著者
鈴木 重雄 正本 英紀 井坂 利章 古川 順啓 東 彰一 大田 直友 鎌田 磨人
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-10, 2010-06-30 (Released:2012-02-14)
参考文献数
23
被引用文献数
3 5

モウソウチク(Phyllostachys pubescens Mazel ex Houzeau de Lehaie)を中心とする竹林の拡大が全国各地で報告され,社会的な問題となっている.竹林拡大を抑止するためには,竹林所有者のみならず市民参加を促し,協働の枠組みを構築しながら継続性を担保できる計画を策定することが肝要である.本研究では,産民学官からなる協議会「みなみから届ける環づくり会議」が,徳島県阿南市において,竹林の拡大抑制に取り組むにあたり,その活動方針決定にいかすために行った竹林所有者と地域住民を対象とした意識調査を通じて,竹林所有者と地域住民の竹林に対する認識とニーズを明らかにした.その結果,たけのこ生産が盛んであった当地域では,竹林はたけのこ生産の場であると強く認識がされていた.一方,主に竹林所有者にしか竹林の拡大は認識されておらず,竹林を所有していない住民との間で認識に差異があった.また,竹林は所有者の資産であるという考え方が強く,地域全体の問題として竹林拡大抑制策に取り組もうとする意識は低かった.これらのことから,本地域では,竹林の拡大に係る課題を地域内で共有する努力を行って,所有者と地域住民の双方が現状を認識し,合意形成を図る必要がある.
著者
藤田 直子 熊谷 洋一
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.9-21, 2007-12-15 (Released:2011-08-17)
参考文献数
50
被引用文献数
4 4 2

近年, 空間配置やネットワーク概念によって都市緑地を捉えようとする動きが活発化している.このようなアプローチは, 従来の都市緑地の分析・評価に対して行われてきた緑被率や面積による判定では評価されない部分に対して価値を与えることを可能とし, 元来見逃されてきた緑地の潜在性を明らかにすることも可能であるため, 今後の緑地計画上大きな意義があると考えられる.このような視点で緑地の特徴を理解し, 都市緑地計画上に位置づけるためには, それらが各々の価値観に応じて配置されてきたことを理解し, それらの分布の特徴を把握する必要がある.その際, 緑地を画一的に取り扱うのではなく, 文化や歴史を培う基盤であり, 実際の空間と歴史性や場所性との間に連動性があることを理解した上で, 各々の配置されている特徴を空間的に理解する視点が重要である.以上をふまえ, 本研究では各々の歴史性や場所性を考慮して緑地を空間計画に生かすことを念頭に置き, 各々の立地場所そのものがそれらを示す指標であると考え, 各々の立地地点を比較してそれらの差異を明らかにし, それぞれの特性に応じた緑地の在り方や関係性を検討することを目的として研究を行った.研究対象地は東京都23区部とし, 「神社」「寺院」「公園」の分布形態の特徴と相違点を平面的分布形態と立体的分布形態から分析することにより, 3者の分布形態の特性及び地形との関係を明らかにした.その結果, 各々の立地分布の特徴は, 平面的分布形態では神社及び公園はランダム分布の傾向があり, 寺院は集中分布の傾向があることが明らかになった.一方地形との係わり合いを求めた立体的地形的特徴では, 神社が斜面地部に沿って線上に分布し, 寺院が斜面の下部の低地上や上部の台地上に集塊性を持って分布する特徴が認められた.このように神社・寺院・公園のタイプごとの分布形態の特徴と相違点を平面的分布形態と立体的分布形態から分析することにより, 神社の立地は凝集性を持たず全域にわたってランダムに分布しながら, 寺院や公園に比べて地形との結びつきが強いことが明らかになった.従って, 神社が集塊性を持たず局所的な分布の偏りが無くどの地域にも存在するため, あらゆる地域において緑地空間になり得る潜在的特性を持ち, なお且つ公園の立地と異なり, 地形の変化や自然性を考慮した緑地空間として評価できる空間に成り得る潜在的特性を持つことが示唆された.
著者
松本 仁 今西 亜友美 今西 純一 森本 幸裕
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.79-88, 2012-02-15 (Released:2012-04-25)
参考文献数
15

The Oguraike area is now planned for natural environmental conservation and restoration under the Grand Design about Urban Environment Infrastructure in the Kinki Region. Actual vegetation at the Ograike area is expected as a seed source to conserve and restore wetland environment. The purpose of this study was to reveal species composition of actual vegetation in river bank of the Uji River, the Yokoojinuma and the Oguraike drained lands, Kyoto prefecture, Japan. Five quadrats were placed in these areas and all the vascular plant species were recorded. Two hundred and eight species including 10 endangered plant species and 71 alien plant species were recorded. Actual vegetation in the river bank of the Uji River and the two drained lands were useful seed sources of floodplain species and wetland species, respectively. Especially, we found the desirable vegetation with only one alien plant species and some endangered plant species at the center part of the river bank of the Uji River.
著者
横山 恭子
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.33-38, 2011-07-31 (Released:2012-04-25)
参考文献数
21

生物多様性の保全に向けて,GISを利用し,都市近郊の里山における土地利用の変遷を定量的に明らかにした.対象地全域の面積は,14.7 km2である.顕著であった土地利用の変化は,以下の5つである.(1)昭和22年から平成18年に5.0 km2の針葉樹林が広葉樹林へと変化した.昭和22年の針葉樹林の面積7.6 km2の66%にあたる面積であった.(2)昭和22年から平成18年の間に1.9 km2の森林や田畑などが集落へと変化した.高度経済成長期と重なる昭和44年から昭和52年に,1.5 km2と最も多くの田や森林などが集落へと変化した.(3)昭和22年から平成18年を通じて2.1 km2の主として針葉樹林および広葉樹林がゴルフ場へと変化した.ゴルフ場に変化した針葉樹林と広葉樹林をあわせるとゴルフ場に変化した全土地利用の84%におよぶ.特に,昭和32年から昭和44年に,0.7 km2と最も多くの森林などがゴルフ場へと変化した.(4)昭和22年から平成18年に,3.1 km2の主として針葉樹林および広葉樹林が荒地へと変化した.荒地化が最も進んだのは,昭和52年から昭和61年にかけてであった.調査期間を通じてみても,減反や高齢化などによる放棄田から荒地の変化(0.4 km2)を樹林から荒地への変化(1.1 km2)が上回っていることがわかった.(5)調査期間においては,大幅な田の樹林化は進んではいないと解せられた.
著者
中田 康隆 速水 将人 輿水 健一 竹内 史郎 蝦名 益仁 佐藤 創
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.43-52, 2020 (Released:2021-02-02)
参考文献数
42
被引用文献数
4 5

北海道胆振東部地震により森林域で発生した崩壊跡地を対象に,リアルタイムキネマティック-グローバルナビゲーションサテライトシステム(RTK-GNSS)が搭載された小型UAV(Phantom 4 RTK)とSfM多視点ステレオ写真測量を用いた3次元計測の測位精度の実証試験を行うとともに,地形変化の解析を行った.実証試験は,42,500 m2の崩壊跡地を対象に,2019年3月12日に二周波RTK-GNSSが搭載された受信機(ZED-F9P)を使用し取得した11地点の座標データ(検証点間の最大高低差は28 m)を検証点として,RTK-UAVによる空撮画像から構築した3次元モデルから検証点の位置座標を抽出し比較した.地形変化は,2019年3月12日と同年4月23日の2時期にRTK-UAVによる空撮と解析を同様の方法で実施し,数値表層モデル(DSM)の差分解析から地表面の標高変化の把握を試みた.その結果,各検証点とモデルの平均位置精度は,水平・垂直方向で0.060 m~0.064 mであることがわかった.また,植物の生育基盤としての表層土壌の動態や安定性をモニタリングする上で重要となる垂直方向の最大誤差は0.108 mであった.差分解析の結果,-0.1 m以上+0.1 m未満標高が変化した箇所が86.86%と最も多かった.次に,-0.5 m以上から-0.1 m未満標高が変化した箇所が11.36%と多かった.特に侵食域は,崩壊跡地の辺縁部で多く確認された.これらの結果から,標定点設置が困難な森林域の崩壊跡地の斜面表層の変化(1ヶ月間)について,±0.1 mの誤差範囲内で観測可能であることが示唆された.
著者
柳井 清治
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.161-168, 2014-12-25 (Released:2015-12-25)
参考文献数
7
著者
伊東 啓太郎
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.49-56, 2016 (Released:2017-08-31)
参考文献数
35
被引用文献数
4

風土性と地域・まちづくりについて,特徴的なランドスケープの事例とランドスケープデザインの実践を踏まえながら,景観生態学からのアプローチとその課題について整理,考察した.都市における生物多様性と地域特性を取り入れながら設計した都市公園を事例として,デザインプロセスとその特徴を再検証した.パブリックな空間におけるデザインには,制約条件が多い.このため,地域の特性を表現し,デザイン性を高めるには,地形,植生,歴史や文化を直接的,間接的に取り入れてゆく必要がある.特徴的なランドスケープは,そのままでも人を惹きつけ,守られる可能性が高い.ここでは,日常にあるランドスケープを地域の歴史や自然の中にどのように位置づけ,デザインしてゆくかということについて考察した.
著者
森本 幸裕
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1-2, pp.53-59, 2019 (Released:2020-06-10)
参考文献数
17

亀岡盆地の氾濫原は生物多様性から見た重要里地里山500(環境省 2015)に選定された.その特性は洪水時の遊水地となる特性と深く関連しており,生物多様性とその恵みの継承には,霞堤等の伝統的Eco-DRRが欠かせない.その氾濫原における大規模スタジアムプロジェクトは天然記念物アユモドキの生息地であるため,論争の的となり,場所変更されたものの,自然撹乱を代替する農的営みの継承が課題となっている.地方行政は未だに流域の都市化対応が課題であった時代の霞堤締切り,桂川と保津峡開削に加えて圃場整備等のグレーインフラの方針を破棄していないが,地球環境危機が深刻化し,既に人口減少時代となった今,環境省,国交省も推進するグリーンインフラ政策に転換することが望まれる.都市部のグリーンインフラとしての雨庭の提案も示した.
著者
真鍋 徹 石井 弘明 伊東 啓太郎
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-7, 2007-12-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
64
被引用文献数
12 8

都市緑地は, 都市住民に対するレクリエーション, 防災, アメニティー, 環境調節機能や, 都市に生育・生息する野生生物に対するハビタット, コンジット, シンク機能など, 多面的機能を持った存在である.これら緑地空間の持つ機能を効率的に活用するには, 新たな緑地を創出するよりも, 現存する緑地を活用するほうが, 技術面・コスト面からみても有効であると考えられる.その地の潜在的な植生の姿を現在にとどめるような自然度の高い社寺林は, 都市緑地の効果的な維持・管理に向けての中核的存在となり得ることが期待できる.社寺林の生態学的研究は植物社会学的手法による群落記載に端を発した.その後, 社寺林を孤立林として認識し, 孤立した社寺林の群集構造・動態, 生息・生育地機能, 物理的環境要因を評価した研究へと発展した.また, 最近の研究結果から, 社寺林の構造・動態には, 社寺林内外の管理様式や神仏分離・都市公園法などの政策といった社会的要因も関与していることが示された.社寺林の機能を評価するためには, 広域的な景観スケールで社寺林を捉える必要がある.また, 生態学的要因のみならず人文科学的・社会科学的要因も考慮しなければならない.さらに, 都市緑地の中核的存在として社寺林を活用するには, 人による管理が必須であることが, 科学的な根拠の基で主張できるようになってきた.社寺林に限らず, 今後の都市緑地の保全・管理においては, 多様なスケール・手法を用いた個々の研究を蓄積し, 有機的に統合することが重要であるといえる.
著者
岡 浩平 吉崎 真司 小堀 洋美
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.119-128, 2009-12-31 (Released:2012-05-28)
参考文献数
35
被引用文献数
7 5

本研究では湘南海岸沿岸域を事例として,砂丘の開発による海浜幅の縮小と生育地の孤立化が海浜植生の種組成や構造に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.対象地の海浜の面積と分布の変遷を把握するために,地形図を用いて3時期の土地利用図を作成した.また,砂丘の開発が海浜植生に及ぼす影響を把握するために,辻堂砂丘の開発前後の植生を比較した.その結果,対象地の海浜の面積および幅は,1921年から2006年にかけて1/3以下に減少していた.海浜の縮小は,海岸侵食の影響よりも,海浜の市街地化や針葉樹林化といった土地利用の変化の影響が大きいことがわかった.開発以前の辻堂砂丘は不安定帯→半安定帯→安定帯と変化する海浜植生の成帯構造が成立していたが,開発後は成帯構造から半安定帯が消失していた.半安定帯の消失は,砂丘の開発による海浜幅の縮小が主な要因として考えられた.また,砂丘の開発によって,砂防林よりも内陸側で海浜植生の孤立化が生じていた.このような立地では,砂防林の防風効果によって,開発後にビロードテンツキ以外の海浜植物が消失し,帰化植物や内陸植物が優占する植生へと種組成が変化したと考えられた.以上のことから,砂丘の開発は,海浜幅の縮小による海浜植生の成帯構造の破壊,生育地の孤立化による内陸植物や帰化植物の侵入を引き起こすと考えられた.
著者
千布 拓生 日置 佳之
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.89-108, 2013-12-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
3 1

2009年の自然公園法改正で同法の目的に「生物多様性の確保に寄与すること」が明記され,自然公園が生物多様性の保全に大きく貢献していくことが期待されている.そのため,今後は各自然公園において生物多様性の保全・再生に関する面的計画の立案と実行が求められる.本研究では大山隠岐国立公園大山蒜山地域の奥大山地区を事例として,GISを用いて生物多様性の保全・再生に必要な多種類の情報を併せ持った植生データベ-ス(DB)の構築を試みた.この植生DBはベクター型電子地図とその属性情報によって構成されている.植生DBのポリゴンの境界線は,基本的には林野庁または鳥取県が作成した森林基本図の小班の境界線をもとに描き,森林簿が有する属性情報を取り入れた.また,各小班は必要に応じて現況の土地被覆・植生に合わせて細区分し,これを『植生パッチ』として植生DBの最小単位とした.本研究で作成した植生DBは以下の特長を有している.①縮尺1/5000で,詳細な土地被覆や植物群落の情報を含み,植生管理などに用いることができる.②過去4時期(1958年・1974年・1996年・2012年)の土地被覆履歴に関する情報を有し,植生遷移や土地被覆の変遷を把握できる.また,それをもとに将来の植生遷移の動向を推定することができる.③土地所有や国立公園の保護規制計画などの情報を有し,地域性の自然公園の管理に有用である.