著者
古田 公人
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.129-133, 2004-05-16

モミジニタイケアブラムシ有翅虫初飛来週からカエデの50%紅葉週までの時間差(以下,時間差と略)と飛来数・増殖率の関係を解析した。調査区ごとの調査期間は6〜14年であった。5調査区間に50%紅葉週は最大2.65週の差があり,紅葉の色相も赤色〜黄色と異なった。有翅虫の初飛来週には差はなかったが,初飛来時の紅葉割合は6〜87%と異なった。有翅虫ピーク数,仔虫ピーク数,有翅虫の増殖率は調査区間で有意差があった。有翅虫ピーク数と時間差の間に有意な正の相関(2調査区)があった。すべての調査区を込みにした場合も有意な正の相関があった。有翅虫ピーク数は色相番号とも有意な相関が認められたが,偏相関係数は時間差のみが有意であった。時間差と増殖率との間には1調査区のみ有意な正の相関があったが,すべての調査区を込みにした場合は有意な正の相関があった。色相番号についても同様であったが,偏相関係数は時間差のみが有意であった。以上,有翅虫の初飛来週から50%紅葉週までの時間差が有翅虫ピーク数と有意に関係していることが明らかになった。
著者
酒井 昭 吉田 静夫 大塚 宏二
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.9-16, 1967-01-25

霜害に及ぼす朝日の影響を調べるために, 5年生トドマツを用いて実験室で融解速度と被害の関係を, 現地では霜日に朝日があたった場合の融解速度を調べた。凍害に及ぼす融解速度の有害な作用は芽の開舒が進むにつれて著しくなる。芽が開舒する直前のトドマツでは, -4℃で1〜2時間凍結後, 15℃以下の空中でゆっくりとかす時(融解速度0.8℃/分以下)は害がほとんど認められないが, 約20℃の外気温の時, 直射日光にさらす時(融解速度約2.0℃/分), または5℃の水中に浸す時(融解速度約4℃/分)には, トドマツの芽は著しい害を受ける。しかし, -4℃で凍結したトドマツを0℃に約50分おいて芽の温度が0℃近くになってから直射日光, または5℃の水中に入れても害はほとんど認められない。さらに, -4℃で凍結後-3°, -2°, -1°および0℃まで温度をあげて1時間各温度においてから5℃の水中に入れる時は, -1℃以下, ことに-2℃以下の凍結状態から5℃の水中に入れる時に著しい害があらわれる。凍結に及ぼす融解速度の影響は, 芽だけでなく, 皮層部, 材部にも認められる。現地で霜日に凍っている芽に朝日があたってとける速さは約0.5℃以下である。融解速度が1℃/分をこえない時には, 開舒時期のトドマツは有害な影響をほとんど受けないという実験事実から考えて, 霜日に朝日が有害な作用を及ぼすことは少ないものと考えられる。
著者
羽田 清五郎
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.127-135, 1960-04-25

多雪地帯の傾斜地に生立する針葉樹では, 積雪の機械的作用による根曲りが非常に多い。この根曲りは利用材積上, 大きな損失をまねくにもかかわらず従来あまり調査されなかつた。これは問題の取り扱いが非常にむずかしいためと思われる。そこで, 私はこの論文において, 根曲り材積の測定法ならびにその正確度について研究した。真の根曲り材積はキシロメーターで測定した。以下結果をまとめて報告する。1)根曲り部分の断面形は, 土地の傾斜方向に長径をもつ楕円形であることがわかつた。その長径, 短径の高さ階に対する関係は抛物線式y=a+bx+cx^2で表わされた。2)根曲り部分の内曲線(土地の傾斜方向の縦断面に関して峯側の曲線), 外曲線(土地の傾斜方向の縦断面に関して谷側の曲線)はy=(a+bx)xで表わされた。3)第1の根曲り材積推定式として, V=l/90{32(G1/4+G3/4)+12G1/2+7(G_n+G_0)}…………HADA(I)を得た。G_0‥‥丸太の元口断面積 G1/4‥‥元口より1/4の距離における断面積 G1/2‥‥丸太の中央断面積 G3/4‥‥丸太の元口より3/4の距離における断面積 G_n‥‥丸太の末口面積 l‥‥丸太の直線長 4)第2の根曲り材積推定式として, V=G.R.α……HADA(II)を得た。G‥‥幹軸に直角な中央断面における楕円の面積 R‥‥楕円の重心の通る円弧の半径 α‥‥中心角(Radian)5)HADA(I)式は区分求積式と同様の正確度を持つが, やや負の誤差が多い。今各式の正確度の順序を示せば, 1.HADA(I)2.SMALIAN区分求積 3.BREYMANN 4.RIECKE 5.SIMONY 6.SCHIFFEL 7.HOSSFELD 8.HADA(II)9.HUBER 10.末口2乗法 11.SMALIANである。HUBER, 末口2乗法, SMALIAN式は特に誤差が多く, 根曲り材の求積には使用できないことがわかつた。6)根曲り材積の全材積に対する割合は12.6〜28.3%で, 平均して約19%であつた。
著者
田村 典子 相京 千香 片岡 友美
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.71-75, 2007-02-01
被引用文献数
1 5

山梨県富士北麓標高約1,050mの溶岩台地に生育するアカマツ林において,2003年6月から2005年8月まで,43haの区域でニホンリスの捕獲を行った。また,同調査地の林床で,リスによって食べられたアカマツ球果の食痕数を毎月数えた。生息個体数と落下食痕数には有意な正の相関が認められ,食痕数によってリスの生息個体数の相対評価が可能であることがわかった。そこで,富士山北麓1,500haの範囲内のアカマツ林において, 30箇所の植生調査用の方形区を設置し,植生と食痕数の調査を行った。その結果,食痕数が多い方形区には,アカマツ林の中層を構成する樹種が多く,特に中層にソヨゴなどの常緑樹が多いことが明らかになった。ニホンリスにとって,中層の発達したアカマツ林がより好適な生息環境であると考えられる。
著者
石井 健 小山 浩正 高橋 教夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.53-60, 2007-02-01
被引用文献数
4 3

ブナ林の組成は日本海側と太平洋側で大きく異なり,椎樹バンクは前者においてより発達しやすい。この理由として,日本海側では積雪が野ネズミによる捕食から堅果を保護していると考えた。そこで,春先に消雪速度の異なる母樹の根元付近と根元から離れた場所において,消雪過程と稚樹の分布,および播種試験による堅果の持ち去り程度を観察した。根元周辺の消雪は他の場所よりも1カ月近く早かった。これに応じて,実生は根元周辺で少なく,離れた場所で多かった。野ネズミによる堅果の持ち去りも,根元周辺で多く発生し,残存数は離れた場所と有意な差が認められた。したがって,根元で雅樹が少ないのは,消雪が早いことで春先に堅果捕食が多くなったためと推察された。このことは,積雪は野ネズミの捕食から堅果を保護することで,ブナの更新に有利に働いていることを示唆している。したがって,日本海側でブナの更新が良好なことも,積雪の保護効果が一因ではないかと考えられる。
著者
高橋 康夫 後藤 晋 笠原 久臣 犬飼 雅子
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.184-187, 2002-08-16
被引用文献数
2

日林誌84:184〜187,2002北海道富良野市の東京大学北海道演習林において,人工的に凸・平・凹部の三つの微地形を設定した地はぎ処理を1979年8月に行い,各微地形におけるエゾマツ実生の発生定着を22年間にわたり調査した。地はぎ処理を行った翌年の秋までに発生定着したエゾマツ実生の数は微地形によって有意に異なり,他の微地形に比べて平部で少なかった。凹部では最初多くのエゾマツ実生が発生したが,その後急激に減少し,最終的な調査である22年目に残存していたのはごくわずかであった。この要因は,暗色雪腐れ病菌が多く存在するリター層が凹部に堆積し,エゾマツ実生が暗色雪腐れ病に感染したためであると考えられた。本調査地では,地はぎ処理から22年目の現在でも,十分な量のエゾマツ後継樹が確保されており,微地形を設定した地はぎ処理はエゾマツ天然更新の補助作業として有効であると考えられた。現在のエゾマツは,混交したタケカンバの被陰下にあるため,ダケカンバの密度管理が今後の課題である。
著者
鈴木 保志 神崎 康一 川上 好治
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.528-537, 1993-11-01
被引用文献数
4

中国地方の1925年植栽のヒノキ人工林において, 1987〜1988年に間伐率約50%で優勢木を伐出したときの伐出後の林分の事後経過の調査を行った。伐出による被害は残存木の18%に生じていた。1993年の再調査までに台風害と雪害もあって, 24%が消失した。根についた傷の深さについては悪化する傾向を示したが, 直径成長は伐出被害木と被害木との間に有意な差は認められなかった。残存林分の成長の分析には材積年成長を樹幹表面積で割った値を指標として用い, 対照林分に比べて間伐後の成長は遜色がないことが確認された。
著者
服部 重昭 近嵐 弘栄 竹内 信治
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.125-132, 1981-04-25
被引用文献数
4

林地におけるエネルギー収支に着目して, 熱収支法, MONTEITH法によりヒノキ林の蒸発散量を推定した。測定期間の総量で比較すると, 熱収支法とMONTEITH法による蒸発散量は, 純放射量のそれぞれ0.54,0.73,また蒸発計蒸発量のそれぞれ0.60,0.81に相当した。樹冠遮断に起因する蒸発量は, 両法による蒸発散量の約3〜4割を占めた。以上のように, 両法の推定値に差が生じた一因として, 降雨中における遮断水分の蒸発の影響が考えられ, 降雨中の蒸発散がほとんど計算されない熱収支法では, MONTEITH法の値より過小になった。また, 林冠が濡れている場合, 熱収支法とMONTEITH法による蒸発散量は, 純放射量のそれぞれ0.74,1.09を占めた。したがって, 林冠に遮断された水分の蒸発は速く, 同一の放射条件下ならば, 林冠が乾いているときの蒸発散の約1.5〜1.7倍に達した。また, 降雨時にはしばしば純放射量<蒸発散量の関係が出現した。これは大気中から林冠への顕熱の輸送, つまり移流の影響と推察された。
著者
池田 浩一 野田 亮 大長光 純
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.255-261, 2002-11-16
被引用文献数
9

日林誌84:255〜261,2002 シカ糞の消失と糞の分解消失に及ぼす糞虫の影響を明らかにするため,1996年3月から1999年1月までのほぼ毎月,福岡県犬ヶ岳の森林に冷凍保存した排泄直後の糞を設置し,月ごとの糞の消失率を調べた。同時にシカ糞を入れたピットホールトラップを設置し,糞虫の発生消長を調べた。冷凍した糞と現地で採取した未冷凍糞の消失率の推移に有意差はなく,冷凍糞を用いた本研究の結果は自然状態での糞の消失実態を再現していると考えられた。消失率の推移は糞を設置した季節によって大きく異なリ,春から秋は最初の1ヵ月間で急速に消失したが,冬に設置した糞は緩やかに消失した。糞が急速に消失した季節はオオセンチコガネの,緩やかに消失した季節はチャグロマグソコガネの出現期間とほぼ一致していた。ほとんどの月では糞の消失率の推移に年間の違いはなかったが,3月,9〜11月に設置した糞では有意差がみられた。この違いは,糞虫の出現時期や活動性が気温の影響を受けるためと考えられた。糞虫が入れないようにした糞の消失率は自然状態の糞よりも極端に低かった。以上のことから,糞の分解消失には糞虫の活動が大きく関与していることが明らかになった。
著者
杉浦 孝蔵
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.356-359, 1959
被引用文献数
1

1)樹種によつて,さし木の発根と萠芽の状態に著しい差異はあるが,概して広葉樹のさし木には春さしが適当な季節である5)6)。<br> 樹種別では,各季節を通して発根率の高いものは,コリヤナギ,ヤマブキ,ヤエヤマブキで萠芽が早く,萠芽数,発根数も比較的多く,発根の伸びも大きい。アヂサイ,レンギヨウは各季節を通してカルスを形成する。ツゲ,キソケイの春ざしはすべてカルスカラ発根している。<br> 3)トウカエデ,カリン,ギンモクセイ,ヤマモミジ,エソジユ,シラカンバ,イタヤカエデ,イイギリ,ユリノキ,マテバシイ,オオシマザクラ,モミヂバフウ,シイノキは各季節を通して発根,萠芽共に見られなかった。このうちカリン,ギンモクセイ,ヤマモミヂ,エソジユ,イタヤカエデ,イイギリ,ユリノキ,シイノキは地中さしつけ部が腐敗して枯死するものが多い。さし穂の腐敗は夏さしに最も多い。
著者
飯塚 寛
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.66-77, 1994-01-01

日本とドイツについて、社会における森林・林業の位置づけを三つの側面から検討した。まず森林法における法の目的と森林の定義等の対比では、両国の間に本質的な相違があるとは考えられない。次に、林業関係の法律に関して最高裁判所あるいは憲法裁判所が下した違憲判決への対応を見た。その影響の及ぶ範囲の特定は比較的容易であり、日本が法律の改正、ドイツが新しい法律の制定によって違憲状態の解消にいたるまでの期間は、共通的に短かった。最後に、台風による全国規模の風倒木被害の復旧状況を見た。この措置がドイツで2年後にほぼ完了しているのとは対照的に、日本では約2年後の現在なお終了時期の見通しは難しい。報道は、2次災害の発生には警鐘を鳴らしても、その目はもう1歩その奥の森林・林業までは届かない。復旧措置の否応ない持続時間は、それぞれの国における社会が森林・林業との間にどの程度の間隔を設けているかを象徴的に反映するものと考える。ドイツの州森林法の中の、目的が保健休養のためである限り、森林への立入りが誰にも許されるとする規定の存在は、社会と森林・林業を相互に遠ざける方向には作用しないことも確かであろう。