著者
安田 啓司
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.350-353, 2019-08-20 (Released:2020-08-01)
参考文献数
8

超音波によって,室温・大気圧で水中の汚染物質の分解,有価物質の分離をすることができる。汚染物質の分解は超音波キャビテーションに起因し,有機物質,高分子,病原菌などを熱やラジカルにより分解する。有価物質の分離では超音波霧化によりアルコール,界面活性剤,アミノ酸などを液滴中に濃縮する。本稿では,分解・分離のメカニズムと物質による挙動の違いについて概説する。
著者
高島 正之 加納 源太郎 福井 武久 小倉 毅勇
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1984, no.7, pp.1083-1089, 1984-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
3

イットリウムとネオジムの酸化物とフッ化物との固相反応によって新規化合物としてネオジムイットリウムフッ化酸化物が合成された。Y2O3とNdF3の反応は反応温度によって段階的であり,200~600℃ ではY2O3とNdF3の間でO2-とF-の交換反応が進行しYFOとNdFOを生成する。900℃を越えるとNdFOがYFOに置換型に固溶化し始め,1200℃以上でネオジムイットリウムフヅッ化酸化物が生成した。NdF3の混合割合が48~52mol%で斜方面体晶の,58~78mol%で正方晶の単一相生成物が得られた。前者ではY,NdF3O3が,後者ではY,Nd2F,O3が量論的化合物として合成された。Y2NdF3O,は530℃ 付近で斜方面体晶から立方晶への可逆的な相転移があるが,Y2Nd2F6O3は1400℃ 以下では空気中で安定で相転移もなかった。酸化物イオン導電性の立場から電気伝導性を調べた結果,Y2Nd2F,O3が650℃ で電導度が1.2×10-2S/cmで,酸化物イオン輸率が0.85以上の高い酸化物イオン導電性を示した。
著者
永田 和宏
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.282-285, 2022-06-20 (Released:2023-06-01)

物質を構成する原子や分子は温度により多くの原子欠陥を生成する。この欠陥が増大すると固体から液体へ液体から気体に変態する。この物質の乱雑さの尺度がエントロピーである。この欠陥は外部からの熱の出入りにより変化する。この熱がエンタルピーであり,内部エネルギー変化と物質がする仕事に使われる。この熱で物質に流入するエントロピーより物質のエントロピー変化は常に大きい。その差はエントロピー生成といい,常に正で自然に起こる過程は不可逆である。エントロピー生成は熱や成分などの流れが生じると生成し非補償熱として散逸する。安定した定常状態ではエントロピー生成が極小であり,大きくなると他の定常状態に遷移することがある。
著者
中村 専一 東 伸行 新居 善三郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.903-906, 1960-06-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
5

安定化処理した窒化ホウ素(BN)に塩酸,硫酸,リン酸等を加え,さらに分解促進剤として過マンガン酸カリウム,重クロム酸カリウム, 過塩素酸カリウム等を加えて硬質ガラス管に封入し, 190~300℃でオートクレーブ処理してBNの分解によるアンモニア態窒素の生成条件を検討した。分解液として硫酸がよく,その最適濃度は5Mである。アンモニア態窒素を減少させない分解促進剤としては過塩素酸カリウムが適当である。分解方法はBN30mgを5M硫酸4cc,過塩素酸カリウム40mgとともにL型に曲げた硬質ガラス管に封入し(または棒状封管を水平に置き),280℃で1~2時間保持するのが適当と思われる。
著者
寺田 昭彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.400-403, 2022-08-20 (Released:2023-08-01)
参考文献数
8

地球環境には数百万種といわれる肉眼で観察することができない生物が1030オーダーの細胞数で存在する。我々の社会と同様に,様々な環境で雑多な微生物が相互作用しながら炭素・窒素をはじめとする元素循環に関わっている。このような微生物の潜在能力を最大に引き出すノウハウを集約しているのが水処理技術である。本講座では微生物のライフサイクル(生活環)とエネルギー獲得手段を紹介する。さらに,微生物の機能を利用する水処理技術の基本操作を,活性汚泥法と生物学的窒素除去を例として説明する。
著者
清水 克哉
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.222-225, 2009-05-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
5

超伝導とは?金属の電気抵抗が温度を下げるにつれ次第に小さくなりやがてゼロになってしまう,といってしまうとその本質からはなれてしまう。10の23乗個といった莫大な数の電子の集団はその瞬間に驚くべき秩序をみせる。約100年前に発見された超伝導はいまだに研究者を魅了し続ける。
著者
山﨑 勝義
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.428-433, 2021-10-20 (Released:2022-10-01)
参考文献数
1

化学平衡や平衡定数を記述する上で,標準状態はきわめて重要である。本稿では,溶媒と溶質について,国際規準の標準状態に従って化学ポテンシャルを定式化し,正確な平衡定数の式を導出する。また,酸・塩基の電離定数,水のイオン積,溶解度積などの式に溶媒や固体の濃度を含めてしまう誤りが生じる原因を考察する。
著者
下山 晃
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.14-18, 2002-01-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
21

隕石の中でも炭素質隕石は太陽系の原始物質であり, 有機物を含んでいる。隕石アミノ酸が地球起源でなく, 非生物起源であり, このため宇宙起源であることはマーチソン隕石の分析から判明した。同様な結果は南極隕石のアミノ酸分析からも判明し, その種類や存在量, また, 隕石有機物としての特徴もこれらの隕石では共通していた。その後の分析ではジカルボン酸もアミノ酸と類似した特徴をもつことが判明した。隕石有機物の起源については, これまで原始太陽系星雲中や隕石母天体上での成因が提案され, 議論されてきた。近年のH, C, Nの安定同位体比の研究は, 異常に高い同位体比を隕石有機物が示すことから, 先太陽系(つまり星間)での生成が議論され, 起源と成因について新しい展開が見られる。さらに, 個別の同位体比測定が可能になり, 分子の生成経路に関しても考察が可能となった。さらになお, 隕石有機物の化学進化はアミノ酸や核酸の塩基などの生成まで進んだことを示しており, 地球に次いで生体関連有機物が存在する天体が存在することが判明した。
著者
坪井 正道
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.322-325, 1994-05-20 (Released:2017-07-11)

「はってはがしてまたはれる」これはポスト・イットという付箋紙の宣伝文句であるが, 水素結合は化学の世界でこれに似た挙動にあずかっている。生物が遺伝情報を保存し, 複写し, 発現する過程, われわれの舌が砂糖の甘味を感じるメカニズム, などに多かれ少なかれ水素結合が関与している。水素結合を切るのに必要なエネルギーは20kJ/mole程度にすぎない。これは化学結合の結合エネルギーに比べて圧倒的に低い。たとえば, 水分子H_2OのO-Hを切るエネルギー490kJ/moleの25分の1である。したがってこれは常温で温和な条件下で進行する反応に重要な役割をもつ。以下どんな所にどのような水素結合があるのか当たってみよう。
著者
石田 正臣 野口 達彦 篠田 清徳 細井 卓二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.330-335, 1963-03-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
21

リン鉱石と硫酸との反応によって,過リン酸石灰を製造する時の反応条件と,初期反応生成物の硬化状態,化学成分等との関係を明らかにするために,リン鉱石(主としてフロリダリン鉱石)と硫酸とを混合反応させてから,各時間毎に生成物の針入度測定,流動期測定および化学分析を行ない考察を加えた。さらに過リン酸石灰の貯蔵中の固結の原因を解明するために,反応生成物のX線回折試験,熱天秤による加熱重量変化測定も行なった。結果は次の通りであった。(1)反応条件として,配酸比100,リン鉱粉粒度200メッシュ通過80%,硫酸温度50~60℃,硫酸濃度67~69%の時,反応速度が大で,生成物の状態も比較的良好であった。(2)遊離硫酸(F-H2SO4)の消費速度が大で,Ca(H2PO4)2・H2O,CaSO4,CaSO4・1/2H2O等の固体結晶成分が速やかに,かつ十分に生成するような条件下では,遊離リン酸(F-P2O5)や遊離水(F-H2O)も減少して,生成物は粘着性少なく状態が良好で,こういう製品ではまた貯蔵中の固結等の現象も起こりにくく,取り扱いが容易である。貯蔵中の固結は,主として,結晶水をとる固体結晶成分の析出,すなわち,生成物中に反応開始後長時間F-H2SO4が残存したり,生成物の温度の低下によって, 堆積山での多量のCa(H2PO4)2・H2O の生成析出, 硫酸カルシウム(CaSO4) の溶解およびCaSO4・2H2Oの析出等が起こり,その際の水和反応によって,製品を構成する粒子と粒子の間に,架橋を生じ,さらにF-H2O,F-P2O5,Fe化合物,Al化合物等の粘着性物質の共存が,その結合を強めることなどに原因すると考える。
著者
伊東 章
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.252-253, 2018-05-20 (Released:2019-05-01)
参考文献数
2

ポリエチレン,ポリプロピレンは生活に欠かせないプラスチックの代表である。これらは炭化水素ガスのエチレン,プロピレンを原料とし,ガスから直接固体のプラスチックがつくられる。この重合反応は新しい触媒の開発で可能となった。ポリエチレンの製造方法の歴史と現在のプロセスを解説する。
著者
村上 雅彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.32-37, 2015-01-20 (Released:2017-06-16)
被引用文献数
1

向流分配抽出法は,溶媒抽出(液-液抽出)を多段階で行うことで,1回の抽出では達成できない高度な分離を可能とする方法である。この方法はCraig(クレイグ)抽出として知られ,クロマトグラフィー確立以前の当時には困難であったペプチド類などの生体関連分子の相互分離を可能とし,その後の生化学・生命科学の発展に大きく貢献した。現在では,一部の用途を除いてその座を各種クロマトグラフィーに譲った感があるものの,その原理と巧妙な具現化の手法は今なお興味深い上,クロマトグラフィーにおける分離を理解するための近似モデルとして有用である。加えて近年では,従来のクロマトグラフィーにはない本法の優れた特徴を,巧みな手法で活かした「向流クロマトグラフィー」として再び注目されつつある。本稿では,高校化学で学習する溶媒抽出の原理をCraig抽出に発展させ,クロマトグラフィーの原理との対応に触れるとともに,向流クロマトグラフィーの近年の発展について述べる。
著者
山崎 淳司
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.356-359, 2020-09-20 (Released:2021-09-01)
参考文献数
3

粘土鉱物は,基本的に天然に産する層状ケイ酸塩鉱物の一群であり,70種以上が知られている。その特徴的な結晶構造と,化学組成に起因する代表的な性質として,イオン・分子吸着性,溶媒中へ分散性と吸水による膨潤性,加熱変化および焼結性について紹介する。
著者
田村 真治 今中 信人
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.376-377, 2011-07-20 (Released:2017-06-30)

電子ではなく,イオンが電気を運ぶ固体物質のことを固体電解質と呼び,固体電解質は現在,電池材料や化学センサのキーマテリアルとして注目を集めている。本稿では,固体電解質とは何か,また,その歴史および応用について極めて簡単に紹介する。