余効変動を考慮していない.一方,沢村(1953)の昭和の地震のデータも,水準測量と同程度の精度があるとは考えられないので,大きな誤差が伴うと考えるのが妥当である.試みに昭和の隆起量に10cm,安政と宝永に30 cmのランダムな誤差を加えて計算すると,次の地震発生は2020年代から2050年代まで大きくばらつく.このばらつきを考慮すると,確率はもっと低くなるであろう. 時間予測モデルによる再来間隔の推定には,平均隆起速度が重要で,室津港のデータに対しては13 mm/年となる.Shimazaki and Nakata (1980)では,これが応力蓄積速度に対応するものと考えられている.一方,弾性反発説に従えば,地震間の応力蓄積速度は室戸岬周辺の水準測量や験潮による沈降速度に比例する.しかし,これは前述のように5〜7 mm/年であり,平均隆起速度と大きな差がある.室戸岬周辺の地震時隆起には,弾性反発による隆起と残留隆起(=塑性変形)が含まれる.弾性変形は5〜7 mm/年の沈降速度に等しいと考えられるので,これを除いた量が塑性変形となる.余効変動を無視すると,宝永地震では最大約0.7 m,安政地震は約0.6 mの残留隆起があることになる.前杢(2001)の室戸岬周辺のヤッコカンザシの化石群体データからは,1,000年以内に1m以上の隆起は確認できない.また,塑性の力学に従うと,降伏応力を超えると変形と応力の比例関係は崩れるので,単純に残留隆起と地震の規模等との比を取ることは適切でない. 第2版の議論では,Scholz(1990)の時間予測モデルに否定的な研究なども取り上げられた.さらに,南海トラフ全体をひとまとめにして扱うことにしたので,第1版と同じ考え方で時間予測モデルを適用するのはおかしい,という指摘もあった. これらの批判的な議論が大勢を占め,分科会は時間予測モデルの採用に反対した.そして,他の海溝型地震や活断層の評価と同様に,再来間隔の平均値を用いた確率評価を使うべきであると結論した.この場合,確率は大きく低下する.このため,その後の地震調査委員会と政策委員会関係者の会議において,時間予測モデルの結果を採用する方針が決まった.筆者は,科学者と防災政策関係者との会議で,このような判断をしたことを批判するものではない.南海トラフの地震サイクルについての科学的知見が十分でなく,実際に90年で再来した事実がある以上,防災政策面からの議論が優先しても致し方ない,と考える.しかし,報告書にはこの経緯が記載されていない.筆者はこの経緯の記載を強く主張したが,受け入れられなかった.結果的に,あたかも科学的な判断のみで結論されたと見做される状況を招いてしまった.このことこそ,批判されるべきである.
著者
瀬古 弘 小司 禎教 堀田 大介 小泉 耕 幾田 泰酵
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

大雨に供給される下層インフローの水蒸気分布を改善することにより,降水予報の精度を向上させることが期待できる.ここでは船舶GNSSで得られた東シナ海の水蒸気量をデータ同化に用い,九州北部で発生した大雨へのインパクトを調べた.船舶GNSSのデータ同化により,東シナ海の水蒸気分布が修正し,九州北部の大雨の降水予報が改善する場合もあることが確認できた.さらにバイアス補正と正時に加えて15分前,30分前の観測値を加えた実験の結果から,より正しい可降水量をより多くの点で与えることが重要であることがわかった.本研究は,「ビッグデータ同化とAI によるリア ルタイム気象予測の新展開」(JST AIP JPMJCR19U2), ポスト「京」プロジェクト重点課題4「観測ビッグデー タを活用した気象と地球環境の予測の高度化」(課題 ID: hp190156)の 支援を受けたものです.
著者
麻生 大 星野 健 大竹 真紀子 唐牛 譲
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Introduction:JAXA aims to conduct sustainable lunar exploration activities in the next 50 years, such as operation of lunar base with international partners and private sectors. To realize this goal, we will conduct technology demonstration step-by-step. JAXA envisions our space exploration as the extension from the Low Earth Orbit (LEO) to the Moon and Mars, with our international partners, in order to advance our contribution to intellectual assets.In October last year, the Japanese government announced its decision to officially join the international space exploration, and to proceed on coordination in the several areas including sharing of data acquired from our lunar exploration missions and technologies for lunar landing site selection.Japanese lunar exploration missions:Regarding lunar surface robotic missions, JAXA is developing Smart Lander for Investigating the Moon (SLIM), which aims to demonstrate the high-precision landing technology. The targeted launch year is 2021. Following this SLIM mission, a lunar polar exploration mission is aimed at investigating the water ice resources in the lunar polar region. This is a collaborative mission with Indian Space Research Organisation (ISRO).Objectives of the lunar polar exploration:In addition to the scientific interest about the origin and concentration mechanism of the water ice, there is strong interest in using water ice (if present) as an in-situ resources. Specifically, using water ice as a propellant will significantly affect future exploration scenarios and activities because the propellant generated from the water can be used for ascent from the lunar surface.Because of the existing limited remote-sensed data, we need to find out, by direct measurement on the lunar surface, the presence of water ice, it’s quantity, quality (pure water or contain other phases such as CO2 or CH4), and usability (how deep do we need to drill or how much energy is required to get water) in order to assess if we can use it as resources. Obtaining data to understand the principle of the water distribution and concentration is necessary to estimate the quantity and quality of water across the Moon.Status on the mission:ISRO/JAXA are jointly conducting the conceptual design (i.e. Phase-A study) under the Implementation Arrangement (IA) for the lunar polar exploration mission, in which JAXA provides a launch vehicle and a rover while ISRO provides a lander. System Requirement Review (SRR) is scheduled for this year. JAXA selected function and specification of several instruments, which will be loaded on the rover or the lander.Spacecraft configuration:The spacecraft system is based on direct communication with the Earth. The target mass of the spacecraft (incl. payload and propellant) is about 6ton and the payload mass is about 350kg. After the spacecraft reaches the Moon, it is inserted into a circular orbit having a 100km altitude via a few orbital changes. During powered-descent phase, the position of the lander is estimated by landmark navigation using shadows created by the terrain. After landing, the rover is deployed on the lunar surface using ramps. The rover then prospects water ice with its observation instruments.Landing site selection:We are down-selecting the candidates of landing site of the lunar polar region using the following parameters as constraints:- Continuous daytime: equal or more than 60days.- Continuous nighttime: equal or less than 14days.- Comm. capability: equal or more than 25%.- Land inclination: equal or less than 10deg.As a trial of the landing site selection, sunshine is simulated using digital elevation models to obtain the sunlight days per year and the number of continuous sunshine periods at each site. The maps of simulated communication visibility from the Earth and the slope are created.Conclusion:In this presentation, we will introduce current status on Japanese lunar exploration missions, focusing on a lunar polar exploration.
著者
井尻 暁 谷川 亘 村山 雅史 徳山 英一
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

近年、画像解析処理の向上により、デジタルカメラ等で撮影した多視点画像からの対象物の三次元形状復元(Structure from Motion = SfM)が精度良くできるようになってきている。地理学や考古学分野ではこの手法を取り入れて、ドローン撮影による地形データの取得や考古遺構調査の記録に活用されている。水中の調査でも戦争遺跡や珊瑚の記録等で同技術が応用されつつあるが、まだ事例が多いとはいえず、問題点もあまり整理できていない。一方、高知大学と海洋研究開発機構は、684年の白鳳地震により一夜として沈んだとされる村「黒田郡」の謎を明らかにするために、高知県沿岸部海底の調査を実施している。その海底調査では、海底対象物の形状を精度よく計測・記録する必要があるが、これまで音響調査や潜水士による測定方法で実施してきた。しかし、対象物が非常に浅部にある場合や小さい場合、こうした調査手法では精度良いデータは得られない。一方、SfM写真測量技術を用いれば、上記問題を解決できる可能性がある。そこで本研究では、黒田郡の海底調査で得られた画像データを用いてSfMによる対象物の三次元形状復元を試みた。また、海底から採取した試料を簡易プールに移して、水中画像によるSfMの問題点を評価した。撮影カメラはオリンポスのTGシリーズを用いた。また、3Dモデルの構築はAgisoft社のmetashapeを用いた。野見湾の海底で撮影した約30枚の水中画像により、高解像度の3次元海底地形データを再構築することができた。一方、野見湾で見つかった蛸壺は、視界がわるく、精度の良い3次元形状の復元はできなかった。本研究では、爪白海底で見つかった石柱と野見湾の蛸壺を用いて水中と陸上で撮影した条件による3Dモデルを比較して違いを考察する。また、陸上においても撮影が難しい光に反射しやすい対象物の撮影方法についても検討する。本研究の一部は高銀地域経済振興財団の助成金により実施された。
著者
中田 明里 山本 綺羅 福士 小春 武藤 日菜向
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-07-04

1.研究目的及び調査方法三島市の楽寿園内にある小浜池は湧水によって形成され、古くから人々の生活と密接な関係があるがその水位変化は謎が多い。よって、水位変化の原因と小浜池湧水の周辺水脈との関係性を降水量,電気伝導度(以下EC)の2点から考察した。三島市と御殿場市の過去(1958-2019年)のアメダス気象データ、小浜池(1958-2019年)と伊豆島田浄水場(2004-2019年)の地下水のデータを用意した。続けて、①谷津(長泉)②富沢不動【愛鷹山】③窪湧水【黄瀬川】④谷田押切⑤竹倉【箱根】⑥小浜池⑦蓮沼川⑧菰池⑨三島梅花藻の里⑩源兵衛川⑪白滝公園⑫柿田川【三島溶岩=富士山】⑬伊豆島田浄水場(【】内は水脈を示す)以上13地点で採水し、ECを、マルチ化学センサ2(島津理化)を用いて測定したのちGISを利用して地図上に示した。 2.調査結果と考察2-1 湧水のECについてECについては①④⑤の愛鷹山と箱根由来の地点で高い傾向がみられ、反対に全体として三島溶岩由来と伊豆島田浄水場で低い傾向がみられた。ECの差の原因は三島溶岩と箱根系の溶岩の新旧の違いに関係すると考えられる。一般的に溶岩が若いほど地下水の流動速度が大きいこと、岩石から溶け出すイオンの量が流動時間に比例することから、より古い箱根溶岩と愛鷹山の水脈においてECが高い傾向が見られたと考えられる。したがって、古い溶岩の水脈と比べてECが低い伊豆島田浄水場の水は三島溶岩系、つまり小浜池と同水脈だと考えられる。 2-2 小浜池の水位変化パターンについて(1)水位0mを超えると伊豆島田浄水場の水位変化に比べ、小浜池の水位上昇が鈍くなった。0mを超えると湧水が拡散するためだと考えられる。したがって、地下水の増減と小浜池の水位の増減を同等のものとすることはできない。(2)降水量と小浜池の水位変化の関係を明らかにするため、2019年に発生した台風19号以後に着目してグラフを作成した。11月17日から18日にかけての御殿場市の降水量と小浜池の水位変化に相関性はないことに加え、御殿場市は小浜池が在る三島市から32.9kmあることから短期間(1~2日)では影響しないとした。(3)小浜池の近くにある説明の看板に水位が150㎝を超えると満水とし、7~8年に一度満水になると書かれていたため、1958~2018年の小浜池の最高水位をグラフ化し事実を検証した。結果、満水である150㎝をこえた年は不定期であり7~8年に一度満水になるという記述は誤りであった。また、1970年までは毎年満水になっていたが1970年以降は満水にならない年が多くみられた。 (4)2011年を境に小浜池の平均的な水位に変化がみられた。同年3月11日三陸沖を震源に発生した東日本大震災を原因とした地層の変化が影響したと考えられる。 3.今後の課題2-2(1)について、湧水の拡散の事実を検証するため小浜池の水位が最下点に達する春頃に湧き出し口の調査を行う。2-2(2)で述べた考察に加え、御殿場市の降水量と小浜池の水位変化の関係性の濃度をより明らかにするには長期的なデータの比較が必要である。2-2(4)で記した考察を裏付けるために、同時期の他条件(気温や地下水の増減)を調べる必要がある。 4.参考文献 三島市オープンデータ https://www.city.mishima.shizuoka.jp/ipn017227.html気象庁 http://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html伊豆島田浄水場水位のデータ 謝辞 本研究を進めるにあたり、伊豆半島ジオパーク推進協議会事務局専任研究員、鈴木雄介様に多大なご協力を賜りましたことを深く御礼申し上げます。
著者
波多 俊太郎 杉山 慎
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Glaciar Pío XI, the largest glacier in the Southern Patagonia Icefield (SPI), has advanced over the last several decades in contrast to a shrinking trend of other glaciers in the SPI. The mechanism of the unique behavior is unclear due to lack of detailed observations. To investigate the mechanism of the recent advance of Glaciar Pío XI, we measured ice-front position and glacier surface elevation by using satellite data from 2000 to 2018. Ice-fronts of all separated termini showed advancing trend. The largest advance of 1400 m was observed at the southern main front. Glacier surface elevation increased by 35 m as a mean over the ablation area during the study period, and the rate of elevation change increased by 240% from Period 1 (2000–2007) to Period 2 (2007–2017/18). The rate of elevation change was non-uniformly distributed over time and space; i.e. rapid thickening (~20 m a−1) was observed in a limited area during Period 1, whereas only slightly positive rate (~2.4 m a−1) was observed over the entire region during Period 2. Previous studies reported ice speed deceleration near the southern main front, suggesting decrease in frontal ablation over the study period. Based on satellite image observations from 2000 to 2018, we attribute the deceleration to deposition of sediment and formation of shoal in front of the glacier. In the accumulation area, increase in snow accumulation is reported for a period from 1980 to 2015. Therefore, we propose the reduction in frontal ablation and increase in accumulation as possible mechanisms of the recent advancing and thickening trend of Glaciar Pío XI. Our data illustrate details of advancing despite a retreating trend in adjacent glaciers in Patagonia.
著者
久保田 達矢 近貞 直孝 日野 亮太 太田 雄策 大塚 英人
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

沖合の海底に設置された海底圧力計 (Ocean bottom pressure gauge; OBP) は,これまでスロースリップや巨大地震後の余効変動による地殻変動の検出や地震発生の物理の理解に大きな役割を果たしてきた (e.g., Ito et al. 2013 Tectonophys; Iinuma et al. 2016 Nature Comm; Wallace et al. 2016 Science).2011年東北沖地震を受け,東北日本沈み込み帯では日本海溝海底地震津波観測網 (Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench; S-net) が展開された (Kanazawa et al. 2016).本観測網におけるOBPは東北日本沈み込み帯における地殻変動シグナルの検出に大きな役割を果たすと期待される.本研究ではS-netのOBPを用いた地殻変動の検出に向け,数日から数週間程度の時間スケールの定常的な変動について,近傍に展開された東北大学の自己浮上式OBP (Hino et al. 2014 Mar Geophys Res) と比較を行い,その品質を評価した.本研究では低周波微動 (Tanaka et al. 2019 GRL; Nishikawa et al. 2019 Science) や超低周波地震 (Matsuzawa et al. 2015 GRL; Nishikawa et al. 2019) などのスロー地震活動が活発な岩手県三陸沖の海域に着目した (Figure 1a).S-netの記録を目視で確認し,海洋潮汐を比較的精度よく観測できている品質の良い観測点 (近貞ほか 2020 JpGU S-CG70) にのみ注目し,比較を行った.また,近傍に展開された東北大学OBP観測と観測期間が重なっている2016年の約2ヶ月間の記録を比較した.解析では両者の記録を30分値にリサンプルし,BAYTAP-G 潮汐解析プログラム(Tamura et al. 1991 GJI) を用いて潮汐変動成分を推定し,また線形ドリフト成分を推定した.解析の結果,推定された潮汐変動はよく一致した (Figure 1b –1e).潮汐変動成分ならびに線形ドリフト成分を取り除き,圧力時系列の標準偏差σを計算したところ,東北大のOBPではσ = 2.6 hPa (観測点SN2, Figure 1b) および σ = 2.2 hPa (観測点SN4, Figure 1c)であった.これらの観測点に最も近いS-netのOBPではσ = 11.4 hPa (S4N11, Figure 1d),σ = 3.5 hPa (S4N22, Figure 1e) となった.これ以外のS-netのOBPも含め,標準偏差は東北大のOBPよりも系統的に大きかった.また,S-netのOBPの記録では数日かけて10 hPa以上変化するような圧力変動が見られた (Figure 1de).このようなシグナルは,ごく近傍に設置された東北大OBPでは見られなかったことから,海洋物理学的な変動に起因するものではないと考えられる.また,いずれのOBPにおいてもParoscientific社製のセンサを使っていることから,センサの違いに由来するものでもないと思われる.両者の異なる部分として,S-netでは水圧センサが油で満たされた金属製の耐圧筐体の内部に封入されており,直接海水に触れているわけではない,という点が挙げられる.圧力観測の方式と,原因不明の圧力変動の因果関係は今後さらに詳細に検討する必要がある.ここまでの検討から,比較的品質の良いOBP (S4N22) では,東北大OBPよりわずかに劣る程度の地殻変動検出能力を持つと考えられる.一方,品質のさほど高くないOBP (S4N11) では数日をかけて大きく圧力が変動することがあるため,数日程度のタイムスケールの地殻変動現象の検出は難しいことが示唆される.非潮汐性の海洋変動成分 (Inazu et al. 2012 Mar Geophys Res; 大塚ほか 2020 JpGU S-CG66) を取り除くことにより地殻変動検知能力が向上することが期待されるが,そのためには,まずはS-net水圧計の比較的短期間での圧力変動の原因をさらに詳細に検討し,それらの成分を取り除く必要がある.
著者
篠原 雅武
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

エコロジカルな危機において、哲学では、人間生活の条件としての世界にかかわる新しい思考が始まっている。本報告では、「人間から離れた世界」、「人間世界と地球的世界の差異」という概念を起点にして、この思考の概要を述べてみたい。ここで起こりつつある近代的な世界像の見直しから、歴史学と地球惑星科学の協働を考えるうえでのいかなる示唆を与えるかを述べることが、最終的な目標となる。
著者
佐藤 初洋 伴 雅雄
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

[Introduction]Understanding of magma plumbing system is fundamentally the most important issue for the volcanic disasters mitigation. The youngest activity of Zao volcano (NE Japan) repeated phreato-magmatic eruptions in "Okama crater" (ca. AD1200 to present) and precursory phenomena, such as volcanic tremors and earthquakes has been observed since 2013. Recent advance of volcanic petrology allows us to reveal the magma plumbing system more in detail. The detailed analysis of textures and chemical zoning of phenocrystic minerals can provide useful information of the magma pluming system. Moreover, using the elemental diffusion chronometry applied to compositionally zoned crystals, we can know the time scales of complex magma dynamics. Here, we present and discuss pre-eruptive processes of Okama crater eruption products (Okp) by using zoning profiles of orthopyroxene phenocrysts.[Mineral compositions and end-member magmas]Juvenile bomb samples are medium-K and calc-alkaline series basaltic andesite to andesite (56-57% SiO2), including plagioclase, orthopyroxene, clinopyroxene and magnetite as phenocryst. Plagioclase phenocrysts show wide range of compositions between An60-92 and broad peaks were identified (An65, 75, 88). Orthopyroxene compositions range between 56-76 Mg# with two peaks (66, 74 Mg#). Clinopyroxene compositions range between 63-77 Mg# with a single peak (68 Mg#). These various crystals are made by magma mixing between low-T end-member magma (L-magma) with low An and Mg#, and high-T end-member magma (H-magma) with high An and Mg#. Physicochemical conditions of end-member magmas were constrained by using the rhyolite-MELTS algorithm. The optimum conditions for each end-member magmas are as follows, H-magma: >76 Mg#, 52-53% SiO2, >1040°C, 200-250 MPa, 5.0% H2O, and L-magma: 64-66 Mg#, 60% SiO2, 950-970°C, 200 MPa, 3.0% H2O.[Zoning profiles of orthopyroxene phenocrysts]The opx phenocrysts can be divided low-(opx-A, 64-66 Mg#), high- (opx-B, >72 Mg#), and extremely low- (opx-A’, <63 Mg#) Mg types based on core composition. Based on compositional zoning of rim (inside from outermost rim), opx-A are subdivided into -A1 to -A4. A1 show no zoning, while A2 to A4 have Mg rich rims (>70 Mg#). In the Mg rich rim, Al is high, but Cr is low in A2, Al and Cr are high in A-3, and Al and Cr are low in A4. Type B is subdivided into B1, which has normal zoned rim, and B2, which shows skeletal texture. Core compositions of opx-A are equilibrium in L-magma, and reverse zoned rim compositions of opx-A3 and core compositions of opx-B1 and -B2 are in equilibrium with H-magma. Outermost rims (66-67 Mg#, almost high-Al content) are observed in many of the phenocrysts, which were formed in the mixed magma. The composition of the mixed magma is estimated to be similar to that of the groundmass.[Mixing processes and the time scales]Based on above zoning profiles of Mg#, Al, and Cr in orthopyroxene phenocrysts, low-T and modified high-T magmas mixing is recognized other than low- and high-T magmas mixing. The modified high-T magma (Mm magma) was formed by incorporation of the mixed magma into the high-T magma when the latter injected into the former. We estimated the residence time of both cases of mixing by Fe-Mg diffusion modeling applied to the Mg# zoning of orthopyroxene phenocrysts. The estimated timescales are mostly a few decades for low- and high-T magma mixing and a few days to decades for low-T and the Mm magma mixing.The pre-eruptive processes of the Okp are proceeded as follows. The injection of the high-T magma and mixed with the low-T magma (a few decades before the eruption), resulted in the formation of the mixed magma. The injection of the high-T magma into the mixed magma formed the Mm magma tentatively, that mixed with the L-magma (a few decades to a few days before the eruption).
著者
平田 直 汐見 勝彦 加納 靖之
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

近年、地球科学の分野においても、様々なデータのオープン化の取り組みが行われている。1995年に発生した阪神・淡路大震災が、地震学分野におけるデータのオープン化の起点となった。この震災の発生を契機として政府に設置された地震調査研究推進本部は、1997年8月、地震や地殻変動の観測を含む基盤的調査観測の基本的な考えをまとめた計画(地震に関する基盤的調査観測計画)を公表した。この計画に基づき、防災科学技術研究所(防災科研)は地震観測網(Hi-net, F-net, K-NET, KiK-net)を、国土地理院はGNSS連続観測システム(GEONET)をそれぞれ日本全国に整備した。また、この計画では、基盤的調査観測の結果を公開することを原則とし、円滑な流通を図るよう努めることが定められている。現在、上記ならびに大学等の研究機関による観測データはオンライン共有されており、様々な防災情報の発信や研究開発に活用されている。また、基盤的調査観測計画に基づく観測データはインターネット上でも公開されており、各機関が定めたポリシーに従うことを前提に、ウェブサイトから自由にダウンロードして利用することが可能である。地震観測網については、その後、南海トラフ域の地震・津波観測を目的としたDONETが海洋研究開発機構により構築されたほか、2011年東日本大震災の発生を受け、日本海溝沿いに海底地震津波観測網(S-net)が防災科研により整備された。2016年4月にDONETが防災科研に移管されたことを受け、現在は、陸域の地震観測網、基盤的火山観測網を含めた陸海統合地震津波火山観測網MOWLASとして防災科研による運用およびデータ公開が行われている。大学においても、微小地震観測のデータを公開する「全国地震データ等利用系システム」が整備されたのをはじめ、気象庁の観測情報や統計情報、国土地理院の測地データ、産業技術総合研究所の地質・地殻変動データなど、大学・研究機関での地震学に関わるデータ公開が進んできた。学術界でのオープンデータの動きだけでなく、国や地方自治体によるオープンデータの流れも背景にある。一方、大規模な観測システムを将来にわたって維持し、データ公開を継続するためには、データの必要性や有用性を客観的に示す必要がある。また、学術雑誌等において、解析に使用したデータを第三者の検証用に容易に参照可能とすることを求める傾向が強くなっている。このような要望に対応することを目的として、防災科研MOWLASの観測波形データに対し、DOI(Digital Object Identifiers;デジタルオブジェクト識別子)の付与がなされた。海洋研究開発機構、国立極地研究所でも既にDOIを付与した多様かつ大量のデータの公開がなされている。機関や研究グループとしてデータに識別子をつける方向性のほか、データジャーナルやデータリポジトリを通じたデータの公開の例も増えつつある。これらの取り組みは、データの引用を容易にするとともに、広く公開されているデータの利用価値を客観的に把握し、データ生成者のコミュニティへの貢献度を評価する指標となることが期待されている。また、研究成果(論文等)の公開(オープンアクセス)、データの公開(オープンデータ)だけでなく、研究の過程もオープンにする取り組み(オープンコラボレーション)も実施されている。例えば、観測記録や地震史料を市民参加により研究に利用可能なデータに変換そたり、地震観測に市民が参加するなどの試みである。これらは研究データを充実させるとともに、研究成果を普及し、「等身大の地震学」を伝えるためにも有効であると考えられる。さらに、データをオープンにした場合、研究者コミュニティの外でも有効活用されるために必要となるツールの整備や、データの意味を正確に伝えるための工夫も必要となってくる。データのオープン化は今後ますます進むと考えられ、多様なデータのオープン化が地震研究を活性化することは疑いない。一方で、効率的にデータ公開を進めるためのデータフォーマットや公開手段の標準化、公開のためのハードウェアの構築や維持にかかるコストの確保、観測などのデータの生成から公開までの担い手の育成、など課題も多い。日本地震学会2019年度秋季大会では「オープンデータと地震学」と題する特別セッションを開催し、上記のような現状把握や、学術界を取りまくオープンデータの状況、個別の取り組みについて広く情報交換を行なった。学会内での議論はもちろんのこと、関連の学協会や学術コミュニティとの連携をはかりつつ、地球惑星科学分野のオープンデータの進展を追求したい。
著者
駒形 亮太 平野 史朗 川方 裕則 直井 誠
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地震波形には、特定地域の震源特性や地下構造などの情報が豊富に含まれている。地震カタログに載らない微小地震による地震波を捉えることができれば、もちろん前震などの地震活動の特徴を捉えることにも有効であるが、地下構造をより詳細に知ることにも有効である。地震カタログに載らない微小地震による地震波を捉える方法はいくつか存在する。多く用いられている方法は、既知のテンプレート波形を用いた、相関係数によるテンプレートマッチングである(例えば、Doi and Kawakata, 2012; Kato et al., 2012)。しかし、この方法では既知の波形の類似波形を見つけることに他ならず、既知の波形を用いない解析を行えば、さらに多くの微小地震による地震波が捉えられる可能性がある。そこで、本研究ではテンプレート波形を用いずに高速な類似波形検出を行えるハッシュ法に注目した。Yoon, et al. (2015)はLocality Sensitive Hashing(LSH)を用いたハッシュ法の一種である、Fingerprint and Similarity Thresholding (FAST)という類似地震波形検出手法を提案した。FASTはBaluja&Covell.(2008)により音声検索において有効性が認められているWaveprintという手法を元に開発された。FASTは主に2つの構成要素から成り、1つ目はLSH特性を持つハッシュ関数による波形の特徴抽出、2つ目は波形ペアのハッシュ値の類似性であるJaccard係数を近似的に評価する類似検索である。そして、FASTの LSHとして開発されたFingerprintingを用いることで、地震カタログに載らない小さな類似波形のペアも見つけられることが確認されている。しかし、FASTはspectrogram 生成やWavelet変換という複雑な処理を行う必要がある。本研究では、より少ない手順で計算可能な新たなハッシュ関数を2つ提案し、それらとFASTの3手法による類似波形ペアの検出を行った。そして、検出された類似波形ペアの類似度と相関係数の関係、計算実行に要する時間の2点を中心にそれらの性能比較を行った。 連続波形記録のspectrogramを見ると、一般に地震波形は一時的な高エネルギーイベントとして現れる。FASTはこの特性を利用しており、spectrogram生成やHaarWavelet変換を必要とする。一方、時系列で連続波形記録を見ると、一般に地震波形は周囲の常時微動に比べ、振幅が大きくなることが期待される。そこで、本研究ではこの特性に着目し、FASTとは異なり、連続波形記録の時系列情報そのままで計算できるようなハッシュ関数を設計した。1つ目は、Fei et al. (2015)によって画像検出のために提案されたaHashを地震波検知のために改造し、常時微動と地震波の識別に強くした2bit-aHash、2つ目は連続波形記録から切り出した波形ウィンドウ振幅の絶対値の順位でハッシュ値を定める全く新しい手法のkHashである。2bit-aHashは時系列の振幅の後続N個の平均値と標準偏差を用いる。平均値±標準偏差から逸脱している正の振幅には10、負の振幅には01を対応させ、それ以外をノイズとして00に対応させる。kHashは、波形ウィンドウの時系列の振幅の絶対値上位k%の正の振幅には10、負の振幅には01を対応させ、それ以外をノイズとして00に対応させる。解析データとして、長野県中部で発生した Mj5.4の地震発生を含む2011年6月29日19:00~2011年6月30日18:59(JST)のHi-net松本和田観測点で記録された連続速度波形記録を用いた。結果として、2bit-aHash、kHashは地震カタログに載っていない、地震波のような類似波形ペアを検出することに成功した。そして2bit-aHash、kHashは検出波形波形ペア間の相関係数が高く、類似度の高さと相関係数の高さに相関がみられた。一方、FASTは複雑な処理を行う割に、検出される類似波形ペア間の相関係数が他の2手法に比べてばらつきが大きいことが分かった。加えて全体の実行時間は2bit-aHash、kHash共にFASTよりも約4~5倍高速であった。理由の一つとして、特徴抽出の際2bit-aHash、kHashがFASTよりも簡単に計算できることが挙げられるが、それだけでなく、類似検索の実行時間も数十倍高速になっていることが判明した。Yoon, et al. (2015)によると、解析に用いるデータのサンプル数nが非常に長くなれば類似検索の実行時間がO(n2)に近づいていくが、本研究の結果は2bit-aHashやkHashが類似検索時の実行時間の大きな改善にも貢献することを意味する。類似検索アルゴリズムではノイズ同士のペア、ノイズとイベント波形のペアなど、極端にJaccard係数が低い波形ペアはアルゴリズム内での類似度が定義できず、データベースから削除される。プロセスを精査したところFASTではこのような無駄なペアが削除されずに多数存在してしまうことが明らかになり、これを類似波形の候補として全て保持・検索しなければならないことが速度低下を招いていたものと考えられる。逆に2bit-aHash、kHashで出力された波形ペアのハッシュ値のJaccard係数はFASTのものよりも全体的に低く、無駄なペアがかなり削除されたため、速度が向上した。以上より、今回新たに提案した2bit-aHash、kHashの2手法はFASTよりも実行時間が特徴抽出だけでなく類似検索においても高速になり、また検出波形ペア間の相関係数が高くなりそのばらつきが少なくなることが示された。
著者
飯田 真琴 青木 諒 望月 龍輝 奥村 天翔
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-07-04

Ⅰ 研究概要<目的> 伊豆半島には柱状節理が多く存在する。貴重な地質遺産である柱状節理を統計的に解析することで柱状節理の成因、形成状況を解析するために本研究を行った。<既存成果>昨年は、比較的厚い溶岩やマグマ中にできた柱状節理を対象に研究を行い、柱状節理の角数が、冷却速度の均一さと相関があると結論付けた。Ⅱ 実験、結果及び考察1 浮島柱状節理〈方法〉 伊豆半島にある浮島海岸の柱状節理に対して、ドローンを用いて空中写真を撮影、ソフトを用いて3Dデータ、オルソ画像を作成した。そこからQGISを用いてオルソ画像の判読を行い、232個の柱状節理のポリゴンデータを手作業で作成し、角数と面積データを収集した。縦軸を全体に対する個数の割合、横軸を角数としてグラフ化し、昨年度の柱状節理のデータと比較した。〈結果〉グラフを分析した結果から、昨年度調査した柱状節理は6角形が一番多いが浮島海岸の柱状節理は5角形が一番多いことが分かった。〈考察〉浮島海岸の柱状節理は薄い岩脈で形成されており冷却環境が悪いことが角数分布のばらつきに由来するのではないかと考えられた。2 海外の柱状節理データの収集、解析〈概要〉 海外の文献から世界の様々な柱状節理の角数分布に関するデータを収集し、グラフにまとめ、国内の柱状節理との相関を調べた。〈結果〉文献からBurntisland dykeが薄い岩脈にできた柱状節理で、その他は厚い岩体にできた柱状節理であることが判明した。また、国内・海外の柱状節理の角数分布をグラフにまとめ分析した結果、比較的厚みのある岩体にできた柱状節理は6角形が一番多く、岩脈の薄いBurntisland dykeや浮島海岸は角数にばらつきがあることが分かった。〈考察〉Burntisland dykeと浮島海岸の角数のばらつきは、薄い岩脈でできており冷却環境が悪かったことに由来するのではないかと考えた。3 片栗粉実験〈方法〉 粉体と流体の混合物が乾燥し収縮するとき、溶岩が冷却され体積が収縮するときと同様に、核が形成され柱状節理となる。そこで、以下の手順で実験を行った。水と片栗粉の混合物をプラスチック製容器に入れ乾燥させ人工的な柱状節理を作成。今回は片栗粉水溶液を乾燥させる段階で白熱電球を使用し、温度勾配をつけるために白熱電球を置く位置を三つのケースに分けて実験した。電球を容器の端に置いた場合電球を容器の中央に置いた場合インキュベータで均一に加熱した場合サーモグラフィーカメラを用いて温度勾配ができていることを確認形成される片栗粉柱状節理を手作業でボロノイ分割によってデータ化面積、角数、熱源からの距離などのデータを収集しグラフにまとめ分析〈結果〉データと作成したグラフを分析した結果、どの条件下でも全体の割合として6角形の度数が大きいと分かった。一方、温度勾配の大きい場所に着目すると、不均一に加熱した試料は熱源に近いところほど面積が大きくなり、ある一定のところまで離れると熱の影響が少なくなり、均一に加熱した柱状節理と同じようになることが分かった。角数においては、均一に加熱した場合は6角形が突出した傾向があるが、温度勾配を付けた場合では、均一に加熱した場合と比べて5角形と6角形の分布に差がなく、角数のばらつきが大きくなったことが分かった。〈考察〉加熱が均一でなかったことが柱状節理の角数の分布に関係しているのではないかと考えられる。Ⅲ 全体を通しての考察昨年度調査した柱状節理、浮島海岸、海外の柱状節理の統計から、岩体が厚い柱状節理ほど、角数分布にばらつきがなかったため、冷却速度が均一であることが、6角形が多く分布する条件であると考えられた。また、片栗粉実験で、加熱温度に不均一さを持たせた柱状節理には角数にばらつきが生まれたので、上記の考察を再現できることが分かった。さらに、加熱温度に不均一さを持たせることで、面積にばらつきができることも分かった。Ⅳ 結論 柱状節理は厚い岩体ほど6角形が多く分布し、薄い岩脈では6角形の分布が少なくなり、全体的に角数のばらつきが大きくなる。また、岩体や岩脈の厚さによって冷却温度が不均一になり、面積にもばらつきが生じる。Ⅴ 参考文献・1、水口 毅、地形現象のモデリング海底から地球外天体まで 第9章 柱状節理 —— 火成岩の亀裂とそのモデル実験、名古屋大学出版会,2017 ・2、Paul Budkewitsch and Pierre-Yves Robin、Modelling the evolution of columnar joints、Journal of Volcanology and Geothermal ResearchVolume 59, Issue 3, January 1994, Pages 219-239・3、鈴木淑夫,岩石学辞書,朝倉書店,2005
著者
飯田 穀
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-07-04

本研究では,急速に発達する温帯低気圧である爆弾低気圧の中にも,その中でも激しい発達を見せる爆弾低気圧と爆弾低気圧であることが確認できる最低限の発達を見せる爆弾低気圧と双方が存在することに注目し,爆弾低気圧でありながらその中でも激しい発達を示す爆弾低気圧はどのような条件下においてそのような激しい発達を示しうるのかということを調べた.第一に,JAMSTEC(海洋研究機構)の示していた,黒潮の存在が爆弾低気圧の発達を助けるという研究結果を参考に,暖流である黒潮がもたらす暖気と爆弾低気圧の最盛期である冬季の北方からの寒気によって生み出される寒気と暖気の温度差が爆弾低気圧をより発達させているということ,またその際にエルニーニョ現象が発生していると,日本近海の冬季の海水温が上昇し黒潮がもたらす暖気との温度差が縮小することによって黒潮付近に特に急速な発達を見せた爆弾低気圧が集合するという傾向が弱まるということが分かった. 第二に,爆弾低気圧を発達させる要因となる,海面から大気中へ放出されるエネルギー量の指標となる海面フラックスというデータに注目し,爆弾低気圧は自身の発達による大きな風速によって周囲の海面の海面フラックスの値を上げ(すなわちエネルギーをより多く大気中に放出させ),そのエネルギーを受け取って更なる発達を示すということが分かった.
著者
武村 俊介 矢部 優 江本 賢太郎
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

DONETやS-netといった海底地震計ネットワークの登場により、浅部スロー地震を含む海域の規模の小さな地震現象も多数捉えられ、基礎的な解析が進んでいる(例えば、Nakano et al., 2015, 2018; Nishikawa et al., 2019; Tanaka et al., 2019; Yabe et al., 2019)。しかし、それらの研究の多くは1次元構造による解析が主であり、海洋堆積物、海水や短波長構造の影響は考慮されておらず、不正確な震源パラメータが推定されている可能性を排除しきれない。本研究では、現実的な3次元地下構造モデルを用いて地震動シミュレーションを行い、海底地震計記録に含まれる海洋堆積物、海水や短波長構造の影響を評価し、震源パラメータ推定への影響を明らかにすることを目的とする。紀伊半島南東沖に展開されたDONET観測点を含む120x82.5x45 km3の領域を0.015 km格子で離散化し、OpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いて地震動シミュレーションを実施した。3次元地下構造モデルは、地震基盤以深についてKoketsu et al. (2012)を採用した。付加体内のS波速度構造モデルは、Tonegawa et al. (2017)による1次元S波構造モデルを5層モデルで近似し、各層の深さをGMT surfaceにより内挿および外挿し、3次元付加体構造モデルを構築した。最小S波速度を0.5 km/sとし、5Hz以下の地震動伝播を評価した。ここでは、浅部超低周波地震のCMT解(Takemura et al., 2019)を用い、0.2秒の三角関数を震源時間関数とすることで、浅部低周波微動の震源とした。通常の地震については、それらと近い位置で推定されたCMT解を参照し、同じ震源時間関数を仮定した。計算結果に1-5 Hzのバンドパスフィルターをかけ、RMSエンベロープを合成し、その様子を調べた。0.2秒の震源パルスであったにも関わらず、地震動シミュレーションにより得られたDONET観測点のエンベロープのS波継続時間は、震央距離10 kmを超えると10秒以上と長い。低速度な付加体にS波がトラップされたことで、継続時間が長大化したと考えられる。さらに、S波の継続時間は距離の増大に伴い増加する傾向にあり、例えばYabe et al. (2019)のように、これらのエンベロープの半値幅をそのまま震源の破壊継続時間と解釈すると過大評価となる場合がある。特に浅部低周波微動の場合、3次元不均質構造を考慮した解析、あるいは観測点を吟味して解析することが重要である。謝辞 F-netとDONETの観測記録(https://doi.org/10.17598/NIED.0005, https://doi.org/10.17598/NIED.0008)を利用しました。海洋研究開発機構の地球シミュレータを用いて地震動シミュレーションを行いました。本研究は、JSPS科研費19H04626の助成を受けて実施されました。
著者
原田 智也 纐纈 一起
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

『理科年表』の「日本付近のおもな被害地震年代表」(以下,「年代表」)における1884年までの被害地震(以下,歴史地震)は,基本的に『日本被害地震総覧』(宇佐美,1987,1995,2003;宇佐美・他,2013)(以下,『総覧』)によっているが,『総覧』が版を重ねてきたことや最新の知見の蓄積にともない見直しが必要であった.我々は『理科年表』(第91冊,2018年版)の「年代表」の作成に際して,おもに,歴史地震の“被害摘要”における誤植の修正と改訂を行った.その際,『総覧』で存在が疑問視されている歴史地震については,削除せずに疑わしいという情報を追記した. 「年代表」は『総覧』の歴史地震のすべての歴史地震を掲載していない.これは編集担当の研究者が2代に渡って地震の選択は手を付けなかったためであるので,現在,我々は『理科年表』(第94冊,2021年版)の「年代表」に,これまで掲載されてこなかった『総覧』の歴史地震を追加する作業を進めている.『総覧』の歴史地震には,通し番号がある歴史地震(以下,「番号地震」)とそれがない歴史地震(以下,「無番号地震」)とがある.無番号地震は,『総覧』の著者がその存在を極めて疑わしいとした歴史地震であるので基本的に追加しない.ただし,無番号地震である明応4年8月15日の関東地震は重要性や最近の研究等を鑑みて追加する.「年代表」に掲載されていない番号地震である87地震が追加の対象となる.しかしながら,番号地震であっても,応永30年10月11日の羽後の地震や天和4年11月16日の日向の地震のように,『総覧』の改訂により新たに存在が疑問とされた地震が12地震存在する.これらの地震については追加を保留する.さらに,史料の信頼性などの問題により,我々がその存在や被害の有無についての検討が必要だと考える,永正8年11月2日の茂原の地震,安政2年6月24日の杵築の地震のような地震も31地震存在する.これらの地震については,検討を順次進めていく予定であるが,検討が終わるまでは追加を保留する方針である.したがって,今回の改訂では,基本的に上記以外の44地震を追加する予定である.さらに,『総覧』にない万寿4年3月2日の京都の地震,永享5年1年24日の伊勢の地震,享徳3年11月24日の陸奥の地震や,『総覧』の宝永地震の解説文内にある宝永4年10月4日の駿河・甲斐の地震の計4地震も追加する予定である.また,『総覧』に反映されていない最近の研究による知見(例えば,天保2年10月11日の肥前の地震(加納,2017)や明応7年6月11日の日向灘地震(原田・他,2017)の解釈)による「年代表」の改訂も行う予定である. 次に,今回あるいは今後見直すべき問題として,「年代表」の歴史地震の発生年月日の西暦・和暦表記について言及する.西暦について「年代表」は,『総覧』が踏襲されているために,ユリウス暦が用いられた1582年以前の西暦日付であっても明治以来の慣行であるグレゴリオ暦で表記されており,世界との整合性が失われている.日本でも,歴史地震研究会の会誌『歴史地震』では,1582年以前はユリウス暦を使用することを奨励しており,最近は1582年以前についてグレゴリオ暦を用いる歴史地震の研究者はほとんどいない.したがって,「年代表」でも今後,英訳を予定していることなどから,西暦表記の見直しが必要であると考えられるが,研究者でない一般の方々も手に取る『理科年表』の性質上,併記するなど慎重に行わなければない.和暦について「年代表」は,明治より前の改元では改元前に遡ってその年全体を改元後の年号で,南北朝時代の年号は南朝年号で表記されている.これは戦前の歴史学における慣行であり,歴史地震の研究はこの時期の大森房吉・今村明恒・武者金吉らの精力的な仕事によって創始されたので,この慣行が今でも続いている.しかしながら,現在の歴史学では通常,改元の年全体を改元後の年号で表記することはせず,南北朝時代は北朝年号で表記するという.したがって,「年代表」の和暦も現在の歴史学に沿った表記法がよいと考えられる.しかし,“安政東海地震”,“正平南海地震”といった名称が広く世間に認知されている地震の発生日の和暦を,嘉永7年10月5日,康安1年6月24日とすると西暦以上の誤解や混乱を招く恐れがあり難しいので,これも慎重に進めなければならない.