- 著者
-
三野 たまき
南澤 信之
- 出版者
- 信州大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
近年,被服製品に求められるコンセプトは見かけの美しさや製品の耐久性,扱いやすさなどに留まらず,その着心地までに波及し,ヒトの機能をも介助するための被服製品が望まれてきている.例えば,スポーツ選手が良い成績を残すために開発されたスポーツウエアや,人体の機能低下を介助するための製品の開発が望まれている.さて,これらの製品開発のためには,実験室レベルに留まらず,フィールドで実際に起こる被服内環境の実態を把握しなければならない.そこで,特定小型無線局を用いた被服内環境計測システムの開発を試みた.また,人体の呼吸代謝,血流速度,皮膚温,被服圧,下腿および足部の容積などの諸機能を指標とした,被服内環境の改善のために着目すべき因子とその影響についても明らかにした.被服内環境を知るためには,被服外環境や人体それ自身の因子を含めて初めて明らかになると考えた所以である.そこで,実験に用いた浴衣,ウエストベルト以外の実験衣は常に一定に保ち,ヒトが外部環境の変化に伴ってどのように変化するかを調べた.ヒトは地球上の生物であるがその地球環境の変化に伴って,呼吸代謝,皮膚温,血流速度,ウエストベルト圧,下腿および足部の容積は環境温度によって有意に変化することがわかった.つまり,積極的に環境温度を変えずとも,季節の推移に伴って変化しているのである.さらに,血流速度は日内変動し,ウエストベルト圧と下腿および足部の容積は有意に月経周期の位相によっても変動することがわかった.つまり,環境温や月経周期,日内変動を考慮に入れれば,より快適な被服環境を実現できるのである.このように,被服環境の実態を正確に捉えるために見過ごしてはならない因子の洗い出しとその影響について明らかにすることができた.今後,開発した特定小型無線局を用いた被服内環境計測システムを用いて,更に実生活に即したデータを蓄積し,人体の機能を介助する製品の開発に必要な基本設計指針を導き出す所存である.