著者
林 政彦 間中 祐二 高木 秀雄
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1-4, pp.27-32, 1996-12-31 (Released:2017-01-16)
参考文献数
4

鑑別が最も困難な宝石の一つに数えあげられる水晶をFT-IRによって、400〜7000cm^<-1>の領域における吸収を調べたところ、ブラジル産、川端下産、玄倉産および竹森産の水晶に共通して、3595cm^<-1>に特徴的な吸収が見られるのがわかった。一方、アメリカ製や日本製合成水晶には3585cm^<-1>に見られる吸収がそれに相当するものと思われるが、明らかに天然水晶より短波数側にシフトしていることがわかった。また、CL像では天然特有と思われる成長模様の相違が見い出されている。アメシストも同様に区別が可能である。しかし、シトリンについては、今回の分析結果から天然と合成の違いは見い出されなかった。以上のことから、水晶における天然と合成の鑑別はその生成環境の違いからFT-IRやCL像の観察によって可能と思われる。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2022年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.13, 2022 (Released:2022-07-08)
参考文献数
2

昨年の宝石学会でミャンマー産のピンク・ジェダイトの着色原因について調査を行った。以前のミャンマー産だけでなく、国石でもある日本産でもピンクのジェダイトはないかと考えた。しかし、市場で糸魚川産のピンク・ジェダイト(ひすい)として販売されているものも見られたが、実際それらは翡翠ではなく着色された処理石を除くと、チューライトかクリノチューライトであり、ジェダイトは見られなかった。文献ではこれらのピンク色の石について、ピンクのゾイサイトであるチューライトとしているものもあれば、ピンクのクリノゾイサイトであるクリノチューライトと記載されているものも見られた。そこで、市場で販売されている糸魚川近郊から産出したとされるピンク色の石を5石ほどラマン分光や FT-IR の検査を行ったところ、1石はチューライトで、4石はクリノチューライトであった。FT-IR では反射のスペクトルを計測すると、ゾイサイトとクリノゾイサイトはかなり近いスペクトルだが、 1046cm-1の付近のピークに違いがあり、今回のチューライト、クリノチューライトでも同様に違いが確認された。また、直方晶系のゾイサイトと単斜晶系のクリノゾイサイトは、結晶系の違いによる分類であるが、 G. Funz(1992)によると、それはAl3+と置換した Fe3+が多くなると、クリノゾイサイトになると説明されていた。今回のサンプルは少ないながらも、蛍光 X 線による成分分析で Fe2O3 がチューライトのものでは1.17wt%であるのに対して、クリノチューライトのものは 1.88~2.51wt%と違いが見られた。糸魚川近郊を産地とするピンクの翡翠は見つけられなかったが、天然の鉱物としてはチューライトやクリノチューライトが見られ、それらがピンクの翡翠と勘違いされていることが確認された。

1 0 0 0 OA GGG について

著者
並木 正男
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.76-77, 1976-07-15 (Released:2017-01-16)
著者
植田 直美
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.25, pp.3, 2003

琥珀は数少ない有機物を起源とする宝石の一種である。その産出地も限られており最も有名なものにバルト海沿岸のものがある。日本でも少量産地は北海道から九州まで散在しているが主な産地は久慈市、いわき市、銚子市など数えるほどしかない。また、生成年代も世界各地の産地ごとに異なり白亜紀から新生代まで幅広く分布する。中には虫や植物の一部が包括されている場合もあり地質学・有機化学・生物学・植物学・考古学・文化財科学など様々な分野の専門家が興味を抱く対象となる。琥珀は古代から装飾品として使用されてきた。日本では今までの発掘結果から、旧石器時代までその使用がさかのぼることがわかっている。その後は縄文時代から古墳時代まで(弥生時代にはほとんど見かけられないが)主に首飾りなどの装身具として様々な形の玉に加工されたものや加工の途中の未製品も各地の遺跡から数多く発掘されている。以前は土の中に隠れてしまい検出できないものも多かったが最近の発掘技術の進歩により、多くの出土琥珀製品が見つけられるようになって研究が進んで来た。しかし、中世から近世の発掘報告では他の材質の玉類も同様であるが琥珀製品はほとんど発掘されることはなくなる。その後さらに時代が進み近代から現代になって出土品ではないが、再び装飾品として登場することとなる。その間、発掘品では琥珀は数珠などの仏具としての用途に限られ、その他は正倉院に伝世している装飾具に限られるようになる。 古代の人々の装飾品に対する思想は現在のものとは異なり、装身具の対象はほとんどが死者で哀悼の念を表現する装身具であるといわれている。そのため古代人が生きている間にどのような装身具を身に着けていたかを推測するのは非常に難しく、琥珀が宝石の中でどのような位置づけをもっていたか、おそらく時代によっても異なると思われるが非常に興味が持たれる。 一方、発掘された琥珀は、そのほとんど全てが琥珀本来の輝きを失い非常に脆く崩壊しているものが多い。琥珀の劣化状態を調べることは文化財である琥珀製品を後世にまで長く残すための保存技術を開発する上でも重要である。さらに、現在装飾品として使用されている琥珀の劣化についても同様な研究が役に立つと考える。琥珀の劣化要因についての研究は進んでおり、劣化を防ぐ手段についてもさらに研究は進むと思われる。 最近まで国内で行なわれていた分析はほとんど赤外分光分析(FT-IR)のみであった。この分析法は産地ごとに異なったスペクトルが得られることが特徴で標準の琥珀のスペクトルから産地を推定する手段として最もポピュラーな分析法であった。そのような中で古代の琥珀製装飾品は保存科学的あるいは考古学的な研究を進めるため科学分析が行なわれてきた。保存科学的には琥珀であるかどうかの判断および劣化状態を把握するため、また考古学的には古代の交易を探る手がかりのひとつとなる出土琥珀の産地を推定する手段として実施されてきた。近年、核磁気共鳴(NMR)法や熱分析法による分析法が開発され実施されるようになった。これらの分析法は赤外分光分析だけでは判断することが難しかった劣化した琥珀の産地推定や構造解析への応用の可能性を持っている。現在まだ、完全に適用できるデータを揃えていないため今後の研究に期待がかかる。また各種の分析結果を総合して結論を導くことはより信頼のある結果を得るためには必要なことであると考える。 琥珀は長い年月の間に様々な樹木から流れ出た樹脂が高分子化したもので国外の琥珀については様々な分析方法を総合し、構造が解明されているが国内の琥珀については今のところ構造解析は進んでいない。これについては今後前記以外の分析方法を用いることにより国内の主産地琥珀の比較や国外の琥珀との比較を行い、分子構造を決定することができるようになると期待する。以上のように琥珀全般にわたり、現在国外および国内で行なわれている研究や現状を紹介する。
著者
上根 学 チャンドラー ラビ 古屋 正貴 畠 健一
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.36, 2014

英国のウイリアム王子からケイト妃に贈られた婚約指輪は,ブルー・サファイアである.ウイリアム王子の母であり,世紀のロイヤリティ・ウエディングといわれたダイアナ妃の左手に輝いていたものと同じブルー・サファイアである.このブルー・サファイアはスリランカのラトゥナプラ産であり,ラトゥナプラの宝石商からかつてエリザベス女王に献上されたものであった.2011年.スリランカのカタラガマで良質でしかも大粒のブルー・サファイアが産出されたことは記憶に新しい.今回,スリランカにおける良質なブルー・サファイアを産出する代表的な4つの鉱山,サバラガムワ県のラトゥナプラ,パルマドゥッラ,そしてウーバ県のオッカンベディア,新鉱区であるカタラガマを現地調査した.<br>各地区の鉱山数は現在,ラトゥナプラで約3000箇所,パルマドゥッラで約300箇所,オッカンベディアで50~60箇所,そして新鉱区となったカタラガマは10~20箇所で採掘されている.サンプル石の産地確認を徹底するために各鉱区の鉱山から直接原石を入手し,研磨,インクルージョン観察を試みた.更にFTIRにより,Fe,Ti,Ga,Crの成分分析,蛍光X分析を試みた.今回の現地調査の目的は,加熱処理,Be加熱処理が横行する中,確かなサンプル検査石を入手すること,そして各鉱区の品質をジェム・クオリティー,ジュエリー&bull;クオリティー,アクセサリー・クオリティーの3段階に分けそれぞれ3クオリティーのブルー・サファイアの出現率を調査することにあった.宝石の価格相場は,宝石の品質を評価し,その品質の出現率と需要できまる.今回,スリランカ産ブルー・サファイアの新鉱山を含む4鉱区を調査実施したので,その原産地状況を報告する.
著者
古屋 正貴 エリアス チャールズ M.
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.35, 2013

パラサイトに含まれるオリビンを宝石としてカットできるようになってから,市場でもパラサイト起源のペリドットが見られるようになった.これらはすでにいくつかの研究がされているが,この度,アメリカのAdmire隕石からカットされたペリドットを検査する機会を得たので,改めて通常の地球起源のペリドットとの比較,検証を行った.<BR> 検査としては拡大検査,屈折率,比重などの通常の鑑別検査と共に,蛍光X線での成分分析,FT-IRや紫外可視分光光度計などの分析機器を用いた検査を行い,その他にも磁石を用いての磁性の検査などを行った.<BR> パラサイト起源のペリドットに地球起源のものとの違いが見られた点としては,拡大検査のインクルージョンでは1) 周りの鉄質隕石が含まれたもの,2) 独特な針状インクルージョン,3) 地球起源のものではあまり見られない強いクリベージなどが認められた.また,屈折率と比重との関係において,パラサイト起源のものの方に比重が高くなる傾向がみられた.そのほか成分分析からは,パラサイト起源のものにニッケル分が低い特徴が見られた.またカット石では母岩と成る鉄質隕石をインクルージョンと含むものでは強い磁性も違いとして認められた.<BR> 数は少ないもののAdmire隕石以外の隕石との比較ではあまり有効な違いは見られなかった.これはそのペリドットの生成が,火星と木星のアステロイドベルトの小惑星同士の衝突によるもので,それが地球のどこに隕石として落ちたかの違いであり,由来自体には違いがないためと推測される.<BR> 上記のような違いがパラサイト起源のペリドットと地球起源のペリドットには認められ,それらを宝石鑑別上でも区別することが可能であることが分かった.<BR> 【参考文献】<BR>1. Leelawathanasuk, T., et al. "Pallasitic peridot: The gemstone from Outer Space" IGC 2011 Interlaken, Switherland<BR>2. Shen, A., et al. "Identification of extraterrestrial peridot by trace elements" Gem and Gemology, Fall 2011, United States<BR>3. Wikipedia, "Pallasite" Internet homepage
著者
林 政彦
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.31-35, 2008
参考文献数
15

The history of the gemmology in Japan can roughly be divided into three agesas follows. 1) The 1st age: the Tsunashiro Wada (1856-1920) and Satoshi Suzuki hadtaken an active part around 1900. T. Wada wrote the "Hougyokushi (寶玉試)" in 1889. It was the first textbook of the gemmology in Japan. 2) The 2nd age: the gemmology was made well known by Takeo Kume (1887-1958) and so on in around 1960. 3) The 3rd (present) age: after the gemmological society of Japan (GSJ) wasinitiated in 1974. It is common knowledge fact that GSJ contributed to the improvement of thegemology in the world.
著者
林 政彦
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.25, pp.6-7, 2003

宝石学会(日本)創立の際の趣意書に、「久米武夫氏の初期的な研究がありながら、日本には宝石学が在存しないという比判が外国の宝石学者からしばしば寄せられたものです。」(1)と書かれているように、宝石学会の設立は当時の時代の要請であった。今からちょうど30年前に発起人たちが集まり、その翌年に宝石学会(日本)が創設され、宝石学(Gemmology)の発展に貢献してきた。その結果、現在のわが国の宝石学のレベルは他の国に肩を並べるようになった。特に、さまざまな最新鋭の分析機器が宝石の鑑別にも利用され、最新知見が得られた結果、宝石学の発展にも寄与した(2)。今回、わが国に宝石学が導入されてきた時期について調べてみたので報告する。
著者
奥山 宗之 川野 潤 宮田 雄史
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.28, pp.7, 2006

今日では、サファイアの熱処理は一般的に行われている。特にベリリウムを添加したパパラチャ・サファイアが市場を混乱させたことは記憶に新しい。現在の所、これらの熱処理はサファイアの融点直下で行われていると信じられており、鑑別もこのような高温での処理を前提としている。しかし、さらに低い温度での熱処理がなされ、これが鑑別をすり抜けている可能性は否定できない。<BR> そこで、本研究ではサファイア中での添加元素の拡散定数を求めることによって、試料中での当該元素の濃度分布を測定することにより、処理温度、時間を推定するなどの新しい鑑別手段を提供するための基礎データの収集を試みた。<BR> 前述のパパラチャ・サファイアを想定して、添加元素としてBeを選択した。 ただしBeは毒性が高く、実験を行う際に危険を生じる可能性がある。そこで本研究では、ベリリウムの拡散について、まず分子動力学法(Molecular Dynamics、以下MD)を用いたコンピューターシミュレーションを行った。MDは、費用もかからず危険性も無いだけでなく、原子レベルでBeの拡散挙動を知ることが出来る。さらにこの結果を用いれば、効率的に実験条件を設定することが可能であるため、シミュレーション結果に基づいて高温路炉における実験を行い、総合的にコランダムにおけるBeの拡散挙動を調べた。<BR> MD計算を行うにあたっては、新たにAlおよびBe原子に働く力のパラメーターを導出した。このパラメーターは、コランダム(α‐Al2O3)、ブロメライト(BeO)とクリソベリル(BeAl2O4)の物性を精度よく再現する。このパラメーターを用いて、コランダム中にBeを添加した系でMD計算を行ったところ、融点直下の2000℃付近のみでなく、約1000℃までBeが拡散した。<BR> MD計算の結果より比較的低温でも拡散が起こりうる可能性があることが明らかになったので、800, 1000, 1200, 1450℃において市販のベルヌイ合成のホワイト・サファイアを酸化ベリリウムとともに加熱した。この結果、1450℃の加熱で色の変化を示した。この試料の組成分析を行った結果、実際にBeが拡散していることが確認された。<BR> これらの結果より、一般的な加熱温度(1800℃)より低温(1450℃)でもBeは拡散することが明らかになった。さらに、MD計算で求められたBeの拡散定数と、高温炉実験で得られた結果を比較すると、この実験系でのシミュレーションは有効であるとみなせる。この結果は、新たな鑑別手段としての可能性を示唆している。
著者
乙竹 宏
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.23-25, 1978

The cultured pearl industry in Japan developed rapidly, both in expanding pearl fishery fields from Mie Prefecture to Nagasaki Prefecture and along the Seto Inland Sea, and in expanding trade market in the world. Although during the Meiji era (〜1912), Mikimoto monopolizd the cultured pearl industry, strong competations against Mikimoto's monopoly appeared gradually in the Taisho era. In the Showa era, two groups started to co-operate and self-controlled the production. It seems that the cultured pearl industry in Japan was developing in harmony during these days, in spite of the fact that the production increased in a reciprocal relation with the decrease in sales and prices. However, outbreak of the 2nd World War stopped this harmonic development and gave the most severe damage to the Japanese cultured pearl industry. The production of cultured pearl was entirely forced to cease during the war.
著者
古屋 正司
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.26, pp.8, 2004

2002年11月頃、マダガスカル中央部のAmbatovita近郊のSakavalana花崗岩ペグマタイト中より大変めずらしいセシウム(Cs)とリチウム(Li)含有のピンク・ベリルが発見され、今世紀最初の新種石"ペツォッタイト"として登録された。<BR> Ambatovitaは宝石の町として有名なAntsirabeとFianarantsoaの中間、西よりの大ペグマタイト鉱床中にあり、この地区からは50箇所以上のペグマタイト鉱床が発見され、今まで他国で類を見ない宝石が産出されている。ペツォッタイトが発見された地区からは、トルマリン、クンツァイト、水晶類、長石類ゥ凾黷驕B<BR> 特に今まで見た事もないようなイエローのダンブライトの産出があった。それはまさにマダガスカルを代表するイエロー・オーソクレーズに良く似た、美しい鮮やかなイエローであった。<BR> それらの宝石の産出状況や、EDXRF、FT-IR、紫外可視分光光度計ゥ凾閧級A他の産地との比較について発表する。
著者
高橋 泰 三木 かおり
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.25, pp.8, 2003

一般的な色彩学の分野で論じられている色知覚の特性は、塗料(反射光)や特定の光源についての実験が大半である。宝石の場合、ファセット・カットされたカラーストーンは表面反射光、内部反射光、透過光が入り交じり複雑な外観を示すため、一般論で論じることができるとは限らない。カラーストーンにも人間の色知覚の特性が作用するか確かめるため、最初に透明な平板状の着色ガラスに対する近似色をカラーフィルムを組み合わせて作成し、機械測色により色差を算出した後、同じサンプルを被験者に目視検査で比色してもらった。その結果、色差の判定においては、明度の高い黄色、ピンク色、青色では機械測色の色差が小さかった割に、敏感に反応した。一方、明度の低い赤色、青色で色差の数値の割に、反応が鈍かった。また、緑色では明度の高低にかかわらず、肉眼は敏感に色差を知覚できることがわかった。このことは、透明体においても人間の色知覚の鈍感な色と敏感な色が同様に存在することを示し、色彩学での一般論に準ずる結果であった。<br> 次にカラーストーンのカット石について、前述した着色ガラス同様の比色実験を試みた。各カット石の近似色をカラーフィルターで作成し、それぞれのカラーストーンとの比色実験を被験者による目視検査で行った。結果は着色ガラスの場合に類似していた。高明度の黄色、青色、ピンク色、青紫色、緑色は機械測色における色差が比較的小さいにもかかわらず、その差を感じ取った被験者が多かった。イエロー・ダイアモンド、イエロー・トルマリン、ブルー・フルオライト、ロードライト・ガーネット(明)、クンツァイト、モルガナイト、タンザナイト、グリーン・フルオライトがその例である。逆に機械測色の色差が比較的大きいのに対し、肉眼がその色差を感じ取れなかったものは、暗色の赤色、青色、紫色であり、例としては、ロードライト・ガーネット(暗)、合成ブルー・スピネル、アメシストであった。<br> また、これらの検証を通して新たな問題点が浮上した。ファセット・カットされた石の色は外観上非常に複雑であり、平板状の着色ガラスに比べ近似色を作成する場合、難易度が格段に上がったことである。それは近似色フィルムとカット石の色差が着色ガラスの場合に比べ大きいことにも現れている。人間の目は複雑なカット石の色をどう捉えているか確認するため、カット石中の色を明度により明、中、暗の3段階に分け、それぞれの近似色を前述の実験同様に作成し、被験者に目視検査で比色してもらった。ここでの明色はKatzの色分類における「光輝」に、中色は「明るい容積色」、暗色は「暗い容積色」に相当する。比色実験の結果、中明度の「明るい容積色」を人間の目はファセット・カットされたカラーストーンの色として認識していることがわかった。
著者
北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.42, pp.53, 2020

<p>鉱物としてのトルマリンは、化学組成の幅が広く、スーパーグループを構成している。現在、 IMAの CNMNCにおいて 34種が承認されている。これらのうち宝石として市場で見られるもののほとんどは elbaiteで、一部が fluor-liddicotite、draviteおよび uvite等である。</p><p>パライバ・トルマリンは、1989年に宝石市場に登場し、一躍脚光を浴びた彩度が高く鮮やかな青色~緑色の銅着色のトルマリンである。鉱物学的には elbaiteであったが、当初ブラジルのパライバ州で発見されたため、宝飾業界ではパライバ・トルマリンと呼ばれるようになった。 1990年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州からも採掘されるようになり、両州から産出したものは混在したまま宝石市場で区別されることなくパライバ・トルマリンと呼ばれていた。</p><p>さらに 2000年代に入って、ブラジルから遠く離れたナイジェリアやモザンビークなどのアフリカ諸国からも同様の含銅トルマリンが産出されるようになり、国際的な議論の末、これらもパライバ・トルマリンと呼ばれるようになった。また、 2010年頃にモザンビークにおいて新たに fluor-liddicotiteの含銅トルマリンが発見され、現在は鉱物種に関係なくこれらもパライバ・トルマリンと呼ばれている。このようにパライバ・トルマリンはブラジル、ナイジェリア、モザンビークの3カ国から産出しているが、当初発見され、名前の由来にもなったブラジル産の人気が最も高い。そのため、流通の段階においてパライバ・トルマリンの原産地の特定が重要となる。</p><p>先端的な宝石鑑別ラボにおいてはLA-ICP-MSを用いた微量元素分析が原産地鑑別の主な手法として定着しているが、本稿では宝石顕微鏡による包有物の観察等の標準的な宝石学的検査と蛍光X線分析による元素分析による原産地鑑別の可能性について言及する。</p><p>ブラジルのパライバ州からはバターリャ鉱山とグロリアス鉱山から含銅トルマリンを産出しており、リオグランデ・ド・ノルテ州からはムルング鉱山とキントス鉱山から産出している。これらブラジル産のものはすべてペグマタイトの一次鉱床から産出している。いっぽう、ナイジェリアおよびモザンビークではペグマタイト由来ではあるが、二次鉱床から産出が見られる。そのため、ブラジル産の結晶原石は柱状の自形結晶に近いが、アフリカ産のものは磨耗による丸みを帯びた形をしている。トルマリンには一般にひび割れ状液体 inc.が見られるが、概してモザンビーク産やナイジェリア産のものはブラジル産に比較してその頻度が低い。また、 etch-channelと思われるチューブ状 inc.には二次鉱床由来のモザンビークとナイジェリア産にはしばしば酸化鉄による褐色の汚染が見られる。</p><p>蛍光X線分析において、CuOの実測値の平均はブラジル産では 1wt%以上のものが多いが、ナイジェリア及びモザンビーク産ではほとんどが 1wt%以下である。しかし、ブラジルのキントス鉱山産には 0.2-0.5wt%と低濃度のものがある反面アフリカ産でも1.5wt%を超えるものもある。ブラジル産でCuOの含有量の高いものには頻度はきわめて低いが自然銅 inc.が見られることがあり、産地特徴となっている。また、 CaOの濃度が高く、fluor-liddicotiteに分類されるものは、現時点においてはモザンビーク産にしか知られていない。</p>
著者
江森 健太郎 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.34, 2012

2001年9月頃からBe拡散処理が施されたオレンジ/ピンクのサファイアが大量に日本国内に輸入され話題となった。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、鑑別機関としての対応が遅れる結果となった。その後の精力的な研究によってBe拡散処理の理論的究明には進展が見られたが、軽元素であるBe(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、その後の検査機関のあり方を問われる結果となった。<BR>LA-ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による高速性と、ppb~ppmレベルの分析が可能な高感度性能を持つ質量分析装置である。鉱物等の固体試料の測定にはレーザーアブレーションにより直径数10μm程度の極狭小な範囲を蒸発させる必要があるが、Be拡散処理サファイアの鑑別には欠かせない新たな分析手法として宝石学分野においても活用されるようになった。さらにLA-ICP-MSは蛍光X線分析では検出できない微量元素の検出が可能であるため、それらの検出された微量成分の種類や組み合わせがケミカル・フィンガープリントとして宝石鉱物の原産地鑑別に応用されている。既にコランダム、エメラルド、パライバ・トルマリンなどでは多くの研究例があり、一定の成果が上がっている。<BR>本研究では、これらのLA-ICP-MS分析法の宝石学分野における他の重要な応用例の1つとして、天然及び合成ルビーの鑑別法について検討した。<BR>1990年代初頭、新産地であるベトナム産ルビーの発見と同時期に大量の加熱処理されたベルヌイ法合成ルビーが宝石市場に投入された。加熱が施されることにより、鑑別特徴であるカーブラインが見え難くなり、さらに液体様のフェザーが誘発されることで、識別が困難となった。1990年代半ば以降にはフラックス法によるカシャン、チャザム、ラモラ等の合成ルビーに加熱処理されたものが出現した。特にフラックス法合成ルビーは加熱によって内部特徴が変化すると、標準的な鑑別手法では識別が極めて困難となり、他の有効な鑑別手法の確立が必要とされている。本報告では、ベルヌイ法、結晶引上げ法、フラックス法、熱水法等の合成ルビーをLA-ICP-MSで分析し、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等の遷移元素や希土類元素等の相違について纏めた結果を紹介する。