著者
森戸 大介
出版者
京都産業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

モヤモヤ病は日本人に多く認められる脳血管疾患で、脳底部内頸動脈分岐部における血管の狭窄・閉塞による重篤な虚血症状、および側副血管からの出血を特徴とする。一部の患者は家族性の病歴を示すことから、遺伝因子の関与が疑われてきたが、我々は初めての確実な遺伝因子として新規遺伝子ミステリンを単離した。ミステリン遺伝子は2つのAAA+ドメインとユビキチンリガーゼドメインを含む591 KDaの巨大なタンパク質をコードしていた。稀なミスセンスSNPによってミステリンC末端付近のアルギニンがリジンに替わることにより、モヤモヤ病発病率は約100~200倍程度上昇していた。これまで、ゼブラフィッシュを用いた検討により、ミステリンが生理的な血管新生・血管パターン形成に必須であることを示していたが、ミステリンの組織発現はユビキタスであり、血管以外の組織における役割が明確でなかった。今回、ゼブラフィッシュにおける広範なノックダウン、および組織特異的レスキュー実験を行ったところ、ミステリンが神経・筋発生においても必須の役割を果たしており、ミステリンのノックダウンにより顕著な運動機能低下、およびその結果として孵化障害が引き起こされることが明らかとなった。さらに、種々の変異体を用いたレスキュー実験の結果から、ミステリンが生理機能を果たすためには、AAA+ ATPアーゼ活性とユビキチンリガーゼ活性の両方が必須であることが明らかとなった。
著者
梶 茂樹
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
no.52, pp.3-27, 2019-03-30

本稿はウガンダ西部のニョロ語のタブー表現を記述し,その形式と内容の分析を試みるものである。ニョロ語のタブー表現を記載した文献はなく,またその他の民族のタブー表現についても本稿で行ったような内容の論理構造分析は皆無である。 ニョロ語のタブー表現は,例えば,「男の子はカマドに腰をかけてはいけない。」のように,行為の禁止を述べるものである。しかし,表現はされないが,「もし男の子がカマドに腰をかけると,父親が死ぬ。」という風に,行為の禁止の違反と結果が含まれる。しかし,行為の禁止の本当の理由である「火傷をするから。」ということは隠される。禁止の本当の理由の代わりに,怖い結果が違反の時間的推移による因果律のように示されるところに特徴がある。それに対してタブー化されていない通常の禁止を表す警句では,「寝る前に水をたくさん飲むと,寝小便をする。」のように,怖い結果はなく,違反に続いて禁止の本当の理由が述べられる。 タブーというのは,人の行動を制御する大きな原動力となっている。自らを律し,また人をいたわることを可能にする。アフリカの伝統的社会においては,これが大きな社会的役割を果す。こういった観点から見ると,なぜニョロ社会で多くの習慣的行為がタブー化されているかが理解できる。 またニョロ語にはタブーに関連して不吉というものがある。これは例えば「旅行に出かけようとした時,ネズミが道を横切るのを見たら,旅行を取りやめる。」と言ったものである。不吉はタブーと似た論理構造を持つが,タブーが命令に従うか従わないかは別にして,自らの判断で行為を行うか行わないかを決めることができるのに対して,不吉は自らコントロールできないことが生じた場合の対処の仕方を教えるものである。
著者
並松 信久
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
no.36, pp.3-35, 2019-03-30

わが国では2018年度から種子法の緩和によって公的育種事業の存続が危ぶまれている。本稿は日本の公的育種事業を担ってきた農業試験場体制の確立過程を追い,公共が担う育種事業の特徴を明らかにした。これまでの先行研究では,農業試験場の形成や品種改良の展開について明らかにされているが,育種事業の公共性については明らかになっていない。 明治期以来,主要な穀物の品種改良は,政府や地方自治体などの公共部門によって推進されてきた。当初は,政府によって官設試験場が設立されたが,欧米農法の紹介にとどまった。しかし,ほぼ同時期に実施された欧米視察の影響を受けて,系統的な試験研究の重要性が強調された。そこで政府は国立農事試験場を発足させ,試験研究の重点化を推進していった。国立農試の設立後に,地方自治体によって各道府県で農事試験場が設置された。府県農試は応用・普及に重点を置き,国立農試は基礎的な研究に重点を置くということで,府県農試は国立農試の下部組織として構想された。しかし,実質的には地域性を重視した独自の試験研究が進められた。その一方で,試験研究は個々別々に切り離されたものではなく,試験研究の系列化も進められた。この試験場体制による代表的な成果が稲の統一品種であった。 これまでの育種事業の経緯をみた場合,ほぼすべてを公共部門に依存してきたため,民間企業の参入による影響は未知数である。公共と民間との棲み分けが明瞭でなければ,民間部門になし崩し的に移行する可能性は大きく,その場合は大きなリスクをともなう。世界各地では公共部門によって「種子銀行」がつくられる潮流にあり,わが国も公的な育種事業や試験場体制の見直しが求められる。
著者
藤野 敦子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.37-73, 2019-03-30

本稿の目的は,若年者が不安定な非正規雇用に就いた場合,家族形成つまり出生意欲にどのような影響があるのかを社会・雇用システムの異なる国際間で比較分析することである。 まず,著者が2008年に日本において,2010年にフランスにおいて実施したインタビュー調査の質的データを大谷尚氏の開発したSteps for Coding and Theorization(SCAT)法によって分析し,そこから仮説を生成する。次に同時期に著者が日本,フランスで実施したアンケート調査の量的データを用いて,仮説を検証する。クロスセクションデータであるため,内生性を考慮しつつ,推定する。このように本稿では,質的・量的データの双方を使用する混合研究法という比較的新しい手法を用いて,これまで,ほとんどされてこなかった国際比較分析を実施する。 量的分析の結果からは,日本の非正規雇用者は男女ともに出生意欲を低めている一方で,フランスでは,非正規雇用のうち有期限雇用フルタイムの男性は,出生意欲が高い可能性が見られるとともに非正規女性に関しては関連性が見受けられず,仮説の通りとなった。 ここから日本において,若年雇用の非正規化は少子化の要因である一方でフランスではそうではない可能性が導かれるが,同時にフランスの制度をヒントに日本でも社会・雇用システムを変革すれば出生の意思決定が変えられることも示唆されている。さらに,本稿の結果からは「非正規・正規の処遇格差の縮小」,「2人以上の子どもがいる世帯への持続的な経済支援」,「育児休業の取得しにくい非正規雇用者への優先的な公的保育サービスの提供の促進」に取り組むべきことが提案される。
著者
西村 峯裕
出版者
京都産業大学
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.148-121, 2005-07
著者
迫 宏明 坂之上 茂 吉門 敬二 児玉 英明 森脇 可奈子
出版者
京都産業大学
雑誌
高等教育フォーラム (ISSN:21862907)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.81-87, 2013-03

本稿では、グローバル化時代の高等教育制度に関する基礎的調査について報告する。「グローバル人材育成推進事業」の開始に伴い、グローバルキャンパスの実現に向けた制度構築の基礎的調査を行うことを目的として、2012年度の後期に、先進的な取り組みをしている大学へのヒアリングと、 フォーラム参加を行った。ここでは、調査から得られたポイントを三つ共有する。第一に、教育情報の公表義務化と大学ポートレート構想について、日本私立大学連盟主催セミナー「私立大学に必要とされる教育情報の公表」の論点を紹介し、本学が検討すべきことを提示する。第二に、創価大学主催セミナー「グローバル化時代の大学教育」で提起された論点の紹介と、本学が検討すべき事項を提示する。第三に、学内文書の英文化に関し、大阪大学と同志社大学の先進的な取り組みをヒアリングした際のポイントと、今後、本学が学内文書の英文化を進める上で留意すべき点について整理する。
著者
大木 裕子 尾崎 弘之
出版者
京都産業大学
雑誌
京都マネジメント・レビュー (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.19-41, 2005-06

はじめにⅠ.成長モデルに関する先行研究Ⅱ.芸術組織の成長モデルⅢ.仮チェックリストの作成おわりに
著者
平塚 徹
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.281-298, 2013-03

日本語の形容詞「近い」は,「X はY に近い」と「X はY から近い」の二つの構文を取る。 これに対して,反意語の「遠い」は,「X はY から遠い」という構文をとり,「X はY に遠い」 とは現代の通常の慣用では言わない。これらの構文を説明するために,以下の仮説を提案す る。【仮説1】「X はY に近い」という場合,X とY の間の距離が小さいという事態を,X が Y に接近するという認知的表示によって概念化している。【仮説2】「X はY から{近い/遠い}」 という場合には,認知的表示においてY からX まで仮想的な移動体が移動している。これら の仮説から例えば以下のようなデータが説明される。(a)海岸は僕の家{?に/から}近い。(b) 私たちはもうゴール{に/?から}近い。(c)ここ{? に/から}ゴールは近い。(d)正午{に / ? から}近い。(e)味はチーズ{に/ ? から}近い。
著者
山田 昌孝 片岡 佑作 田中 寧
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.3-46, 2015-03

マーケティングにおける広告の重要性については言うまでもない。広告媒体には数多くのものがあるが、近年におけるweb 関連には特に注目してよい。そこで本論文では、動画CM の評価y を決定的にする考慮要素x(j) j=1,..., 6 は何か、という問題を視聴者へのアンケート結果(15 本のCM × 60 名の回答)をもとに、特に統計解析の立場から考える。具体的にy, x(j) は以下の形をとる。情緒的要素; x(1):演出 x(2):物語の分かり易さ x(3):キャラクターの適切さ認知的要素; x(4):商品適合度 x(5):購買意欲喚起度 x(6):ブランドへの好意 y=1 ... 動画CM に肯定的評価 0 ... 否定的評価 x(j)=1 ... y=1 を引き出す有効な考慮要素と考えられる 0 ... そうでない j=1,..., 6こうしたとき、(1)y, x(j) について2 × 2 等の分割表を作成すると、これらの変数y, x(j) の間には有意な関連があることが分かる。(2)分割表の結果を見ると、CM 評価肯定確率Pr(y=1) が考慮要素 x(j) j=1,..., 6 の部分和の増加関数になっている点が読み取れるので、これを説明する質的回帰モデル(従属変数の取りうる上下の範囲が限定される回帰)を導入し、そうした操作が極めて有効な点を示す。(3)対象の集団はy=1(肯定的評価)、y=0(否定的評価)を構成するものに区分されるが、それぞれの特性を決めるであろう考慮要素x(j) j=1,..., 6 の分布に違いはあるかをAnderson の判別関数によってつきとめる。(4)統計処理上のテクニカルな箇所について追加点を言えば、先行研究の広告評価、要素群は複数回のステップを経て合成される量的変数であり、導入された回帰モデルのフィットはあまり良くない。他方、ここで扱う考慮要素x(j) は0, 1 のみを取る簡単な質的変数であり、single index Σx(j) と評価肯定確率に関する分割表を注意深く点検したのち、Σx(j) によって広告評価を説明する質的回帰を見ると、その結果は評価−要素間の関係をうまく捉えているのが分かる(フィットは極めて良い)。 本稿の新規性と寄与はまさに以上のような点にある。特に(4)は考慮要素群を情緒的な成分x(j) j=1, 2, 3、認知的成分x(j) j=4, 5, 6 に分割した場合、それぞれの成分で、物語の分かり易さx(2)、商品適合度x(4) が動画CM 評価に最も貢献している点を示す。これらの結果は、企業のマーケティング部門に携わる広告担当者、あるいは広告の依頼を受ける動画CM 制作企業にとって有効な情報の1 つとなるであろう。
著者
中山 茂樹
出版者
京都産業大学
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.123-107, 2010-06
著者
飯田 善郎
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.231-248, 2014-03

所得再分配における分配者、被分配者の選好を調査するために、社会人を対象にしたアンケート調査と学生を雇用した被験者実験の両方を行った。ディクテーターゲームに類似する条件を参加者に提示する形でおこない、調査手段から生じる選好の違いと共通点を検証している。結果としては、被験者実験では分配者が表明する被分配者への分配額はアンケートに比して少なく、また被分配者が分配者に求める分配額はより多くなる傾向が見られた。より詳細に検討すると、アンケート回答において、自分が豊かで分配する側なら多くの分配をする代わりに貧しければ多くの被分配を求める、または、自分が貧しい時にはあまり分配を求めない代わりに自分が豊かな時も分配したくないという、一方で利他的で他方で利己的な選好が多く観察された。このことから、単純に被験者実験が報酬という金銭的誘因から参加者の行動をより利己的な方向へ誘導し、それがないアンケート調査はより規範的な回答を導きやすいとは言えないことが示された。こうした回答傾向になる理由は今後の検証の課題となる。さらに格差発生の要因が運、努力、才能のいずれか一つのみと仮定した場合の分配の選好を尋ねた。その結果アンケートにおいては所得格差が運の要素で発生する場合には、努力や才能で所得格差が発生する場合よりも、分配者の立場でも被分配者の立場でもより多くの再分配を選好することが示された。これは多くの被験者実験で確認されている傾向である。しかし本論で行った被験者実験ではサンプル数が充分でないためか、アンケートと異なりその傾向は確認されなかった。
著者
川本 哲郎
出版者
京都産業大学
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.916-901, 2008-03