著者
形井 秀一 大田 美香 辻内 敬子 大塚 素子 伊田屋 幸子
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.2-13, 2015 (Released:2015-08-06)
参考文献数
6

お灸が、 現代の日本の鍼灸治療においてどのような役割を担えるのか、 その可能性を探るために、 灸の基礎的・臨床的効果や現代における灸の有り方を検討した。 大田美香氏は、 バイオインフォマティクスにより灸の実験対象を絞り込むことが可能である事を紹介し、 バイオインフォマティクス解析から灸の“熱”をキーワードとした研究結果を報告し、 今後、 灸の作用予測研究の発展の可能性を示した。 辻内氏は、 1980年代から、 開業鍼灸師の立場で灸の魅力を伝えるお灸の普及活動を始め、 産科領域の臨床研究に取り組み、 同領域に於ける灸の効果について、 多くの成果を明らかにしてきたことを述べた。 また、 大塚素子氏は、 灸が 「治療文化」 として愛媛で継承されてきたことの意味を明らかにし、 また、 愛媛県立中央病院漢方内科鍼灸治療室での鍼灸臨床や、 周産期母子センターでのセルフ灸指導の実践等を紹介し、 時系列分析を踏まえて、 灸が人生の途上で重要な役割を担った例を紹介した。 そして、 米国在住の伊田屋幸子氏は、 2008年にMoxafricaが、 アフリカにおいて始めた結核に対する直接灸の実践とその成果を報告し、 その成果を踏まえて、 今後、 鍼灸がさらに大きく発展する可能性があることを強調した。
著者
井上 基浩 勝見 泰和 川喜田 健司 岡田 薫 中村 辰三 松本 勅
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.130-140, 1998-06-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

ラットの腰部への鍼刺激による坐骨神経の血流変化についてレーザードップラー法を用いて検討した。また、その機序を調べる目的で坐骨神経の電気刺激による坐骨神経血流の反応と、薬物投与の影響についても併せて検討した。その結果、鍼刺激時には増減さまざまな変化を認め、約半数において血圧の変化に同期した反応であった。しかし、半数においては血圧の変化と必ずしも一致しない反応を認めた。神経の電気刺激は測定側の同側と反対側で行ったが、同側では血圧の変化はみられず血流のみが増加した。この増加反応はアトロピンの投与によりやや減少した。反対側の刺激では血圧の変化と必ずしも一致しない反応を認めた。これらの結果から、鍼の刺激部位や方法によっては、血圧の変化を伴わない坐骨神経に対する血管拡張性の反応が得られる可能性が示唆された。
著者
吉川 一樹 鮎澤 聡 福島 正也 櫻庭 陽 石山 すみれ
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.204-209, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
13

【目的】片頭痛に対し、 後頭部C2末梢神経野鍼通電療法を行い、 頭痛頻度と服薬回数の減少および生活支障度の改善がみられた症例を報告する。 【症例】60代女性。 主訴は頭痛。 [現病歴] X-41年、 幼少期から続く頭痛が悪化し始めた。 X-15年頃から市販薬が無効となり、 近医脳神経外科で片頭痛および薬物乱用頭痛と診断された。 服薬により薬物乱用頭痛は寛解し、 従来からの頭痛も改善した。 X-1年8月に新たに仕事を始めてから、 頭痛頻度と服薬回数が増加傾向にあるため、 X年5月に鍼治療を開始した。 直近の頭痛頻度は8回/月程度で、 その都度服薬していた。 [自覚症状] 拍動性の痛みが主に前頭部、 後頭部に出現し、 悪心・嘔吐、 光・音過敏を伴うこともある。 主な誘因は、 天候の変化である。 [家族歴] 実父、 母方の祖母、 実兄弟に頭痛歴あり。 [診断] 片頭痛。 [評価] 頭痛ダイアリー (頭痛頻度、 服薬回数)、 日本語版 Headache Impact Test (HIT-6)。 【治療】後頭部C2末梢神経野鍼通電療法を週1回から月1回の頻度で実施した。 【結果】頭痛頻度は、 治療開始前が8回/月、 治療12週後が6回/月、 24週後が8回/月、 36週後が3回/月、 48週後が1回/月、 54週後が4回/月であった。 服薬回数は、 治療開始前が8回/月、 治療12週後が2回/月、 24週後が6回/月、 36週後が3回/月、 48週後が1回/月、 54週後が4回/月であった。 HIT-6は初診時が68点、 54週後が57点であった。 台風などの天候の変化による一過性の増悪が認められたものの、 頭痛頻度および服薬回数が満足いく状態まで改善したため、 18診 (54週後) で治療を終了した。 【考察】本症例では主誘因である天候の変化による頭痛発作の誘発が軽減されたことが特徴であり、 後頭部C2末梢神経野鍼通電療法による三叉神経脊髄路核の感作の抑制が関連している可能性がある。
著者
野口 栄太郎 今井 賢治 角谷 英治 川喜田 健司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.466-491, 2001-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
143
被引用文献数
1 1

「内臓痛と消化器疾患や各種消化器症状に対する鍼灸治療」にテーマを絞り、その研究の現状について基礎・臨床の両面から検討を加えた。今回、検討の対象としたものは、NIHの会議でも検討された関係分野の欧文文献と、データベースや手作業によって網羅的に集められた和文文献、および一部の中文文献である。これまでの研究の歴史と研究の現状を簡潔に各テーマごとに網羅的にまとめた。「内臓痛に対する鍼灸刺激の効果について」は、内臓痛に関する鍼灸の効果について、基礎医学的研究と臨床研究が紹介され、さらに、直腸伸展刺激を用いた内臓痛モデル動物における鍼の効果と視床内側下核との関連についての実験成績を総説した。「消化機能に対する鍼灸刺激の効果」については、唾液分泌、胃運動、胃酸分泌、小腸運動に対する、鍼灸刺激の作用機序に関する研究について総説した。「消化器症状に対する鍼灸治療の効果」については、消化器疾患および消化器愁訴に対する鍼灸治療の研究の歴史と現状を網羅し、臨床研究における胃電図の有用性についても併せて総説した。
著者
形井 秀一
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.44-68, 2001-02-01 (Released:2011-08-17)
参考文献数
69
被引用文献数
1
著者
山下 仁
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.703-712, 2006-11-01 (Released:2011-08-17)
参考文献数
31
被引用文献数
1

欧米における鍼の利用状況と臨床研究の傾向を概観し、そこから見えてくる日本鍼灸の課題について述べる。欧米先進諸国における鍼受療経験者は増えつつあるが、国民に占める割合としては日本のほうが圧倒的に多い。鍼施術に関する法的な規制は国によって様々であるが、EU諸国では医師でなければ施術してはならない国が多い。欧米における鍼治療の方式や基礎としている理論は中医学が圧倒的に優勢である。近年ではevidence-based medicine (EBM) の考え方が医療界に浸透するのにともない、鍼のランダム化比較試験 (RCT) が盛んに実施されるようになった。RCT実施数や研究助成額の面から見れば、欧米のほうが日本よりも鍼の研究体制が進んでいるといえる。しかしRCTにおける偽鍼群の設定には大きな問題があり、今後はより臨床に近い設定であるpragmatic trialがもっと実施されるべきである。鍼灸が国際化してきた今、要素還元主義の強い研究手法ばかりを模倣していると、再び明治維新で日本政府が東洋医学を捨てたときのように伝承医術の大切な精神を失うことになりかねない。EBMの概念を尊重することは重要だが、同時に、日本鍼灸とは何か、鍼灸臨床におけるArtの側面をどうやって評価するのか、といったことについて深く議論してゆくことが日本の鍼灸の重要な課題であると考える。
著者
直本 美知
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.636-641, 2004-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
4

英国には、医師を除いておよそ2,400人が鍼治療を行っている (5,100人が医師、看護師、理学療法士として鍼治療を行っている) 。また、約1,300人が専門の団体に所属しながら、各種ハーブ療法を行っている。現在、鍼治療とハーブ療法は法的に規制されていない。ということは、資格の有無に関わらず、誰でも鍼治療やハーブ療法を行うことが可能である。しかし、多くの治療家は自主的に専門団体に所属している。専門団体は、治療家の資格や治療の技術のレベルなどの基準を設定すると共に、その維持と向上に努めているが、団体によってその基準にばらつきがあり一定でないのが現状である。その結果、患者や医療関係者にとって、何を基準にして鍼やハーブ療法の治療家を選べばよいかが明確ではないという問題がある。これらの問題を反映して、2004年3月保健省から鍼治療とハーブ療法を法律で規制する案が提出された。保健省は、無資格の治療家から患者を守ることが必要であると判断し、法律規制案を通して鍼とハーブ療法の治療家たちの意見を募ることになった。
著者
大西 基代 戸田 静男 菅田 良仁 東家 一雄 黒岩 共一 木村 通郎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.420-422, 1988-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7

隔物灸は, その温熱刺激と隔物の作用を生体に与え, 治療効果を得ていると考えられている。そこで, 隔物の灸により溶出する含有成分の検出を thin layer chromatography を用いて行った。その結果, 隔物として用いた生姜, 大蒜より各々の含有成分の溶出が確認された。このことは, 隔物から溶出する成分の薬理作用が, 温熱刺激とともに重要な役割を持つことを示唆している。
著者
粕谷 大智 山本 一彦 戸島 均 坂井 友実
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.32-42, 2002-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1 4

末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の効果を検討するため、日本顔面神経研究会治療効果判定委員会の提唱する基準に基づき、対象の選択を発症して2~3週間以内の新鮮例で, 電気生理学的検査 (Electroneurography : ENoG) による神経変性の程度を診断した上で、顔面運動スコアを用いて、薬物療法と鍼治療の比較、また薬物療法に鍼治療を併用した際の薬物単独療法との回復の違い等について111例の症例に対しretrospective study により治療効果を検討した。その結果、 (1) 鍼治療と薬物療法の回復の比較では、ENoG値41%以上の群で鍼単独療法群はステロイド経口投与療法群と比べ有意に麻痺の回復が劣った。 (2) ENoG値21%以上の群でステロイド経口投与療法群と鍼併用群群では特に有意差は認められず、鍼を併用しても薬物療法単独群と比べ麻痺の回復は変わらなかった。 (3) ENoG値1~20%の群ではステロイド大量投与群とステロイド大量投与に鍼治療を併用した群と比べると回復に有意差は認められず、ステロイド大量投与群とステロイド大量投与に鍼治療を併用した群と比べると、ステロイド経口投与に鍼治療を併用した群は明らかに回復が劣った。 (4) 薬物療法単独群と鍼治療を併用した群において、特に鍼を併用することで回復を早めるといった効果は認められないが、逆に回復を遅延させるといった逆効果も認められなかった。以上より、急性期末梢性顔面神経麻痺に対する治療は、発症して7日以内に適切な治療が求められており、鍼治療よりもステロイドなどの薬物療法が第一選択として重要であると考える。