著者
井畑 真太朗 山口 智 菊池 友和 小内 愛 堀部 豪 伊藤 彰紀
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.53-58, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
12

【目的】突発性難聴(以下SSNHL)は原因不明の感音性難聴である。高齢者で眩暈を伴う重度SSNHLでは、発症2週間以内に症状が改善しないと予後不良と言われている。今回、耳鼻科で予後不良と診断され発症約1ヶ月後より鍼治療を開始し聴力回復が認められた症例を経験したので報告する。 【症例】74歳女性、主訴:左難聴、既往歴:18年前右聴神経腫瘍の手術により右重度難聴、現病歴:X年10月4日から特に誘因なく左難聴を自覚、両側難聴になり、対話不能。同日耳鼻科を受診、左SSNHLと診断。鼓室内ステロイド注射を施行。X年10月13日より回転性眩暈出現、左SSNHLも改善せず、X年10月21日より当院神経耳科にて入院。重度感音難聴(grade4)を認め、同日から薬物療法、星状神経節ブロックを連日開始。X年10月30日、経過不良、また頸肩部の張り感を自覚した為、神経耳科より鍼治療の診療依頼。神経学的所見は左右難聴を認める以外は全て正常。板状筋、肩甲挙筋、僧帽筋に筋緊張。鍼治療方針は内耳の血流改善、頸肩部筋群緊張緩和を目的に天柱、風池、肩井及び左翳風に40mm16号鍼置鍼10分を入院中週3回、退院後週2回実施。評価はオージオグラムで測定。 【結果】初診時左91.3dB、右96.3dBの為、筆談で医療面接。1週間後左82.5dB右92.5dBと回復が認められ対話が可能となり、4ヶ月後の鍼治療終診時左68.8dB右86.3dBと回復した。聴力回復判定では回復(10-30dB未満改善)の値、重症度分類ではgrade4→grade3に回復した。 【考察および結語】本症例は、頸肩部の鍼治療で、内耳動脈を介して蝸牛の血流及び有毛細胞に何らかの影響を及ぼしたものと考える。以上より、今後、予後不良の重度SSNHL患者に対して西洋医学的治療に追加する治療オプションとして鍼治療は有用性が高い可能性が示唆された。
著者
曽根原 容子 谷口 博志 藤本 英樹 松浦 悠人 村越 祐介 安野 富美子 坂井 友実
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.190-202, 2022-08-01 (Released:2023-05-10)
参考文献数
26

【目的】本研究の目的は一般女性の美容鍼灸に対しての意識や認識等の現状について調査することである。 【方法】対象は国内テストマーケティング好適地といわれる静岡県に在住する一般女性1000人。 方法は質問紙法。 県内の商工会議所を介して人口比率に応じ年代別にアンケートを配布し回答を得た。 項目は①基礎情報②顔の美容上の悩みの有無、 種類③鍼灸治療の経験の有無、 美容鍼灸の認知度、 認知媒体、 効果のイメージ、 美容鍼灸の経験の有無④美容鍼灸の効果、 種類、 マイナス効果の有無、 現在の受療状況、 受療希望とその理由、 治療院に求める要素、 施術者に求める要素⑤1ヶ月の美容に対する投資の質問を設けた。 【結果】 回答率56.2%。 91.8%が顔に対する美容上の悩みを感じていた。 鍼灸治療経験者は28.8%。 美容鍼灸の認知度は42.0%。 認知媒体はテレビ45.3%が最も多く、 美容鍼灸に対する効果のイメージはリフトアップ44.8%が最も多い。 未経験者521人に対する受療希望は43.2%。 理由はなんとなく興味を持った45.3%で最も多かった。 受療を希望しない理由は痛そうが52.6%で最も多く、 美容鍼灸の経験者では効果を感じたと60.0%が回答し、 その効果は対象者が持つイメージと同じくリフトアップが62.5%と最も多い。 しかしマイナスを感じたとの回答も45.0%みられ、 さらに2度以上受けたが今は受けていないとの回答が47.5%と最も多かった。 治療院には清潔感を求める人が多く、 施術者には優れた技術を求める人が多い。 1ヶ月の美容にかける費用は3,000~5,000円未満28.5%が最も多い。 【考察・結語】多くの女性が顔に対して美容上の悩みを持っており、 その中でもリフトアップに美容鍼灸への期待を向けていることが示唆された。 認知度に対する受療率の低さや治療を継続しない理由、 美容鍼灸を展開していく上での問題点が明らかとなった。
著者
松本 淳 石崎 直人 苗村 健治 山村 義治 矢野 忠
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.56-67, 2005-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1

【目的】過敏性腸症候群 (IBS) を始めとする便通異常は、有病率が高い。また、心理的異常を伴うことが多く、従来の治療に抵抗するものも多い。今回、IBS患者に対し鍼灸治療を行い、反転法により臨床効果を検討した。【対象及び方法】罹病期間4年以上で半年以上の投薬によっても症状が十分に改善しなかったIBS患者4例に対し、中医学的な弁証に従い鍼灸治療を行った。治療期間 (B期間) は10回ないし20回を1クールとし、無治療期間 (A期間) と交互に繰り返した。便通異常の評価は、排便日誌をもとに、腹痛・腹部膨満感の程度、排便回数、便性状を記録した。また心理状態、quality of life (QOL) についても評価した。【結果及び考察】4例中3例において腹痛、腹部膨満感、QOLがB期間中は軽減し、2例で服薬量が減少した。心理状態には一定の傾向は見られなかった。今回の治療及び無治療期間の経過から、鍼灸治療がIBS患者の腹痛等の症状およびQOL改善に有効な治療となる可能性が示唆された。
著者
田中 恵 武田 真輝 小野 雅代 種田 遥美 古谷 陽一
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.86-94, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
20

【目的】骨盤位に対する鍼灸治療の効果と安全性を検討する目的で、当科における骨盤位の矯正率および有害事象を調査したので報告する。 【対象と方法】対象は当院の産婦人科で骨盤位と診断され、20XX-9年4月1日から20XX年10月31日までの期間に鍼灸治療を受療した妊婦とした。対象妊婦を診療録で後ろ向きに調査した。主な調査項目は、鍼灸開始時の妊婦の状態(切迫早産の有無)、施術姿位(座位もしくは側臥位)、鍼灸後に頭位になった率、経膣分娩の率、および有害事象の発生状況とした。矯正率は鍼灸後に頭位になった率と定義した。有害事象の定義は「因果関係を問わず治療中または治療後に発生した好ましくない医学的事象」とした。 【結果】対象の妊婦は371名。鍼灸開始時に切迫早産と診断されていた妊婦は57名、そのうち21名は入院中の切迫早産妊婦だった。施術姿位は座位が45.2%(168例)、側臥位が54.7%(203例)であった。骨盤位矯正率は72.2%(268例/371例)であった。鍼灸開始時に入院中の切迫早産妊婦では矯正率が28.6%(6例/21例)と、外来通院の妊婦に比べて有意に低かった。施術姿位による矯正率は座位と左側臥位との間に有意差を認めず、左側臥位での施術では迷走神経反射の有害事象が見られなかった。施術回数あたりの有害事象発生頻度は1.1%(21件/1916回)、症例数あたりでは5.7%(21件/371症例)であった。因果関係の明らかではない破水2件が見られた。 【結論】妊婦における安全な施術姿位は左側臥位と考えられた。有害事象はほとんどが軽症または中等度のものであったが、因果関係の明らかではない2例の破水がみられた。骨盤位矯正の鍼灸治療を実施する際には、主治医の産科医と十分に連携をとる必要がある。
著者
篠原 大侑 岡田 岬 久島 達也 今井 賢治
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.266-272, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
16

【目的】今回、 膝痛および頚肩部痛を訴え、 さらに様々な不定愁訴を示す患者に対して鍼治療を行った。 胃膨満感と胃痛を中心とした消化器症状を強く訴えるようになったため、 胃電図による病態の把握と治療効果の確認を行ったところ、 治療後に症状の軽減とともに胃電図の正常波成分の増加を認めたため報告する。 【症例】73歳の女性。 身長は148.0cm。 体重は51.0kg。 初診時の愁訴は膝痛および頚肩部痛、 不安感であった。 24診目に胃膨満感および胃痛が第一愁訴となり、 全般的消化器症状評価 (Gastrointestinal Symptom Rating Scale; GSRS) は、 36点であった。 胃電図の計測は、 治療前後で各15分間行った。 鍼治療は30診目より左右の足三里 (ST36)、 豊隆 (ST40) に置鍼10分を行った。 【結果】鍼治療後の胃電図の正常波形を占める割合が71%と大きく増加しており、 power spectrumは明らかな安定とpowerの増大を伴っていた。 GSRSを確認したところ点数の減少を認め、 症状の改善を得た。 【考察】今回、 鍼治療により胃電図の正常波成分のpowerが増大した。 これは胃運動の亢進を意味しており、 いわゆる体性-内臓反射による迷走神経の興奮から、 胃電図の変化が得られたと考えられる。 さらに、 この胃電図の所見を患者に説明したところ、 安心を得て、 臨床症状の改善と治療継続のモチベーション向上に繋がった症例であった。 【結語】胃膨満感および胃痛を訴える患者に対して鍼治療を行ったところ、 胃電図の正常波成分のpowerが増大し、 さらに臨床症状の改善が得られた。
著者
坂井 友実
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.229-236, 2022-11-01 (Released:2023-05-19)
参考文献数
8

著者はこれまで東大医学部附属病院麻酔科ペインクリニックをはじめとして、 同大学の物療内科 (現、 アレルギー・リウマチ内科)、 老年病科や財務省印刷局東京病院東洋医学センター、 精神科・内科のクリニック、 統合医療施設等で鍼灸の臨床経験を積むことができた。 これらの医療分野での鍼灸臨床と研究の経験から、 現代医療の中に鍼灸を位置づけるには、 現代医学的視点から疾患や症状を捉え、 病態を把握し、 病態に基づいた治療を行い、 鍼灸の有効性、 有用性を科学的根拠に基づいて評価、 検討することが重要と考える。 鍼灸の特徴は①個々の患者に応じた治療が可能である、 ②診断がつかなくても治療ができる、 ③生体にとって有害となる副作用が少ない、 ④病変部近傍への組織選択的なアプローチが可能である、 ⑤非薬物療法のため、 現代医学的な治療 (薬物療法や心理療法など) との併用が可能であるなどがあげられる。 これらの特徴を持つ鍼灸治療は、 現代医療の中で医療手段の一つとして有用となり得る。 さらに、 鍼灸師に求められるのは医師をはじめとした医療従事者と共通の認識をもって連携し、 信頼される力量をもつことと考える。
著者
石井 努 池内 隆治 勝見 泰和 松本 勅 片山 憲史 越智 秀樹
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.244-248, 1994-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

変形性腰椎症の患者40名 (男性28名, 女性12名, 年齢42~80才, 平均61.2才) に対して運動療法とSSP療法を併用した鍼治療を行い, ペインスケール法を用いて治療効果の検討を行った。鍼治療は腎兪, 志室, 大腸兪など腰部を中心に雀啄術を行い, ほかに症状に応じて治療点を加えた。鍼治療の後に, 運動療法として Williams Exercise より, 腹筋・背筋の強化運動および背筋とハムストリングスのストレッチ運動を行わせた。そのうちの背筋の強化運動中には背筋部にSSP療法を併用した。その結果, 平均治療回数5.6回, 治療期間は35.9日であり, 治療効果はペインスケールで10から0または1に改善した著効が22.5%, 2~5に改善した有効が55.0%, 6~8に改善したやや有効が20.0%となり良好な治療成績が得られた。
著者
兵頭 正義
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3-4, pp.165-170, 1985-03-01 (Released:2011-05-30)

輻射熱疼痛計を主に利用して, 鍼麻酔を効果的にかける方法を検討した。すなわち, 何Hzを利用するべきか, どのツボの選穴がどの部の手術によいか, などである。またDPAをあらかじめ服用させておくと, 鍼麻酔の効果が高まることを, 実験的, 臨床的に明らかにした。さらに, 新しいツボ刺激療法としてSSP療法を開発した。これに三角円錐形の電極をツボに置き, 低周波を鍼麻酔と同様に通電するものである。この効果は, 鍼とほぼ匹敵するものであることを疼痛閾値の面から証明した。
著者
桜田 恵里 星 慎一郎 形井 秀一
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.77-84, 2011 (Released:2011-06-27)
参考文献数
20

【目的】強皮症を発症し様々な愁訴を持つ患者に、 医学的治療と併用して9ヵ月間の鍼灸治療を行った結果、 良好な経過が見られたので報告する。 【症例】強皮症と診断された50代の女性。 主訴は顔面部の異常感覚、 口腔内の違和感。 薬物治療を継続するが、 顔面の異常感覚、 口腔内の粘り感が続く。 自律神経の調整を目的に鍼灸治療を行った結果、 顔面部違和感に若干の軽減、 レイノー症状、 KL-6値に改善が見られた。 しかし治療の中断、 再開後、 主訴の変化が乏しいため、 触診を重視した治療法に変更した結果、 主訴に対し、 より効果的であった。 【方法】 主訴の自覚症状の変化、 不眠・レイノー症状の頻度、 薬物の服用量、 血液の変化を見た。 【結果】治療開始後、 不眠・レイノー症状の改善、 KL-6値の正常化、 顔面部異常感覚の軽減等が見られた。 触診を重視した治療法は、 より効果的な結果となった。 口腔内の粘り感は不変であった。 【考察】今回の症例は、 継続していた薬物治療に鍼治療を併用することで、 皮膚の異常感覚、 レイノー症状等の強皮症特有の愁訴が改善した。 これらの変化を患者自身が体感することで、 病そのものや、 薬の副作用に対する不安の軽減に繋がったと推察される。