著者
石原 一彦 鈴木 七美 松井 清英
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.3, pp.446-451, 1987-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15
被引用文献数
22

高分子膜を透過させることによりDL-アミノ酸を光学分割することを目的として,側鎖に分子包接能を有するβ-シクロデキストリン残基を導入した高分子を合成し,これから得られる高分子膜のアミノ酸透過性を検討した。フェニルアラニンを透過させた場合,L-体の透過速度がD-体にくらべて大きく,その透過係数比は1.40であった。トリプトファン,ヒスチジンを透過させた場合も同様の傾向となった。また,シクロデキストリン残基のかわりにグルコース残基を有する高分子膜を用いた場合は,アミノ酸の光学異性体間で透過係数に差は認められない。さらにβ-ジグロデキストリンを橋かけした樹脂に対するフェニルアラニンの吸着量は,L-体にくらべてD-体の方が多くなる。これらのことから,シクロデキストリン残基とアミノ酸とが高分子膜中で相互作用し,とくにD-体との相互作用が強いため拡散性が抑制され,透過係数に差が生じたと考えられる。また,DL-アミノ酸を透過物質として光学分割を試みたところ,膜透過とまりL-体が濃縮きれ,フェニルアラニンの場合,その組成比はL/D=61.7/38.3となった。
著者
田中 耕一 戸田 芙三夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.3, pp.456-459, 1987-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
6
被引用文献数
3

シアノヒドリン〔2〕がブルシンと錯体をつくり,一方の光学活性体へ変換されることを見いだした。たとえば,(±)-1-シアノ-2,2-ジメチル-1-フェニル-1-プロパノール〔2a〕をメタノール中ブルシンで処理すると,94%eeの(+)-〔2a〕へ定量的に変換された。同様な方法で,(+)-〔2b〕,(+)-〔2c〕,(-)-〔2d〕,(-)-〔2e〕,(+)-〔2p〕および(-)-〔2u〕も得られた。
著者
南後 守 木村 吉晴 伊原 靖二 黒木 宣彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.3, pp.405-407, 1987-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
11

Stereoselective hydrolysis of amino acid p-nitrophenyl esters was examined for poly (ethylenimine) derivatives with covalently-linked dipeptide containing a histidyl residue in the presence of copper(II) ions. Added copper(II) ions influenced both the rate constant and the ratio of stereoselectivity in the hydrolysis of the chiral esters by poly(ethylenimine)derivatives (Ia and Ib) depending on the nature of the esters and the modified polymers. Added copper(II) ions caused to increase the rate of the reaction, but no significant effect on the stereoselective preference for the quaternized polymer (Ib), indicating the action of copper(II) ions in the hydrolysis of the esters as catalyzed by a histidyl residue on the polymer.
著者
近松 啓明 金光 高正 橋本 安弘
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.3, pp.351-357, 1987-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

プロキラル中心をもつ対称ジケトンに含まれる二つのエナンチオトピックなカルボニル基のうち,その一方のみを選択的に還元できれば基質の全量を一つの光学活性体に変えることが理論的に可能である。このような観点に基づいて,微生物の立体選択性を生かして8a-メチル-cis-2,7-デカリンジオン[4]の不斉変換を試みた。Rhodotorula rubra によって[4]は容易に還元され,ジアステレオマーである2種のケトール(生成比4:1)となる。これらはアセタート[6],[8]として分離精製したのち,加水分解して(+)-ケトール[5](収率54%,光学純度88%)と(-)-ケトール[7](収率13%,光学純度93%)を得た。(-)-ケトール[7]は(+)-(1R,3R,6S,8R)-6-メチル-4-ツイスタノン[10]に導くことによって(4aR,7S,8aS)-7β-ヒドロキジ-8aβ-メチル-cis-2-デカロンと決めた。一方,(+)-ケトール[5]は,そのヒドロキシル基の反転反応によって(+)-[7]を与えるので(4aS,7S,8aR)-7α-ヒドキシ-8aβ-メチル-cis-2-デカロンである。ロよって,R.rubraによる[4]の還元では基質中の二つのエナンチオトピックなカルボニル基のうちpro-S側が優先的に還元されることがわかる。また,ケトン[10]のWolff-Kishner還元により(+)-1-メチルツイスタン[11]が得られた。かご型炭化水素[11]の光学活性体が[4]から簡単な経路によって合成できることを示した。
著者
鈴木 洸次郎 谷相 美智 毛利 智代 藤山 亮治 清岡 俊一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.2, pp.257-259, 1987-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
9
被引用文献数
2

exo-3-Formy1-3-methylcamphor was synthesized by a following route, for the purpose of asymmetric alkylation of glycine.Methyl 3-methyl-3-camphorca rboxylates [4] were obtained by the methylation of methyl 3-camphorcarboxylate [3] with sodium hydride and methyl iodide in good yield. The products were separated into two parts by treating with ligroine, i. e. a crystalline part [4a](mp 88-48.5°C) and an oily one [4b]. It was found that the structure of [4a] was determined as exo-3-carboxylate and that of [4b] was as endo-one by the analyses of their NMR data. The reduction of [4a] with LiAlH4 gave diol[5] And exo-3-formy1-3-methylcampho r was obtained as a slightly unstable liquid (bp 123°C/13 mmHg, [α]D20 162.5°) by the oxida-tion of [5] with Collins' reagent.
著者
高木 謙 山田 道男 大杉 政克 根来 健二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.2, pp.260-262, 1987-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1

Oxy-Cope rearrangement of 4-vinyl-1, .6-heptadien-4-ol [1] at 330°C gave 1, 8-nonadien-4one [4] along with 2, 8-nonadien-4-one [5]. The ketone [4] was converted to the title compound [2] as a mixture of (E)- and (Z)-isomers, by the treatment with LDA and, trimethylsilyl chloride. Alternatively the nonatriene [2] was prepared selectively by the anionic oxy-Cope rearrangement of [1] followed by quenching with trimethylsilyl chloride. Intramolecular Diels-Alder reaction of [2] afforded only cis-3 a-trimethylsiloxy-2, 3, 3 a, 6, 7, 7 a-hexahydro-1 H-indene [3], irrespective of the stereochemistry of [2].
著者
篠田 喜一 佐藤 正喜 輿石 義雄 長根 尉 中尾 正明 西村 寧 小出 桂三 越川 昭三 山根 至二 日高 三郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.2, pp.215-223, 1987-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
45

尿毒症の原因について,化学物質の面から探求する目的で,腎不全患者血漿中の特異成分の解明を試みた。すでに報告したように,薯者らは水系高速液体クロマトグラフィーにより,腎不全患者血漿中に特異的に検出されるピーク(ピーク2a)を見いだし,これが,尿毒症毒素を含む可能性のあることを示した。本報では2a画分について,紫外吸収成分をさらに分離し,その構成成分の同定に供した。その結果,表1に示した10成分を解明するとともに,これらの尿毒症毒素としての可能性について考察した。2-デオキシ-2,3-デヒドロ-N-アセチルノイラミン酸,N2-フェニルアセチルグルタミン,キノリン酸はヒトの代謝産物であり,その生物学的活性から,尿毒症毒素としての可能性が示唆された。そのほか,4-[[(カルボキシメチル)アミノ]カルポニル]フェニルβ-グルコピラノシドウロン酸は,そのオルト異性体が尿毒症毒素としての可能性が指摘されており,注目すべき物質と考えられた。
著者
巣出 隆之 狩谷 幹夫 諏訪 和男 市川 英一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.1, pp.56-59, 1987-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
5
被引用文献数
1

N-シリルアミンはN-シアノアミノ化合物に特異的に付加する。反応は比較的低温で円滑に進行することから,他の活性な官能基を有するN-シアノアミノ化合物を対応するグアニジン化合物に誘導するのに有用である。しかしながら,酸性の弱いN-シアノアミノ化合物や塩基性の弱いN-シリルアミンでは反応しにくい。本研究では,この反応におよぼす溶媒の影響およびアミン塩の効果を検討した結果,溶媒としては酸素や窒素原子を含まないものが好適であることを認めた。たとえばN-ブチル-N'-シアノ-S-メチルイソチオ尿素[2a]とN-(トリメチルシリル)ジエチルアミン[1a]との反応では,ジクロロメタン中で対応するグアニジン体[3a]が73%収得されたのに対し,同じ条件下でもジオキサンやアセトン,アセトニトリル中では42~49%にすぎなかった。またアミン塩,とくにピリジン硝酸塩がこの反応をいちじるしく促進することを見いだした。すなわち,ピリジン硝酸塩が存在しない場合,まったくあるいはほとんど反応しなかった[2a]とN-(トリメチルシリル)イソプロピルアミン[1b]あるいは[2b]とN-(トリメチルシリル)アニリン[1c],N,N-ジメチル-N'-シアノ-S-メチルイソチオ尿素[2c]と[1b],シアノイミノジチオ炭酸ジメチル[4]と[1a]との反応も等モルのピリジン硝酸塩の存在下に進行して,それぞれ対応するグアニジン体を生成した。
著者
巣山 隆之 奥野 敏 狩谷 幹夫 市川 英一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.1, pp.51-55, 1987-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
2

N-シリルアミンが穏和な条件下でN-セアノアミノ化合物に特異的に付加して,対応するグアニジン誘導体を生成することを見いだした。N-(トリメチルシリル)ジエチルアミン[3b]は(エトキシカルボニル)シアナミド(ECC)やN-シアノ尿素[8],シアナミド[10a]と発熱してすみやかに反応した。[3b]はまた,N-フェニル-N'シアノ-S-メチルイソチオ尿素[4a],およびN-ブチル-N'シアノ-S-メチルイソチオ尿素[4b],,N-シアノグアニジン[6a]とも室温で反応した。N-(トリメチルシリル)イソプロピルアミン[3a]は[4a]と60℃ で定量的に反応したが,[4b]との反応では同じ条件下で,グアニジン体の収率はわずかに9%であった。N-(トリメチルシリル)アニリン[3c]は反応性が悪く,[4a]とは反応しなかった。また,[(メチルチオ)カルボニル]シアナミド(MCC)あるいはECCとの反応では対応するグアニジン体のMCCあるいはECCの塩が単離された。以上の結果,N-シアノアミノ化合物としては酸性の強いものほど,またN-シリルアミンとしては塩'基性の強いものほど反応しやすいことがわかった。なお,Nに水素原子をもたないN-シアノアミノ化合物はN-シリルアミンとまったく反応しなかった。
著者
北原 滝男 高野 二郎 白井 孝三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.1, pp.122-124, 1987-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1

The reaction of acridine hydrochloride with aniline in the presence of lead(IV) oxide, peroxides of alkaline earth metals, metal chloride or mercury(II) sulfate as an oxidizing agent was examined. It was disclosed that metal chlorides (such as silver chloride and mercury(II)chloride) were effective to give 9-(4-aminophenyl)acridine in high yields.
著者
鈴木 洸次郎 平見 泰通 谷相 美智 毛利 智代 合田 智英 藤山 亮治 清岡 俊一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.2, pp.186-190, 1987-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

3-ホルミルショウノウは,グリシンエチルエステルと反応させると,エノール化するためSchiff塩基をつくらず,3-[N-(エトキシカルボニルメチル)アミノメチレン]ショウノウを生成した。これをリチウム=ジイソプロピルアミド(以下LDA略記する)存在下に,ヨウ化メチルおよび塩化ベンジルと反応させると,低い不斉収率でL-Ala(9.2%e.e.)およびL-Phe(4.3%e.e。)が得られた。N-メチルグリシンエズテルに代えると,不斉収率が高くなり,しかもD-アミノ酸が得られた。すなわちD-(NCH3)Ala(43.3%e.e.),D-(N-CH3)Phe(26.5%e.e.)。N-ベンジル化合物のアルキル化でもD-形が生成した。N-置換基がアルキル化にさいし強い影響をおよぼすことを考慮し,またホルミル基のエノール化を防ぐために,exo-3-ホルミル-3-メチルショウノウを合成した。これを用いてグリシンエステルとSchiff塩基をつくりアルキル化した。結果は予想どおり,収率,不斉収率ともに向上した。つぎにおもなものを示す。L-Ala(70.2%e.e.),D-Phe(84.7%e.e.),L-Leu(71.6%e.e.)。
著者
中沢 利勝 柴崎 正己 板橋 国夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.1, pp.45-50, 1987-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10
被引用文献数
3

2-ナフタレンチオール(2-NT)とアクリルアルデヒド(AAa)の付加反応により得られる3-(2-ナフチルチオ)プロピオンアルデヒド[1a]をプロトン酸の存在下で反応させると,ホルミル基による閉環によって2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[2,1-b]チオピラン-1-オール[2a],3H-ナフト[2,1-b]チオピラン[3a],2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[2,1-b]チオピラン[4a]などのナフトチオピラン類が生成した。この反応でプロトン酸の種類および反応条件を選択することによって[2a],[3a]および[4a]を,それぞれ主生成物として選択的に得ることができた。一方,チオール類,チオ酢酸,アセトニトリルあるいは2-ナフトールなどの求核剤の存在下で[1a]の反応を行なうと,求核剤のホルミル基への付加につづいて閉環反応が容易に進行し[2a]のヒドロキシル基が求核剤で置換された生成物が,それぞれ高奴率で得られた。また,[1a],3-(2-ナフチルチオ)ブチルナルデピド[1b],2-メチル-3-(2-ナフチルチオ)プロピオンアルデヒド[1c]の50%硫酸による閉環反応では[2a~c]が得られ,[1a~c]の2-NT存在下での閉環反応では1-(2-ナフチルチオ)-2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[2,1-b]チオピラン類[6a~c]を得た。
著者
卯西 昭信 北浜 亨 下村 与治
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.1, pp.40-44, 1987-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
8
被引用文献数
6

2-アリール-4-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-6-クロロ-1,3,5-トリアジンにアリールアミンを110℃で反応させるとメラミン誘導体である2,4-ジアリール-6-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-1,3,5-トリアジンが生成した。しかし,2-アリール-4-クロロ-6-(2-クロロエチルアミノ)-1,3,5-トリアジンにアリールアミンを同様に反応させてもメラミン誘導体は生成せず,2,4-ジアミノ-6,7-ジヒドロイミダゾ[1,2-α][1,3,5]トリアジン誘導体が得られた。生成したこの縮合複素環化合物の構造をIR,1H-NMR,13CNMRおよび元素分析により決定した。
著者
毛海 敬 宇野 理枝子 白崎 力 斎藤 隆平 森田 俊夫 北嶋 英彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.1, pp.35-39, 1987-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
21
被引用文献数
2

2,8-ジメトキシジベンゾフラン(DMD)および2,8-ジエチルジベンゾフラン(DED)のアシル化とニトロ化の異盤体分布を求めた。DMD,DEDのHMO計算に基づく求電子反応性順は3->1->4-であった。DMDのアセチル化,ベンゾイル化,ニトロ化およびDEDのベンゾイル化,ニトロ化は1-および3-置換体を与え,その比は反応条件により0.05~O.85の範囲で変化した。DEDのアセチル化は3-および4-置換体を与え,その位置反応性順はHMO計算による予測と異なった。この違いについて.攻撃種とDEDの置換甚および9-位水素の立体効果によって考察した。
著者
脊山 洋右
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1690-1699, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
32

質量分析計は物質の構造解析を目的として発展してきた。ガスクロマトグラフと組み合わせたGC/MSは混合物にも適用できるので生体試料中の微量成分の分析にも向いている。さらに特定質量数のイオンだけを選択的にモニターするマスフラグメントグラフィーという手法を用いると定量分析も可能になる。モルモットのハーダー腺の脂質は50種類にもおよぶ脂肪酸を含んでいて,しかも分枝構造があるので分析にはGC/MSが威力を発揮する。その結果,この腺の分泌脂質である1-O-アルキル-2,3-O-ジアシルグリセロールの構造を明らかにすることができ,かつ分枝脂肪酸が多量に存在することがわかった。マスフラグメントグラフィーを応用し新しい脂肪酸合成酵素活性の測定法を開発してこの腺の酵素を分析したところ,ほかの臓器の酵素と違って分枝脂肪酸を容易に生成できること,生成脂肪酸種は基質レベルで調節されていることなどが明らかになった。これらの分析法は血清中のコレスタノールや胆汁酸の定量にも応用でき,CTXという先天性脂質代謝異常症の診断にも役だっている。本稿は脂肪酸の構造解析とその代謝を例にGC/MSの医学への応用にも言及しようとするものである。
著者
大橋 陽子 永井 克孝
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1683-1689, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
31

細胞膜に存在する糖脂質は生物の発生・分化・情報伝達・神経や免疫機能・病態変化において主体的な役割を担う重要な膜分子である。また,糖鎖,脂肪酸,長鎖塩基という物性の異なる三部分が分子の中に局在化して共存する構造は,機能との関連において興味深い。つねに微量混合物として存在するそれら糖脂質分子種の分析にはFABMSISIMSなどの二次イオン質量分析法が有用であるが,これまでは通常試料を分解,誘導体化して糖鎖の一次構造と,セラミド全体としての質量数を得ていた。今回著者らは中性マトリックスを用いた(+)FABMSISIMSスペクトル上,長鎖塩基は+CH2C(NH2)=CHR型イオン(Z+フラグメントイオンと仮称する)としてその質量数を独立に呈示していることを見いだした。確認にはBIE一定およびB2/E一定リンク走査法を用いた。この方法は糖鎖,脂肪酸部分とは無関係にスフィンゴ糖脂質やスフィンゴホスホノ脂質の長鎖塩基の質量数のみを示すので,生体由来の混合物試料でもセラミド内部の長鎖塩基と脂肪酸の質量数を特定することができる。