著者
太田 真紀 長澤 泰子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.255-265, 2005

本研究の目的は、吃音のある学齢児童の自尊感情の関連要因を明らかにすることである。対象者は小学校3〜6年の吃音児およびその養育者124組であった。対象児に4因子からなる自尊感情尺度を実施し、学業成績、運動能力、友人関係、親が吃音を話題にする経験の4要因について分析を行った。その結果、以下の2点を明らかにした。(1)学業成績が高い/ふつう、あるいは運動能力が高い吃音児は、それらが低い吃音児より4因子得点のうち自信因子得点が有意に高かった。(2)親が吃音を話題にしていない吃音児群の5、6年生は、3、4年生より4因子得点のうち自己受容得点が有意に低かった。しかし、親が吃音を話題にしている吃音児群の3、4年生と5、6年生の間に、自己受容因子得点の有意な差はみられなかった。さらに、養育者8名へのインタビューにより、親が話題にする吃音の話は、吃音を否定的に捉えさせないように吃音児を支える内容であったことを明らかにした。
著者
村枝 ひろみ 干川 隆
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.133-143, 2017 (Released:2019-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

本調査は、現在の特別支援学校〈病弱〉中学部に在籍する生徒の実態とそこで行われている支援を明らかにすることを目的とし、発達障害を背景にもつ不登校などの適応障害のある生徒への有効な支援について検討した。現在の特別支援学校〈病弱〉中学部に在籍する生徒の発達障害の内訳は自閉症スペクトラム障害が56.5%を占め、また一方では、この10年間で、発達障害などで適応障害のある生徒数はおよそ2倍になっている。通常の学校で不登校などの不適応を起こした生徒が転入学している状況は今も続いている一方で、特別支援学校〈病弱〉での支援を通して、7割近い生徒の登校状況が「ほとんど欠席なし」になり、卒業後も発達障害を有する生徒の約5割が良好な登校状況を維持していた。これらの結果をふまえ、特別支援学校〈病弱〉中学部の現状と生徒の実態、発達障害で適応障害のある生徒への指導上の課題、また、有効な支援のあり方や特別支援学校〈病弱〉中学部の役割について考察した。
著者
福田 真二
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.317-332, 2014 (Released:2015-11-19)
参考文献数
88
被引用文献数
3 1

特異的言語障害の症状の最も顕著な特徴は、発話時にみられる屈折接辞や機能語などの文法形態素の脱落である。この文法障害の発現機構はまだ解明されておらず、さまざまな仮説が提唱されている。本稿では、これらの仮説の中で音韻処理障害仮説に属する2つの説を検証し、その妥当性について検討した。具体的には、1)急速な音の変化を伴う音の弁別過程の問題、2)音韻ワーキングメモリ・音韻短期記憶の能力の低下、で文法障害の諸症状を論理的に説明することができるのか検証した。今後の課題としては、横断的な研究をする場合には、言語特徴の異なるサブタイプの存在に十分に留意して適切に対象児を選択する、縦断的な研究をする場合には、対象児の年齢層に留意する、ことが重要であると指摘した。また、日本語において特異的言語障害の文法障害の言語特徴を明らかにするにあたって、言語学的な視点から今後の研究の方向性について提言をするとともに研究手法上の留意する点を指摘した。
著者
香野 毅
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.43-53, 2010-05-31 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

発達障害児の姿勢や身体の動きにおいて、その発達的偏りや弱さ、苦手さが観察されることが少なくない。ここではまず、広汎性発達障害、ADHD、LD、発達性協調運動障害について、それぞれの障害における姿勢や身体の動きに関する研究を取り上げた。彼らが姿勢の安定性やバランス、協調運動、粗大運動、微細運動などといった面に困難さを有していることが見いだされ、さらにそれぞれの障害のもっている特徴も報告されつつある。次に姿勢や身体の動きと認知、行動、感情の関係についてこれまでの研究を概観した。最後に、発達障害児の姿勢や身体の動きに対してアプローチしている3つの指導法を紹介した。姿勢や身体の動きが彼らを理解する際のひとつの側面であること、かつ種々の困難さへの治療教育的なアプローチの窓口として活用することを提案した。
著者
宇留野 哲 青木 康彦 石塚 祐香 藤本 夏美 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.257-267, 2022-02-28 (Released:2022-08-31)
参考文献数
20

本研究では、言語発達に遅れのある5歳4か月から7歳1か月のASD児3名を対象に支援者がオノマトペを用いたかかわりを行うことで、ASD児の発声や発話に変化がみられるか否かを検討した。さらに、保護者がオノマトペを用いたかかわりを行う条件においても、ASD児の発声・発話が維持または増加するか否かを検討した。その結果、対象児3名とも、オノマトペ条件で応答的発話の生起率と、発話に占めるオノマトペの割合に増加傾向がみられた。また、保護者条件でも、3名の対象児の応答的発話の生起率と発話に占めるオノマトペの割合が維持した。本研究の結果から、オノマトペを用いたかかわりのほうが、ASD児はオノマトペの発話を行いやすいことが示唆された。また、保護者条件でも対象児の発話が維持した。さらに、オノマトペを用いたかかわりは、保護者が実施しやすいことが示された。今後の課題として、オノマトペが発話を促す有効性について検討を深める必要性が論じられた。
著者
山本 多佳実 井澤 信三
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.269-282, 2021-02-28 (Released:2021-08-31)
参考文献数
21

本研究は、自閉スペクトラム症のある青年3名に対して「悪質商法の勧誘を断る行動」の指導を行い、①悪質商法の勧誘を断る行動の獲得、②直接指導をしていない悪質商法への般化、③悪質商法と悪質商法ではないものの適切な弁別、の3つを検討することを目的とした。指導は①ルールの提示、②シミュレーション訓練、③トレーナーからのフィードバックの順に行った。ルールの提示には、悪質商法の勧誘の断り方が収められたビデオとルールシートを用いた。シミュレーション訓練は、外出条件と在宅条件の訓練を行った。各条件には悪質商法課題と非悪質商法課題を用意し、訓練を行った。訓練後にトレーナーからフィードバックが行われた。結果は3名全員が指導した行動を獲得し、悪質商法と非悪質商法課題の弁別ができた。3名中2名は対人般化、1名は条件般化にも成功し、1名に関しては実際場面での般化のエピソードも確認された。
著者
松岡 勝彦 小林 重雄
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.1-12, 2000-01-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

本研究では、自閉症児者が不得意であるといわれてきた、「他者意図」の理解に関して、行動分析学の立場から、「他者意図」と表現されるものに対応するための適切な刺激設定はどういうものであるかを明確にし(Sidman,1971参照)、どのような環境設定を行えば、これを理解可能になるかを検討することを目的とした。ここでは、他者に対する援助行動という社会的行動の形成の中で、他者の言語行動を「字義通り」に解釈する条件と、環境設定との組み合わせで「言外の意味」を理解する条件とを設定した。訓練では、これらを弁別するためにビデオ弁別訓練が行われた。その結果、対象児は上記の2条件に応じた行動が可能となった。このことから、「心の理論」の欠如(「他者意図」の理解困難)といった抽象的に表現される対象を詳細かつ機能的に分析し、「他者意図」に対応する弁別訓練を行うことにより、他者の「心的状態」の理解を可能とする方略が導き出されるのではないかと考えられた。
著者
霍間 郁実 四日市 章
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.421-430, 2013
被引用文献数
1

本研究では、手話から日本語への同時通訳(読み取り通訳)の量的な側面を明らかにするために、訳出率と変換作業について分析を行った。分析対象とした手話話者の発話の文節数は307文節であり、各通訳者5名が発話した文節数は207~283文節であった。訳出率は41.7%~71.8%であり、通訳資格をもつ者の中でも差が大きいことが示された。通訳者は重要語を選択的に訳出しており、訳出率の高い通訳者は少ない発話数で効率よく訳出を行っていることが推察された。訳出における変換作業は「同等」「言い換え」「付加」「省略」「誤り」に分類され、「言い換え」や「省略」では、通訳者が共通して選択する文節があることが示された。
著者
武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-15, 2001-06-30 (Released:2017-07-28)

本研究は自閉性障害児2名に対する異同概念の成立について検討することを目的とした。まず、異同概念に関する課題分析が刺激等価性パラダイムを応用して実施された。それに基づいて異同概念に関する課題が4つ選定された。さらに、4つの課題構造が分析され、訓練課題が選定された。その訓練課題では、「同じ」という概念に基づく標的反応が正の強化で維持され、「違う」という概念に基づく標的反応が負の強化で維持されるように随伴性が配置された。その結果、1名は1つの刺激セットに対する訓練のみで、異同概念に基づく反応が他の3つの課題や他の新奇な刺激セットに転移した。もう1名においても3つの刺激セットを訓練された後、新奇セットへの転移が得られた。以上の知見は「関係の概念」に対する分析・援助パラダイムへの拡大という観点から考察された。
著者
藤野 博
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.63-72, 2013 (Released:2015-02-18)
参考文献数
41
被引用文献数
3

学齢期の高機能自閉症スペクトラム障害児への社会性の支援に関する研究動向を展望し、今後の課題を検討した。初期の研究でのおもな介入法は、会話や他者との関わり方など、コミュニケーションスキルを標的とするSSTに基づいていた。表情理解などの非言語的コミュニケーションや心の理論などの社会的認知の視点がそれに加わり、近年では抑うつや不安などの情動面の問題への認知行動論的なアプローチも導入されている。ほとんどの研究で効果が報告されているが、介入の標的や方法、研究デザインやアウトカム測度などが多様で、特定の介入法の効果に関して一般化できるだけの確実なエビデンスはない。介入プログラムのマニュアル化とコミュニティでの実践に基づくRCTによる効果検証は今後の課題であろう。その一方で、個人の生活史や社会的状況に密接に結びついた個別的な問題に対する形式的なスキル獲得を目指したアプローチの有効性と限界についても議論する必要がある。
著者
藤原 直子 大野 裕史 日上 耕司 佐田久 真貴
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.383-392, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究は、発達障害児の親に対するペアレント・トレーニングにスタッフとして参加した大学院生のうち、親面接を担当した5名を対象に、参加後の変容について検討した。親面接担当スタッフは、事前にペアレント・トレーニングに関する学習や演習を行い、実際のペアレント・トレーニングでは親への講義やグループワークにおける面接を担当した。ペアレント・トレーニング参加後、子育て支援に対する効力感に関して、託児担当スタッフには変化がみられなかったが、親面接担当スタッフは5名中3名で有意に向上し、「育児不安に対する支援」と「支援環境の整備」は5名全員に向上が認められた。また、面接の進め方に対する親からの評価が高くなり、スタッフの面接技術や話し方が変化したと推察された。これらの結果から、ペアレント・トレーニングにスタッフとして参加し、親への講義や面接を行うことが、発達障害児の親および子育てに対する支援者を養成する一助となる可能性が示唆された。
著者
大久保 賢一 福永 顕 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.35-48, 2007
被引用文献数
1

通常学級に在籍する他害的な問題行動を示す発達障害児に対して、大学相談機関と小学校が連携し、学校場面における行動支援を実施した。対象児に対する個別的支援として、(1)適切な授業参加を促すための先行子操作と結果操作、(2)課題従事行動を増加させるための結果操作、(3)問題行動に対する結果操作を段階的に実施した。また、校内支援体制を整備するために、(1)発達障害の特性や問題行動の対応に関する校内研修の実施、(2)支援メンバー間における情報の共有化と行動の継続的評価、(3)全校職員に対する情報の伝達といったアプローチを行った。その結果、対象児の適切な授業参加や課題従事行動が増加し、問題行動は減少した。また、大学スタッフと保護者の個別的支援を実施する役割を学校職員へ移行することが可能となった。対象児に対する個別的支援と校内支援体制の構築に関して、その成果と課題について考察を行った。
著者
山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.11-22, 1997
被引用文献数
1 3

2名の自閉症児について、機能的な報告言語行動が成立するための条件を検討した。対象児は、静止画、動画、実際の動作が提示される場所まで歩いてゆき、その刺激を見てから聞き手のところで、「〜が〜を〜している」という文章を用いて報告する報告言語行動連鎖が形成された。実験Iでは、そのような行動連鎖が確立し、他者動作の訓練のみによって、自己動作が用いられた場合においても適切な主語と助詞を含む文が成立し、それらが共通の刺激クラスとしてまとまることが示された。実験IIでは、報告言語行動に伝達の機能をもたせるため、行動連鎖の中に、聞き手の名前を「呼びかける」言語反応を組み込んだ。その結果、未知の聞き手に対しても自発的呼びかけが成立した。すなわち、聞き手の注意を向けてから言語報告を行う行動が確立した。実験IIIでは、実際の教室場面において、獲得された行動連鎖の般化が評定された。その結果、聞き手を特定する手がかり刺激を与える手続きを付加することで、適切な呼びかけ反応ならびに適切な報告言語行動が生起した。これらの結果は、叙述的機能をもつ報告言語行動の機能化と般化のためのプログラム構成という点から考察された。
著者
阿部 美穂子 神名 昌子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.157-167, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本研究は、質問紙調査と面接調査により、障害のある子ども(以下、同胞とする)の兄弟姉妹(以下、きょうだいと表記)の同胞に関する否定的感情の強弱と親からのサポート期待感の高低の関係を検討することを目的とした。小学生から成人のきょうだい335名の質問紙調査の結果、サポート期待感が高い群の否定的感情の平均値は、サポート期待感が低い群より有意に低いことが示された。また、否定的感情の強い群、弱い群に属するきょうだいとその親計12組の面接調査の結果、否定的感情が強いきょうだいの特徴として、家族に悩みを相談しない傾向、父親とのかかわりの希薄さが示唆された。また、否定的感情が弱い群の親がきょうだいの意思や感情を受容するサポートをしているのに対し、強い群の親には同胞の障害理解・対応促進を重視するサポートがみられた。このことから、きょうだい支援にあたり、両親ときょうだいとの受容的・支持的関係性を促進する必要があることが示唆された。
著者
渡部 信一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.33-39, 1996-03-30 (Released:2017-07-28)

今回筆者は、それまで全く指導を受けたことのなかった「指書」をコミュニケーション手段として突然使い始めたひとりの音声言語を持たない自閉症児を経験した。本事例は幼児期から文字に対しては著しい興味を示し、「指書」出現以前にも単語(ひらがな、カタカナ)の書字はある程度可能であったが、それをコミュニケーションに用いることは全くなかった。初めて「指書」が出現してから3ヵ月後には30単語、6ヵ月には100単語以上が観察され、その後も2単語の連続や品詞の拡大(形容詞、動詞、助詞、感情語)などの発展が認められた。従来、自閉症児に対し音声言語以外のコミュニケーション手段を意図的・系統的に指導した報告は多数あるが、本事例では事例自らが「指書」という新たなコミュニケーション手段を使い始めたという点で従来の研究とは異なった意味を持つと考える。