著者
土田 真二
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、調査船「かいれい」によるマリアナ海溝の調査航海(平成29年5月5日-25日)に参加し、マリアナ海溝における魚類の生息限界に関する情報を得るため、ミニランダー(自己浮上式カメラシステム)を投入し、データの取得を行った。ミニランダーの投入は、計3回実施した。1回目および、2回目は、ミニランダーに搭載したトランスポンダによる音響測位の結果から、それぞれ水深8146mおよび7498mに設置されたことを確認した。3回目は、SeaBird社製CTDプロファイラー(SBE-19)の圧力センサーにより計測し、8178mに設置されたことを確認した。1回目は、連続撮影続として6時間24分19秒に渡る海底の映像を記録した。ヨコエビ類などを確認することはできたが、魚類は確認できなかった。2回目は、インターバル撮影とし、3時間毎に59分54秒の映像を記録した。8シーケンス、21時間59分54秒に渡る撮影に成功した。ヨコエビ類やアミ類とともに、マリアナスネイルフィッシュがランダー着底後の3時間39分に出現し始め、撮影終了まで多数確認された。最大、1フレームに6個体確認でき、餌となるマサバに螺集したヨコエビ類を捕食する行動も記録された。3回目もインターバル撮影とし、3時間毎に52分54秒の映像を記録した。12シーケンス、33時間52分54秒に渡る撮影に成功した。ランダーが着底すると、ヨコエビ類がすぐに餌のマサバに螺集し、周辺を遊泳するアミ類も記録された。ランダー着底後、17時間36分53秒に、マリアナスネイルフィッシュの映像を捉えることに成功した。その後最終シーケンスまで出現したが、すべて1フレームに最大1個体しか確認できず、外見から判断できる肝臓の形態から、同一個体であると判断した。これにより、圧力センサーによって深度計測された魚類の最深記録となった。
著者
吉光 淳子
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.98-108, 2018-09-01 (Released:2018-11-06)
参考文献数
16

二観測点間のP波の相対走時を異なる周波数帯で測定する手法を開発した.この手法では観測点下の地殻多重反射波によって生じる分散効果が自動的に補正される.0.03Hzから0.77Hzの周波数帯の中で狭帯域の10帯域を設定し,地殻多重反射波補正したP波波形を他方の観測点の波形と波形相関をとることで相対走時を測定する.この手法をフレンチポリネシアおよび北西太平洋に設置された広帯域海底地震計のデータ,および周辺の陸上地震観測点のデータに適用した.得られたデータに有限波長理論に基づくインバージョンを適用することにより,これまで十分な解像度が得られなかった領域において高分解能のトモグラフィーモデルを得ることに成功している.
著者
三浦 亮 井和丸 光 野口 直人 伊藤 誠 山下 幹也 中村 恭之 三浦 誠一
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.84-95, 2018-03-01 (Released:2018-04-24)
参考文献数
7

2011年に海洋研究開発機構で導入された可搬式マルチチャンネル反射法地震探査(可搬式MCS)システムでは,運用を開始して以来,ストリーマーケーブルの複数のアクティブセクションに同時に現れるノイズ(等走時ノイズ)が発生している.この等走時ノイズは,スクリューの回転あるいは電源系に起因して周期的に現れる場合,およびランダムに発生する場合がある.ノイズの発生はストリーマーケーブルの電気的性質に起因すると推定されているが,現在のところ根本的な解決には至っていない.中でもランダム型の等走時ノイズは,反射波シグナルより強い振幅かつ反射波シグナルに近い周波数帯域で現れることが多いため,重合後データに対しての悪影響が大きい.可搬式MCSデータの処理においては等走時ノイズのみを抑制し,シグナルを残すようなデータ処理法を適用する必要がある.等走時ノイズの速度特質を利用し,速度フィルターの一種であるF-Kフィルター(周波数・波数領域フィルター)の適用を試みたところ,完全に除去することはできないものの,ノイズの影響を抑制することができた.
著者
菅 寿美 坂井 三郎 豊福 高志 大河内 直彦
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-33, 2013 (Released:2013-11-30)
参考文献数
21
被引用文献数
3

近年,生物石灰化機構を調べる研究において,生物の殻と生育している環境水中の炭酸系とのつながりが注目されるようになり,炭酸系を継続的に分析する必要性が高まってきた.試水中の炭酸系を把握するためには,pHとアルカリ度とを分析するのがもっとも簡便である.これは飼育実験のように採水量がごく少量に限られる試水に適用するにも都合が良い.本報告では,海洋化学の分野で用いられているアルカリ度の一点法をもとに,試水量を1 mLにまで減らした分析手法を提案する.重量測定により量り取り量を補正すると,アルカリ度の繰り返し精度は相対標準偏差で0.1~0.2%となった.重量補正なしでは相対標準偏差で0.1~1.0%となった.参照海水を常に試水間に挟み分析することにより,日々の値の系統誤差は補正できることがわかった.この手法を用いれば,pHメータのみを用いて,微量な試水中の炭酸系を生物石灰化メカニズムの解明に十分な精度で継続的に知ることができる.
著者
廣瀬 丈洋
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

沈み込み帯で発生するスロー地震には、水が深く関与していると考えられている。しかし、スロー地震の物理的発生メカニズムはまだよくわかっていない。本研究では、間隙水圧比(静岩圧に対する水圧の割合)がスロー地震の発生と密接に関わっているという仮説を、地震発生域の熱水環境を再現した低~高速すべり摩擦実験によって検証したい。特に、「断層の摩擦特性が間隙水圧比の変動によってどのように変化するのか」ということを詳細に調べて、物質学的視点からスロー地震の発生機構の解明を目指す。平成29年度は、初年度に設置した回転式熱水摩擦試験のシール、載荷、昇温性能を確認するための予備試験を進めるとともに、粉末模擬断層試料をもちいて摩擦実験をおこなえるように試料ホルダーの改良と試料作製ツールの研究開発を行った。作成した試料ホルダーとスロー地震発生場に存在しうる物質を用いた予備実験は順調に進んでいるが、熱水条件下での実験を行うには労働安全衛生法に基づく第一種圧力容器の落成検査等の手続きが必要であり、最終年度前半に手続きを進める予定である。実際にスロー地震発生場でどの程度の異常間隙水圧が存在しているのかを調べて、その結果を実験条件に反映すべく、南海トラフ室戸沖のスロー地震発生場における間隙水圧を掘削時に観察された遷移的泥水フローの解析から推定することを試みた。その結果、室戸沖プレート境界直下で、静水圧より2~4 MPaほど大きな異常間隙水圧が推定された。この値は間隙水圧比に換算すると約0.4となる。今後この値を基準値として間隙水圧比を変化させて、水圧比と摩擦特性の相関関係を探る予定である。
著者
齋藤 秀亮 荻堂 盛誉 長谷 英昭 田中 克彦 北山 智暁 伊禮 一宏 嘉陽 牧乃 仲村 亮 園田 朗 華房 康憲 丸山 正
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.73-80, 2014 (Released:2014-11-18)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球情報研究センターでは,JAMSTECが保有する潜水調査船や無人探査機で取得された膨大な深海の映像や静止画像を管理し,インターネットに公開している.国際海洋環境情報センター(GODAC)にて2011年から稼働を開始しているデータベースシステム「深海映像・画像アーカイブス(J-EDI)」は,配信している深海映像や画像の撮影環境の多様さやその量において他に類を見ない.潜航調査で撮影されたオリジナルの映像や画像は公開用にフォーマット変換やサイズ変更され,公開用の映像や画像にはGODACスタッフによって被写体に応じたアノテーションが付与されている.J-EDIの稼働によりアノテーションが付与された公開映像の数は飛躍的に増加した.一方,映像利用のためには適切なフォーマットでの公開が必要であるが,オリジナル映像のフォーマットが多様化することで,公開用フォーマットへの変換処理が煩雑になる課題がある.さらに,アノテーションは,膨大な量の深海映像や画像から目的のものを探すために有効であるが,記録された物体の詳細な同定には専門的な知識が必須である.現在のJ-EDIにおけるアノテーションの多くは大まかな分類情報しか示していないため,専門家と協働したアノテーション付与体制を構築することが必要である.
著者
井尻 暁 坂井 三郎
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

熊野海盆海底泥火山および、下北八戸沖石炭層の掘削によって得られた堆積物試料からメタンを抽出し、メタンの生成温度の指標となるクランプトアイソトープを測定した。この結果、熊野海盆泥火山では断層を通じた水の供給により活性化した微生物によるメタン生成の寄与が非常に大きいことが明らかになった。八戸沖石炭層では海底下の微生物の生息限界に近い海底下深部(2500m)でもメタン生成が行われていることが明らかとなった。
著者
坪井 誠司 園田 朗 華房 康憲 石川 洋一 長谷 英昭 齋藤 秀亮 佐藤 孝子 福田 和代 田中 克彦 五十嵐 弘道 丸山 正 今脇 資郎
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.43-51, 2014 (Released:2014-11-18)
参考文献数
13
被引用文献数
1

2009年の海洋研究開発機構第2期中期計画開始に伴って新設された地球情報研究センター(DrC)は,海洋研究開発機構の研究調査船等で取得された様々な海洋地球観測データおよび生物や岩石試料等のサンプルの公開・流通を実施してきた.これらのデータ・サンプルについては,2007年に制定された「データ・サンプルの取り扱いに関する基本方針」が,その取り扱いの基本となっている.本稿では,データ・サンプルの公開状況を概観し,第2期中期計画期間に構築されてきた,これらのデータ・サンプルを管理・公開するためのDrCのデータベースシステムの中から,JAMSTEC航海・潜航データ探索システム,深海映像・画像アーカイブス,および海洋生物多様性情報システム(BISMaL)を紹介する.さらに,教育・社会経済分野等のニーズに対応するための取り組みについて解説する.
著者
羽生 毅 小川 奈々子 大河内 直彦
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

炭素を含む揮発性成分の地球表層とマントルの間の循環過程はよく分かっていない。マントルに地球表層由来の炭素が存在するかどうかを検証するために、火山岩に含まれる炭素濃度と同位体を分析する技術開発を行った。二酸化炭素は火山岩が噴出するときに容易に脱ガスするため、ガスを保持していると考えられる海底噴出急冷ガラス試料を対象とした全岩分析と、火山岩中の斑晶に含まれるメルト包有物を対象とした局所分析を行った。この手法をマントル深部由来の海洋島玄武岩に応用した結果、一部の海洋島玄武岩には地球表層由来の炭素が含まれている可能性が示唆された。
著者
森 修一 服部 美紀 山中 大学 橋口 浩之 高橋 幸弘 濱田 純一
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

落雷被害の社会的影響が大きいインドネシアのジャカルタ首都圏の雷雨を対象とし,長期現業地上観測データに基づく気候学的解析を行うと共に,レーダー等による特別観測を実施した.その結果,雷雨は対流季節内振動(MJO)の東進と共に大きく変動し,MJO活発域の到来直前(Phase 3)に最も激しくなる.また,雷雨の季節進行は多くの地点で雨季直前(4月,11月)に活発となるが,赤道越え北風モンスーンサージ(CENS)が影響し,ジャワ海沿岸のみ2月が最盛期となるなど地理的差異も大きい.さらに,雷雨はジャワ島南部の山岳域で発生し,北部沿岸のジャカルタ都市部へ移動する日周期移動が顕著であること等が明らかとなった.
著者
岩森 光 横山 哲也 中村 仁美 石塚 治 吉田 晶樹 羽生 毅 Tatiana Churikova Boris Gordeychik Asobo Asaah Festus T. Aka 清水 健二 西澤 達治 小澤 恭弘
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

全地球に分布する主に第四紀に噴火した玄武岩の組成に基づき、地球内部の不均質構造を調べた。これは人体の血液検査に例えることができる。特に、最近提案された「マントルの東西半球構造」に注目し、(1)半球構造の境界付近の詳細研究、(2)地球全体のデータに関する独立成分分析、(3)水を含むマントル対流シミュレーションを行った。その結果、東半球はより親水成分に富み、かつマントル浅部から内核にいたるまで、超大陸の分布に支配される「Top-down hemispherical dynamics」を介して長波長の大構造を有することが示唆された。