著者
高野 聡子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.223-231, 2017

「精神薄弱児施設」とは、精神薄弱児を収容し教育と24時間の処遇を提供した入所型の施設である。国内では第二次世界大戦までに約10か所の精神薄弱児施設が創設され、精神薄弱児を保護するとともに、精神薄弱児のための教育を施設内で提供した。本稿では、戦前期に創設された精神薄弱児施設に関するこれまでの研究を、2000年代とそれ以前とに分けて整理し、(1)発掘された資料の保存を進め、史資料に基づいた研究がなされること、(2)施設ごとに異なる精神薄弱やその程度に関する用語を再検討すること、(3)精神薄弱児施設で行われた教育内容・方法を障害児教育史に位置づけること、(4)精神薄弱児施設が受けた欧米諸国の教育や処遇方法の影響を検討すること、を精神薄弱児施設史研究の今日的意義と課題であるとした。
著者
伊藤 恵子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-11, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿は、自閉症スペクトラム障害(ASD)児の指示詞理解における非言語情報の影響を調べることを目的とした。対象は10名のASD児、対照群は10名の定型発達(TD)者であった。方法は、まず言語教示のみで、つづいて言語教示と異なる対象に視線を向けて、最後に言語教示と異なる対象に指さしをして指示対象を特定する指示詞理解実験を行った。その結果、ASD児はTD者に比べ、話し手の非言語情報を指示対象特定の手がかりとして活用しない者が多く見いだされた。これには、話し手の視線方向の特定や、視線からの話し手のコミュニケーション意図の理解などが関連していると推察され、語用論的能力とも深くかかわる可能性があった。このように対人的情報の処理に多くの困難を抱えるASD児の語用論的能力への支援に際し、その場に即した適切な言語や話しことばの獲得といった表層的行動を扱うだけでは十分でなく、言語獲得の基礎になる社会性の育成への働きかけの重要性が示唆された。
著者
荻野 昌秀
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.257-267, 2021-02-28 (Released:2021-08-31)
参考文献数
23

発達支援のニーズのある児の早期発見、早期支援のために各自治体で5歳児健診が行われているが、5歳児で発達障害やその疑いが確認された場合には就学までに支援を受けられる期間が短い。そこで本研究では、保育所における4歳児時点での早期発見の仕組みに活用できる保育士記入式の発達チェックリストの開発を行った。因子分析の結果、4因子15項目が抽出され、再検査信頼性の検討や、関連が想定される尺度との相関分析などから、妥当性および信頼性が確認された。また、本尺度は他の同様の尺度と比較して短時間で回答できることが確認された。さらに、因子ごとのカットオフポイントについては感度と特異度の優れたものを設定した。今後はこのチェックリストの活用や、専門家巡回と組み合わせた際の効果の検証が望まれる。
著者
松下 浩之
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.47-57, 2018-05-31 (Released:2019-12-04)
参考文献数
38
被引用文献数
1

近年、障害のある人の好みを客観的に評価し、支援計画に活用することの重要性が指摘されている。そのための方法論として、応用行動分析学にもとづいた研究が海外では多くされている一方で、わが国においては、支援実践としての報告も多くない。本研究では、好みのアセスメントに関する海外の先行研究を概観して方法論の整理を行うとともに、直近5年間にわが国で発表された実践研究61編について、本人の好みの活用を観点として分析し、わが国における好みを活用した支援のあり方について検討を行った。その結果、好みを支援に活用している論文は半数以下であり、好みについて明確に記述した論文が少ないことが明らかとなった。その要因については、方法論自体の問題とともに、実践現場での知識不足や認知度の低さなどが考えられた。今後は支援手続きを工夫することで好みを活用していくことと、支援の場で活用できる簡易的なアセスメントの開発が、課題として検討された。
著者
平林 ルミ 河野 俊寛 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.275-284, 2010
被引用文献数
1

書字障害の評価は、これまで書字速度と正確さを測度とする方法が中心であり、書字困難の要因を特定するには不十分であった。そこで本研究では、デジタルペンを用いて小学1年生から6年生までの618名に対し、文章の書き写し課題を実施し、書字行動を運動フェーズと停留フェーズに分けて分析した。その結果、運動に関しては、仮名は小学2・3年生間で、漢字は4・5年生間で急激に書字運動速度が増加すること、停留に関しては、仮名は1年から3年にかけて、漢字は4年から5年にかけて停留時間が短くなることが明らかとなった。停留は運動よりも発達変化がゆるやかであり、また仮名と漢字では発達の過程が異なっていた。運動フェーズは視覚運動協応と、停留フェーズは文字の形態分析や音・意味との結びつきと関連していると考えられ、デジタルペンを用いた新たな書字評価の方向性が示された。
著者
戸崎 敬子 清水 寛
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.39-49, 1987-09-14 (Released:2017-07-28)

大正期における特別学級の実態とその性格を解明するために文部省普通学務局『全国特殊教育状況』(1924年、1927年発行)に記載された「特殊教育」実施校名を手がかりに、現在の学校名と住所を調査した上で該当校に対してアンケート調査を実施した(回収率70.7%)。その結果、60例の特別な取組事例(うち25例が特別学級の事例)を得た。調査結果から次の諸点が判明し、大正期特別学級の全国的実態とそれらの性格の一端を明らかにすることができた。すなわち、1.該当校は学校規模の大きい、伝統のある学校が多い。2.回答事例の特別学級のうち、開設時期の判明した学級のすべてが大正期に開設され、その多くが短期間で消滅している。また学級は多様な呼称を持っている。3.特別学級の対象児童のほとんどが学業成績不良児である。しかし、大正末期には知能検査の普及に伴う変化も生じている。さらに学校沿革誌の史料的価値についても明らかにできた。
著者
干川 隆
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.261-273, 2015 (Released:2019-02-01)
参考文献数
67
被引用文献数
3

本研究の目的は、日本で標準化することを目指して、カリキュラムに基づく尺度(CBM)に関する研究動向を把握することであった。CBMは、米国では介入への反応(RTI)の流れの中で児童生徒の学習の進捗状況を把握するための有力な方法である。研究動向は、CBMの技術的な十分さの確立と活用とCBMの展開と限界の項目にまとめられた。CBMの活用としての研究動向は1)CBMの有効性とそのフィードバックのあり方、2)データ評価決定ルール、3)場による指導の効果の比較検討、4)通常の学級での取り組み、の観点から分類された。CBMの展開として、先行研究は新しい学習障害の認定の手立てと学級全体の進捗状況の把握の観点から紹介された。これまでの研究動向とわが国の現状を踏まえ、CBMの意義とわが国におけるCBMの標準化に向けた取り組みが提案された。
著者
井上 知洋 東原 文子 岡崎 慎治 前川 久男
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.435-444, 2012 (Released:2013-09-14)
参考文献数
24
被引用文献数
6 3

本研究では、学齢期の定型発達児(N=120)における読字能力と音韻処理能力の関連の発達的変化、ならびに読み困難児(N=10)における読みの困難と音韻処理の特性および両者の関連性について検討した。課題はひらがな単文字、単語、非単語の読字課題と、モーラ削除課題、非単語復唱課題を用いた。その結果、定型発達児における読字能力と音韻処理能力の関連の様相は学年段階ごとに異なり、通常の読字発達過程における両者の関連の発達的変化が示唆された。また読字課題の反応時間を音読潜時と発話時間に分けて分析したところ、読み困難児に共通する特徴として単語に対する音読潜時と非単語に対する発話時間、さらにモーラ削除課題の遂行時間の延長が認められた。これらの結果から、ひらがなの読み困難のメカニズムにおいては、単語全体として認識する能力の発達の障害と、音韻意識の障害の二点が強く影響していることが示唆された。
著者
小野寺 謙
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.387-394, 2011 (Released:2013-09-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1

通常学級に在籍する小学5年女児の注目機能を有するかんしゃく行動(過度に泣いたり、叫んだりする行動)を改善するために、対象児の級友が対象児を日常的に強化していく非随伴強化手続きを導入した。具体的には、級友が対象児への対応の仕方を学習し、帰りの会で対象児の1日の行動を評価した。その結果、かんしゃく行動はほとんどみられなくなり、それはフォローアップ期においても維持された。さらに、学級全体による取り組みにより、級友の問題行動に対する接し方が変容した。意図的、視認的な支援手続きを実行することにより、対象児と対象児を取り巻く級友の行動が変容されうることが示された。
著者
志賀 利一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.33-40, 1990
被引用文献数
4

我が国でも、発達障害児の治療・教育分野に応用行動分析の手法が用いられてから、既に20年が経過している。この間、多くの行動分析家は、学習理論をベースに様々な指導・評価手続きを開発したり、発達障害児の特異的な行動の解明に貢献してきた。一方米国では、社会的な変化に敏感な反応を示し、"応用行動分析は障害をもつ人の生活の質を向上させる一手段である"と割り切る、より実践的でノーマライゼーションの思潮を意図的に支持する研究者が増えてきている。例えば、彼らは般化と維持の問題は、指導により獲得したスキルを生徒のライフスタイルに組み込むことだと考えている。そして、これを実現するためには、"標的行動の教育的妥当性"、"自然な環境の詳細な分析"、"指導場面の論理性"、"アセスメント方法"などで、より一般化した方法論が必要だと主張している。私達も、障害をもつ人のライフスタイルの変容を期待される以上、この文化に合ったノーマライゼーション化の手段を検討する時期に来ている。
著者
近藤 文里
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.65-78, 2000-06-30 (Released:2017-07-28)

本論文は、子どもの時期に受けた前頭葉損傷の後遺症に関する2つの仮説の妥当性を検討した。第1の仮説は、発達の早い時期に前頭葉に損傷を受けた子どもの場合は、障害がすぐには現れず、遅れて現れるとする「障害の遅延生起」仮説である。また、第2の仮説は、子どもの時期に前頭葉に損傷を受けた症例は成人のそれよりも行動の障害がより重いとする仮説である。この仮説を検討するため、従来報告された14症例について損傷時期ごとに分類したうえで、損傷直後とその後の行動特徴の推移を調べた。その結果、第1の仮説は支持されたが、より重要なこととしては発達の時期ごとに特徴的な問題が現れることが明らかになった。また、第2の仮説も支持されたが、子どもの時期に受けた前頭葉損傷のなかでも両側性前頭葉損傷は片側前頭葉損傷よりも重大な行動の障害を示すことが明らかになった。
著者
黒田 吉孝
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-24, 2003-05-30 (Released:2017-07-28)

本研究は初期言語発達にある自閉症児の大小概念の獲得の特徴を検討した。本研究では具体的「対」概念と抽象的「対」概念という考えを導入してこの問題を検討した。前者では、「お父さんと赤ちゃん」の人形(実験3)と、「お父さんと赤ちゃん」の言葉(実験2)が呈示された。後者では、「大きいと小さい」の言葉(実験1)が呈示された。それぞれの実験で、子どもは大きい対象を選択する必要があった。自閉症児は幼児群(平均生活年齢4:5、平均発達年齢3:1、平均発達指数69)と学齢児群(平均生活年齢14:5、平均発達年齢3:9、平均発達指数27)からなっていた。対照群は、発達年齢が2歳代と3歳代の健常児と知的障害児であった。自閉症幼児群は健常幼児群よりも成績が劣っていたが、反応傾向は健常幼児群や知的障害児群と似ていた。一方、自閉症学齢児群は、3課題とも他の群よりも成績が悪かっただけでなく、特異的な傾向をしめした。また、各実験において、彼らの中に大きい対象を選択せずに対象の名前を言うケースが比較的多くみられた。自閉症学齢児群における大小概念獲得の困難さの原因にこのような反応が関係していることを指摘した。本研究ではさらに初期言語発達にある自閉症児の具体的な「対」概念と抽象的な「対」概念の関係についても考察を加えた。
著者
林 宝貴
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.49-62, 1975-12-15 (Released:2017-07-28)

特殊教育先進国における聾児言語指導は医学・心理・教育・工学など諸科学の発達の影響下で、口話法・聴能訓練を改善促進して著しい効果をあげているにも拘わらず在学中の聾唖生及び社会人としての聾唖者は、依然手話を交信の主な手段・又は補助手段として偏重している。最近特殊教育先進国の教育・心理学界の学者達も手話の存在価値を見直し再評価しようという傾向があり、僅かながらも、それに関する実験調査の報告が出ている現状にかんがみ、手話を言語指導上の補助手段として位置づけ、より合理的な手話の整理・研究を行なうための先行調査研究として、アメリカ・日本・中華民国(以下台湾と省略する)の手話法について比較研究を試みたい。
著者
北野 与一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.1-8, 1979

この報告は、私立金沢盲唖院に関して、松村精一郎の生涯、彼が育まれた石川県の社会的教育的背景、彼の設立の動機、設立経過、閉院の理由、設立者の特質、課題などに若干の考察を行ない、これまでに発表されたいくつかの報告に補充を加えるものである。松村の書簡及び当院に関係する教育史的史料などの文献により考察した結果、(1)松村は天然痘とその余病により、聴覚・言語・運動障害をもっていた、このことが当院の特質であった、(2)彼は障害者に理解のある師に教えられ、協力を惜しまない親友をもっていた、(3)加賀藩に紹介された欧米の盲・聾教育が、松村の成長に間接的に影響していた、(4)中村正直に師事したことや、帰郷途中、京都で楽善会友に出会い、京都盲唖院を参観したことが、松村の設立の動機であった、(5)研究・調査に大阪、京都校を訪れた、(6)経済的変動やコレラの流行、県令の更迭、就学勧誘の努力の不足も閉院の要因であったなどの結論を得た。
著者
古川 宇一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.34-46, 1978-03-15 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

中部太平洋岸の小漁村における成人知的遅滞者の生活状況の特徴とその社会的背景について検討した。資料は知的遅滞者の家族・職場関係者、村人との面接資料、および関係事務所の文献資料である。世帯数371、カツオ・マグロ遠洋漁業を主産業とするこの村では、男子知的遅滞者は1人前に働きうる存在であり、就業し家庭を持っているものが多い。女子の場合、結婚するか、さもなくば次世代の家族に扶養されている。村人の態度は受容的であり、知的遅滞が問題になることは比較的少い。このような知的遅滞者の生活状況を支える社会的背景として、地域社会の主産業である漁業の技術的単純性、職場適応への良い教育環境、職場・地域社会における強い血縁的紐帯、漁業利益配分における古い平等原則の残存、世帯間の生活様式の類似性、家計収入面での利害の共有性、古くからのつきあいの緊密性、しつかりした家制度の残存などの要因が考えられた。
著者
楠見 友輔
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.213-222, 2016
被引用文献数
1

本稿では、異なる学校や学級に在籍する障害児と健常児の直接的交流を射程とし、わが国の交流教育に関する研究の課題と今後の展望を示した。筆者は交流教育の先行研究をその目的によって、1. 交流経験とその効果の関係を検証する研究、2. 交流の実施状況や交流に対する意識の実態の調査、3. 実践の開発を志向した事例分析、4. 交流計画や実践の報告の4領域に整理し、その知見をまとめた。今後の展望は4点に整理された。第一は、形式・内容・構造の違いによる目的・効果の差異を考慮することである。第二は、集団間接触理論の知見との結合により、効果的な交流の条件を解明することである。第三は、事例研究と態度研究の併用によって、交流の過程と効果の関係を明らかにすることである。第四は、障害児と健常児の交流機会を継続的に確保し、全学校種・障害種における交流の効果や有効な方法を検討することである。
著者
大石 幸二
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.47-56, 2016 (Released:2019-03-19)
参考文献数
59
被引用文献数
1

行動コンサルテーションとは、応用行動分析や認知・行動療法の考え方に基づく間接援助モデルである。本論文では、行動コンサルテーションに関するわが国の研究と実践を概観し、今後の課題を指摘した。学会誌に発表された研究論文はその数が少ないが、関係者の相談行為が相互に強化されるような介入研究の増加が求められる。一方、大学・研究機関の紀要に発表された実践報告は大学教員が主導するものが多いが、実践家による成功を修めた実践報告の増加が求められる。行動コンサルテーションの理論と技法がわが国に導入されてから10年が経過した現在、この間接援助モデルは、着実に発達障害児の指導・支援に活用されつつある。今後は、相談過程の詳細な分析と、長期的維持・般化の検討が、行動コンサルテーション研究の発展に欠かせないであろう。
著者
有川 宏幸
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.265-275, 2009-11-30 (Released:2017-07-28)

応用行動分析学に基づく自閉症児への介入法は、有効性が認められてはいたものの、米国心理学会臨床心理学部会が示した「十分に確立された介入法」としての基準を満たしていなかった。しかし、それに準じる介入法として注目されていたのがUCLA早期自閉症プロジェクト(UCLA YAP)であった。Lovaas(1987)は、UCLA YAPを4歳未満の自閉症児に週40時間、2〜3年にわたり行ったところ、47%が標準範囲のIQに達したことを報告した。この結果は前例のないものであったことから、多くの研究者に精査され、自閉症からの「回復」という表現の問題や、無作為割付けの有無といった実験手続き上の問題などについて批判を浴びることとなった。そのため追試・再現研究は、可視的に、科学的な厳密さをもって実施されており、こうした批判への反証データも示されるようになっている。しかしながら、この成果については依然として不明な点も多く、「証拠」(evidence)に基づく継続的議論が必要であろう。
著者
涌井 恵
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.381-390, 2013 (Released:2015-03-19)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本稿では、おもにLD児を対象に含む通常の学級における協同学習の研究動向について概観し、今後の研究の課題について探った。協同学習は単なるグループ学習ではない。協同学習の5つの基本要素を満たすことで、学力のみならず、社会性、仲間の受容、多様性の理解、高次の思考スキルの促進など、さまざまな効果を及ぼすことができる。学習障害(LD)等の障害のある子どもにも活用される協同学習の代表的な教授モデルについて整理した。また先行研究において協同学習にはどのような効果が示され、今後LD児等を対象にした研究が進展していくためには、どのような課題があるのかを論考した。
著者
北 洋輔 田中 真理 菊池 武剋
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.163-174, 2008-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 2

発達障害に対する正しい認識と適切な支援を導くために、広汎性発達障害児と注意欠陥多動性障害児を中心にして、発達障害児の非行行動発生にかかわる要因について研究動向を整理し、問題点と今後の改善点を指摘した。先行研究からは、個体の障害特性に密接にかかわる非行行動の危険因子と障害を取り巻く環境の危険因子が指摘された。だが、危険因子に着目した取り組みは、非行行動にかかわって発達障害児本人と親・関係者に対する支援を進める際の社会的意義を十分に達成できない問題点がある。その改善点として、非行行動の保護因子の導入と発達障害児の内面世界への着目が挙げられた。