著者
入江 萩子 渡辺 守
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.68-75, 2009 (Released:2019-09-28)
参考文献数
32
被引用文献数
1

For high school students, evolution of animal behavior seems to be the most difficult concept to understand due to unavailable examples off ered by text books. In the present study, we developed teaching materials for the evolution of animal behavior and proposed the methodology. In the Japanese sulfur butterfl y Colias erate, polyandrous alba females are the dominant morph in the female population, though mated females do not easily re-accept males courting. The wings of mated alba captured in the field were closed by glue, and they were tethered in the grassland where males were searching for mates. We observed 1,830 entries of males into the imaginary hemisphere of 1 m radius around each female. A half of the males noticed and visited our females. Due to the closed wings, every female was unable to show the mate refusal posture, so the males continued their courtship behavior. However, the duration of hovering around the females was short in the morning, and most males left the females without touching them. Because newly emerged females promptly accept copulation with males in the early morning, males might prefer virgin females to mated ones. On the other hand, males that visited the females around noon prolonged the duration of hovering and tried to copulate persistently. The adaptive significance on the behavioral sequence was easily observed due to the closing femalesʼ wings. Manipulation of the butterfl y wings in the field observation was discussed in the viewpoint of the teaching materials for high school education on evolutionary biology.
著者
本橋 晃
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.91-96, 2022 (Released:2022-08-23)
参考文献数
21

生物の組織を用いたタンパク質分解酵素の作用を確認する実験系の開発を行った.動物の組織を用いることは難しいので,タンパク質分解酵素を含む植物の果実を利用した.タンパク質の消化の観察には,分子レベルで視覚的にとらえられるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いた.基質には牛乳を使用し,それらを果汁と混合することにより,タンパク質の低分子化が時間とともに進んでいく様子が確認できた.中でもパインアップル,キウイでは顕著なプロテアーゼ活性が認められた.本実験は「生物」における「酵素の作用」の学習および探究学習にも有効に活用できる教材と考えられる.
著者
藤本 順子 紅露 瑞代 米澤 義彦
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3-4, pp.140-147, 2014 (Released:2019-09-28)
参考文献数
30

中学校理科第2分野における「花粉の発芽と花粉管の伸長」に関する実験材料,発芽用基材および培地組成について再検討を行った.実験材料としては,従来から使用されているホウセンカやインパチェンスげフリカホウセンカ)に加えて,①花粉が置床後10分以内に発芽すること,②花期が長いこと,③花粉粒内で雄原細胞の分裂が行われており,減数分裂によって染色体数が半減したことが確認できること,などの理由から,ヒガンバナ科のミドリアマナも有効であることがわかった.また,発芽用基材としては,教科書等に記載されている「寒天培地」よりも,市販の「普通セロハン」(吸水性のセロハン)にスクロース液をしみこませた「スクロース―セロハン培地」が簡便で有効であることがわかった.さらに, 10%スクロース液に100 ppmのホウ酸と300 ppmの硝酸カルシウムを加えると,花粉粒の破裂を防ぐことができることができ,観察できる確率が高くなることが示された.
著者
村田 公一 村田 晶子 兵藤 博行 中山 広之 岩澤 淳 水谷内 香里 高橋 哲也
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.2-11, 2011 (Released:2019-09-28)
参考文献数
24

ヒトの聴覚器において鼓膜と卵円窓の面積比によって音が増幅される機構を説明するためのモデルを作成して,これを医療系学校(高等学校卒業者の1年生)の講義で演示した場合の学生の理解に及ぼす効果を調査した.モデルは,スチロールの円板を取り付けたばね式上皿はかりと市販の空気弾発射装置を組み合わせて作成し,スチロール円板の大きさ,スチロール円板と空気弾発射装置との距離(空気弾射出距離)および空気弾発射装置の口径を検討し,さらに空気弾発射装置は市販品と自作品との比較を行った.その結果から,スチロール円板は直径20㎝と5㎝,空気弾射出距離は40㎝,口径は12㎝とし,市販の空気弾発射装置を使用して講義で演示を行うこととした.講義を行った後では,「ヒトの聴覚器のどの部分で音は増幅されるか」についての質問に対して,「耳小骨」と答えた者の割合は講義の前よりも有意に増加したが,モデルを使わなかった場合と使った場合との間に差はなかった.また,「音をどのように増幅するか」についての質問に対しては,「てこの作用」と答えた者の割合は,モデルを使った場合のみ講義前より増加した.「鼓膜と卵円窓の面積比」と答えた者は,モデルを使わなかった場合は全くいなかったが,モデルを使った場合は講義前よりも有意に増加した.したがって,本研究において作成した演示モデルを使用することにより,本研究が目的とした「鼓膜と卵円窓の面積比」による音の増幅機構のみならず,「てこの作用」による増幅機構の理解度も高める効果があるものと思われる.
著者
髙野 雅子 大島 輝義 奥田 宏志 山野井 貴浩 武村 政春
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.12-24, 2011 (Released:2019-09-28)
参考文献数
24
被引用文献数
3

DNA複製は,遺伝情報を次世代に伝えるメカニズムである.DNA複製の際のエラーは生物進化へとつながり,新学習指導要領の掲げる「ミクロレベルとマクロレベルの連結」を理解する上で鍵となるものである.本研究では,DNA複製を学ぶ実験教材開発の手始めとして,DNAファイバー法を利用したDNA複製可視化実験の生徒実験としての改良と,SPPを利用した高校生に対する実践を行った.DNAファイバー法とは,培養細胞等から取り出したDNAをスライドグラス上で長く引き伸ばす技術であり,DNA複製反応を蛍光物質で追跡することで,細長いDNAが一方向に複製されていく様子を蛍光顕微鏡で直接見ることができる.改良前のプロトコールは初心者である生徒には煩雑な操作が多かったが,今回の改良により,生徒実験において,すべての班で良好な実験結果を得ることができた.生徒実験の実施後に参加した生徒に対して行った簡単なアンケートでは,生徒がDNA複製可視化実験そのものに対する興味,関心を高く持ち,積極的に実験に参加していたことが明らかとなり,アンケートの自由記述においても肯定的な感想が多かった.改良後のプロトコールは,生徒実験として利用するための時間制限や操作の煩雑さ,初心者でも良好なDNAファイバーを作ることができる点で有効であることがわかったが,生徒が抱く実験後の充足度に関すること,DNA複製の内容に関する理解度向上に関すること等,改善すべき点や,今後詳細な調査を行っていく必要があることも示された.本生徒実験を行うためには試薬や機材等が高価であること,改良したとは言えまだ煩雑で難しい操作が多いことなど課題は多いが,本生徒実験が高等学校の現場へ導入される可能性は低くはない.突然変異や進化に関する教育教材と併用していくことで,新学習指導要領の理念の下で,DNA複製など分子レベルでの現象が生物進化にどのようにつながっていくかを生徒に理解させる有効なツールとなるだろう.
著者
渡邉 重義
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1-2, pp.1-12, 2011 (Released:2019-09-28)
参考文献数
17
被引用文献数
1

Under the curriculum of new course of study (2008) the learning on vascular system in junior high school becomes more significant. The students are expected to learn the vascular system through inquiry. For guiding students’ inquiry I investigated the vascular bundle of angiosperm stems using the polychromatic staining method by toluidine blue O and developed some teaching materials and method. The basic investigation on vascular bundle of plants in surroundings showed that the metachromasia of toluidine blue O was observed in the 80 % of 63 angiosperms species. In such species the xylem and the phloem could be differentiated easily by color. The xylem was stained blue or greenish blue while the phloem was stained reddish or bluish purple. Some species such as Lamium amplexicaule, Cyperus cyperoides, Mirabilis jalapa showed the suitable morphological feature of vascular system to study the patterns and diversity of plants. The developed teaching materials and method for inquiry are as follows: (1) Work sheets guiding observation of vascular system stained by toluidine blue O; (2) Photographic plates and information photo cards for comparative observation or the activity of classification of vascular system; (3) Work sheets and photographic plate on vascular system of climbing plants for relating the structure of stem to the adaptation in the environment.
著者
安藤 秀俊 遠谷 健一 盛島 日紗子
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1-2, pp.10-21, 2012 (Released:2019-09-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1

平成20年3月に告示された学習指導要領では,持続可能な循環型社会の構築をめざして,環境やエネルギー教育のいっそうの充実が盛り込まれた.中学校理科においても,バイオマスなどの新しいエネルギーへ興味や関心を持たせ,多面的・総合的にエネルギーを捉えることが目標とされている.しかし,現行の教科書では,単にバイオマスの言葉の説明や工場の写真等の掲載にとどまり,バイオマスエネルギーに関する観察や実験の記載はなく,これらの教材開発もほとんど行われていない.そこで,サトウキビ(Saccharum officinarum L.)を材料に中学校で実施可能なバイオマスを利用したエネルギーに関する教材の開発と,その有効性を本学附属中学校で授業実践を行い検討した.サトウキビをドライイースト,サプリメント,酵母ビーズを用いて発酵させ,発生したエタノールを,ここ1,2年で急速に普及しつつあるアルコール測定器を用いて測定したところ,生徒たちは酵母の種類により0.66~0.73mg/lのエタノールを検出することができた.また,授業の前後で行った意識調査の結果,「トウモロコシから車の燃料を作ることは環境にやさしい」や「バイオマスエネルギーについて学習することは,エネルギー問題の解決に役立つ」の2項目で授業後の意識が有意に向上し,身の回りの環境やバイオマスなどを身近な問題として捉え,環境やエネルギーに関する認識を深めることができ,本教材がバイオマスを利用したエネルギーに関する教材として有効であることが確かめられた.
著者
小川 義和
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.156-160, 2019 (Released:2019-12-16)
参考文献数
13
著者
渥美 茂明 笠原 恵 市石 博 伊藤 政夫 片山 豪 木村 進 繁戸 克彦 庄島 圭介 白石 直樹 武村 政春 西野 秀昭 福井 智紀 真山 茂樹 向 平和 渡辺 守
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.8-22, 2018 (Released:2019-04-11)
参考文献数
9

平成21年3月に改訂された高等学校学習指導要領で設けられた科目「生物基礎」と「生物」では,科目の大枠を単元構成で,取り上げるべき内容は最低限の例示で示された(文部科学省 2009).その結果,教科書間にページ数や内容の差が生じ,教育現場に混乱をもたらした.日本生物教育学会が設置した生物教育用語検討委員会を引き継ぎ,2015年4月に日本学術振興会の科学研究費による「新学習指導要領に対応した生物教育用語の選定と標準化に関する研究」が組織され,本研究を行った.各社の教科書から,太字で表示された語句,索引語,見出し語,および明らかに生物の用語と見なせる語を用語として抽出した.教科書の単元ごとに用語が出現する代表的な1文,ないし1文節とともに出現ページと出現場所(本文か囲み記事か脚注かなど)の別をデータベースに記録した.用語の使用状況をデータベースにもとづいて分析するとともに,単元ごとの「用語」一覧にもとづいて「用語」の重要度を評価した.生物基礎では1226語(延べ1360語)を収集した.「生物」では1957語(延べ2643語)の「用語」を収集した.「生物基礎」でも「生物」でも1つの単元にしか出現しない「用語」が大半を占めていた.1つの単元で1社の教科書にのみ出現する「用語」も存在し,特に第一学習社の「生物基礎」(初版)では827語中144語が同じ単元で他社の教科書に出現しない「用語」であった.「用語」の重要度は,評価者の属性による差違が際立った.「生物基礎」と「生物」のいずれにおいても,大学教員が多くの「用語」に高校教員よりも高い評価を与える傾向が見られた.特に,「生物」の5つの単元(窒素代謝,バイオテクノロジー,減数分裂と受精,遺伝子と染色体,動物の発生)では大学教員が高校教員よりも高い評価を与える用語が存在した一方,その逆となった「用語」が存在しなかった.これは生物教育用語を選定しようとするとき,選定者の属性によって結果が異なることを示している.さらに,「用語」の表記に多くのゆらぎが見つかった.それらは漢字制限に起因するゆらぎ,略語や同義語,あるいは,視点の違いを反映した表記のゆらぎであった.表記のゆらぎを解消するための「用語」の一覧を作成し提案した.
著者
橋本 健一 澤 友美
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.10-16, 2019 (Released:2020-04-13)
参考文献数
19

小学校3学年理科B生命・地球(1)身の回りの生物の単元では,昆虫の体は頭・胸・腹からできていることについて学習する.手軽に得られ,簡単に観察できる材料として,アブラゼミ(Graptopsaltria nigrofuscata)などのセミの抜け殻を教材とした授業実践を行い,その有効性について検討した.授業に先立つ事前アンケートで,「セミの抜け殻を見たことがあるか」に対しては,東京都渋谷区立笹塚小学校(以下笹小)3年生児童120名(男子55名女子65名)の95%,私立津田学園小学校(以下津小)(三重県桑名市)4年生児童45名(男子21名女子24名)の87%,津小1年児童35名(男子17名女子18名)の94%が「ある」と回答した.また,「セミの抜け殻を拾ったり触ったりしたことがあるか」に対しては,笹小3年児童の71%,津小4年児童の67%,津小1年児童の65%が「ある」と回答した.セミの抜け殻は児童にとって身近な存在であり,比較的多くの児童が興味を持つ存在である思われる.2015年9月4日に笹小3年児童26名(男子13名女子13名)を対象に,アブラゼミの抜け殻を用いて,昆虫の体のつくりを調べる授業実践を,連続した2単位時間の授業として行った.抜け殻は児童1人に1個体配布し,先ず,自由に観察・スケッチした後,図中に頭・胸・腹を境目がわかるように示すよう指示した.次いで,頭は触角や眼のあるところ,胸は翅や肢がついているところなどの観察の視点を与えた上で2回目のスケッチを行わせ,再度,図中に頭・胸・腹を境目がわかるよう示すことを指示した.その結果,視点を与えていない1回目のスケッチでは,頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていたと思われる児童は19%であったのに対し,視点を与えた後の2回目のスケッチでは58%に増加した.また,2016年10月12日に,笹小3年児童64名(男子27名女子37名)を対象に,授業時間は1単位時間とし,最初から観察の視点を与えた上でスケッチさせた.その結果,児童の61%が頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていた.この結果から,多くの児童がセミの抜け殻の体のつくり,特に,頭・胸・腹の区別を観察により捉えることができ,特に,予め,観察の視点を与えることにより,効果的な授業展開が可能と思われた.セミの抜け殻は終齢幼虫の脱皮殻であるが,セミ類は不完全変態の昆虫であるため,その体のつくりの成虫との差は完全変態の昆虫ほど大きくはなく,昆虫の体のつくりの基本を確認することができる.都市部でも容易に見つかり,均一な材料を多数,簡単に集められ,長期間の保存にも耐えうるので,昆虫の体のつくりを調べる教材の一つとして有効に活用できるものと考えられる.
著者
武田 一久 神山 貴達 小川 茂
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.32-36, 2011

<p>Each of the mature pollen grains of Hymenocallis littoralis has been shown to contain a reddish brown, spindle-shaped generative cell. The present study revealed that the behavior of generative cells and sperm cells within pollen tubes could be observed under the conventional light microscope. About three hours after pollen dispersal on the surface of agar plate, the generative cell entered the pollen tube, maintaining its shape and color. The generative cell divided into two reddish brown sperm cells at 7-9 hours after pollen dispersal. These sperm cells moved toward the tip of elongating pollen tube. Based on the present observation, possible application of the pollen of H. littoralis as a material to the classes for teaching the double fertilization characteristic of the angiosperms in high school biology is discussed.</p>
著者
武村 政春
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3-4, pp.149-159, 2015 (Released:2019-09-28)
参考文献数
28

真核生物の誕生は,進化史上最も重要な出来事の一つである.しかしながら,高校生物の教科書におけるその記述は,共生説の紹介,原核生物と真核生物の単純な比較などにとどまり,真核生物の誕生がその後の生物進化に与えた影響など,重要な点が欠如しているなどの問題があると考えられる.そこで本研究では,旧課程「生物I」「生物Ⅱ」ならびに現行課程「生物基礎」「生物」の教科書に掲載された「真核生物の誕生」の内容,ならびにその「3ドメイン説」との関連付けに関する調査を行い,上記問題への解決法を見出すことを目的とした.旧課程の高校生物教科書では,「生物I」→「生物Ⅱ」の順で詳細な内容が扱われ,そのすべてにおいてミトコンドリアと葉緑体の起源に関する共生説が扱われていたが,核の起源に関しては「細胞膜の陥入」程度の記述しか見られなかった.現行課程の高校生物の教科書では,そのすべてにおいて共生説が扱われており,とりわけ旧課程「生物I」ではコラム的に取り扱われていたのに対し,現行課程「生物基礎」では本文において詳細に扱われていた.また現行課程では,教科書により「生物基礎」と「生物」のどちらで「真核生物の誕生」を詳細に扱うかが異なっていることがわかった.現行課程の「生物」では3ドメイン説が詳しく扱われるようになったが,3ドメイン説と密接に関係するはずの「真核生物の誕生」とは別の章で取り扱われており,大部分の教科書で両者は完全に切り離されていた.これらのことから,次の学習指導要領の改訂では,3ドメイン説との関係も見直した上で,教科書記述を再検討することが望ましい.また「真核生物の誕生」に関する教材研究は国内外を通してもほとんど行われておらず,新たな視点での教材開発が期待される.
著者
西川 洋史
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.110-116, 2019 (Released:2019-12-16)
参考文献数
11
被引用文献数
1

現在,生物の代謝産物を扱った生徒実験は呼気に含まれる二酸化炭素の検出など限られているが,魚類を小ケースで飼育すると比較的高いレベルのアンモニアが蓄積することが知られる.そこで市販の簡易検査キットを用いて魚類から排出されるアンモニア量を測定した.具体的には観賞魚として人気のあるキンギョCarassius auratus auratus,ミナミメダカOryzais latipes,エンゼルフィッシュPterophyllum scalare var.,コリドラスCoridoras aeneusを250 mlの飼育水に入れ,排出されたアンモニア濃度区分を求めた.その結果,キンギョ20個体またはコリドラス6個体を10分間室温で飼育したところ,数回の実験すべてにおいてのアンモニア濃度区分が1.5 mg/L以上に達した.これをもとに授業実践ではキンギョ10~20個体をビーカーに10分間入れて,排出されたアンモニア量を測定した.この一連の過程は50分間の授業内に終わり,かつすべての生徒が優位なアンモニア上昇を確認することができた.これまで水中のアンモニア検査キットは環境の観点から使われてきたが,本実験・教育実践では生理機能の観点から扱った.この展開は,生物代謝成分を直接扱って生物の主要構成元素の理解につなげていく教育実験系が網羅されたことを意味する.
著者
星野 敬太郎 光永 伸一郎 小林 辰至
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.83-90, 2013-01-15
参考文献数
9

<p>発芽時における,貯蔵デンプン分解の仕組みを学習・理解するための実験教材の開発を試みた.さまざまな植物の発芽種子を対象に分析を加えた結果,ソバを用いた実験教材を作成することができた.本教材においては,デンプン分解に伴うグルコース濃度の変動とその要因となるアミラーゼ活性について,尿糖試験紙法とデンプン試験紙法を用いて容易に確認することができる.すなわち,両者の関係について自ら仮説を立てた後,実験を通してそのことを検証できるわけであり,探究活動を取り入れた教材としての活用に期待がかかる.また,本教材は,発芽の生理についてグルコースを中心としたエネルギー代謝(糖代謝)の側面からとらえたものである.よって,本教材により,形態的変化の観察が中心である発芽の学習を,生化学的要素を含むより高度な内容へと発展できるものと考える.</p>
著者
時澤 味佳 竹下 俊治
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.33-39, 2014

<p>本研究では,地衣類の相利共生を確かめる実験教材の開発を行った.地衣類を構成する共生菌は有害な紫外線を吸収する成分を生成し,共生藻を保護しているといわれている.そこで,キウメノキゴケから紫外線を吸収する成分をエタノールにより抽出し,UVランプ,UVメータまたは無色の蛍光ペンを用いて,共生菌による紫外線の吸収を確認する実験を開発した.地衣類の共生藻と共生菌の関係は,共生藻が共生菌に光合成で生産した糖を提供し,その代わりに共生菌が共生藻に安定した生育環境を提供する「相利共生」といわれている.共生藻が共生菌に糖を与えていることは,光合成や生産者などの既存の知識から比較的理解しやすい一方で,腐生性や寄生性の生物として知られる菌類が共生藻に利益を与えていることは理解しがたいと考える.そこで,共生菌が共生藻に与える利益を確かめる実験教材が必要であると考えた.本研究では,共生菌が有害な紫外線から共生藻を保護していることに着目した.共生菌による紫外線の吸収は,共生菌が生成する二次代謝産物(地衣成分)によるものである.紫外線を吸収する地衣成分としてはウスニン酸やアトラノリンが代表的である.本研究材料のキウメノキゴケはウスニン酸を生成することが知られている.本研究ではまず,スペクトルメータを用いてキウメノキゴケのエタノール抽出液の光の吸収領域を測定した.その結果,抽出液が紫外領域の波長(300~375 nm)を選択的に吸収していることが分かった.また,培養実験を行いウスニン酸の紫外線吸収により共生藻が受ける紫外線の影響が減少することを確かめた.そして,安価で容易な実験としてUVランプ,UVメータまたは無色の蛍光ペンを用いた紫外線吸収の確認実験を開発した.地衣類の教材としての利点は,移動性や季節的消長がなく時期を問わず入手可能なことや,乾燥標本として長期間保存後でも地衣成分の抽出が可能であることである.本実験は,比較的安価で実験操作も容易であるため,学校現場で利用可能であると考える.</p>
著者
木崎原 祥文
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.36-40, 2012-08-31
参考文献数
11

<p>The apple snail(Pomacea canaliculata) is a fresh water shellfish and was introduced by species, imported for food, from Latin America. It can be gathered from the paddy fields around Asakura High School, in Asakura-city, from July to September. In this experiment, a set of male and female apple snails are prepared for a group of two students. Students can identify a male and a female by the shape of the operculum and the shell mouth. One student dissects a male apple snail and the other a female one using the dissection scissors. When their shells are cracked, the penial sheath covering a penis for males and the red albumen gland for females can be distinctively observed respectively. For a male, the testis is located inside the black liver rolling like a spiral. By observing the prepared slide of the tissue of the testis with the light microscope, innumerable live sperms moving actively can be clearly observed. The apple snail has many merits for the observation material of sperms at the high school level.The merits are as follows;・500 to 1,000 apple snails can be gathered easily in paddy fields every year.・No student feels a resistance to gathering and dissecting the apple snail because it is regarded as one of the harmful beings to rice cultivation.・We can refer to the bad influence on the ecosystem by the alien speices and the spread of the parasite, Angiostrongylus cantonensis, by way of human's activity.</p>
著者
中道 貞子
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.150-159, 2020 (Released:2020-12-18)
参考文献数
6

2018年3月,次期高等学校学習指導要領が告示され,今回初めて,『生物基礎』の内容の取扱いの配慮事項として,主要な概念を理解させるための指導において重要となる用語(重要用語)の数が具体的に示された.その数は,2017年9月に出された日本学術会議基礎生物学委員会・総合生物学委員会合同生物科学分科会生物科学分野教育用語検討小委員会の報告「高等学校の生物教育における重要用語の選定について」の中に示された『生物基礎』の最重要用語と重要用語の合計数153の1.5倍程度である.なお,2019年7月に同小委員会から改訂版が出されたが,『生物基礎』の最重要用語・重要用語に該当すると思われる用語は157である.一方,現行学習指導要領のもとで,5社の教科書出版社から刊行されている『生物基礎』の教科書のいずれかに掲載されている生物用語は520語である.これに,小委員会報告に見られる11語を加えた531語を高校生物教員に示し,その中でどれを『生物基礎』の重要用語と考えるかを調べる目的で,2018年8月から2019年3月の間にアンケート調査を実施し,80名の高校生物教員から回答を得た.回答者によって選ばれた『生物基礎』の重要用語は,小委員会報告改訂版で選ばれた最重要用語・重要用語と概ね一致していた.ある用語を重要とした回答者の割合(その用語の被選択率)が76%以上だった用語は96語で,そのうち93語(97%)が小委員会報告の最重要用語・重要用語であったが,被選択率が低い用語には小委員会報告の最重要用語・重要用語が少なかった.また,被選択率の高い用語の多くは,次期学習指導要領の『生物基礎』の解説に見られる生物用語であった.次期学習指導要領解説で示された『生物基礎』の重要用語数の目安は200~250なので,小委員会報告や次期学習指導要領で取り上げられた生物用語だけでなく,教科書では,さらに生物用語が付け加えられる可能性がある.用語選択の際には,学習内容の概念の階層化を図り,学習内容を俯瞰した上で用語選択するのがよいと考え,本報告では,次期学習指導要領の大項目の一つについて,その例も示した.
著者
佐藤 綾
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.83-94, 2018 (Released:2018-10-29)
参考文献数
27

小学校理科では,野外での生物観察など自然との関わり合いの中で児童が問題を見出すことが求められている.一方で,小学校教員や教員を目指す大学生は野外での生物観察の指導に不安を感じていることが指摘されている.本研究では,野外での生物観察を行う単元において,教科書で取り扱われる頻度が高い生物,その中でも特に学生が知らないと感じている生物を明らかにすることで,小学校の教員を目指す大学生が野外での生物観察を指導する自信を高める大学での効果的な支援を探るための基礎資料を提供する.小学校理科の教科書に記載されている生物を調査した結果,全体で190の動物と134の植物が記載されていた.その中で「昆虫と植物」,「身近な自然の観察」,「季節と生物」の野外での生物観察を行う単元で記載されていた動植物は3~6学年全体で記載されている生物の約半数(54.2%)を占めていた.一方で,単元間で共通して見られた生物,出版社間で共通して見られた生物は動物38,植物30のみであった.教員養成学部の大学生を対象とした調査から,教科書に記載されている生物のうち,動物では鳥類,植物では野生草本について,その生物を知らないと回答する学生が多いことが明らかとなった.以上のことから,大学の授業においては,単元間,出版社間で共通して見られる生物をまず取り上げること,特に鳥類と野生草本を授業の材料として取り上げることで,小学校教員を目指す大学生が野外での生物観察を将来指導するための基礎的な知識を効果的に高めることができると考えられる.
著者
山田 貴之
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.38-44, 2017 (Released:2018-10-29)
参考文献数
20

本研究の目的は,中学校第2学年「動物の体のつくりと働き」における「生命を維持する働き」において,ブタ心臓の解剖実験を取り入れた授業実践が,「心臓の各部位の同定」,「動物の生命に対する意識」および「解剖に対する意識」に与える効果について明らかにすることである.この目的を達成するために,ブタ心臓の解剖実験を取り入れた授業を行い,作成したワークシートおよび質問紙を分析したところ,以下の3点のことが示唆された.第1に,「心臓の各部位の同定」については,85%以上の生徒が8点以上(10点満点)を獲得するとともに,個人の合計得点の平均値が9.07点と大変高かった.特に,心臓の8ヶ所の部位の観察事実に基づく同定に効果があった.このことから,ブタ心臓の解剖実験は,「心臓の各部位の同定」に効果がある.第2に,「動物の生命に対する意識」については,解剖実験を基点に変容が促進されるとともに,授業実施から約4ヶ月後においても高い割合で維持できることが示された.このことから,本単元「生命を維持する働き」において,ブタ心臓の解剖実験は,生徒の「動物の生命に対する意識」の変容とその維持に効果がある.第3に,「解剖に対する意識」については,解剖実験後の平均得点が,解剖実験前のそれよりも有意に上昇した.このことから,ブタ心臓の解剖実験は,「解剖に対する意識」の変容を促進する.