著者
松岡 是伸
出版者
名寄市立大学
雑誌
名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 (ISSN:21869669)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.19-30, 2013-08-31

本稿はイギリスのソーシャルポリシー研究者であるティとマス(Richard Morris Titmuss)に着目し、ソーシャルポリシーにおけるスティグマや反福祉をどのように据え、位置づけていたかに言及し、スティグマの付与や特徴、構造を明確にすることが目的である。その結果、ティとマスによるとスティグマは、文化的受け入れがたい攻撃的な言葉で用いられており、スティグマを負う人々は自身の経験から生活を再定式化していた。またスティグマによって再定式化された生活は人々の要保護性の創出につながっていた。そしてソーシャルポリシーにおけるスティグマを最小化するためには、反福祉的状況を改善していかなけばならないことが明らかとなった。これらのことからソーシャルポリシーにおけるスティグマを把握するためには、社会全体の反福祉的状況を把握する必要があることが明らかとなった。
著者
松岡 是伸
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.45-52, 2014-03-31

本稿ではピンカーのスティグマに関する見解に着目しスティグマがどのように据えられ、位置づけられレイルのかを整理、分析することでスティグマの付与、構造、形成要因などを明確にしていくことが目的である。その結果、ピンカーはスティグマを民主主義社会において課される心理的暴力であり、制裁としてのスティグマの付与を明確にしていた。そして福祉サービスの互酬性に着目しスティグマは依存的な地位と同一であることに言及していた。そのうえで、スティグマがソーシャルポリシーの供給と受給レベルにおいて制裁として課されるには、依存性という地位が機能しなければならない構造が明らかとなった。本研究を総合的にまとめるとピンカーは、福祉サービスの供給と受給に対する感受性とスティグマとの間に深い関連性があると据えていたことが明らかになった。
著者
小野寺 理佳 梶井 祥子
出版者
名寄市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、「未成年の子ども(孫世代)のいる夫婦(子世代)の離婚や再婚」による家族関係の変化に関わって、祖父母世代が多世代を繋ぐ働き(多世代の紐帯)を果たすことにより、子世代・孫世代への支援となり得ることを明らかにすることである。平成29年度は、スウェーデン調査の2年目であった。平成29年度も、平成28年度と同様に、現地の関係各所との交渉・調整の結果、ストックホルム市とエステルスンド市両地域において調査を実施することとなった。平成29年度は、平成28年度調査から得られた結果をふまえて、社会福祉サービス部門の職員(離婚家庭に実際に関わる社会福祉士、親の離婚を経験した子どものためのサポートプロジェクト職員、家族関係のコンサルタント、高齢化した祖父母世代が入居する高齢者特別住居のスタッフ等)やファミリーセラピーを行なう民間機関のコーディネーター、当該領域の研究者(ストックホルム市の児童・青少年センタースタッフとストックホルム大学で児童心理や家族問題を研究する研究者)の意見・認識をとらえるための聴き取りを行なった。その結果、親の離婚や再婚により子どもはより豊かなネットワークを得ることができるという認識が浸透していること、祖父母による世代間支援については、祖父母自身の就労と自立、生活水準、子世代に干渉しない抑制的な態度が求められる社会であること等が影響しており、福祉が担う範囲が拡がっていること、「交替居住」について肯定的な評価が多い一方で、「交替居住」に伴うストレスに苦しむ子どもの存在があり、その子どもを対象とするサポートプログラムの実施が広がりつつあるなかで、祖父母世代がそこに関われる可能性もあること、祖父母世代が仕事をして自立して生きることと自分の関心を優先させて暮らしてきた結果として、老後の施設での生活において世代間関係の希薄さが自覚される場合もあること等が確認された。
著者
成田 円 神野 朋美 畑瀬 智恵美 寺山 和幸
出版者
名寄市立大学
雑誌
市立名寄短期大学紀要 (ISSN:09165975)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.31-41, 2004-03

市立名寄短期大学看護学科で行っている静脈血採血の技術演習において、学生が困難を感じている点を明らかにし、今後の技術演習をより良いものにすることを目的として質問紙調査を行った。質問紙調査は、採血用シュミレーターを使用した初回演習後(初回後)、学生自身が反復練習した後(自己学習後)および学生同士での採血実施後(採血後)にそれぞれ実施した。 初回後に比べ自己学習後では、「静脈の選択」、「駆血帯の巻き方」など13項目で困難であると回答した者の割合が有意に減少し、自信が持てたと回答した者の割合が有意に増加した。初回後に比べ採決実施後では、「静脈の選択」「駆血帯の巻き方」など9項目で、困難であると回答した者の割合が有意に減少し、自信が持てたと回答したものの割合が有意に増加していた。一方、自己学習後に比べ採決実施後では、「静脈の選択」、「すばやい針の挿入」など6項目で、困難であると回答した者の割合が有意に増加し、自信が持てたと回答した者の割合が有意に減少した。これらは、シュミレーターを使用した反復練習で自信を獲得できた項目ばかりであるが、実際の採血を行った結果、対象個々によって異なる状況(静脈の状態)があること、すなわち個別性に難しさを感じたものと思われた。このことは、自由記載の内容からも推測できた。 今回明らかになった、学生による静脈血採血を困難にしている要因について改善し、採血技術演習をさらに良いものにしていきたい。
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-19, 2012-03

西暦前399 年,ソクラテスは死刑を宣告された。周囲の人々は彼に脱獄を勧めたが,彼は従わなかった。なぜ彼は逃げなかったのだろうか。ギリシア思想の流れを辿ることで,この問題について考えてみたい。
著者
小銭 寿子 久永 聖人 Hisako KOZENU Masato HISANAGA
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.65-72, 2014-03-31

医療機関における退院支援業務が2008年の診療報酬改定によって社会福祉士による退院支援として点数評価を受けた後に医療ソーシャルワーカー(MSW)の業務や役割がどのように変化したのかを検証するために社会福祉士、6医療機関に所属する20名に質問紙調査とインタビュー調査を実施した。結果は所属と業務変化に関連性があることが明らかになった。退院調整加算として評価され、社会福祉士がMSWとして働く場の拡大や増員に貢献できることを確認できたが、経営面や病院の機能を重視する点も強調されていた。今後は診療報酬上で評価された背景をおさえ、MSWとして医療現場で実践する社会福祉士の動向を注目していく必要がある。
著者
中西 さやか
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.79-83, 2014-03-31

幼児期の学び(learning)という課題は、現在世界各国に共通するものとなっている。本稿では、そのような課題に対するドイツの取り組みについて報告・考察する。具体的には、幼児期のBildung理解の一つである自己形成としてのBildung理解に基づく保育を展開している保育施設(ハンブルクおよびノルトライン・ヴェストファーレン州)への訪問の成果を報告する。
著者
山中 珠美 高鳥毛 敏雄 YAMANAKA Tamami TAKATORIGE Toshio
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.37-46, 2020-03

【要旨】2011年,大阪市あいりん地区にあるホームレスを支援する施設,シェルター,診療所,および,サンフランシスコ市の社会施設,病院,教会を視察した。その後,8年が経過し,結核やエイズに関する公衆衛生施策,栄養指導等の公衆衛生活動が行われた結果,両市で結核の患者数は減少していた。我が国では専門職が中心になってDOTSを行っているが,アメリカでは医療資格がない者が訓練を受けてDOTSを行っており,DOTSに関する国の経済的負担は少ない。しかし,サンフランシスコ市のような大都市では手頃な価格の住宅の欠如,精神疾患,暴力,エイズ,薬物等の問題がある。また,アメリカの企業は終身雇用ではないため,突然解雇されてホームレスになることがある。経済的な格差は健康格差を生むため,健康,労働,教育,福祉などさまざまな側面から公衆衛生活動について考える必要がある。蔑視せず,現実をしっかりと見て,彼らに寄り添い,今後どのようにしたらいいのかを共に考えなければならない。このような状況の中でアウトリーチ・ワーカーやボランティア等,専門家ではない一人の人として関わりや信頼関係の構築が,ホームレスにとって他のどのような支援よりも遙かに大きな力になっている。差別することなく共に考えることが一番の支援である。
著者
松岡 是伸 Yoshinobu MATSUOKA
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.97-108, 2017-03

本稿の目的は、ある地方自治体で実施されている福祉的貨幣貸付制度に着目し、援助者の観点から利用者の生活状況と利用実態を明らかにしていくことである。そのうえで利用者の生活困窮の複合しやすさや生活の不安定さをつまびらかにしていく。そのため貸付業務の担当職員で相談援助歴が5年以上の4名を対象にインタビュー調査を行った。その結果を修正版グランデッド・セオリーで分析し、主に利用者の生活状況や生活困窮の複合状況、生活の自転車操業的状況、貸付制度の利用と返済過程、申請・利用に伴う諸問題を示した。そこで第1に、生活困窮の複合のしやすさは、利用者の生活能力の困難さや環境的制約によってもたらされていること、第2に、制度利用によって利用者の生活が自転車操業的になり「不安定の中の安定」という状況を招いていたことが明らかとなった。またスティグマが制度を利用しようとする人々のアクセシビリティを阻害していることが示唆された。
著者
白井 暢明
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-13, 2007-03

明治30年(1887)に現遠軽町に団体入植した「北海道同志教育会」(学田農場)は、キリスト教徒である押川方義,信太壽之によって企画され,未開地を開墾して得た収益を積み立てて,30年後にキリスト教主義の私立大学を設立することを目的としていた。しかし,この事業は失敗し,約14年後にこの会は解散した。 本稿は明治期に北海道に入植したキリスト教的移住団体に関する一連の開拓者精神史的研究の一環であり,その目的はこの団体の挫折の原因を,他の同種団体と比較しつつ,精神史的,宗教社会学的な観点から明らかにすることである。 結論として,この団体の挫折の最大の原因は,事業と信仰(教会)とが分離していたことにある。北海道の厳しい自然条件の中で開拓事業を進めるためには住民の内面的な支えや連帯感が必要であり,比較的成功した他の同種団体では教会がその役割を果たしていた。北海道同志教育会がこのような失敗に至った背景としては,現地での指導者であった信太壽之がキリスト者から事業家,政治家へと自らの生き方を変えていったことによって住民の信仰という内面的要素を軽視したことにある。
著者
加藤 千恵子 廣橋 容子 石川 貴彦 笹木 葉子 南山 祥子 佐々木 俊子 長谷川 博亮 結城 佳子 Cieko KATO Yoko HIROHASHI Takahiko ISHIKAWA Yoko SASAKI Shoko MINAMIYAMA Toshiko SASAKI Hiroaki HASEGAWA Yoshiko YUKI
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.63-76, 2018-03

妊婦100 人を対象にマイナートラブルの症状と指尖脈波の非線形解析の手法を用いて,妊娠前期,中期,後期の特徴を検証した。指尖脈波は,心の外部適応力(元気さ)の指標となる最大リアプノフ指数( LLE: Largest Lyapunov Exponent) と,交感神経と副交感神経の状態から自律神経バランス( Autonomic Nerve Balance)でストレスとリラックスの状態がわかる。その結果から,「理想ゾーン」36.3%,「準理想ゾーン」51.0%,「憂鬱ゾーン」3.9%,「本能のままゾーン」2.0% ,「気が張り詰めているゾーン」2.9%,「気が緩んでいるゾーン」3.9% の6 つの領域に分類できた。高ストレス者は3.0% が該当した。LLE 値の平均値は,妊娠前期5.18,中期4.84,後期4.05 で,妊娠経過に伴い心の元気度が有意に低下していた(p= 0.010)。また,疲労と抑鬱の測定値は有意に増加し(p= 0.027, p=0.006),リスクは増していた。妊娠初期のつわりの症状が,「倦怠感」「胃の不快」「面倒さ」に影響したことが示唆された。妊娠後期,一部の者は,経済的負担感が増していた。過去1か月間の疲労・不安・抑鬱の症状を自覚する割合に比べ, 現在の指尖脈波の測定値の方が有意に高く,疲労・不安・抑鬱のリスクは増していた。妊娠初期から人的・経済的基盤を中心とした支援を強化する必要がある。今後,妊婦健診などで指尖脈波やマイナートラブル評価尺度を活用して,可視化・客観視できる結果をもとに妊婦と共に振り返り,活用することが重要である。
著者
関 朋昭 Tomoaki SEKI
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-5, 2019-03

本研究は,世の中のあらゆる「集まり」における普遍かつ不変法則を発見した。証明には,数学とくに圏論を用いた。その結果「一つの集まりにおける対象が増えると,もう一方の集まりの対象が減る」という法則を発見した。この法則を「反相関理論」と命名した。
著者
清野 茂
出版者
名寄市立大学
雑誌
市立名寄短期大学紀要 (ISSN:09165975)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.1-12, 2005-06

戦前の大坂市立聾唖学校には多くの聴覚障害講師がいた。その一人が東京女子高等師範学校出身の廣間ひで(1890-1975)であった。彼女は高等女学校教師のときに障害を負ったが、聾学校教師に転進、国語教師として手話を用いて優れた実践を行った。また、彼女はいくつかの国語教授に関する論文、童話も執筆している。本研究では、それらの論文、諸資料を用いながら、彼女の実践と人生について論ずる。
著者
松岡 是伸
出版者
名寄市立大学
雑誌
名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 (ISSN:21869669)
巻号頁・発行日
no.1, pp.45-58, 2012-03

本研究ノートは,北海道道北圏における披占領期社会福祉(社会事業)政策を地方軍政活動報告書から紹介することを目的としている。そのため「領期都道府県資料の収集整理及び分析とその効果的な公開利用方式の確立」(平成14年)先行研究から、北海道道北圏に着目しながら紹介・考察をおこなった。その結果、北海道道北圏の披占領期社会福祉(社会事業)政策の実態を地方レベルで考察・概観することができた。
著者
田邊 宏基
出版者
名寄市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では大腸発酵由来水素の一部が全身の組織へ移動することを明らかにするとともに、生体内へ広く供給された水素が肥満等の全身の酸化ストレス軽減に寄与することを明らかにすることを目的とした。まず大腸発酵由来水素の生体内分布を網羅的に解析し、門脈血、肝臓、腎周囲脂肪、精巣上体周囲脂肪中の水素濃度が上昇することを見出した。また、門脈を介した経路のみでは全ての組織に水素を供給しえないことを明示した。次に遺伝的肥満モデルマウスの肥満を誘発する遺伝的背景が大腸水素生成に与える影響を検討し、野生型マウスよりもフラクタンによる大腸水素生成が強く誘導されることを明らかにした。