著者
中津 美智代 押川 渡 篠原 正
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo‐to‐Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.212-219, 2019
被引用文献数
1

<p>カーボンをカソード電極としたFeCセンサを試作し,屋外環境および恒温恒湿環境におけるセンサ出力挙動について調査をおこなった.屋外試験にて,FeCセンサは,FeAgセンサとほぼ同等出力を示すが,暴露開始数日間と降雨期間に出力低下となる.FeCセンサは,その<i>I</i>-<i>RH</i>曲線が海塩付着量および湿度増加に伴い電流増加を示すことから,FeAgセンサと同様に腐食センサとして機能する.FeAgセンサに対するFeCセンサの出力は,W<sub>s</sub>=10 g/m<sup>2</sup>,RH>70%で0.2倍に低下,同W<sub>s</sub>のRH<60%で0.5~2倍の同等,また,W<sub>s</sub>=0.01~1 g/m<sup>2</sup>の全湿度域で0.5~2倍の同等,W<sub>s</sub>=0.001 g/m<sup>2</sup>では全湿度域で検出限界以下である.人工海水中,FeCセンサの<i>E</i><sub>corr</sub>は,FeAgセンサと同程度の-0.65 Vであるが,<i>I</i><sub>gal</sub>は90μAと,FeAgセンサ<i>I</i><sub>gal</sub>の1/3以下に低下する.C電極は,Ag電極に比べてカソード電流低下,また,EIS解析から,<i>R</i><sub>ct</sub>増加と<i>C</i><sub>dl</sub>低下が確認される.C電極/液界面における溶存酸素の還元反応において電子授受等に反応抵抗があるものと考えられる.</p>
著者
南谷 林太郎
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.14-19, 2015-01-15 (Released:2015-06-17)
参考文献数
20
被引用文献数
2 4

H2S-NO2-SO2-Cl2環境での銀に対して,新しい大気腐食メカニズムを提案した.銀の大気腐食は,環境中の硫化水素H2Sが二酸化窒素NO2により酸化され生じた還元性硫黄S8による化学反応,この反応で余剰したH2S,NO2が溶解した銀表面の水膜中での電気化学反応により進行する.大気腐食メカニズムに基づき,温湿度,汚染ガスとしてH2S,NO2,Cl2をパラメータに,銀の腐食速度式を提案した.この速度式を公開されている銀の腐食データ110件に適用して,腐食ガス試験環境,実暴露試験環境における銀の大気腐食速度は2倍以内の誤差で推定された.
著者
鈴木 茂
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.66-69, 2008-02-15 (Released:2008-08-12)
参考文献数
27
被引用文献数
4 4

鉄さびの形成機構に関する最近の研究について概説した.グリーンラスト(GR)は鉄基合金の中間的な腐食生成物として時々観察されるが,それらは空気酸化によりゲーサイトやレピドクロサイトなどのオキシ水酸化鉄に変態しやすい.これは,GR が二価の鉄イオンを含んでおり,水溶液中で三価の鉄イオンに変化するためである.ここでは,これらの GR の構造や変態の特徴について述べた.
著者
元田 慎一
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.150-155, 2018-04-15 (Released:2018-09-27)
参考文献数
28

本稿ではACMセンサの出力原理と基本的特性,および再現性に優れる作製プロセスを解説した.これによりACMによる大気腐食モニタリングを理解する一助としたい.
著者
善 一章
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
材料と環境 : zairyo-to-kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.448-451, 2010-12-15
参考文献数
7
被引用文献数
4

キャッシュフローは,案評価をするための基礎を形成するので工学経済において重要である.現在価値法は,全ての将来キャッシュフローを現在のドルに変換するので一般的であり,他の案と比べて優れる1案の経済的有利な点を容易に決定する.現在価値は,PW=FW(1+r)<sup>-N</sup>式から求められる;ここで,PW:現在価値,FW:将来価値,r:減価率,N:複利期間.係数 (1+r)<sup>-N</sup>は現在価値係数として知られる.もし減価率がr%でPW,FW,AWに対して一定ならば,3者は等価である.従って,プロジェクトのAW値とFW値は等価のPW値から容易に求められる.<br>本報では,異なる減価係数における現在価値係数の経時変化,PW値からFW値とAW値の等価計算例,PW法の港湾構造物への適用例を示す.
著者
京 将司 中森 正治 石橋 修 黒川 一哉
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo‐to‐Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.401-409, 2014

火力発電用ボイラにおいては,長期安定運転が求められている.<br>近年,微粉炭燃焼ボイラにおいて,溝状腐食による伝熱管の減肉が顕在化している.溝状腐食は,バーナーゾーンやその近傍,熱負荷の高い部位に発生し,その発生原因は,H<sub>2</sub>,H<sub>2</sub>Sが混在する低O<sub>2</sub>雰囲気下で火炉側管表面に生じる繰り返し熱応力(スラグの付着脱落による局部的な管表面温度変化,デスラッガ作動中や運転中の管表面温度変化など)に起因する腐食生成物層のき裂発生等が原因であると考えられる.その対応策として,ボイラ伝熱管表面への溶射は有効である.本報では,Cr<sub>3</sub>C<sub>2</sub>-NiCr溶射皮膜を高速フレーム溶射(HVOF)と大気プラズマ溶射(APS)によって作製した.溶射皮膜の特性は,密着力,高温硬さ,摺動摩耗試験,高温エロージョン試験および高温腐食試験などによって評価した.評価結果を基に,実験室で石炭燃焼ボイラに適用するための溶射皮膜における評価方法を提案した.
著者
京 将司 中森 正治 黒川 一哉 成田 敏夫
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
材料と環境 : zairyo-to-kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.456-463, 2010-12-15
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

近年,大容量化する微粉炭燃焼ボイラにおいては,より一層の環境対策が求められ,NOx発生量を抑制する設備対策ならびに運用面での低酸素燃焼運転がなされている.その結果,燃焼室では,酸素不足による強い還元性雰囲気となり,H<sub>2</sub>Sによる高温硫化腐食が顕在化している.それに加え,スラグの除去を目的とするデスラッガからの蒸気噴射の影響により摩耗損傷を与え,それらが複合的に作用して損傷が加速する事象が認められた.調査したボイラでの損傷挙動は,ボイラ蒸発管の表面に生成した腐食生成物は,酸化物と硫化物の混在した層と溝状腐食が認められた.これらは,ボイラ燃焼過程における燃焼状態の変化で,わずかな酸素および硫黄分圧の変化により酸化物および硫化物が生成する可能性が熱力学的にFe-S-O系平衡状態図より示唆できた.また,ボイラの運転に伴う,繰り返し熱応力とデスラッガ蒸気の間欠噴射によるメタル/蒸気の温度差により,スケール層が局部的に冷却され,圧縮応力によるクラックが生じ,スケール層の剥離ならびにガス通路が形成される.そのため,基材への腐食性ガスの侵入が容易になり,腐食を進行させ,局部的に加速したものと推定した.
著者
押川 渡
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo‐to‐Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.273-279, 2018
被引用文献数
2

<p>大気腐食環境下でのACMセンサの測定例について,事例を挙げて解説した.10分ごとに得られたセンサ出力と湿度データを解析することにより,濡れ時間,海塩付着量が推定でき,降雨時のセンサ出力を補正することで屋外における腐食速度が推定可能となった.</p>
著者
面田 真孝 大鹿 泰造 酒井 潤一 石川 雄一
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.358-365, 2008-08-15 (Released:2009-03-17)
参考文献数
24
被引用文献数
1 3

加硫ゴムから放出される硫黄ガス種による銀の微小硫化腐食に影響を与える腐食要因をQCM法,定電流カソード還元法を用いて調べた.同定できた腐食生成物は,Ag2Sのみであった.また,腐食は時間と共に線形で進行し,腐食速度は温度,ゴムの体積には依存するが,相対湿度には依存しなかった.さらに腐食速度は,ゴムの種類により異なる上,同一のクロロプレンゴム間で比較しても製品により異なることを明らかにした.これらから,加硫ゴムによる銀の腐食挙動は,ゴム中の遊離硫黄を発生源とする硫黄ガスにより決定されるものと考えられる.そして,硫黄ガスのアウトガスはゴム中の遊離硫黄分子Sx(x=2~8)の拡散が支配し,この拡散過程が銀の腐食速度を決定しているものと推察される.
著者
大塚 俊明
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.121-126, 2014-04-15 (Released:2014-11-14)
参考文献数
48
被引用文献数
1 2

最近の金属不働態化ならびに不働態皮膜の研究に関してレビューした.また,最近の分析手法ならびに装置を紹介した.最近20年ではラマン分光法,走査型プローブ顕微鏡(SPM),ならびにX線分光が広く使われるようになってきている.鉄の不動態皮膜に関しては,γ-Fe2O3-Fe3O4の組成が検出されている.以下の点に関して議論された:不動態酸化物皮膜の成長機構ならびに不動態皮膜の脱水和.不動態化ならびに不動態皮膜の研究における将来の課題として,充分に速い応答を持ち,サブnmレベルでのin-situ測定手法の開発が望まれる.
著者
藤橋 健太 奥地 誠 押川 渡 田原 晃 篠原 正 片山 英樹
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo‐to‐Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.216-221, 2018
被引用文献数
1

<p>再生可能エネルギー固定買取制度を背景に,太陽光発電設備は急増した.太陽光発電設備の基礎杭は,浅層土壌中に金属表面が接し,地際部より突出している.本研究では,この環境における腐食の把握を目的に,杭状試験体の暴露試験と暴露試験場土壌の分析を行った.浅層土壌中の腐食量は,土壌中の腐食量として一般的に示される年間0.02 mmの腐食量を上回った.それらの腐食量は各土壌を電解質とした分極抵抗測定結果と良い相関を得た.地際部のマクロセル腐食は,土地造成など人為的な作用により土壌の化学組成が大きく変化することが一因であると考えられる.</p>
著者
中山 元 篠崎 一平 榊原 洋平 押川 渡
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo‐to‐Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.121-126, 2018

<p>Al 溶射鋼を亜熱帯モンスーン環境の琉球大学工学部曝露場で25 年間曝露した結果,空隙率の減少が認められるものの健全性が担保されており,溶射膜厚は必ずしも減少していなかった.さらに,下地の鉄を露出させた部分は鉄さびの上にAl<sub>2</sub>O<sub>3</sub>の被膜が生成していた.したがって,Al 溶射は環境遮断および電気防食の作用で防食されていた.</p>
著者
南雲 道彦
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.42-50, 2006 (Released:2007-06-28)
参考文献数
30
被引用文献数
8 11

材料中の水素の存在状態を解析する手法を概観した. トリチウムオートラジオグラフィ, 水素マイクロプリント法, 走査型二次イオン質量分析法など, いろいろな水素可視化技術の原理と特徴と, 水素昇温分析の解析法について述べた. 実際の適用例を実験技術や理論の限界や不確定さに重点をおきながら紹介した.
著者
山村 俊行
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.483-490, 2014-09-15 (Released:2015-02-28)
参考文献数
6
被引用文献数
3 6

水素エネルギー及び燃料電池技術は,次世代型のエネルギー利用社会を構築するためのキーテクノロジーとして実用化への期待が高く,研究開発が推進されている.その中で,燃料電池自動車は究極のクリーンエネルギー自動車として開発が活発に行われ,水素ステーションは普及のためのインフラとして重要な位置付けを担っている.本報では70 MPa級水素ステーションを主に水素インフラ関連技術の開発状況について紹介する.
著者
平出 信彦 宗野 達久 梶村 治彦
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.348-355, 2009-10-15 (Released:2010-03-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

673~973 Kの大気中において,CrおよびCr2O3とNaClとの反応を調査した.NaClの存在は,Crの質量増加を著しく促進した.Cr2O3とNaClを混合して加熱すると,Na2CrO4とCl2が生成した.CrとNaClを混合して加熱すると,Na2CrO4,Cl2,CrCl2,CrCl3,Cr2O3が生成した.Na2CrO4とCl2は,CrとNaCl,O2との反応によって生成した.CrCl2とCrCl3は,CrとCl2との反応によって生成した.Na2CrO4,CrCl2,CrCl3は,Crの酸化を促進した.
著者
小出 賢一 南 孝男 安樂 敏朗 岩瀬 彰宏 井上 博之
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.523-527, 2014-10-15 (Released:2015-04-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2 6

250℃の高圧水素ガス中でのSUS304鋼の水素脆化感受性を高温・高圧水素ガス中で低ひずみ速度引張試験により調査した.高圧水素ガス中において,準安定オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304鋼は,室温では顕著な脆化を示したが,250℃では室温のSUS316L鋼と同等の軽微な脆化しか示さなかった.水素ガスの導入温度を250℃近傍に維持できれば,圧縮水素ガスを扱う機器や配管の材料として,従来のSUS316L鋼に替えSUS304鋼の使用が可能と考えられる.
著者
馬場 文雄 鈴木 紹夫 瀬尾 眞浩
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.588-594, 1996-10-15 (Released:2009-11-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

Effects of ferrous ions on the shape and activity of sulfate-reducing bacteria (SRB) have been investigated using a phase-difference microscope, hydrogen sulfide gas detector, and measuring the amount of ferrous sulfide in the medium. SRB changed its shape at an interval of several hours as the culturing time increased. At the time of maximum activity of SRB, SRB evolved a significant amount of hydrogen sulfide and changed from rod like shape to comma like shape. After this period, pH of the medium increased above 9.0 and the size of SRB became less with reduced evolution of hydrogen sulfide. Even if some amount of HCl was added to keep pH of the medium at 7.0, the hydrogen sulfide evolution was not recovered. In the medium with high concentration (0.01mol kg-1) of ferrous ions, colloidal substance were present and seemed to provide a comfortable place for SRB to grow, ripen, and split easily. In the medium with low concentration (0.00036mol kg-1) of ferrous ions, the colloidal materials were few and the number of SRB was less than that in the high concentration (0.01mol kg-1) medium. It is concluded that ferrous ions do not only affect directly the metabolism of SRB, but also form the colloidal substance on which SRB can keep alive easily.
著者
山手 利博 蜂谷 實 森田 晃康 三森 友直 遅澤 浩一郎 南雲 一郎
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.436-439, 2010-11-15 (Released:2011-04-19)
参考文献数
3
被引用文献数
1 3

建物の改修工事などにおいて,湿式消火配管・湿式スプリンクラー配管の溶断やグラインダーによる切断の際,切断部から発火する現象が報じられている.発火の原因として,配管内で発生する水素によることが指摘されている.これらの現象について検証するため,(1)ステンレスフレキ管継手と亜鉛めっき鋼管を接続したガルバニック対配管(2)ステンレス鋼板/亜鉛板のガルバニック対を浸漬させた反応容器に,それぞれ水道水を充填して密閉し,室温で長時間静置する再現実験を行った.測定項目として気体発生の確認,発生気体の成分分析,ガルバニック電流の測定,反応容器内の圧力変化の測定,試験水の分析などを行い,それらの結果を理論的に考察した.その結果,酸素のない淡水(水道水)中においても,水素イオンの還元反応をカソ-ド反応,亜鉛の酸化反応をアノード反応とする電気化学反応(腐食反応)によって,水素が発生し得ることが示唆された.本論文ではその概要について報告する.
著者
松川 安樹 宮下 守 朝倉 祝治
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.392-399, 2008-09-15 (Released:2009-03-20)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本研究は,冷却水など建築設備配管として多用されている亜鉛めっき鋼管の腐食挙動を明らかにするために行った.実験では,40℃の水道水,純水,および各種アニオンを含む水溶液に純亜鉛を浸漬し,腐食速度,腐食電位,および腐食状態から,亜鉛の腐食挙動に対する各種アニオンの影響を評価した.実験の結果は,以下の通り要約される.HCO3-は亜鉛の腐食反応を抑制する.これは,亜鉛表面に生成する腐食生成物 (Zn4CO3(OH)6·H2O) がアノード反応を抑制するためである.一方,SO42-, Cl-,およびNO3-は亜鉛の腐食を加速する.水道水に含まれる各種アニオンの濃度範囲 (<1 mmol L-1) における腐食の促進度の順位は,SO42->Cl->NO3-の順である.SO42-とCl-が亜鉛の腐食を加速する要因は,表面に生成した保護皮膜の破壊による.NO3-については,その酸化性がカソード反応を促進することによるものと推測する.純水中の亜鉛の腐食速度は,つくば市水中のそれよりも必ずしも小さくない.これは,つくば水中に含まれる各種塩類により亜鉛表面に保護的な皮膜が形成されることが原因と考える.本報を基に,水道水の腐食性を論じることができる.