著者
丸山 有希 高田 哲
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.346-351, 2010 (Released:2015-11-21)
参考文献数
16

通常の小中学校の養護教諭を対象に, けいれん発作既往のある子どもへの対応と, 抗けいれん坐薬使用の実態について調査した. 150校中139校 (93%) にけいれん発作の既往児が在籍しており, 1年間に26校 (17.3%) で発作が起きていた. 過去を含めると65%以上の養護教諭が学校でけいれん発作を経験していた. 坐薬を預かった学校は59校 (39.4%) であったが, その際に主治医や医療機関から指示があったのは, 16校 (27%) にすぎず, 主治医や医療機関のサポートに関して, 92人 (68%) もの養護教諭が「ほとんどない」「全くない」と感じていた. 多くの養護教諭は学校での坐薬使用に抵抗を感じながらも, 子どもの安全・安楽のためにやむを得ないと考えていた. また, 医師の明確な指示と相談活動, 緊急時の医療機関の速やかな受け入れ等を望んでいた. 学校側の不安を軽減し, けいれん発作の既往がある子どもたちが適切な健康管理を受けられるよう, これらのサポートの充実が期待される.
著者
阿部 敏明 小川 希代子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.169-173, 1986-05-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
30

シアル酸をもつ酸性糖脂質であるガングリオシドに関する最近の進歩について記述した.ガングリオシドの分離精製の技術的な進歩により, 約60種類の構造が提出され, そのうちで神経系に含まれているのは, 約30種である.神経系の膜成分の重要な構成要素であり, 種々な生理活性をもつ事も証明されてきている.現在は, 神経系の疾患の治療にまで用いられるようになり, 多くの研究者の注目をあびている重要な生体構成成分の一つである.
著者
金澤 一郎
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.185-189, 2012 (Released:2014-12-25)

我が国の難病政策は先進各国の中でも著しく進んでいるとされている. 昭和47年当初は研究の対象を難病と呼び, 調査研究を行う4疾患, 研究協力の見返りとして治療費を国庫が負担する4疾患であったが, その後, 対象疾患が次第に増加してゆき, 現在では, 前者が53疾患, 後者が130疾患になっている. これだけをみると, この制度は極めてうまくいっているように見えるが, 実際には大きな問題をいくつか抱えている.  以下に成人の難病対策がたどった道, 小児の難病への対策とその小史, 難病対策の現状と問題点, 新しい治療研究事業の在り方についての提案を述べる.
著者
鈴木 理恵 齊藤 利雄 丸山 幸一 服部 文子 藤井 達哉 熊谷 俊幸 脇坂 晃子 向田 壮一 糸見 世子 白石 一浩
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.342-349, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1

【目的】Duchenne型筋ジストロフィー (DMD) 患者の教育への支援に向けて, 実際の学校生活についての現状と課題を明らかにすることを目的とした. 【方法】小学生から20歳以下の在宅で生活するDMD患者の保護者を対象として, 5府県の7施設でアンケート調査を行った. 【結果】DMD患者115名の保護者から回答を得た. 小学校入学時の所属は一般小学校の通常学級が60%を占め, 特別支援学校は5%であった. 特別支援学級への転級や特別支援学校への転校をする患者が存在し, その時期は小学5年生が最多であった. 小学4年生から体育の授業での見学が増加し, 保護者から見て学校生活が楽しそうだったという回答が減少した. 中学生以上の患者70名では, 中学校入学時の所属は特別支援学校が60%を占め, 一般中学校の通常学級は13%であった. 保護者の77%が医師と学校の関わりを希望していたが, 希望した保護者の52%が実際には関わりがないと回答した. 【結論】一般小学校の通常学級へ就学するDMD患者は多いが, 歩行が困難になる小学4年生頃から一般の学校での生活が困難になってくる現状があり, 患者・保護者と医療, 教育が情報を共有し, 病状に応じて教育環境を調整していく必要がある. 保護者の希望に見合うほどの十分な医師の学校教育への関わりはなされておらず, 医療と教育の連携体制の構築が望まれる.
著者
古賀 靖敏
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.401-406, 2022 (Released:2022-12-07)
参考文献数
9

ミトコンドリア病の診断に役立つ感度・特異度の高いバイオマーカーを開発する事は,世界中のミトコンドリア病研究者にとって喫緊の課題である.我々は,この課題を解決する目的で,MELASのA3243G変異を持つサイブリッドモデルのメタボローム解析を行い,新規バイオマーカーを探索した.さらに,日常診療において,血清中のGDF15測定を可能にするために,ミトコンドリア病の自動診断薬として,新しいラテックス比濁免疫測定法(LTIA)を開発した.次に,ミトコンドリア病患者,遺伝子異常を有する保因者,および健常者を対象に,市販の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)キットと新しいLTIAデバイスを用いた臨床性能試験を実施し,両者の同等性を調べた.その結果,ミトコンドリア病の新規診断バイオマーカーとしてGDF15を発見し,特許を取得した.全自動分析装置に搭載できるLTIAデバイスは,既存のELISAシステムと同等性を示した.LTIAデバイスを用いることで,感度94%,特異度91%の確率でミトコンドリア病の迅速な診断が可能となった.この自動化されたハイスループット技術は,ELISAキットよりも処理時間がわずか10分と短く,サンプル測定あたりの推定コストが低いという明確な利点があり,ミトコンドリア病の早期診断と治療が可能となる.この発見は,トランスレーショナルリサーチの成功例であり,世界のミトコンドリア病の診断アルゴリズムに革命をもたらすと考えられる.
著者
高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.99-105, 2013 (Released:2014-10-11)
参考文献数
20
被引用文献数
7

非ヘルペス性急性辺縁系脳炎を代表とする神経細胞表面抗原に対する自己抗体の関与する脳炎では比較的予後が良いとされる. 非ヘルペス性急性辺縁系脳炎の抗NMDA型glutamate receptor (GluR) 抗体は, NMDA型GluRの内在化により脳炎症状を起こすと考えられているが, シナプス外NMDA型GluRの内在化により, グルタミン酸などによるGluR活性化—アポトーシス (興奮毒性) を抑制, 予後を改善している可能性がある. シナプスのNMDA型GluRは内在化されにくく, cAMP-response-element-binding-proteinリン酸化が保持され, 細胞生存が可能となっている可能性がある.
著者
石山 昭彦
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.184-189, 2019 (Released:2019-05-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1

遺伝性ニューロパチーは, 遺伝子変異など先天的要因により末梢神経の脱髄または軸索障害が生じ, 運動あるいは感覚神経障害をきたす疾患である. 遺伝性運動感覚性ニューロパチー (Charcot-Marie-Tooth病と同義) が代表的な病型であるが, 下肢優位の四肢遠位筋の筋力低下, 足の凹足変形, 逆シャンペンボトルと呼ばれる下肢遠位筋萎縮が臨床的特徴とされる. PMP22重複がFISH検査で確認されるCMT1Aが大半を占めるが, それ以外の病型でも次世代シークエンスの普及により新規遺伝子が同定され, 病態の理解が深まってきている. 診断にあたっては電気生理学的診断および遺伝形式により病型分類がなされ, 遺伝子診断へとすすむ. 鑑別疾患として末梢神経の炎症性疾患である炎症性ニューロパチーがあげられるが時に鑑別が困難なことがある. 遺伝性ニューロパチーの知識の整理を行い, 小児神経科医が知っておくべき末梢神経疾患の理解を深めたい.
著者
小林 康子 田中 総一郎 大沼 晃
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.153-158, 2003-03-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
12
被引用文献数
2

“哺乳ビン依存状態” と考えられる発達障害児5例 (男児4, 女児1) (本症診断時年齢2.9±0.9歳) を検討した. 全例において中等度~重度発達遅滞 (DQ17~37: 本症診断時) を認めた. 全例, 口腔異常反射なく, 準備期, 口腔期, 咽頭期にも問題はなかった. 全例, 哺乳ビンからのミルク摂取は可能であるが, 離乳食に対しては強い拒否的反応を示し, 長期間離乳食を摂取していなかった. これらの症例に対し, 一時的に抑制して強制的に食べさせることを試みたところ, 予想に反して離乳食摂取は短期間で可能となった. 本症の拒否的反応は, 必ずしも離乳食摂取の拒否を意味していないと考えられた. 離乳食摂取時の強い拒否的反応を摂食拒否ととることが, 本症をつくる一因となるのかもしれない. また, 対策として摂食時の抑制と同時に, 哺乳ビンの中止も効果的であった. 本症では, 飲む, 食べる機能の切り換えがうまくいかない可能性も示唆された. 長期間離乳食が進まない発達障害児の場合, 本症も念頭において対応する必要があると思われた.
著者
山崎 友郷 榎本 貴夫 青木 司 能勢 忠男
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.524-529, 2000-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
14

小児中頭蓋窩くも膜嚢胞のうち, 奇異な症状を呈し手術によりその改善をみた3症例を報告する.通常中頭蓋窩のくも膜嚢胞は無症状か頭痛, 頭重感など漠然とした症状を示すものが多いといわれ, 保存的に治療していくことが多かった.しかしわれわれは, 言語発達遅滞, 嘔吐, 行動異常など, 嚢胞との相関が明確でなく, 奇異な症状を示し, 嚢胞-腹腔短絡術により明らかに症状の改善をみた3症例を経験した.これらの症例を通じ, 中頭蓋窩くも膜嚢胞は症状と嚢胞との相関があまり明確ではない症状を示すものを含めて, 手術を行えば症状の改善する症例が少なからず存在するものと推察された.
著者
上地 玲子 玉井 浩 井手 友美
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.121-124, 2018 (Released:2018-03-28)
参考文献数
3

ダウン症児は, 身体的な疾病疾患や知的および身体的な発達・発育の遅れを有する. 我々は, ダウン症児の発達の遅れの一因に, 筋の低緊張が考えられることに着目した. 多くのダウン症児は通常でも開口状態が多く, また 「食事」 「会話」 「呼吸」 「睡眠」 に深く関係する口について不安を抱えることが多い. そこでダウン症児のQOLの向上を目的としたプログラム創出を目指した第一歩として, 簡単で安全, 口の機能向上が期待できる器具を使用した口輪筋トレーニング (1回3分1日4回目標) を実施し, その安全性および発達の変化についての有効性を評価した. 口輪筋トレーニングを10名 (4.0~6.9歳) のダウン症児に実施し, 試験参加者全員が安全に実施でき, トレーニングが各家庭で可能であることが確認できた. トレーニング非実施群 (通常療育群) 6名 (6.1~9.1歳) を対象として比較したところ, 握力が高くなり, 口唇閉鎖力も高い傾向が見られた. また実施群においては, 新版K式発達検査では, トレーニング回数が平均3回/日以上の児で発達の向上が認められ, みつば式言語発達検査では, トレーニングの回数と言語発達に有意な相関があった. さらに, トレーニング実施により, 発語がクリアになる, 食事や嚥下がスムーズになった, 指示がよく通るようになった, 歩行が安定した, 表情が豊かになった, 風邪をひきにくくなった, などの感想が得られ, QOLの向上に期待できるトレーニングであることが示唆された. 一方で, トレーニング回数の確保 (1日3回以上) が課題であることが明らかとなったことからも, 一定の回数以上のトレーニングに何らかの工夫が必要と考えられ, 継続性の担保が不可欠であることが明確となった.
著者
林 貴大 木村 暢佑 中森 いづみ 樋口 嘉久 宮嶋 智子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.294-295, 2018 (Released:2018-08-16)
参考文献数
5

MethylphenidateはADHDに使用され, 適正使用ガイドには脳血管発作 (脳出血, 脳梗塞, くも膜下出血) の報告例が記載されている. 今回methylphenidate内服中に2回の脳出血を来した13歳男子を経験した. 6歳7か月からmethylphenidate 18mg, 9歳1か月よりatomoxetine 20mgを毎日内服していた. 10歳9か月時に意識障害を生じた. 頭部CTでは左側頭葉に出血が認められた. 血圧, 身体所見, 血小板数, 凝固能, 抗核抗体, 頭部MRIやMRAでは異常所見はなかった. 保存的加療で1か月後の頭部CTでは出血像は消失していた. 薬剤性を考慮し2剤を中止したが, 多動や集中力低下が著明であり出血3か月後からmethylphenidateのみを再開した. 後遺症なく経過していたが, 12歳11か月時トランペット吹奏中に同部位に再出血を来した. 脳血管造影検査では器質的疾患の存在は否定的であった. Methylphenidateは構造や作用がamphetamineに類似している. Amphetamine使用例での脳血管発作の報告例は散見する. 機序として, 血管炎, hypertensive spikesや脳血管奇形の破綻が報告されている. 本症例では, これらの所見は指摘できなかったが, methylphenidateは稀に脳出血を来しうることを考慮する必要がある.
著者
森 健治 森 達夫 郷司 彩 伊藤 弘道 東田 好広 藤井 笑子 宮崎 雅仁 原田 雅史 香美 祥二
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.281-286, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

【目的】近赤外線スペクトロスコピー (NIRS) を用い, 顔表情の模倣課題を施行中の前頭葉活動について, 自閉症と定型発達の小児例で比較検討する. 【方法】対象は定型発達の男児10例, 知的障害を有さない自閉性障害の男児10例. NIRS測定のため左右前頭部にそれぞれ17チャンネルのプローブを装着した. 【結果】自閉症群において初回検査時, 両側下前頭回弁蓋部 (Broca野) での酸素化ヘモグロビン (oxy-Hb) 濃度の上昇は, 定型発達児に比べ有意に低かったが, 同じ課題を複数回練習してから, 再度, NIRSを施行したところ, 同部でoxy-Hb濃度の有意な上昇が認められた. 自閉症群におけるoxy-Hb濃度の変化量と感情ラベリング成績の間には正の相関関係が認められた. 【結論】自閉症においても模倣運動を繰り返すことによりミラーニューロンを賦活できる可能性が示唆された.
著者
安原 昭博 吉田 由香 堀 あいこ
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.165-167, 2003-03-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
4
被引用文献数
2

注意欠陥/多動性障害 (AD/HD) 診断用テストのコンピュータ・ソフトを制作し, 臨床応用を試みた. 対象は6~13歳のAD/HD男児20名と, 6~12歳のnon-AD/HD対照男児10名である. NoruPro Light Systems, Incと共同作成したコンピュータ・ソフト「もぐらーず」は, 2種類の異なる画像を提示する視覚性課題弁別検査であり, 被検者は1つの決まった画像に対してキーボードを押すことを義務づけられている. AD/HD群の正解率は84~86%であり, non-AD/HD群の96~98%よりも有意に低値であった, 正解率の低さは衝動性を反映すると考えられ, AD/HD児には行動を抑制する機能の障害があるのではないかと考えられた. 反応潜時のばらつきはAD/HD群で有意に大きく, これは注意集中の持続性の欠如を示していると考えられた.「もぐらーず」はAD/HDの症状を客観的に評価でき, 診断に有用な検査であると考えられる.
著者
小笠原 真志
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.201-205, 2023 (Released:2023-07-05)
参考文献数
20

先天性ミオパチーは臨床的,病理学的,遺伝学的にheterogeneousな遺伝性筋疾患である.筋病理で筋線維内に特徴的な構造異常を認めるため,従来,先天性ミオパチーは筋病理学的に診断がなされてきた.筋病理像によって,ネマリンミオパチー,コアミオパチー(セントラルコア病・マルチミニコア病),ミオチュブラーミオパチー/中心核病,先天性筋線維タイプ不均等症に細分化されている.近年の遺伝子解析の技術の進歩に伴い毎年のように先天性ミオパチーの新規原因遺伝子が同定され,さらに1つの原因遺伝子が複数の先天性ミオパチーを来す報告がある一方で,1つの先天性ミオパチーを来す原因として複数の原因遺伝子が報告されている.また遺伝形式も顕性遺伝しか報告のなかった原因遺伝子で潜性遺伝も報告され,その逆の例もまた報告されている.そのため遺伝子検査によって得られた結果だけではその解釈は難しい場合がある.従来,先天性ミオパチーは臨床的に表現型が似ているため筋病理によって診断がなされてきたが,最近の大規模な症例解析によって臨床的に異なる表現型を呈することが分かってきた.本稿ではそれぞれの先天性ミオパチーの臨床的,病理学的,遺伝学的な特徴について最新の知見を踏まえ概説する.また先天性ミオパチーで現在行われている研究についても概説する.
著者
奥村 恵子 相崎 貢一 津留 智彦
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.471-475, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
19

マイコプラズマ感染後に全身倦怠感で発症した急性両側線条体壊死 (acute encephalopathy with bilateral striatal necrosis ; EBSN) の10歳男児例を経験した. 急性期の頭部MRIでは両側線条体と黒質に病変を認めた. 経過中, 錐体外路症状, 錐体路症状に加え, 黒質病変に伴うと思われる尿意切迫・頻尿がみられた. 遠隔期には頭部MRI上, 両側基底核の軽度の萎縮を認め, 臨床的には軽度のチックを残した. EBSNで脳幹病変の合併例の報告は少ない. 尿意切迫・頻尿の報告は調べた限りではなく, 本症例が初めてである. L-dopa補充療法で症状の改善がみられた. ステロイド投与は急性期の症状改善に対しての効果が明らかでなかった.
著者
大沼 晃 小林 康子 飯沼 一宇
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.285-290, 1997-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
17

発達障害941例のMRI中39例に神経細胞遊走障害の所見を認め, 特にsurfaceanatomy scanによる脳溝形成の状態と臨床症状との相関について検討した. 39例中痙性麻痺は25例, 筋緊張低下は6例, 運動麻痺を伴わない知的障害は8例に認められた. 完全ないし不完全な無脳回症7例では全例が痙性四肢麻痺を示したが, 厚脳回症例では8例中7例に運動障害を認めなかった. 典型的FCMD5例では全例に大脳縦裂に沿う幅広い脳回がみられ, 特徴的であった. 知的障害については, 脳回の形成障害が全般性の例ではほとんどが重度であったが, 半球性ないし局所性の例では様々であった. てんかんは21例に認められ, 11例が難治であった.
著者
井上 健 岩城 明子 黒澤 健司 高梨 潤一 出口 貴美子 山本 俊至 小坂 仁
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.435-442, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
16

先天性大脳白質形成不全症は, Pelizaeus-Merzbacher病 (PMD) を代表とする主に遺伝性の原因により大脳白質の髄鞘形成不全を特徴とする疾患群の総称である. これまでPMD以外の疾患については, 臨床および分子遺伝学的な分類が困難であった. しかし, ここ数年で新たな疾患概念の確立や疾患遺伝子の同定が進み, PMD以外の先天性大脳白質形成不全症に関する多くの知見が明らかになった. これらを加味した先天性大脳白質形成不全症の診断基準や疾患分類は, 臨床上有用と思われる. 本稿では, 先天性大脳白質形成不全症に関する研究班による成果による新たな診断基準や, この疾患群に含まれる11疾患の鑑別診断のためのフローチャートを含む疾患分類を中心に, 先天性大脳白質形成不全症に関する最新の知見をまとめた.
著者
内匠 透
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.91-94, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
14

ヒト染色体15q11-13重複は自閉症の細胞遺伝的異常として最も頻度の高いものである. 染色体工学的手法を用いて, 我々は同相同領域を重複させたマウスを作製することに成功した. 本マウスは, 社会的相互作用の障害, 超音波啼鳴数の発達異常, 固執的常同様行動等, 自閉症様行動を示した. また, 発達期には脳内セロトニン異常を呈した. 本マウスは, 表現型妥当性だけでなく, 自閉症の原因である染色体異常をヒトと同じ型で有する構成的妥当性をも充たすヒト型モデルマウスである. 本マウスにより, 自閉症を含む発達障害の分子病態解明だけでなく, 新たな診断, 治療, 予防法の確立にも有効なマウスとして, 小児神経学領域における発展が期待される.
著者
香川 和子 森 糸子 丸山 博 福山 幸夫
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.53-64, 1976 (Released:2011-05-24)
参考文献数
20

熱性痙攣患児307例について,単純型と複合型に分類し,各々の臨床的および脳波学的検討を行なった.男188例,女119例で,男女比は約1.6:1であった.単純型は131例,複合型は176例でやや複合型が多かった.脳波所見では,単純型の10.6%,複合型の19.8%に異常を認めた・熱性痙攣の家族歴は35.8%に,てんかんの家族歴は4.8%に認められた.脳障害の原因となり得る疾患の既往歴は16.6%に,また精神発達遅延の症例は4.8%に認められた.発作再発率に関し初発年齢0~11ヵ月,12~35ヵ月,36ヵ月以上の3群で有意差を認めた.臨床的諸項と脳波所見の相関関係について次の結果を得た.
著者
長尾 秀夫 岩永 学 穐吉 眞之介
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.279-282, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
13

【目的】極低出生体重児 (VLBW児) の課題の一つである国語と算数の学習上の問題について, 学習習熟度テストの結果を基に検討した. 【方法】対象は10歳時にフォローできたVLBW児14名, 男6名, 女8名である. 在胎週数は平均27週6日, 出生時体重は平均988gであった. 学習習熟度テストは国語と算数の4年生修了段階の問題を外来の待ち時間に行い, 定型発達児 (TD児) と比較した. 【結果】国語の文章読解で自分の言葉で答える問題の正答率はVLBW児が42.9±51.4%, TD児が69.7±46.3%であった. 作文の正答率はVLBW児が28.6±46.9%, TD児が72.7±44.9%でVLBW児は低かった. 算数の計算法則では, 3つの数の計算の正答率はVLBW児が55.4±14.7%, TD児が66.3±15.5%であった. 文章題2問の正答率は, VLBW児が42.9±50.4%, TD児が52.9±50.1%であった. 【結論】VLBW児はTD児に比べて, 国語・算数共に文章理解に基づく思考を要する課題に困難があった. それぞれに対する教育支援のあり方を提案した.