著者
星 博幸
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Geological and paleomagnetic data suggest that the Japan Sea backarc basin has a two-phase opening history. The first phase may have been relatively slow opening that began in the Eocene or early Oligocene, and the second phase was relatively fast opening occurring in the early Miocene. Paleomagnetic data reported from the Japan arc over the past 40 years show that the second phase was accompanied by differential arc rotation, namely, clockwise rotation of the southwestern lithospheric sliver of the arc (SW Japan) and counterclockwise rotation of the northeastern sliver (NE Japan). However, it is uncertain whether the first phase was also accompanied by differential arc rotation. Here, new paleomagnetic data are presented to address this issue. In this study, Paleocene (~60 Ma) andesite dikes were sampled at 17 sites in the Toki-Mizunami area in SW Japan. These dikes vertically or subvertically intrude a late Cretaceous (~70 Ma) granite batholith and comprise an ENE-striking dike swarm. Stepwise demagnetization experiments were performed on all samples for obtaining characteristic remanent magnetization (ChRM) components. As a result, site-mean directions of ChRM components were determined for 14 sites. Thermal demagnetization of natural remanent magnetization (NRM) and isothermal remanent magnetization (IRM) shows that magnetite is the main magnetic carrier. Comparison of the site-mean directions with the anisotropy of magnetic susceptibility (AMS) suggests that the influence of the preferred orientation of magnetic particles upon the site-mean directions is absent or negligible. Although the site-mean directions display a small dispersion, the presence of dual polarities suggests that the dike emplacement extended over a set of normal and reverse polarity chrons. The overall mean direction of the 14 site-means is therefore interpreted to be a time-averaged paleomagnetic direction at ~60 Ma. It is deflected ~57° clockwise of an expected paleomagnetic direction calculated from a late Cretaceous paleomagnetic pole for the North China Block in the Asian continent, and the amount of clockwise deflection is larger than that (~44°) reported for early Miocene sediments in the Toki-Mizunami area. Therefore, small (~10–15°) clockwise rotation occurred in the study area between the Paleocene and the early Miocene. It is likely that this small rotation is associated with the early opening of the Japan Sea.
著者
庄司 義則
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

最終氷期の北米大陸北部に、厚さ3,000m以上にも及ぶ巨大なローレンタイド氷床が形成されていた。そこにアガシー湖という巨大な氷床湖が形成され、その決壊が地球環境へ重大な影響を与えたという説が存在する。しかし、決壊の実態ははっきりしていなかった。そこで、NOAAから公開されている地形データを使い、自作ソフトを使って分析した。その結果、アガシー湖の水量は、これまでの説より遥かに少ない事が分かった。さらに、周辺の地形から見てアガシー湖は、大規模決壊するような湖ではない事も判明した。そこで、北米大陸の傾斜地図を作成したところ、アガシー湖付近に大規模決壊の侵食の痕とみられる地形が発見された。これにより、アガシー湖決壊は、別のさらに巨大な氷床湖決壊により引き起こされた事が判明した。本研究は、ローレンタイド氷床に存在した巨大氷床湖の決壊メカニズムと規模を考察したものである
著者
山田 俊弘
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

本発表では昨年逝去した地球物理学者で環境学者の島津康男の地学思想を再考する――日本でも「人新世」の問題についての議論が広がりをみせてきている。これを単なる層序学上の問題として、あるいは人文学者たちの「新しい意匠」としてだけみるのではなく、同種の問題に取り組んだ日本人科学者の先駆性に学ぶことから対処法を考えてみたい。昨年92歳で死去された島津康男氏(1926-2019)の学問的人生の歩みは、ある意味で‘論理的’にみえる。父親の転勤のため転校を繰り返した学齢期を一時松本で過ごしており、地学的な関心を抱いたとみられる。五高を経て東大地球物理学科に進むと、坪井忠二に師事し、先輩格の竹内均とともに重力測定や物理計算にあけくれた。名古屋大学理学部地球科学科に地球物理学担当の助教授として赴任、「国際地球内部開発計画 UMP」にからんで「地球内部の物理学」を推進する一方(島津 1962)、統一された地球科学をめざして「シームレスな地球科学」というスローガンを掲げた。一つの到達点を教科書『地球の進化』(島津 1967)に見ることができる。そこでは、第I部「現在の地球」(地球物性論)、第II部「地質時代の地球」(地球熱力学)、第III部「先地質時代の地球」(地球進化学)が整然と展開され、地球理論を形づくった。第II部では地殻-マントル系の発展過程がグローバルテクトニクスと関連づけて議論されている。この「10年間における精一杯の勉強の成果」と大型化した計算機を使いこなすことで、地球科学の最前線を切り開く道があったはずだが、1970年代の島津は「シームレス」を「社会地球科学」のほうへ拡張し、本格的に環境問題に取り組み始める。具体的には、国際的な環境アセスメントのマニュアル作りと中京圏での「環境の現場監督」の実践だった。それは一方では巨大化する科学のあり方を見すえた環境政策へのコミットを意味し、他方では広い意味での科学教育を展望するものだった(山田 2015)。この時期の島津の進路を理解するには「社会地球科学」だけでなく、「自然のシステム工学」という発想を考慮しておく必要がある(竹内・島津 1969)。そこでは、自然現象のシミュレーションや地球化学的循環、惑星科学、生物圏といった概念から現実の問題に対処する「システム制御としての」災害・環境科学が見通されていた。 この路線の延長上で1980年代の「核の冬」や「核融合炉」シミュレーションへの関与を解釈するのは容易だ。実際、核融合炉研究では、アカデミズム内の研究者として、研究開発を支援するアセスメント・システムの構築を議論している(島津 1985)。だが、島津のその後は、ボヌイユ&フレソズ(2018)が人新世問題で言及する「ジオテクノクラート」の役割を担う方には行かなかった。むしろ林(2018)が指摘するように、公害問題に端を発する社会的課題としての環境問題に市民が向き合うためのアセスメントを提唱し「アセス助っ人」と自称して活躍した。 おそらくその転換の倫理的な根拠をなすのが、「核の冬」ENUWARシミュレーション時のヒロシマ体験ではないかと考えられる。日本での会議のコーディネーターを務めた島津は、「コンピューター・ゲーム」を断念し、「“核戦争はわれわれ人間自身がおこす”のであり、“もしおこったら”の第三者的立場は正しくない」「日本SCOPE[環境科学委員会]はそれに代わり、“核戦争を決しておこしてはならない”の原則に立つことを求め、この線にそってENUWARの結果を利用すべき」と主張した(島津 1985b)。もちろん一方で、1970年代の実践から「住民参加ゲーム」などを通した環境アセスと意思決定の問題を考え抜いてきたという背景があってのことだが(島津 1982)、その後「人新世」をとなえることになるクルッツェンとともに議論していた島津の思想と行動は、この問題における日本の貢献を考えるときあらためてふり返っておくべきと思われる。 【文献】ボヌイユ, C. & フレソズ, J.-B. 2018: 人新世とは何か, 野坂しおり訳, 青土社.林能成 2018: 地質学史懇話会会報, 50, 31-34.島津康男 1962: 国際地球内部開発計画資料, 1, 7-15.島津康男 1967: 地球の進化, 岩波書店.島津康男 1982: 環境情報科学, 11-1, 26-34.島津康男 1985a: 日本物理学会誌, 40-12, 972-975.島津康男 1985b: 科学, 55-12, 766-771.竹内均・島津康男 1969: 現代地球科学, 筑摩書房.山田俊弘 2015: 東京大学大学院教育学研究科基礎教育学研究室研究室紀要, 41, 183-194.
著者
山崎 新太郎 釜井 俊孝 渡邊 達也
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

そこにあるべき海上の島または陸が消滅してしまったという伝説は世界各国にあり,科学的根拠の有無に関わらず人々の関心を引きつけてきた.しかし,地図や写真等で正確な地形の記述がなされるようになった近代以降で,そのような「島の消滅」が記録されている例はほとんど無い. 本講演で扱う長崎県の横島の事例は島の大部分が徐々に消滅していったという状況が,過去の20世紀初頭に作成された地形図や撮影された写真,その後,20世紀中盤から得られている空中写真により明確である希有な事例である.地元香焼町の地誌と地形図によると横島は約20,000平方メートルの面積に約700名が居住していた.これは炭鉱開発のためであり,1894-1902年の短期間のみ開発された後,放棄され,無人島となった.空中写真によると1947年から少なくとも1982年にかけて徐々に島の陸地場が消失していったことが空読み取れる.現在では,島の西部の大部分が消失し,東西に分かれた2つの岩礁となっている.島の消失のメカニズムは炭鉱開発に原因を求めるもの以外にも大規模な岩盤地すべりの発生に求めるものがあった.それは,周囲に大規模岩盤地すべりを起こしやすい地質が分布することや,地元ダイバーによって海底に巨大な岩塊が散在している様子が目撃されていたからである. 著者らは横島の消滅のメカニズムを解析するするために,陸上部の地質調査,ダイビング写真資料の収集を行った.それに加えて,水中透明度の高い条件を待ってUAVによって上空からの撮影を行い,既存のオルソ衛星写真と位置合わせを行って水深 5 mより浅い領域の構造物や地形,節理系などの地質構造を平面図上にマッピングした.さらに,それよりも深い水域に関しては,レジャー用ソナーに搭載されたサイドスキャン機能とシングルビーム測深によって海底の構造物のイメージングを行い,平面図化すると共に地形図を作成した. これらの調査は,水没した旧地表面と多数の水中の地溝状の地形の分布を明らかにした.旧地表面は水中でNからNWに8-12°傾斜しており,その平面形状と現在の島の形状を合わせると1947年撮影の空中写真に認められた島の形状に近かった.水中に没した旧地表面の南縁にはプリズム状に分離した長さ10 mに達する岩塊が幅50 m長さ300 mに亘って散在していた.そして,島の周辺の海底には概ねSWW-NEE走行の地溝が複数認められた.地溝の走行は相対的に不動である島東部の節理系の卓越方向であるNNW-SSEまたはNNE-SSWとは無関係であった. 島の陸上部には,シームレス地質図v2を参考と筆者の調査によると古第三系に属する砂岩・泥岩・凝灰岩が認められ,それらの層理面は不動部の島東部では15°傾斜していた.一方で沈下したと考えられる領域の陸上部の層理面の傾斜はそれより急で25°であった. 以上の調査結果から旧地表面は,約10°北に傾斜して沈下したと考えられる.石炭層およびそれを掘削した坑道の広がりや深度に関する情報は不十分であるが,石炭層および坑道は堆積岩の層理面に平行であると考えられるので,地下の空洞が北に傾斜して形成されていたと考えるのは調和的である.北への鉛直方向への回転・傾動により島が南北に引き延ばされ概ね東西走行の開口が形成された.また,島の南側は南北方向への伸長に加えて急傾斜になり,重力や,回転・傾動に伴う局所的な応力集中によって破壊が進み,節理面を分離面とする崩壊が発生した.これにより旧地形面南縁に巨大プリズム岩塊が散在する海底を島の南縁部に形成した.
著者
林 健太郎 柴田 英昭 江口 定夫 種田 あずさ 仁科 一哉 伊藤 昭彦 片桐 究 新藤 純子 谷 保静 Winiwarter Wilfried
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

20世紀はじめに大気中の窒素分子(N2)からアンモニア(NH3)を合成するハーバー・ボッシュ法を確立した人類は,反応性窒素(N2を除く窒素化合物)を望むだけ作り出せるようになった.化石燃料などの燃焼に伴い発生する窒素酸化物(NOx)を合わせると,人類が新たに作り出す反応性窒素の量は今や自然起源の生成量と同等である.しかし,人類の窒素利用効率(投入した窒素のうち最終産物に届く割合)は人間圏全体で約20%と低い.必然的に残りは大気・土壌・陸水・海洋に排出され,地球システムの窒素循環は加速された状態にある.反応性窒素には多様な化学種が含まれる(例:NH3,NOx,一酸化二窒素[N2O],硝酸態窒素[NO3–]など).環境に排出された反応性窒素は形態を変化させつつ環境媒体を巡り,最終的に安定なN2に戻るまでの間に,各化学種の性質に応じた環境影響をもたらす(例:地球温暖化,大気汚染,水質汚染,酸性化,富栄養化,これらによる人の健康や生態系の機能・生物多様性への影響).この複雑な窒素の流れと環境影響を窒素カスケードとも称する.現在の人為的な窒素循環の加速は,地球システムの限界(プラネタリー・バウンダリー)を既に超えていると評価されている.窒素は人間社会と自然の全てを繋いでめぐっていることから,人間活動セクター(エネルギー転換,産業,農林水産業,人の生活,廃棄物・下水処理,貿易)と環境媒体(大気,土壌,地表水,地下水,海洋)をどのようにどの程度の量の窒素が流れているかを把握することが,窒素カスケードの実態を把握する上で望まれる.これが窒素収支評価である.欧州の窒素収支評価ガイダンス文書によれば,窒素収支評価の必要性と有用性は以下のとおりである:窒素カスケードの潜在影響を可視化する,政策決定者の意思決定に必要な情報を提供する,環境影響や環境保全政策のモニタリングツールとなる,国際比較の機会を与える,および知識の不足(ギャップ)を明らかにして窒素カスケードの科学的理解の改善に貢献する.地球環境ファシリティの国際プロジェクトであるTowards INMS (International Nitrogen Management System) では国別窒素収支評価の手法開発を進めており,我々もその一環として日本の窒素収支評価に取り組んでいる.国別窒素収支評価の手法として,欧州反応性窒素タスクフォースのEPNB (Expert Panel on Nitrogen Budgets) ガイドラインや,中国で開発されたCHANS (Coupled Human and Natural Systems) モデルなどが先行しており,我々はCHANSモデルの日本向けの改良を進めている.CHANSモデルは主要セクター・媒体をそれぞれ一つのプールとし,プール間を結ぶ窒素フローを定量する.日本向けの改良では以下のプールを設けている:エネルギー・燃料,産業,作物生産,家畜生産,草地,水産,人の生活,廃棄物,下水,森林,都市緑地,大気,地表水,地下水,沿岸海洋.プールの中には必要に応じて複数のサブプールを定義し(例:産業の中に食品産業,飼料産業,その他製造業など),サブプール間の窒素フローを求めた上で,プールごとに集計する.このうち,特に生物地球化学の知見が求められることは,人間活動プールと環境媒体プール間のフロー,環境媒体プール間のフロー,および環境媒体プール内のストック変化である.具体的な課題として次のフローやプロセスが挙げられる:1) 人為による大気排出,2) 人為による陸域への投入,3) 人為による地表水の利用と地表水への排出,4) 人為による地下水の利用と地下水への直接・間接の排出,5) 人為による沿岸海洋への排出,6) 大気-陸面相互作用(多くの過程を含む),7) 陸域内プロセスと蓄積,8) 地表水-地下水-沿岸海洋のフロー,9) 沿岸海洋-外海間のフロー.本発表では,日本向けCHANSモデルの概要と,上記の課題の現状の算定方法を紹介し,生物地球化学の観点からの精緻化について参加者と議論したい.
著者
伊尾木 圭衣 山下 裕亮 加瀬 善洋
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Hyuga-nada region is located at the south-western part of Nankai Trough, in the Pacific Ocean. M7-class interplate earthquakes are repeatedly occurred by the subducting Philippine Sea plate beneath the Eurasian plate. The largest earthquake in this area was the 1662 Hyuga-nada earthquake (M=7.6) which occurred off Miyazaki Prefecture, south-eastern area of Kyushu region, Japan, and generated tsunami (after called the 1662 tsunami). The tsunami heights were estimated at least 4-5 m along the coast of Miyazaki city by historical records. The 1662 tsunami was much larger than tsunamis generated by usual M7-class interplate earthquakes. This region is also active area of the shallow slow earthquakes. It is known by the 2011 Tohoku earthquake that focal area of shallow slow earthquakes also become a tsunami source area. So, we hypothesized that the 1662 unusual large tsunami was caused by the coseismically slipping of focal area of shallow slow earthquakes. We firstly constructed the fault model of the 1662 earthquake based on the recent result of geophysical observation. To examine the tsunami source of the 1662 earthquake, we surveyed the 1662 tsunami deposits in the lowland along the coast of south-eastern Kyushu region. As a result, sandy event deposits interbedded with clay (organic clay) were recognized at several surveyed points. Based on facies features, these event deposits were possibly formed by the 1662 tsunami. Numerical simulation of the tsunami was carried out using the constructed fault model. Calculated tsunami inundation area can explain distribution of the likely tsunami event deposits at Komei, Miyazaki Prefecture. Furthermore, this study compares calculated tsunami inundation areas, distribution of other surveyed tsunami deposits and tsunami heights of historical records. Tsunami source of the 1662 earthquake proposed by our study could better explain geophysical, geological and historical records.
著者
先山 徹
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

兵庫県南部の六甲山地の大部分は花崗岩からなり,それらは古くから石材として利用され,「御影石」として各地に流通していた.この段階で「御影石」は六甲山地の花崗岩を示す用語であったが,現在では他地域のものであっても花崗岩石材を一般的に「御影石」と呼ばれようになっている.「御影石」がいつ,どのようにして六甲山の花崗岩から花崗岩石材の代名詞となったのか.そしてその理由はなぜなのか.その詳細は分かっていない.本発表では,筆者がこれまで続けてきた花崗岩の石材産地同定研究と名所図会の記述および六甲山地の地質から,その過程を考察する.これまで,六甲花崗岩で製作された石造物は中世から西日本各地に分布していることが,その岩相と帯磁率の研究から明らかにされてきた(先山,2014).一方,瀬戸内海沿岸や島嶼部には17世紀初頭の徳川大坂城築城をきっかけに多くの採石場が開かれ,特に北前船の時代には日本海側をはじめ全国各地にこの地域の花崗岩石材が広まった.それに対して六甲山地の花崗岩の流通範囲は縮小されていく傾向がみられる.一方,六甲山地の御影石については江戸時代後期の名所や名産を既述した絵図「摂津名所図会(1798年発行)や「日本山海名産図会(1799年発行)」にも記載されている.それらの「御影石」の項目では,「もともと御影村の浜から出荷されたことによって命名された」ことが記されている.この段階での「御影石」は六甲山地に由来する岩石のことを指している.さらに読み解くと,「山口(山麓)の石は取りつくされて,今は奥山の住吉村で採石したものを海岸まで運んでいる」という旨の記述がある.このことは,この図会が作成された時点では山地内の岩石が採石されているが,もともとは海岸近くの平地に転がっていた石を利用していたということを示唆している.さらに石材の品質についての項目があり,「御影石」についての項目であるにもかかわらず,その石質は「京都の白川石が硬くて良く,大きな鳥居などにも利用されている」旨の内容が書かれている.地理的にみてこの岩石が御影の浜から積み出されることは考えられない.このことから,その当時にはすでに六甲山地以外の花崗岩についても「御影石」と称されるようになっていたと推察される.前述のように,六甲山地は大部分が花崗岩からなり,その主体は淡紅色のカリ長石が特徴的な六甲花崗岩である.六甲山地では大名の刻印が刻まれた岩塊が多く存在し,その集中域は徳川大坂城築城のための採石場として知られている.その刻印集中域を地質図と重ね合わせた場合,花崗岩域だけでなく周辺の第四紀層中にも分布している.六甲山地山麓ではしばしば江戸時代の採石遺跡が発掘され,その多くは土石流堆積物である.なかには土石流堆積物上に鍜治場があり,堆積物中の岩塊に矢穴が見られることもある.つまり,そのころには過去の土石流堆積物中の岩塊を利用していたことになる.海浜に近い平野部は現在市街地となっているため不明であるが,六甲山麓ではこれまでに土石流の記録が多く残されていることから,江戸時代以前にも頻繁に土石流が発生していたと考えられる.それによって当時は海岸近くまで土石流による岩塊が多く存在していた可能性がある.以上のような情報を総合すると,以下のようになる.(1)頻繁に発生する土石流により,六甲山南麓では海岸近くまで岩塊が存在していた.(2)他地域に先駆け,それらの岩塊を加工し御影の浜から積み出した.その結果この岩石を御影石と呼ぶようになった.(3)この時点ではまだ大量に石材を出荷するところがなく,六甲花崗岩が各地に大量に広まったことから,次第に類似の花崗岩も御影石と呼ぶようになっていった.(4)大坂城築城にともなって瀬戸内各地の良質の石材が利用されるようになった.(5)六甲山南麓に転がっていた岩塊も取りつくされ,その後第四紀層の礫を利用し,さらに山地の岩石を使用するようになっていった.(6)江戸時代後半には石材産地の主体は瀬戸内海の各地に移っていったが,「御影石」という名称は他の花崗岩石材の俗称として残された. 現在,六甲山地に採石場は存在しない.しかし土石流の石材を利用してきた歴史は現在の建造物の石垣に見られる.それは人々が災害と関わりながら暮らし,現在の街を作ってきたあかしでもある.文献先山 徹(2013)花崗岩の識別と帯磁率による産地同定.御影石と中世の流通-石材識別と石造物の形態・分布-(市村高男編),高志書院,45-58.
著者
安井 万奈 森田 直樹 今関 沙和 伊野 航 吉村 風 萩谷 宏
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

NPO法人Science and Artは、設立から4年が経過した今、法人の活動として毎週12クラス、幼稚園児・小学生を対象とした自然科学教室を運営している。これらの活動を通じて、地球惑星科学を小さい子どもたちに教えることは生物・化学・物理といった他の教科に比べ非常に難しいと実感している。カリキュラムのうち地球惑星科学に関するテーマは全体の1/4を占めており、教室としては安定した人気を保っている。教室に通う子ども達の中には3~4年と通う子どもも出てきており、子どもへの長期にわたる教育効果も徐々に明らかとなってきた。当初の教室の目標として「自然科学入門のために子どもに興味を持たせること」に重点を置いてきていたが、楽しく自然科学に親しむプログラムを提供する事によってこの目標は達成でき、理想通りの充実した教室運営ができていると自負している。しかし子ども達が年齢を重ねるほどに彼らを楽しませるだけの教室を超えて、今度は考えさせる教育を提供する必要に迫られていると感じている。地球惑星科学のテーマで幼児や小学校低学年生にどこまで疑問・質問・解決・工夫を考えさせることができるか、その試行錯誤とともに、これまでの教育効果、見えてきた課題を報告する。
著者
川幡 穂高
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

「4.2kaイベント」は,2018年に完新世の中期/後期境界として定義された.その特徴は,世界の主要な文明の劣化/崩壊を招いた気候イベントということで,注目を浴びることとなったが,気候プロセスの解明は遅れている.日本では縄文時代最大規模の三内丸山遺跡(5.9-4.2 cal. kyr BP)がこの時期に崩壊した.陸奥湾で採取した堆積物柱状コア中の間接指標の詳細な解析を行ったところ,期間全体にわたり水温・気温ともに環境が温暖だったと示唆された.1人1日あたり2,000Calに匹敵する食料が人々の生活には必要であるとの条件を設定すると,「狩猟・採取」で十分な食糧を得るには,一人あたり1平方kmの面積の森林が必要とされる.食糧の単位面積あたりの生産密度は,人工的に森林に手を加える「半栽培」によるクリの場合,通常の森林の66倍,弥生時代の「水稲栽培」に至っては400倍にも及ぶ.三内丸山遺跡で気候最適期を謳歌した時期には,クリの「半栽培」による高食糧生産密度により,人々は大集落を形成した.しかし, 2.0℃の寒冷化となった「4.2kaイベント」時には,夏季アジアモンスーンの変調によりジェット気流の中心軸が南下し,低緯度域の温暖湿潤な大気が中高緯度に北上することができなかった.これにより「半栽培」が成立せず,大集落は崩壊し,人々は再び「狩猟・採取」の生業に戻った.近年行われた,現代人のゲノムに基づく過去の相対的な人口動態の推定によると,「4.2kaイベント」時に日本に生活していた縄文系の人々に特有のミトコンドリアDNAのハプロタイプには人口の変化はほとんどなく,これは考古学的知見と調和的であった.対照的に,当時,日本への移住以前に,大陸で生活していた弥生系の人々のミトコンドリアDNAのハプロタイプには,厳しい寒冷化による人口減少が認められた.この事実は,「人のミトコンドリアDNAのハプログループに,古気候/古環境が記録される」ことを示唆しており,気候と人類集団の移動を解析する際に,威力を発揮すると期待される (Kawahata, 2019, Progress in Earth and Planetary Science 6:63, https://doi.org/10.1186/s40645-019-0308-8).
著者
Walaa Elmasry Yoko Kebukawa Kensei Kobayashi
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Extraterrestrial delivery of organic compounds including amino acids to the early Earth during the late heavy bombardment (3.8-4.5 billion years ago) may have been important for the origin of life. Recently, it is suggested that chondritic organic matter was produced through reactions of interstellar formaldehyde, followed by condensation, and carbonization probably during hydrothermal alteration on chondritic asteroids (Cody et al 2011). Furthermore, Kebukawa et al. (2013, 2015) illustrated that the presence of ammonia significantly enhances the yields of IOM from formaldehyde via formose reaction at 150 °C, producing amino acids. Meteorites serve as delivery systems for extraterrestrial phyllosilicate minerals to Earth. Phyllosilicates may act as absorbents and catalysts for the reactions of organic precursor molecules in the early solar system (Pearson et.al 2002). In the current research, we are studying formations of amino acid at 150 °C and reveal the expected role of minerals, namely, montmorillonite, olivine and serpentine for amino acid productions in water-bearing planetesimals.We synthesized organic compounds using a mixture of water, formaldehyde and ammonia (H2O, H2CO, NH3) in a ratio of 100:7:1 with adding minerals (10 g/ L) by simulating primordial materials in comets and asteroids. Aqueous solutions were heated at 150 °C for 24, and 72 hours. The resulted products were divided into two parts, the first part analyzed using a FT/IR, and GFC, while the other one was acid hydrolyzed, desalted, and subjected to amino acid analysis using an HPLC.In HPLC analysis, considerable amounts of various amino acids including glycine and alanine were detected. Moreover, presence of non-protein amino acids (β-Ala, γ-ABA) is considered as an evidence for extraterrestrial origin and against terrestrial contamination. Our preliminary results showed that the obtained amount of amino acids was elevated with the presence of minerals. FT/IR spectra of samples with minerals showed more spectral intensities than samples without minerals due to synthesis of more organic compounds. GFC showed that high molecular weight organic compounds were formed which may be characterized as amino acid precursors that maintain stable at high temperature and longer durations giving various kinds of amino acids after acid hydrolysis. These results suggested that various amino acids could be formed abiotically via a mixture of formaldehyde, ammonia, and water, as well as, the associated minerals act as catalysts to produce amino acid precursors during aqueous activities in the planetesimals.References:Cody, G. D. et al. PNAS 108, 19171–19176 (2011).Kebukawa, Y., David Kilcoyne, A. L. & Cody, G. D. The Astrophysical Journal 771, 19 (2013).Kebukawa, Y. & Cody, G. D. Icarus 248, 412–423 (2015).Pearson, V. K. Meteoritics & Planetary Science 37, 1829–1833 (2002).
著者
中塚 武
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

年輪年代法は、考古学で用いられている最も精度の高い年代決定法の1つである。それは、同じ気候条件下にある地域内の同じ種類の樹木であれば、気温や降水量などの共通の環境因子の変化に応じて、年ごとの成長量、すなわち年輪幅の変動パターンが同じになるという原理に基づいている。年輪幅は測定が容易なので、世界中の様々な地域で年輪年代の決定や気候変動の復元に活用されているが、日本のように森林内に生息する樹木の種類が多く個体数密度が高い温暖で湿潤な地域では、第一に、年輪幅の変動パターンの比較の際の物差しになる標準年輪曲線を、全ての樹種に対して作ることは難しく、第二に、隣接する樹木個体間での光を巡る競争などの局所的な要因によって、年輪幅の変動パターンの個体間相関が低くなるという問題があり、日本ではヒノキやスギなどの年輪数の多い一部の樹木に対してしか適用できなかった。それに対して、年輪に含まれるセルロースの酸素同位体比の変動パターンは樹種の違いを越えて高い相関を示すことから、年輪数の多いヒノキやスギから得られた年輪酸素同位体比のデータを、広葉樹を含む他のあらゆる種類の木材の年輪年代決定に利用できる。この酸素同位体比年輪年代法は、未だ誕生から10年にも満たない新しい手法であるが、この間、標準年輪曲線の構築・延伸とさまざまな技術革新を重ねてきた。ここでは、その原理と課題、未来について、包括的に報告したい。年輪セルロース酸素同位体比の高い個体間相関性は、セルロースの原料が作られる葉内の水の酸素同位体比が、降水(水蒸気)の同位体比と相対湿度という2つの気象学的(日生物学的)因子によって決まることに由来している。また、そのメカニズムを介して、年輪酸素同位体比は夏の気候の感度の良い代替データになることが分かっており、先史時代を含むあらゆる時代の気候変動について、他では得られない高解像度のデータを提供できる。年代決定や気候復元を進めるためには、できるだけ多くの地域でできるだけ古い時代までさかのぼって、年輪酸素同位体比の標準年輪曲線(マスタークロノロジー)を構築する必要があるが、これまでに日本各地で現代から紀元前3000年前まで遡れる年単位で連続的な約5千年間のクロノロジーができ上がっており、それを使って縄文時代から現代までの日本各地、さらに韓国まで含めた様々な地域・時代の遺跡出土材や建築古材の年代決定が成功裏に行われてきている。その中では、膨大な数の年輪の迅速な分析技術、劣化した出土材からのセルロースの確実な抽出技術などが開発され、着実に年代決定の成功率を向上させてきた。また残された課題であった、考古学の研究に資する長周期の気候変動の復元や、遺跡出土材の大部分を占める年輪数が10年程度の小径木の年代決定が、最近になって可能になってきている。以降は、その技術革新の現状を踏まえて、未来の研究の可能性を議論したい。年輪を使えば文字通り年単位の気候復元が可能であるが、考古学では年単位の気候データよりも百年単位の気候データの方が重宝される。一方で年輪には生物学的な樹齢効果が長周期の気候情報と干渉することも分かっていて、一般に年輪から百年、千年単位の気候変動を復元することは難しいと考えられてきた。しかし近年、年輪セルロースの酸素と水素の同位体比を組み合わせて、あらゆる周期の気候変動を正確に復元する技術(Nakatsuka et al., 2020: https://doi.org/10.5194/cp-2020-6)が開発され、さまざまな時代や地域への応用が期待されている。一方でセルロースの酸素(水素)同位体比は、年層内の季節(春から夏の)変動パターンを測定することもでき、気候復元の高解像度化と共に、年代決定情報の高精細化が進められている。これまでに弥生後期や古墳前期といった年単位での年代決定が歴史の解釈の鍵を握る時代を対象に、近畿地方などでセルロース酸素(水素)同位体比の年層内変動のデータベース作りを始めており、その成果は小径木の年代決定に実際に利用され始めている。こうした技術革新の先にある酸素同位体比年輪年代法の考古学への最大の貢献とは何であろうか。遺跡から出土する杭や板、柱などのあらゆる小径木の年代が年単位で決定できるようになると、そのデータの年代別ヒストグラムを作ることで、土器の型式編年に依拠している日本の考古学では難しかった「単位時間当たりの人間活動の定量的な指標」を作成することができる。その知見を、あらゆる周期で正確に復元可能な年輪の酸素・水素同位体比に基づく気候変動の情報と照らし合わせることで、気候変動が人間社会の動態にどのように影響したのか(しなかったのか)を客観的に示すことが可能になる。このように全く新しい視点からの考古学の誕生が期待されている。
著者
岡本 義雄
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地学教育において,中高の教室で岩石薄片観察を実際に行うことはとても意義深く,生徒へのインパクトも大きい.しかし実施に当たっては2つの困難がつきまとう.偏光顕微鏡の準備と岩石薄片の準備である.本研究ではその困難の解決の一手法をその1(観察編,自作偏光ユニットの製作),その2(製作編,岩石カッターと研磨機の製作)に分けて紹介する.本編はその1を論ずる.タイトルの2.0は,従来の手作業に頼る伝統手法を1.0とし.その改良版を意味する.なお筆者は岩石学の専門家ではないので,改良点など指摘いただきたい. 教室での薄片観察には必須の偏光顕微鏡を,簡易手法により構築する.従来から簡易型の偏光顕微鏡の提案は数多いが,市販の双眼実体顕微鏡に自作の偏光ユニットを組み合わせる方法をここでは提案する.通販サイトで売られる安価な中国製の双眼実体顕微鏡は現在1万円台で入手できる.倍率は20倍と40倍に切り替えられ,下部および,上部からのLED照明を持っているため,岩石薄片の観察には好都合である. このステージ上に載せる偏光ユニットを次の方法で製作する.1)回転台:中国通販で入手できる安価な回転テーブル(約70mm角,中央に37mmの孔,400円程度)2)偏光フィルム:国内通販で入手できるもの(80mm角が10枚入って千円程度)を1/4に切って使用 3)アクリル板: 70mm角,5mm厚に直径25mm程度の孔をホールソーで開けたもの,及び上部偏光板取付用の45×90mm,3mm厚のアクリル板で構成する.アクリル板は端材として格安に販売するサイトから入手する. 組み立ては回転台を5mm厚のアクリル板に4mmビスで締め付け,同時に下の台と回転台の間に偏光フィルム1枚を挟む.上記とは直角方向に偏光フィルムを貼り付けた上部偏光板を作る.偏光フィルムの取り付けはセロハンテープで充分である.これを薄片の上部で回転して出し入れできるように取り付け台を工夫する.パーツの接着は液体のアクリル接着剤を用いる.双眼実体顕微鏡のステージ上にセットした,偏光ユニットに薄片を挟んで観察を行う.さらにこの生徒用顕微鏡セットとは別に,安価なUSB顕微鏡(国内通販で8000円程度)と組み合わせて,教室全体に提示して観察ポイントの説明を行った.USB顕微鏡は通常下部LED光源がないので,白色LED光源の選定と製作も合わせて行った. 筆者は生徒実習用にこのユニットを10台,さらに回転台を省いた簡易型の薄片を挟むだけの構造のもの20台(薄片の回転は手動で行う),従来の専門家用鉱物顕微鏡12台の計42台(生徒1人に1台)を用意した.高校地学基礎の42名クラスで,全員にいずれかの観察装置をあてがい,薄片観察実習を行った.50分の時間で花崗岩,安山岩,玄武岩,はんれい岩の薄片観察を順に行った(薄片の製作は筆者発表のその2を参照).さらに前述のUSB顕微鏡にこの偏光ユニットを付けた装置で,薄片観察の要点を大型モニタに映すことで,次の観察の要点を適宜指導した.1)無色鉱物の見分け方;石英と長石の違い(外形,へき開の有無,双晶)2)有色鉱物の見分け方;黒雲母,角閃石,輝石,かんらん石の違い(外形,へき開,屈折率,干渉色,多色性,消光角,双晶など) この結果,生徒の反応は上々で,歓声を上げて観察してくれた.スケッチを行うもの,スマホで写真撮影を行うものと様々であった.写真をSNSの個人ページの背景に使うと意気込んでいた生徒もいた.授業後のアンケート結果もすこぶる良好であった.アンケートの詳細は講演当日に紹介する. 本装置のメリットは安価なこと.1台あたりの単価は双眼実体顕微鏡1万8000円+偏光ユニット2000円程度.これにより実体顕微鏡をのぞくと,1クラス全員分の偏光装置の準備もそれほど難しくない(回転装置をのぞいた簡易型ならもっと容易となる).また下部照明を内蔵していることから肉眼観察,写真撮影ともに外部照明なしで簡単に行えること. デメリットは自作するのに工作技術が必要なこと.回転台にはややガタがあること.これにより回転時に視野の中心がやや動くのが気になる.また当然ながら専門家用の顕微鏡で行えるコノスコープ観察や干渉板での観察などはできない.さらに,絞りがないのでベッケ線の移動が見にくいこと,岩石顕微鏡としての倍率がやや不足気味(通常で20倍と40倍の切り替え)などである.しかし授業アンケート結果などを総合的に判断して教材としての価値は高いことが分かった.岩石薄片の作成についてはその2で詳説する.
著者
大河内 博 吉田 昇永 柳谷 奏明 新居田 恭弘 梅澤 直樹 板谷 庸平 緒方 裕子 勝見 尚也 高田 秀重
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

1.はじめにプラスチック生産量は年々増加しており,総生産量は1950年には年間200万トンであったが,2012年には3億トン,2050年には400億トンに達すると推計されている(Zalasiewicz, et al., 2016).その結果,河川を通じて大量の海洋ブラスチックゴミが発生している.ブラスチックゴミのうち,直径5 mm以下のプラスチック片の総称であるマイクロプラスチック(microplastics,; MPs)は,海洋生物が餌と誤認して摂食する物理的障害とともに,プラスチック添加剤や環境中で表面に吸着した有害有機化合物が体内に移行して生体に影響を与えることが懸念されている.2.大気中マイクロプラスチックの現状 最近では河川,水道水,ペットボトル,道路粉塵,室内空気でもMPsが検出されている.米国の推計によると,MPsが体内に取り込まれる経路は食物と呼吸が同程度でそれぞれ年間6万個程度,ペットボトル水から年間9万個を摂取している(Cox et al. , 2019).ただし,大気中マイクロプラスチック(Airborne microplastics; AMPs)の計測例は限られており,その実態はよく分かっていない.AMPsに関する先行研究はフランス・パリ郊外(Dris et al., 2016, 2017)や中国・広東省(Cai et al., 2017)で行われている.ただし,大部分は大気エアロゾルではなく,フォールアウトである.都市部におけるAMPsの形状は繊維状が多く,フィルム状,破片状,発泡体は少ない.同定されている主要材質はポリプロピレン,ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレートである(Dris et al., 2016, 2017; Cai et al., 2017, Liu et al., 2019).大気エアロゾル中AMPsの報告例は数例に限られるが,パリ(フランス)では室内空気で1 – 60 本/m3の繊維が存在しており,その66 %がセルロースなどの天然繊維である(Dris et al., 2017).一方,屋外空気では0.3 – 1.5 本/m3(50 – 1650 µm)の繊維が浮遊している.イラン南岸部アサルイエの都市大気でも大部分は繊維であり,空気では0.3 – 1.1 本/m3(2 -–100 µm)であるが,天然繊維か合成繊維(プラスチック)かは不明である(Abbasi et al., 2019).上海(中国)の都市大気では0 – 4.18 個/m3(23 – 9555 µm)であり,67 %が繊維状である(Liu et al., 2019a).また,同地点で0.05 – 0.07 個/m3(12 – 2191 µm)であり,43%が繊維状という報告もあり(Liu et al., 2019b),かなりばらつが大きい.AMPs研究はほとんどが都市大気に関するものであるが,最近になってマイクロプラスチックが大気を通じて輸送され,フランス・ピレネー山脈で365個/m2/日(65 µm以上)の沈着量であることが明らかにされた(Allen et al., 2019).この沈着量は都市部とほとんど変わらないことから,大気を通じたマイクロプラスチック汚染が広域的に起きていると可能性を示すものであり,NHKでも取り上げられた.また,山間部では都市部とプラスチック形状が大きく異なり,破片状,フィルム状AMPsが多く,繊維状AMPsは少ないことが明らかにされている.3.大気中マイクロプラスチック研究の課題現状では研究者が独自の方法で行った結果を報告しており,単純に比較することはできない.したがって,AMPsの採取法,前処理法,同定法に関する統一的手法開発が求められている.講演では, AMPs計測用の大気中エアロゾル捕集材,前処理法,計測手法に関する我々の検討結果について紹介するとともに,都市大気および自由対流圏大気中AMPsの実態について,その一端を紹介したい.
著者
堀内 雅生 山口 隆子
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

1.はじめに風穴とは,夏に山の斜面から冷風が吹き出す場所,およびそのような現象を指す(清水ほか,2015)。日本における主な活用事例としては,蚕種の貯蔵が挙げられる。海外においてもスイス・北アルプスなどのヨーロッパでは,冷蔵小屋にミルクを貯蔵するなどの活用がされてきた(佐藤,2008)。近年,自然ネルギーへの関心の高まりから,風穴の天然の冷源としての価値が再認識され,クールスポットとして観光や見学対象となっている風穴も多い。また,実用の冷蔵庫として種苗・野菜・漬物・果実などの貯蔵に利用している地域もあり,需要は増している。このような風穴の活用のためには,その性質を明らかにすることが必要不可欠であり,明治期より気候・地形地質・植生分野にまたがった多くの研究が行われてきた。田中ほか(2004)では,夏季には外気に比べ相対的に崖錐内が低温であることによって生じる対流により冷風が下方の風穴から吹き出し,冬季には崖錐内部が相対的に高温であることによって上部の風穴から温風が吹き出すことを明らかにしている。なお,本稿では夏季に冷風を吹き出す風穴を「冷風穴」,冬季に温風を吹き出す風穴を「温風穴」と呼ぶ。このような風穴の研究事例は,東北~北海道地方や高標高地域などの寒冷な地域において数多く報告されているが,気温が0℃を下回ることが少なく,風穴内部に氷が生じない温暖な地域における研究事例は,萩(森・曽根,2009)や神津島(鈴木,2019)などがあるものの,数は多くない。今後,温暖化による気温の上昇で地表面の熱環境にも影響が出ることが考えられており(Bogdan et al.,2012),風穴の熱環境も同様に変化する可能性がある。そのため,特に現時点で温暖な地域で調査を行うことは,地球温暖化が風穴および風穴周辺に生息している動植物へ与える影響を考える上でも重要であると考えられる。2.方法本研究では,瀬戸内海に面し,気候が温暖な香川県小豆島に位置する風穴(標高107.4m)を対象とした。温度計(TandD:RTR-502, 10分間隔で測定)を風穴及び周辺に設置し,気温の長期変動を記録した。また,8~11月には風穴に熱線風速計(CUSTOM:WS-03SD)を設置し,風速の日変化を観測した。3.結果観測開始(2019年6月8日)から10月初旬までの冷風穴気温は11~14℃前後で,外気温より低い状態を維持しながらも,徐々に上昇した。また,まとまった降水イベントの際には冷風穴気温の一時的な上昇がみられた。これは冷風穴内部に暖かい雨水が流れ込むことで,一時的に内部の温度を上昇させたものと思われる。降水や外気の侵入による影響が少なく,安定して冷風が吹き出していたと思われる6月9日11:00(11.3℃)と10月1日11:00(14.1℃)の冷風穴気温を比較すると,2.8℃上昇しており,この期間中の冷風穴気温上昇率は0.025℃day-1であった。風速観測結果であるが,冷風穴風速と冷風穴内外の気温差には比較的良好な相関関係がみられ,気温差が大きくなるほど風速が上昇することが分かった。これは,風穴の風が外気と風穴内部の空気の密度差によって生じるというメカニズム(高橋ほか,1991)を支持する結果となった。その後,10月中旬頃から冷風穴気温と外気温の差が夜間にほぼ無くなる日が増え,11月上旬にはほぼ毎日夜間の気温差が非常に小さくなった。風穴は冬季になると,夏季に崖錐内に蓄えられた熱によって内部で上昇気流が生じ,夏季に冷風穴で吹き出していた風が吸い込みに転じるが,今回観測された冷風穴気温と外気温の同調は,この吸い込み現象をとらえたものと考えられる。なお,12月に実施した調査では風穴の風向は実際に吸い込みに替わっており,風穴気温が外気温と同調する要因を裏付ける結果となった。また,温風穴について,冬季(2019.12.27)に周囲の地表面温度を放射温度計で測定することにより,発見することができ,観測を開始した。
著者
Shin Sugiyama Masahiro Minowa
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Subglacial environment of the Antarctic ice sheet is one of the least investigated areas on the Earth. Base of the ice sheet forms an important boundary, which controls ice dynamics and thermal conditions. Existence of subglacial channels and lakes poses important questions about basal hydrology and microbial ecosystem under several-kilometer-thick ice. Recent mass loss of the ice sheet is driven by the melting of ice shelves, which occurs at the basal boundary of floating ice. Sensing physical properties beneath the ice is possible by using seismic and electromagnetic waves, but in-situ measurements and sampling are required to answer many of the questions. Hot-water drilling is a powerful tool to provide an access to the bed of glaciers and ice sheets. In this contribution, I introduce recent progress in our understanding of subglacial environment of the Antarctic ice sheet based on direct observations through boreholes, including our project in Langhovde Glacier in East Antarctica.Langhovde Glacier is a 3-km wide outlet glacier located 20 km south of the Japanese Syowa Station in East Antarctica. Lower 2–3 km of the glacier forms a floating tongue, which feeds into the Lützow-holm bay. To study basal melting and subshelf ocean environment, we drilled four boreholes in January 2018 using a hot-water drilling system. The boreholes were utilized to measure spatial variations of temperature, salinity and current under the ice. Two of the boreholes were equipped with a temperature and CTD/current sensors for year-round observations. Potential temperature of the seawater underneath the ice was between −1.4 and −1.1°C, approximately 1°C warmer than the freezing temperature. Water temperature within several hundred meters from the grounding line was −1.2°C in January 2018. Temperature dropped to −1.6°C from January to May, which was followed by gradual warming to −1.55°C in December. The temperature in January 2018 (−1.2°C) was significantly warmer than that in the summer 2019 (−1.55°C), as well as temperature measured at the same location in 2012 and 2013 (−1.55°C). A possible interpretation of the unusually warm water in 2018 was break-up of land-fast sea ice in the Lützow-holm bay in 2016. Presumably, open water near the glacier front facilitated transport of heat to the grounding line. Our subshelf observations implied significant amount of basal melting occurs under the entire ice shelf of Langhove Glacier, and thermal conditions near the grounding line is susceptible to changes in the ocean.
著者
近藤 研 杉山 慎
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

The Antarctic ice sheet drains ice into the ocean through floating ice shelves and outlet glaciers, which play key roles in the mass balance of the Antarctic ice sheet. Since iceberg calving and ice shelf basal melting are major ablation processes of the ice sheet, understanging the dynamics of floating ice is important. Land-fast sea ice affects the stability of ice shelves by exerting battressing force on the ice front. For example, previous studies reported glacier front retreat, disintegration of ice shelves and ice flow acceleration after breakup of sea ice in front of glaciers (e.g. Miles et al., 2017). Lützow-Holm Bay located in East Antarctica is usually covered with land-fast sea ice all year round, but a large portion of sea ice broke up in April 2016 (Aoki et al., 2017). In order to investigate the impact of the sea ice break up on outlet glaciers in the region, we carried out satellite observations on Langhovde Glacier, one of the outlet glaciers terminating in Lützow-Holm Bay. Glacier terminus position was deliniated from 2000 to 2020, using Landsat 7 Enhanced Thematic Mapper Plus (ETM+) and Landsat 8 Operational Land Imager (OLI) imagery. Changes in glacier surface area near the calving front were devided by the width of the calving front to obtain mean retreat/advance distance. Ice flow velocity field from 2014 to 2020 was measured, by applying a feature tracking method (Sakakibara and Sugiyama, 2014) to Landsat 8 OLI image pairs.Terminus position has been relatively stable from 2000 to 2012, with only small fluctuations within a range of 200 m. The glacier then advanced by 400 m from 2012 to 2016. After 2016, the year of the land-fast sea ice break up, the terminus retreated rapidly by 720 m by 2020 as a result of large calving events in 2016 and 2019. The glacier front reached the most retreated position since 2000. After the sea ice breakup, ice speed increased from 110 m a−1 in 2017 to 135 m a−1 in 2019. The results of this study suggest the glacier had been stabilized by the land-fast sea ice by 2016. Rapid retreat and acceleration after the breakeup indicate significant influence of sea ice on the dynamics of outlet glaciers in Antarctica.ReferencesMiles, B.W.J. and Stokes, C.R. and Jamieson, S.S.R (2017), Simultaneous disintegration of outlet glaciers in Porpoise Bay (Wilkes Land), East Antarctica, driven by sea ice break-up, The Cryosphere, 11, 427-442.Aoki, S. (2017), Breakup of land-fast sea ice in Lützow-Holm Bay, East Antarctica, and its teleconnection to tropical Pacific sea surface temperatures, Geophys. Res. Lett., 44, 3219–3227.Sakakibara, D., and S. Sugiyama (2014), Ice-front variations and speed changes of calving glaciers in the Southern Patagonia Icefield from 1984 to 2011, J. Geophys. Res. Earth Surf., 119, 2541–2554.
著者
YEFAN WANG Shin Sugiyama Daiki Sakakibara
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

In recent decades, the Greenland Ice Sheet has been a major contributor to global sea-level rise as a consequence of accelerating mass loss. Numerous studies have described spatiotemporal heterogeneity in glacier terminus retreat, flow speed variations, surface elevation change in a scale covering the entire ice sheet. However, details of the changes and heterogeneity of individual glaciers remain uncertain. Therefore, detailed investigations in a finer spatial scale are required. Here we show the surface elevation changes of 16 outlet glaciers along the coast of Prudhoe Land, northwestern Greenland, derived from multi-source DEMs (digital elevation models) (1985 (t0) aerial photograph DEM, ASTER DEMs in 2001–2003 (t1) and 2016–2018 (t2)), for the last 30 years.We observed a mean surface lowering rate of −0.55±0.22 m a−1 over the past three decades (t0–t2) for the whole studied glaciers. The most rapid surface lowering (−3.08 m a−1) was observed near the glacier termini (elevation band 0–50 m), and the slowest surface lowering rate (−0.14 m a−1) is found on the elevation band 800–850 m. The rates varied among the periods. The mean rate showed a slightly positive value of 0.14±0.16 m a−1 during t0 – t1, and no distinct altitudinal variations was observed in this period. Strongly negative elevation change rates (−1.31±0.19 m a−1) were detected during the second subperiod (t1– t2). The most rapid thinning (−5.47 m a−1) occurred near the frontal areas (elevation band 0–50 m), and slower but significant thinning at a rate −0.57 m a−1 was observed inland areas (elevation band 800–850 m). For individual glaciers, most glaciers have exhibited no significant change or slight surface thickening during the period t0 – t1. Obvious thinning happened only in the frontal areas of Tracy, Farquhar, Sharp and Sun Glaciers. During the period t1– t2, all the studied glaciers experienced thinning in different magnitudes. Tracy (−3.91±0.12 m a−1) and Farquhar (−2.91±0.15 m a−1) Glaciers experienced most significant thinning, while Heilprin Glacier, adjacent to Tracy, showed a moderate thinning rate (−0.51±0.12 m a−1). Interestingly, there is no obvious change at Verhoeff Glacier both in t0 – t1 and t1– t2. Outlet glaciers terminating in Inglefield Bredning showed a mean thinning rate of −1.07 ± 0.18 m a−1, which was 67% greater than those of glaciers terminating in Baffin Bay (−0.64 ± 0.24 m a−1) during t1–t2.The elevation changes are generally correlated with atmospheric and oceanic warming in the region. Nevertheless, considerably large heterogeneity was observed among individual glaciers, which may be attributed to the control of the fjord bathymetry and glacier bed topography on the submarine melting and ice dynamics.
著者
Ralf Greve John C. Moore Thomas Zwinger Chao Yue Liyun Zhao
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Sea level rise from the ice sheets is one of the chief impacts of greenhouse gas emissions. The Greenland ice sheet is expected to contribute some ten centimetres to ~1 metre of global sea level equivalent (SLE) this century (Goelzer et al., 2020, doi: 10.5194/tc-2019-319). In the longer term, Greenland will likely lose more than 90% of its ice sheet unless summer temperatures are kept to less than 2°C above pre-industrial levels (Pattyn et al., 2018, doi: 10.1038/s41558-018-0305-8). Stratospheric aerosol injection (SAI) has been proposed as a potential method of meeting the IPCC 1.5°C or 2°C global temperature rise targets. In this study, we use the SICOPOLIS (www.sicopolis.net) and Elmer/Ice (elmerice.elmerfem.org) dynamic models driven by changes in surface mass balance and temperature to estimate the sea level rise contribution from the Greenland ice sheet under the IPCC RCP4.5, RCP8.5 and GeoMIP G4 (Kravitz et al., 2013, doi: 10.1002/2013JD020569) scenarios. The G4 scenario adds 5 Tg/yr sulfate aerosols to the equatorial lower stratosphere (equivalent of ~1/4 of the 1991 Mt. Pinatubo SO2 emission rate) to the IPCC RCP4.5 scenario, which itself approximates to the Paris NDC (Nationally Determined Contributions) greenhouse gas emission commitments. The figure shows the mass loss of the Greenland ice sheet under the three scenarios with four earth system models (BNU-ESM, HadGEM2-ES, MIROC-ESM, MIROC-ESM-CHEM), simulated with the SICOPOLIS model. Relative to a constant-climate control run (ctrl_proj), the losses from 2015 to 2090 are 63 [53, 76] mm SLE for RCP8.5, 45 [38, 52] mm SLE for RCP4.5 and 28 [18, 38] mm SLE for G4 (mean and full range). Thus, the mean mass loss under G4 is about 38% smaller than that under RCP4.5 and 55% smaller than that under RCP8.5. We aim to repeat all simulations with the full-stress Elmer/Ice model to assess model-induced uncertainty.