著者
松本 敏治
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.103-113, 2006-07-31 (Released:2017-07-28)

漢字の読み書きに困難を示し意味錯読が顕著にみられる青年の平仮名読みの処理特性を意味的処理・音韻的処理の側面から検討するため、2つの単語リスト読み課題と漢字読み判断実験を行った。本症例では、1)第一の単語リスト読み課題では、平仮名一文字・イラスト・有意味単語の読み速度は健常成人と差がなく、無意味語読みにおいてのみ顕著な遅れがみられた。2)第二の単語リスト読み課題では、意味性の高い単語は繰り返しにより読み速度が顕著に上昇した。3)漢字読み判断課題では、読みが正しくないとの判断の場合、漢字と意味的に関連した場合(町・むら)での反応が意味的に無関係な誤り読み(町・かめ)の場合に比べ反応時間が有意に長かった。また、本症例は本実験実施時、日常生活において漢字の読字書字困難は顕著であったが、平仮名読みの困難は認められなかった。これらの結果に基づいて、本症例の平仮名読み習得と障害機序を考察した。
著者
圓山 勇雄 宇野 宏幸
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.51-61, 2013 (Released:2015-02-18)
参考文献数
19
被引用文献数
1

小学6年生の発達障害児の示す「登校しぶり」という状態に対して、母子関係の再調整を中心とした包括的支援を実施した。母親へのコンサルテーションでは、「生活リズムの調整」をもとに、関係の再調整として、「母親の心理的安定」「適切な対応の仕方」をアドバイスし、「登校への動機づけ支援」として「トークンエコノミー法」「パワーカードストラテジー」等の導入を図った。個別指導では、人との関わり方について学習するねらいで、ソーシャルスキル学習に取り組んだ。また、学校への提案として、対象児に対する「個別的配慮」「登校への興味関心」「友だち関係の調整」を行った。これらの結果、母親の対象児への見方や接し方が変化するに伴い、対象児に対する気持ちもポジティブに変化し、母子関係の改善が図られた。動機づけ支援による効果は限局的であった一方、母子関係の改善、学校での個別的配慮などにより、対象児の登校しぶりは減少し、主体的に登校するようになった。母子関係の再調整を中心とした包括的なアプローチの重要性が示唆されたが、中学校入学後の支援の継続が課題として残った。
著者
竹内 めぐみ 島宗 理 橋本 俊顕
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.411-418, 2002
被引用文献数
2

本研究では、自閉症児の母親に対し、子どもの行動を家庭で簡単に記録できるチェックリストを提供し、記録に基づいた支援をすることによる子どもの行動変容と母親のかかわり行動の変化を検討した。初めに、子どもの自発的な着替えを標的行動として、課題分析によるチェックリストを作成し、母親のかかわり方について、週1回程度の面談指導を約2か月間継続した。その結果、着替えの自発性は向上した。同時に、母親の子どもへのかかわり方にも変化がみられ、主体的に次の標的行動の指導に取り組むようになった。これらの結果をふまえ、チェックリストを用いた支援の効果について、親の主体的な取り組みを引き出すといった観点から考察した。
著者
松尾 久枝 加藤 孝正
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.45-51, 1990
被引用文献数
1

精神遅滞幼児の母子関係解明のために、質問紙による母親の養育態度と現実の母子交渉場面での発話との関連性を子供に対する拒否感に焦点を当てて検討した。対象は15名の中度・軽度精神遅滞幼児(CA:1歳4ヵ月〜5歳1ヵ月)とその母親である。養育態度は、田研・両親態度診断検査(幼児版)の母親用を実施し、「消極的拒否」「積極的拒否」の得点を算出した。母親の発話は、玩具統制下自由遊び場面での発話を分析し、養育態度と母親の発話との相関係数を求めた。その結果、「消極的拒否」「積極的拒否」態度の強い母親ほど子供の発声に対して応答的で、肯定的、共感的内容の発話を多く示した。拒否的養育態度と観察場面での拒否的発話とは一致しないとの結論を得た。拒否的態度の強い母親ほど拒否的発話をしないことがあげられよう。
著者
熊谷 高幸
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-10, 1986
被引用文献数
1 3

自閉症児は、すでに言語を有する水準に至っても、種々の文法障害を示すと言われている。本研究では、軽症の自閉症児を被験児として、ルリヤの神経言語学的分析法を用い、その言語障害の特徴を分析することにした。ルリヤによれば、力動失語症患者は動詞想起と文構成に、意味失語症患者は名詞想起と論理・文法的理解に障害を示す。これら二種の対立的な言語障害のうちどちらが自閉症児の言語障害に類似したものとなっているだろうか。実験の結果、自閉症児群は群全体として見ると普通児群と比べて力動失語症患者に類似した障害の内容を有することが明らかとなった。また、知能障害児群の被験児の一部は自閉症児群と同様の反応パターンを示し、群全体としては、上記二群の中間に位置する結果となった。
著者
松崎 敦子 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.359-368, 2015 (Released:2015-11-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

児童発達支援事業所に勤務する保育士2名を対象に、応用行動分析の知識と技術に関する研修プログラムを実施した。研修は、講義、オンザジョブトレーニング(OJT)、ビデオフィードバックで構成した。保育士の支援技術は、本研究用に作成した40項目の支援技術リストを用いて評価し、参加児の評価は、介入前後に標準化テストと行動観察を実施した。その結果、保育士の支援技術が向上し、介入終了から2か月後の事後評価においても維持されたことが示された。また、参加児の発達も複数の評価指標において示された。本研究において、保育士の支援技術を向上させるには、フィードバックが必要であること、フィードバックの手続きとして、OJTとビデオフィードバックを並行して実施することが有効であること、技術の向上が認められても安定するまでは介入を継続する必要があること、などの条件が示唆された。
著者
雨貝 太郎 園山 繁樹
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.47-55, 2015 (Released:2016-07-15)
参考文献数
16

本研究は広汎性発達障害の診断を受けた11歳の男児1名を対象に、サイコロトークを実施し、いくつかの条件を設定し、発話促進の効果について検証した。初めに「聞く行動」について指導した後、「話す行動」を指導した。「話す行動」の指導においては、「終了モデルの提示」「話すテーマの事前提示」「考える時間の提供」「テーマの選択」「テーマの自由選択」という5つの条件の中で、話す時間と話す文章の量の変化を測定した。その結果、より長い文章を話させる課題を行う際は(1)会話の終わり方のモデルを示すこと、(2)前もって話す内容について考える時間を十分に与えること、(3)話す内容について選択肢を与えること、が効果的であった。また、より長い時間会話をさせる課題を行う際には(1)どのようなことについて話せばいいのか事前に伝えておくこと、(2)選択肢を与えずに自分の話したいことを自由に話させること、が効果的であった。
著者
那須野 三津子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.247-259, 2011 (Released:2013-08-20)
参考文献数
46

本研究の目的は、日本人学校へ日本政府から派遣される教員数の算出基準の高かった時期に着目し、障害児教育担当教員の派遣を実現させた要因を解明することとした。当該教員の派遣がおおやけに検討されていなかった1979~1987年度間と、その派遣が検討され実施された1988~2002年度間の教員派遣制度を比較した結果、次の4つの要因が積み重なった段階で当該教員の派遣が実現されたことが明らかになった。第1の段階は、教員派遣制度に対する公的補助が憲法第26条の精神に沿うものであると、国会で表明されたことである。第2の段階は、障害者の権利擁護を促す国際的な動向があり、障害のある子どもの教育機会確保の問題が認識されやすい状況になったことである。第3の段階は、教員派遣制度に対する公的補助が拡充する一方で、障害児教育担当教員派遣要請への対応がなされない場合に、予算配分の問題が顕在化しやすい状況になったことである。第4の段階は、予算の問題とからめて、日本人学校での障害のある子どもの教育機会の確保が日本政府に求められたことである。
著者
井上 雅彦 小川 倫央 藤田 継道
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.11-21, 1999
被引用文献数
1

本研究は、自閉症児において、写真刺激を用いた「何」「誰」「どこ」の疑問詞音声質問に対する適切な応答言語行動の訓練について視覚プロンプトの有効性を検討した。また、未訓練の写真刺激、実際場面(自己行為、他者行為)、文章刺激、音声刺激の各情報刺激への般化、質問刺激の語順変化の影響についての検討がなされた。結果、4名中3名は正答を音声でフィードバックしただけでは適切な応答言語行動の獲得が困難であり、獲得段階での視覚プロンプトを必要とした。また、すべての自閉症児が、写真刺激に対する疑問詞質問に対して適切な応答行動を獲得し、未訓練の写真刺激、実際場面(自己行為、他者行為)、文章刺激、音声刺激の各情報刺激に般化することが示された。自閉症児の言語指導における視覚プロンプトの有効性、訓練への効果的な応用性について考察された。
著者
OKUMURA Maiko SONOYAMA Shigeki
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
Journal of Special Education Research (ISSN:21875014)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.55-64, 2015
被引用文献数
2

A person with selective mutism (SM) in adolescence sometimes reveals group adaptation difficulties such as school absenteeism, as well as other associated psychopathological symptoms such as depression; and thus their condition is typically highly complex. In this study, a high school student with SM, who experienced associated symptoms of school absenteeism, social anxiety, and depression besides suppression of speech and movement, was given feedback on voice volume after reading aloud and subjected to an in vivo exposure technique. In the voice volume feedback, as a result, the students voice volume improved by 10 dB compared to the beginning of the study and became loud enough to be easily heard. In addition, anxiety scores on speech and activity decreased, and the number of responses to the counselors increased. However, the treatment cannot be considered adequate since the student spoke only in a low voice and less frequently even after the treatment. Nonetheless, recovery from SM in adolescence is deemed difficult; thus, the intervention introduced in this study may be inferred to have had measurably positive effects.
著者
OKUMURA Maiko SONOYAMA Shigeki
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
Journal of Special Education Research (ISSN:21875014)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.55-64, 2015
被引用文献数
2

A person with selective mutism (SM) in adolescence sometimes reveals group adaptation difficulties such as school absenteeism, as well as other associated psychopathological symptoms such as depression; and thus their condition is typically highly complex. In this study, a high school student with SM, who experienced associated symptoms of school absenteeism, social anxiety, and depression besides suppression of speech and movement, was given feedback on voice volume after reading aloud and subjected to an in vivo exposure technique. In the voice volume feedback, as a result, the student's voice volume improved by 10 dB compared to the beginning of the study and became loud enough to be easily heard. In addition, anxiety scores on speech and activity decreased, and the number of responses to the counselors increased. However, the treatment cannot be considered adequate since the student spoke only in a low voice and less frequently even after the treatment. Nonetheless, recovery from SM in adolescence is deemed difficult; thus, the intervention introduced in this study may be inferred to have had measurably positive effects.
著者
江尻 桂子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.431-440, 2013 (Released:2015-03-21)
参考文献数
39

本稿では、障害児の母親の就労について検討した国内外の研究を総覧し、これまでの知見をまとめた。国外の研究からは、(1) 障害児の母親において、就労の困難や労働時間の短縮といったワーク・ロス(労働損失)が生じていること、(2) ワーク・ロスの生起には、障害児本人および家族に関わる要因(障害の重さや世帯構成など)のほか、地域を基盤とした医療体制や支援サービスの充実が関与していること、また、(3) 母親の就労の有無は、母親の精神的健康や収入に影響していることが示されている。国内の研究からも、(1) 障害児の母親において就労困難がみられること、(2) その背景には、子どものケアに関わる社会的資源の不足をはじめとしてさまざまな要因が存在していることが指摘されている。以上の結果をもとに、今後、わが国において障害児の母親の就労問題を検討するにあたって、どのような研究が必要であるかを議論した。
著者
藤金 倫徳
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.3-12, 2002
被引用文献数
1 2

音声による要求言語の獲得は、発達障害児の重要な指導課題のひとつである。本研究では、他者の音声モデルを模倣できない子どもに、いかにして音声による要求言語を形成するかという点を検討した。実験1では、子どもを遊ばせた設定で、子ども自身の音声をプレイバックした結果、プレイバックした音声の生起確率が高まり、子ども自身の音声を利用する方法の適用可能性が示唆された。このことに基づいて、実験2では、子どもの音声を利用した要求言語形成について検討した。具体的には、対象児から採取した単音の音声をつなぎ合わせることで人工的に言語音を作成して、さらにそれを子ども自身が非言語的に要求している場面のビデオに録音したものを観察させる方法(人工セルフモデリング)である。その結果、子どもは、音声による要求言語が獲得できた。さらにこの方法は、獲得したことばの般化促進の技法としても利用できることが示された。
著者
竹内 めぐみ 島宗 理 橋本 俊顕
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.41-50, 2005
被引用文献数
1 2

本研究では、自閉性障害のある小学校2年生の男子が家庭で自立課題に取り組めるように、大学の訓練室でワークシステムを用いた指導を行った。対象児の家庭環境と既存レパートリーのアセスメントから、6種類の課題と課題終了時の強化子を選択した。課題遂行行動を引き出すために有効で、かつ家庭に導入可能と考えられるワークシステムを訓練室に設定して訓練した後、家庭場面での課題学習を開始した。自立した課題遂行は家庭でも維持され、ワークシステムという単位で環境を設定することが、般化の促進につながることが示唆された。
著者
館山 千絵 鄭 仁豪
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.339-350, 2011 (Released:2013-09-14)
参考文献数
26

本研究は、音声言語をおもなコミュニケーション手段とする聴覚障害幼児を対象に、健聴母親とのコミュニケーションと遊びを検討し、母子相互作用の発達的特徴を明らかにすることを目的とした。1歳から3歳の先天性重度聴覚障害幼児とその健聴母親26組の、母子で自由に遊ぶ場面での遊びレベルとコミュニケーション手段、機能、ターンについての分析を行った。研究の結果、聴覚障害1歳児では、物を中心とする遊びの中で、母親主導の母子相互作用が行われ、聴覚障害2歳児の遊びでは、健聴児よりやや遅れる傾向があるものの、コミュニケーションの質的変化により、1歳児とは異なる母子相互作用が行われていた。また、聴覚障害3歳児の遊びでは、健聴児と同等のレベルでの、活発な母子相互作用が行われることが示された。総じて、聴覚障害幼児は1歳から3歳にかけて、コミュニケーションが拡充され、同時に遊びの内容も深まり、母子相互作用が量的・質的に広がっていく発達的傾向が示された。
著者
裴 虹 園山 繁樹
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.505-516, 2012 (Released:2013-09-14)
参考文献数
16

本研究では、選択行動を一連の行動連鎖ととらえた「選択行動アセスメントマニュアル」を作成し、中国の知的障害特別支援学校1校で実際に適用し、その社会的妥当性を検討した。教師22名に本アセスメントマニュアルを、学校の多くの日常場面において、担当する知的障害生徒22名に適用してもらい、適用後に、教師に対して、「記録表の内容」「記録表の記入」「アセスメントの実施」「アセスメントの効果」「アセスメントマニュアルの合理性」の5項目に関する社会的妥当性評価のアンケート調査を実施した。その結果、選択行動アセスメントマニュアルはおおむね妥当であったと評価されたが、記録表の記入が難しかった教師も少数あり、記録の仕方やアセスメントの実施により、時間がかからないような工夫が求められた。今後は、本アセスメントマニュアルを適用した指導事例の検討を行い、その具体的な有用性と使用方法を検討する必要がある。
著者
藤田 知美
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.321-328, 2013

本稿は、少年院で提供される教科教育の研究動向について、近年の施策を踏まえつつ概観することを目的とする。少年院において、在院者は、中学校教育・高等学校教育のほか、社会生活に必要な学力を身につけるための補習教育も受けている。この教科教育に関わる伝統的な課題で、現在も引き続き検討されていることには、学校教育機関との交流の活発化、矯正教育としての独自の授業理念をもつこと、および学習理論を現場に生かす研究や工夫を進めることの3点が挙げられる。今後、少年院法改正への動きを受けて、教科教育の指導内容や方法、体制についての研究が進むことが予想されるが、教科教育(特に義務教育)に関する問題はこうした実務的な範囲にとどまらず、少年院において教科教育を実施することの意義と、少年院において教科教育を受ける在院者の法律上の位置づけについて検討されるべきである。
著者
赤塚 正一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.311-319, 2013
被引用文献数
3

本研究では、アスぺルガー症候群と診断されたある男児を対象に、保育所から小学校の通常学級への移行支援を実践した。その移行支援では、(1) チームを組織し、(2) 情報の共有のためにツールを整え、ミーティングを継続し、(3) 移行支援全体のマネジメント役を明確に位置づけることが重要と考えた。入学前の移行支援会議は、保育所・小学校双方の関係者に連携・協働の実感をもたらし、小学校で「個別の指導計画」に基づく支援が展開された。さらに、入学後の移行支援会議の継続により、学校体制での移行支援が展開された。そして、支援対象児の学校生活全般の適応状態は、学校生活が進むにつれて良好となり、保護者の不安が軽減された。以上の結果から、引き継ぎ段階での情報共有の工夫、入学前後の継続的な移行支援会議の開催、および巡回相談チームによる移行支援全体のマネジメントの効果が認められたと考察した。
著者
計良 由香
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.11-18, 2008
被引用文献数
3

本稿は、軽度発達障害児の通級による指導と特別支援教育推進の方向性について検討することを目的とした。従来から軽度発達障害児とかかわってきた言語難聴担当者を対象としたアンケート調査を実施し、新潟県と福島県の69名から回答を得た。担当者の約9割が指導対象ではない軽度発達障害児を指導し、そのうち約5割が指導上の課題として目標設定の難しさと通級による指導の評価の難しさを挙げた。また、回答者の4分の1が校内の特別支援教育コーディネーターを兼務していた。言語難聴担当者が軽度発達障害児の指導および校内の特別支援教育推進にあたることは必要であり、そのためには軽度発達障害児の支援に携わる関係者の連携促進と通級指導教室の増設が急務であることが示唆された。
著者
布山 清保
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.41-47, 1992

ここに報告する事例は、精神発達遅滞と低緊張を伴う脳性まひの子ども(2歳)である。行動観察では受け身的な行動が目立つ子どもであったが、周囲の状況や係わり方によっては能動的な行動を示した。そこで、選択的な状況、動きのある物に手を伸ばし操作する状況など、係わり手が子どもの現す行動に応じて状況設定を随時工夫していくことによって、より活動的で調整された外界とのやりとりを引き出そうと試みた。そして、係わり合いの経過から、学校教育現場で係わり手が教材などを用いて状況を設定する際に留意すべき点をまとめてみた。子どもが理解できる状況であること、行動の発現・展開・終止が明確になる状況であること、行動体制を強化・分化・高次化できる状況であること、子どもと係わり手が交信関係によって支え合うことのできる状況であること、子どもが自ら選択できる状況であることについて整理した。