著者
大城 あずさ 仲村 貞郎 玉城 邦人 藤原 一男
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.199-203, 2016

症例は10歳男児. 3週間続く弛張熱, 虫垂炎罹患の後, 両眼の高度視力低下, 歩行障害が出現し, MRIで両側視神経・視交叉・小脳・皮質下白質・脊髄にT2高信号病変を認めた. 視神経脊髄炎 (neuromyelitis optica ; NMO) あるいはNMO spectrum disorders (NMOSD) と考え, ステロイドパルス療法を2クール施行した. 歩行障害は改善したが中心視力の改善が乏しいため, 血漿交換療法を追加し, 視力は両側1.0に改善した. 血清抗aquaporin (AQP) 4抗体は陰性で, 抗myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG) 抗体が1,024倍であった. 急性期以後はprednisoloneおよびazathioprineの内服を行ったが, 血清抗MOG抗体は経時的に低下し, 治療漸減にて症状再燃を認めないため発症11カ月で治療を中止した. 近年, 抗AQP4抗体陰性のNMO/NMOSDの中で, 抗MOG抗体陽性例の報告がみられる. 抗AQP4抗体陽性例と異なりステロイドパルス療法のみで軽快する例が多いが, 本例のようにステロイドの効果が不十分で血漿交換が有効な症例もある. 今後さらなる症例蓄積による検討が必要である.
著者
帆足 英一
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.303-310, 1977-07-01 (Released:2011-05-24)
参考文献数
21

夜尿症の病態生理を明らかにする目的で, idiopathic enuresis 21例について終夜睡眠ポリグラフを第1夜に記録し, 分析をおこなった.1) 正常児と比較して, 睡眠段階の割り合いはSV, S1, S3の増加, SREM, S4の減少傾向がみられた.2) 夜尿時の睡眠段階は, 22回の夜尿のうちS2で12例 (54.5%) と多く, S3, SREMは各1例と少ない.3) 夜尿前後の睡眠段階の変化から, 覚醒機構の未熟性あるいは障害が推定された.4) REM睡眠とNREM睡眠の周期的変動の乱れがつよく, 入眠期の障害とREM睡眠の睡眠内周期の障害が推定された
著者
岡部 保 松谷 天星丸 小川 恵弘 松山 春郎
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.312-318, 1973 (Released:2011-05-24)
参考文献数
23

A case of maple syrup urine disease was reported. This female infant was hospitalized at the 15th day after birth, abecause of poor sucking and fever. Two weeks after hospitalization peculiar odor of maple syrup in the urine was detectected and 2, 4dinitrophenylhydrazine reaction of the urine became positive. At 31/2 months of age treatment wa s begun by the diet without valine, leucine and isoleucine. But she died of pneumonia at the age of 41/2months.
著者
林 隆 市山 高志 西河 美希 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.339-345, 1998-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

未熟児出生, 新生児仮死による痙性両麻痺児に認めた鏡像書字について, 神経心理学的, 画像診断学的に検討し発症機序について考察した. 右側優位の麻痺による左利き状態を右手使いに矯正する過程で鏡像書字は増悪した. 神経心理学的には利き手の矯正中にWPPSIでVIQ86, PIQ74, TIQ76と境界域の知能レベルで視覚認知の弱さが窺えた.もともと左手を使用していたこと, 視覚的に鏡像が自覚出来たこと, MRI上左頭頂葉白質に虚血性搬痕病変を認めたことより, 鏡像書字の原因として空間方向性の障害を考えた. Frostig視知覚発達検査では, 検査IVの空間位置関係の得点が利き手の矯正により低下し矯正をやめると速やかに戻った. 利き手の矯正による感覚運動刺激が視覚認知機能に影響を与える可能性を示唆している.
著者
福田 冬季子 杉江 秀夫 伊藤 政孝 杉江 陽子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.314-318, 2001-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

自閉性障害の病態として, セロトニン系の関与が示唆されている.自閉性障害児における選択的セロトニン再取り込み阻害剤 (selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI) の有用性を検討するため, 保護者の同意が得られた自閉性障害児に対しfluvoxamineを投与し, crossoverdesignによる二重盲検法で検討した.行動評価表の項目別評価では, 視線と言語においてfluvoxamine投与による有意な改善が見られた (p<0.05).特に言語における効果は保護者の観察を裏付ける結果となった.Clinical Global Impression Scale (CGI) では約半数の症例で何らかの改善が見られたと考えられた.試験期間中重篤な副作用は見られなかった.小児自閉性障害においてSSRIは治療薬として試みる価値があると考えられた.
著者
宮崎 雅仁 西條 隆彦 森 健治 田山 正伸 内藤 悦雄 橋本 俊顕 黒田 泰弘 埜中 征哉
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.65-70, 1991-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
20

Epilepsia partialis continuaを呈したmitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and strokelike episodes (MELAS) の14歳1カ月男児例を報告した.本症例は8歳時に自家中毒様の反復する腹痛および嘔吐で発症し, 10歳7カ月, 10歳9カ月, 14歳1カ月の3回にわたりミオクロニー発作, 一過性の片麻痺などの脳卒中様症状を認めた.14歳1カ月時はepilepsia partialis continuaを呈し, 10日間にわたり, 脳波上, 右中心部に出現する棘波に同期する左前腕のミオクロニー発作が持続した.血液および髄液中の乳酸・ピルビン酸の上昇, 頭部CTでの両側側頭部の低吸収域, 生検筋ではragged-red fiberが認められた.
著者
坪倉 ひふみ
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.122-128, 2002-03-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

ヒトの胎児や新生児は自発的に運動しており, その中にgeneral movements (以下GMsと略す) が含まれる。PrechtlによればGMsは全身を含む粗大運動で出現した時点で複雑であり, 個々の運動に分化する. GMsは胎生期には不変だが新生児期には変化し, 軌跡が小さくなり単調になる. それに対し異常なGMsは周期的かつ単調で発達的変化を欠く. GMs, 特にfidgetyは神経学的予後と相関する. GMsの臨床的意義は,(1) GMsの観察は非侵襲的・安全・簡便で,(2) 観察者がトレーニングを受けていれば, 観察者間の判定一致率は高い. (3) GMsのreliabilityは78-98%で平均90%である. (4) 異常なGMsは脳障害の存在や重症度とよく相関する.
著者
杉浦 ミドリ 松本 昭子 渡辺 一功 根来 民子 高江洲 悦子 岩瀬 勝彦
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.226-230, 1985 (Released:2011-09-13)
参考文献数
12

歳以降の予後の明らかとなった1歳未満発症の熱性けいれん33例と無熱性けいれん133例を以下の4群に分類して, 成因, 臨床像, 発作像, 脳波, 長期予後について比較検討を行った.A群, 38℃ 以上の有熱時のみのけいれん, B群, 有熱けいれんで初発したが経過中無熱けいれんに移行したもの, C群, 無熱けいれんのうち, 3歳未満で発作消失し精神運動発達正常のもの, D群, 無熱けいれんのうちC群を除いたもの.熱性けいれんの48.5%で無熱けいれんが発症した.A, D群はそれぞれ特異的な特徴を示し, B群は両群の中間的な特徴を示した.C群はA群とは明らかに異なり, D群の予後良好なものと同一の範疇に位置づけられるであろうと考えられた.
著者
奥村 彰久 早川 文雄 久野 邦義 夏目 淳 渡辺 一功
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.475-479, 1994-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
8

脳室周囲白質軟化症 (PVL) 17例の出生予定日の頭部CT所見を, 正常発達を確認した児50例と比較した.脳室周囲白質の域性低吸収域は正常発達児の40%に認められ, 必ずしも病的な所見とはいえなかった.それに対し, 脳室周囲白質の孤立性低吸収域・脳室壁の不整・半卵円中心の著明な低吸収域はPVLに特徴的であった.新生児期CT所見が軽度・中等度異常の例では, 年長に達した時点のMRI所見とは55%で, 運動発達予後とは50%で, 異常の程度が一致した.CT所見が重度異常の児はMRI所見・予後とも重篤であった.重症のPVLでは半卵円中心の著明な低吸収域が特徴的で, その範囲はMRI所見・予後と関連が認められた.
著者
二瓶 健次
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.16-22, 2002-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
9

Intelligent technology (IT) 技術は, 小児神経を含む医療のあらゆる分野で今後ますます利用されていくと考えられるが, 診療録の電子化, マルチメディアの進歩はこれまでの大都市, 主治医中心の医療から地方分散, 患者中心の医療へと変化していくことが予想され, 医療側の発想の転換も迫られる.生まれてから成人に至るまでの医療データを必要とし, 数の少ない疾患を集積することが必要で, 遠隔医療, 在宅医療の必要性の高い小児神経の分野ではとくにIT化が必要であると考えられる.さらに障害児のケアや生活介護を支援するための技術, QOLの向上のためのシステムが開発され, より質の高いケアがなされることが期待される.それには工学, 医学の両方からの協力が必要である.
著者
太田 成男 石橋 佳朋
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.122-128, 1999-03-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
14

アポトーシスは細胞が縮小していく細胞死として発見され, それが遺伝子のプログラムによって能動的に進行する.アポトーシスは生体制御や生体防御機構として働き, 個体の維持には必須なプロセスである.アポトーシスのシグナルの伝達, 制御, 実行について関与する因子が同定され, その分子機構も詳細に論じられるようになった.アポトーシスのシグナル伝達には蛋白問の相互作用によって伝えられる機構とミトコンドリアシグナルが発せられる機構がある.Bc1-2ファミリー蛋白はアポトーシスを制御する.最終的にアポトーシスを実行するのはカスパーゼファミリーという蛋白切断酵素群であり, カスパーゼ自身も前駆体が切断され活性化される.
著者
原田 正純
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.378-387, 1974-09-01 (Released:2011-05-24)
参考文献数
28

1956年と1958年に水俣で生まれた精神薄弱の2例を報告した. 知能障害, 構音障害, アテトーゼ, ヒヨレア, 発作性症状, 運動拙劣などがいずれの症例にもみられる. 症例2では斜視, 流誕もみられた.これらの症例は外因性精神薄弱と診断される.患者は水俣病多発区で多発時期に生まれ, その母親は水俣湾の魚貝類を多食しており, 水俣病にみられる軽い症状を認める. 他の原因になる因子も見出し得ない. 従来の先天性水俣病に比べると神経症状や運動障害は軽いが, 精神薄弱の原因は胎内でのメチル水銀によるものと考えた. これらの2例から先天性水俣病の底辺には軽症や不全型の型をとるものの存在が考えられる. 先天性水俣病の診断について考察した.