著者
久保 知一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.6-20, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
53

流通チャネルにおいて,流通業者はしばしば別の企業と長期にわたる緊密な取引関係を結ぶ。しかし,流通業者の中には,取引のオファーを受けた時に,そのオファーを受け入れる企業とそうでない企業がいる。取引関係に関する既存研究は,取引が安定的に維持されるメカニズムについては検討していた一方で,取引を開始するメカニズムについてはあまり注目してこなかった。そこで本論は取引のオファーに対する受容の違いがなぜ生じるのかという問題について,経済的要因に注目する取引費用分析に交渉当事者のモチベーション要因として制御焦点を組み入れることで説明を試みた。卸売業者の実務家に対する実証分析の結果,卸売業者が小売業者からの取引開始のオファーを受け入れる意思は,関係特定的投資と制御焦点の双方から影響を受けていることが見出された。
著者
蛯谷 孟弘 加藤 拓巳
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.21-29, 2024-03-19 (Released:2024-03-19)
参考文献数
22

近年,商品機能を過剰に表現した「過剰広告」が散見される。それら過剰広告が消費者の知覚に及ぼす影響については,これまで盛んに議論されてきた。既存研究の多くは過剰広告の負の影響について論じたものだが,以下2つの条件では正の影響を及ぼす;(1)消費者がブランドに好意的な態度を有する,(2)過剰さを受容しやすい国民性を有する。しかし,これら既存研究は消費者の態度や属性に依拠しており,消費者に魅力的に映る過剰広告の要素についての議論は乏しい。そこで本研究は柔軟剤広告を対象に,過剰な要素として香り(私益)とエシカルさ(公益)を挙げ,各要素を過剰に訴求した場合の広告の魅力について,以下2つの仮説を導出した。H1:柔軟剤広告の香り要素(私益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に負の影響を与える。H2:柔軟剤広告の過剰なエシカル要素(公益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に正の影響を与える。ランダム化比較試験の結果,2つの仮説は支持された。よって,消費者の知覚する広告の魅力を高めるために過剰広告の公益要素は効果的であり,企業は積極的に消費者に訴求すべきである。
著者
岡田 庄生
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.32-43, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
34

デジタルの進化と共に,ユーザー共創型の新製品開発が増えている。そのような新製品を販売する際,ユーザーのアイデアから生まれたと伝えることで消費者の購買意向を高める「発案者効果」の存在が既存研究で明らかになっているが,その効果が失われる境界条件については十分に解明されているとはいえない。そこで本研究では,制御焦点理論に着目して,制御焦点の違いが発案者効果の境界条件に与える影響を探るための実験を行った。具体的には,複雑さが高い製品における促進焦点型の製品タイプに関する実験と,複雑さが低い製品における予防焦点型の広告メッセージに関する実験を行った。その結果,発案者効果が失われるとされる複雑さが高い製品であっても,促進焦点型の製品タイプでは発案者効果が得られることが明らかになった。また,複雑さが低い製品において,予防焦点型の広告メッセージとユーザー発案情報とは,負の交互作用効果があることも明らかになった。
著者
石田 大典 大平 進 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.19-31, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
36

製品開発研究において,クラウドファンディング(CF)がマーケティング・リサーチやプロモーションの役割を果たすことが指摘されるようになっている。ところが,これらの役割の実態を実証的に明らかにする研究は試みられていない。そこで本研究では,日本の大手購入型CFプラットフォームにプロジェクトを掲載した支援者に対して調査を行い,いくつかの仮説の検証を試みた。分析の結果,CFの支援者と新製品パフォーマンスの間において,(1)支援者から学習し,新製品の品質を改善させる,(2)プロモーション効果が向上する,という2つの媒介効果が確認された。また,製品の非精通性によって,これらの効果が変化することも示された。一方,CFが競合の参入を促進し,新製品パフォーマンスを低減させるという媒介効果については,統計的に有意な関係を確認できなかった。
著者
石塚 浩 恩蔵 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.42-54, 1995-12-20 (Released:2023-12-19)
参考文献数
21
被引用文献数
1
著者
戸田 裕美子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-33, 2015-06-30 (Released:2020-05-19)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本研究は流通革命論をめぐる議論を再整理し,「細くて長い流通から太くて短い流通へ」という単純化された一般的な解釈を超えて,流通革命論をめぐる議論を再整理し,各論者がどのように流通革命を捉えていたかを明らかにする学説研究である。また,本論は各論者の主張を時系列に並べる編年史的な学説研究ではなく,流通革命論をめぐる諸説の中で語られたいくつかの問題を明らかにし,それらの問題の論理的なつながりを整理する問題史的な学説研究である。一連の分析を通じて諸研究の連関を再構成し,流通革命論の知的広がりを解明して,結論部分では,流通革命論の中で展開された諸問題と今日的な流通課題との関連を明らかにする。流通革命という一見過去の問題と思われる論題を今日的な視点から分析することを通じ,新たな分析視角を得ることを企図している。
著者
小野 譲司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.93-100, 1997-01-10 (Released:2023-11-23)
参考文献数
44
被引用文献数
1
著者
高嶋 克義
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.40-51, 1997-01-10 (Released:2023-11-23)
参考文献数
15
被引用文献数
4
著者
栗木 契 佐々木 一郎 吉田 満梨
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.111-119, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
19

2019年に設立された株式会社KINTO(以下,KINTO)は,トヨタ車およびレクサス車をサブスクリプションで提供するサービスを展開している。2022年12月には累積申込者数が55,000人に達し,その約4割を20~30代の若年層が占める。若者の車離れが指摘される国内の自動車市場において,KINTOは,人とクルマのどのような新しい関係を生み出しているのか。本稿では,トヨタ自動車がKINTOを設立した経緯,KINTOのサービスの特徴を確認した上で,それが若年層の自動車需要に対して,どのような便益を提供しているか。既存の代理店であるディーラーや,自動車保険を提供する企業,そしてトヨタ自動車などとも連携をしながら,どのように新たな価値を創出しているか,を議論する。
著者
米満 良平 西川 英彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.101-110, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
11

近年,顧客との共創を製品開発に活用する企業が増えている。しかし,製品化やプロジェクト運営の手間などから,一過性の取り組みに終わってしまうケースも多い。こうした中で,共創をブランドの提供価値の中心に掲げ,事業としても成長を続けているのがサッポロビール初のクラフトビールブランド「HOPPIN’ GARAGE」である。本ケースは,事業として共創に取り組んでいるだけでなく,顧客との共創に挑戦しながらも一度は自社コミュニティを終了し,再度新たに立ち上げるなど,試行錯誤の上に共創を続けてきた先進的なケースでもある。本稿では,どのような課題があり,ビジネスモデルを変更させてきたか,そのHOPPIN’ GARAGEの変遷を,1)自社顧客との共創,2)外部コミュニティとの共創,3)外部イノベーターとの共創,4)外部企業との共創,といった共創形態の変化に合わせて確認する。そこには,事業の状況や課題に合わせて,顧客との共創だけにとらわれず柔軟に共創相手を変えてく,HOPPIN’ GARAGEの巧みなマネジメントが見られる。その成長要因として,1)内部マネジメントの重要性,2)共創手法の最適化,3)共創体制の最適化という3点を提示する。
著者
王 珏
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.63-69, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
30

制御感とは,個人が望ましい結果を得る能力や望ましくない結果を避ける能力を持っていると自覚している心理的状態を指す。この概念は社会学者によって研究されてきたが,近年,消費者の制御感の影響に着目した研究が注目を集めている。しかし,当該領域全体を俯瞰するレビュー論文は未だ存在しない。そこで,本稿では,消費者制御感に関する既存研究を(1)制御感と補償的行動,(2)制御感と感情対処,(3)制御感と慈善行動,(4)消費者の制御欲という4つの研究潮流に分けて,概観する。そして,今後の研究課題として,(a)制御感の先行要因の探求,(b)制御感の低下による補償的行動の背後にある心理メカニズムの探求,(c)制御欲の調整効果の探究の3つの課題を提示する。
著者
芳賀 悠基
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.54-62, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
23

本稿は,マーケティング及び消費者行動の分野で注目を集める価格公平感(price fairness)ないし価格公平性知覚(price fairness perceptions)に着目したレビュー研究である。マーケティング分野の主要誌をターゲットとし,価格公平感の先行要因を中心にレビューを行った。このレビューは,Xia, Monroe, and Cox(2004)のフレームワークをベースとして実施することで,研究の傾向を掴むとともに,不足している分野を明らかにしている。また,消費者が価格公平感を知覚する状況を想定したゲームモデルなどを用いて,企業が実行する価格戦略の帰結(均衡,利益)を明らかにした研究についても簡単にまとめた。これらのレビューにより,価格公平感の先行要因には特定カテゴリの研究が多くを占める傾向があることや,その傾向には,時勢に合わせた変遷が見られることが明らかになった。この研究は,近年広がりを見せる消費者の個人情報を利用した価格差別や,パーソナライズド・プライシングに対する消費者の反応とそれらが企業にもたらす利益について貢献することを目的としている。
著者
水野 学 中川 充 石田 大典
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.18-29, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
24

本研究の目的は,ハードウエア・スタートアップ企業(以下,HWSU)が創業前後に直面する「あいまいな問題」とその「解決行動」,ならびにその背景にある「支援」のあり方について,事例分析を通じて検討することである。HWSUは,開発しようとする製品やサービスの大まかな方向性を決める「機能デザイン」と,それを具現化させるための「技術デザイン」という2つの側面において,多くの「あいまいな問題」を抱えている。しかし,十分な経営資源や専門知識を有しないHWSUがそれに単独で対処することは難しく,適切な支援が必要となる。そこで本研究では,DMM.make AkibaというHWSU支援組織に焦点を当てる。この組織が提供する2つの支援は,HWSUの成長に貢献している。すなわちテックスタッフは,開発目標とロードマップの重要性を示唆することで,技術デザインに関する本質的な問題の発見に,そしてコミュニティマネージャーは会員と支援企業を1つのコミュニティとして活性化することで,機能デザインに関する重要な問題の再認識に寄与している。