著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学経済論集 (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.41, pp.173-200, 2010-09-30

現在の日本において貧困は深刻な社会問題となっている. 1990 年代後半以降, 格差問題が活発に議論されていたが, 焦点は貧困問題へと移行している. 先進諸国において, 従来の社会保障制度は働く貧困層 (ワーキング・プア) の増加に対応できない状況となっている. 貧困問題に真摯に対応することは社会の基盤を構築する上で重要であり, 最低所得を保証するものとして負の所得税やベーシック・インカムが提起されてきた. 欧米の先進諸国では, ワークフェアの一環として, これらを基礎とした税額控除制度が実施されているところである. 福祉国家という概念は, リベラリズムや自然権のみならず, 自由主義思想の影響も受けている. 日本においても社会保障制度を再構築するために制度の哲学的基盤を整備する必要性がある.
著者
後藤 順久
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.対象地域での実証実験災害発生(地震)直後において、聴覚障害者が自宅(職場・学校)から避難所までの第一次避難を、安全かつ最適に実行するための支援ツール(避難支援情報システム)の有効性を確認することを目的とし、半田小学校を避難所と想定し、聴覚障害者及び見守りネットワークの役割を持つ被験者を割り当て、実験シナリオに基づき実証実験を実施した。2.システムの有効性評価実証実験を通じて、おおむね、以下の有効性が確認できた。(1)文字情報で伝わるため、情報の誤解が少ない。(2)Web連携機能によりメッセージの返信が可能であり、到着確認が確実に行える。(3)返信には、メッセージの候補が登録でき、聴覚障害者にも操作が容易である。(4)余裕のある聴覚障害者からは、災害情報も返信され、システムの危険エリアの追加等に利用できる。今後の課題として、以下のことが確認できた。 (1)災害時にはメール遅延等の影響が懸念される。 (2)メール送信時にGPSの位置検索のメッセージが表示されると、誤って位置検索をキャンセルするケースがあった。結果、その回の位置登録が行えないことが発生した。 (3)GPSについては、普段とは違う携帯機種を使ったため、メール確認等に手間取るケースがあった。 (4)今回の被験者である聴覚障害者は、携帯電話によるメールを普段使い慣れている点で、メールによる情報提供は有効な方式であることを確認した。ただし、障害タイプにより違いが発生するため、音声や手話テレビ電話等の併用を検討する必要がある。
著者
加茂 浩靖
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学経済論集 (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.40, pp.133-142, 2010-03-31

本研究では, 人材サービス業にとって主要な労働力調達地域である国内周辺地域を対象に, 人材サービス業で就業する労働者の就業状況を分析し, この産業への労働力供給の要因を考察する. このため, 鹿児島市の 17 の人材サービス事業所で得た聞き取り調査の結果, および就職説明会参加者 68 人に対する聞き取り調査の結果を用いて分析を行った.労働者データの分析の結果, 人材サービス業での就職を希望する最大の理由は 「賃金支給額の多さ」 であり, 賃金の地域差がこの地域からの労働力供給の要因になっている. ただし, 年齢で動機や就業行動が異なると考えられるため, 回答者を 35 歳未満と 35 歳以上に分類して分析すると, 35 歳未満の若年者とりわけ単身者では, 条件の良い職業を求めて短期間で転職を繰り返している点が特徴的である. これに対して 35 歳以上の中高年では, 製造業務の経験を生かせる職業を求めて人材サービス業に応募している点が特徴的である. 後者には直接雇用での製造業務経験者が 57%と多く, 近年減少した直接雇用求人の代わりに人材サービス業を選択している.
著者
近藤 克則 吉井 清子 末盛 慶 竹田 徳則 村田 千代栄 遠藤 秀紀 尾島 俊之 平井 寛 斉藤 嘉孝 中出 美代 松田 亮三 相田 潤
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,介護予防に向けて,心理的因子や社会経済的因子の影響を明らかにする社会疫学の重要性を検討することである.(1)理論研究では,多くの文献をもとに社会疫学の重要性を検討した.(2)大規模調査(回収数39,765,回収率60.8%)を実施した.(3)横断分析では,健診や医療受診,うつなどと,社会経済的因子の関連が見られること,(4)コホート(追跡)研究では,社会経済的因子が,認知症発症や要介護認定,死亡の予測因子であることを明らかにした.本研究により,社会疫学研究が,介護予防においても重要であることを明らかにした.
著者
片方 信也 佐々木 葉 小伊藤 亜希子 室崎 生子
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1 中高層集合住宅の建設動向:京都市都心部では、バブル期についで1993年以降再び中高層集合住宅の建設ラッシュに見舞われている。1993年以降の特徴は、分譲、および9階建て以上の高層の割合いが増えていることであるが、敷地規模は依然として多くが400m^2以下であり、周辺の町並みの日照を奪っている。2 都心部中高層分譲集合住宅入居者の特性:1993年以降では3〜4000万円台と分譲価格が下がっているため、子どものいる世帯を含めて多様な世帯の入居がみられる。全体の7割は京都市内からの転入であり、うち半数は都心部内からである。6割の世帯に現在、または以前に都心部に住んでいた親族がおり、都心部とのコネクションの強い住民の入居が多いことがわかった。3 中高層集合住宅に対する周辺住民の対応:中高層集合住宅の建設に対して、日照やプライバシーの侵害、ビル風等の実施的な被害に加え、周辺住民が多大な不安を示していることがわかった。それは、マナーが悪い、だれが住んでいるかわからない、といったコミュニティ形成上の問題である。また、中高層集合住宅建設時に町内会として業者と交渉したり、建築協定を作って対応するといった積極的な動きがみられる。4 中高層集合住宅の立地する町内のコミュニティ形成:集合住宅自治会として町内会に属し、町内会の行事にも参加しているケース、管理人だけが町内会とのつなぎをしているケース、まったく別組織にしているケースなど、集合住宅の町内会との関係は様々であった。概して、集合住宅住民と周辺既存住民の交流は薄く、周辺環境を破壊する集合住宅の建て方がコミュニティ形成のひとつの疎外要因になっている。5 京都市都心部の地域ストックの享受と破壊:周辺既存住民と同様に、集合住宅入居者も、生活のしやすさ、便利さ、歴史や文化の存在、自然環境等、京都の都心部の「京都らしい」環境を評価して入居しているが、現在のような中高層集合住宅の建設は、その環境を破壊しつつあるという矛盾を抱えている。
著者
西村 一彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

農業用ため池の多面的価値を計測することを目的として、5択一式の調査票を設計し、西日本の16,000人に対してネットアンケートを実施した。データは離散選択モデルを基礎とする混合ロジットで分析を行い、ため池属性の限界価値を測定した。