著者
津村 将章
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.54-76, 2018 (Released:2020-01-24)
参考文献数
164

本論はマーケティング・コミュニケーションにおいて,どのような視点でクリエイティブを行うことが有効であるのかについて論じている。特に本論では物語広告を中心とする。物語は強い説得効果を持つが,マーケティング・コミュニケーションにおいて,どのようにして物語広告のクリエイティブを考えるのか,マネジメントするのかという議論はあまり行われてこなかった。本論では,物語論や創作論,心理学,マーケティングの視点を踏まえて,クリエイティブに関する考察を行った。その結果,物語広告のクリエイティブにおいて有用であると勘考される要素は,登場人物,意図性,因果性,物語構成である。これらの要素が受け手に理解できるように描かれているかが,広告効果に影響するものであると考えられる。
著者
毛 鋭
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.81-89, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
35

デザインの名を冠した様々概念が発散し注目を集める中で,デザインという言葉の多義性が理解の混乱を招く恐れがある。日本ではデザインに対する一般的な理解は「意匠」という狭い定義に留まる一方,デザイン研究において拡張された定義が定着しないため,「デザイン経営」の概念に対して違和感や認識の齟齬が生じる。したがって,本研究の目的は,経営の文脈で多義的に使われるデザイン概念を概観し整理したうえで,デザイン経営研究の課題を提示することにある。具体的には,既存研究におけるデザイン概念の拡張を時系列に確認し,その多義的な概念を,成果物としてのデザインとプロセスとしてのデザインとを両極とする連続体上に位置づけ,整理する。定義を明確にすることにより,デザイン経営研究の範囲と成果の測定について検討し,将来の研究課題を提示する。
著者
高田 敦史 田中 洋
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.52-70, 2017-01-10 (Released:2020-03-31)
参考文献数
32

本論文の目的は,トヨタ自動車が1989年から販売しているレクサス(Lexus)が,ラグジュアリーブランドとしてどのような位置にあるかをケース分析によって明らかにし,ラグジュアリーブランドの新しい視点を提示することにある。世界のラグジュアリーブランド市場は近年大きな成長を遂げ,伝統的なラグジュアリーブランドとは異なるマーケティング戦略が実践されるようになった。現存のラグジュアリーブランドの特徴をブランド側,顧客側の両視点に分解してまとめてみたが,レクサスはこれらの特徴の全てを満たしているわけではないことが分かった。レクサスの成功は「ラグジュアリーブランドのパラドックス」を解決しつつ,先端的なモノづくりや顧客体験の創造をベースとした新しい「スマートラグジュアリーブランド」に属すると考えられた。つまりレクサスはラグジュアリーの新たな形を提示していると結論づけた。
著者
髙橋 広行
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.53-61, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
26

近年,実務でも研究面でも,カスタマー・ブランド・エンゲージメントの注目が高まりつつある。そこで,本研究の目的は,カスタマー・ブランド・エンゲージメントを認知的・感情的・行動的な3要素のサブセットで測定し,ブランド評価や満足度,ロイヤルティとともに,購買履歴データを同時に分析する包括モデルを通じて,エンゲージメントの位置付けとともに,購買行動との関係を明らかにすることである。服飾雑貨SPAブランドの顧客に対して行なった質問票調査と顧客の購買履歴データを統合し,構造方程式モデルで分析を行った。その結果,エンゲージメントは,満足度とロイヤルティを経由し,購買行動の「顧客期間」,「購買金額」,「購買回数」と正の関係にあることがわかった。一方,エンゲージメントから購買行動への直接のパスは負の関係であったことから,エンゲージメントは満足度とロイヤルティを経由しなければ,購買行動には至らないことも同時に明らかにした。
著者
中村 世名
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.40-51, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
16

競争行動の採用傾向と企業成果の関係を探究してきた競争ダイナミック研究は,優位性が非持続的な市場で企業が生き残っていくためには,積極的な競争行動の採用が必要であると主張してきた。主張を経験的にテストするために,彼らは,積極的な競争行動を行動の量,複雑性,および競争的異質性の3つの次元で捉え,3つの次元と企業成果の因果関係を分析してきたが,その際,因果関係の複雑性,非対称性,および同結果性については考慮してこなかった。本論は,これらの性質を有する因果関係の分析に適した手法であるfsQCAを用いて,積極的な競争行動(製品導入行動)の3つの次元と企業成果(市場シェアの拡大/縮小)の関係を探究した。清涼飲料水産業のデータを用いた分析の結果,市場シェアの拡大に成功した企業に共通する2つの製品導入行動の採用傾向と市場シェアの維持に失敗した企業に共通する2つの製品導入行動の採用傾向がそれぞれ見出された。
著者
田原 静 張 婧 梁 庭昌 村松 潤一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.12-19, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
18

消費者個人が携帯端末上のサービスを利用することに伴って発生するパーソナルデータの多様化に伴い,企業によるデータ取得と乱用が問題化する中,両者を仲介し問題解決を目指す仕組みとして情報信託制度の検討・整備が進められている。本研究はこの制度について取り上げ,それが消費者にどのように認知され受容されるのか,そして問題解決となるのかを,制度的課題は何かという視点から明らかにする。価値共創の視点を取り入れた調査結果をもとに,現行の制度がコミュニケーションを視野に入れていない一方通行の仕組みであることの問題点を指摘した。本研究の調査結果に基づくならば双方向の形にするとともに,消費者(顧客)と企業による価値共創的な仕組みにすべきであるという結論を示した。
著者
大平 進
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.45-57, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
41

近年,実務家のみならず,研究者の間でもギグ・エコノミーが注目されている。ギグ・エコノミーとは,デジタル・プラットフォームを介して,クライアント企業とワーカーの間で,単発の労働と金銭的報酬の交換がなされる社会経済的活動である。ギグ・エコノミーは,果たして企業の製品開発活動にどのような影響をもたらすのだろうか。著者の知る限りにおいて,当該分野の文献レビューは存在しない。そこで本研究は,ギグ・エコノミーと製品開発に焦点を当て,先行文献のレビューをおこなった。その結果,重要な5つのテーマが特定された。人的資源マネジメントの対象としてのギグ・ワーカー,ギグ・ワーカーのモチベーション管理,ギグ・エコノミーとアイデア創出,ギグ・エコノミーにおけるプラットフォームの役割と管理,ギグ・エコノミーにおけるコワーキング・スペースの役割と管理である。最後に,当該分野の研究が抱える課題と今後の可能性について議論した。
著者
小野 晃典
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.3-5, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
6

This special issue contains five articles that analyze various marketing phenomena using qualitative comparative analysis (QCA). QCA is a relatively new method for testing complicated hypotheses in the social sciences. Several overseas journals have published special issues on QCA, but no issues with a focus on QCA have been organized by marketing journals in Japan. As the first of its sort on QCA in Japan, this special issue provides both high quality QCA articles and datasets that support the hypotheses in each of these articles.
著者
五島 光 尾池 勇紀 山下 貴子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-11, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
7

本研究では,狭小商圏型ドラッグストアの顧客購買行動の特徴を明らかにし,重要度が高い顧客セグメントを特定したうえで,重要度の高いカテゴリーのシェアを拡大する方策について検討を行った。地域特定的なポジションを活かしたPB商品戦略を用い,テスト店舗でビジュアル・マーチャンダイジングに基づいた売場展開を行った場合と,そうでない場合の実績の差を明らかにし,当該戦略の実現可能性の高さを検証した。まず,顧客ID-POSデータを用いてRFM分析を行ったところ,特に来店頻度が高い顧客セグメントは「一次商圏内に住む」「男女65~89歳」「ベビー用品購入者」であることがわかり,これらのカテゴリーのシェアを獲得すると,来店頻度が向上し,顧客と従業員の接点が増えることでストア・ロイヤルティ向上が見込めるという結果を得た。次に,地域性を付加価値としたプレミアムPB商品戦略をISM(PB商品戦略とVMD)の考え方に当てはめてドラッグストアの店頭で実証実験を行った結果,来客数・販売個数・売上金額に対してチラシ・ポイントデー・気温・天候による影響は見られず,VMDの効果により販売個数と売上金額が増加したことが実証され,当該戦略の実現可能性の高さを認めることができた。狭小商圏型ドラックストアが顧客ロイヤルティを獲得するために経営資源を集中的に投下すべき顧客の特性と購入する傾向が強い商品カテゴリーを明らかにし,ISMを構築することで店舗イメージのコモディティ化から脱却し,競合他社から差別化できる可能性を見出した。
著者
芝田 有希
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.73-78, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
26

適切な音楽は,消費者の快感情や購買金額だけでなく,商品イメージや評価,そして,企業のブランドイメージを向上させる可能性がある。本稿では,聴覚刺激が消費者行動に与える影響に関する既存研究をレビューする。音楽と様々な刺激との「適合性」に関する,より包括的な既存研究も取り上げる。その後,音楽心理学の知見を取り入れ,より多角的に音楽が消費者行動に与える影響について議論する。最後に,聴覚刺激研究に関する将来的な課題を提示する。
著者
渡邉 裕也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
pp.2022.029, (Released:2022-05-16)
被引用文献数
1

企業外のリードユーザーがイノベーションに貢献していることが明らかになっているが,企業外に存在するために,企業が活用することは難しいという側面がある。一方で,企業内にも自社の製品を愛用し,リードユーザーの特徴を持った従業員である「企業内リードユーザー」が存在する。先行研究では,企業内リードユーザーのアイデアの評価に関する実験は存在するが,実際にアイデアが具現化された製品の市場におけるパフォーマンスの評価をしたものは存在しない。本研究では,アパレル小売業の事例をもとに,企業内リードユーザーのアイデアを製品化する過程で行われる共創が,市場での成果につながることを明らかにした。
著者
小林 哲
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.29-40, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
28

地方は,長期に渡り構造的問題を抱えており,それを解決する方法として注目されているのが,交流人口を糧とする地域ブランディング手法に基づく地域経済の活性化である。しかし,現在,新型コロナウイルス感染症の蔓延により,その政策が実行できずにいる。そこで,本稿では,コロナ禍での地域ブランディング政策を,①交流人口を維持するための政策,②交流人口に代わる市場の開拓,③交流人口以外を糧とする地域ブランディング政策の可能性の3つの視点から考察する。なお,コロナ禍での政策には,構造的問題の解決という長期的視点(線)と,コロナ禍という特殊状況への対応という短期的視点(点)の両方が必要となる。本稿では,この両方の視点を踏まえて,コロナ禍での地域ブランディングの在り方を明らかにする。
著者
渡邉 裕也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.71-79, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
36

メーカーではなくユーザーとして商業的に魅力的なイノベーションを起こすリードユーザーの存在が明らかになっているが,一般的にリードユーザーは企業外に存在するために,企業が継続的に活用することが難しい。一方では,企業内に自社が提供する製品やサービスのカテゴリーにおけるリードユーザーが存在することが明らかになっている。こうしたリードユーザーは,「企業内リードユーザー」(lead users inside the firm)とも呼ばれ,学術的に注目されている。本稿の目的は,企業内リードユーザーについて既存研究をレビューし,体系的に整理することである。レビューの結果,企業内リードユーザーがリードユーザーと従業員の二つの特徴を持つこと,企業内リードユーザーがアイデアの創造,アイデアの実行においてイノベーションに貢献していることが分かった。企業内リードユーザーの実態を明らかにすることは,リードユーザー研究を拡張するだけでなく,企業にとって自社の従業員を有効活用する上で貢献となるであろう。
著者
遠藤 茉樹 加藤 拓巳
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.28-36, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
22

インターネット広告の影響力は,スマートフォンと高速通信の普及によってさらに増している。なかでも,YouTube等の動画共有サービス上で配信される動画広告が注目されており,効果的な配信方法について盛んに議論されている。しかし,動画広告の挿入位置に関する研究としては,中盤の広告を中心としており,冒頭・末尾の挿入位置の評価は不十分である。動画コンテンツの開始前・終了後と視聴最中では,視聴者の意識が異なるため,視聴者に与える効果が変化すると推察される。そこで,本研究ではYouTubeにおけるお茶とフィットネスジムの動画広告を対象として,以下2つの仮説を検証した;(1)冒頭・末尾に挿入された広告に比べて,画面に集中している中盤の方が記憶に残る,(2)中盤に挿入された広告に比べて,嫌悪感の少ない冒頭・末尾の方が購入意向を高める。ランダム化比較試験の結果,いずれの仮説も支持された。したがって,動画プラットフォームの運営企業は,広告主の目的に応じて,動画広告の挿入位置を変える仕組みの構築が求められる。
著者
山下 貴子 山崎 佳代
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.62-70, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
13

本研究は,介護現場における職員と利用者がサービスを通じてともに満足感を得るためにはどのような要因が必要であるか,介護現場がとるべき対応について検討を行った。先行研究より「離職要因」「サービス品質」「サービス・プロフィット・チェーン」「リスク・コミュニケーション」から職員および利用者の満足感の構成要因を検討した。続いて先行研究で用いられた概念の指標を基に質問項目を作成し,職員と利用者を対象に定量調査を行った。職員への調査からは「サービス価値」,「人間関係」,「マネジメントの質」,「信頼」,「リスクマネジメントの必要性」,「リスクマネジメントの浸透」の6つの因子間に正の相関があり,互いに労働条件にも強く影響し,働くモチベーションやサービス品質を決定づける重要な要因であることを確認した。また利用者満足度の分析では,「ケアマネージャーの品質」「提供サービス品質」「施設サービス品質」のそれぞれ正の関係がみられ,利用施設の「心理的ロイヤルティ」向上へ作用していることも確認でき,利用者満足向上と働きやすい職場環境の両立にむけた新たな視座を提供することができた。
著者
藤川 佳則 今井 紀夫 近藤 公彦 大川 英恵 堀内 健后
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.44-56, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
22

本論文の目的は,デジタル・トランスフォーメーション(DX)のダイナミック・プロセスモデル(Fujikawa, Kondo, & Imai, 2022)が捉えようとするDXの動的過程について,事例分析を通じて詳述することにある。Fujikawa et al.(2022)が提唱する概念モデルは,プラットフォームの有無とステークホルダーの広狭の2つの次元を組み合わせた4つの象限(段階)からなり,特定の段階から別の段階への移行(パス)を動態的に記述する。本論文は,この概念モデルを用い,理論的サンプリングの手法に基づき,「DXの発展段階を異なる移行過程(パス)を通じて経時的変化を遂げた事例」として選択した4事例(アスクル,パイオニア,コマツ,日本交通)を分析する。新たな発見をもたらす事例,ならびに,経時的な変化を扱う縦断的事例としての事例分析から得た新たな知見や論理を概念モデルに反映する可能性について議論する。