著者
林 典子 井上 大成
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.173-182, 2014 (Released:2015-03-30)

都市近郊において、造林地の管理状態によって、哺乳類の活動にどのような変化がみられるのかを明らかにするために、下層密度が異なる造林地および人工的にギャップを作成した地点に自動撮影カメラを設置し、けもの道として利用する哺乳類相の違いを定量評価した。下層密度が高い林分の方が、低い林分よりもけもの道として利用する在来哺乳類種の多様度は高かった。しかし、ハクビシン、アライグマ、イエネコなど外来生物においても、下層植生密度が高い地点を多く利用する傾向が見られた。また、人工ギャップを形成した時、下層が繁茂している林分では、ギャップを作成することによって、哺乳類の利用総数は周辺に比べて減少する傾向がみられたが、多様度はギャップの方が高い傾向が見られた。また、タヌキ、アナグマ、ハクビシンはギャップを通過する頻度がコントロールに比べて有意に低かったが、イノシシ、アカネズミでは有意な傾向は認められず、ノウサギではギャップの利用頻度がやや高かった。都市近郊造林地の下層植生を管理したり、小規模な人工ギャップを作成することによって、哺乳類の種ごとの行動に異なる影響が及ぶことが明らかになった。
著者
関伸一
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告
巻号頁・発行日
vol.10(4), no.421, 2011-12
著者
小林 政広 吉永 秀一郎 伊藤 優子 篠宮 佳樹 相澤 州平 岡本 透 釣田 竜也
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.333-373, 2018

茨城県城里町に位置する桂不動谷津流域における2001年から2014年の降水および渓流水の主要溶存成分濃度および流入量についてまとめ、各年の平均値の変化傾向を解析した。降水中の非海塩性硫酸イオンおよび無機態窒素イオンの流入量はともに変動しながら減少する傾向が認められた。渓流水中の硫酸イオン濃度は2011年までほぼ一定であったが2012年および2013年の間伐施業時に上昇した。硝酸イオンは間伐前減少傾向にあったが間伐以降上昇に転じた。間伐時の濃度上昇はカリウムイオンおよびカルシウムイオンでも認められた。ケイ素濃度は年平均値の変動が小さく、緩やかに上昇する傾向が認められた。
著者
安部 哲人
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.151-156, 2007 (Released:2011-07-26)

既存の文献から、キブシの性表現には曖昧な点があることが示唆されているが、野外でキブシの性表現を含む繁殖状況について研究された例はみられない。そこで、キブシの花の性表現、性差、訪花昆虫、結果率を筑波山の林縁個体群で2年間調査した。花の形態や性器官(花粉と胚珠)の有無、結実状況よりキブシは雌性両全性異株であることが示唆された。性差は花序当りの花数が雌で有意に少なく、結果率が雌で有意に高かったが、それ以外には有意差がなかった。両性花には胚珠があるものの、結実は非常に稀(ほぼ0.0%)であり、強制受粉を施しても結実しなかった。このため、キブシの両性花はほとんど雄として機能しており、本種は機能的にほぼ雌雄異株であると考えられた。また、一つの花序内に両性花と雌花が混在する花序が調査個体群外で1個体発見されたことから、キブシの性表現は安定していないものと思われる。一方、雌花は両年とも35%前後の結果率であり、強制受粉でも結果率が増えなかったことから花粉制限は起こっていないと考えられた。訪花昆虫はハエ類や単独性ハナバチが中心であり、春先の林縁環境でこれらの送粉昆虫が有効に機能していた。
著者
北原 英治 原田 正史
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.370, pp.21-30, 1996-03
被引用文献数
4

紀伊半島産ヤチネズミ個体群の分類学的位置を調べるため,その染色体を本州中部産ヤチネズミと比較した。その結果,紀伊半島産と本州中部産ヤチネズミの核型(2n=56,FN60)はほとんど同一であることが明らかとなった。すなわち,ヤチネズミ両個体群の染色体はとも2対のサブテロセントリック,1対のメタセントリック,24対のアクロセントリック,サブテロセントリックのX染色体とサブメタセントリックのY染色体からなっていた。また,供試ヤチネズミの染色体をClethrionomys rufocanus及びEothenomys smithiiと比較することにより,本ヤチネズミはC. rufocanusよりもE. smithiiに近縁であることが分かった。従って,ヤチネズミ両個体群は分類学的に同一種に属することが結論され,両者を一括してEothenomys andersoniとするAIMI(1980)の考えを一層強く支持した。
著者
阿部 学 北原 英治
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.356, pp.p29-45, 1989-12

新たに開発したヘリコプターセンサス法を用いて,群馬県の国有林2297haにおいてカモシカ等のセンサスを行った。1982~1984年の各々3月に実施したセンサスで,105個体,134個体,119個体のカモシカを数え,三者間に有意差はなかった。また,同調査地内の1314haで二日間にわたって行った再現性のテストでも,各々48個体,43個体を数え,互いに有意差はなく,当調査法の再現性の高いことが判明した。区画法との比較を行った結果,316haの中で地上では2.37~2.96個体/km2を,空からは5.7個体/km2を数え,空からの調査は地上調査の約2倍となった。三か年間の調査でカモシカをはじめノウサギ,ツキノワグマ,イヌワシ,ヤマドリなど13種の鳥獣が識別できた。ノウサギとヤマドリはカモシカと並行してセンサスを行い,各々74個体,54個体を数えた。この結果,当調査法はカモシカのみならず他の鳥獣への適用の可能性を示唆した。ヘリコプターセンサスの利点は,1)地形,植生,積雪などの地上条件に左右されない,2)動物に動きを与えるので発見が容易である,3)地上調査に比べて広範囲の調査が可能で,小面積調査に由来する誤差が小さい,4)再現性が高い,5)非積雪地帯でも適用可能で汎用性が高い,6)同時に複数の鳥獣のセンサスが可能,などである。
著者
関 伸一
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.89-92, 2007 (Released:2011-12-19)
著者
服部 重昭
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.362, pp.p1-34, 1992-01
被引用文献数
28

近年,関西地域では,人工造林面積に占めるヒノキ植栽面積が高率で推移している。ヒノキ造林の拡大は,造林不適地にまで延びることが危惧されるので,造林適地区分法の開発や適地選定指針の提示が行われている。一方,ヒノキ林の表土流亡に起因する地力減退の防止については,林床植生やA0層の効果が指摘されているが,その効果の定量的評価は進んでいない。そこで,ヒノキ純林へのアカマツの混交と林床のササが,土砂とリターの流亡防止に及ぼす影響を定量的に把握した。これに加え,落葉堆積量と侵食土砂量の関数関係を実験的に検討し,リター堆積の効果を数量化した。ヒノキ純林にアカマツやササが侵入すると,年間侵食土砂量は1/4~1/8,流亡リター量は1~1/2程度まで減少した。また,A0層の一部を除去すると,侵食土砂量と流亡リター量が大幅に増加した。これにより,アカマツの混交やササの侵入は,土砂とリターの流亡防止に効果があることを実証した。土砂とリターの移動は,斜面を流下する地表流よりも降雨因子,特に10分間最大降雨強度と降雨エネルギーに強く依存すると推察された。つぎに,許容限界侵食土砂量の概念を提示し,花崗岩地帯のA層生成速度から,これを1~3t/ha/年と見積もった。これらの結果に基づいて,ヒノキ林の侵食防止を考慮した施業の目標を具体的に示すため,人工降雨実験から推定された侵食土砂量と落葉堆積量の指数関数式を援用し,ヒノキ・アカマツ混交林において許容限界侵食土砂量を維持するのに必要なリター堆積量が,5~7t/haであることを導いた。
著者
平川 泰彦 藤澤 義武 中田 了五
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-41, 2003-03
被引用文献数
16

水戸市の旧林木育種センター育種素材保存園に植栽されていた約30年生のスギの精英樹クローン、563クローン1060個体を対象に基礎材質を調べた。供試木のクローンは、関東育種基本区(関東、甲信、東海地方及び福島県と岐阜県)に成育していた精英樹から接ぎ木または挿し木により育成されたものである。供試木の地上高約1.8m部分から約50cm長さの短尺丸太を採取し、年輪幅、晩材率、密度、生材含水率、心材率、心材色、無欠点小試験体の曲げヤング係数と曲げ強度、仮道管長および仮道管の二次壁中層のミクロフィブリル傾角を調べた。また、地際から1.8m長の丸太の動的ヤング係数を調べた。個体間の変動係数は、心材の生材含水率、外側10年輪の年輪幅、晩材率およびミクロフィブリル傾角で30%以上と特に大きく、丸太の動的ヤング係数と小試験体の曲げヤング係数では17.5%と25.6%でやや大きく、密度、心材率、心材色及び仮道管長では15%以下と小さかった。本研究で示したスギ精英樹クローンの材質変動は、日本全国におけるスギの若齢造林木のそれをほぼ表しており、スギの間伐材の利用で問題になっている心材の高含水率や丸太の低ヤング係数に関しては、育種による改良効果が期待できるものと考えられる。
著者
杉田 久志 岩本 宏二郎 森澤 猛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.81-89, 2008-06

御嶽山南東面の密なチマキザサ林床をもつコメツガ、トウヒ、シラビソ、オオシラビソの混交した亜高山帯針葉樹林において、50m×50mの調査プロットを設置し、林分構造と8年間の動態を解析した。林冠層は隙間が多く、その面積比率は32%であった。シラビソとオオシラビソはL字型の胸高直径階分布を示し、コメツガとトウヒは一山型の林冠木集団とL字型の被陰木集団とが分離する分布を示した。コメツガとトウヒは根返りマウンドや根張り上で定着したもの、あるいはタコ足形態のものが多く、地表で定着したものはほとんどなかった。シラビソとオオシラビソは地表で定着したものが比較的多くみられたが、その割合はシラビソで15%、オオシラビソで35%にすぎず、大半は根返りマウンド、根張り、岩の上に定着したもの、あるいはタコ足状形態のものであった。モミ属樹種の定着場所が地表以外の基質に偏ることは、密なチマキザサによる地表での定着阻害が林分構造に影響していることを示唆する。1998~2006年の林分全体の死亡率、加入率(胸高直径5cm以上)、胸高断面積の減少率、増加率はそれぞれ0.60%/年、1.44%/年、0.91%/年、0.96%/年であった。樹種別にみると、トウヒのみで死亡率・減少率が加入率・増加率を上回り、その他の樹種は逆の関係を示した。
著者
伊ヶ崎 知弘 石田 由美 毛利 武
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.235-240, 2002-12
被引用文献数
6

Populus albaの茎切片にバイナリーベクターpSMAB704を保持するAgrobacterium tumefaciens、GV3101(pMP90)を感染させ形質転換体を得た。pSMAB704はT領域にビアラホス耐性遺伝子(bar)とβ-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)を保持しているバイナリーベクターで、bar遺伝子の発現はノパリン合成酵素遺伝子のプロモーターで制御されている。また、ポリA付加シグナル領域(ターミネーター)配列としてアラビドプシスのリブロース-1、5-二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼのスモールサブユニットRbcS-2B遺伝子由来のものを用いている。ビアラホス存在下で形質転換処理した組織片よりカルスが生成・増殖し、植物体が再生・成長すること、植物組織のGUS染色およびゲノミックPCR解析により形質転換の成功を確認した。この形質転換法では、形質転換細胞を厳密に選抜することができるので、エスケープ(非形質転換体)やキメラ個体は出現しなかった。また、形質転換体の外観は、元の個体と同様で形態異常は見られなかった。
著者
末吉 昌宏 前藤 薫 槙原 寛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.171-191, 2003-09
被引用文献数
7 2

茨城県北部の温帯落葉樹林の二次林、混交林、自然林に調査地を設定し、皆伐後の二次林回復時における有弁類を除く双翅目短角類の種数・個体数を通年で調査した。その結果、41科441種余りを見い出し、それら短角類群集の種構成は森林の成熟に伴って変化する傾向にあることが明らかになった。植食性、菌食性、腐食性、捕食性および捕食寄生性といった短角類の多様な食性を代表する分類群としてミバエ科、トゲハネバエ科キイロトゲハネバエ属、ハナアブ科、クチキバエ科、キアブ科、キアブモドキ科、アタマアブ科が挙げられ、それぞれが森林の遷移に対して異なった応答を示すことが明らかになった。また、本研究では森林に生息する主要な短角類として、オドリバエ科、ハナアブ科、シマバエ科が挙げられ、そのうちハナアブ類群集の種構成は遷移の進んだ林齢の似通った二次林および自然林間では殆ど変化は無く、皆伐地、混交林、壮齢林のように異なる森林タイプで大きく異なっていた。そのため、ハナアブ科は様々な森林タイプを含む景観の多様性を評価するのに有用であると考えられる。