著者
黒野 保三 石神 龍代 堀 茂 渡 仲三 松本 美富士
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.95-101, 1986-06-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18

鍼刺激のヒト免疫能へ与える影響を調べるため, 単クローン性抗体によるヒトの末梢血Tリンパ球サブセットの変動について検討を行った。健康成人男子10名, 女子3名の被験者に対し, 脉診法にて2穴を選穴し, 5Hz, 2V, 5min の低周波通電鍼刺激を行った。鍼刺激前および直後に採血し, 末梢血Tリンパ球サブセットの変化をOKT, Leu シリーズの単クローン性抗体を用いて Laser Flow Cytometry によるTリンパ球サブセット自動解析を全血法で行った。末梢血Tリンパ球であるOKT 3+細胞は, 一定の変動を示さないが, Eロゼット形成細胞である OKT 11+細胞は, 鍼刺激後に増加した。免疫反応に対して helper/inducer Tリンパ球となるOKT 4+細胞は, 一定の変動をみなかったが, suppressor/cytotoxic Tリンパ球となるOKT 8+細胞は鍼刺激後増加した。また, 生体の免疫学的監視機構を担う natural killer (NK) 細胞に属する Leu 7+細胞は, 増加するが, 同じくNK細胞の一部である Leu 11+細胞は, 低下を示した。単クローン性抗体による末梢血Tリンパ球サブセットの変動は, 我々がこれまで行ってきた in vitro におけるリンパ球機能の変化をより特異的に確認するとともに, NK前駆細胞をより活性化することを示している。このように, 鍼刺激によって, ヒトの免疫反応系に変化をもたらすことがさらに示された。
著者
尾崎 朋文 森 俊豪 坂本 豊次 于 思 湯谷 達 竹中 浩司 佐藤 正人 米山 榮 前岡 弘子 北村 清一郎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.103-110, 2000-03-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
29

先天性胸骨裂孔 (以下胸骨裂孔) の出現状況や胸骨の厚さを遺体で調査するとともに、生体での画像所見から、胸骨裂孔の有無および〓中穴での体表から胸骨後面までの距離を調べ、〓中穴への安全刺鍼深度を検討した。その結果、51遺体中の1例に胸骨裂孔が認められた。裂孔は第4肋間の高さにあり、形状はほぼ円形、直径は胸骨外面で9mmで、固い結合組織で埋められていた。21遺体での胸骨の厚さは9-15mmの範囲で平均は11.5±2mmであった。生体31例の〓中穴での体表一胸骨後面間距離は11-31mmの範囲で、平均は18.8±5mmであった。これらの結果から、仮に胸骨裂孔が存在しても、〓中穴への刺鍼では、極端な痩せ型を除いて10mmまでは、刺入鍼が心臓に達する可能性はなく、安全と考えられた。
著者
厳 振国 張 建華 顧 洪川 毛 根金 魏 鴻煕 王 財源 吉備 登 高橋 研一 王 財源 吉備 登
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.191-195, 1997-09-01 (Released:2011-03-18)

51体の新鮮な成人遺体を冷凍し、風府、〓門、風池、晴明穴における断面を作製し、断面の浅点 (その経穴の皮膚表面) と深部点 (危険臓器よりの最も近い点) の間の最短距離すなわち危険な刺入深度を測定した。その結果より刺針時の安全な刺入深度を求め、風府は40.08mm、〓門は38.10mm、風池は39.77mm、晴明は34.25mm以下であるとの結論を得た。
著者
石崎 直人 矢野 忠
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.80-89, 2013 (Released:2013-10-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1

「患者満足度」 という概念は、 今や医療界の必須要件であるといえる。 鍼灸治療は、 患者と直接接する時間が長く、 病院の検査で明確に捉えられにくい症状や心理的な状態などに対処しようとするもので、 治療行為そのものに対して満足が得られやすい医療と考えられるが、 利用者を含めた一般市民が鍼灸治療に対してどのように感じているかという情報は十分に知られていない。 鍼灸治療に興味を持つ人はどのくらいいるのか? どのような人たちが鍼灸治療を受けているのか? 鍼灸治療に何を期待しているのか? 鍼灸師が心地よいだろうと思って施す治療を患者はどのように感じているのか? 診療費用や診療時間は適切か? どのような治療をすれば満足が得られるのか? これらの疑問に答えるために我々は東洋療法研修試験財団の研究助成を受けて一般市民を対象とした全国規模の調査を実施してきた。 2003年3月から計6回にわたって実施した調査の結果には、 様々な情報が含まれている。 今回はこれらのデータを基に、 鍼灸治療の継続的な利用者や、 鍼灸治療に興味を持ちながらも受療経験を持たない者、 あるいは鍼灸治療についての関心が少ない者など、 様々な立場から見た鍼灸治療の実態についてまとめた結果を報告する。
著者
渡邉 勝之 篠原 昭二
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.654-664, 2008 (Released:2008-11-21)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

【緒言】鍼刺激では動的経穴にイオン化傾向の異なる銅鍼と亜鉛鍼を刺鍼した時のみ、 表皮表面局所における酸化還元電位 (ORP:Oxidation-Reduction Potential) が有意に低下することを明らかにしてきた。 本実験では、 直接灸および灸頭鍼刺激前後におけるORPおよび水素イオン濃度 (pH) に及ぼす影響について検討した。 【方法】ボランティアの非経穴および独歩可能な患者の動的経穴に直接灸・灸頭鍼 (輻射熱遮断あり・なし) および燔鍼を行い、 刺激前後の測定を行った。 【結果】ORPは非経穴への全ての灸刺激で変化を示さなかったが、 動的経穴では有意(p<0.01)に低下を示した。 一方、 pHでは非経穴または動的経穴に関係なく、 直接灸では有意(p<0.01)に低下し、 灸頭鍼輻射熱遮断では逆に有意(p<0.01)に上昇する変化が認められた。 【結論】鍼灸臨床において、 我々は動的経穴の灸点[+点]には直接灸、 禁灸点[-点]には灸頭鍼を使い分けているが、 本実験により、 直接灸と灸頭鍼刺激では生体に及ぼす作用が逆であることが明らかとなった。

3 0 0 0 OA 毫鍼の改革

著者
木下 晴都
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
日本鍼灸治療学会誌 (ISSN:05461367)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.14-22, 1968-01-15 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15
著者
塩見 真由美 今井 賢治 咲田 雅一
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.71-80, 2003-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

嘔気を主症状とするmotion sicknessを人為的に引き起こし、内関 (PC6) への鍼刺激がその症状の程度と出現率を改善させるかどうかを検討した。健常人36名を対象とし、無作為に対照群 (nd2) と置鍼群 (n=12) 、鍼通電群 (n=12) の3群に分類し、optokinetic drumを用いてmotion sicknessを誘発した。motion sicknessの評価には、自覚症状に関するスコアー (SSMS) とvisual analogue scale を用いるとともに、客観的な指標として胃電図をドラムの回転前・回転中・回転後各15分、計45分間にわたり記録した。また、置鍼群、鍼通電群ではdrum回転中に内関穴に鍼刺激を行った。置鍼群では、motion sickness に伴う胃電図の異常波形の出現が抑制され、他群に比べ早期に正常波形へと回復した。また、嘔気の出現率とその程度についても、置鍼群では対照群に比して低い傾向を認めた。内関穴に対する置鍼刺激は、胃電図の異常波形の出現を抑制し、嘔気などを中心とするmotion sickness 症状の緩和に有効であることが示された。
著者
椎野 瑞穂 沢井 勝三 木村 明彦 五味 敏昭 岸 清
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.125-134, 1993-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24

刺鍼の深度とその周囲の臓器および組織の関係を調べるため, 足の太陽膀胱経を基準とした人体横断解剖標本を作成して, 体表から何mmでどの臓器, 組織に鍼先が到達するかを検索した。前回の大椎穴 (督脈) から蕨陰兪穴 (足の太陽膀胱経) までの5横断面にひき続いて, 今回は心兪穴 (足の太陽膀胱経) から胆兪穴 (足の太陽膀胱経) までの5横断面について検索した。心兪穴を基準とした横断面では, 体表より鍼を刺入させると皮膚を5mmで貫き, 皮下組織を2mmで貫き, 僧帽筋を3mmで貫き, 固有背筋群を17mmで貫いて第6肋骨に鍼先が達する。体表より第6肋骨まで27mmを計測した。督兪穴を基準とした横断面では, 皮膚を5mmで貫き, 皮下組織を3mmで貫き, 僧帽筋を3mmで貫き, さらに固有背筋群を17mmで貫いて第7肋骨に鍼先が達する。体表より第7肋骨まで28mmを計測した。隔兪穴を基準とした横断面では, 皮膚を4mmで貫き, 皮下組織を2mmで貫き, 僧帽筋を3mmで貫き, 広背筋を1mmで貫き, さらに固有背筋群を20mmで貫いて第8肋骨に鍼先が達する。体表より第8肋骨まで30mmを計測した。肝兪穴を基準とした横断面では, 皮膚を5mmで貫き, 皮下組織を6mmで貫き, 固有背筋群を32mmで貫いて第10肋骨に鍼先が達する。体表より第10肋骨まで43mmを計測した。胆兪穴を基準とした横断面では, 皮膚を4mmで貫き, 皮下組織を7mmで貫き, 固有背筋群を32mmで貫いて第11肋骨に鍼先が達する。体表より第11肋骨まで43mmを計測した。以上の結果を鍼灸医学臨床における深さの立場から考察した。
著者
池田 朋子 田口 玲奈 北小路 博司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.230-241, 2020 (Released:2021-10-28)
参考文献数
13

【目的】全国の不妊クリニックを対象に、不妊治療における鍼灸の認識やその導入の実態を明らかにし、今後の不妊鍼灸における問題点を考察する。 【対象と方法】2015年9月現在、(公社)日本産科婦人科学会ホームページ上で「体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録施設」、「ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録施設」、「顕微授精に関する登録施設」の全てに該当する547施設を対象に、郵送による無記名のアンケート調査を行った。 【結果】有効回収率は28.5% (156/547通) で、回答者の82.7%を医師が占めた。不妊治療における鍼灸は55.1%で認知されていた。しかし、実際に鍼灸を導入している施設は8.3%で、72.0%では今後も導入予定はなかった。鍼灸を導入している施設は婦人科医院が最も多く、鍼灸導入状況と病院形態に関連性がみられた(p=0.037)。また、鍼灸導入と情報源の有無には関連性がみられた(p=0.0009)。鍼灸の導入目的には、「精神的ストレスの緩和」が75.9%と最多であったが、導入しない理由としては、「鍼灸治療に十分なエビデンスがあると感じられないため」が59.3%と多かった。 【結論】現在、鍼灸を導入しているクリニックは少数であるが、今後、比較研究などエビデンスに基づいた、医師や患者にも分かりやすい鍼灸治療の有効性を示す必要があると考えられた。また、鍼灸師が他の医療従事者と同等のレベルで不妊治療について意見・情報交換ができるようになれば、クリニック内での導入や、クリニックと提携して治療を行う鍼灸院が増える可能性があり、鍼灸師のレベル向上が求められる。
著者
橋本 洋一郎 鳥海 春樹 菊池 友和 篠原 昭二 粕谷 大智
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.18-36, 2014 (Released:2014-04-23)
参考文献数
54

頭痛に対する鍼灸の効果と現状を総合テーマとして、 当該領域のレビューを行った。 はじめに、 西洋医学的な立場から一次性頭痛や二次性頭痛の鑑別や治療効果を中心に紹介した。 次に、 鍼灸治療の治効機序に関して、 基礎研究の成果を文献に基づき紹介した。 最後に、 頭痛に対する鍼灸治療の臨床効果を文献に基づき解説し、 緊張型頭痛や片頭痛に効果が示されていることを紹介した。 以上の結果から、 鍼灸治療は一次性頭痛に対して臨床効果が報告されており特に、 episodic な頭痛に対して有効である可能性が示唆された。

2 0 0 0 OA 吃音と鍼灸

著者
府川 悦山
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
日本鍼灸治療学会誌 (ISSN:05461367)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.349-355, 1966-06-20 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

In 37 examples instability, fear or feeling of impatience were eliminated and the inharmony of thought and speech was improved. The particular symptoms of a stammerer is the spasm in the various organs which is necessary for forming words and if the will to say something is stopped then it immediately vanishes. Therefore it is thought that it is due to a spiritual rather than a physical relationship. Moreover, the symptoms of stammering becoming gradually chronic would cause an over tension of the mind and body and also bring about an abnormal change in the spinal column and even though the abnormality of the spinal column are frequently experienced in other patients, in the case of stammerers, a great number. of examples were proved. The point which caught our particular attention in the curved area of the spinal column was that the parts between C6 and T6 and the surrounding abnormal parts of the muscles were applied as the most important points for treatmet.The acupuncture of Kyoseki point had an influence upon the tenderness of back, chest and abdo men which commonly appeared to stammerers and an exchange of mutual action could be seen. It is almost the same result as the experience when independent moxibustion was performed on the 4 points of the back area and clarified the usefulness of the selection of a proper spot for treatment.To sum up the treatment results of adults and children, it could be seen that the curves of the spinal column were corrected and that the abnormalities of the muscles together with the recovery of the symptoms of stammering progressed for the better. There were cases of a clear effect seen during process in the infant and young age group and with the imbeciles we have had experience of a favourable change in articulation after one treatment.The bigger the curve of the spinal column the stronger the tendency for stammering symptoms and the muscle abnormalities of neck, and spinous process, the shoulder and back parts were touched objectly and that the abnormality between C6 and T1 had been more delayed and was able to see a recovery and such observations are the same as before.Concerning the above results, it is said that there is no other corrective method for people with a stammer than exercises which emphasise breathing, articulation and speech but it was seen that effective action could be taken from the above treatments.
著者
栢森 良二 堀部 豪 粕谷 大智
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.7-26, 2023-02-01 (Released:2023-06-01)
参考文献数
60

末梢性顔面麻痺の予後不良の見方、 評価法、 治療上の注意、 鍼灸治療については、 鍼灸師間で共通理解が乏しく、 多職種との連携もその点で課題も大きい。 現在、 麻痺の治療は予後不良例に対して麻痺の回復過程で後遺症をいかに少なくさせるかが重要となる。 後遺症を予防し、 患者Quality of life (QOL) を向上させることがゴールである。 それには麻痺診療手引きを理解し、 他のメディカルスタッフ同様、 鍼灸師も適切な診察・治療・セルフケアの指導等を行い、 専門医との連携が図れることが重要となる。 本セミナーの内容を読んで頂き、 麻痺の病態や評価方法、 鍼灸治療上の注意など共通理解が得られ、 今後の麻痺に対する臨床研究のコンセンサスや鍼灸の可能性について検討できれば幸いである。