著者
吉田 卓爾
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.228-198, 2020-03-31

室町将軍三代義満より六代義教を経て八代義政へと至る間に形成された唐物コレクション「東山御物」に関する研究は膨大な数に上る。絵画史分野においては、資料に限りがある中で、将軍の鑑蔵印を有する現存作品の研究や、『御物御畫目録』、『室町殿行幸御錺記』、『小河御所并東山殿御錺図』、「君臺観左右帳記」(諸本)、『圖繪寶鑑』等、重要史料の精査が蓄積されている。 所蔵品目録あるいは画人録といった要素を有する上記諸史料に対し、『蔭凉軒日録』は相国寺塔頭の鹿苑院内に設置された蔭凉軒主の日記であり、性格が大きく異なるため比較し得る部分が少ない。従来、『蔭凉軒日録』の記述は断片的に扱われることが大半であった。 本課題は『蔭凉軒日録』の精査を経て、当時の相国寺に伝来した絵画に関する記述に注目している。当該絵画に関する記述からは、応仁・文明の乱以降の相国寺における絵画受用の在り方が垣間見られる。本稿では『蔭凉軒日録』の記録内容を詳述・検討し、十五世紀の将軍家及び寺家における宋・元・明絵画の受容と室町絵画の様式変遷について考察を進めていくための足がかりとしたい。
著者
若井 勲夫
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.464-416, 2014-03

江戸時代後期に院雑色を務めた座田維貞は現在、忘れられてゐるが、幕末のころ、実務に長けた官人でありながら、儒学と国学を兼ねた学者にして、尊皇思想の実践家として重要な働きをした。その立場上、表立って指導していくことはなかったが、時の関白や大臣、また公卿の間を取り持ち、時には利用し、事を処理していく実務面に能力を発揮した。今まで維貞についてまとまった伝記類はなく、不明な点も多かった。そこで、本稿は数少い史料に基づき、二十五年に亘る活動期の中から重要な働きを取り上げ、事績とともにその思想と精神を明らかにしようとした。明治維新に至る前段階の裏方の魁として、維貞を評価することに歴史的な意義が認められる。主な論点、要点は次の通りである。 (1)自著の『国基』(天保八年刊、安政二年再刊)は儒教を必ずしも排斥せず、水土論によってわが国体の独自性、主体性を説いた。この書は当代だけでなく、明治から昭和前期まで思想的な影響を与へた。(2)弘化三年に公家の子弟の学問のため学習所(後の学習院)が設置されると同時に雑掌に就き、庶務を担当した。後には講読の手伝ひも兼ねて、教学にも携はった。(3)菅原道真作と伝へられてきた『菅家遺誡』に付け加へられた二章の普及に力を入れた。その上、この要言を刻んだ石碑を北野天満宮と大坂天満宮に建て、和魂漢才碑として広く知られるやうになった。また、この摺本を販売し、和魂漢才が思想として定まる端緒になった。(4)右の(1)の普及と(2)(3)の活動は維貞の独力でなされたものではなく、関白、大臣、法橋、北野寺の僧など周辺の人々が組織的に動いたことにもよる。この協同があったからこそ、当時の思想を導くことができた。(5)和気清麻呂の功績を讃へ、その顕彰に志し、嘉永二年に「和気公追褒の建議」を奏上し、その翌々年、孝明天皇は、神護寺内の清麻呂の霊社に正一位護王大明神の神階神号を授けられた。さらに、清麻呂を評価する「和魂漢才實事篤行」碑を建立した。(6)同じころ、伝清麻呂真筆とされる「我獨慙天地」が世に出て、摺本として広がっていった。これについて、この書は真筆ではなく、維貞が造語して自ら筆を取ったのではないかと推定される。(7)五十代後半の安政年間、維貞の名が知られるにつれ、その人物を評価する正反対の見方が出てきて、身辺が緊迫してきた。維貞は真面目な吏職であるが、立場上、動きにも制限があり、世を動かすには上層部に取り入る必要もあった。そのことから誤解されることもあったであらう。(8)維貞の書いた文書類だけでなく、和歌、漢詩も収集できたものはすべて掲げ、解説した。
著者
池田 昌広
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.129-143, 2016-03

はじめに1 詩語「猿声」の成立2 嘯と悲哀の表現3 猿声と嘯おわりに
著者
高山 秀三
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.281-316, 2015-03

三島由紀夫は少年期からニーチェを愛読し,大きな影響を受けた。ニーチェと三島には,女性ばかりに取り囲まれた環境で幼少期を過ごしたという共通性がある。女性的な環境で育った人間が自身のうちなる女性性と戦うなかで生れたニーチェの哲学は,受動性や従順,あるいは柔弱さなどのいわゆる女性的なものに対する嫌悪を多分に含んでいる。それは思春期の自我の目覚めとともに男性的な方向に向けて自己改造をはじめていた三島の気持に大いにかなうものだった。戦時中,十九歳のときの小説『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』は三島自身がニーチェのつよい影響のもとで書いたことを認める作品である。無差別的な大量殺人を行なう「殺人者」の思いを日記体でつづったこの小説にあって,「殺人者」はその「殺人」によって,失われていた生の息吹を取り戻す。この「殺人」は三島が目指す危険な芸術の比喩であると同時に殺人という悪そのものである。ここには幼少期以来,攻撃性の発露を妨げられ,健全な生から疎外されているという意識に苦しみつづけてきた三島の,生を回復するための過激な覚悟が反映している。そしてこの覚悟は,三島と同様に女性に囲まれた幼少期を送り,自分の弱さと世界における局外者性の意識に苦しみながら,男性的なヒロイズムをもって自分を乗り越えていく思想を語りつづけたニーチェの戦闘的な著作への共感から生れている。
著者
岩﨑 周一
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.201-230, 2014-03

本稿の課題は、軍事史研究においてややもすれば受動的な存在として扱われがちな地域社会の立場から、兵役と兵站の問題を軸として、近世のハプスブルク君主国における軍隊と社会をめぐる諸関係を逆照射して考察することにある。 近世において増大の一途を辿った兵力需要に対応するため、ハプスブルク王権は支配下の諸地域の諸身分の協力をあおぎ、平民から兵士を募るようになった。改革を重ねる中で、徴募は次第に強制的な色彩を強め、場合によっては地域社会の人口動態や構造を変化させるほどの影響をもたらした。 こうした動きに対し、民衆は徴募逃れや逃亡といった形によって抵抗した。しかし、地域社会においては階層分化が進行しており、上層に属する人々ほど徴募を免れる可能性が大きかった。これに対し下層に属する人々は、徴募を免れる手段をほとんど持たなかったばかりか、領主および都市・村落共同体による、徴募を口実とした「厄介払い」や身代わりの強要に怯えなければならなかった。しかし一方、生活環境が劣悪な地域には、兵役に生活改善のチャンスをみいだす人々も存在した。 兵站に関する負担は、近世になると、しばしば臣民の生活を脅かすまでに重いものとなった。国家や諸身分、そして領主は負担の軽減に一定の努力をみせたものの、十分なものとはならなかった。また、領主は在地権力としての立場から、兵站に関する諸負担を領民を統制する手段として利用した。これは徴募においても同様である。総じて、軍事負担をめぐる問題は、地域社会における領主権力の強化に利用されたといいうるであろう。 ただし、地域社会にとって、軍は一義的に問題をもたらす存在ではなかった。領邦防衛と消費者という二つの役割により、軍は地域社会の構成員として、徐々にその地歩を固めてもいったのである。
著者
菅原 祥
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
no.36, pp.75-102, 2019-03-30

本稿は,近年の日本社会における「団地」を一種のノスタルジアの対象として見るようなまなざしのあり方を「団地ノスタルジア」と名付け,この団地ノスタルジアを分析するための足がかりとなるような予備的考察を提供することを目的としている。この目的のため,本稿では1960年代当時において「団地」を文学作品の中で扱ったものとして影響力の大きかった安部公房の小説『燃えつきた地図』(1967)を現代の団地ノスタルジアに先行する想像力を含んだ先駆的作品として読み解き,そこに見出される論理が現在においていかなる意義を持ちうるのかを検討する。さらに,この『燃えつきた地図』において提起された問題が,現在の団地ノスタルジアにおいてどのような形で継承・発展させられているのかを検討するために,近年の代表的な団地ノスタルジア的文学作品として,柴崎友香『千の扉』(2017)を取り上げる。 これらの分析を通じて新たに明らかになった知見は以下の4点である。(1)団地ノスタルジアとは,「団地」という建築空間の中に,ここ数十年の時間とそこにおける断片的な記憶が寄り集まって集積するような一種の「磁場」を見出す想像力のことである。それは決して何らかの美化された過去への回帰願望ではなく,むしろそうした過去の記憶が集積した結果として存在する「現在」を志向している。(2)団地ノスタルジアは,時に徹底して「反ノスタルジア的」「反ユートピア的」である。すなわちそれは,過去に措定された「幸福な過去」へと回帰することで共同性や全体性を回復しようとするような,素朴なノスタルジアやユートピア主義とは一線を画すものであり,むしろ過去に対するより反省的・批判的な態度のありかたを示唆している。(3)団地ノスタルジアはこのような安易なユートピアへの回帰による共同性の復活を拒絶しつつ,新たな形での「共同性」を模索する想像力である。(4)この共同性は,団地という場が孕む「危機」や「空虚」から目をそむけるのではなく,逆にそれに徹底的に向き合うことから生まれうるものである。
著者
所 功
出版者
京都産業大学
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.892-951, 2011-02
著者
岩本 誠吾
出版者
京都産業大学
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.1140-1115, 2010-02

1.はじめに2.在日駐留軍の地位協定 1)在日米軍地位協定 2)国連軍地位協定3.在外自衛隊の地位協定 1)カンボジアPKO 派遣 2)ザイール難民救援派遣 3)イラク復興支援派遣 4)クウェート空輸支援派遣 5)ジブチ海賊対処派遣4.地位協定の国際比較―ジブチ関連― 1)米国・ジブチ地位協定 2)EU・ジブチ地位協定5.地位協定の分類とその特徴6.まとめにかえて
著者
福井 唯嗣
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 = Acta humanistica et scientifica Universitatis Sangio Kyotiensis (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
no.49, pp.61-80, 2016-03

いわゆる団塊の世代が75 歳以上を迎える2025 年が、高齢化進展の一里塚とみなされている。「社会保障・税一体改革」において、政府は医療・介護サービスの提供体制の見直しとともに、医療・介護保険財政の改革を進めている。今後全国レベルで高齢化が進展し、介護給付費が増大していくことが見込まれるが、高齢化の進展速度には地域差がある。今後、地域ごとの高齢化の進展が介護保険料にどの程度のインパクトを持つか、また、保険料の地域差はどのような傾向を辿るかについて、可能な限り長期的な視野を持って推測しておくことには一定の意義がある。本稿では、介護保険財政の都道府県別長期推計モデルを構築し、2040 年度までの介護給付費および65 歳以上被保険者が負担する介護保険料について都道府県単位で推計する。本稿の分析から得られた知見は以下の通りである。(1)現状の介護費用には、年齢構成の違いによる影響を取り除いてもなお残る地域差があり、その多くは要介護(要支援)認定率の地域差以外の要因に起因する。(2)高齢化の進展に伴い、すべての地域で介護給付費は2040 年度まで増大を続けるが、高齢化の進展速度の違いにより、介護給付費の地域間格差は少なくとも2035 年度ごろまでは長期的に拡大していく。(3)第1号被保険者の1 人当たり保険料の動向は、介護給付費の動向と必ずしも連動しない。調整交付金による国庫負担の傾斜配分の仕組みは、一定程度機能している。
著者
千葉 美保子
出版者
京都産業大学
雑誌
高等教育フォーラム (ISSN:21862907)
巻号頁・発行日
no.6, pp.97-102, 2016

学生の自律学習空間「雄飛館ラーニングコモンズ」内に設置されている学習支援カウンターでは、3 名の学習支援員(任期付職員)が常駐しているが、2013 年10 月の仮オープン以降、直接的なスタディ・スキル支援の場としての、また学生と教員・その他の支援機関とを仲介する場としての試行が続けられている。具体的には、(1)雄飛館ラーニングコモンズのスペースを活用した日本語/ 英語ライティング・プレゼンテーションの個別相談対応、(2)日本語/ 英語学習に関するワークショップ実施、(3)ICT 機器の利用相談を通じて、学生に対する学習支援を行っている。さらに、グローバル人材育成事業(現「経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成支援」)の一環として、英語e ラーニングシステムのヘルプデスクを兼ね、ラーニングコモンズを起点として学生の主体的な学びをワンストップで支援している。本報告では、学生に対するヒアリングを通じ学習支援ニーズや学習傾向を改めて分析し、学習支援カウンターにおける主体的な学びを促進するための支援体制の構築へ向けた考察結果を報告する。