著者
西田 祥啓 多賀 允俊 河合 泰宏 野田 洋子 中川 佳子 飯沼 由嗣 丹羽 修
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.115-121, 2019-03-25 (Released:2019-09-25)
参考文献数
25

年齢層別化アンチバイオグラムの意義について検討を行った.2015年4月からの1年間に当院にて分離頻度が高かった黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,大腸菌,緑膿菌を対象に,抗菌薬感性率を小児,非高齢成人,高齢成人で比較した.グラム陽性菌では,成人由来株との比較において小児由来のメチシリン感性黄色ブドウ球菌ではマクロライド低感受性,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌ではレボフロキサシン(LVFX)およびミノサイクリンの高感受性が示され,肺炎球菌では髄膜炎基準で小児由来株のペニシリン低感受性が示された.非高齢成人と高齢成人では差はみられなかった.グラム陰性菌では,小児および高齢成人が非高齢成人よりも比較的感受性が低かった.特に大腸菌ではアンピシリン/スルバクタム,セフェム系抗菌薬,LVFX,ST合剤,ホスホマイシンの多系統の低感受性が認められた.臨床上問題となる耐性菌の分離率は非高齢成人が最も低く,小児および高齢成人における初期治療において注意が必要と考えられた.年齢層別化アンチバイオグラムの作成は特に小児,高齢成人の感染症の初期治療において重要と考えられた.
著者
中澤 弘子 土屋 守克 高橋 誠一 加藤 祐樹 神谷 円 吉村 将規
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.18-22, 2017-01-25 (Released:2017-03-06)
参考文献数
7

近年,人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防策の一つとして,気管チューブに付属した専用のポートから吸引する,カフ上部吸引(subglottic secretion drainage:SSD)の有効性が示されている.本研究では,気管挿管,気管切開を行った患者56名を対象とし,カフ上部から吸引される分泌物の有無の関連因子を検討した.結果,気管切開チューブを使用している患者の方が,気管内チューブを使用している患者に比べ,約5倍カフ上部から分泌物が吸引されやすい傾向にあることが明らかとなった.その要因として,「チューブ挿入部周囲の組織の構造および位置」,「気管チューブの構造」の2点が推察された.今後は,カフ上部吸引回数やカフ上部吸引のタイミング,吸引量などの因子を加えて検討を行い,サイレントアスピレーションの予防に努める必要がある.
著者
細矢 光亮
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.344-354, 2017-11-25 (Released:2018-05-25)
参考文献数
8

エンテロウイルスは,ピコルナウイルス科に分類される小型RNAウイルスである.エンテロウイルスには,ポリオウイルス,エコーウイルス,コクサッキーウイルスAとB,エンテロウイルスがある.エンテロウイルス感染症の病型としては非特異的熱性疾患が多い.その他,咽頭炎,ヘルパンギーナ,手足口病,非特異的発疹症,無菌性髄膜炎,急性出血性結膜炎,脳炎・脳症,急性弛緩性麻痺,心筋炎・心膜炎,流行性筋痛症などがある.本総説に於いては,小児のエンテロウイルス感染症の病因,疫学,臨床症状,診断法,感染制御,治療などについて解説する.
著者
小森 由美子 見田 貴裕 二改 俊章
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.245-250, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

870名の非医療従事者ボランティアを対象に鼻腔内ブドウ球菌保菌について調査した結果,223名から248株のメチシリン耐性株(MRSA 12株,MRC-NS 236株)が分離された.中学生以上ではどの年齢層においても耐性菌の保菌率は23~25%であったが,小学生は40.9%,就学前の小児は70.0%と高い検出率を示した.同居家族から複数のメチシリン耐性菌が分離されたケースを抽出したところ38家族が該当した.これに医療従事者の家族を含む組合せを加え,計45家族について家族内伝播が疑われた耐性株96株でパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行った.ボランティアを「親子」,「夫婦」,「兄弟姉妹」,「祖父母と孫」という関係性から見ると58組の組合せが存在し,このうち24組はPFGEパターンが「同一または極めて関連性が高い」と考えられる菌株を保菌していた.特に小学生以下のボランティアを含む組合せではPFGEパターンの一致率が高く,家族内でのメチシリン耐性菌伝播の要因のひとつに「小児」の存在があることが示唆された.しかし医療従事者を含む組合せにおけるPFGEパターンの一致率については,非医療従事者同士の組合せと差が見られなかった.
著者
有瀬 和美 西崎 紗矢香 森田 珠恵 八木 祐助 武内 世生
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.422-427, 2015 (Released:2016-01-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

自動尿量測定器によって耐性菌が伝播する危険性は以前から指摘されている.2011年11月,メタロβラクタマーゼ陽性のS.maltophiliaが10日間で4例検出された.当該病棟にある自動尿量測定器の細菌培養により,S.maltophiliaは検出されなかったが,メタロβラクタマーゼ陽性のMDRPが検出された.自動尿量測定器の使用は危険と考え,廃止に向けての介入を開始した.まず,病院内にあるすべての自動尿量測定器の細菌培養を行い,MDRP, S.maltophilia,およびESBL産生大腸菌が検出されたため使用中止すべき,と院内に広報した.その後,診療科別の自動尿量測定器使用患者数と蓄尿患者数を毎月集計し,公表する事とした.さらに,自動尿量測定器の使用目的や廃止の可能性について,各診療科医師や病棟看護師と個別に検討した.その結果,病院全体の自動尿量測定器使用患者数は,2011年11月の86人から,2012年6月には2人に減少した.そして,2012年7月末にすべての自動尿量測定器を撤去した.蓄尿患者数は,2011年11月の10人から,2012年6月には4人に減少した.その後,蓄尿は検査のために指定された日のみに行うだけとなった.危険の「見える化」,実態調査,調査結果の広報,スタッフとの個別検討などにより,自動尿量測定器の廃止を達成できたと考える.
著者
新 康憲 春藤 和代
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.187-191, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
4
被引用文献数
1

保育士の流行性ウイルス感染症への意識や対策の実情に関する報告はなく,ワクチン接種啓発における自治体病院による支援に関する報告も皆無である.今回,自治体病院の感染対策チームが保育施設の保育士を対象に研修会を実施し,アンケート調査により現状把握を行った.その結果,保育士自身の罹患およびワクチン接種歴の把握は不十分であり,保育士の抗体価を一元管理している施設は15%と低かった.また園児のワクチン接種歴の把握や未接種時の保護者への指導の割合は,入園時と比較し入園後に低下することが明らかとなった.一方,研修会3ヶ月後のアンケート調査において流行性ウイルス感染症への対応に変化を認めたことから,今回の支援は有効であったと考えられた.
著者
桒原 京子 左 卉 堀 賢
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.127-130, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
9
被引用文献数
4

水道水の電気分解により得た次亜塩素酸水と水道水を使用し,温水洗浄便座の洗浄ノズルの除菌効果を比較検討した.約105~106 cfu/mLの大腸菌および緑膿菌を付着させた洗浄ノズルに対し水道水でリンスと吐水を5回繰り返すと,付着菌数は4桁減少した.塩素濃度1.5 ppm含有の次亜塩素酸水によるリンスでは,大腸菌および腸球菌においてリンス3回目から検出限界以下になり,洗浄ノズル表面の細菌も検出限界以下になった.洗浄ノズルの衛生保持には,水道水よりも次亜塩素酸が有効であることが示唆されたが,緑膿菌では次亜塩素酸水を使用しても完全に除菌できなかった.温水洗浄便座を使用する対象者と場所を考慮する必要があると考えられる.
著者
盛次 浩司 齋藤 信也
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.34-41, 2017
被引用文献数
1

<p>非急性期ケアにおける尿道留置カテーテルの取り扱いの現状を把握するとともに,そこでのカテーテル関連尿路感染症(Catheter-associated Urinary Tract Infections:CAUTI)予防のあり方を探るためアンケート調査をおこなった.A県下の訪問看護ステーション(訪看)106施設,特別養護老人ホーム(特養)146施設,介護老人保健施設(老健)77施設,療養型病床(療養病床)130施設を対象とし,カテーテル取り扱いの現状,CDCの「カテーテル関連尿路感染の予防のためのガイドライン2009」にみられる各インディケーターの遵守状況について調査した.有効回答数は175(38.1%)であり,カテーテルの使用率は訪看10.5%,特養3.5%,老健3.8%,療養病床24.6%であった.カテーテル使用理由については,訪看では,医学的理由以外の「介護者の負担軽減」,「尿失禁ケア」の理由も多くみられた.療養病床では,「褥創治療」,「尿閉・神経因性膀胱」,「終末期ケア」の順であった.ガイドラインの遵守状況は施設類型間に差はみられなかったが,閉鎖式セットといった感染対策に役立つとされる材料の選択では,その必要性と使用比率との間に乖離がみられた.今後は,非急性期ケアの実情に適したカテーテルの材質やセット内容の改善,また,感染予防教育などを含んだ総合的な対策が必要と考えられた.</p>
著者
多湖 ゆかり 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.174-179, 2015 (Released:2015-08-05)
参考文献数
4
被引用文献数
1

透析患者の予後に大きく影響する透析関連感染の実態を明らかにし,感染率を低減させるために,実施したサーベイランスと並行して実施した介入を評価した.サーベイランス開始当初9ヶ月における短期留置カテーテル感染率は1000透析日あたり48.61であり,研究会の感染率(同14.55)に比較して有意に高いことがわかった.そこで,カテーテル挿入時のマキシマルバリアプリコーションの実施率の向上,教育など多面的なアプローチを行い,さらに長期留置カテーテルを導入した.長期留置カテーテル導入前(2010年7月~2012年6月)と導入後(2012年7月~2013年6月)の感染率を比較すると,33.40から9.20に低減し(p=0.05),研究会の同時期の感染率8.21と比較しても遜色ない値となった.また,短期留置カテーテルの平均留置日数も若干短縮した.これらの効果の検証に際しサーベイランスは有効であり,そのデータに基づき実施した介入は効果的であったと考える.
著者
細田 昌良 小松 敏美 松下 美幸
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.140-144, 2008 (Released:2009-02-12)
参考文献数
5

流行性角結膜炎(EKC)は接触伝播し,しばしば院内感染を引き起こす.2006年7月から9月に眼科病棟のない当院でEKCが流行した.入院患者4名,職員2名,外来患者7名の計13名の発症があり,当院感染対策委員会は,アウトブレイクと判断した.院内の対策として,感染者の隔離,患部処置法の指導,環境の消毒などの接触感染対策の強化を行い,感染職員には出勤停止を指示した.更に,職員全員への啓発を目的に,院内へのポスター掲示や警告文書回覧を行った.EKC患者が発生した特別養護老人ホームへは当院の認定ICDが,接触感染対策と新規EKC発症の監視を指導した.また,院外の発症に対しては,地域内の保育園がEKC感染の媒介になっている可能性があり,当院から当該保育園へ患児の登園停止や集団生活での接触感染対策を指導した.更に,家庭内や教育現場での感染拡大を防ぐために地域社会全体への啓発活動を実施した.行政保健師を中心にEKCへの啓発番組を制作し,地域内ケーブルテレビで2週間放映した.これらの対策の結果,院内・院外ともEKC流行は終息した.行政と地域メディアの協力を得た,地域社会へ向けた感染対策は有用であった.感染制御に携わる医療従事者は,地域社会での感染対策活動にも指導的立場で臨むことが必要である.
著者
戸島 洋一 服部 万里子 坂本 拓也 松田 俊之 熊澤 美紀子 遠藤 洋子 山本 武史
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.161-166, 2011 (Released:2011-08-05)
参考文献数
8

アンチバイオグラム(抗菌薬感性率一覧表)は各施設や地域で分離される病原細菌の抗菌薬感受性を累積して示したレポートであり,感染症のエンピリック治療を開始する際の重要な情報源である.通常一定期間に院内で分離された菌はまとめて集計されるが,菌種によっては診療科や検体種類によって感受性に大きな違いが存在する可能性がある.今回われわれは,分離数が多く,耐性菌が治療上問題となりやすい緑膿菌について,診療科間,検体種類間,外来・入院間での13種類の抗菌薬の感性率の差について検討した.2009年に分離された緑膿菌株数(1人1株)は369株(外来患者から83株,入院患者から286株)で,30株以上検出された診療科は5科であった.5診療科間で抗菌薬の感性率に有意な差が認められた抗菌薬は3剤であったが,4つの検体種類間(呼吸器・泌尿器・消化器・膿浸出液)では13種類中11の抗菌薬で有意な差が認められた.呼吸器検体,膿浸出液検体の感性率が高く,泌尿器検体,便検体の感性率が低かった.外来・入院間ではすべての抗菌薬の感性率が入院由来株で低かった.尿路由来検体と呼吸器由来検体の緑膿菌の感性率の違いは大きいため,治療に当たる際は検体種類別に層別化されたアンチバイオグラムが有用であると考えられた.また診療科間の感性率の差は主に検体種類の差によるものであり,診療科別アンチバイオグラムの必要性は低いと考えられた.
著者
木村 丈司 甲斐 崇文 高橋 尚子 佐々木 秀美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.310-316, 2010 (Released:2010-12-05)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2 6

抗菌薬のPK/PD理論に基づく投与方法を実践するため,ICT,薬剤部にて抗菌薬のPK/PD理論に関する資料を作成し,2008年4月から院内への配布を開始した.同時に勉強会やICTニュースの配信,院内の抗菌薬使用指針の改訂といった活動も行い,PK/PD理論の普及を試みた.   活動を開始した2008年度以降の投与方法をみると,CZOPでは1000 mg×3回/dayが,MEPMでは500 mg×3回/dayが,DRPMでは250 mg×3回/day及び500 mg×3回/dayがそれぞれ増加した.また第4世代セフェム系,カルバペネム系,ニューキノロン系抗菌薬及び抗MRSA薬の平均投与期間は,2008-2009年度で2006-2007年度に比べ短縮していた.緑膿菌のCZOPに対する耐性率は,2005年度に比べ2006-2007年度で増加したが,2008-2009年度では2005年度と同程度にまで減少し,またMEPMに対する耐性率は年々減少が見られた.   このように今回我々が行った活動は抗菌薬のPK/PD理論の実践に有用であり,またPK/PD理論の実践は感染症治療期間の短縮及び抗菌薬耐性菌の増加防止に繋がる可能性が示唆された.
著者
松本 健吾 星野 輝彦 今泉 隆志
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.105-111, 2014 (Released:2014-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

抗菌薬の適正使用をすすめる上で,「介入とフィードバック」による監査は重要である.当院における「介入とフィードバック」をより推進するため,抗菌薬適正使用支援システム(本システム)を構築した.本システムにより,細菌検査結果に基づいた検出菌一覧やアンチバイオグラムのような有用な情報を速やかに作成できた.これらの情報に基づいて,抗菌薬の適正使用状況を確認し,必要に応じて,薬剤師は処方医へ薬剤変更などの処方提案を速やかに実施した.その結果,細菌検査を実施した患者の中で処方提案を行った件数は,10件(3.6%)より57件(17.5%)へ大きく上昇した.またシステム構築前後の処方提案に対する受入れ率は,それぞれ90.0%と75.4%となった.またシステム構築後において,処方提案に対し受入れた方が,受入れなかった場合よりも臨床効果の有効率が高い傾向が見られた.本システムは,短時間で抗菌薬の適正使用を監査するうえで有用である.今後,病棟薬剤師と連携し,対象患者は抗菌薬療法を行うすべての患者へ広げる予定である.
著者
土橋 ルミ子 内海 文子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.338-342, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
6
被引用文献数
5 4 8

本研究では,長崎県内の設置主体の異なる3施設の看護師590名を対象に,標準予防策における知識・態度・実践に関する質問紙調査を実施した.標準予防策における知識・態度・実践のレベルおよび関連性,さらに基本的属性ごとに分析を行った.   その結果,知識得点—態度得点(rs=0.17, p<0.01),知識得点—実践得点(rs=0.057, p>0.05)には関連がなかった.態度得点—実践得点(rs=0.412, p<0.01)には関連性があり,態度は実践に結びつく重要な因子であると考えられる.看護師の標準予防策における知識得点は,平均値8.9(SD1.5)であった.実践得点は,中央値(25~75パーセンタイル値) 84.5(78~91)で,態度得点92(87~97)に比べ低かった.知識や態度を身につけていても,実践に結びついていないと考えられる.基本的属性による分析では,看護師経験年数や年齢が増すごとに,態度,実践得点は優れており(p<0.01),経験年数や年齢に応じた教育・訓練が効果的であると考えられる.また,副看護師長や感染管理に関する委員会に所属している看護師では,態度・実践得点が高く(p<0.01),職位や委員会の所属が標準予防策の知識・態度・実践に影響を及ぼすと考えられる.研修会に参加している看護師は,知識・態度・実践得点が高く(p<0.01)教育の重要性が示唆された.
著者
木村 丈司 甲斐 崇文 高橋 尚子 佐々木 秀美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.18-24, 2013 (Released:2013-04-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1

腎機能に応じた適正な投与量・投与間隔での抗菌薬使用を実践する為に,抗菌薬の投与量・投与間隔,腎機能に応じた調節を院内にわかりやすく周知する表を薬剤部主導で作成し,2011年4月より普及活動を行った.この活動の有効性を評価する為,MEPM, DRPM, TAZ/PIPCの投与量・投与間隔を腎機能別に活動開始前の2010年度と開始後の2011年度で比較・検討した.   結果として,MEPMではeGFR>50の群で1000 mg×3回/dayが,eGFR 11–50の群で1000 mg×2回/dayが増加した.DRPMではeGFR>50の群で500 mg×3回/dayが,eGFR 31–50の群で250 mg×3回/dayが増加した.TAZ/PIPCではeGFR>50の群で4500 mg×4回/dayが,eGFR≦20の群で2250 mg×3回/dayが増加した.MEPM, DRPM, TAZ/PIPC投与患者全体で今回作成した資料に従う投与方法が選択される割合は,2010年度の52.1%に比べ2011年度は67.0%と有意に増加した(p<0.01).   以上の事から,薬剤師主導による適正な投与量・投与間隔での抗菌薬使用に関する情報提供は腎機能に応じた投与量・投与間隔の調節の実践に有効であった.また腎機能別に抗菌薬の投与方法を評価する事は,抗菌薬使用に関する問題点を詳細に分析するのに有用と考えられた.
著者
棚町 千代子 橋本 好司 矢野 知美 佐川 公矯
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.271-278, 2009 (Released:2009-10-10)
参考文献数
27

角膜感染症は,角膜における代表的な日和見感染症で,全世界的にみれば白内障に次いで失明に至る重篤な眼疾患である.細菌性,真菌性,ウイルス性,およびアメーバ性によるものがあり,そのうち角膜真菌症(keratomycosis)は,カビ(真菌)によって惹起される角膜炎であり,起炎菌として酵母様真菌であるCandida属と,Fusarium属,Aspergillus属を代表とする糸状菌に大別され,糸状菌による角膜真菌症は,土壌や草木に関連した外傷が原因で多く報告されている.当院では2005年から2008年の間に糸状菌により惹起された角膜真菌症は,Paecilomyces lilacinus 3例,Fusarium oxisporum 2例,Aspergillus fumigatus 1例,Plectsporum tabacinum 1例の計7例であった.当院では,P. lilacinusによる角膜真菌症が最多であった.P. lilacinusによる症例は重篤な転帰をとるため,感染源が土壌や草木にある場合,本菌を疑い抗真菌薬を考慮し早期治療が行われることが重要である.
著者
小井土 啓一 島田 知子 平松 玉江
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.395-399, 2009 (Released:2010-02-10)
参考文献数
7

手術部位感染予防には抗菌薬の予防投与が重要である.当院感染対策チームでは,手術時のcefazolin(CEZ)およびcefmetazole(CMZ)の3時間毎投与を推奨してきたが,長時間手術では追加投与が適切に行われていないケースがみられた.そこで,抗菌薬供給方法を処方せんによる個人セット払いから手術室への定数配置へ変更し,追加投与実施状況の改善を試みた.併せて術前・術中投与の指示出し用スタンプを各病棟に配置した.供給方法変更前(2005年8月),供給方法変更後(2006年8月),ならびに電子カルテ稼動後(2007年8月)の3期間において,6時間を越える手術での抗菌薬術中追加投与の実施割合を調査した.各期間における対象件数と平均手術時間は2005年45例483分,2006年46例524分,2007年44例510分であった(p=0.46).必要投与回数の総和は各期間でそれぞれ99回,114回,106回であったのに対して,実投与回数の総和(実施率)は20回(20.2%),101回(88.6%),104回(98.1%)と,供給方法変更後に増加した(p<0.001).なお,2007年における前投与からの投与間隔は平均181分であり,210分を超えたのは全104回中2回のみであった.抗菌薬の供給を手術室定数配置に変更するなどの介入によって,抗菌薬術中追加投与の実施率を劇的に改善することができた.
著者
菊地 克子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.36-41, 2009 (Released:2009-04-06)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1 1

医療従事者においては,手洗いやアルコールの擦り込みによる手指消毒などにより,しばしば手指皮膚の乾燥や手湿疹が起こる.手湿疹の多くは刺激性皮膚炎である.病変を持つ皮膚には健常皮膚と比べて有意に常在細菌数が多いため,効果的な殺菌作用を示すのみならず皮膚傷害性が少ない消毒剤を使用することが院内感染防御の上でも重要である.生体膜構成脂質と類似の構造を持つ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を構成単位としたポリマー(MPCポリマー)は保湿性があり皮膚刺激を減弱することが知られている.健常ボランティア36人を対象に,MPCポリマーを配合したアルコール手指消毒剤の手指皮膚に対する影響を計測機器による角層機能評価により調べた.MPCポリマー配合製剤とMPCポリマーを配合しない対照品をそれぞれ2週間ずつ使用するクロスオーバー試験を行ったところ,手背皮膚の角層水分量は,対照品で低下が認められたのに対し,MPCポリマー配合製剤では増加傾向がみられ,同時に経表皮水分喪失量が低下し,バリア機能向上が示唆された.さらに,MPCポリマー配合製剤では,使用時の刺激感・痛みが対照品に比べ少なかった.これらの結果から,MPCポリマー配合アルコール手指消毒剤はより皮膚刺激性・傷害性が少なく医療従事者にとってより好ましい製剤であることが示された.