著者
鳩山 由紀夫
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.224-242, 1980-09

確率的に故障する機械の取替問題は従来盛んに研究されているが、この論文では、取替時に故障部品の下取りが行なわれ、又交換部品をいくつかの種類の中から選択出来る場合に如何に取替部品の選択を行なうべきかを考察する。具体的には次の問題を考える。あるシステムと、そのシステムに欠くことの出来ない一部品を取り上げる。システムはある有限時間丁動作することを要求される。部品の故障はシステムの故障を導くので、残り時間t(t > 0)で部品が故障した場合、直ちに新都晶と取替えなければならない。ここで部品にはタイプがn種類存在し、どのタイプの部品に取替えるかが問題となる。簡単化の為に、各タイプの部品の故障は指数分布に従うものとする。この仮定は実際の故障分布の第一近似と見傲されよう。取替費用としては、タイプiの部品をjの部品に取替えるときC(i、j)かかるとする。部品の故障時に新部品を購入して取替を行なうが、購入時に故障部品を下取りするケースはしばしば存在する。このような場合、取替費用は新部品の購入費のみでなく、故障部品にも依存する。この設定の下で、期待費用を最小とする取替方式を決定したい。実例としては、車のタイヤやバッテリー等を取替える際の製品の選択とか、ステレオコンポネントのプレーヤー等を交換する際の製品の選択問題などを頭に描くと良いと思われる。一般の取替費用の場合に、いくつか解の性質が得られるが、特に劣モジュラー関数で与えられるとき、以下の性質が導かれる。残りt時間でタイプi(j)の部品が故障したとき、タイプi*(j*)が最適な取替部品であるとすると、i < jならばi* < j*となる。これは最適政策を計算する際に利用される。なお、劣モジュラー関数の仮定は、下取り価格が2部品問の互換性などで表わされる場合にはかなり妥当と思われる。その他、販売戦略等に依り全てのタイプが下取り可能とは限らない場合についても同様な議論がなされる。下取り価格が故障部品のタイプのみによって決定される場合には、最適な取替部品のタイプは故障部品に依存しない。更に、最適取替費用は残り時間tに関して区分的に線形な凹関数となることが示され、実際、陽に最適取替政策及び費用が導かれる。最後に、考察すべき部品が唯一つとは限らないケースを扱う。それらが直列、並列、直並列等につながっている場合、多くは単一部品の問題に帰着されることを示す。
著者
安田 洋祐
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 = [O]perations research as a management science [r]esearch (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.19-24, 2010-01-01
参考文献数
11

電子マネー・ポイントカードの普及や,発行主体の企業戦略を理解するためには,利用者の囲い込み(Lock-In)が鍵となる.この囲い込み現象の分析に欠かせないのが,スイッチングコストという概念,およびゲーム理論の考え方だ.スイッチングコストの経済分析は,この20年ほどで研究が急速に進んだ比較的新しい分野である.本稿では,スイッチングコストの基礎モデルを紹介しながら,電子マネーやポイントカード市場における囲い込み現象について考察する.
著者
多湖 淳
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 = [O]perations research as a management science [r]esearch (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.215-220, 2011-04-01
参考文献数
18

国際政治学における計量分析の活用は我が国ではまだ限定的であるが,海外では非常に盛んである.学術誌を見ても計量手法の存在感は圧倒的である.この背景には,合理的選択論を軸とする戦争原因研究の理論的進展とそれに影響された他分野の理論研究に計量手法が大きな役割を果たしてきたことがある.ここでは国家間武力紛争,武力行使,同盟と有志連合という三つのトピックについて最近の研究を紹介し,それを通じて代表的なデータセット,分析単位,手法を明らかにしていく.
著者
中桐 裕子 栗田 治
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.83-105, 2004-12

本研究では, ある商品やファッション, その他の嗜好が一瞬にして人々の間に広まり, その後短期間のうちに忘れ去られてしまうといった社会的なブームに着目し, この現象をモデル化して解析する.ある特定のブームに参加する顧客の状態を「ブーム前」, 「ブーム」, 「ブーム後」, 「定着」の4つに分割した上で, 状態を変化させる顧客の数が直前の状態にある顧客数に比例すると仮定して線形微分方程式モデルを作成し, ブーム前後の定着顧客数比やブームのピーク時刻など諸特性値を算出した.このモデルは, 我が国における「即席めん消費ブーム」, 「焼酎ブーム」や「サッカーブーム」時の実データを説明するのに有効であると結論付けられ, モデルによってブーム特性の地域差やブームによる定着顧客数の増加について定量的に説明することができた.本研究で提案したモデルは非常に簡便・単純であり, モデル拡張による適用範囲の拡大などが望める.
著者
田口 東
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.433-438, 2008-08-01
被引用文献数
2

東急田園都市線では2007年春より,朝の急行を各駅停車に格下げした.混雑による遅れを緩和する目的である.田園都市線の混雑のハードさは"鉄"にはよく知られており,某メーカが,電車内でPC液晶が破損した原因を調べたところ,想定をけるかに上回る圧力が測定され,設計を変更したという話もある.社会環境を考えると,線路の増設などのハードウェアではなく,電車の利用方法というソフトな解決策を考えるのは合理的であろう.そのためには,電車の運行を詳細に既述できるモデルが重要である.本文では,時空間ネットワークと応用例を紹介し,乗り換え案内だけではない,計画の分野への応用の可能性を述べる.
著者
中桐 裕子 栗田 治
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.44-63, 2002-03
参考文献数
10

本研究は,従来のモデルでは追従しきれない成長現象を記述するモデルとして,階層構造を有する成長現象の微分方程式モデルを取り上げ,考察を加えるものである.ある種の成長現象は,η種の性質を順番に取得するといった「階層的な」構造を持っている.そこで本研究では,ある段階の性質を身に付ける個体数の成長速度が,その段階および直前の段階の性質を入手している個体数に依存するという仮定を設けて,『段階的成長微分方程式モデル』を作成した.同様の仮定から,宅地化を経て市街化面積が広がる様子を上手く記述するモデル等が提案されているが,本研究では,従来の研究にはなかった多段階成長の連立微分方程式に着目して,これに一般解を与える.モデルの適用例としては,特にゲーム機の売上データを取り上げた.ハード購入希望者→ハード購入者→ソフト購入者といった階層的な構造を定式化したモデルを実データに当てはめた結果,発売直後のハード売上を再現するには,段階的成長モデルが有効であることが確認できた.更にこのモデルを応用して,値下げキャンペーンによる売上増を記述できる簡便なモデルを作成することに成功した.過去の分析例や今回の研究成果より,ゲーム機売上の記述に留まらず,他の社会現象の中にも,このモデルによる記述が有効な局面も存在するのではないかと考えられる.
著者
片岡 達 茨木 俊秀
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.71-93, 2008-12
参考文献数
10
被引用文献数
3 1

大学の卒業研究などで,学生をどの研究室に配属させるかを決定する問題が生じる.学生や研究室にはそれぞれ配属関係を構築したいと考える相手がいるが,様々な理由により研究室の配属人数は限られるため,全員の第1希望が実現するとは限らない.本論文では,学生と研究室双方の希望を考慮し,合理的に配属先を決定する方法について論じる.本方式では,まず学生側の希望を反映させた研究室の定員を定めた上で,学生と研究室の双方の希望を考慮した合理的な配属を実現させる.具体的には,安定結婚問題の概念を一般化させ,本問題に適した配属の安定性を定義し,明示された半順序と暗黙の全順序という2つの概念を定めた上で,合理的配属を得る手法を提案する.さらに,この手法の計算量の解析および計算実験による確認を行う.
著者
田村 直樹
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.723-728, 2006-12-01
被引用文献数
4

本稿では,インターネットが広く一般家庭に浸透するようになった1990年代半ばから現在までの間,いかに消費者を自サイトヘ「誘導」していくかの取組みを中心に述べていくことで,インターネットマーケティングの進化の過程を俯瞰したいと考えている.
著者
廣津 信義 仲村 明 金子 今朝秋
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.5-10, 2012-01-01
参考文献数
8

箱根駅伝予選会では,出場校は出走選手12名中上位10名の合計タイムを競い,上位9校(ないしは10校)が予選通過となる.本稿では,各選手のタイムが独立な正規分布に従うという前提の下で,各校のレースタイムの確率分布,予選通過タイムの確率分布ならびに各校の予選通過確率を求めるための計算方法を提案する.数値例として,第88回箱根駅伝予選会のデータを基に,選手のタイムの標準偏差を設定したときの,予選通過タイムや各校の予選通過確率の計算結果を示すとともに,選手個々が予選通過に与える影響についても言及する.
著者
品野 勇治
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.247-253, 2014-05

最適化研究におけるアプリケーション駆動研究サイクルを紹介する.アプリケーション駆動研究サイクルは,学術機関での研究と企業における研究成果の利用とのつながりを良くする点では優れている.一方で,ソフトウェア開発・維持に多大な労力を要するため,日本の大学や研究機関における実施には困難さが伴う.ZIBにおいてアプリケーション駆動研究サイクルが,比較的うまく機能している背景を説明する.また,日本においてアプリケーション駆動研究サイクルを活性化するための第一歩として,論文投稿時に,論文中の数値実験に利用した全データ提出の義務化を提案したい.
著者
湯田 聴夫
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 = [O]perations research as a management science [r]esearch (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.529-535, 2008-09-01
参考文献数
19
被引用文献数
1

ネットワーク構造からリンクが密な部分集合を抽出することを,複雑ネットワーク科学ではコミュニティ抽出と呼ぶ.密につながる集団は,同じ属性や傾向をもつ集団であることが多いため有用な情報となる.古くはグラフ理論や数理社会学から近年のWebサイエンスまで幅広くコミュニティ抽出手法として全体を俯瞰し,近年提案された高速なニューマン法とその派生法を概説する.オンライン上には既に数千万から億の単位でユーザがつながっており,集団間の情報流や効果的なマーケティング法の研究などORにおいてもコミュニティ抽出法は有効と考え,その可能性を解説し,今後を展望したい.