著者
鈴木 智子 竹村 幸祐
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.108-126, 2014-01-15 (Released:2020-11-13)
参考文献数
33

サービス業のグローバル化が進んでいる。複数の国で事業を行う際,グローバリゼーション戦略とローカリゼーション戦略といった二つの選択肢がある。これまでに米国を中心に発展してきたブランド・マネジメント論では,どちらかといえばグローバリゼーション戦略が推奨されてきた。これに対し,本研究では,グローバリゼーション戦略の有効性について再考を試みる。グローバリゼーション戦略を推奨する研究者の主張からは,「一貫性」がキーワードとして浮上する。しかし,一貫性を選好する傾向には文化差があり,ある文化圏の人々は一貫性を重視するが,別の文化圏の人々は変化や矛盾に対して寛容であることが指摘されている。前者ではブランド・イメージに一貫性が欠如していると,そのブランドに対する評価が下がる可能性があるが,後者ではブランド評価が下がるとは限らない。本論文ではこのことについて,ユニバーサル・スタジオを事例として取り上げつつ,考察する。
著者
廣田 章光
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.7-19, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
21

本研究では「規律・統制型」(Shikita, Morishige, Nakamura, 2012)地域における観光産業の創造を,地域生活と観光産業との共生の観点から考察した。我が国観光産業の拡大における課題の1つとして,欧米豪の旅行者数の拡大がある(Atkinson, 2015; Sightseeing vision concept meeting to support tomorrow’s Japan, 2017)。欧米豪旅行者は,日本独自の景観,歴史,文化への関心が高い(Atkinson, 2015; Sightseeing vision concept meeting to support tomorrow’s Japan, 2017)。一方,日本独自の景観,歴史,文化が維持されている地域は,一般的に地域に閉じ,地域住民間の関係が強い「規律・統制型」の特性がある。「規律・統制型」地域における景観,歴史,文化の資源を旅行者に提供するためには,外部への閉鎖性,内部者の関係の強さから困難が生じる。この問題を解決するためのプラットフォームのあり方を相互作用の観点から考察した。そして,地域と共生し,欧米豪の個人旅行者を創造する観光プラットフォームの必要性と,相互作用促進における「アクティベータ」の重要性を提示した。
著者
加藤 拓巳
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.78-88, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
22

企業は,消費者の認知を文脈によって導くことで,少ないコストで自社商品の差別化や優位性を確保できることから,マーケティングは文脈の設定作業とさえ言われる。消費者の認知バイアスを誘発する企業のマーケティング施策の代表例に妥協効果(松竹梅効果)がある。選択肢が「松・竹・梅」と3つ用意された場合,「竹」を妥協的に選択する特性を指し,飲食店や車等の多様な業界で利用されている。しかし,既存研究では,妥協効果の出現条件として,同じメーカーブランド内における,高付加価値志向と低価格志向という商品特性に焦点を当てた例は少ない。本研究では,日本の自動車業界におけるWeb見積りを対象に,商品特性による妥協効果の差異を検証した。その結果,低価格志向である軽やコンパクトでは妥協効果が出現するが,高付加価値志向であるSUVやミニバンでは妥協効果が出現せず,最上位グレードが選ばれやすいことが明らかになった。本研究で示したとおり,各商品の特性に適合したグレードを設定することは重要な文脈設定である。
著者
岩井 琢磨 牧口 松二
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.107-117, 2020

<p>このケースでは,年間4億本という売上本数を誇る氷菓「ガリガリ君」に注目する。「ガリガリ君」は,赤城乳業から1981年に発売されたロングセラーブランドである。赤城乳業は2004年から,同商品のパッケージ・キャラクター「ガリガリ君」のマーケティング活用を積極化している。以降,新味追加などの契機に話題を発信し,氷菓「ガリガリ君」の売上本数を,2004年の1億本台から2013年の4億本台へと成長させている。この間の「ガリガリ君」のマーケティングを担当したのが,現在は赤城乳業株式会社 執行役員 開発本部本部長代行である萩原史雄である。荻原は1995年に赤城乳業に入社,営業として販売現場に立ち,販売企画課を経て2004年に営業統括部(マーケティング担当)を設立した。さらに2006年にはキャラクター「ガリガリ君」をマネジメントする「ガリガリ君プロダクション」を設立し,2013年にはマーケティング部を設立した。正に「ガリガリ君」を核とした取り組みによって多くの生活者による語りを生み出してきた人物である。このケースでは,萩原に対する2018年の取材および2020年の講演に基づき,赤城乳業が氷菓「ガリガリ君」を成長させたマーケティング活動のプロセスについて見る。</p>
著者
石井 裕明 平木 いくみ
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.52-71, 2016-03-31 (Released:2020-04-21)
参考文献数
69
被引用文献数
2 2

近年,感覚マーケティングに大きな注目が集まっている。特に小売店舗においては,市場環境の変化により,感覚マーケティングに寄せられる期待が高まっている。こうした中,店舗空間における感覚マーケティングを取り上げ,その影響の大きさと実務への適用可能性を検討することには大きな意義があるだろう。本稿では,まず,感覚マーケティングの議論の特徴に触れ,研究動向を感覚ごとに紹介することで,店舗空間における感覚マーケティングの概要を明らかにする。その後,感覚刺激間の適合性,店舗・製品特性と感覚刺激の適合性,消費者特性と感覚刺激の適合性の視点から先行研究を整理し,実務における活用方針を検討する。さらに,店舗空間において感覚マーケティングを展開する際の検討課題を指摘し,今後の研究上の課題について言及していく。
著者
白石 秀壽 小野 晃典
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.68-80, 2019-09-27 (Released:2019-09-27)
参考文献数
5

世界有数の鶏卵生産消費国である日本において,大量生産がますます進む一方で,少量の高級ブランド卵を生産する様式を採用する養鶏業者も登場している。そんななか,高級ブランド卵を大量に生産して販売する鳥取県八頭町の養鶏業者がある。それが「大江ノ郷自然牧場」(農業生産法人・有限会社ひよこカンパニー)である。同牧場は,高級ブランド卵「天美卵」を成功させたに留まらず,その卵を使用した加工食品を開発して併売する形で第二次産業に参入し,さらには,農業や食を体験させることのできる施設を建設することによって,第三次産業にも参入し,それらについても,首都圏その他の大市場から離れた過疎地域であるにもかかわらず成功を収めている。本論は,事業成功のカギを握る同牧場のビジネスモデルを解析する。
著者
安藤 和代
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.96-106, 2020

<p>かつてハレクラニは,大衆的なバンガローホテルであった。およそ35年前に三井不動産株式会社のもとで再開業した際,その名前が意味する「天国にふさわしい館」に適したサービスを提供するラグジュアリーホテルとなることを目標にした。今日では高い評価を得ているハレクラニの高品質なサービスについて,サーバクションフレームワークに沿って分析し,物的な環境,サービス提供のプロセス,参加者の視点で考察した。また顧客が受け取る「サービス便益の束」を分解し,「コンティンジェントサービス」や「潜在的サービス」を提供するための工夫について確認した。顧客が体験するサービス経験をプロセスとして設計することに加えて,そうしたプロセスに,組織が共有する価値観を浸透させることの重要性を,同社の成功事例を通して浮かび上がらせる。</p>
著者
芳賀 英明
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.106-118, 2015-09-30 (Released:2020-05-12)
参考文献数
41

本稿では,準拠集団が消費者行動に及ぼす影響について,従来取り組まれてきた「製品・ブランドの購買行動への影響」と,その後関心を持たれている「自己とブランドの結びつきへの影響」「消費者のその他の行動への影響」に分けて整理を行った。従来の研究では,消費者が準拠集団の影響を受ける度合いは,購入する商品の特性や製品の使用される場面によって異なることが明らかにされてきた。その後,準拠集団は注目の高まりを見せているブランド・リレーションシップ研究の中で,自己とブランドの結びつきに影響を与える要因の1つとして再び脚光を浴びるようになった。この潮流の研究では,所属集団/内集団や熱望集団が自己とブランドの結びつきを強める一方,外集団や分離集団が自己とブランドの結びつきを弱めることが明らかにされている。こうした研究成果を受け,近年では準拠集団が製品選択,製品評価,あるいは消費量などに影響を与えることが示されている。「自己とブランドの結びつきへの影響」を中心とした研究は比較的新しいものであり,今後は準拠集団のうち特定の集団に焦点を当てることや,ブランドの持つ特徴の違いに着目することによって更なる展開が期待される。
著者
グェン フォン バオ チャウ
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.77-85, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
20

訪日外国人旅行者数は2010年代から増え続けている。中でも兵庫県豊岡市にある城崎温泉は,5年間で外国人旅行者数を36倍増加させることに成功した。このケースはその城崎温泉にある100年以上の歴史を持つ温泉旅館「西村屋」が外国人宿泊者に向けて行っている取り組みについて紹介する。「外国人にも日本人と同じ体験をしてもらう」という考えのもと,施設内の多言語化や外国語人材の確保と育成を積極的に行っている。さらに,モノ消費からコト消費へと外国人旅行者の動向が変わりつつある中,今後も新しい体験を提供できるように試みている。常務取締役の池上桂一郎氏と海外戦略担当のフカイ・コリン氏のインタビューに基づき,城崎の共存共栄精神を維持しながら,差別化を図る西村屋の戦略について見る。
著者
加藤 拓巳 津田 和彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.85-95, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
27

Electronic Commerce(EC)の普及によって生まれた消費者行動に,ショールーミングがある。販売店で確認した商品をインターネットで安価に購入する行動を指す。これは実店舗で販売する企業にとって大きな脅威であり,産業界・学術界ともに大きな注目を集めている。しかし,自動車業界に目を向けると状況は異なり,依然として販売店での購入が主流である。そのため,ショールームの現状評価やあり方の議論は不十分になっている。本研究では,日本の自動車業界を対象に,テーマパークやカフェ等の多様な形態のショールームへの訪問経験が消費者の推奨意向に与える影響を検証した。オンライン調査で得たデータをもとに,傾向スコアによって因果効果を推定した結果,有意な効果は見られなかった。推奨意向を有する要因としては,商品より販売店の観点が多く,礼儀・親近感・特別感が抽出された。EC化がそれほど普及していない業界では,購入行動に直結する動線設計は難しいと考えられるが,推奨意向の形成要因を把握したうえで,それを一貫して経験できる場の設計は重要であろう。
著者
堀田 治
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.101-123, 2017-06-30 (Released:2020-03-10)
参考文献数
87

本稿は,知れば知るほど面白い,あるいは高い集中をもたらすような消費活動を,知識と関与で捉える研究である。ここでは特に,趣味性の強い消費や「体験消費」に焦点を置き,対象に対して極めて高関与な状態を「超高関与」と位置づける。その上で,近年の関与概念で主流となっている,関与を「動機づけられた状態」とする立場を継承しつつ,関与を「認知構造」と「活性状態」に分離することによって「活性化していない状態も関与の形態のひとつ」とする視点を提案する。すなわち超高関与を支える知識や記憶を認知構造として捉え,超高関与の時の消費者による集中的な認知構造の形成によって,関与低下後もその分野の高度な認知枠組みとして機能すると考えた。本稿ではこうした認知構造をもちながら,現在活性化していない消費者を「低関与でありながら認知や行動が超高関与並に際立っている高知識の人」と捉え,「超高関与経験層」と呼ぶ。本稿は,前半をここ20年間の関与研究の現状把握,後半を直近の成果に基づく理論研究とした。
著者
井上 裕珠 阿久津 聡
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.83-98, 2015-01-09 (Released:2020-06-02)
参考文献数
66

解釈レベル理論では,「今ここにいる自分」と出来事との心理的距離によって出来事の解釈の具体/抽象レベルが変わると想定されており,消費者行動研究をはじめとした多くの研究において解釈レベルの違いが後続の評価や態度,行動に影響することが示されてきた。本稿では消費者行動分野における解釈レベル理論研究の動向をレビューしたうえで,多くの消費者行動研究で扱われてきた,個人のある時点の「状態」としての解釈レベルではなく,個人の持続的「特性」としての解釈レベルにも焦点を当てていく必要性を議論する。特に,異なる社会的カテゴリ間における解釈レベルの違いを検討する際に「特性」としての解釈レベルを考慮に入れることの重要性や必要性を指摘する。
著者
安藤 和代
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.6-21, 2018 (Released:2020-01-24)
参考文献数
44

近年,ネガティブなクチコミに対する企業の関心が高まっている。背景には,経済のサービス化,情報環境の変化,さらには,怒りを抱く顧客の存在感の増大があげられる。従来,ネガティブなクチコミは,サービスの失敗に不満をもった顧客の,その後の行動の選択肢の一つとして,主としてサービスリカバリー研究の枠組みで検討されてきた。顧客が有する不満を議論の出発点としており,サービスの失敗の内容や,サービスの失敗とネガティブなクチコミを結びつけるプロセスの検討は十分ではない。そこで本稿では,ネガティブなクチコミに焦点をあてる。顧客の感情形成を説明する認知的評価理論の枠組みを用いて,サービスの失敗に対する顧客の認知的評価が顧客に生じる感情に影響し,さらには対処行動としてのネガティブなクチコミ行動に間接的に影響することを,先行研究の知見を引いて論じている。ネガティブなクチコミ行動の包括的な理解のための検討枠組みと検討次元の提示を目的とする。
著者
竹村 和久
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.6-26, 2016-03-31 (Released:2020-04-21)
参考文献数
66

本論文では,気分や情動などの感情が経済行動の意思決定に及ぼす効果について,行動経済学や神経経済学の分野でも特に近年盛んに研究されているプロスペクト理論の観点から説明を行い,プロスペクト理論と感情の問題の関係や,それに関する神経科学的知見について説明を行った。本論文では,まず感情の定義や感情研究の経緯を簡単に述べ,感情操作や感情測定の方法について説明した。次に,意思決定現象を説明するプロスペクト理論の概説を行い,感情の経済行動の意思決定への効果についてのプロスペクト理論に基づく説明とそれに関連する実験例の紹介を行い,さらにプロスペクト理論と感情に関する神経経済学の知見をもとに感情の意思決定への効果についての理論的考察を行った。最後に,これらの知見の消費者行動研究やマーケティング実務への含意について考察した。
著者
澁谷 覚
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.23-36, 2017-01-10 (Released:2020-03-31)
参考文献数
54

昨今のソーシャルメディアを巡る議論では,ソーシャルグラフを見切り,インタレストグラフを再評価する論調が見られる。そこで本稿では,まず「オンライン/オフライン」および「ソーシャルグラフ/インタレストグラフ」という2つの軸から構成されるマトリクスによって個人間コミュニケーションを分類し,各領域におけるコミュニケーションの特性を概観した上で,インタレストグラフ側の2領域における個人間コミュニケーションを改めて比較しながら,インタレストグラフの役割について議論する。なお本稿では,インタレストグラフを介したコミュニケーションとは,すなわち面識のない人々の間のコミュニケーションと捉える。そこでオフライン×インタレストグラフの領域についてはうわさや流言に関する先行研究を,オンライン×インタレストグラフの領域については潜伏者に関する先行研究を参照しながら,人は見知らぬ他者とどの程度コミュニケーションを行うか,について検討する。結論として,ほとんどの人々にとってのインタレストグラフの役割とは情報取得の手段であること,マーケター側が情報を拡散するためには,オンラインのインタレストグラフとソーシャルグラフ,およびオンラインとオフラインのソーシャルグラフを適切に組み合わせることが必要であること,を述べる。
著者
鷲田 祐一 七丈 直弘
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.42-59, 2017-06-30 (Released:2020-03-10)
参考文献数
23

本論ではホライゾン・スキャニング法を援用した未来洞察ワークショップを用いて,AIやIoTの普及に関して,2025年ごろに発生が懸念される想定外事象に関する仮説を検証した。その結果,AIやIoTの普及に関しても,2025年から2030年ごろに,現段階の国を挙げての開発ビジョンでは想定されていない「モザイク型」普及,すなわち技術導入の進捗度が相分離する状況が想定されると結論された。AIやIoTの開発に実際に携わる特に技術系の研究者はこのような「モザイク型」普及に対する「備え」を持つことが重要である。AIやIoTは人を排除し,人の知的作業を代替してしまうものというよりも,人と共存し人の知的作業を縁の下の力持ち的に補助するもの,という人間中心的ビジョンを明確化することで,より現実的な近未来のマーケティングが想定できるだろう。幅広いマーケティング実務者にとって,AIやIoTのインパクトをもっと身近に理解できるようになる一助になると思われる。
著者
宮林 隆吉
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.12-22, 2020-03-04 (Released:2020-03-04)
参考文献数
18

グローバル経営において国や文化の異なる従業員同士の融和は重要な課題であり,国境や文化を超えて組織アイデンティティを構築するためにも,人々を束ねる経営理念が重要な役割を果たすと考えられる。しかし,多くの日本企業の人材面・制度面での現地化は遅れており,安易に翻訳された理念やビジョンがそのまま輸出されて形骸化しているケースが見られる。本研究では,まず経営理念が組織アイデンティティの重要な基盤であり,戦略や組織のあり方に大きな影響を与える要素であることを先行研究より考察した。次に,異なる文化圏(アメリカ,中国,日本,ドイツ)の企業計121社の経営理念をコンテンツ分析・比較し,国民文化が経営理念に与える文化の影響度を検証した。その結果,権力格差(PDI)と不確実性の回避(UAI)が社内外のステークホルダーとの関係構築姿勢に影響を与えていることが認められた。今後,経営理念を核とした企業ブランディングや組織運営を行う上でも,グローバル企業にとって異文化文脈の理解は欠かせない。