著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学経済論集 (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.43, pp.127-152, 2011-09-30

2010 年のノーベル経済学賞はサーチ理論の開発と労働市場分析への応用に貢献した Diamond, Mortensen, Passarides 教授に授与された. サーチ理論は摩擦の存在を前提としているため, 労働者の求職行動や企業の求人行動, 賃金決定の分析に有用である. これらにマッチング関数を組み合わせることで UV 曲線の理論的根拠が与えられる. このような均衡失業理論のフレームワークは DMP モデルと呼ばれており, Walras 型労働市場に替る仕組みを提供するものである. DMP モデルは失業構造の解明, 賃金決定方法, 社会的最適条件の在り方, 雇用政策の効果の検証に多くの知見を与えるものであるため, 労働市場分析の標準モデルとなっている.
著者
青木 美智男
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学経済論集 (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.2, pp.37-56, 1991-01-30

The sudden arrival of the U. S. naval warships (consists of two steam ships and two sailers) lead by Admiral Perry, Cormander of East India Naval Force, at Uraga Harber on June 3, 1853 (HANEI, 6th) and verious responses of the Tokugawa Goverman [Tokugawa Bakufu] have been well discussed by many historians. It is, however, little known the fact that Tokugawa Goverment was notified of the Perry's plan by Holland Governt one year prior to his sudden visit to Uraga Harber. The paper discusses the Tokugawa Government's verious responses preparing for the visit, upon Holland natifications. The Tokugawa Government's struggle in dealing with this problem went on for one year prior to the Uraga incident.
著者
西島 千尋
出版者
日本福祉大学
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.129, pp.1-26, 2014-03-31

音楽受容研究において,西洋音楽中心主義的な時代の大多数の人々は「聴衆」とみなされてきた.ラジオやレコードなどの文化産業が興隆すると,大多数の人間が意志や好みを持たずメディアに踊らされる「消費者」とみなされるようになる.20世紀後半には,カルチュラル・スタディーズの流れのなかで,ただ消費するのではなく,取捨選択して音楽を選ぶ「消費者」が注目されるようになる.そこに近年,新たな消費者像が誕生している.それが「ユーザー」である.その契機となったのは,音楽のデータ化およびインターネットの普及であった.近年の日本の音楽関連研究は,ネットおたくを中心とした「ユーザー」への関心が高い.日本では「ユーザー」が「ネットおたく」と同義で使用される場合も多いからである.しかし,音楽のデータ化やインターネットにより,音楽に携わるのは匿名を基本とするネットおたくだけではない.新たなユーザー層は,さまざまにインターネットや動画共有サイトを使用し,さまざまな意義を見出している.そこで本論文では,アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイスで行ったフィールドワークで得た情報をもとに,ソウル・ラインダンスの事例を取り上げる.アメリカ合衆国で急速に人気が高まっているソウル・ラインダンスは,黒人の「伝統」のダンスであると認識されながらも,パソコンやインターネットの普及と共に新たな活動の様相を呈している.ソウル・ラインダンスの事例を記述することで,音楽のデータ化およびインターネットの普及による音楽と人間との関係性の変化に着目したい.
著者
湯原 悦子 伊藤 美智予 尾之内 直美
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.127, pp.63-79, 2012-09-30

ここ数年, 家族介護者への支援の必要性が多くの場で語られるようになってきた. 支援者の側から家族介護者への支援を論じた研究は数多く見られるが, 家族介護者の側から支援者の支援を論じた研究はほとんどない. 本研究では, 認知症の人の家族介護者 6 名を対象に, ケアマネジャーが行う支援をどう捉えているかを明らかにすることを目的に, インタビュー調査を行った. その結果, 家族介護者のなかにはケアマネジャーの役割や業務範囲を理解できていない者がいること, 病気や制度, サービスに関しては専門職に頼られるほどの
著者
吉村 輝彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.123, pp.31-48, 2010-09-30

参加や協働によるまちづくりという言葉は, 広く一般的に使われており, 全国各地で様々な実践が行われてきた. 今後, 「まちづくり」 の実践や展開においては, 「自分たちで意思決定を行い, 自分たちで実行できるシステムを作り」, また, 「多様な関係主体が, 地域の中で様々な関係性を構築し, 組織や活動を生み出していく (選び取る)」 ことが重要になっていくだろう. そして, この実践・実行のためには, 相互作用や関係変容を促す対話と交流の 「場」 の形成が不可欠になる. そこで, 本稿では, 対話と交流の場づくりから始めるまちづくりに関して, その意義を示すとともに, 具体的な実践事例を通じてその可能性を示す.
著者
中村 信次
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

視覚刺激による自己運動知覚(ベクション)に及ぼす視覚刺激の3次元的布置の効果を心理実験を用いて検討し、(1)視覚刺激の奥行き知覚に変動がない条件においても、視野中心部に呈示された視覚刺激は、同一の面積をもつ周辺刺激と同等の強度を持つベクションを誘導可能であること、(2)静止背景によるベクション抑制には視野の周辺部が、静止前面によるベクション促進には視野の中心部がより大きな影響を持つこと、などを明らかとした。
著者
木戸 利秋 平野 隆之 伊藤 文人 丹羽 啓子 丹波 史紀 谷口 由希子
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

社会的排除への政策対応が課題になっていることをふまえ、イギリスと日本の政策プログラムの評価研究を行った。その結果、イギリスでは社会的排除対策の進展もみられるが、同時に現代社会において貧困や排除に対応すべきソーシャルワークが岐路にたっていることも明らかになった。他方、日本では都市部での貧困調査、子どもの貧困調査、そして過疎地域の高齢者実態調査から貧困・社会的排除対策の現状と課題を明らかにした。
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.122, pp.41-52, 2010-03-31

日本では, 介護者支援の基盤となる法制度は十分に整備されていない. 要介護高齢者を介護する者について言えば, 介護保険法を根拠とする家族支援事業は任意事業であり, 自治体には行わなければならない義務はない. 高齢者虐待防止法では 「養護者」 への支援が規定されているが, 目的は支援を要する高齢者の権利利益の擁護であり, 介護者支援はそのための達成手段にすぎない.イギリスでは, 介護者法を根拠に, 介護者を要介護者の支援者と捉えるのみならず, 要介護者とは違う個人として認め, その社会的役割を確認し, 彼らが介護を原因に社会から孤立しないことを目指している. オーストラリアでも, いくつかの州で介護者法を設け, 介護者支援の充実をめざす動きが広がっている.本研究では, イギリス, オーストラリアの介護者法の内容と到達点を調べ, 日本が学ぶべき点について検討した. その結果, 介護者を独自のニーズを有する個人と認識し, 「社会的包摂」 を目的に介護者法を制定し財源を確保すること, 自治体は介護者とサービス提供者に法の内容を告知し, 介護者アセスメントを実施し, その結果に基づき適切なサービスの給付を行うことの 2 点を確認できた.
著者
吉野 真紀 織田 裕行 木下 利彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、性同一性障害(以下、GID)当事者を対象とし、治療前と治療を経て概ね望む性別での生活を実現した時点とを比較することにより、当事者の自己実現のあり方及び心理的変化を明らかにすることである。対象者として、GID包括医療を求めて受診し、初診時及び治療経過後の心理検査データを入手した。主観的変化を調べる資料として2018年度までに対象者5名への半構造化面接を終了し、テキストデータにおとした。残り1名については、連絡がとれないため、半構造化面接の実施を断念した。半構造化面接の分析の参考とするため、またGID当事者のライフステージごとの課題や状況等を知るため、各種学会や研修会(GID学会研究大会、日本ユング学会、日本心理臨床学会、日本青年期精神療法学会総会、等)に参加し、専門的知識の教授を受けた。当事者ひとりひとりの自己実現過程について学びを深めるため、当事者会への参加やジェンダー外来担当者との打ち合わせ等を通して自己研鑽に努めた。また、本研究を含めた学びの内容について、講演活動(研修講師)を務める中で伝えることに尽力した(名古屋市教育委員会等)。現在、心理検査データの量的分析の試行、研究協力者と半構造化面接の分析および考察の作業を進めている。※性同一性障害(GID)という診断名はDSM-5への改定に伴い性別違和(GD)に変更されているが、対象者の診断確定時点ではGIDであったため、本研究の関連書類において必要箇所ではGIDという用語を使用する。
著者
竹村 瑞穂
出版者
日本福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究のタイトルは、「遺伝子ドーピングに関する倫理学的研究:原理的研究から行動規範の策定まで」であり、競技スポーツ界における遺伝子ドーピングに関する応用倫理学的考察を主眼とした研究である。遺伝子ドーピングとは、「遺伝子操作技術を、健康なアスリートが、治療目的ではなくパフォーマンスの向上を意図して利用するドーピング」のことであり、とくに21世紀に入ると現実的な懸念の対象となってきた。科学技術の進歩に対して倫理学的研究が遅れている状況の中、遺伝子ドーピングに関する倫理学的諸問題を明確化し、対応策につながる見解を提示した。
著者
田中 千枝子 本名 靖
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.121, pp.43-54, 2009-09

医療財資源の効率化を目的にした, 第五次医療法改正の目玉である 4 疾患 5 事業制度が始まった. 各疾患や事業ごとの地域連携を促進する仕組みである. それに先駆けて, HIV/AIDS 医療体制でも整備事業が行われている. これは HIV/AIDS に関するブロック・中核の各拠点病院間また拠点・非拠点病院間の地域医療連携体制づくりの試みである. そこでは医療ソーシャルワーカーには, ミクロレベルの個別事例の直接支援のための連携のみならず, 組織や地域に介入するメゾからマクロレベルの連携行動が必要とされる. しかし従来病院に所属している医療ソーシャルワーカーはミクロレベルへの直接介入のサービスマネジメントにとどまり, 組織や地域に展開するメゾ・マクロレベルの連携行動としてのソーシャルワークを, 通常業務として行っているとは言い難い状況にあるのではないかと考えられた.そこで HIV/AIDS に対する医療ソーシャルワーカーの地域連携活動についての認識とその実態について, 全国の全拠点病院 (368 名), 非拠点病院 (800 名) のソーシャルワーカーに対して量的調査を平成 20 年 12 月から 21 年 1 月にかけておこなった. 回収率は前者 50.8%で, 後者で 43.8%であった. 調査の結果, 回答を行った拠点病院の 75%のソーシャルワーカーは HIV/AIDS 事例体験を有しており, 非拠点病院では 15%であった. 対象の集団は, 専門職団体である日本医療社会事業協会会員とほぼ同じ基本属性を持つ集団であり, 性別で 8 割弱が女性, 8 割弱が社会福祉士資格をもち, 拠点病院ではさらに精神保健福祉士や介護支援専門員資格も 3〜4 割程度と有意に多く持っていた. しかし拠点病院のソーシャルワーカーの経験年数は非拠点病院よりも有意に少なく, 比較的若年層が多かった.HIV/AIDS 拠点および有事例者集団の連携行動の特徴は, メゾのチーム・組織レベルでの認知や理解は得られており, また経験を積んでいることによって, 外部との連絡を自分なりに吟味して動き出すという専門職としての自律性を有していることが分かった. また事例経験のないソーシャルワーカーほど, 他組織との連携の必要を強調しているが, 経験を積めば積むほど, 拠点病院として他のスタッフや組織的な認知が深まっていると思われる状況では, むやみに他と連携するような行動はとらず, 状況をアセスメントした上で, 必要な連携の形を吟味していることが推察された.さらに有事例者のみに対して, 保健師や地域権利擁護専門員を対象に信頼性妥当性があるとされる筒井の 4 領域 15 項目にわたる地域連携活動尺度を援用した. その結果 HIV/AIDS へのメゾレベルへの介入行動としての連携活動は, 地域に軸足を置くコミュニティワーカーとしての保健師や, 権利擁護専門員とは異なる連携の型を持っていることが考えられた. それは病院内に軸足を置きながら, 組織の人間として地域や組織をアセスメントし, 組織の代表として地域と繋がっていこうとする行動と関連があるように考えられた. この点の具体的な確認作業が今後の課題であると考える.