著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.23-61, 2018-03

医学の進歩により急速な高齢化が進む先進国では安楽死を合法化する動きが顕著になってきた。本稿は快楽主義の視点から,まず安楽死をめぐる諸事情を概観したあと,今や安楽死は単に個人の要請というだけでなく,社会としても無視することのできない要請ではないかと問うものである。 一節では安楽死が尊厳死へと変わっていく経緯とその際の議論を概観する。 二節ではオランダが世界で最初に安楽死を合法化するまでの歩みを概観する。 三節では日本国内の安楽死事件を通して, 安楽死は三種類に分類されることを確認する。 四節では日本でも学会指針という形で徐々に尊厳死法制化へ進みつつあることを述べる。 五節では安楽死容認の風潮から予想される危険について述べる。 六節では前節での問題点について筆者なりの回答を示す。Facing the rapid aging of society due to ongoing advances in medicine, many developed countries have made moves to legalize euthanasia. From the hedonistic point of view, this article argues for the necessity of euthnasia, not only as personal demand but also as social request. It consists of six sections.1.Ideological review of the transition from "euthanasia" to "death with dignity".2.Steps towards the legalization of euthanasia in the Netherlands.3.Some euthanasia incidents in Japan.4.Struggles towards passing a euthanasia bill in Japan.5.Some prospective problems arising from an increasing tolerance of euthanasia.6.The author's response to the problems posited in the previous section.
著者
岡部 和夫
出版者
名寄市立大学
雑誌
市立名寄短期大学紀要 (ISSN:09165975)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.31-40, 2005-03

21世紀の新しい福祉・「地域福祉権利擁護事業」を背景に「北海道福祉サービス運営適正化委員会」がどのように取り組んできたのか、4年半を経過した事業の検証を試みた。かこ3年間の事業報告書を分析し、「苦情解決体制の整備状況調査」等から明らかになったことは、1.運営適正化委員会が住民、利用者に十分周知されていないこと、2.苦情解決体制が充分整備されていないこと3.第3者委員の機能が発揮されていないことなどが浮かびあがり、これらへの提言を行った。
著者
木下 一雄
出版者
名寄市立大学
雑誌
名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 (ISSN:21869669)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-39, 2016-03-31

ここ最近、施設内における介護職員による利用者に対しての虐待行為の増加が目立ってきている。新聞やテレビで介護職員の施設内で起こした凄惨なニュースを見ない日はないほどの状況になっている。平成25年度に行った厚生労働省の調査結果によると、高齢者虐待の原因となっている要因として、介護職員の教育や知識、技術に問題があったとされるケースが調査全体の総数の66.3%を占めており、いかに介護職員に対する教育力が現場で低下しているのかが、数字として目に見える形として表れてきている。つまりは、今の介護職員にとって倫理観、想像力の欠如、利用者が今まで歩んできた人生を含め、包括的にとらえていくアセスメント能力が欠如してしまった結果が、このような不祥事につながってきているのではないだろうか。今回の実践活動報告において、自身が勤務していた認知症専門病棟の精神科病院において20代男性介護職員に対し、利用者と関わる上で著者自身が考案した面接指導プログラムに添った支援を通して、いかにその指導プログラムを受けたことにより、対象者自身が利用者に対する関わり方の変化があったのかについて報告していく。そして凄惨な状況が繰り返されている状況において、利用者に対する想像力を豊かにし、言葉で表現できない表情やしぐさなどに意識を向け、様々な思いをアセスメントしていくことの重要性について示唆していく。
著者
塚本 智宏
出版者
名寄市立大学
雑誌
市立名寄短期大学紀要 (ISSN:09165975)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-16, 2007-03

本論文では,まず,ヤヌシュ・コルチャック(1878-1942)の子どもの権利思想を支えた子ども観=人間観の内容・特質を概観したうえで,彼が子ども(本論文では特に乳児期の子ども)のなかに探究しようとしていた人間性とはいかなるものであったのか,またそこでの子どもと大人の関係や子どもと大人の本質的な異同についてどのように考えていたのか,これらの点について彼の代表的な作品『子どもをいかに愛するか(家庭の子ども)』を具体的に読み進めながら考察し,彼が「子どもの権利の尊重」という場合の子どもに対する大人の態度がいかなるものであったのかを明らかにしたい。
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-86, 2017-03

13世紀も後半になると神学者たちは、強まりゆく理性主義に対して、学問としての神学の確実性を示さなければならなくなった。そこで彼らの多くが採った理論は知性認識の根底においては神が働いているとする証明説であった。だがそうなると、知性認識に形象は不要ということになり、また知性は個々の事物を直接的に把握できるとする直観説になる。その結果、次第に神学は、個物のみが存在するとする唯名論に傾くことになった。だが現実の人間に認識できるのは感覚できる個物だけだから、神についてはいかなる知識も不可能ということになる。その結果、ただ信仰のみが主張されるようになり、宗教改革と教会分裂の悲劇を招くことになった。 1章ではトマスが採用した抽象説とそれが秘める困難について説明される。 2章ではヘンリクスの折衷説とそれがもたらす困難について説明される。 3章では個物こそ事物の完成であると説いたスコトゥスの学説が説明される。 4章ではスコトゥスを否定したオッカムの唯名論により神学が不可能になったことが説明される。 5章ではオッカムがもたらした敬虔主義とその破局である宗教改革そして懐疑思想の復活が説明される。In the late 13th century, facing the rise of rationalism, many theologians had to prove the certainty of theology. Consequently, they adopted the theory of divine illumination, which claims the intervention of God in human intellectual cognition. In such case, however, cognitive species come to be needless, and all theology leaned inevitably towards nominalism which admits the existence of only individual things. But human beings can only recognize things that can be sensed, so we can't acquire any knowledge about God. As a result, people relied only upon belief, which led consequently to the Reformation and the tragedy of schism. 1st chapter : The theory of abstraction in Thomism and its two difficulties. 2nd chapter : The eclectic theory of Henry of Ghent. 3rd chapter : The theory of john Duns Scotus, who taught that individual things were ultimate perfection. 4th chapter : Occam's Nominalism which, by negating Scotus' doctrine of formal univocity, brought impossibility to theology. 5th chapter : Devotionism, Reformation and revival of skepticism in the 16th century.
著者
清野 茂
出版者
名寄市立大学
雑誌
市立名寄短期大学紀要 (ISSN:09165975)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-27, 1993-03
著者
松岡 是伸
出版者
名寄市立大学
雑誌
名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 (ISSN:21869669)
巻号頁・発行日
vol.2, 2013-08-31

本稿はイギリスのソーシャルポリシー研究者であるスピッカーのスティグマに関する見解に着目し、ソーシャルポリシーにおけるスティグマをどのように据え位置づけていたか、さらにはスティグマの概念、付与過程、特徴、構造などを明らかにすることが目的である。 その結果、スピッカーのスティグマに関する見解からスティグマは不名誉な徴であり恥辱の感受や差別的経験、人間的尊厳の喪失、憐憫の対象であり、それによってスティグマを負う人々は力を失っていく経験をしていた。そしてスティグマを負う人々は自分自身のモラルキャリアから生じるスティグマの問題と、構造化された社会関係から生じるスティグマの問題の双方に影響され社会的位置や環境が規定されていた。 スティグマとソーシャルポリシーとの関係では、スティグマは社会的、文化的、経済的幅広い社会的文脈において規定されており、スティグマの問題を解決する単一の方法は存在しない等の視点が明らかとなった。
著者
長谷川 武史
出版者
名寄市立大学
雑誌
名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 (ISSN:21869669)
巻号頁・発行日
no.4, pp.17-30, 2015-03

本研究では、セーフコミュニティにおけるレジリエンス機能について、どのような活動の中でそれが形成されるのか、Risk事象への取り組み過程から検討を行った。セーフコミュニティは安全を保障する状態を示すものではなく、現在進行形で取り組みを行っている状態である。特定の地域課題に対し、住民に明確な問題意識・解決志向を養成・維持していくことで、安心・安全な地域環境作りを図ることを目的にしており、セーフコミュニティは各地域特徴を踏まえた体制をとっている。特定のRisk事象に対して、そのコミュニティに参加している住民間が共通の問題意識を形成することで、Risk事象へのレジリエンス機能(対処策)を獲得できる。コミュニティにおけるレジリエンス機能は、地域の連携力、コミュニケーション能力、問題解決力等を意識していくための概念であるが、セーフコミュニティはそれ自体、レジリエンス機能を有する形態であることがわかった。
著者
深澤 圭子 高岡 哲子 根本 和加子 千葉 安代
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-68, 2010-03

本研究の目的は、終末期ケアを検討するための知見として、高齢者自身が終末期における「生死」に関してどのように考えているかを明らかにすることにある。10例の対象者へ半構成的面接を行い、データを質的に分析した結果7カテゴリーを抽出した。高齢者は〈痛みの回避〉や〈傍にいてほしい〉等《苦痛緩和》を望んでいることがわかった。《死の準備》では〈妻と対話〉〈身辺整理〉や〈遺言〉等を考えていた。《延命は望まない》では〈高度の医療は不要〉等をあげていた。《終の棲家》では、〈できれば自宅〉〈住み慣れた地域〉とする一方、〈病状悪化時病院〉とし、その裏には家族への遠慮もある。《平安なる死》では〈眠るが如き〉や〈自然死〉等を希求していた。《死の恐怖感》では、〈死への恐れ〉を抱き、それを抱く一方、〈死と共に〉生死は表裏一体と考えている。《死後の世界》には〈信じる〉〈肉親に会える〉等、死後の世界を希求していると考えられる。以上のような高齢者の気持ちを汲み取り尊厳・尊重した終末期の《苦痛緩和》ケアが重要であることが示唆された。
著者
高岡 哲子 紺谷 英司 深澤圭子
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.49-58, 2009-03

本研究の目的は、高齢者の死生観に関する文献検討から、高齢者がどのような死生観を持っているのかを明らかにし、高齢者のみを対象とした死の準備教育を確立させるための基礎資料を得ることである。資料とした文献は、『医学中央雑誌Web(ver.4)(1998年-2008年)』で、「高齢者」と「死生観」の「AND」検索によって抽出した。これによって得られた文献は、160件であった。なお検索は、2008年5月に行った。この結果、高齢者の死の迎え方に関する希望が多岐にわたっていたこと、死を考えることで不安や恐怖と結びつくことがあること、死の準備が必要であることは高齢者にも認識されていることがわかった。しかし、実際に高齢者に対する死の準備教育を体系的に行っているという報告はなく、研究としても見当たらなかった。これらのことから、今後は高齢者の特徴をふまえ、死に対する過度の不安や恐怖から健康障害を起こすことがないような、死の準備教育が行われる必要性が示唆された。
著者
成田 円 畑瀬 智恵美 鈴木 敦子 神野 朋美 寺山 和幸
出版者
名寄市立大学
雑誌
市立名寄短期大学紀要 (ISSN:09165975)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.107-122, 2005-03

本研究では、静脈血採決の技術演習内容を改善し実施したことによる技術演習の実施内容の是非を問い、今後の技術演習をより良いものにすることを目的として質問紙調査を行った。質問紙調査は、初回演習後(初回後)、学生自身が反復演習した後(自己学習後)および学生同士での採決実施後(採決後)にそれぞれ実施した。演習内容が効果的であったかを検討するため、昨年度の質問紙調査のデーターとも比較して分析した。 初回後に比べ自己学習後では、「駆血帯の巻き方」など4項目で困難であると回答した者の割合は有意に減少し、自信が持てたと回答した者の割合が有意に増加した。初回後に比べ採決実施後では、「針の刺入角度」など7項目で困難であると回答した者の割合が有意に減少し、自信が持てたと回答した者の割合は有意に増加した。また、自己学習後に比べ採決後では、「針の挿入角度」など2項目で困難であると回答した者の割合は有意に減少し、自信が持てたと回答した者の割合は有意に増加した。これらは、演習内容を改善したことで、目に見えない静脈と針との状態をイメージしながら主体的に反復練習し、最終的に自信へと繋がったと思われた。 今後、さらなる工夫をし、効果的な演習内容を探求していきたい。
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-26, 2013-03-31

本稿はプラトンノイデア論を、彼の師であるソクラテスの思想史的位置から考察したものである。イデアは自然哲学者たちが問うたピュシス論の一形態であること、最終的にはその不可知性ゆえに提唱者のプラトン自身が懐疑的になっていたことが説明される。
著者
鹿嶋 桃子
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.27-35, 2013-03-31

自由遊びへの保育者の介入をめぐっては、指導と子どもの自発性のバランスのあり方をめぐる対立がある。そこで、本研究ではこうした対立を乗り越える視座として、子どもに必要な経験を保育者が読み取り、その発達に必要な支援をする過程として遊び指導を位置付けジユウアソビ場面の分析を行った。その結果、次のことが示唆された。保育者は遊びを指導する際に、保育者の指導上のねらいを意識下あるいは無意識下で参照しながら指導する。しかしながら、指導を通した子どもと保育者の相互作用結果としての遊びの展開内容はその場の状況によって変化しうるという意味で、保育者のねらい通りには展開しない自由で創発的過程である。すなわち遊びの指導とは、子どもの活動の自由が保障されている分だけ管理保育とその性質を異にし、子どもたちの発達支援を保障するものと考える。
著者
松岡 是伸 小山 菜生子 Yoshinobu MATSUOKA Naoko KOYAMA
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-29, 2012-03-31

本稿の目的は児童養護施設におけるソーシャルワーク実践事例を用いて,ソーシャルワークの機能を明確にしていくことである。その意義は実践事例の分析と検討からソーシャルワーク実践理論の研究的積み上げに多少なりとも貢献できるからである。 その結果,ソーシャルワーク機能は子どもの生活援助・支援においては随所に活用されていた。直接的援助機能やケースマネージャー機能,保護機能などが実践では多く活用され,子どもの成長と発達によってソーシャルワーク機能は広範囲にわたり活用されることなどが明らかになった。