著者
國島 広之 山崎 行敬 中谷 佳子 細川 聖子 駒瀬 裕子 三田 由美子 竹村 弘
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.123-126, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
11
被引用文献数
1

医療従事者の針刺し切創事例は,リキャップ禁止などの啓発活動や安全器材の普及により減少しているものの,全体に占めるペン型注入器用注射針の針刺し切創事例は増加傾向にある.今回,針刺し損傷防止機構付ペン型注入器用注射針(以下,「安全機構付注射針」)の導入による医療従事者の安全性への効果を把握するべく,3病院でのペン型注入器用注射針による針刺し切創発生件数を調査した.ペン型注入器用注射針による針刺し切創事例は,リキャップおよび廃棄に伴う事例が多く,安全機構付注射針の導入により月あたりの針刺し切創の発生件数は,0.33件/月から0.20件/月と減少がみられ,医療従事者の安全な就業環境の確保が得られたことが示唆された.
著者
野上 晃子 赤松 啓一郎 小島 光恵 中井 知美 辻田 愛 西野 由貴 神藤 洋次 柳瀬 安芸 南方 良章
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.345-349, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

医療関連感染は医療従事者が媒介者となることがあり,手や鼻腔,ユニフォームなどに病原微生物が付着していることが知られている.標準予防策では手指の汚染は防げるが,ユニフォームの汚染は防ぎきれない.そこで,ユニフォームの細菌汚染状況について,職種別,部位別に,付着菌量,菌種の調査を行った.和歌山県立医科大学附属病院に勤務する看護師,医師,理学療法士各6名,計18名に対し,洗濯直後のユニフォームを3日間着用して通常業務を行った後,拭き取り培養法により,ユニフォーム付着菌の菌量と菌種を調査した.調査部位は,ユニフォームの13ヶ所,各々100 cm2とした.職種間では,理学療法士が5.95 CFUと検出菌量が最も多く,医師3.24 CFU,看護師1.83 CFUと続いたが,統計学的には有意差は認めなかった(p=0.165).部位別では,両袖,後面の裾で,他の部位に比べ有意に菌量が多かった(p=0.0010).付着菌種では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が最も多かったが,黄色ブドウ球菌も多く認められた.医療従事者の感染予防策として,手洗いの励行とともに,ユニフォームの両袖や後面の裾などに対する注意も必要であり,なかでも理学療法士のユニフォームが汚染源になる可能性を考慮すべきである.
著者
尾崎 昌大 森 広史 古川 恵太郎 坂本 春生
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.285-289, 2018-11-25 (Released:2019-05-24)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

2015年7月,当院の血液腫瘍内科で入院していた患者から多剤耐性緑膿菌が検出された.その後,環境付着菌検査を行った温水洗浄便座の洗浄ノズルからMDRPを検出し,アウトブレイクであると判断し,感染対策を行った.アウトブレイクの一因として,清掃スタッフによる院内感染対策上不適切な清掃方法が行われていたことが挙げられた.その他にも製造時期が古い温水洗浄便座の洗浄ノズルにおいて,適切な清掃ができないなどといった温水洗浄便座を院内で使用する際に留意すべき問題点も判明した.このことから,院内で使用している設備・機器の洗浄方法や導入などにICTの積極的な介入が必要であることが改めて認識された.
著者
伏見 華奈 齋藤 敦子 更谷 和真 土屋 憲 池ヶ谷 佳寿子 加瀬澤 友梨 徳濱 潤一 原田 晴司 柴田 洋 髙森 康次 増田 昌文
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.136-142, 2018-07-25 (Released:2019-01-25)
参考文献数
25

本邦には歯科用ユニットの給水に関する水質の基準がなく,レジオネラ属菌による汚染の報告もみられず医療関係者の関心も低い.当院は1997年より院内感染対策の一環として院内給水系のレジオネラ定期環境調査を行っており,2014年から歯科用ユニットの給水を環境調査に追加した.4台の歯科用ユニットのうち1台よりLegionella sp.が60 CFU/100 mL検出され,部位別にみると,うがい水,低速ハンドピース,スリーウェイシリンジから,1,000 CFU/100 mLを超えるLegionella sp.が検出された.対策として,給水の温水器停止と回路内のフラッシング,次亜塩素酸ナトリウム希釈水の通水を行ったが,Legionella sp.は検査検出限界以下にならなかった.歯科用ユニットの構造的理由から,高温殺菌や高濃度消毒薬の使用など更なる対策の追加はできず,やむを得ず歯科用ユニットを交換した.近年,大半のレジオネラ症例は感染源が明らかではない国内単発例と報告されており,これまで認識されていない感染源の存在が示唆される.エアロゾルを発生する装置としての歯科用ユニットの給水システムはレジオネラ感染の極めて高い潜在的リスクと考える.歯科用ユニット製造業者と使用管理者,行政が連携し,歯科用ユニット給水汚染の制御法確立とレジオネラ症予防のための適切な管理基準の策定が望まれる.
著者
鹿角 昌平 小林 史博 芝野 牧子 松岡 慶樹
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.119-127, 2022-07-25 (Released:2023-01-25)
参考文献数
13

医療従事者を対象とした新型コロナウイルス感染症に係るワクチン(以下,新型コロナワクチン)の優先接種に際して,長野中央病院(以下,当院)では感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)からのワクチンに関する情報提供や,副反応が生じた際の特別休暇制度を設ける等の対応を行った.当院が行ったこれらの対応や,その他の各種情報が,当院職員の新型コロナワクチン接種に関する意思決定に与えた影響について調査した.“感染学習会やICTからの情報”が意思決定に与えた影響度は有意に高かったが,“特別休暇制度”の重視度は有意に低かった.新型コロナワクチンの接種行動に関して働きかけを行う際には,単に感染の危険性や接種のメリットを訴えるだけでなく,受け手側の特性を十分考慮した上で,効果的な手法を採用すべきであると考えられた.
著者
岡田 淳子 合田 礼 安井 初美 島 彬子 後藤 友紀
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.267-272, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
8
被引用文献数
3

医療者が手袋を装着することは,職業上血液暴露リスクの減少に有効な方法と評価されているが,採血時の手袋装着率は向上していない.採血時の手袋による「指先感覚鈍麻」と「操作困難」の程度を採血経験の有無で比較した.また,手袋が影響を及ぼす採血操作を明らかにした.   採血操作は手袋を装着することによって指先感覚鈍麻と操作困難が高まった.しかし,採血以外の看護ケアでも手袋を装着している経験者は,未経験者よりも指先感覚鈍麻と操作困難が低かった.また,採血経験者のうち,日頃から手袋装着で採血している者のほうが指先感覚鈍麻と操作困難の程度は低く,手袋装着を習慣化することで指先感覚鈍麻と操作困難は軽減され手袋装着率は向上することが示唆された.   また,採血操作14工程中,指先感覚鈍麻と操作困難を生じているのは,静脈触知,絆創膏貼付と開封であった.したがって,手袋装着は静脈触知後とし,注射針を破棄した後に手袋を除去すれば手袋の影響は最小限にできると考えられるが,採血実施者は熟練された技が必要になると思われる.   手袋が手に適合していない場合も,指先感覚鈍麻と操作困難が生じていた.そのため,適合する多種サイズの手袋配置が重要になることが示唆された.
著者
仲宗根 由美 名渡山 智子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.167-171, 2011 (Released:2011-08-05)
参考文献数
5

タクシー乗務員は狭い空間の中で様々な人たちを運送することから,呼吸器感染症に感染しやすい環境におかれているといえるが,インフルエンザなどの呼吸器感染症が流行している時期でも,マスクを着用しているタクシー乗務員をみかけたことがない.本研究は,タクシー乗務員の呼吸器感染症予防対策について検討することを目的とし,タクシー会社の管理者およびタクシー乗務員を対象に,呼吸器感染症予防に対する意識と予防行動についてアンケート調査および直接聞き取り調査を行った.その結果,呼吸器感染症予防対策のある会社は約20%であり,呼吸器感染症予防対策に関する知識がないために予防対策をとっていない会社もあることが明らかとなった.タクシー乗務員については,マスクを着用したいが客の反応を気にしてマスクを着用できない乗務員もいた.以上のことから,タクシー乗務員が呼吸器感染症を予防するためには,専門的な知識をもった医療職者が感染予防対策に関する知識や情報を会社やタクシー乗務員に提供するなどの介入が必要であり,会社全体での取り組みが必要であると考えられた.
著者
長尾 多美子 桑原 知巳
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.172-178, 2021-05-25 (Released:2021-11-25)
参考文献数
7

2018年2月に障害者支援施設で発生した感染性胃腸炎のアウトブレイク事例について報告する.当該施設は感染管理専門家が不在のため,発生要因の調査依頼を受け分析を行った.集団感染を検知したのは2月6日で,入所者4名と職員1名の合計5名が発症した.その後,2月14日に収束するまでの8日間で入所者20名(全利用者40名)と短期入所者1名,および職員6名(全職員42名)の合計27名が発症した.アウトブレイク期間の後半4日間の発症者の大部分は職員であった(入所者1名,職員4名).入所者の支援記録から2月4日に発熱,軟便,黒色吐物の嘔吐により転院した入所者が確認され,また介助した職員も発症していたことから,本入所者が感染源と考えられた.流行曲線は一峰性であったことから,集団感染検知後の感染対策は機能したと考えられた.本アウトブレイク事例では,①流行期に発熱・消化器症状を呈する入所者への初期対応ができていなかったこと,②発症した利用者の嘔吐や下痢の処理を担当した職員が発症したこと,③利用者の発症が収束した後も職員の発症が継続したことから,感染管理専門家が不在の障害者支援施設等においては「職員に対する継続的な感染対策教育の必要性」が重要であると考えられた.
著者
戸田 宏文 山口 逸弘 鹿住 祐子 中江 健市 上硲 俊法 田中 加津美 吉田 理香 吉田 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.319-324, 2013 (Released:2014-02-05)
参考文献数
18

我々は喀痰抗酸菌培養検査において,採痰ブース内水道水にMycobacterium lentiflavumが混入したことによるpseudo-outbreakを経験した.81症例からM. lentiflavumが検出されたが,感染症例は認められなかった.採痰ブース以外の院内水道水103箇所の抗酸菌培養を行ったところ,6個所からM. lentiflavumが検出された.臨床分離株14株,採痰ブース由来3株,および院内水道水由来5株の合計22株についてrep-PCRにて相同性の確認を行ったところ,プロファイルAからEに分類された.プロファイルCとDには臨床分離株と環境由来株が混在し,95%以上の相同性が認められた.
著者
菅原 民枝 大日 康史 具 芳明 川野原 弘和 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.195-198, 2012 (Released:2012-08-05)
参考文献数
7
被引用文献数
6 8

感染症流行の早期探知のための薬局サーベイランスでは,抗インフルエンザウイルス薬,抗ヘルペスウイルス薬,解熱鎮痛剤,総合感冒薬,抗菌薬の薬効分類で処方件数のモニタリングをしている.近年,抗菌薬耐性菌感染症の問題があり,諸外国では使用量が算出されて国際比較が行われているが,日本全国でのモニタリングはなされていない.そこで,薬局サーベイランスによる1年間の処方件数を用いて日本全国での外来診療における使用量を算出する方法について検討した.抗菌薬処方を5分類(ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系,キノロン系,その他)し,それぞれの処方件数を算出し,先行研究の投与量の分布を用いて,使用量を算出した.それを抗菌薬標準使用量(Defined Daily Dose: DDD)を人口1000人の1日あたりで示した.期間は,2010年8月~2011年7月処方の12ヶ月分である.抗菌薬処方件数は,12月が最も多く,8月が最も少なく,種類ではマクロライド系が多かった.抗菌薬標準使用量DDDは,全国で10.16であった.都道府県別では,西日本が高い傾向があった.
著者
萩谷 英大 國米 由美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.405-411, 2012
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;院内感染対策活動において職業感染防止策の徹底は,医療従事者を感染症から守るという意味において非常に重要である.医療従事者は日常的に感染症に曝露する可能性が高く,ワクチン予防可能疾患に対しては積極的にワクチン接種を行い,予防することが推奨されている.<br> &nbsp;&nbsp;集中治療室における汎発性帯状疱疹患者の発生,手術室における流行性耳下腺炎患者の緊急手術事例をきっかけに,当院関連施設の全職員を対象としたワクチン接種活動を行うこととなった.対象疾患は麻疹,風疹,流行性耳下腺炎,水痘帯状疱疹の4疾患,対象人数は984人であった.発案・計画から抗体価測定,抗体陰性者に対する2回のワクチン接種の完了まで約7ヶ月という短期間で終了し,抗体価低値者全体におけるワクチン接種率は麻疹81.9%,風疹76.9%,流行性耳下腺炎76.2%,水痘帯状疱疹60%であった.<br> &nbsp;&nbsp;院内でワクチン予防可能疾患の発症事例が続いたこと,Infection Control Teamだけでなく業務改善など他の事業と関連付けて他部署と協力して活動したこと,抗体価検査の全額とワクチン接種費用の半額を病院負担としたこと,ワクチンの同時接種を院内コンセンサスとして認めたこと,などが短期間で多数の職員に対して高い接種率でワクチン接種を完遂できた要因と考えられた.<br>
著者
岡田 淳子 山水 有紀子 山根 啓幸 山村 美枝 松本 由恵 百田 武司 西條 美恵 板橋 美絵
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.437-443, 2014 (Released:2015-01-26)
参考文献数
18
被引用文献数
4 5

大規模な災害時は生命の危機状態にある患者が急増し,医療機関は入院患者の対応が優先されるため避難所への支援は困難になる.そのため,避難所での感染伝播を防ぐには,避難者が実施する衛生管理が重要になる.そこで,避難者が実施した衛生的な行動を明らかにし,避難所の感染予防策について検討した.   東日本大震災で避難所生活を経験した避難者80名を対象に,手指衛生と環境衛生について構成的面接を実施した.その結果,震災直後は手を洗う環境が全くなかったと約60%が回答したが,救援物資の到着や水道の復旧によって手指衛生は強化された.しかし,手指衛生の実施場面は個人の衛生習慣が影響するため,日常から住民の手指衛生が習慣化する関わりが必要と思われる.また,外部支援による感染予防行動や衛生管理の指導は約25%の避難者にしか認識されていなかった.しかし,指導を受けた避難所リーダーが感染予防行動を具体的に指示した避難所は,環境の衛生状態を維持していた.避難所で感染を防止するためには,集団をマネジメントするリーダーの存在が重要であり,外部支援としては避難者らが予防行動を開始できるように支援することが示唆された.
著者
山下 ひろ子 小山田 玲子 奥 直子 西村 正治 石黒 信久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.333-341, 2012

&nbsp;&nbsp;2007年度,当院では病棟の入院制限を必要とするほどの大規模なノロウイルス胃腸炎の集団感染事例を5件経験した.いずれの事例も発端者が発症してから隔離されるまでに2~5日かかっていた.発症者隔離までの期間を短縮することで集団感染を回避することはできないかと考え,感染性胃腸炎患者の早期隔離に努めてきた.その結果,入院制限を必要とするほどの大規模な集団感染は2008年度と2009年度には各1件,2010年度には0件と減少したことから,2006年4月から2011年3月の5年間に感染性胃腸炎として報告された事例168件を対象として詳細に検討した.入院患者の発症事例85件のうち,各部署で発症を把握した当日(隔離までの所要日数0日)に発症者を隔離した64件では大規模な集団感染を回避できたが,翌日(同1日)に隔離した11件のうち1件(9.1%),翌々日(同2日)に隔離した5件のうち2件(40.0%),それ以降(所要日数3日以上)に隔離した5件では全件(100.0%)に大規模な集団感染が発生した.職員の発症事例83件中81件(97.6%)は,各部署で発症を把握した翌日(同1日)までに発症者の隔離がおこなわれており,大規模な集団感染の発生はなかった.以上より,臨床症状に基づいて感染性胃腸炎患者を早期に把握して隔離することが大規模な集団感染を回避するために有用であることが明らかとなった.<br>
著者
青野 淳子 四柳 宏 森屋 恭爾 小池 和彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.253-258, 2012 (Released:2012-10-05)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

看護学生のB型肝炎防止策として,各学年4月にHBs抗原・抗体の測定を行い,HBs抗原・抗体両者陰性者にB型肝炎ワクチン接種を行った.2007年から2009年までの入学生315名(女性279名,男性36名)は,入学年次における1シリーズ(3回)のHBワクチン接種により,2学年4月には女性97.8%(273/279),男性97.2%(35/36)がHBs抗体陽性となった.2学年4月におけるHBs抗体陰性者7名(女性6名,男性1名)に最初の1シリーズと同じワクチン同量を同様の方法で1~3回接種し,全員がHBs抗体陽性となった.ワクチン接種後4学年までの経過を追跡した129名では3学年4月には3.9%(5/129),4学年4月には10.1%(13/129)が陰性化した.陰転者へのHBワクチン追加接種では良好な抗体価の再上昇がみられ,2学年4月に陽性化が確認されれば,卒業まで陰転者に対する追加接種が必須でないことが示された.一方,HBs抗体陽性となってもHBs抗原が一過性に陽性となった例も1例みられ,ワクチンにより感染を完全に防止できないことも示唆された.
著者
渡邊 和恵 松本 成史 豊嶋 恵理 石上 香 大崎 能伸
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.397-401, 2016 (Released:2017-02-06)
参考文献数
8
被引用文献数
1 4

本邦では,2015–16シーズンから4価インフルエンザワクチンが用いられるようになったが,成人に対する副反応については十分な報告が無い.今回,当大学および当院職員を対象とした4価インフルエンザワクチン予防接種を受けた被接種者を対象に,副反応調査を実施した.副反応発現率は75.3%であり,主な副反応としては,注射部位の発赤,腫脹,疼痛等の局所症状が主で,重篤な副反応の報告はなかった.本調査は,職員に対する予防接種の副反応調査であるが,副反応の種類や頻度は,国内外の臨床試験成績と同様であり,4価ワクチンの忍容性が示唆された.
著者
武部 佳代 嶋田 聖子 濱邊 秋芳
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.365-370, 2010-11-25
参考文献数
11

&nbsp;&nbsp;職業感染防止対策の一環として,麻しんワクチンの予防接種を行うことが,当院院内感染対策委員会にて決定された.当院職員381名中,40歳未満の全職員と40歳以上の希望者269名に対して,赤血球凝集抑制反応にて抗体価検査を実施し,検査結果より抗体価が16倍以下の職員165名を対象に,2009年3月23日~3月30日の7日間に接種を行った.その際,麻しんワクチン接種後の健康状態及び,副反応の調査を行った.<br> &nbsp;&nbsp;麻しんワクチン接種者165名中111名から健康調査表を回収し,回収率は67.3%であった.副反応の症状が発現したのは36名(32.4%)であった.症状としては,咳・鼻水18名,下痢13名,37.5度以上の発熱5名,吐き気4名,注射部位の異常4名,嘔吐3名,発疹1名,その他13名であった.<br> &nbsp;&nbsp;重大な副反応は見られなかった.また初回接種者と接種経験者との間には有意な差は認められなかった.<br> &nbsp;&nbsp;職業感染防止対策の一環としてワクチン接種が推進されているが,実施計画の遂行に重点を置く為,副反応が発現する事への対策は軽視されがちである.副反応の発現はワクチン接種への拒否に繋がることも予想され,接種対象者に対する身体的負担も含めて,接種計画立案時に副反応対策も検討すべき事項と考える.<br>
著者
川崎 和男 舩山 俊克 山本 浩一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.355-363, 2017-11-25 (Released:2018-05-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究の最終目標は,強い殺菌効果で知られている深紫外線を生体に利用することである.本論文ではそのための検証の一つとして,深紫外線の近接場における殺菌効果の生体への影響について調べた.大腸菌および創傷を付けたラットの皮膚を対象に,深紫外線の近接場が与える影響を,観察からデータを取得し比較検討した.その結果,深紫外線の近接場において,大腸菌に対しては670 mJ/cm2の照射量で90%の細菌を死滅させることができ,同様にラットの創傷に対しては傷の回復に悪影響がないことが観察された.これらから近接場においては,大腸菌への殺菌効果がある線量でも,ラットを対象とした場合は生体の回復に悪影響を与えないことがわかった.本研究は,デザイン工学者が工学者の新技術を理解し,医学者とともに医学的な提案を考え,実験の実施まで行った.
著者
福田 治久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.63-73, 2013 (Released:2013-06-05)
参考文献数
20

手術部位感染率の病院間比較は効果的な感染対策であるが,その成否は患者重症度調整にかかっている.本研究の目的は,感染率の病院間比較手法について検証することである.   本研究の解析対象は,APPY, BILI, CHOL, COLN, GAST, RECの6術式である.患者重症度調整変数として,(1) NNISリスク・インデックスを構成する変数,および,(2)サーベイランス対象の全変数,を投入した多変量ロジスティック回帰分析を実施した.モデルのパフォーマンス評価にはc-indexを用いた.また,共変量に,手術時間と内視鏡有無の2変数を投入・除外したモデルを構築し,各モデルにおいて算出される標準化感染比(SIR)の変化を検証した.   解析対象は37病院における37,251症例である.SSI発生に関するオッズ比は術式間およびリスク要因間で大きく異なっていた.APPYを除いて,サーベイランス対象の全変数を用いたモデルはc-indexが有意に高かった(p<0.001).SIRは,構築モデルによって大きく異なり,その結果,病院パフォーマンスの解釈が相反する事象が観察された.   従来のNNISリスク・インデックスによる層別解析よりも,SSIサーベイランスの全収集変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析によるモデル解析の方がパフォーマンスの高い結果が得られた.
著者
堀 良子 高野 尚子 葭原 明弘 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.85-90, 2010-03-25
参考文献数
21
被引用文献数
4 2

&nbsp;&nbsp;歯科関係者の専門的な口腔ケアが要介護高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐことに関する研究報告は多いが,リスクのある入院患者の看護者による日常的な口腔ケアを評価した報告は殆どない.そこで,われわれは一般病棟入院患者に実施されている口腔清掃と院内発症肺炎の起炎菌と同じ菌株の口腔からの検出および発熱との関連について検討した.<br> &nbsp;&nbsp;新潟県内4病院の口腔清掃に介助を必要とする40歳以上の入院患者69名を対象とし,清掃の回数および実施内容を記録した.また,黄色ブドウ球菌,MRSA,緑膿菌を対象として口腔内細菌の検出と菌数測定を行い,過去7日間の37.5&deg;C以上の発熱の有無を調査した.これらを経口摂取群と非経口摂取群に分けFisherの直接確率法で評価した.その結果,経口摂取群において口腔清掃が3回/日以上の者で,発熱ありの割合と黄色ブドウ球菌の検出された割合が有意に低かった.一方非経口摂取群においては,歯ブラシを使用している者の方が発熱ありの割合が有意に低かった.以上より,経口摂取者においては頻回の口腔清掃が発熱と口腔内の日和見菌の定着を防止することが示唆され,非経口摂取者においては歯ブラシを用いた機械的な口腔清掃を行うことによって発熱が防止できることが示唆された.<br>
著者
坂本 史衣
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-6, 2019-01-25 (Released:2019-07-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1

カテーテル関連尿路感染(Catheter-associated urinary tract infections:CAUTI)は医療関連感染の10~20%を占める.近年,CAUTIの主要なリスク因子の一つとして,カテーテル留置期間の長期化が注目されており,専門組織が発行するCAUTI予防のためのガイドラインやガイダンスは,カテーテルの使用制限を含む多角的な取り組みを行うよう推奨している.本稿では米国医療研究・品質調査機構(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)が開発した包括的プログラムを参考にしながら,根拠に基づくCAUTI予防策について解説する.