著者
村上 昌弘 岡田 茂
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

原核生物である藍藻類は、酸素発生型の光合成以外に鉄酵素nitrogenaseを用いて窒素固定も行うため、過剰の鉄が必要とされる。藍藻類はシデロフォアによる鉄獲得機構を備えるとの報告が過去に数例あるが、藍藻種間のシデロフォア産生能に関しても統一的な報告はない。これらの観点から藍藻類のシデロフォア産生能の評価およびその化学的性状に関する研究を行い、以下の知見を得た。1.藍藻類のシデロフォア産生能のスクリーニングを行い以下の結果を得た。ブルーム形成の代表種であるMicrocystis aeruginosa、Oscillatoria agardhiiは活性を全く示さなかった。一方、窒素固定能力をもつヘテロシスト形成糸状性藍藻は強力なシデロフォア産生活性を示した。また嫌気的条件下のみで窒素固定を行うとされるPlectonema boryanum等のヘテロシスト不形成糸状性藍藻の一部も活性を示した。2.窒素固定種の代表種であるAnabaena cylindrica NIES-19からシデロフォアanachelin-2およびanachelinを単離・構造決定した。3.A.variabilis M-204およびヘテロシスト不形成変異株であるNIES-23の両株のシデロフォアは、クエン酸を中心に左右対称な構造を持つヒドロキサム酸系の既知シデロフォアschizokinenであることが判明した。3.ヘテロシスト不形成糸状性藍藻の1種であるO.tnuise UTEX1566からhydroxypyridinone構造を有する新規シデロフォアoscillabactinを単離・構造決定した。以上、本研究において、ほとんど未開拓であった藍藻シデロフォアの構造解析の結果、藍藻類は極めて新規かつ複雑な構造を有するシデロフォアを産生していることが明らかにされた。
著者
村上 昌弘
出版者
共立女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

【目的】岩海苔(Porphyra pseudolynearis)は独特な香りと風味を有し、海苔類の中でも高級なものとされている。乾岩海苔を焙焼後、温水に浸漬すると海苔の旨味成分である5'-IMPが急激に増加し、旨味が増すことが知られており、これにはアデニリックデアミナーゼ(ADase)の関与が示唆されている。また、高温処理によっても乾岩海苔中のADase活性は消失せず、酵素学的にも興味深い。本研究では、ADaseの安定化機構の解明を最終目的とし、ADaseの単離・精製法、さらに酵素の大量抽出法について検討を加えた。【方法】試料の乾岩海苔は、西伊豆土肥産のものを使用した。トリス酢酸緩衝液で抽出した酵素液にADase活性が認められたので、以下の方法により精製を試みた,すなわち試料に、リン酸カリウム緩衝液を加えてホモジナイズし、遠心分離した。透析・脱塩後、弱陰イオン交換体であるCellulose phosphate樹脂で処理し、0.45M〜1.0M KClを含む緩衝液によるリニアグラジエント法により分画した。次に、5'-AMP agaroseによるアフィニティークロマトグラフイー、続いてButyl Toyopear1650Sによる疎水クロマトグラフィーを行った。【結果】Cellulose phosphateカラムクロマトグラフイーの結果、ADase活性はKCl濃度0.5M付近に回活性画分を限外濃縮し5'-AMP agaroseを用いるアフィニティーカラムクロマトグラフィーに付したとKCl濃度0.2M付近に回収された。さらに硫安濃度1.5M〜0MまでのButyl Toyopear1650Sを用いる疎グラフィーに付した結果、硫安濃度1.3M付近に活性があり、5'-AMPを基質とした酵素反応試験の結果にADase活性が認められた。ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、銀染色をした結果、薄い複数のバされたが、その中でも濃かった6万付近のバンドがADaseであると推測された。
著者
水之江 郁子
出版者
共立女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

カトリック国アイルランドでは、学校教育にも教会が様々に関与し、強い影響を及ぼしてきた。20世紀初頭のイギリスに対する抵抗を経て、勝ち得た共和国においても、女性の生き方に制約や抑圧を加える面が大きかった。しかし、一方でイギリスに比べても早い時期に男性と対等な高等教育を受け、混乱期に立ち上がり、強く戦った女性たちも少なくない。その中の著名な1人の一族で、日本では閉鎖的な印象を与えてきた女子修道会運営の中等教育の場に入って、社会正義と公正さを大切に、闊達な生き方で周囲を魅了したシスターシーヒーの女子教育への貢献などを理解し、本来修道会が目指す外部社会に対しても開かれた考え方を認識させられた。
著者
木戸 雅子 木戸 修
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

①アテネ高等美術学校彫刻科の教授3名とアテネ工科大学建築科1名の彫刻家を対象に、それぞれの制作活動とその作品研究及び教育理念についての考えを調査することができた。それぞれの個人アトリエでの調査を通じて相互理解が深まり今後相互協力の基盤を作ることができた。②2004年のアテネオリンピックを機に建設整備されたアテネの地下鉄のアート・ワーク調査によって、現代ギリシャ作家にとってギリシャの過去の記憶こそ創造の源であるということを明らかにすることができた。それは古代風というような伝統的形態の借用ではなく、彼らの造形の本質が過去の記憶の中から抽出されているということである。
著者
木戸 雅子 鈴木 杜幾子 大原 まゆみ
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

従来日本のみならず、西欧でもほとんど研究対象とされてこなかった独立戦争以後のギリシャの近代絵画を、ヨーロッパとギリシャ側からの視点で検証した。ギリシャ近代絵画の創生期には、主としてドイツ(バイエルン)の画家(P.フォン・ヘス等)の描いた独立戦争をテーマにした絵画が、ギリシャ人画家の手本となり主題や表現様式などにおいて、その後の近代ギリシャ絵画の方向づけに影響を与えたというその過程を追うことができた。
著者
奥 彩子
出版者
共立女子大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

2011年度におこなってきた東欧地域研究の研究会の成果として、論集『東欧地域研究の現在』を出版するにいたった。本論集には、狭義の東欧(ドイツ語圏と旧ソ連圏をのぞいた、ヨーロッパの旧共産圏の国々)のすべての国についての論考が収められているという、東欧研究のなかでも類例のない規模の論集となっている。申請者はこの論集に編者の一人として参加し、さらに、自らも東欧の女性作家についての論考を執筆している。また、亡命の諸相に関しては、ダヴィド・アルバハリ、ウグレシッチ、アレクサンドル・ヘモンらを論じた論文「記憶の変奏-ユーゴスラヴィア解体と文学的ディアスポラ」(『ユーラシア世界2ディアスポラ論』東京大学出版会、2012.7)を発表した。
著者
青木 英明 久保田 尚 中村 文彦 大森 宣暁 高見 淳史 望月 真一 諏訪 嵩人 森井 広樹 森 和也
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

3年の研究活動では、海外事業者から情報が得られ、英国ロンドンBarclays Cycle Hire計画担当者の講演会、フランス、ラロッシェル市副市長の講演会も主宰した。そして海外のバイシクルシェアリングの大規模なものが本格的な第三世代へ至ったことを理解した。国内ではシクロシティ富山の事業で得られたデータを解析することにより、東京大学、横浜国立大学研究室のスタッフがサービスの供給需要に関する定量的な検討を行い、利用実態の把握ができた。
著者
木内 幹 田中 直義 村橋 鮎美 三星 沙織
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

醗酵食品の嗜好性に対する食文化の一端を明らかにすることを目的として、東南アジア各地で大豆醗酵食品の製造・利用方法を調査し、試料中の風味物質を分析した。食品中に存在する細菌のフロラを解析して、それらの風味物質が生産される過程を推測し、応用の可能性を検討した。調査地は、カンボジア東北部(平成18年2月)、ミャンマー・シャン州東北部(18年10月)、ラオス北部(19年10月)であった。カンボジアには「シエン」と称される大豆醗酵食品が製造・利用されている。シエンは醗酵させた大豆を高濃度の食塩水に入れて1週間以上熟成させる方法で製造される調味料である。これまでの文献にシエンの報告は認められない。ミャンマーには「ペーポ」と、ラオスには「トゥアナオ」と称される大豆醗酵食品が製造されている。いずれも醗酵させた大豆に食塩とトウガラシを主成分とする調味料を添加し、熟成させることで製造されている。調査と分析により、カンボジアとラオスとの間に製造、利用方法に大きな差異のあることが明らかになった。今後は、この地域を詳細に調査したい。ペーポから分離された細菌を用いて新規糸引き納豆の開発を行った。採集した試料29点から同定によりBacillus subtilisを得て、そのうちの42株を蒸煮大豆に生育したコロニーの糸引きから納豆菌として選別した。分離菌の生育最適温度は33℃〜45℃まで広範囲であった。納豆製造試験で10株を選別した。それらの菌株を用いてわが国の納豆は異なる軟らかい納豆などを作ることができた。カンボジアのシエンから134株を分離してスクリーニングを行い、さらに納豆の製造試験を行って10株を選抜した。Bergey's Manual of Systematic Bacteriology第2巻に準拠した同定の結果、白色を呈しコロニー表面がしわ状で、好気性有胞子桿菌であり、それらはいずれもBacillus subtilisであった。
著者
上田 一夫 三野 たまき 河村 まち子 間壁 治子
出版者
共立女子大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

従来より、衣服の着心地の定量化が望まれていた。我々は、本研究の中で新しい衣服圧計測システム(液圧平衡法)を確立した。このシステムで計測した衣服圧は着心地感とよく対応することがわかった。そこで、この衣服圧と皮下脂肪、体表の粘弾性、官能評価との関連を調べた。超音波診断装置を用いて腹部の皮下脂肪の厚さを調べたところ、ウエストベルトを装着すると、ベルト下では皮下脂肪の厚さが減り、ベルトの上下の体部位では厚くなった。これらの結果から、ベルト圧に皮下脂肪の厚さが寄与する割合を求めると、約30%であった。一方ベルト圧に体表の応力が寄与する割合は約65%であった。履き心地の良い紳士の靴下圧は、口ゴム部で10mmHg、足首では5〜10mmHgであった。好まれる成人婦人用ハイソックス圧は、静立時の下腿において5〜10mmHgであった。同一衣服素材を用いて作製したウエストベルトとウエストニッパーを着用した場合、ウエストライン上に発生した圧は、前者より後者を装着した時の方が高かった。浴衣を着た時、おじぎに伴う着くずれは、主として胸元、帯の上端、おはしょりの下端および右脇線上の4部位に生じた。静立位で1部位当たり20mmHg以上の圧が生じるように腰紐を結んだ場合、圧値が高くなる程ずれ量が増した。おじぎに伴うおはしょりのずれ量と圧の変化率の間には、ベキ法則が成り立つことが分かった。浴衣を着慣れる(50回着用する)と、腹部に発生する浴衣圧の値は、どの被験者でも着用回数の増加に伴って、7mmHg/部位に収束した。衣服による圧迫がいかに自律神経系の機能に影響を与えるかを考察した。例えば、種々の強度の上腕圧迫の影響を手掌の皮膚温応答を指標として調べたところ、むしろ弱い圧迫刺激(8mmHg程度)によって皮膚温が顕著に下降することが分かった。
著者
中沢 文子 高橋 淳子 盛田 明子
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.第一大臼歯が欠損している被験者に圧力素子を埋めた義歯を装着して、被験者を束縛することなく自然な状態で種々のテクスチャーの食物の咀嚼し,その過程を計測した.食物を摂取してから飲み込むまでの咀嚼中の第一大臼歯に生じる噛む力パルスと,その臼歯の上下,左右,前後の3次元的な動きを同時測定した.咀嚼1噛み目の力のパルスと,臼歯の上下の動きから,摂食した食物の口腔内における力-変位曲線を求めることが出来た.機器による力-変位曲線と比較すると,機器による80%までの圧縮で最大値は2500Nにも達したが,臼歯で噛むときの最大咀嚼力は自然に食べるときには最大でも200N以下であり大きな違いがあった.1噛み目の最大咀嚼力が小さい,すなわち噛み切る力が小さい食物類が老人に好まれる食物類と一致した.2.微生物多糖のジェランのゲルを食べたときの口蓋圧を測定した.舌と硬口蓋で押しつぶして食べる咀嚼から,歯で噛む咀嚼に移行するゲルの機器測定による硬さは30kPa程度であり,寒天,ゼラチン,カラギーナンの潰して食べる限界破断破断応力とほぼ一致した.個人差はあるが,人が自然に食べるとき,舌で潰して咀嚼する限界の応力ははゲルの種類によらず,30kPa程度であることが示された。ジェランは,0.5%以下の濃度で3桁に及ぶG',G"の変化があり,周波数依存性がなく,天然のゲル化剤としての有効な特性を持つことが示唆された.3.6MHzの超音波パルスドップラー法により水および濃度の異なるゲルを嚥下したときの喉頭蓋直前を通過する嚥下物の流動速度分布を測定した.平均流速の平均値はゲルの濃度によらず0.1m/s程度であり,他方,最大流速の平均値は,水では0.5m/sであり平均流速との差は大きく分布が広がり,早く流れる水の存在が示された.
著者
浅野 晃 篠原 進 村上 征勝 西島 孜哉 谷脇 理史 冨士 昭雄
出版者
共立女子大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

17世紀後半の作家井原西鶴の文学の魅力は、千変万化する語彙を縦横に操った新しい文体にあると言うことができる。処女作『好色一代男』(1682年刊)の冒頭部分「桜も散るに歎き、月は限りありて入佐山、友に但馬の国、かねほる里の辺りに‥‥」は、西鶴の個性的な文体の創造をみごとに示した好例である。ところが、現在、われわれは、西鶴語彙の索引を共有してはいない。本研究は、西鶴研究者が共同して、西鶴作品の語彙について、その統計分析のための基礎作業にとりくもうとしたものである。本年度の研究業績は、以下の2点にまとめることができる。(1)第1は、語彙をコンピュータ化するための実験、つまり、語彙を機械化するに当って、その可能な範囲を探る作業を開始したことである。まず、西鶴の代表作『好色一代男』『好色五人女』『日本永代蔵』をとり上げた。作品をデータ・ベース化し、研究会活動を通して、語彙の統計処理について、基本的な問題点を討議した。異体字や漢字の字体、仮名処理などの基本方針の方向を定め、コンピュータのいわゆる字書作りの作業に入ったのである。こうした作業と平行して、西鶴の全作品のデータ・ベース化の仕事も続行している。(2)第2の研究業績は、正確な西鶴作品を提供するための基礎作業に取りかかったことである。これは、最終的には、新しい『西鶴全集』の刊行に連なるものである。『定本西鶴全集』第1巻が世に出たのは、昭和26年8月のことであるから、それからすでに40数年の歳月が流れたことになる。現在の西鶴研究は、この全集を手懸りにして展開しているが、作品のテキスト研究も進歩を見せているので、現段階において、望みうる最高の西鶴全集と、西鶴語彙の総合索引を共有することになれば、西鶴研究はさらに大きな前進を見せることになろう。本研究は、以上の2つの分野において、基礎的な研究業績を築きはじめたものである。