著者
佐藤 勝明
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.210-199, 2018-03-31

珍碩編『ひさご』(元禄三年刊)は「俳諧七部集(芭蕉七部集)」の四番目に位置し、奥羽・北陸行脚を終えた芭蕉の新境地を示す連句集として知られている。中でも巻頭の「木のもとに」歌仙は、『猿蓑』所収の諸歌仙とともに、連句史上の傑作として名高く、貞門・談林の古風を完全に打破した新風の一巻とされている。本稿では、この一巻を対象に、それぞれの付合を、①〔見込〕、②〔趣向〕、③〔句作〕の三段階による分析方法を使って読み解いていく。そして、その付合の多くが、前句がもつ気分・雰囲気に合わせた匂付であることはたしかにもせよ、その「匂」を句姿にも示したものが多いことを指摘し、芭蕉晩年の付合とはその点が異なることを明らかにする。
著者
髙梨 一彦
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:24326925)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.97-105, 2017-03-31

パラメトリックな多変量の統計解析において用いられている(重)回帰分析や分散分析法等は、基本的な解析方法であると同時にコンピュータの利用が必須である。これらの方法は、従来、それぞれ別個の手法と考えられて教育上もそのように扱われてきている。しかしながら近年は理論的な枠組みも統一的かつ一般的になってきて、これらの方法をより一般性の高いものから考察しようという動きがある。それがGLM(General Linear Model;一般線型モデル)である。本研究では、GLMの理論的な枠組みを外国文献ならびに邦文文献によって、統計学上の理論をまとめ、統計パッケージソフトによる分析手順の違いを示した。
著者
池田 幸恭
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:24326925)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.65-74, 2017-03-31

日本では「すまない」などの負債感を含んだ複合的感情として感謝をとらえる傾向があるという文化的特徴に着目し、心理学や言語学の複数領域での研究成果に基づいて、感謝に伴って生じるすまなさ感情を経験することの心理的意味を明らかにすることを本研究の目的とした。そのため、「すまない」の語義、日本語の感謝表現における「すまない」、感謝と負債感の関係に関連する文献を概観した。それらの論考を踏まえて、以下の3つの試論を提起した。第1に、感謝は自分が周りから恩恵を受けていることを認識することによって、肯定的感情と否定的感情の両方として経験される可能性がある。そこでは、未分化で肯定的感情と複合したすまなさ感情を経験する場合、経験された否定的感情を解消するために他者へ返報する義務があることを強調して負債感を分化する場合があると考えられた。第2に、感謝に伴うすまなさ感情は、相手の負担、意図、与えられた恩恵の価値という状況の評価に加えて、相手との社会的関係の影響を受ける。さらに、感謝に伴うすまなさ感情は、他者との関係の形成や維持につながると考えられる。第3に、感謝に伴うすまなさ感情は、自己洞察を深めるが、同時に自己否定的な心理状態に留まるという危険性もある。今後の研究の展望として、対人関係以外の抽象的な対象への感謝に伴うすまなさ感情について検討すること、感謝の経験と表明の相違を検討すること、本研究で提起した試論について文化的背景を視野に入れた実証的研究をとおして確かめていくことの必要性について論じた。
著者
佐藤 勝明
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:24326925)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.174-163, 2017-03-31

俳諧史上の傑作の一つとして知られる『此ほとり一夜四歌仙』の中から、巻頭の「薄見つ」歌仙を取り上げ、各付合の分析を通して、蕪村連句の特色を探る。それぞれの付合は、①〔見込〕、②〔趣向〕、③〔句作〕の三段階による分析方法を使って読み解いていく。その結果として言えるのは、古典趣味や中国趣味など、題材の偏りが多分に見られること、前句をよく検討してから趣向を立てるのではなく、前句の詞や表現から喚起されたこと(それは自分たちの嗜好にかなう方向で多く選ばれる)をもとに付句を考えていくこと、の二点である。すなわち、芭蕉流の付合手法とは異なる面が多く、蕪村一流の美的世界が構築されているのであり、今後は、そのことを前提に蕪村連句と取り組むことが肝要と言える。
著者
大神 優子
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:24326925)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.75-85, 2017-03-31

本研究の目的は、保育実習生の学習段階をはかる簡便な指標を作成するための基礎資料を得ることである。制限時間内にできるだけ多くの単語をあげる語想起課題の手法を用いて、保育環境課題(保育室・園庭)及び統制課題(動物・音韻カテゴリ(か))の計4課題を実施した。大神(2016)で実習前・見学実習後の2時点を比較した保育学生42人を責任実習後まで追跡し、3時点を縦断的に比較した。その結果、特に保育室課題で、実習後の反応数が増加していた。見学実習後と責任実習後では量的には差がなかったが、生成された語を「玩具」「生活用品」等のカテゴリに分けて分類したところ、各実習での特徴が明らかとなった。これらの生成カテゴリの違いは、実習段階の違いを反映したものと解釈された。さらに、実習生だけではなく、保育者までを対象として保育環境知識をはかる場合の課題及び分析手法の改善点について論じた。
著者
三善 勝代
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要. 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-12, 2003-03-31
被引用文献数
1

有職既婚女性が夫の海外派遣に同行する場合、就労ビザ等との関係では職の断念が避けられない。途切れたキャリア(職業経歴)は、どう繋がれるのか。就業面を中心に帰国者のライフコースを辿り直し、併せて、現求職者の今後を展望してみた。2001年10月、帰国子女支援団体等を介して、在外期間1年以上で帰国後1年以上10年未満の配偶者に対し質問票を送付。有効回答票152部を郵送にて個別回収した(回収率50.2%)。回答者の平均年齢は43.5歳で、夫は46歳。夫婦1組あたりの平均子供数は2人である。派遣地域は北米、アジアが共に3割台を占めており、派遣元企業の業種では製造業が最多(35.5%)となっている。得られた知見は、次の通り:(1)結婚前には大多数が職を持っていた。(2)しかし、出国前3か月頃までには、結婚や出産・育児でそれを手放しており、有職者は2割未満に減少する。(3)さらに在外時には9名となり、現在に至って4割近くに回復する。(4)主要な就労形態と職種についても、前者は正規雇用から非正規へ、後者は事務職から専門・技術職へと推移していた。(5)この趨勢に基づけば、現在「適職なし」ゆえに無職となっている、いわば「求職者」(無職者の2割強)の就職はおそらく、就労形態としては非正規で、職種としては専門・技術職で、より容易に叶うと推測される。(6)現有職に至る職の有無歴として大別された3タイプの一つ「有職継続型」の存在からも、高度の専門性を身につけ働き方を工夫すれば継続就業が不可能ではないと示唆された。(6)とはいえ、自由記述欄を通しては、この型においてさえ、夫の後方支援と自身のキャリア形成を両立させるのは容易でないと読み取れた。
著者
福田 瑛子 鬘谷 要
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.45-57, 2006-03

An experiment was conducted on the colour of various samples (cotton, wool, nylon) dyed using vegetable dyes consisting of onion skin and tumeric along with the effects of fibre type and mordants on colour fastness to daylight and colour fastness to washing the results of wich are described below. Although colour fastness to daylight of fabric dyed with vegetable dye differs according to the type of fibre and vegetable dye as well as the mordant used, colour fastness to washing was high for all fabrics tested, and even cotton, wool and nylon, which have a low colour fastness to daylight, were not observed to demonstrate significant fading even when washed 30 times. When cotton was dyed with onion skin, the colour fastness to daylight was low for tin-based mordants that dye fabrics to a whitish tint. In the case of not using a mordant or using an aluminum-based mordant, although a decreased due to exposure to daylight, the decrease was comparatively small, there was less fading than in the case of tin, and colour fastness to daylight was comparatively high. In the case of wool and nylon dyed with onion skin, both colour fastness to daylight and colour fastness to washing were high. However, a decressed somewhat following exposure to daylight. Samples dyed with tumeric demonstrated low colour fastness to daylight as compared with samples dyed with onion skin, and with respect to cotton samples dyed with tumeric in particular, considerable fading was observed following exposure to daylight for about 5 days. Colour fastness to daylight was particularly low when using a tin-based mordant.
著者
藤丸 麻紀
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要. 人文系編 (ISSN:09160027)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.85-99, 2005-03-31

現在歯止めがかからない少子化の進行に対し、従来以上に包括的な政策として平成14年に発表された「少子化対策プラスワン」の内容を検討すると、大きく分けて、仕事と子育てとの両立支援(政策Aとする)、子育て費用軽減サービス(政策B)、出生力増加の基盤づくり(政策C)の3つの分野から成っている。また、少子化の要因を示す統計からは、仕事と子育てとの両立が難しい中で育児費用負担が大きいという「経済的要因」と、晩婚化・晩産化のために出生力が低下しているという「高齢要因」が大きなネックとなっていることが分かる。そこで本稿では、今後の少子化対策としては、政策Aの公的保育サービス(保育料金の公的負担)と、政策Cの供給サイドの少子化対策が重要であると考え、理論モデルを用いて政策の効果の分析を行なった。その結果、政策Aについては「保育サービスの拡充と費用補助」を行い、育児と仕事の両立という選択肢が妨げられないような支援を行なうこと、および政策Cについては「出生力増加のための不妊治療の負担補助」などの対策が必要であると言える。今後は、本稿のモデルや仮説に合わせた実証分析を充実させ、各政策の効果の測定を行なう予定である。
著者
小沢 哲史 TETSUSHI OZAWA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.155-166, 2013-03

近年、日本では少年犯罪に対する関心が高まり、実態以上に過大視する傾向が強まっているとされる。これを「少年犯罪に対する過大視現象」とする。この現象については実態の把握が十分ではなく、この現象をどのように説明すべきか、その影響は何かなど不明な点も多い。本論文は第一に、この現象の実態をより明確に把握するため、高校生、大学生、幼稚園児の母親、50 〜70歳代の計4グループ、合計183名を対象に、平成17年度内閣府調査の質問文を精緻化した調査を実施した。第二に、少年犯罪の過大視現象をどのように捉えるのかについて学際的議論を行った。最後に、過大視現象が青少年の発達に与える影響について論じた。
著者
内田 雅人 Masato UCHIDA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.119-130, 2014-03

研究の目的 強化スケジュールにおける強化子出現の規則性とオペラント反応の持続性の関係を消去抵抗を指標として、コンピュータ上のシミュレーション実験によって検討した。研究計画 コンピュータ上の仮想実験でラットのレバー押しを部分強化(VR、FR、VI、FI)か連続強化(CRF)で条件づけし、強化子出現の規則性の違いと消去時の反応の持続性の関係を比較した。場面 オペラント条件づけのシミュレーション実験ソフトを用いて、仮想ラットのレバー押し反応と消去抵抗を測定した。被験体 仮想ラットを5匹ずつ5群に配置した。独立変数の操作 変率強化(VR)、定率強化(FR)、変時隔強化(VI)、定時隔強化(FI)、連続強化(CRF)の強化スケジュールを用いた。行動の指標 消去基準に達するまでのレバー押し反応数、所要時間、反応間時間(IRT)を測定した。結果 消去期の反応数と消去に至るまでの所要時間の違いが確認された。消去1日目には、短いIRTがVR群とFR群に多く、VI群には長いIRTが多いという特徴が確認されたが、消去2日目以降はどの群のIRT分布もCRF群に類似したパターンへと変化していった。結論 強化子出現が不規則で強化期から消去期への条件変化が明瞭でない変動型スケジュールは、その変化が明瞭な固定型もしくは連続強化スケジュールよりも消去抵抗を高めることが確認された。
著者
池田 幸恭 Yukitaka IKEDA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.65-75, 2015-03

本研究の目的は、感謝を感じる対象の発達的変化について明らかにすることである。10代(15歳以上)、20代、30代、40代、50代、60代それぞれ300名(男性150名、女性150名)の合計1800名にweb調査を実施し、感謝を感じる対象20項目への回答を主に求めた。各対象へ感謝を感じる程度を確認した上で、感謝を感じる対象の年代による評定得点の差を検討した。その結果、感謝を感じる対象の発達的変化は、対人関係における感謝(変化なし)、対人関係における感謝(変化あり)、抽象的な対象への感謝という大きく3つの特徴にまとめられた。第1の対人関係における感謝(変化なし)は、父親、母親、職場(あるいはアルバイト先)の人が含まれ、年代による得点差はみられず、15歳以上から60代にかけて感謝の気持ちを安定して感じていた。第2の対人関係における感謝(変化あり)は、友だち、恋人(あるいは配偶者)、祖父母、学校の先生、自分の子ども、年下のきょうだい、年上のきょうだいが含まれ、感謝の気持ちを最も感じている時期ならびに感じる程度が最小の時期が対象によって異なっていた。第3の抽象的な対象への感謝は、自然の恵み、自分の健康状態、いのちのつながりといった10種類の対象が含まれ、概ね10代から20代よりも50代、さらに60代に感謝を感じる程度が大きくなっていた。以上より、感謝は生涯発達をとおして、具体的な対人関係においてだけなく、抽象的な対象へも広がって感じられるようになると考えられた。
著者
島田 由紀子 Yukiko SHIMADA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.97-108, 2014-03

幼児に18個の図形(三角・丸・四角、青とピンクの線画)を提示し、何かに見立てた描画の初発反応について取り上げた。初発反応に焦点をあてることで、幼児が見立てやイメージがしやすい図形の形と色について把握することができ、描画のモチーフからは、図形からイメージして描く内容を知ることができる。形や色を提示するという条件のもと、年齢差や性差にどのような差や共通性がみられるのか明らかにすることで、幼児の造形活動や指導への手がかりにすることが期待できる。 調査対象者は4歳児クラス(男児14名、女児14名)、5歳児クラス(男児14名、女児10名)の52名で、調査員との個別調査で行った。その結果、取組み数は年齢や性別を問わず約80%以上であったことから、幼児は「見立てよう、描こう」という意欲が高いことがわかった。初発反応の図形は、図形丸と図形三角が多く、幼児にとって図形三角や丸は親しみやすい形だと考えられる。線画の色はピンクよりも青の方が多く、性別による嗜好色の影響はなかった。4歳児クラスでは見立ての描画として成立するには、見立ての理解とイメージしたものを描くことの難しさがうかがえた。しかし、女児は4歳児クラスでは低い成立数が5歳児クラスでは90%と高いことから、この時期の女児の見立てや描画への興味関心の高さやイメージする力、描写力の伸びがうかがえた。色からの見立ての描画の成立数は形に比べて低く、見立ては色よりも形が優先されることが明らかになった。モチーフに着目すると、見立ての不成立の描画には年齢性別問わず、提示された図形への2重描きや塗りつぶし、図形の中や外への自由な描画などがみられた。見立てが成立した描画は、4歳児クラスの男児では「車」「メロンパン」、女児では「星」「ドア」、5歳児クラスの男児では、「家」「ドラゴンボールの玉」「おにぎり」、女児では「雪だるま」「ロールケーキ」などであった。男児の「車」や女児の擬人化された「雪だるま」などには自由画にみられる性差との共通性が、食べ物を見立てて描画することは図形からの連想語調査との共通性がみられた。 幼児が図形から何かをイメージして描画表現するには描写力が必要となるため、5歳児クラス以前では難しいことが推測された。しかし、5歳児クラスの見立ての描画では形からの成立数をみると、それまでの間にいろいろな経験をしてイメージを広げることや造形活動や生活経験を重ねることで、見立てるイメージ力も描写力も備わることがわかった。この時期の幼児が考えたり思い浮かべたりすることや、形や色やさまざまな素材を使った造形活動を重ねることが、その後の創造的な造形表現につながることが考えられた。