著者
福田 晴男 美ノ谷 憲久
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.29-43, 2000-01-01 (Released:2017-08-10)
参考文献数
3
被引用文献数
3

The subspecific division of the Japanese populations of Neptis pryeri Butler is revised, and a new subspecies N. p. setoensis is described for the populations ranging on the relatively low-altitude areas around the Setonaikai Sea, to which N. p. iwasei Fujioka, 1998 has tentatively been applied. Analysis of the wing maculation is made for subspecies yodoei Fujioka, 1998, hamadai Fujioka, Minotani & Fukuda, 1999 and setoensis ssp. nov., and all the analyzed specimens of these subspecies are illustrated.
著者
北原 正彦
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.29-39, 1996-03-15 (Released:2017-08-10)
参考文献数
24
被引用文献数
3

A local adult population of the nymphalid butterfly, Brenthis daphne rabdia (Butler), was studied by the mark-release-recapture method in a grassland at the foot of Mt Kayagatake in central Japan, in June and July, 1985. The number of adults captured and marked during the study period was 36 for males and 22 for females. The average number of recaptures among each research day in all recaptured adults was l for males and 1.6 for females. The rate of recapture throughout the study period was 11.1% and 45.5% for males and females, respectively. The maximum longevity observed was 21 days for males and 19 days for females. The present results suggest that dispersibility was higher in males than in females, while females showed a tendency to be sedentary. The causes of the differences in the mobility and dispersal patterns between males and females are discussed in the light of the distribution patterns of larval hostplants and adult nectar plants, and the emergence site of females.
著者
島崎 正美 入野 裕史 金子 實
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.49-54, 2008
参考文献数
13

石垣島や西表島などの八重山諸島では,偶発的に発生するヤエヤマムラサキ(Hypolimnas anomala)の母蝶が,産卵後の孵化から幼虫が2令に成長するまでずっと葉裏にとどまってそのままの姿勢で死ぬことが多いという特異な習性を示すことは広く知られていて,日本ではその母蝶がいなければ全く孵化しないとか,例え孵化してもその後幼虫が順調に成育できないと信じられていた.この蝶の上記習性に関しては,NafusとSchreiner (1988)が,グアム島において本邦と同一ではない餌植物で発生しているヤエヤマムラサキに関する生態研究結果を報告しているが,本邦における母蝶に関する報告例はきわめて少ない.筆者らは2001年から2002年にかけて卵保護状態にあった母蝶がいなくなったあとも正常に蝶にまで生育できた野外観察結果を報告した(蝶研フィールド,2002)が,NafusとSchreinerによる報告とはいくらか異なる知見を含む複数の野外観察事例を追加して,母蝶がいなくなっても卵から蝶まで正常に育つことは稀ではなく母蝶の保護が必須ではないとの結論を得た.ただし,本報告中でも述べたように実際に母蝶の保護がないと正常に成育できなかった例もあり,母蝶が産卵後に葉裏にとどまり続けることの真の理由解明にはさらなる調査・研究が必要である.
著者
那須 義次 荒尾 未来 重松 貴樹 屋宜 禎央 広渡 俊哉 村濱 史郎 松室 裕之 上田 恵介
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.47-58, 2019-08-31 (Released:2019-09-12)
参考文献数
39

The insect fauna in Ryukyu Ruddy Kingfisher nests was investigated on Iriomote-jima, Ishigaki-jima and Miyako-jima Is., Okinawa, Japan. Kingfishers on Iriomote-jima and Ishigaki-jima Is., where Takasago termites which make ball-like nests on trees are distributed, often dig nesting holes in the termite nests, but they excavate holes in decayed trees on Miyako-jima I. where the termites are not present. Moths belonging to the family Tineidae were found to be the main symbiotic insects in the nests, and eight moth species, including two species considered to be undescribed or newly recorded species from Japan, were confirmed. The differences in moth faunas of the kingfisher nests between the three islands are discussed.
著者
保田 淑郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.159-173, 1998
参考文献数
49
被引用文献数
2

筆者は,日本産の本属の種についての検討を1956年に行い,当時の知識と雌雄交尾器の形態から,日本のものはAdoxophyes orana(Fischer von Roslerstamm)であるとした.その後,農業上,園芸上の害虫として本属に属する種が重要視され,特にリンゴとチャをそれぞれ加害するもの(リンゴコカクモンハマキ,チャノコカクモンハマキあるいはコカクモンハマキのリンゴ型,チャ型)について多くの研究者による生態学的,生理学的,形態学的な研究が進められてきた.このような経緯の中で筆者は再び1975年,リンゴを主に加害するリンゴコカクモンハマキにA.orana fasciata Walsinghamの名をあて,チャノコカクモンハマキに対しては種名を決定できぬままAdoxophyes sp.として対応した.ハマキガ亜科の昆虫は明瞭な性的二型を有するが,Adoxophyes属のものも例外ではない.特に,今回新種として記載した2種は顕著な性的二型を示す.また,幼虫期における温度の差,すなわち低温,高温によって成虫の翅の基色や斑紋に変化が生じる.一般的に幼虫期に高温を経験すると成虫の斑紋は明瞭,濃色となる傾向があり,外見では同定が容易ではない.しかし,雄の前翅のcostal foldやその内面の特化した鱗片群,雌雄交尾器などの詳細な形態を比較検討した結果,チャノコカクモンハマキとリンゴコカクモンハマキは形態的に識別可能であり,さらにチャノコカクモンハマキとされていたものには2種が混同されていたことが明らかになった.今回,現在の混乱を避ける意味で日本に分布するものについて一応の整理をおこなったが,今後もさらに総合的な研究が続けられる必要がある.本論文では日本産Adoxophyes属を次のように整理した.1.Adoxophyes orana fasciata Walsinghamリンゴコカクモンハマキ翅は赤色味を帯び,斑紋は乱れている.Costal foldの内部両面には白色で紡錘形の特化した鱗片群を密に有する.バラ科植物を主に寄主とし,北海道と本州とに分布する.2.Adoxophyes honmai sp.nov.(新種)チャノコカクモンハマキ翅は黄土色で光沢があり,斑紋は明瞭である.Costal foldは3種の中ではもっとも狭く,内面には特化した鱗片群はない.主にチャを寄主とし本州西南部に分布する.おそらく四国,九州にも分布すると思われる.3.Adoxophyes dubia sp.nov.(新種)ウスコカクモンハマキ(新称)本種はチャノコカクモンハマキと混同されていた.翅は白っぽく光沢があり,斑紋は明瞭である.Costal holdは3種の中ではもっとも大きく長く,その内面は褐色で紡錘形の特化した鱗片群で裏打ちされている.本州西南部,四国,九州,琉球列島に分布する.本種は本州のネジキとヤブサンザシで飼育,羽化した記録はあるが,本州でチャからは得ていない.
著者
渡辺 康之
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.1998, no.174, pp.16-24, 1998-01-25 (Released:2017-08-19)
参考文献数
14

1997年9月26日から10月10日までおよそ2週間の日程でヨーロッパ各地,と言ってもイギリス,フランス,ドイツ,チェコの4カ国を駆け足で回った。そのおり季節外れながら採集地を訪れたり,自然史博物館やバタフライ・ハウス,インセクト・フェアーなどを見てきたので,ここに紹介しておきたい。
著者
星川 和夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.278-284, 1996
参考文献数
10

北海道産コムラサキの越冬幼虫は-32℃で自発凍結したが,植氷すると-7℃で凍結した.凍結した幼虫は-19℃・24時間までの凍結に耐える能力を有するが,以下のしくみで植氷凍結を回避していた:(1)越冬台座と体側毛列により植氷の起こる腹側への水の侵入を防いでいる,(2)植氷の起こりにくい北東面の樹幹部で越冬する.越冬幼虫は体液中に生体重あたり6.5%のグリセリンと0.5%のトレハロースを含んでいた.リッター層中で越冬するオオムラサキ幼虫の耐寒性も比較のために調べた.本種は耐凍性が弱いにもかかわらず植氷を回避するしくみをもたなかった.オオムラサキ越冬幼虫はトレハロースを1.4%含むが,グリセリンを含まない.
著者
KOBAYASHI HIROSHI
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.41-56, 1969

Eilema属はヒトリガ科Arctiidae,コケガ亜科Lithosiinaeに属し,非常に種類の多いグループで,北米を除く各大陸に分布している.日本に分布しているEilema属の各種は互いによく似ているばかりでなく,♂♀でまったく違った翅形・色彩・斑紋を示す種もあって,これまでその同定,学名の適用に多くの誤りがあった.INOUE & YAMAMOTO (1961, Kontyu, Vol.29:72〜78)は特に学名の使用法が混乱している5種の整理を発表し,また,井上(1961,日本産蝶蛾総目録,6:626〜629)は日本産(琉球列島を除く)として12種を挙げている.本文では,上に述べた文献を中心として学名および和名を採用し,主に♂交尾器の形態による既知12種の分類を試みた.♂交尾器は,最も信頼できる種の区別点を示すがcornutusの形や数には個体変異があり,ことに小さな骨片から成る場合は,その数が必ずしも一定していないので,この点は注意しなければならない.日本産のみについて比較すれば,この属の♂交尾器は,全体としてよくまとまっているが,E. cribrata STAUDINGERヒメキホソバだけが,かなり異質的なvalveを持っている. Juxtaの形態から,この属は2つのグループに大別できる. 1.Juxtaは骨化の強い角状の突起をなす:E. degenerella WALKERシロホソバ, E. fuscodorsalis MATSUMURAヤネホソバ, E.japonica LEECHキマエホソバ, E. minor OKANOニセキマエホソバ, E. coreana LEECHヒメキマエホソバ, E. griseola aegrota BUTLERキシタホソバ, E. okanoi INOUEミヤマキベリホソバ. II. Juxtaの骨化はいっそう弱く,両側にある1対の棒状骨片は,種によって中央で,融合するが,決して角状の突起とならない.このグループはvalveの形から史に2つに分けられる. 1,ValveはEilema独特の形で, harpeが先のとがった角状の突起:E. nankingica DANIELヒメツマキホソバ, E. tsinlingica DANIELキムジホソバ, E. depressa pavescens BUTLERムジホソバ, E. laevis BUTLERツマキホソバ. 2.Valveには角状のharpeがなく,先端部は丸味をもち,帯状に小針状物が並んでいる:E. cribrata STAUDINGERヒメキホソバ.翅脈にはかなり個体変異があるが,前翅に小室をもつのはE. depressaどlaevisだけで,両種ともその特徴は安定していない.脈8と9は有柄だが, E. japonicaだけは合して1本の脈となっている.脈11が12と完全に離れているのはE. fuscodorsalisだけで,他の種では12と接するが翅頂まで,または短距離の間結合する.
著者
福田 晴夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.103-106, 2008-03-30
参考文献数
11

マダラチョウ亜科の幼虫は毒々しい斑紋により身を守ることが知られ,斑点型,縞模様型,その混合型に大別されるが,ルリマダラ属には3例(ルリマダラ,ミダムスルリマダラ,バテシイルリマダラ)ながら無紋で警告斑紋を持たない幼虫がいる.では彼らはいかにして身を守るのか.本報では台湾産ルリマダラの観察例を主にしてこの問題を論ずる.台湾の苗栗県竹南濱海森林公園における2006年4月の野外観察,およびその後の飼育時の観察によると,幼虫(とくに中-終齢)の防衛行動は次のようなものである.(1)隠ぺい的行動:休息時,頭胸部を釣針型に丸め,突起を倒して静止している.(2)威嚇的行動:ものに驚くと,体と突起を激しく震わせて威嚇する.(3)転落行動:威嚇の後,身体前半を内側に曲げたまま仰向けに反り返るようにしてして落下する.これらは多くのマダラチョウ類にも見られるものではあるが,それらの転落は強い接触刺激を受けた時であり,幼虫のこれほど激しい威嚇行動はない.しかるに,本種は人が撮影に近づいただけで何らかの刺激を感知し,激しく威嚇した後すぐに転落した点が特徴的である.これには単色で細長い体形と長い突起という形態的特徴と深く関わっている可能性が高い.もちろん,単なる転落行動なら草食性幼虫のほか造巣性幼虫でもみられ,警告色斑紋の幼虫にもみられるものであるが,ルリマダラ属の中で少数種のみが,なぜこのような戦術をとるのか興味深く,本格的な調査が期待される.
著者
有田 豊 由良 文隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.91-92, 1988-05-10

コシアカスカシバSesia molybdoceps(HAMPSON)の食草としてはブナ科のツクバネガシが知られていた(渡辺,1967).著者らは愛知県の名古屋市内と春日井市内で1983,1985,1986年に同じブナ科のクリ,クヌギ,コナラよりスカシバガ科の幼虫を見つけ,飼育した所いずれの植物からもコシアカスカシバが羽化した.幼虫は樹幹の樹皮下を楕円状に食害し,樹液に体の半分がつかっていた.樹皮の外に,糞を出すが,その穴より夏の間にしみ出た樹液にスズメバチ類やカナブンなどの甲虫が吸汁に集まっていた.幼虫は8月上旬頃より幼虫の坑道やその近くの樹皮下で木屑をつづり合わせたマユを作り蛹化する.井上によって本種の♂と♀が講談社の日本産蛾類大図鑑に図示されたが,その内の♂は,Sesia contaminata(BUTLER)ハチマガイスカシバの♂の間違いである.
著者
横地 隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.6-18, 2005
参考文献数
11

イナズマチョウ属の1新種と6新亜種の記載を行い,同属における1タクソン,Euthalia occidentalisのレクトタイプ指定を行った.I.新種の記載 Euthalia(Limbusa)koharai sp.n.(図1-4) ♂.前翅長43-48mm.翅形:前翅,前縁は滑らかに湾曲し,翅頂はやや丸みを帯びる;外縁はわずかに内側に凹み,各翅脈端は突出する;後縁は直線状.後翅.外縁は各翅脈端で強く突出する.斑紋:前翅表面,地色は濃緑茶色;亜基部付近の本属特有の環状斑群は明瞭;外中央白紋列は淡黄色で1a室から第6室におよび,第3室の外側に黒色のくさび形の縁取りがある;前縁には白色鱗が侵入しない;亜翅端部は第6室と第8室に淡黄色紋がある;亜外縁部は第1b室から前縁部にかけて黒色帯があり,第3,4室で内側に偏位する;縁毛は白色で翅脈端は黒色.後翅表面,地色は前翅と同様;中室端の黒色だ円形紋は明瞭;黄白色の外中央紋列は第1b室から第7室におよび,その外側にはブーメラン型の黒紋列がある;外中央白紋列の外側には青白色域があり,外縁にむかって濃紺色に段階的に変色する;縁毛は白色で翅脈端は黒色.前翅裏面,地色は個体変異をみるが緑がかった黄茶色;亜外縁部は第1a室から前縁部に黒色帯があるが,第1b,2室を除いて痕跡的.後翅裏面,地色は前翅と同様;基部の不正形環状斑は明瞭;外中央白紋列の内側は黒条があり白紋の内側を縁どる;亜外縁部は第1b室より第7室まで緑青色帯があるが,第1b室では顕著な黒紋となる.翅脈:後翅中室端は開く.触角:表面は黒色,裏面は一様に褐色である.♂ゲニタリア(図9):Uncusは先端方向に一様に先細る;valvaはやや細長く,中央部がやや太く,先端部分は10数個の短い棘がある;valvaの先端は下方が外側に90度程度捻れる.♀.前翅長48-51mm.翅形:♂に同形だが全体に丸みを帯びる.斑紋:♂に類似する;裏面地色は前後翅の地色は個体変異をみるが,淡黄緑色.翅脈:♂と同様.触角:♂と同様.分布:中国雲南省,広西壮族自治区.新小名koharaiは,昆虫研究者の小原洋一氏(東京)に因む.本種は中国大陸を分布の中心にもつEuthalia属のLimbusa亜属に含まれる.Limbusa属には前後翅を貫くイチモンジ白帯をもつグループがあり,本種もこれに属する.これらは互いに類似した特徴のため,種間の鑑別は容易ではない.本種に最も類似する種は,thibetanaとalpherakyiであり,以下に鑑別点を列記する.なお,ここで言及する種thibetanaとは,従来より種undosaとして認知されているものを指す.筆者の調査で,undosaはthibetanaのシノニムとするのが正しいことが分かった.本件については,別の機会に詳細を報告する予定である.種thibetanaとの鑑別 1)Koharaiはthibetanaに比べ大型で,翅形はやや丸みを帯びる.2)Koharaiのイチモンジ帯は,前翅は淡黄色,後翅は黄白色であるが,thibetanaはさらに黄色味が強い.3)Koharaiの表面地色は濃緑青色であるが,thibetanaは茶色味が強い.種alpherakyiとの鑑別 1)Koharaiでは後翅中央白帯の外側に青白色が出現するが,alpherakyiでは認めない.2)Koharaiでは♂前翅第3室の白紋は外側に尖るが,alpherakyiではほぼ平坦.3)Koharaiでは♂ゲニタリアのvalva先端はほぼ90度に捻れるが,alpherakyiでは捻れは緩やか.II.新亜種の記載 1.Euthalia(Limbusa)pacifica masaokai ssp.n.(図5-8) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種pacificaに比べて次のような相違点がある.♂.表面の地色は深緑色を呈する(原名亜種は茶褐色);前翅第3室に黄色斑を認める;後翅黄色域が小さく,第1b室と第2室の一部に認める(原名亜種では第1b,2室の全てと第3,4,5室に及ぶ);裏面の地色は青緑色を呈する(原名亜種はウグイス色);後翅裏面の斑紋は明瞭に出現(原名亜種はぼやける).♀:表面の地色は深緑色を呈する(原名亜種はモスグリーン色);前翅の斜白帯は大きく出現;後翅亜外縁の斑列はやや不明瞭;裏面の地色は青緑色を呈する(原名亜種はウグイス色).分布:ラオス北部.新亜種名masaokaiは,名古屋市立大学名誉教授,正岡昭博士に献名した.2.Euthalia(Limbusa)duda bellula ssp.n.(図10-13) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種dudaに比べて,♂♀ともにはるかに大型.後翅の白帯外側は原亜種の紫色がかった青色とは異なり,濃青緑色を呈する.また裏面は明るい黄緑色となる.分布:ラオス北部,ベトナム北部.新亜種名belluiaは,ラテン語で「優しい,優雅な」の意.3.Euthalia(Limbusa)hebe tsuchiyai ssp.n.(図14-17) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種pacificaに比べて次のような相違点がある.♂:原亜種に比較して大きい;表面の地色は深緑色を呈する;中央帯は細く,クリームイエロー;裏面の地色は銀色がかった青緑色.♀:原亜種に比べ,大きい;表面の地色は深緑色を呈する;前翅斜帯は濃いクリームイエロー;裏面の地色は青緑色.分布:ラオス北部,ベトナム北部.新亜種名tsuchiyaiは,医療法人輝山会記念病院理事長,土屋隆博士に献名した.4.Euthalia(Limbusa)pulchella niwai ssp.n.(図18-21) ミャンマーのカチン州北部を基産地とするこの新亜種の♀は,亜種pulchellaに比べて大型.裏面の地色はpulchellaの青緑色に対して,本亜種は黄緑色.♂は未知.分布:ミャンマーカチン州北部。新亜種名niwaiは,岐阜県国保上矢作病院院長,丹羽傳博士に献名した.5.Euthalia(Limbusa)pyrrha ueharai ssp.n.(図22-25) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種pyrrhaに比べて,♂は地色が暗くなる.♀は地色が濃緑色でやや大型,前翅紋列は白色.分布:ラオス北部,ベトナム北部.新亜種名ueharaiは,神奈川県在住の昆虫研究者,上原二郎氏に献名した.6.Euthalia(Limbusa)aristides kobayashii ssp.n.(図26-29) 中国浙江省・麗水を基産地とするこの新亜種は,原名亜種aristidesに比べて,♂は翅表の地色がうすくなり,イチモンジ帯がやや太い.♀は大型で,翅表の地色は青緑色を帯び,イチモンジ帯は白色となる.裏面色調は全く異なり,原名亜種のような黄緑色ではなく青白色を帯びる.分布:中国浙江省,福建省.新亜種名kobayashiiは,三重県志摩町国保前島病院の元院長,小林端博士に献名した.III.レクトタイプの指定 Limbusa亜属のoccidentalisについて,レクトタイプの指定を行った.Euthlia occidentalis(図30,31) E.occidentalisは,3♂2♀をもとに,Ta-tsien-lou,Sialou,Tien-tsuen,Moupin(中国四川省)を基産地として記載されたが,BMNHには4♂(!)2♀がタイプシリーズとして保管されている.このうち1♂1♀がタイプ箱(No.4-5)に保管されている.2♀は別種のstrephonとnaraであるため,タイプ箱に保管されている1♂をレクトタイプに指定した.IV.Limbusa亜属に関する覚書 下記にaristides,formosanaのタイプ標本に関する覚え書きを記した.1.E.aristides(図32,33) Tien-tsuen,Siao-lou,Mou-pin,Ta-tsien-lou(中国四川省)を基産地とするaristidesは,原記載でタイプの個体数は明記されていない.BMNHには50♂がタイプとして保管されている.すべてOberthurコレクションのラベルが付され,内訳はMou-pin産7♂,Siao-lou産24♂,Tien-Tsuen産8♂,Ta-tsien-lou産11♂である.このうち,Mou-pin産のうちの2♂(タイプ箱No.17-218)は種aristidesではなく,別種のthibetanaである.タイプ箱に保管されている1♂は,タイプ指定のラベルが付されているが,原記載ではホロタイプ指定はされておらず,また以後の年代にもレクトタイプ指定は行われていない.2.Euthalia formosana E.formosanaはFruhstorferにより,1908年に6♂をタイプとして記載された.MNHNのFruhstorferコレクションに現存するformosanaの個体は6♂2♀である.このうち,5♀には"VI08"(June1908と推察)のラベルがあり,タイプシリーズと考えられる.1♀には"Type(red)"を示すラベルが付されているが,原記載ではタイプは全て♂であることから,記載時の♂♀誤同定の可能性もあろう.なお,残りの1♂1♀には,原記載発行年以後のラベルが付けられている.
著者
大和田 守 岸田 泰則 Seegers Rainer
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.199-201, 2007
参考文献数
8

2006年8月26日,長野県奈川村入山で採集をしようとしていたところ,午後5時頃から日没前に小型で白色の蛾がたくさん飛んでいた.蛾は樹冠部すれすれを素早く不規則に飛び,ときに森の内部にも入ってきていた.このうち5頭を採集することができたが,すべてウススジギンガの雄であった.その場所で灯火採集も行い,ギンガ類をできるだけ採集し固定したところ,ハルタギンガ,クロハナギンガ,アイノクロハナギンガ,ヒメギンガ,ウススジギンガ,エゾクロギンガの6種が混ざっていた.昼間飛翔していた蛾は,明らかに何かを探しているように見えた.採集できた5頭ともウススジギンガの雄であったことから,飛んでいたギンガがすべてウススジギンガの雄であった可能性が高いし,この飛翔が交尾のためのウススジギンガ雄の通常の採雌行動と推定できた.
著者
倉田 稔
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.39-46, 1970

第8報としてシタバガ類Catocalaとギンガ類Chasminodes(共にヤガ科Noctuidae)をまとめ,あわせて分布上興味ある本州未記録種と中部地方の未記録種などを数種記録する.本文に先だち常日頃御指導いただいている信州大学小山長雄博士並びに東京都の杉繁郎氏に深謝いたします.
著者
北原 正彦 入來 正躬 清水 剛
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.253-264, 2001-09-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
24
被引用文献数
3

To examine the relationships between the northward distributional expansion of the great mormon butterfly, Papilio memnon Linnaeus, and climatic warming in Japan, we analyzed a data set on temperatures near the northern range limit of the species for the past ca 60 years from the year 1940 until 1998. Within the distributional range of the species in southwestern Japan in the year 2000, a significant increase in temperature (i.e., climatic warming) occurred and a significant increase in the latitude of the northern range margins was detected during the period analyzed. That is, the latitude of northern range margins in the species increased with the increasing mean temperature of the coldest month and annual mean temperature in southwestern Japan. Thus, it is suggested that climatic warming as a major external factor may have played an important role in its northward expansion. The averages of annual mean temperatures and mean temperatures of the coldest month near the northern range margins were 15.46℃ and 4.51℃, respectively. Our analysis also suggested that there were different types of northward range expansion patterns of the species. We discuss the patterns mainly from the point of external factors.