著者
三沢 義一 小畑 文也
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1-9, 1987-09-14 (Released:2017-07-28)

精神薄弱者の職場適応の実態と、それに影響を及ぼすと思われる個人的、環境的要因との関連を検討することを目的として、三沢ら(1983)による評定尺度を用い調査研究を実施した。分析対象となったのは現に企業に雇用されている198名の精神薄弱者の資料である。職場適応評定尺度の因子分析の結果、5つの因子(作業適応、勤務態度、人間関係、身辺処理、耐性)を抽出した。このうち作業適応の因子は説明率も極めて高く、精神薄弱者に対しても企業側は作業の能率や質の高さを求めていることがうかがわれた。さらに、個人的、環境的要因と各因子の推定因子得点の間で数量化1類による分析を行った。各因子と個人的、環境的要因の関連はさまざまであり、これらの結果を知的水準、パーソナリティ特性、勤務態度要因、人間関係要因、身辺処理の各視点から考察した。
著者
齋藤 一雄 星名 信昭
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.49-54, 1992-03-30 (Released:2017-07-28)

MA3歳代のダウン症児に対して、手拍子によるリズムパターンへの同期の学習効果をみた。その結果、等間隔の〓への同期は2回の学習で50%以上に達した。そして、4/4〓〓〓〓というリズムパターンへの同期は、4回以上繰り返す中で50%以上できるようになったが、80%以上にはならなかった。リズムパターンへの同期は、等間隔の〓への同期→休符の予期→パターンの把握→細かい動きによる調整をして同期するという過程をたどることも示唆された。さらに、示範やテンポ、同期反応のさせ方は、リズムパターンへの同期の学習に影響を与え、テンポの設定や学習のさせ方、課題提示の仕方、指導方法等を子どもに合わせて工夫する必要がある。また、学校全体が休みになったり、長い間学習が中断したりすると、同期の成績が落ちる傾向がみられた。
著者
今野 和夫
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.17-29, 1977-10-15 (Released:2017-07-28)

施設精薄児は、生育過程での特異な社会的人間関係-Social deprivation-を通じ、2種類の動機づけ特性を形成しているという。そのひとつは負の反応傾向であり、未知のおとなと相互作用することへの強い不安・警戒心を意味する。他のひとつは正の反応傾向であり、おとなからの承認・支持を獲得することへの強い動機づけを意味する。本実験では、これらの特性を実験的に操作することにより設定されたおとなからの4種類の介在様式の下で、施設精薄児の対連合学習行動が比較・検討された。その結果、2つの動機づけ特性を共に低減・充足させるようなおとなの介在様式は、施設精薄児の学習水準を特に高揚させた。さらに総じて、施設精薄児の学習行動は、おとなの介在の仕方により決定的な影響を受けた。ちなみにこれらの傾向は、同MA施設正常児についても若干認められたが、同MA家庭正常児については殆んど認められなかった。
著者
荻野 昌秀
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.177-186, 2020-11-30 (Released:2021-05-25)
参考文献数
16

近年、特別な支援を要する児への対応が求められているが、現場で活用できるリソースには限界があり、コンサルテーションのニーズは高まってきている。本研究では、保育所における行動コンサルテーションの効果を明らかにすることを目的とした。また、コンサルティ自身が機能的アセスメントを実施できるようになるためのコンサルテーションのあり方についても考察した。クライエントは4歳児クラス(特別な支援を要する幼児3名を含む)、コンサルティは担任保育士2名であった。対象クラスは20名であり、一部の児の離席、退室や攻撃行動、およびクラス全体の頻繁な私語がみられていた。7回のコンサルテーションにより、適応行動への注目や代替行動の強化など、児の行動の機能に応じた対応が可能となり、対象児の離席、退室や攻撃行動、クラス全体の私語が減少した。今後は保育士自身が機能的アセスメントを行うことが望まれる。
著者
相馬 壽明 関根 弘子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.27-34, 1986-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

本研究の目的は感情語(16語)を用いて聴覚障害児童・生徒の語彙について検討することである.聴覚障害児童・生徒111名と健聴児童・生徒322名に対して2種の語彙検査(検査1:選択課題,検査2:短文作成課題)を施行した。検査結果から以下のことが明らかにされた。(1)聴覚障害児童・生徒は健聴児童・生徒よりも感情語の語彙量が劣っており、聴覚障害高等部3年生は健聴小学4年生のレベルに達していない。(2)聴覚障害児童・生徒は個人差が大きく,学年進行しても個人差は小さくならない。(3)聴覚障害児童・生徒は、感情語の中でも比較的単純な感情語に対しては正答率も高く、健聴児童・生徒との間に差がみられないが、複雑な感情語に対しては著しく正答率が低下する。
著者
吉岡 学
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.245-256, 2022-02-28 (Released:2022-08-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究では、歩行指導用経路を普段使用している視覚障害者によって事前に白杖歩行してもらい、その際に歩行で必要とする情報に関して事前調査を行った。その後、それらの情報を取り入れた触地図を作成し、その情報を備えた触地図によって、視覚障害児1名が白杖歩行スキルを獲得するための触地図歩行学習と単独歩行学習を行った。指導前には、対象経路に必要な歩行スキルの分析を試みた。指導は、学習室と現実場面にて行われた。学習室では、触地図を使い現実場面をシミュレートする学習を構成し、歩行に必要な環境情報の取得方法の指導を行った。現実場面では、学習室場面での指導の効果を評価するとともに、白杖歩行に必要な指導を行った。その結果、視覚障害のある生徒が白杖歩行するためには、事前に経路の「往路」「復路」について必要とする情報を反映した触地図学習と現実場面での一連の指導が効果的であった。また、白杖歩行スキル獲得において、移動環境における困難性(移動時の方向定位の問題)が存在することも明らかになった。
著者
吉野 公喜 佐藤 正幸
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.10-19, 1983-12-29 (Released:2017-07-28)

補聴器の装用により、明らかに域値の上昇(聴力の低下)が認められ、装用を休止することによって、域値の下降(聴力の回復)が認められる現象を、「聴力の可逆的低下」と規定した。この域値の可逆的低下が典型的に認められる両側感音難聴者に、聴力測定条件を一定として、昭和56年10月より昭和57年9月までの1年間に測定をくりかえし、域値の上昇過程と下降過程及びそれに及ぼす使用補聴器の周波数レスポンスの影響に検討を加えた。本症例で得られた知見は、次のようにまとめられる。(1)本症例にみる「聴力の可逆的低下」は、1000Hz、2000Hzを中心とした谷型を呈しており、低下のみられる周波数域は、使用補聴器の周波数レスポンスのピークにみられる音響的特徴と無関係ではない。(2)音響利得を45dBと一定に保つとき、補聴器装用による域値の上昇は、20dBを越えなかった。(3)域値の上昇過程と下降過程とを観察するとき、域値の上昇にくらべ、その下降(回復)には、多くの時間を要した。本症例にあっては、域値の回復には、2週間の休止が必要とされた。(4)本症例にあっては、装用耳の域値の上昇と非装用耳の域値の下降をくりかえしながらも、単音節に対する最高受聴明瞭度は、右耳で、100%(67語表)、86%(57語表)、左耳で95%(67語表)、82%(57語表)を示した。連続話声に(入力音圧70〜75dB)に対する。preffered listening levelは、116〜120dB(SPL)であり、増幅音声に対する有効性の高いことが示された。
著者
坂本 裕
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.79-85, 2001-03-31 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
2

知的障害養護学校小学部4年2名(男・自閉症・DQ59、女・自閉症・LIQ39)について、前者は入浴の自立、後者は身支度の自立をターゲットとし、教師のコンサルテーションに基づいて母親が家庭で自立の支援を行った事例について報告した。いずれの事例とも約3か月でその支援は終了したが、入浴の事例では、支援期間中、その経過について母親と担任教師との間で細かな検討がなされた。それに対して、身支度の事例では、支援開始までの母親への対応に時間を要し、開始後も担任教師との検討はほとんど行われなかった。こうした母親の対応の違いは、それぞれの家庭の人員構成や生活環境に大きく影響されていた。これらのことより、発達障害児とその家族への支援を行う際には、各家族が個々にもつニーズ、さらには、支援観などを十分に考慮していくことの重要性が指摘された。
著者
青木 真純 佐々木 銀河 中島 範子 岡崎 慎治 竹田 一則
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.165-175, 2020-11-30 (Released:2021-05-25)
参考文献数
35

ASD、ADHDのある大学生に対してDN-CAS認知評価システムを年齢外適用し、知能のPASSモデルに基づく神経心理学的な認知特性ならびに「プランニング」の下位検査遂行中の使用方略の特徴を明らかとすることを目的とした。その結果、ADHD群は「注意」の得点が定型発達学生(TD)群と比べて低く、ADHD群の中核症状である注意制御の困難さを反映したものと考えられた。また、使用方略の特徴について、ADHD群、ASD群ともに「プランニング」の標準得点はTD群との差がみられなかったが、ADHD群では報告方略数が少なく、かつ方略得点が低いことから、方略を意識化して選択し、使用するようなセルフモニタリングの弱さが推察された。また、ASD群では、方略数には差がみられなかったものの、方略得点が低かったことから、TD群の多くが使用する方略とは異なる方略を使用した学生が多かったことを示すものと推察された。
著者
小山 正
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.95-104, 2018-07-31 (Released:2019-12-04)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

ダイナミック・システムズ・アプローチが注目され、20数年が経ち、言語発達支援を考えるうえにおいて示唆に富む報告がなされてきた。しかし、言語の獲得が遅れている事例へのダイナミック・システムズ・アプローチからの研究は少ないのが現状である。本稿では、初期言語学習期にある事例への言語発達支援を考えるうえで、近年の初期言語発達に関するダイナミック・システムズ・アプローチからの諸研究を展望し、言語発達障害の事例への支援におけるその意義や有効性を考察した。縦断資料をもとに、構成要素の軌跡と、それらの相乗作用、そこにみられるアトラクター状態、安定性や不安定性、その移行の検討は重要で、特に言語発達障害がある事例へのアセスメントや言語発達支援において有効であると考えられた。今後は神経構成主義の立場から、行動レベルでの細かな縦断観察をもとに、どのような構成要素に注目していくかを示すことが課題となることを指摘した。
著者
橋本 重治 松原 達哉 中司 利一 藤田 和弘 藤田 雅子 栗原 輝雄 柳本 雄次
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.50-63, 1970-12-01 (Released:2017-07-28)

本研究は、肢体不自由児の性格・行動に関して、第1報にひき続き、次のような目的で行なった。1.肢体不自由児の性差と性格・行動との関連を調べること。2.肢体不自由児の運動障害の程度と性格・行動との関連を調べること。3.肢体不自由児にどのような性格・行動がみられるかを事例により研究すること。研究結果は、次のように要約できる。(1)脳性まひの男子に多いのは、社会性がありという性格・行動で、その中でも人なつこいという内容のものが多かった。また、関心事への固執とか、がんこさ、ふざける、はしゃぐといった傾向も多くみられた。脳性まひ児の女子に多いのは、その中でも、世話をよくするという傾向が多くみられた。また、感覚刺激に注意を奪われやすい、感情の変化が激しい、泣く、驚きやすいといった情緒的な性格・行動も多くみられた。非脳損傷肢体不自由児の男子に多い性格・行動は、忍耐力がなく意欲に乏しく、人見知りする、自信欠如などであり、女子に多いのは、一般的活動性、社会性があるという性格行動で、特に意欲的、明朗、指導性などが多くみられた。このように男子と女子とでは、その性格・行動に関して差異がみられたが、この差異は、脳性まひ児群の間でも非脳損傷肢体不自由児群の間でも異なっていた。このことは、病因ごとの性差による性格・行動のちがいを更に深く研究することを示唆している。(2)障害程度と性格・行動との関連について脳性まひ児群と非脳損傷肢体不自由児群とに共通した結果は、重度群は軽度群に比べて依存性が高いということである。このことは、病因に関係なく、障害程度と依存性という特性との間に密接な関係があることを示している。一方、両群間で相違した結果は、脳性まひ児群の場合は、重度群よりも軽度群に自己統制の欠如および攻撃性を示す者が多いことと、非脳損傷肢体不自由児群の場合は、軽度群は重度群に比べて一般的活動性が高いが劣等感を示す者が多く、重度群には抑うつ性を示す者が多いということである。両群の結果がこのように異なった結果を示したのは、脳性まひという病因による特殊性-脳損傷や知能障害など-が関係しているのではないかということが考察された。(3)事例研究では、脳性まひ児群、非脳損傷肢体不自由児群の中から代表的な4ケースを選び、各児童がいかなる性格・行動特性を有するかをみるために、我々が分類した22の大項目に照らして質的に検討した。
著者
王 一令 鷲尾 純一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.97-111, 2004-07-30 (Released:2017-07-28)

本研究では、中国語を母語とする聴覚障害児(者)の音韻および韻律聴取能力を調べるための語音聴力検査法の開発を試みた。これは3つの検査からなっている。(1)音韻聴取検査: 単母音/a/、あるいは/i/を含むCV音節で平坦音調(第一声)の1文字単語20個から構成された。(2)四声聴取検査: 音韻が同一で四声の異なるCV音節1文字単語24個(6音韻×4種類の四声)から構成された。(3)イントネーション聴取検査:同一音韻連続で肯定表現と疑問表現を表す2語文(2文字動名詞)4組から構成された。これらの検査語・文について、音響的特徴を明らかにした。また、本検査法を中国天津市に在住する正常聴力を有する小学校児童(低学年)と聴覚障害を有する大学生に適用して、学童を対象としても利用できること、および聴覚障害児(者)の音韻聴取能力および韻律聴取能力を体系的に分析できる検査法として利用できる見通しを示した。
著者
平澤 紀子 小笠原 恵
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.157-166, 2010-07-31 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
8

本研究は、行動問題を示す人々への支援アプローチである積極的行動支援の進展と課題について、生活の向上という観点から検討した。Journal of Positive Behavior Interventionsの1999年から2008年までに掲載された支援研究65件について、積極的行動支援の目指す10のテーマをもとに分析した。その結果、発達障害のある個人だけでなく、児童生徒集団も含み、生活場面において適応行動を支援することで、行動問題の解決や予防をねらう研究が多く取り組まれ、その効果評価は適応行動が中心であった。一方、こうした支援はおもに行動問題の行動随伴性に基づいており、生活場面の文脈に基づく支援の開発や支援がもたらす生活の向上および環境の改善に関する評価は少なかった。結果から、支援対象となる新たな適応行動の行動随伴性への焦点が不足していることを指摘した。今後の研究として、新たな適応行動の行動随伴性が生じるための環境条件や環境構築の分析に基づいた支援の開発、生活場面を構成する人々に関する行動随伴性の開発、循環的な環境の拡大に関する検討を挙げた。
著者
小笠原 恵 広野 みゆき 加藤 慎吾
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.41-49, 2013 (Released:2015-02-18)
参考文献数
14
被引用文献数
5 2

本研究では、行動問題を示すことによって授業における課題従事が困難になっている自閉症児1名に対して、トークン・エコノミー法を用いて課題従事を支援し、その効果を課題従事の促進および行動問題の低減から検討することを目的とした。支援開始前、授業中の本児の要求が拒否された場合に行動問題が生起し、課題従事をせずにその場から離されるという随伴性が成立していた。本研究では、この行動問題が生起する環境に、トークン・エコノミー法を用いて課題従事すれば本児の要求が満たされるという新たな随伴性を組み込んだ。その結果、課題の従事率は80%を超えた。しかし、行動問題は半減するにとどまった。これらの結果より、本研究で用いたトークン・エコノミー法は課題従事を促進することと、一部の行動問題の低減に有効であることが示唆された。また、残存する行動問題について、経時的にその機能を分析する必要性が課題として残された。
著者
平澤 紀子 藤原 義博
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.11-19, 1995-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

本研究は、困難課題からの逃避機能を持つ問題行動が機能的に等価な"援助"要求行動に置き換えられ維持されるのに必要な条件を、日常文脈において伝達性が異なると推定される援助を特定している行動と特定していない行動の2つの援助要求行動により検討した。実験1では、発達遅滞児2名を対象に、2つの援助要求行動を、それに対する援助率を操作的に高めることにより形成した。その結果、両児共2つの行動で同様に問題行動との置換が成立した。実験2では、援助率は操作せずに、非訓練者に対して、伝達性により援助率に差が生じるかどうか、その援助率の差が問題行動の低減に影響するかどうかを検討した。その結果、両児に差はあるが、伝達性により援助要求行動の援助率が規定され、問題の低減に影響される可能性が示された。これらの結果から、問題行動と置換されるべきコミュニケーション行動の条件について、伝達性の観点から考察した。
著者
佐々木 かすみ 竹内 康二 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.49-59, 2008-05-31 (Released:2017-07-28)

本研究は(1)演奏スキルの形成、(2)家庭における自己練習、(3)演奏発表から構成されるピアノ指導プログラムを自閉性障害児2名に実施し、その効果を各事例に即して検討することを目的とした。(1)ピアノスキルの形成は、楽譜・鍵盤へのプロンプトの配置による「系列指導」、音楽の随伴プロンプトによる「リズム指導」を行った。その結果、系列は速やかに学習し、リズムの学習は2名で異なった獲得経過を示した。(2)家庭における自己練習は、自己記録および録音により演奏そのものが強化子となり練習が維持された。(3)演奏発表は参加児の社会的強化機会だけではなく、参加児に対する周囲の評価が高まる可能性が示唆された。自閉性障害児においてピアノ演奏が余暇として定着するためには、演奏技術の習得、家庭練習における技術の習熟、発表会での社会的強化の経験を含む包括的なピアノ演奏指導の有効性が検証された。
著者
烏雲 畢力格 柘植 雅義
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.11-24, 2021-05-31 (Released:2021-11-30)
参考文献数
54

本研究は、知的障害者95名を対象として、目標志向性と就労における自己調整方略および職務満足感の関連を検討した。因子分析の結果、目標志向性として「マスター目標志向性」と「パフォーマンス目標志向性」が、職務満足感として「外在的職務満足」と「内在的職務満足」が、それぞれ抽出された。パス解析の結果、(1)メタ認知的方略の「柔軟的調整」が行動・環境の調整方略を規定することが示唆された。(2)目標志向性と就労における自己調整方略の関連について、マスター目標志向性は「目標設定」と「柔軟的調整」及び「作業方略」と正の関連を有するほかは、「柔軟的調整」を媒介して間接的に行動・環境の調整方略を予測していると考えられる。(3)就労における自己調整方略と職務満足感の関連について、「援助要請」と「作業方略」は職務満足感と正の関連を有していた。また、目標志向性は職務満足感と正の関連を有するほかは、「援助要請」と「作業方略」を介して間接的に職務満足感を予測していると考えられる。したがって、知的障害者の職務満足感の向上に向けて、就労における自己調整方略に対する支援の重要性が示唆された。
著者
植田 佐知子 安藤 隆男
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.73-82, 2021-08-31 (Released:2022-02-28)
参考文献数
24

本研究の目的は、肢体不自由特別支援学校の重複障害学級の教師を対象として、自立活動の授業過程における困難さに教師がどのように対処し、その結果としてどのような内容を獲得したのかを明らかにすることである。自立活動の授業過程に関する質問項目の因子分析の結果から、教師は困難さを自覚し、同僚との協働により対処していた。多変量分散分析を行った結果、肢体不自由教育経験年数の1~5年の教師群は困難さを抱きやすく、相談相手および相談機会を多くもつ教師群は困難さを同僚との協働により対処していた。困難さへの対処により教師が獲得した内容に関する自由記述を分析したところ、教師は自立活動の指導における「身体の動きの指導に関する知識・技術」「実態に応じた指導方法」「教師として求められる多様な視点」を獲得していた。また、肢体不自由教育経験年数により、教師の獲得内容は異なった。以上から、自立活動に関する教師の力量形成には、教師たちの協働化を促進する学校組織の形成や実践経験に応じた研修内容の見直しの必要性が示唆された。