著者
森田 矢次郎 今井 文雄 呉 邵忠
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.29-33, 1996 (Released:2018-03-22)
参考文献数
6
被引用文献数
1

灸療法の研究は東洋医学の観点から行われ,疾病の治療と健康の維持に大きな効果を挙げてきた。本研究では,灸の一種である塩灸を取り上げ,灸のメカニズム解明のため,熱工学的アプローチを採用する。灸そのものの熱工学的データを取り,人間の灸による感覚(温熱感と快適感)を調べた。主な結論を次に示す。1) 塩の量と艾の量をパラメーターとし,各種の艾を用いて,塩灸の実験データを取り,1個の艾柱が燃え尽きるまでの熱の発生と散逸,人体表面の界面の温度変化について,定量的な知見を得た。2)被験者の皮膚の熱伝導率と熱拡散率に個人差があると考えられる。3) 塩灸実施時の温熱変化の特徴は,施灸者が艾柱を燃やすという過程を数回繰り返すので,人間の皮膚が熱の吸収と放散を繰り返す,という点である。4)塩灸被験者の温熱感覚が快適となるのは,皮膚から熱の放散がある時と皮膚が熱を吸収し,皮膚表面の温度が上昇し始める期間である。
著者
高崎 裕治 大中 忠勝 栃原 裕 永井 由美子 伊藤 宏充 吉竹 史郎
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.65-71, 2010 (Released:2018-03-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2

パイロットスタディとして大阪と秋田で冬期に入浴と排泄の模擬行動を観察し,高齢者におけるヒートショックの状況を検討した.さらに,全国調査で収集した室内温熱環境の資料を用いて,浴室とトイレの暖房設備等と気温の関係,居間との気温差,高齢者の温冷感を検討した.パイロットスタディでは寒冷地において居間と他の部屋の気温差が大きく,居間から浴室やトイレに移動したときに大きな血圧上昇を示すものがいた.全国調査の資料より,居間と浴室やトイレとの気温差は夕方8時前後に最大となった.同じ温冷感であるにもかかわらず,浴室やトイレでの実際の気温は居間の気温よりも低かった.高齢者は身体にストレスを受けているが,浴室やトイレの寒さには寛大であるように思われる.居間と浴室の気温差は浴室での死亡率と相関する傾向にある.
著者
片山 徹也 庄山 茂子 栃原 裕
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.29-38, 2015

本研究では、女子大学生16名を対象に、白文字に対して明度と彩度が異なる青色相を背景色にした陰画表示画面8配色を用い、VDT画面の配色が作業効率と疲労に及ぼす影響について検討した。30分間の文字探索課題によるVDT作業の結果、作業量及び誤入力率については8配色間に有意差はみられなかった。8配色のうち2配色において作業後の収縮期血圧及び心拍数が有意に高く、6配色において作業後のCFF値が有意に低かった。画面に対する見やすさや読みやすさの機能性に関する印象評価では、文字色と背景色の明度差が大きいほど機能性の評価が高かった。文字色と背景色のコントラスト比が国際基準WCAG2.0に適合する配色においても、生理的疲労及び主観的疲労感に影響を及ぼす場合が確認された。文字色と背景色のコントラストが確保された配色の場合、文字色と背景色の彩度差が小さい配色ほど、疲労感を軽減する傾向がみられた。
著者
美和 千尋 河原 ゆう子 吉田 久美子
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.85-89, 2009
参考文献数
15
被引用文献数
2

本研究は,障害者の入浴介護においてミストサウナを利用することで,介護者の介護負担を軽減できるかどうかを検討した.対象は若年男性10名(平均年齢20歳)とし,片麻痺患者を模擬させてミストサウナと浴槽入浴での入浴介護を行った.介護者の介護負担として,介護時間,筋活動量,血液検査(乳酸脱水酵素酵素,白血球),気分変化(POMS)を測定した.その結果,ミストサウナによる入浴介護は浴槽入浴と比較して,介護負担の指標とした介護時間が短く,介護時間全体の総筋活動量が有意に小さく,乳酸脱水素酵素の不変,疲労気分の軽減が図れた.ただ,白血球数の増加が浴槽入浴ではみられなかったがミストサウナではみられた.このことより,ミストサウナは,障害者の介護における介護者の身体的,精神的負担を軽減させる入浴方法として利用できると考える.
著者
河原 ゆう子 美和 千尋 出口 晃 水谷 行雄
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.23-30, 2010 (Released:2018-03-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究では,入浴介護の労働負担について,入浴介護方法の違いによる生理的心理的影響を明らかにし,介護負担を軽減するための新たな入浴設備「ミストサウナ」の導入の可能ら生を検討した。小山田記念温泉病院に勤務する看護師と介護職員10名を対象とし,大浴場での入浴介護,油圧昇降式浴槽を用いた入浴介護,入浴介護以外の介護をそれぞれ60分間行わせ,介護前後の血液成分,血圧,心拍数,握力,自覚症しらべ,POMSの測定を行い,実験後に温冷感などのアンケートを行った。その結果,大浴場での介護は油圧昇降式浴槽を用いた介護に比べ,上下移動と暑熱暴露があるため,全身疲労を伴い陰性な気分を保持しやすい介護形態であることがわかった。その対策のひとつとして,ミストサウナ専用室の設置が考えられた。入浴者,介護者双方にとって有用な入浴介護設備の開発と導入が期待される。
著者
廣瀬 正幸 棚村 壽三 山本 健 光田 恵
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-7, 2016 (Released:2018-01-10)
参考文献数
8

食品を用いた官能評価のパネルを選定するための味の識別試験の呈味物質濃度に関しては、約40年前から研究がなされているが、約40年前から食の多様化による変化によって、若者の味覚が変化している可能性がある。そこで、本研究では、既往の研究濃度を参考に、三点識別試験法を用いて大学生の味の識別能について検討を行った。得られた知見は以下のとおりである。1)味の検知率は、甘味が47.9%、塩味が98.6%、酸味が47.9%、苦味が49.3%、うま味が91.8%であった。味の認知率は、甘味が39.7%、塩味が68.5%、酸味が34.2%、苦味が35.6%、うま味が60.3%であった。2)既往の配偶法と今回の三点識別試験法の認知率を比較すると、塩味とうま味はほぼ同じ値であったが、甘味や酸味、苦味は三点識別試験法の方が約20~30%程度低い値であった。
著者
田中 宏子 乾 康代
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.93-102, 2015 (Released:2018-01-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究は、東日本大震災発生時に茨城県内に居住し、震災によって避難を強いられた住民を対象として、災害発生1年半後に追跡調査を行い、取得したデータのうちから、"子どものいる避難世帯の生活状況"というテーマを設定して研究を行った。子どものいる世帯の避難生活は、原子力災害からの避難が背景にあるがゆえに、周辺被災地である茨城県でも、特異な心理、生活上の困難を、他の世帯型より多く抱えていることが明らかとなった。震災により茨城県外に避難した若い子育て世帯の意向は、帰還が約1割、他所で定住が約5割であり、将来どこに住むかわからない避難継続は約4割であった。原子力災害がもたらす放射能に対する恐怖感に基づく避難は、いずれ元の場所に戻るという明快なものではなく、複雑で深刻な局面を包含していた。また、避難継続世帯は、帰郷世帯や避難定住世帯に比べて、子どもの健康問題を抱える世帯が多かった。
著者
深澤 伸一 下村 義弘
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-10, 2017

優れた通知機能の設計要件を明らかにするために、周辺視野への視覚的な動きと報知音の提示が、気づきやすさと中心視野における知的作業の集中性および両者の関係性と意味伝達の容易性に及ぼす影響について、複数の計測指標により総合的に検討を行った。正面のメインディスプレイ上で暗算作業中の実験参加者に対し、「瞬時」「透出」「拡大」の3種類の動き様態がそれぞれ付与された文字刺激を周辺視野領域に設置されたサブディスプレイ上に表示し、さらに半数の条件では報知音を併せて提示して、心理指標と行動指標により評価した。その結果、報知音提示がない条件では気づきやすさと中心視野での作業集中性に有意な正の相関関係が認められ、気づきやすさ、作業集中性、意味伝達の容易性のすべてで拡大表現が有意に最も優れた値を示した。一方、報知音提示を伴う条件では、気づきやすさが全体的に高くなるものの拡大表現において注意喚起効果の加算的作用による過剰化が要因と考えられる作業集中性の有意な低減が発生し、動きをもった通知への報知音の併用は適用状況を考慮する必要があることが示唆された。
著者
島村 実花 中尾 芙美子 金子 佳代子
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.75-81, 1995 (Released:2018-03-21)
参考文献数
13

大学運動部員を対象に,運動中及び運動後の水分摂取量の実態を調査し,飲食の記録から食事中水分量も算出した。飲み物の摂取量への噌好の影響を考え,(a)麦茶(糖分,ナトリウムなし) (b)糖分含有電解液1 (c)糖分含有電解液2 (d) 清涼飲料水(糖分) (e) 炭酸飲料水(糖分) (f) コーヒー飲料(糖分) (9)牛乳の運動後1時間の摂取量を,また,食塩5gの普通食と2.5g低塩食を食べた後〜就寝までの水分摂取量を比較した。結果は以下のようである。1) 運動後1時間に自由に水分摂取した後も水負債を解消しきれなかったが,就寝までに Ikg 以上摂取しており,本研究における発汗程度では運動後の飲食によって水負債を解消出来ると考えられた。 2 )被験者は麦茶を好んでいたにも関わらず,スポーツドリンク( b , C )及び清涼飲料( d , e , f ) よりも多くは飲めなかった 03 )食事中塩分が少ないと水分摂取量が少なくなる傾向がみられた
著者
米川 善晴
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-8, 2001
参考文献数
27

人体に関わる振動の分野では通常,手腕振動と全身振動に分類している。手腕振動は手持動力工具等から人の手腕に伝えられる振動であり,全身振動は乗り物等から人の全身に伝えられる振動である。ここでは主に全身振動について心理的,機械的,生理的反応について述べる。心理的には振動知覚,知覚の為の振動受容器,受容器の周波数応答,振動知覚の閾値について,機械的には人体を機械的モデルとして扱い,バネ・質量・抵抗器の成分から構成されるとして,その振動応答特に振動伝達について,また生理的には振動の循環器系機能・筋活動・自律神経系のほか視覚・平衡感覚などへの影響を述べる。
著者
小林 定教
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.11-19, 2005 (Released:2018-03-22)
参考文献数
5

本研究は、山陰地方の中山間地域における若手居住者を対象に、今後の自立した生活づくり、生き方についてアンケート調査を行い、より生き甲斐のある中山間地域の村・住まいづくりに関する資料を得ることを目的とする。若手居住者の約半数は、村に住み続けることを希望しており、その理由として「地域の風土」「人との交流」「現在の生活にほぼ満足」などがあげられている。しかし村の現状は、若者の就職、若者の離村による過疎化、住環境、医療、教育、交通、降雪時の生活など多くの問題を抱え、その整備が望まれる。若手居住者の住みたい村づくりには、上記の項目に加え、「仕事」「I、Uターン」「若者向け住居」「女性に魅力ある村」などへの対策が求められている。なお、高齢者を対象とした既報の結果を併記する。
著者
栗原 浩平 谷地 誠 窪田 英樹 池田 光毅 相建 太郎 濱田 濱弘 長野 克則
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間-生活環境系シンポジウム報告集
巻号頁・発行日
vol.34, pp.209-212, 2010-11-22

素材構成の異なる衣服の日射反射率Pd,日射透過率Tcl,日射吸収率りを実測し,素材により表色値と日射熱特性の関係が異なる力り証した。色彩色差計により衣服の表色値を測定し,アルベドメーターと全天日射計より日射反射率,日射透過率を測定した。衣服はA(綿100%),B(ポリエステル74%・綿26%),C (ポリエステル100%)のTシャツである。素材に関わらず太陽高度の上昇に伴い日射透過率は上昇し,日射反射率は低下した。視感反射率と日射反射率,日射透過率,日射吸収率の関係を比較したところ,日射反射率は殆ど差が見られなかったが,日射透過率はTシャツBがやや高い結果となった。同ルでTclとαclを変化させ日射作用温度へ及ぼす影響を計算した結果,衣服の日射透過を低減させると日射作用温は低下することを示した。
著者
楊 せい 橋本 剛
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間-生活環境系シンポジウム報告集
巻号頁・発行日
vol.39, pp.161-164, 2015-11-16

東日本大震災から4年が経ち、供与期間終了後における応急仮設住宅の処分・再利用等が課題となっている。本研究では、福島県会津若松市の板倉構法による応急仮設住宅を復興公営住宅に転用する事業を対象とし、解体工事のプロセスを明らかにするとともに、部材の再利用率を検証することを目的として、仮設住宅の解体工事に関する調査を行った。ビデオカメラと調査シートを用いて解体工事を詳細に記録し、事業者に対して再利用に関する資料提供を依頼した。木造構造材の大部分は再利用可能であることが明らかとなった。一方で、1階の落としパネルの破損率は33.4%だった。また、外壁竪羽目板の破損率は最も高く、約6割の破損が生じた。
著者
鄭 椙元 堀越 哲美 福岡 真由美 水谷 章夫
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.20-28, 1996-06
被引用文献数
3

本研究は,都市の暑熱時における緑がもたらす人体の熱的快適性への暑熱緩和効果を知ろうとするものである。予備調査として名古屋市の都市気温の水平分布の実測調査を行った結果,緑が多く見られる鶴舞公園と東山公園で周囲より低温域が観測された。周囲より低い気温が観測された都心部にある鶴舞公園と,周囲の市街地の樹木の繁茂状況や都市空間の性質が違う6カ所を選び,1994年8月22日から29日の間,温熱環境要素測定とともに,被験者を用いた心理反応を測定した。熱的快適性は屋外では日射の影響を受ける。人体の放射熱授受は気温・表面温・日射に基づいて算出された。作用温度は日射熱授受量で修正された。この修正した作用温度で新有効温度を計算した。緑陰・市街地日向の間に,等しい新有効温度でも温冷感に有意差があった。本研究によって,暑熱時における都市緑地空間の有効性が検証された。
著者
薩本 弥生 劉 雨 青柳 卓也 上野 哲
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間-生活環境系シンポジウム報告集
巻号頁・発行日
vol.37, pp.101-104, 2013-11-22

歩行による着衣のふいご作用の換気は人体からの熱移動性を促進させるため環境の風の効果以上に着衣の温熱快適性向上に重要であるが、現状ではきちんとした定量法が規定されていない状況である。そこで、本研究では暑熱に効果的な着衣の条件を検討するため、歩行サーマルマネキン、トレーサガス法を用いた実験によりアウトドア用のパーカ着装時の熱通過率や換気速度にパーカの特性、歩行、環境がどのように影響するかを明らかにすることを目的とした。さらに、熱通過率と換気速度評価を同期して行い、両者を比較することで、着衣の熱移動性の評価法として換気速度からの間接的評価法の妥当性を検証することを第2の目的とした。有風時には安静・歩行時とも換気口は放熱に有効でなかった。無風環境で換気口は安静時には熱通過率向上に有効でなかったが、歩行時にはそれは有効であった。部位毎に熱通過率を見てみると開口部付近の腹部と背部で開口による有意差が認められた。換気速度と熱通過率には相関係数0.54で相関関係があることが明らかになった。