著者
古屋 耕平 KOHEI FURUYA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.61-70, 2012-03

西部劇小説『シェーン』は、1949年の出版以来、映画版の人気にも後押しされながらコンスタントに売り上げを伸ばし、今では西部劇小説の古典として一定の地位を確立している。しかしながら、この小説の西部劇伝統におけるユニークな特質については、あまり論じられていない。この小説を論じる上で最も重要なのが、執筆の時期である。『シェーン』の元となった中編小説Rider from Nowhereの執筆が始まったのが1945年であった、という事実は注目に値する。注意深く読めば、『シェーン』のテクストには、第二次世界大戦直後から冷戦期にかけてのアメリカの政治・社会についての様々な言及が隠されていることがわかる。本論では、『シェーン』と冷戦期アメリカ合衆国の政治的及び文化的プロパガンダ戦略との密接な関係を明らかにする。
著者
永澤 貴昭 黒坂 裕香 田中 智美 町田 修一 湊 久美子 Takaaki NAGASAWA Yuka KUROSAKA Tomomi HASEGAWA-TANAKA Shuichi MACHIDA Kumiko MINATO
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.97-105, 2023-03-01

運動部に所属する男子大学生アスリートの食事調査結果を用いて、栄養摂取状況の特徴を評価した。さらに、食品群別摂取頻度による評価点を算出して、エネルギー、栄養素摂取量や各栄養素摂取量による評価点との関連性を検討し、アスリートの食生活バランスの評価に用いることができる簡易な方法について考察することを目的とした。食事調査の結果、対象集団にはエネルギー、栄養素摂取量が身体活動量に見合わないものが複数いた。一方で、サプリメントやプロテインを利用している者が多数おり、食事に関して無関心ではないことが窺われた。食品群別摂取頻度による評価点を用いた簡易な食生活評価法については、たんぱく質、鉄、カルシウム、ビタミンB1など、アスリートにとって重要な栄養素摂取量との有意な関連性を認めた。さらに、食品群別摂取頻度の得点と8項目のエネルギーと栄養素摂取量を、食事摂取基準の推奨量ならびにアスリートの推奨量と比較して得点化した栄養素摂取量評価得点を算出し関連について分析を行ったところ、有意な関連性が認められた。10種の食品群別摂取頻度を把握することは、アスリートの食生活とそれに付随する栄養摂取状況の概要について評価することができると考えられ、栄養アセスメントの一次的なスクリーニング評価に活用できる可能性が示唆された。
著者
圷 美奈子
出版者
和洋女子大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

明治期までの『枕草子』解釈史の中から、昭和期に起きた使用底本の切り替え等によって、本文と同時に切り捨てられてしまった部分をすべて拾い出し、古注釈と現代注の見解の関係について整理する作業を行った。『枕草子』について一度は断絶し、読みの歴史から失われてしまった「享受史」を復元する研究により、各章段・場面に関する新しい解釈の成果を得るとともに、現代における『枕草子』研究の問題の本質と課題とが明らかになった。
著者
高久田 佳津子 Katsuko TAKAKUDA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.157-161, 2015-03

2011年度から3年間、英語・英文学類で行った「英語ミュージカル」を通じて英語力の向上、英語による発信力の強化に向けた教育を行った。このプロジェクトは、2010年秋に行った英語教育に対してのイベントに関するアンケートで全学の学生が興味を示した(30%)「英語ミュージカル」を、通常の授業カリキュラムと関連づけた英語教育プログラムとして完成させることを目標としている。英語・英文学類所属教員は、文化、文学、言語というそれぞれの専門に合わせてこのプロジェクトに係わり、ミュージカル公演、佐倉基礎演習、通常授業の3つを機能的に連結させる試みを行った。通常授業である「アドヴァンスト・リーディング」、「文学と音楽」などの授業をプログラムに合わせて強化し、さらに「ミュージカル英語」のクラスを増設した。このプロジェクトは、英語の4技能を総合的に獲得する、つまり「人間の言葉」としての英語力を獲得する取り組みである。活動は、①テキスト製作、②佐倉セミナー、③里見祭でのミュージカル上演の3つに大きく分けられ、それぞれ当初の目的が達成された。題材として、『ウェスト・サイド・ストーリー』(2011年)、『マイ・フェア・レディ』(2012年)、『サウンド・オブ・ミュージック』(2013年)を選び、教育効果としては、①共同作業による学習意欲の増進、②自己アピールに必要な知識の獲得、③教養力のアップの3つのレベルで効果が認められた。
著者
坪野 圭介 Keisuke TSUBONO
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
no.62, pp.63-74, 2021-03-31

スコット・フィッツジェラルド(F. Scott Fitzgerald)の長編小説『グレート・ギャツビー』(The Great Gatsby, 1925)には、様々なレベルで遊園地のイメージの利用が見られる。主人公ジェイ・ギャツビーの屋敷をはじめ、建築はしばしば「見世物」の要素をもち、作中で重要な役割を果たす自動車は「アトラクション」の効果をもつ。本稿が検証するのは、『ギャツビー』という作品が、シカゴ万国博覧会を祖とするニューヨークの遊園地コニーアイランドを象徴的に物語と重ねあわせることで、「狂騒の20年代」とも呼ばれる第一次世界大戦後のアメリカ社会を巧みに表象しつつ、主人公であるギャツビーと語り手ニックの姿勢の違いを浮き彫りにする過程である。
著者
金子 健彦 ティモシー マーフィー Takehiko KANEKO MURPHEY Timothy
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
no.62, pp.163-166, 2021-03-31

2019年12月、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;COVID-19)は、パンデミックを引き起こし、大学教育の運営にも大きな影響を及ぼした。今回、我々は新規に遠隔双方向の英語講義を開始するにあたり、Zoom会議システムを用いて、その立上げを支援する経験を得たのでその詳細を報告する。講義の開始前には、インターネットの接続状況や、端末機器の保有状況を調査した。また、講義の実際においては、Zoom会議システムが有するブレイクアウト機能、チャット機能、画面共有機能が有用であった。本システムの利用により、講義者、履修者のいずれのITリテラシーも向上した。今回利用したテレビ会議システムによる、遠隔双方向講義は、講義運営上大きな問題を生じなかったが、今後もその教育的効果の検証を継続することが重要と考える。
著者
後藤 政幸 佐藤 千恵 間中 友美 中島 肇 Masayuki GOTO Chie SATO Yumi MANAKA Hadjime NAKAJIMA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.127-133, 2015-03-31

りんごに5種ピレスロイド系農薬(ビフェントリン、ペルメトリン、シペルメトリン、フェンバレレート、デルタメトリン)を低濃度(残留基準濃度;0.5ppm)塗布後、室温・明所下で7日間保存した。保存1日後、4日後、7日後に可食部について残留農薬濃度を分析した。結果、Ⅰ型ピレスロイド(ビフェントリン、ペルメトリン)は保存1、4、7日後にそれぞれ0.26、0.12、0.06ppm、Ⅱ型ピレスロイド(シペルメトリン、フェンバレレート、デルタメトリン)は0.44、0.37、0.35ppmに減少した。1日間および7日間保存のりんごについて、果皮および果肉に分けて残留農薬の分析を行った結果、果肉は7日間保存の試料にだけⅡ型農薬(シペルメトリン、フェンバレレート、デルタメトリン)が微量検出され、果肉中農薬量/果皮中農薬量の割合は3.0~4.9%であった。 次いで、りんご果皮に付着している農薬の除去法について検討した。りんごに同様の低濃度農薬を塗布して、水洗およびふきとり操作を行った。可食部について農薬分析を行った結果、水洗操作では5種ピレスロイド系農薬の残留率は93~99%、ふきとり操作では22%~42%であり、水洗による農薬除去は期待できなかったが、ふきとりは農薬除去に有効であった。
著者
布施谷 節子 松本 智絵美
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.27-39, 2004-03
被引用文献数
1

The authors investigated the difference and relationship between female students and their mothers on their fashion interest and clothing behavior by questionnaire in 2002. The subjects consisted of 165 female students 108 mothers. Main results were as follows: 1) A few factors which meant the fashion interest and the purchasing behavior were drawn by factor analysis. 2) Many students judged their mothers did not dress smartly and they didn't want to dress like their mothers in future. 3) The students who went shopping with their mothers yearned for their mothers' fashion and were bought own clothes by their mothers. There was a positive relation between the shopping stores and fashion interest. 4) When the students regarded mothers' fashion with yearning, they lent and borrowed each other's clothes or fashion goods.
著者
市村 美帆 新井 洋輔
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.165-174, 2020-03-31

本研究の目的は、大学生が双子コーデ現象をどのように捉えているのか、双子コーデの経験有無による違いについて検討することである。大学生161名を対象に質問紙調査を行った。その結果、大学生は、テレビやSNSおよびインターネットで双子コーデの情報に触れたり、友だちが双子コーデをしていたり、実際に街中で双子コーデをしている人たちをみたことがあるといったように、様々な形で現象に触れていた。双子コーデは主として女性同士で行われる現象であるが、男性もしくは異性同士でも行われるものでもあることや、関係の深い2人によって双子コーデが行われると捉えられていた。また、大学生は双子コーデを、楽しく、テンションがあがることと考え、双子コーデというファッションにかわいいやほほえましいといった評価をしており、好意的に捉えていた。双子コーデをする理由については、「自分の楽しさ志向」「友だちとの関係志向」「流行・社会志向」の3つのまとまりに整理された。双子コーデの未経験者で今後経験したくない者は双子コーデをする理由を「友だちとの関係志向」で捉え、双子コーデの経験者や今後経験してみたい者は双子コーデをする理由を「自分の楽しさ志向」と考えていた。
著者
大野 信子 岡留 美穂 李 晶
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.203-212, 2003-03

リンゴ果実青カビ病菌Penicillium expansumの酵素の生産とペクチン分解酵素を精製し、酵素化学的性質を調べた。供試菌株は、ペクチンー無機塩類培地で、比較的短時間に、培養濾液の中に、ポリガラクツロナーゼを生産した。本菌株を窒素源としてリン酸アンモニウム(0.5%)、ペクチン(2.0%)含む無機塩類培地を用いて30℃において、4日間振とう培養した場合、培養液中の総ポリガラクツロナーゼの活性が最大(1.56U/ml)に達した。培養濾液中からDEAE-セルロースクロマトグラフィーで2つの活性画分(ポリガラクツロナーゼI、II)を精製した。それぞれポリガラクツロナーゼIとIIの活性の最適pHは4.8と5.5、最適温度は同じく40℃であった。両酵素とも0~40℃、pH3~7.5の範囲で安定であった。両酵素の活性は1mM Ca^<2+>、1mM Mg^<2+>によってそれぞれ約50~60%と約70~80%までに阻害された。The productivity of pectin degrading enzyme in an apple fruit blue mold, Penicillium expansion and properties of the partially purified enzymes were examined. In the pectin-inorganic salt medium, the organism produced extracellular polygalacturonases. The activity of total polygalacturonase in the culture solution was achieved largest (1.56 U/ml), when it was incubated in the medium containing pectin (2.0%) and ammonium phosphate (0.5%) at 30℃ for 4 days. Two active fractions (polygalacturonase I and II) were purified from the culture filtrate by DEAE-cellulose chromatography. The optimum pHs for the activities of I and II were 4.8 and 5.5, and the optimum temperatures were about 40℃. Both enzymes were stable within 0~40℃ and pH 3~7.5. Their activities were remarkably inhibited by 1 mM Ca^<2+> and 1 mM Mg^<2+>.
著者
坂田 実花 岡本 秀明 MIKA SAKATA Hideaki OKAMOTO
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.67-79, 2009-03

本研究では、市川市の高齢者が現在の居住している住宅に対してどのような意識を持っているのか、高齢者が感じる住生活上の問題点および住宅改善の希望内容を整理することで、全体的な傾向を明らかにすることを目的とした。分析対象は、市川市で実施したアンケート調査で「現在お住まいの住宅で、年齢を重ねるにつれ、使いづらくなった点や困っている点、改善したい点を、ぜひ教えて下さい」と自由記述により回答を求め、この質問に関係する回答が記入されていた134票とした。 調査の結果、市川市の高齢者は自宅に対して①「住宅、設備による問題点と改修希望」と、②「その他の住環境に関連した問題点と改善希望」を有していることが明らかとなった。「住宅、設備による問題点と改善希望」では、「階段」、「浴室」、「居室・廊下」で問題点と改善希望が多くあげられた。問題点と改善希望の主な内容は、「階段昇降の負担」、「段差解消」、「手すり取付け」であった。「その他の住環境に関連した問題点と改善希望」については、「日照」、「防災・防犯」、「改修困難」、「生活継続不安」の4点があげられた。 以上のことから、市川市の高齢者が住み慣れた自宅で可能な限り安全かつ安心な生活を継続するためには、第1に普遍的な住宅のバリアフリー化を進めるとともに、個々人の身体状況や住宅状況に適した住宅改修の推進を行うこと。第2に介護保険などのバリアフリー化を進める住宅改修制度で対応することが出来ない問題点については、ニーズに合致した制度の充実、情報提供、利用促進が必要とされる。
著者
金丸 裕志
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
no.60, pp.23-33, 2019-03-31

本稿は、これまでの政治体制の比較研究における民主化論や政治体制論を検討し、21世紀に入って盛 んに論じられている権威主義体制の研究に着目して、政治体制の実証的分類および体制移行の検証を可能 にする分析枠組みの構築を目的とする。冷戦後の民主化の時代には、政治学では盛んに民主化研究が行わ れ、1990年代に民主化の限界が見えると、今度は権威主義体制とのグレーゾーンに位置する政治体制が 注目された。21世紀には民主化の「後退」や「バックラッシュ」がいわれ、現在は権威主義体制の研究 が盛んに行われている。本稿では、こうした流れに沿って、民主化論、グレーゾーン体制、選挙権威主義・ 競争的権威主義体制論を順に検討し、これらをふまえて自由民主主義・選挙民主主義・競争的権威主義・ 覇権政党・一党独裁・君主政/軍政/個人独裁の類型からなる政治体制の分類枠組みを提示する。この分 類枠組みは、要素累積的に構成されており、そのため、政治体制の比較研究および体制変動の検証に有効 であると考えられる。
著者
佐藤 勝明 Katsuaki SATO
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
no.62, pp.201-212, 2021-03-31

蕉風以外の未注釈の連句作品を分析する第二弾として、無倫編『俳諧紙文夾』(元禄十年秋序)に収められる、嵐雪・無倫・艶士・止水による四吟歌仙を対象とする。そして、その分析により、嵐雪と無倫らの間に不協和音は感じられず、芭蕉流の付け方が共有されていると見られるものの、各付合では詞の連想に頼った側面もあり、一巻全体では変化を重んじる意識が希薄であることを指摘する。
著者
山下 景秋 Kageaki YAMASHITA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.113-121, 2021-03-31

In this paper, I consider the quality of products and agricultural products by setting the cost of producing quality (quality cost) and the number of sales as a result of quality. Since the number of sales is a function of price and quality cost, I consider that the profit of a company (farmer) is a function of price and quality cost. In this paper, in order to achieve maximum profit, there are three adjustment methods: (1) price adjustment, (2) average variable quality cost adjustment, and (3) price and average variable quality cost adjustment. The route by which profits are achieved is shown graphically. Based on this, I considered when and by what adjustment these three maximum profits would be achieved.
著者
黒田 誠 Makoto KURODA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.49-61, 2014-03

映画作品Peter Pan と原作の文学作品Peter and Wendy を対象にして、それぞれのシーンやストーリーの詳細項目の対比から同等性と差異性の要素となる具体例を検証することにより、作品の保有する固有名詞概念に関する同等性判断の外延範囲の拡張を要求すると思われる存在論的問題性についての考察を試みる。手法としては観念小説の概念記述と映画作品の映像記述の間の種々の位相変換の過程を辿ることにより、量子的多世界解釈における平行宇宙において指摘し得ると思われる間世界的存在同一性と類比的な、意味空間における相当的同等性と可能態における分岐的発現可能性に対する示唆として仮構記述の内実を評価し、人格や現象において指摘し得ると同様の多宇宙的存在発現様態が映像的仮構において変換記述されていることの実例を示す。
著者
三善 勝代 KATSUYO MIYOSHI
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.35-47, 2012-03

男女雇用機会均等法が施行された25年前、夫婦共働き世帯はまだ少数派であったが、職場からの転勤(勤務地の変更)の要請に対し、一時的な夫婦別居つまりコミューター・マリッジで応える事例が存在した。国家公務員夫婦5組と通商産業省(現、経済産業省)初の女性官僚、坂本春生の場合が、それに該当する。国家公務員女性の転勤見直しが求められている現在、そうした先駆的な対応の実態と含意を把握すべく、両者のケース・スタディを試みた。用いた主資料は、前者を含む専門職・管理職の別居夫婦50組に対する面接・聞き取り調査(1989年筆者実施)の結果と坂本の体験記(1988年公刊)である。坂本に対しては、面接による追調査も実施した(2011年8 月)。 その結果、国家公務員夫婦がコミューター・マリッジによって職務を完遂し親密関係も保持できるのは、主として、赴任期間つまり夫婦別居の期間がほぼ2年未満と短い上に、日頃から万全の備えをして共働き継続に臨んでいることによる、と判明した。ただし、夫婦双方の異動に際してこの種の対応を繰り返せば、結果的に別居期間が長引くことになり、個人的な努力を超える事態も生じかねない。 共働きが多数派となり、男女双方におけるワーク・ライフ・バランスが標榜されている今日、転勤施策についても、国家公務員夫婦が提案し坂本が展望するように、本人の意向と家族事情を反映させたものが、その実現に繋がると考えられる。しかし、民間企業における過去20年間の大勢は、依然として「会社主導の転勤者選定」となっている。そうした傾向に歯止めをかけるような支援が、まずは国家公務員から実施されることを期待したい。