著者
山下 克也 津曲 恭一 尾田 一貴 小園 亜希 田中 亮子 中村 光与子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.141-147, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
10

現在日本では異なる抗原由来の2種類のB型肝炎ワクチンが市販されている.通常1回のシリーズ(6か月間に3回接種)では同じ製品が使用されるが,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討された報告は少ない.今回,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討した.過去にB型肝炎ワクチン未接種であり,HBs抗体陰性が確認された被験者で,3回目を異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した群を対象群(A群),3回全て同じB型肝炎ワクチンを接種した群をコントロール群(B群)とした.ワクチンの投与は皮下注で行い,HBsAb定量およびHBsAb定性は採血で測定し,10.00 COI以上をHBsAb陽性と判定した.有害事象は3回接種後の副反応を調査票で収集し,CTCAE Ver.4.0にて評価した.A群は9名,B群は7名であり,両群ともに全例で抗体獲得が確認された.有害事象はA群で3件,B群で1件認められたが,いずれもGrade 1であった.A,B群合わせた副反応の内訳は注射部位の疼痛3件,皮膚硬結1件であり,重篤な副反応を呈した症例はなかった.今回認められた有害事象はいずれもワクチンに共通した副反応であると考えられ,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種しても良好な抗体獲得が得られる可能性が示唆された.
著者
麻生 恭代 長富 美恵子 中澤 武司 佐々木 信一 石 和久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.81-90, 2012 (Released:2012-06-05)
参考文献数
6
被引用文献数
2

当院では2005年度に血液培養でBacillus cereusの増加傾向がみられた.血液培養でB. cereusが検出された患者の背景を調べた結果,大半の患者で末梢カテーテルを留置していた.さらに血液培養でB. cereusが検出された数名の患者の末梢カテーテル先端からもB. cereusが検出され,B. cereusによる血流感染ありと判断した.また文献的に検索するとB. cereus菌血症についてはリネン等の汚染や留置カテーテルの取り扱いが指摘されているが,カテーテルの汚染とリネンの汚染との結びつきについては不明な点が多い.そこで今回我々はカテーテルにおける菌の定着と増殖の原因について,輸液製剤の種類による菌の発育速度と温度の影響,環境因子の影響について調査を行ったので報告する.輸液製剤の種類や保管時間の影響に関しては,B. cereusがStaphylococcus aureusやStaphylococcus epidermidisと比較して増加しやすいという傾向が見られた.環境検査ではタオルの培養で≦102~1×106 cfu/mLのB. cereusが検出された.落下菌の測定では,一般環境より病室で多く検出される傾向が見られた.さらにリネンの出し入れ後の落下菌の検査を行うと短時間で多数のB. cereusが検出された.以上より輸液製剤の保管の影響よりも,薬剤の調合やカテーテルの刺入,ルート交換を行う環境や取り扱いに問題があると考えた.
著者
勝田 優 小阪 直史 村田 龍宣 舩越 真理 井上 敬之 山下 美智子 杉田 直哉 勝井 靖 澤田 真嗣 大野 聖子 清水 恒広 藤田 直久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.354-361, 2015 (Released:2015-12-05)
参考文献数
22

病棟での輸液調製では,調製時の汚染防止により注意を払う必要がある.病棟での輸液調製の現状把握のため,空気清浄度,調製環境,輸液メニューについて血液内科と外科病棟を対象に多施設間調査を実施した.空気清浄度調査は,5施設9部署にて実施し,パーティクルカウンターとエアーサンプラーを用いて浮遊粒子数と浮遊菌の同定・コロニー数を測定した.環境と輸液メニューの調査は,9施設13部署を対象に,調製現場の確認と10日間の注射処方箋(7,201処方)を集計した.空気清浄度は,0.5 μm以上の粒子数が,最も多い部署で3,091×103,少ない部署で393×103個/m3であった.浮遊菌は,黄色ブドウ球菌は3部署のみの検出であったが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,Micrococcus属,Corynebacterium属やBacillus属は全部署より検出された.調製台は,9部署で空調吹き出し口の直下にあり,10部署でスタッフの動線上に設置されていた.混合のあった4,903処方のうち,3時間以上の点滴が31%を占めた.病棟での輸液調製マニュアルを整備していたのは,9施設中3施設のみであった.調査から,輸液調製台エリアの空気清浄度は低く,3時間を超える点滴が3割以上を占めるなど,細菌汚染が生じるリスクが高い可能性が示唆された.輸液汚染リスク軽減のため,日本版の病棟での輸液調製ガイドラインの策定が望まれる.
著者
上木 礼子 米澤 弘恵 長谷川 智子 荒木 真壽美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.181-186, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
15

本研究では,血液曝露の危険性のある看護場面において,手袋着用行動への,看護師の意図とその影響要因を明確にすることを目的とした.   α県内の総合病院に勤務する看護師1,128名を対象に,4つの血液曝露場面(真空採血管採血場面など)を設定し,手袋着用の行動意図を調査した.さらに,手袋着用の行動意図に影響する要因として,上司/同僚のサポートを含む組織的要因,手袋着用の教育経験を含む個人的要因,リスク認知を含む心理的要因について調査した.影響要因は,手袋着用行動意図の高い高意図群(以下高群)と行動意図の低い低意図群(以下低群)の2群に分け比較した.   その結果,組織要因では,行動意図高群は低群に比べ有意(p<0.01)に手袋の使いやすさ,上司/同僚のサポート,施設の方針を認識していた.個人的要因では,高群は低群より有意(p<0.01)に手袋着用の教育を受けたと認識していた.心理的要因では,リスク認知と行動への態度,行動コントロール感が有意な正の相関を示した.   これらの結果より,組織環境が手袋着用をサポートする傾向にあるとき,および個人に教育経験のあるときには,手袋着用への行動意図が高くなることが示された.
著者
丹羽 隆 外海 友規 鈴木 景子 渡邉 珠代 土屋 麻由美 太田 浩敏 村上 啓雄
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.333-339, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

Defined daily dose (DDD)を用いた抗菌薬使用量の集計はWHOが推奨する方法である.しかしながら,DDDによる集計は総使用量の集計であるため,使用動向の解釈には限界がある.我々は,欧米にて評価が高まりつつあるdays of therapy (DOT)によって当院の2005年1月から2013年6月の注射用抗菌薬の使用量を集計した.セフタジジムはDDD法,DOT法による集計値ともに年々有意に減少したが,DDD/DOT比は変化なかったことから,使用日数もしくは使用人数の減少によって総使用量が減少したと判定できた.メロペネムはDDD法による集計値,およびDDD/DOT比は有意に増加したがDOT法による集計値は有意に変化しなかったことから,1日用量の増加によって総使用量が増加したと判定できた.一方,テイコプラニンはDDD法による集計値は変化なく,DOT法による集計値の有意な減少,DDD/DOT比の有意な増加が見られたことから,1日用量が増加したが使用日数または使用人数の減少により総使用量は変化していないと判定された.以上の結果から,DDD法とDOT法を使用することにより,抗菌薬使用動向をより詳細に分析でき,今後の抗菌薬適正使用の一助となると考えられた.
著者
大久保 耕嗣 阿部 政典 小林 謙一 長井 一彦 長井 知子 樋口 多恵子 継田 雅美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.290-294, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
19
被引用文献数
1

著者等は,新潟県内の医療施設に1988年,1994年および2007年にアンケートを取り,手指衛生の変遷について調査した.1988年に主流であったベイスン法は,現在では行われていない.1994年は,速乾性擦式アルコール製剤のラビング法と消毒薬を用いたスクラブ法が多く,2007年は,流水と石鹸,抗菌性石鹸および消毒薬を用いたスクラブ法が多かった.一方,日本環境感染学会において1992年から2007年までの手指衛生に関する全ての発表と論文を分析した.手指衛生についての発表および論文タイトルが,全体に占める割合は10%であった.学会発表は,2002年にCenters for Disease Control and Prevention (CDC)手指衛生のためのガイドラインが発表された翌年に,8.7%から15.3%と高くなった.このガイドラインは,水場のない場所での手指衛生を踏まえてアルコール含有のラビング法を推奨しているが,日常手洗いでは石鹸と抗菌性石鹸を用いたスクラブ法を推奨している.2007年の調査では,アルコール含有ラビング法が減少していた.各病院において基本である流水下で行う手洗いが実施されていることが示唆された.日常手洗いと衛生的手洗いが区別されて行われているのではないかと考えられた.
著者
野口 周作 望月 徹 吉田 奈央 上野 ひろむ
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.79-85, 2013 (Released:2013-06-05)
参考文献数
9

病院の感染制御において,薬剤耐性菌対策は重要な問題である.当院では2004年8月にInfection Control Team (ICT)が発足して以来,段階的に抗菌薬適正使用強化策を行った.その取り組みと効果について検討し,若干の知見を得た.2007年にオーダリングシステムと連動した特定抗菌薬使用届出制導入をはじめ,2010年より積極的に症例に関わる方法としてICT抗菌薬ラウンド導入に至るまで段階的に強化策を行った.その効果判定の指標として,カルバペネム系抗菌薬の使用量,投与日数,緑膿菌の感性率及び多剤耐性緑膿菌(MDRP)の年間検出件数を調査した.カルバペネム系抗菌薬の使用量は,1277バイアル(V)(2004年11月)から327V(2010年6月)に,平均投与日数は8.40日(2006年)から5.97日(2010年)に減少し,緑膿菌のmeropenemに対する感性率は72%(2008年)から90%(2011年)に回復した.MDRPの年間検出件数は28件(2008年)から1件(2011年)に減少した.段階的強化策を講じたことで,大きな問題なく医療従事者の抗菌薬適正使用に対する意識を高めることができ,緑膿菌の薬剤感受性の回復とMDRP検出件数の顕著な減少効果が表れたと考える.本結果を踏まえ,今後はより高い水準の抗菌薬適正使用と感染症治療支援に携わっていきたい.
著者
新 康憲 春藤 和代
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.187-191, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
4

保育士の流行性ウイルス感染症への意識や対策の実情に関する報告はなく,ワクチン接種啓発における自治体病院による支援に関する報告も皆無である.今回,自治体病院の感染対策チームが保育施設の保育士を対象に研修会を実施し,アンケート調査により現状把握を行った.その結果,保育士自身の罹患およびワクチン接種歴の把握は不十分であり,保育士の抗体価を一元管理している施設は15%と低かった.また園児のワクチン接種歴の把握や未接種時の保護者への指導の割合は,入園時と比較し入園後に低下することが明らかとなった.一方,研修会3ヶ月後のアンケート調査において流行性ウイルス感染症への対応に変化を認めたことから,今回の支援は有効であったと考えられた.
著者
桒原 京子 左 卉 堀 賢
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.127-130, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
9

水道水の電気分解により得た次亜塩素酸水と水道水を使用し,温水洗浄便座の洗浄ノズルの除菌効果を比較検討した.約105~106 cfu/mLの大腸菌および緑膿菌を付着させた洗浄ノズルに対し水道水でリンスと吐水を5回繰り返すと,付着菌数は4桁減少した.塩素濃度1.5 ppm含有の次亜塩素酸水によるリンスでは,大腸菌および腸球菌においてリンス3回目から検出限界以下になり,洗浄ノズル表面の細菌も検出限界以下になった.洗浄ノズルの衛生保持には,水道水よりも次亜塩素酸が有効であることが示唆されたが,緑膿菌では次亜塩素酸水を使用しても完全に除菌できなかった.温水洗浄便座を使用する対象者と場所を考慮する必要があると考えられる.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.310-313, 2016

&emsp;据え置き芳香剤の剤形で二酸化塩素ガスを逐次空中に放散させ,抗ウイルス効果を標榜する製品の有用性を検証した.冬季の生活空間を想定し室温23℃,相対湿度30%に設定した1.8 m<sup>3</sup>の密封チャンバー内で製品を開封し,試験中ガス濃度を0.03 ppmを目標として蓋の開閉で調整し,結果的に実験時間中はほぼ0.035&ndash;0.04 ppmの濃度に維持できた.その中に鶏卵由来のA/愛知/2/68株インフルエンザウイルスを含むしょう尿液をネブライザーでミスト化して噴霧し,一定時間後にチャンバー内空気80 Lをゼラチン膜でろ過し,膜に捉えたミスト粒子中の活性ウイルス量を測定し,同製品による空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化効果をみた.その結果,今回の実験条件化では,ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず,不活化効果は確認されなかった.<br> &emsp;二酸化塩素ガスによる殺菌,ウイルス不活化の感染制御の実用化のためには,今後さまざまな条件の下でその殺菌/ウイルス不活化効果の有無を検証していく必要があろう.<br>
著者
李 宗子 八幡 眞理子 三根 真 山本 将司 小松 香子 吉田 葉子 吉田 弘之 荒川 創一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.164-171, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
17

ここ数年,アルコール手指消毒剤が効きにくいとされるエンベロープを持たないウイルスに対する効果が改善された製剤が開発・販売され,臨床現場に導入する施設もみられるが,その有用性についていくつかの報告があるのみである.そこで当院において,このような製剤が臨床現場での継続使用に耐え得るか,手肌への影響面から調査,検討することにした.   冬季に,看護師40名に対し,リン酸配合によりpHが酸性に調整された試験製剤であるアルコール手指消毒剤(P–AL)使用群と,従来から使用しているほぼ中性のアルコール手指消毒剤(従来品)使用群の2群に分け,約1ヶ月間使用し,使用前後に客観的および主観的評価をした.客観的方法として,経表皮水分蒸散量,角層水分量,皮膚pH,角層細胞剥離率,皮溝の均一性を各々の対応機器で計測・評価し,主観的方法として皮膚状態に関するアンケート調査を行なった.   その結果,客観的評価では,P–AL使用前後の比較において角層水分量に有意な改善が認められ,その他の項目と主観的評価では使用前後で有意差はなく肌荒れの兆候もなかった.   本研究により,P–ALは,手荒れが発生しやすい冬季でも医療従事者の手肌に対する影響は問題なく,エンベロープを持たないウイルスに対する常時の感染対策として継続使用できる可能性があると示唆された.
著者
松元 一明 黒田 裕子 寺島 朝子 前澤 佳代子 木津 純子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.29-32, 2015 (Released:2015-04-05)
参考文献数
5
被引用文献数
1

先発医薬品と後発医薬品では添加物が異なるため,溶解性が異なる可能性が考えられる.そこで本研究ではコールター原理に基づいた自動細胞計数装置を用いて,バンコマイシン塩酸塩点滴静注用5製剤をそれぞれ生理食塩液に溶解し振とうした際の不溶性微粒子数を測定し,各製剤の溶解性を比較検討した.各振とう時間において5製剤の不溶性微粒子数には有意差が認められ,1製剤は先発医薬品よりいずれの時間においても有意に低値を示した.他の4製剤は振とう時間を長くすることで,有意に不溶性微粒子数は低値を示した.したがって,製剤毎の溶解性には差があり,溶解時間が異なることが確認された.バンコマイシン塩酸塩点滴静注用を適正に使用するには,溶解性の差を理解し,適切な溶解時間を現場の医療スタッフに周知徹底する必要がある.
著者
遠藤 史郎 徳田 浩一 八田 益充 國島 広之 猪俣 真也 石橋 令臣 新井 和明 具 芳明 青柳 哲史 山田 充啓 矢野 寿一 北川 美穂 平潟 洋一 賀来 満夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.50-56, 2012 (Released:2012-03-23)
参考文献数
16

2011年3月11日の東日本大震災に伴う宮城県名取市館腰避難所においてインフルエンザアウトブレイクが発生した.同避難所では200名の避難者が共同生活を営んでおり,40%が65歳以上の高齢者であった.初発例発生から5日目の4月8日当避難所の巡回診療を行っていた名取市医師会会長よりインフルエンザアウトブレイクに対する介入要請があり,対応策構築のために同避難所へ介入した.介入時既に,non-pharmaceutical interventions: NPIとして,発症者全員の隔離が行われていたが,隔離以外の手指衛生をはじめとするNPIは十分には行われていなかった.一方で,計22名への予防投与が行われていた.したがって,NPIを中心とした基本的対策の強化(ⅰ:マスク着用率の向上,ⅱ:手指衛生の適切な実施の啓発,ⅲ:換気の実施,ⅳ:有症状者の探知および発症者家族のモニタリング強化,ⅴ:発症者の隔離)を現場スタッフと確認し,一方,現場医師と予防投与は基本的対策を徹底したうえで,なお,感染が拡大した場合のみ考慮すべき対策であること,また,その範囲・適応などに関して協議した.4月13日,2度目の介入を行い新規発症者は18日の1人を最後に終息した.避難所におけるインフルエンザアウトブレイクは過去にも報告が少なく,初めての経験であった.予防投与はあくまで補助的な方策であり,アウトブレイクの規模や感染リスクを考慮し,さらにNPIの強化徹底を行った上で行うことが必要であると考えられた.
著者
小泉 祐一 木村 健 畑中 重克 門谷 美里 高橋 陽一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.175-180, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

近年,抗菌薬関連下痢症(AAD : antibiotic-associated diarrhea)によって死に至る症例が報告されている.そのようなAADの発生要因を調査するため,過去4年間の抗菌薬の使用実態調査とともに,院内で発生したAADの症例数ならびにその原因として推察される抗菌薬の調査を行い,その関連性について検討した.調査期間は2003年度から2006年度の4年間とし注射用抗菌薬の使用量を調査し,さらに同様の期間においてAADの発症患者数を調査した.またAAD発症と抗菌薬の使用との関連性を解析するため,AAD発症患者に使用された抗菌薬を各系統別にし使用率やオッズ比を算出した.   抗菌薬使用量とAAD発症患者数との相関については,2006年度は抗菌薬使用量が減少したにも関わらず発症患者数は増加していた.2005年度と2006年度の抗菌薬使用の系統別差異を分析するとセフェム系第3世代および,セフェム系第4世代の使用量は増加していた.よって,これらの抗菌薬群の使用がAAD発症に大きな影響を与えているものと推察される.コントロール群とAAD発症患者群との使用抗菌薬の系統については,AAD発症患者群においてセフェム系第3世代,セフェム系第4世代,カルバペネム系の使用率やオッズ比が高いことから,広域な抗菌スペクトルをもつ抗菌薬がAADを発症しやすいことが示唆される.
著者
白石 正
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.224-229, 2016 (Released:2016-10-05)
参考文献数
24

消毒薬はいつ頃から使用され,どのような経緯で現在の感染防止に役立っているか,その変遷を歴史から考察した.1840年代にクロール石灰による手指衛生を始めとし,その後,石炭酸,昇汞の使用へと変わっていった.1870年後半に感染症は微生物が原因であることが判明して以来,消毒薬の重要性が広く認識されるようになる.1900年代には合成技術の進歩から多くの消毒薬が合成され,現在でも使用されている消毒薬が登場する.消毒薬は異なっても接触感染防止を唱えたSemmelweis IPやLister Jの意思は現在でも引き継がれている.本稿においては,手指衛生,環境消毒および器具消毒の方法についてその変遷を記述する.
著者
小林 謙一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.348-353, 2015 (Released:2015-12-05)
参考文献数
13

歯科診療所における針刺し・切創の実態や,B型肝炎ワクチンの接種状況は明らかではない針刺し・切創を原因とする血液・体液媒介性感染症の予防を目的とし,実態を把握するためアンケート調査を行った.東京都墨田区内の歯科診療所に勤務する医療従事者(歯科医,歯科衛生士,歯科助手)を対象とした.墨田区内130施設中69施設よりアンケート調査票を回収し,計97名(歯科医師74名,歯科衛生士13名,歯科助手10名)の回答を得た.歯科医師の70.3%,歯科衛生士と歯科助手を合計した中の77.2%が針刺し・切創を経験していた.歯科医師は,診療中の麻酔用注射針による針刺しが多く,歯科衛生士や歯科助手では,針刺し・切創の原因器材や状況は様々であった.歯科診療所に勤務する医療従事者のB型肝炎ワクチン接種率は59.4%であった.歯科衛生士,歯科助手,50歳以上の歯科医師において特にB型肝炎ワクチンの接種率が低かった.また,針刺し・切創発生時に適切な対応(流水による創部の洗浄と病院の受診)を行ったものはわずか9%であった.歯科診療所では,多くの医療従事者が針刺し・切創を経験しているが,B型肝炎ワクチンの接種率や針刺し・切創発生時の対応は十分ではない.
著者
盛次 浩司 齋藤 信也
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.34-41, 2017

<p>非急性期ケアにおける尿道留置カテーテルの取り扱いの現状を把握するとともに,そこでのカテーテル関連尿路感染症(Catheter-associated Urinary Tract Infections:CAUTI)予防のあり方を探るためアンケート調査をおこなった.A県下の訪問看護ステーション(訪看)106施設,特別養護老人ホーム(特養)146施設,介護老人保健施設(老健)77施設,療養型病床(療養病床)130施設を対象とし,カテーテル取り扱いの現状,CDCの「カテーテル関連尿路感染の予防のためのガイドライン2009」にみられる各インディケーターの遵守状況について調査した.有効回答数は175(38.1%)であり,カテーテルの使用率は訪看10.5%,特養3.5%,老健3.8%,療養病床24.6%であった.カテーテル使用理由については,訪看では,医学的理由以外の「介護者の負担軽減」,「尿失禁ケア」の理由も多くみられた.療養病床では,「褥創治療」,「尿閉・神経因性膀胱」,「終末期ケア」の順であった.ガイドラインの遵守状況は施設類型間に差はみられなかったが,閉鎖式セットといった感染対策に役立つとされる材料の選択では,その必要性と使用比率との間に乖離がみられた.今後は,非急性期ケアの実情に適したカテーテルの材質やセット内容の改善,また,感染予防教育などを含んだ総合的な対策が必要と考えられた.</p>
著者
多湖 ゆかり 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.174-179, 2015 (Released:2015-08-05)
参考文献数
4
被引用文献数
1

透析患者の予後に大きく影響する透析関連感染の実態を明らかにし,感染率を低減させるために,実施したサーベイランスと並行して実施した介入を評価した.サーベイランス開始当初9ヶ月における短期留置カテーテル感染率は1000透析日あたり48.61であり,研究会の感染率(同14.55)に比較して有意に高いことがわかった.そこで,カテーテル挿入時のマキシマルバリアプリコーションの実施率の向上,教育など多面的なアプローチを行い,さらに長期留置カテーテルを導入した.長期留置カテーテル導入前(2010年7月~2012年6月)と導入後(2012年7月~2013年6月)の感染率を比較すると,33.40から9.20に低減し(p=0.05),研究会の同時期の感染率8.21と比較しても遜色ない値となった.また,短期留置カテーテルの平均留置日数も若干短縮した.これらの効果の検証に際しサーベイランスは有効であり,そのデータに基づき実施した介入は効果的であったと考える.
著者
細田 昌良 小松 敏美 松下 美幸
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.140-144, 2008 (Released:2009-02-12)
参考文献数
5

流行性角結膜炎(EKC)は接触伝播し,しばしば院内感染を引き起こす.2006年7月から9月に眼科病棟のない当院でEKCが流行した.入院患者4名,職員2名,外来患者7名の計13名の発症があり,当院感染対策委員会は,アウトブレイクと判断した.院内の対策として,感染者の隔離,患部処置法の指導,環境の消毒などの接触感染対策の強化を行い,感染職員には出勤停止を指示した.更に,職員全員への啓発を目的に,院内へのポスター掲示や警告文書回覧を行った.EKC患者が発生した特別養護老人ホームへは当院の認定ICDが,接触感染対策と新規EKC発症の監視を指導した.また,院外の発症に対しては,地域内の保育園がEKC感染の媒介になっている可能性があり,当院から当該保育園へ患児の登園停止や集団生活での接触感染対策を指導した.更に,家庭内や教育現場での感染拡大を防ぐために地域社会全体への啓発活動を実施した.行政保健師を中心にEKCへの啓発番組を制作し,地域内ケーブルテレビで2週間放映した.これらの対策の結果,院内・院外ともEKC流行は終息した.行政と地域メディアの協力を得た,地域社会へ向けた感染対策は有用であった.感染制御に携わる医療従事者は,地域社会での感染対策活動にも指導的立場で臨むことが必要である.
著者
戸島 洋一 服部 万里子 坂本 拓也 松田 俊之 熊澤 美紀子 遠藤 洋子 山本 武史
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.161-166, 2011 (Released:2011-08-05)
参考文献数
8

アンチバイオグラム(抗菌薬感性率一覧表)は各施設や地域で分離される病原細菌の抗菌薬感受性を累積して示したレポートであり,感染症のエンピリック治療を開始する際の重要な情報源である.通常一定期間に院内で分離された菌はまとめて集計されるが,菌種によっては診療科や検体種類によって感受性に大きな違いが存在する可能性がある.今回われわれは,分離数が多く,耐性菌が治療上問題となりやすい緑膿菌について,診療科間,検体種類間,外来・入院間での13種類の抗菌薬の感性率の差について検討した.2009年に分離された緑膿菌株数(1人1株)は369株(外来患者から83株,入院患者から286株)で,30株以上検出された診療科は5科であった.5診療科間で抗菌薬の感性率に有意な差が認められた抗菌薬は3剤であったが,4つの検体種類間(呼吸器・泌尿器・消化器・膿浸出液)では13種類中11の抗菌薬で有意な差が認められた.呼吸器検体,膿浸出液検体の感性率が高く,泌尿器検体,便検体の感性率が低かった.外来・入院間ではすべての抗菌薬の感性率が入院由来株で低かった.尿路由来検体と呼吸器由来検体の緑膿菌の感性率の違いは大きいため,治療に当たる際は検体種類別に層別化されたアンチバイオグラムが有用であると考えられた.また診療科間の感性率の差は主に検体種類の差によるものであり,診療科別アンチバイオグラムの必要性は低いと考えられた.