著者
北脇 裕士 阿依 アヒマディ 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.28, pp.10, 2006

一昨年9月に鑑別表記のルール改定が行われ、コランダムについては大きな変更と新たなカテゴリーが設けられた。このきっかけになったのが、2002年以降突如として出現したBe拡散処理されたパパラチャ・カラー・サファイアである。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、業界としての対応も後手を踏む結果となった。その後の研究によってある程度の理論的究明には進展が見られたが、Be(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、今後の鑑別技術のあり方を問われる結果となった。<BR> Be拡散による主な色変化は2価の元素であるBeがコランダム中の3価のAl(アルミニウム)を置換することによって生じるトラップド・ホール・カラ・センターによってイエローが生じることによって説明がなされている。したがって、特にイエロー系のサファイアは加熱・非加熱あるいはBe拡散処理の識別が極めて困難な現状である。<BR> さて、今年の初め頃からバンコクのマーケットではBe拡散処理されたブルー・サファイアが見られるようになり、宝石業界の新たな脅威となりつつある。Gem Research Swiss lab (GRS)では2005年の11月にBe拡散処理ブルー・サファイアを確認しており、今年の初め頃より増加の傾向にあると報告している。日本国内でも少数ながら発見されており、宝石鑑別団体協議会(AGL)では各会員機関に注意を呼びかけている。<BR> GAAJラボで確認したBe拡散処理ブルー・サファイアには特徴的な円形~らせん状のインクルージョンが見られ、これが一般鑑別における重要な手がかりとなる。しかし、類似したインクルージョンはBe処理されていないものにも見られることがあり、最終的にはLIBSあるいはLA-ICP-MSによる分析が必要となる。これらのBe拡散処理されたブルー・サファイアからは数ppm~10数ppmのBeが検出されており、色の改変を目的に意図的にドープされたものと考えられる。<BR> さらにこれとは別にLA-ICP-MSにおいて1ppm以下のBeが検出されることがあり、これらはBe拡散処理に用いたルツボの再利用あるいは電気炉の汚染による偶発的な混入と推測されるが、このようなケースでの情報開示について国際的な議論がなされている。
著者
阿依 アヒマディ 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.28, pp.11, 2006

ブラジルのパライバ州のMina da Batalha鉱区及びリオグランデ ド ノルテ州のMulunguとAlto dos Quintos鉱区から産出された銅とマンガンを含有するブルー~グリーン色調のエルバイトは、1990年の初期に宝石業界において"パライバ"トルマリンと呼ばれるようになった。2001年からナイジェリアの西部イバダン州のEdeko鉱山、そして2005年の中頃、モザンビークのAlto Lingonha地域からも銅を含有するエルバイトの新しい供給源が発見され、ブルー~グリーン、バイオレット、ピンクなどを有するトルマリンが産出されている。色や外観だけでなく化学組成もブラジル産エルバイト・トルマリンと重複しているため、標準的な宝石鑑別や半定量化学分析値 (EDXRF分析により得られる)によってブラジルの素材との識別は困難である。<BR> 本研究では、ブラジル、ナイジェリア及びモザンビークのそれぞれの産地が既知の相当量の銅を含有する198個以上のブルー~グリーンのトルマリンをレーザーアブレーション・誘導結合プラズマ分析装置(LA-ICP-MS)を用いて分析した新しい化学データを示し、さらにこれらのデータをどのように原産地決定に用いるのかを評価した。<BR> 上記の産地からのトルマリンを区別するのに化学分析値が有効であることを示すため、副成分と微量元素の2つの異なった組み合わせ;(Ga + Pb)対(Cu + Mn)、(Cu + Mn)対Pb/Beの比率のプロッティング、微量元素の組み合わせ;Mg-Zn-Pbによるプロッティングをした。<BR> LA-ICP-MS分析によって得られた定量化学分析値では(Ga + Pb)対(Cu + Mn)、(Cu + Mn)対Pb/Beの比率のプロッティングやMg-Zn-Pbによって、3カ国から産出されたトルマリンを区別することができる。また微量元素の特徴として、ナイジェリア産トルマリンはより多くのGa、Ge及びPbを含むのに対してブラジル産はMg、ZnおよびSbが多い。モザンビークからの新しい含Cuトルマリンは、Be、Sc、Ga、Pb、およびBiに富むが、Mgを欠いている。<BR> 各産地のトルマリンの宝石学的特性や蛍光?線分析による化学組成が重複しているため、標準的な分析手法においてはこれらの地理的な産地を識別するのが困難である。世界の主要鑑別ラボや各国の業者団体はこのような状況を踏まえ、産地を問わずCuやMnを含有するブルー、ブルー~グリーン、グリーン、バイオレットのエルバイト・トルマリンを"パライバ・トルマリン"と呼ぶことに同意したが、本研究では産地鑑別にはより高度な定量化学分析が必要であることを強調する。
著者
神田 久生 渡邊 賢司 In Chung Jung
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.24, pp.6, 2002

3年前、ブラウンの天然ダイヤモンドを高圧下で熱処理することによって淡色化や緑色化させ、宝石としてのカラーグレードを向上させることが話題になった。このブラウンの着色は、結晶成長後、何らかの外圧で結晶がひずみ、そのとき生じた欠陥(カラーセンター)による着色であるといわれている。そして、そのカラーセンターは、熱処理により消失する不安定なものである。また、天然のピンクダイヤモンドも歪みが関係しているといわれている。このようなことから、結晶の色を考える場合、歪みも一つの考慮すべき評価要素といえよう。歪みに関しては、気相合成のダイヤモンド薄膜の研究においても良質の結晶の作製という観点から興味ある課題であり、薄膜内部の歪みの評価の研究も多い。今回は、カソード&middot;ルミネッセンス(電子線照射によって発生する蛍光)測定において、歪みに関係する情報が得られたので、それを報告する。熱処理によって色が変化するブラウン結晶には、491nmの発光ピークがみられ、熱処理すると消失する。このピークはIaB型結晶を塑性変形することでも発生することが知られている。したがって、このピークは歪みと関係することが予想されるが、まだその欠陥構造など詳細は明らかでない。今回、ブラウン結晶内での491nmピークの分布を調べた。用いた試料は約2mmの八面体結晶で、これを(110)面に平行に研磨し、その断面についてカソード&middot;ルミネッセンス測定を行った。測定にはトプコン製走査型電子顕微鏡にローパー製分光装置を接続したものを用いた。試料は、液体窒素で冷却して測定した。得られたデータは、発光の面内分布を示す発光像と、特定の位置での発光スペクトルである。今回は、とくにマッピング(試料上を直線に沿って数ミクロンおきにスペクトルを測定すること)で発光分布を調べた。カソード&middot;ルミネッセンス像では、木の年輪のような成長縞の他に、それを横切る直線状の筋が何本もみられた。この分布からみて、この筋は、結晶が成長後、外圧を受けて生じた結晶歪みに関係し、結晶格子がずれたスリップラインといえる。この筋は500nm、400nmでの発光像においてみられたが、250nmではみられなかった。250nmでの発光像には成長縞のみがあり、これはN9とよばれる発光の分布を示していると思われる。発光像の観察ではシャープな発光ピークの分布は明瞭には観察されないので、マッピング測定により発光ピークの分布を調べた。ブラウン結晶の熱処理の実験においてN3, H3, 491nmという種類の発光に顕著な変化があることが知られているので、これらに注目してマッピング測定を行った。マッピングデータによると、スリップラインのところではN3, H3は強くなっていたが、491nmピークには変化はなかった。491nmピークは塑性変形で生じるといわれているので、スリップラインで強くなることを期待していたが、スリップライン内外で強度は一定であった。また、スペクトルを高分解能で測定すると、H3ピークに分裂と波長のシフトが認められた。この分裂やシフトは結晶の歪みによるものであるが、このピーク分裂やシフトはスリップライン上で大きくなるという傾向は認められなかった。以上のことから、この結晶に存在する歪みは、スリップラインだけにあるのではなく、全体的にも歪んでいるといえる。
著者
高 興和 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.38, 2016

タンザナイトの色の評価については、タンザ ナイトファウンデーションが提唱する"Tanzanite Quality Scale"などが知られている。青系、紫 系と分けているところにタンザナイトならではの 特徴があるが、他の色石同様色の強さ(彩度)が高いものが良いとされている。 <br>この研究ではタンザナイトの色の評価となる 青、紫の強さがどのような要因で決定されるか考察し、色に影響をするものとしては、1)色の 原因であるVの含有量、2)加熱の有無、3)結 晶の方向(オリエンテーション)が考えられた。 <br>実験の結果、非加熱のものでは V の含有量 と色の間に相関関係は見られず、加熱のものでは図1のように V の含有量と色の強さに相 関関係が見られた。また、結晶の方向は色の 強さには関係せず、青か紫かを決定するよう に考えられた。この結果は加熱によって含有 される V による色が十分に発現したことによる と考えられる。また、逆にその V が含有量から 推測されるほどに発現していないことは、非加熱であることを示唆するとも考えられた。 <br>また、市場で"ファンシーカラー・タンザナイト"とも呼ばれるピンクやオレンジ、また緑色のも のについてもその色の原因を調べた。 ピンクやオレンジのものからは青、紫系のもの には見られない高い Mn の含有が確認された。 また同時に V の含有も確認され、加熱によってはより紫になったものも確認された。また、緑のものからは比較的高い濃度の Cr が検出 された。またサンプルの多くは加熱されており、 V の含有量が少ないこともあって加熱後も緑 色のままだった。 <br>このように青、紫系のタンザナイトは加熱の有 無と V の含有量によって、ピンク系のゾイサイ トは Mn、緑系のゾイサイトは Cr による着色であり、それらが複雑に影響し合い、色が発現していることが確認された。 <br>また、今年5月にブロック D の鉱山を視察し た。ブロック D では 100 人規模の大規模な採 掘が行われていたが、機械化はされておらず、 手作業による採掘によってすでに坑道が長さ 800m、深さ 450m に達するまで採掘が進められている。前年に報告を行った、ブロック B で はその半分程であったことから、ブロック D の 採掘の活発さが分かる。 <br>ブロック D から産出するタンザナイトはブロック Bのものに比べ色が強く、また透明度の高いものも多く、その高い品質から上記のような活発 な採掘が行われているものと考えられる。
著者
三木 かおり 高橋 泰
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-12, 2004
参考文献数
13

On color of gemstone, Sensitive colors and insensitive colors exist in visual sensitives to color difference. the green and light color of yellow, orange, pink, blue, violet belong to sensitive colors, while dark color of red, blue, bluish violet are classified into insensitive colors. These results indicate that general color sensation fit in with color of gemstones. Though faceted gemstones displayed several colors in own complex appearance many facets show bright colors to shadow colors, detail color sensation is analyzed by the visual test to three color difference. The result suggest that the human color sensation recognized a medium bright volume color as a gemstone color.
著者
藤田 直也
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.23, pp.13, 2001

琥珀は中生代から新生代の第三期にかけて生息した松柏類の樹脂が化石化したものであるが、この宝石には実に様々なインクルージョンが有り実に興味深い。太古の生物や無機物などその種類は実に多様であるが、気泡もまたそのようなインクルージョンのなかのひとつである。気泡が多量に含まれると琥珀は曇ったような、白濁した印象を受けることになる。今回入手したサンプルは三年間ディスプレイの中で照明を当てつづけた結果、琥珀の外観がより白く見えるようになったものであった。このように外観が変化した琥珀について、その原因を検証する。加えて、今回鑑別に持ち込まれたブラックムーンストーンについて、外観が類似しているシーン効果を持つオブシディアンとの相違点も考慮しながら、その特徴を様々な機器を用いて観察した結果を報告する。
著者
黄 春江
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.35-44, 1980-12-15 (Released:2017-01-16)

Mineralogy of semi-precious gems, such as nephrite, tremolite cat's-eye, blue chalcedony and veined stones, from Taiwan are reviewed, supplemented with some data (Fig.1). Nephrite and cat's-eye tremolite occur at the contacts of graphite-sericite schist and serpentinite sills in association with asbestus, talc and diopside-dominant skarn near Hualien (Fig.2). Cat's-eye tremolite was formed evidently later than nephrite. Nephrite jade is spinach-green to yellowish green in color; translucent to opaque. H. : 6.5 ; G. : 3.007-3.014. It is composed of sub-parallel tufts of fibrous tremolite in interfelted base with nephritic texture, accompanied by minor chromite, magnetite, picotite, garnet and chlorite which give rise to black spots or streaks (Fig.3). α : 1.609-1.612, β : 1.620-1.621, γ : 1.631-1.633 ; γ-α : 0.021-0.022. Noteworthy is that the Taiwan jade is similar in mineralogy to the New Zealand jade. Tremolite cat's-eye varies in color, from greenish yellow to black ; translucent to opaque. H : 6-7, G. : 3.000-3.045. It consists solely of fine, Ionger sub-parallel fibers of tremolite without nephritic texture. α : 1.612-1.613. β : 1.620-1.626, γ : 1.637=1.639 ; γ-α : 0.024-0.027. Both nephrite and cat's-eye are similar in X-ray data to tremolite from St. Gotthard, Switzerland (Table 1). Chemical analyses also revealed that no marked differences in cornposition exislt between nephrite jade and cat's-eye and between cat's-eyes of various colors, all showing about 10 % of the ferro-actinolite molecule (Tables 2 & 3). Minor uvarovite with 10% Cr_2O_3 and vesuvianite were first found in Taiwan (Tables 5 & 6). Blue chalcedony occurs as irregular small veins in andesitic agglomerate north of Taitung. It is deep sky-blue to greenish blue in color ; opaque to translucent. H. : 7 ; G. : 2.581 ; n : 1.539. Traversed by veinlets of chalcedony-quartz and quartz-pyrite, it consists mainly of radial-fibrous aggregates of chalcedony, with minor chlorite, opal and iron hydroxides (Fig. 5). Veined stones are produced on the Penghu Islands as globular concentric aggregates chiefly of calcite, aragonite and siderite in the amygdaloidal cavities of olivine-augite basalt (Figs.5 & 6). H : 3-4 ; G. : 2.83-3.30. Some gemological features of these gem materials are also given (Fig.4).
著者
渥美 郁男 矢崎 純子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.32, pp.5, 2010

天然のピンクガイを母貝とするコンク・パールは通常の真珠層を持つ真珠と違い交差板構造を持つことが知られている。コンク・パールの生産量が少なく珍重されているためかピンクガイ(コンク・パールの母貝)貝殻を研磨して天然のコンク・パールのような外観に仕上げたフェイクと呼ばれる摸造真珠も存在している。今回は拡大検査を駆使してコンク・パールやピンクガイの表面観察から天然のコンク・パールと摸造真珠との相違点を考察した。そして更にピンクガイを実際に切断し貝殻部位の違いによってどのような模造真珠が製造できるか検証した。<BR>また2009年11月に「コンク・パールの養殖に成功」の報告もあり、軟X線透過検査がコンク・パールの検査に重要な役割を持つようになった。今回はその検査に際し考慮すべき点も指摘し加えて発表する。
著者
福田 千紘
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2021年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.56, 2021 (Released:2021-08-07)

宝石”ラリマー”はペクトライト (ソーダ珪灰石)からなる宝石で主に青~青緑半透明の物が宝石として利用されている。本種は単一の結晶ではなく繊維状の結晶集合体からなりマクロ構造が海中の波間のような独特の外観を呈する物の人気が高いようである。ペクトライトは 1828年に最初に記載されており模式地はイタリアである。化学組成は理想式でNaCa2Si3O8(OH) であり珪灰石族の鉱物である。2017年に著者も属する研究グループが愛媛県岩城島より新鉱物村上石を記載した。村上石は理想式 Ca2LiSi3O8(OH)とペクトライトの Naを Liに置換した組成を持つ。いくつかの産地のペクトライトは化学組成が報告されており0.数 wt%の Li2Oを含んでいる。よって村上石成分がいくらか含有されているものと考えられる。本研究では宝石用として流通しているドミニカ共和国産の青色系ペクトライトの軽元素を含む組成を分析しどの程度村上石成分が含まれるかを検討した。使用した試料はビーズとして市販されていたラリマーである。 その中よりカラーバリエーションやマクロ構造の異なるものを選別して組成分析を行った。 Ca, Na, Siは XRFを用い、 Li, H(OH)は LIBSを用いて測定し検量線法で定量した。 Ca, Na, Siは標準試料として NIST-612, 単体 Si, 珪灰石, ヒスイ輝石を用いた。 Liは NIST-610, 612, L-1~L-5硼珪酸ガラスを標準試料とした。 Hは TGA-DTAによる計測データより吸着水は 100℃程度の加熱でも除去できることがわかっており加熱後直ちに不活性ガスを充填することで検出された H全てが OHと見なしても問題ないことから全量 OHとして計算した。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2021年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.57, 2021 (Released:2021-08-07)
参考文献数
1

ラベンダー・ジェダイトについてはPinkish Lavenderと表現されるものも報告されているが(Lu, 2012)、主たる色がピンクの天然のジェダイトについての報告は少ない。天然のピンク・ジェダイトと思われるものを検査する機会を得たので、その宝石学的特徴やマンガンによる色について報告したい。10年ほど前にミャンマー産という、上記の写真のような円盤状のルース(現地名:壁)3点、カボションカット6点のピンク・ジェダイトを入手することが出来た。ピンクのジェダイトには有色樹脂によって着色されたものも多く流通し、当該石についても同様の処理が疑われた。しかし、着色の特徴となるような、色素の色溜まりや鮮やかなオレンジの蛍光はなく、蛍光もラベンダー・ジェダイトで見られる微かなオレンジものもだけだった。また、FT-IRの透過検査でもジェダイトの着色にしばしば用いられる樹脂による吸収は見られず、ワックスの吸収があるか、それすら見られないものであった。紫外可視分光スペクトルでも、着色による500~550nmの強い吸収は見られず、 540nm前後をピークとする弱い吸収が見られたのみだった。ラベンダー・ジェダイトでは同様のピークが 570nm付近がピークであり、ピーク波長は異なるが、似たような吸収が確認された。ピンク・ジェダイトといっても白い脈の部分もあり、白色部分とピンク部分の微量元素を比較したところ、蛍光 X線成分分析では主だった差は確認されなかった。しかし、 ICP-MSでさらに微量な成分を調べると、ピンク部分からは 20~40ppmの Mnが検出されたが、白色部分では 5ppm以下であった。その他にもラベンダー・ジェダイトとの比較では Feが少ない傾向が見られた。このため、ピンク色は微量なMnによるものでかつ Feが少ないことによるものと考えられた。
著者
Guobin Liu
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.5-15, 1981

中国は世界でも最も古くから天然の鉱物や岩石を装飾品として使っていた国である。しかし,中国で宝石学が研究される上うになった歴史は浅い。ただ,近々宝石学会が創設される動きがあり,また合成宝石も種々つくられている。中国での宝石鉱物の産状を,1)マグマ起源(ダイヤモンド, パイロ一プ, ペリドート, サファイヤ), 2)ペグマタイト起源(アクワマリン, トルマリン, トパーズ, ヒデナイト, 煙水晶, クリソベリル, ガーネット, ムーンストン), 3)接触変成岩起源(軟玉, シトリン, ターフエアイト, エピドート, ユークレース, 魚眼石, ガーネット), 4)広域変成岩起源(軟玉, 藍晶石, ロードライト, 紅柱石), 5)熱水鉱床起源(めのう, 玉髄, 魚眼石, 虎目石, ろう石), 6)表層起源(トルコ石, 孔雀石, および漂砂鉱床産のダイヤモンド, 軟玉など), 7)有機宝石物質(ジェット, こはく)の7種類に分類し,それぞれについて説明した。とくに,ダイヤモンド,および中国でジェードと称するものの鉱物学的内容についてやや詳しく述べた。
著者
林 政彦 安藤 康行 安井 万奈 山崎 淳司
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.34, 2012

ブルー・オパールは大変綺麗な色調であり,人気のある宝石の一つである。その中に変色するものがあったので、その原因について報告する。<br>この変色は、標本ケースに入れた状態で生じており、ケース内部が青色になってしまっていることから、オパールから染み出てきたことによることは明らかである。そこで、変色した標本について、X線粉末回析実験とエルギー分散型EPMA により化学組成の分析を試みたので、それらの結果を報告する。<br>(1)X線粉末回折実験<br>装 置<br>・リガク製X線ディフラクトメータ RINT ULTIMA3<br>条 件<br>・X線源:Cu Kα<br>・電圧/電流:40kV / 20mA<br>結 果<br>非晶質のシリカの回折パターンを示す。いわゆるOpal-CTである.<br>(2)エルギー分散型EPMA<br>装 置<br>・日本電子製JSM-6360 + OXFORD製INCA EDS<br>条 件<br>・加速電圧:15 kV<br>・測定範囲:20 mm<br>・積算時間:60 sec<br>結 果<br>銅と塩素が検出された.<br>以上の結果から,青緑色を呈する塩化銅(Ⅱ)のニ水和物によって着色されたオパールと思われる。 なお、無水の塩化銅(Ⅱ)は黄褐色である。<bR>流通しているブルー・オパールのネックレスで、身に着けている間に黄色に変色した報告もある。これは,塩化銅(Ⅱ)のニ水和物が脱水して無水になったためと考えられる。塩化銅が人為的に含浸させたものかどうかは不明であるが、流通しているブルー・オパールの取扱いには注意が必要である。
著者
シュワルツ ディートマー
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1, 2004

エメラルドはベリル族の一種で、主に豊富な元素であるシリコン(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)で構成されている。4番目の主要な構成元素ベリリウム(Be)は地球の地殻上部では希少であるため、ベリルはあまり一般的な鉱物ではない。<BR> ベリル族の中で最も価値が高いとされるエメラルドについていえば、生成の条件はかなり特殊である。エメラルドに明るい緑色をもたらしている元素(クロムCrとバナジウムV)は、地球の地殻上部ではなく上部マントルの岩石中に凝集されている。そのため、エメラルドに必要なこれらの元素を全て集めるためには、特別な地質学的及び地質化学的条件が必要となる。通常この条件はプレート・テクトニクスの作用を通して生じる。<BR> 必要な元素が一旦集まると、エメラルドは様々な地質学的環境下で結晶化することができるが、こうした環境は一般的に非常に不安定である。他のベリル(アクワマリンなど)が極度の不安定性無く継続して成長可能な比較的穏やかな環境下で発達するのに対し、エメラルドは急激な変化や力学的応力などに象徴されるような地質環境で形成される。エメラルドの結晶が一般的に小さく(ベリル族の他の変種に比べて)、そしてひび割れや固形の異種鉱物インクルージョンなどの内部欠陥を伴うのはそのためである。エメラルドの結晶は力学的耐久性が低く、河川の運搬による衝撃には耐えられない。したがって、エメラルドは第二次鉱床で発見されることはほとんど無く、経済性のあるエメラルド鉱床は全て第一次的な岩石中に見られる。<BR> エメラルドの鉱床には様々な起源のタイプがあるが、大きく分けて二つに分類される。(1)ペグマタイトに関連したエメラルドの結晶化と、(2)ペグマタイトに関係しないエメラルドの結晶化、である。ナイジェリア中央部のエメラルド/ベリルの形成にはペグマタイトが関係している。こうしたペグマタイトには片岩シームは見られず、エメラルドは花崗岩のがまやペグマタイトのがまの中から見つかる。ウラル山脈(及びアフリカやブラジルの一部の鉱床)では、片岩シームのあるペグマタイト(及びグライゼン)が見られ、エメラルドはペグマタイトや金雲母の片岩(特に接触部分)から見つかる。<BR> 二つ目のタイプのエメラルド鉱床は、変成岩質片岩(例えばオーストリアのHabachtalや、パキスタンのSwat渓谷、ブラジルのSanta Terezinha de Goias、アフガニスタンのPanjshir渓谷など)や、鉱脈や角礫岩を伴う黒色頁岩(コロンビア)に関係している。<BR> エメラルドの鉱床は五大陸にあることが知られており、中でも南アメリカは長年にわたり最も重要なエメラルドの産地とされている。エメラルドはほとんど全ての地質年代において生成されてきた。エメラルドの生成は大陸衝突時に最も頻繁となる。このとき大きな山脈や幅広い断層帯、局地的な変成作用の再現などが発生し、ひいては隆起や浸食につながる。こうした全ての出来事はエメラルド鉱床の形成に有利に働く。したがって、エメラルドは地球の地殻の最も古い宝石の一つとなりえるのである。エメラルドの最古の鉱床は南アフリカのトランスバールにある始生代の岩石にある(およそ30億年前)。地球で最も新しいエメラルド鉱床は、パキスタンで見つかっており、Swat渓谷(2300万年前)とKhaltaro(900万年前)である。<BR> 今回の講演では、世界中にある重要なエメラルドの鉱床における状況(経済基盤や、採掘状況、生産状況など)について詳細に見ていく。例えば、南アメリカ(コロンビアとブラジル)、アジア(ウラル山脈、パキスタン、アフガニスタン)、アフリカ(エジプト、ザンビア、ジンバブエ、マダガスカル)など。<BR> エメラルドの特定の鉱物学的宝石学的特性に関しては以下の点について論じる。<BR> (1)インクルージョンの特徴、<BR> (2)化学的な詳細情報、<BR> (3)吸収スペクトル、<BR> (4)光学的データ。<BR> こうした特性に基づいた、エメラルドの起源決定における目標、基準、限界についても取り扱う。
著者
江森 健太郎
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.27, pp.5, 2005

<br> 最近市場でペリステライト、ハイアロフェン等の長石が見かけられるようになった。それらの長石についての特徴と鑑別に際する注意点について、通常見られる長石類と比較しつつ述べる。<br> ペリステライトは約2~19mol%のアノーサイト成分を持つ低温型斜長石でありイリデッセンスを放つラブラドーライトと同じように100nmオーダーのラメラ構造を呈している鉱物である。ムーンストーンと非常によく似た外観を持ち、屈折率、比重だけでは区別することが難しい。また、ムーンストーンと類似した外観をもつラブラドーライトについても述べる。<br> ハイアロフェンはバリウム長石であるセルシアン(celsian;BaAl<sub>2</sub>Si<sub>2</sub>O<sub>8</sub>)と正長石(orthoclase;KAlSi<sub>3</sub>O<sub>8</sub>)の中間組成を持つ長石である。屈折率が斜長石系列の中間程度を示し、誤鑑別を生む原因となる。<br> これらの長石は赤外分光法(FT-IR)で簡易的に鑑別することが可能であるが、正確な鑑別には蛍光X線分析装置(EDS)を用いて組成を直接分析することが望ましい。