14 0 0 0 OA 平田神学の遺産

著者
三ツ松 誠
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.183-205, 2018-09-30 (Released:2018-12-30)

平田国学が明治維新に与えた影響の如何という古典的な問いにつき、現在の研究状況をサーベイする。要点を三点にまとめると以下の通り。第一点。戦後の平田国学研究には、戦時下の顕彰運動の反動で、ナショナリスティックな側面を取り上げることを回避して、霊的世界の探究者としての篤胤に注目する傾向があった。しかし政治運動に関わった人々の主体形成に篤胤国学が影響したことは否定しがたい。第二点。近年の国立歴史民俗博物館における平田篤胤関係資料の調査の進展によって、篤胤やその家族、門人たちに関する豊饒な研究素材が学界に提供され、大きく研究水準が引き上げられた。古い議論にはそのままでは通用しない部分が生じている。第三点。明治初年における平田国学の挫折、という通俗的理解には注意すべきである。津和野派や薩摩派の国学者も篤胤から影響を受けているのだから、平田直門の失脚だけでは維新政権での篤胤学の影響力の消滅は意味しない。
著者
青柳 かおる
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.723-744, 2005-12-30

本稿では、ガザーリーの神秘思想における性の重要性を検証し、特に神秘主義的宇宙論と性の議論との結びつきを明らかにする。ガザーリーの禁欲主義の議論にも触れながら、食欲と性欲を比較し、さらにマッキーとイブン・アラビーの議論とも比較して、スーフィズムの思想史におけるガザーリーの性の議論の独自性を検討する。まずマッキーの神秘主義的宇宙論は断片的であり、また禁欲的に性欲を抑えていく立場である。ガザーリーは、マッキーの宇宙論を体系化し、宇宙論において人間霊魂の上昇を説き、さらに性の持つ肯定的な力を認めた。そして性に対する考え方と神秘主義的宇宙論が一体となった結果、性欲は、神秘修行を中心とする神への崇拝に励む原動力になる、という思想を理論化することができた。存在一性論を説くイブン・アラビーにおいては、神と世界の一体性と重なる男女の性的結合が重視されている。ガザーリーは、性の肯定的な力を取り入れ、自らの神秘主義的宇宙論に適合する形の修行論を展開しているのである。
著者
岡田 正彦
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.31-53, 2018-09-30 (Released:2018-12-30)

明治政府は、神祇官復興や神仏分離に象徴される神道国教化政策を展開するが、廃仏毀釈による各地の混乱や教化政策の停滞によって方向転換し、明治五年には教部省のもとで仏教や儒教を取り込んだ大教院が設立される。しかし、「神主仏従」の教化政策は、真宗の大教院分離運動を招き、明治八年に大教院は解体されることになる。本稿では、こうした大教院の教説に対する仏教側の不満を色濃く反映する事例の一つとして、明治七年(一八七四)に出版された、花谷安慧『天文三字経』を取りあげ、これまで仏教側の大教院批判の言説としては注目されなかった、須弥山説に基づく国学的宇宙像の批判について考察したい。安慧は、仏教と儒教・神道の宇宙像の一致を主張する一方で、キリスト教/西洋の宇宙像に影響された平田篤胤の国学的宇宙像を厳しく批判する。こうした平田派国学の位置づけは、当時の大教院の教説と仏教思想の軋轢を色濃く反映しているのではなかろうか。
著者
川橋 範子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.31-55, 2019-09-30 (Released:2020-01-07)

本稿ではジェンダー論的転回(gender-critical turns)が明らかにする日本の宗教研究の問題点を概観し、それらを修正するいくつかの方向性を提示していく。この作業にあたり、筆者と個人的な交流があるウルスラ・キング(ブリストル大学名誉教授)とモーニィ・ジョイ(カルガリー大学教授)という二人のフェミニスト宗教学の開拓者・先駆者(trailblazer)の理論的テクストの重要性を、日本で文脈化していく。宗教はグローバルなジェンダー正義を保障するための重要で積極的な要因となりうる。宗教の象徴力と組織力が強大であるがゆえに、宗教はジェンダー平等に敏感なものへと再構築される必要があると主張していく。結論部では、宗教と女性の主体を巡る近年の言説の陥穽とそれが日本の宗教研究に及ぼす個別の影響について考察する。
著者
栗田 英彦
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.471-494, 2015-12-30

本論文では、哲学者・井上哲次郎によって構想された将来の宗教-「倫理的宗教」-と、それに対する改革派宗教者らの批判から、「修養」と呼ばれる宗教性を帯びたカテゴリーが生まれてきたことを論じる。明治三〇年代における教育からの宗教の排除と倫理教育への宗教の必要性という矛盾した要求のなかで、井上も宗教者らも新しい宗教のあり方を模索していた。それゆえ、宗教者たちは倫理的宗教論の抽象性を批判しつつ、その諸聖賢などの理想の人格や内観や坐禅といった具体的な実践をそこに結びつけることで、より実践的な倫理的宗教、すなわち「修養」を生み出した。さまざまな論者によって「修養」概念は用いられ、倫理と宗教、宗教と宗教の境界を超えて展開する超宗教的なカテゴリーとして、戦前日本で幅広い影響を与えることになったのである。
著者
堀江 宗正
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.229-254, 2017-09-30 (Released:2017-12-30)

二〇〇〇年代に入ってから主に英語圏の経営学で「職場スピリチュアリティ」をめぐって活発な議論が交わされている。本稿はその理論的展開と歴史的意義を明らかにするサーヴェイ論文である。この概念は経営者や従業員を対象とする調査から構築された多次元的概念であり、同時にコミュニタリアン的な徳倫理学の価値観のセットとしても提示される。その構成要素はコミュニティ感覚、従業員の疎外の改善、従業員の多様性の尊重、企業の不正への不寛容などである。だが批判者は企業中心主義、スピリチュアリティの道具化、従業員のコントロールの強化、カルトとの類似、訴訟の増大の危険を指摘する。一連の議論は経済活動と宗教を両立させようとする歴史的な試行錯誤のパターンを反映している。世俗化や近代化を生き延びつつ経済活動を支えてきたスピリチュアル資本の現代的な育成の形とも見られる。最後に日本で研究するべきいくつかの関連テーマについて展望を示したい。
著者
伊達 聖伸
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.531-554, 2007-12

フランスの政教関係を定めた「ライシテ」の原理は、いわゆる近代社会の基本的原則たる政教分離を最も徹底させたものだとしばしば見なされている。それを裏づけるように、フランスのライシテは、「アメリカの市民宗教」-教会から切り離されたユダヤ=キリスト教の文化的要素が政治の領域に明白に見て取れる-とは構造を異にすると分析されている。だが、この差異から、フランスでは政治の領域に宗教的次元が存在しないという結論が導けるわけではない。事実、研究者のあいだでは、ライシテ(およびこの原理に即した近代的な価値観)を市民宗教などのタームでとらえることの妥当性が問われている。本稿では、彼らの議論の一部を紹介しながら、市民宗教の五類型を提示し、ライシテがいかなる条件において、どのような意味での「市民宗教」に近づきうるのかを、ライシテの歴史の三つの重要な節目-フランス革命期、第三共和政初期、現代-におけるいくつかの具体例を通して検討する。
著者
栗田 英彦
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.471-494, 2015-12-30

本論文では、哲学者・井上哲次郎によって構想された将来の宗教-「倫理的宗教」-と、それに対する改革派宗教者らの批判から、「修養」と呼ばれる宗教性を帯びたカテゴリーが生まれてきたことを論じる。明治三〇年代における教育からの宗教の排除と倫理教育への宗教の必要性という矛盾した要求のなかで、井上も宗教者らも新しい宗教のあり方を模索していた。それゆえ、宗教者たちは倫理的宗教論の抽象性を批判しつつ、その諸聖賢などの理想の人格や内観や坐禅といった具体的な実践をそこに結びつけることで、より実践的な倫理的宗教、すなわち「修養」を生み出した。さまざまな論者によって「修養」概念は用いられ、倫理と宗教、宗教と宗教の境界を超えて展開する超宗教的なカテゴリーとして、戦前日本で幅広い影響を与えることになったのである。