著者
占部 武
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.707-716, 1979-06-01

Mepivacaine(Carbocain R)の高感度,高精度な血中濃度測定法を新たに開発し,持続腰部硬膜外麻酔による無痛分娩例と手術例において,初回注入,追加注入後の経時的血中濃度推移,局麻中毒発症時の血中濃厚,分娩時の母体静脈血および膀帯動静脈血濃度を測定し以下の成績を得た.1)mepivacaine 100mg注入後の母体静脈血中濃度の推移は,5分後には母体血中へ出現しO.97±0.07μg/ml(M±SE)となり,15分後に1.38±0・13μ9/mlのピーク値を示し,以後,漸減して60分後では,0・96土0.09μg/mlであった.2) 追加注入 (60分後,同量) 後の血中濃度の推移は,初回注入と同様にピークは15分後に認められ2.23±0.18μg/mlの値を示し,60分後は1.78±0.27μg/mlとなり,累積的濃度変動が認められた.3) mepivacaine 200mgを注入した手術例においては,2分後には血中濃度は0.63±0.02μg/mlとなり,15分後に3.02土0.30μg/mlの最高値を示し,以後,緩除に減少し60分後の値は2.10±0.15μg/mlであった.4) 無痛分娩例においては局麻中毒の症状は認められなかった.手術例においてminor intoxicationを認めた6例の平均血中濃度は5.17μg/mlであった.5) 注入量別にみた分娩時の母体静脈血,臍帯静脈血,臍帯動脈血中濃度は,いずれも400mg注入までは注入量に応じて直線的に上昇し,それぞれ一次回帰式で示された.6) 胎盤通過性については,注入量に関係なく,臍帯静脈血中濃度と母体静脈血中濃度の比は0.53土0.02と一定の値をとり,母児間に平衡関係が認められた.なお,臍帯動脈血中濃度と母体静脈血中濃度の比も同様に注入量に無関係に0.41土0.02と一定の値を示していた.
著者
立津 元正
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.337-344, 1964-05-01

人胎盤が絨毛間腔を通じて母児間の栄養物質代謝に重要な役割を果していることは知られた事実であるが, 胎児蛋白・核酸代謝の亢進に伴なう絨毛組織の機能についての酵素学的な研究は極めて少ない. 私は人胎盤絨毛組織における蛋白及び核酸代謝に与かるアンモニアの生成とその処理機構を究明せんとして, 酵素学的に次の実験を行なった. 1. 人胎盤絨毛組織におけるアデニール酸及びアデノシン脱アミノ酵素 : 人胎盤絨毛組織にはアデニール酸, アデノシンをそれぞれ脱アミノ化する酵素が存在することを認め, その至適pHはそれぞれ5.9〜6.3と7.0であることを知った. 2. 人胎盤絨毛組織におけるグルタミナーゼ : 人胎盤絨毛組織にはグルタミンの脱アミド反応の存在を認めることができなかった. 3. 人胎盤絨毛組織におけるグルタミン合成酵素 : 人胎盤絨毛組織にはグルタミン合成酵素が存在すること, 及びその至適PHが7.0であり, 本反応にはATPの添加が必要とされ, Mg⫲の添加が必要とされ, F-の添加によって本反応の阻害されることを知った. 4. 人胎盤絨毛組織におけるグルタミン酸脱水素酵素二人胎盤絨毛組織にはグルタミン酸脱水素反応の逆反応が存在し, その至適pHは7.0〜7.5であることを知った. 5. 人胎盤絨毛組織における尿素生成反応 : 人胎盤絨毛組織にはアルギナーゼが存在し, その至適pHは9.5であること, 及びMn⫲の添加によって著しく賦活されることを知った. 又, 人胎盤絨毛組織においてはオルニチン及びチトルリンとアンモニアからの尿素生成は微量ではあるが認めた. 従って人胎盤におけるアンモニアの生成にはVilleeらの証明したグルタミン酸のほかにアデニール酸及びアデノシンが関与し, アンモニアの処理に向ってグルタミン合成反応やグルタミン酸脱水素反応の逆反応などが行なわれていることを知った.
著者
天野 完 西島 正博 新井 正夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.37, no.11, pp.2291-2299, 1985-11-01
被引用文献数
2

局麻剤が胎児心拍数・新生児neurobehaviorに及ぼす影響を妊娠正期正常分娩例を対象として検討し以下の結果を得た. 1.bupivacaine 35mg硬膜外投与後60分までに12.1%(12/99block)にominous patternが出現し2block後が母体低血圧に,5block後がuterine hyperactivityに起因する変化と思われた. 2.lidocaine200mg旁頚管内投与後30分までに27.7%(13/47block)にominous patternが出現したが母体低血圧に起因する変化はなく4block後30.8%の変化はuterine hyperactivityが誘因と思われた. 3.局麻剤投与後の胎児心拍数変化はいずれも一過性で変化のみられた群とみられない群で臍帯動脈血ガス分析で有意差はみられなかつた. 4.Amiel-Tison et al.のNACS(Neurologic Adaptive Capacity Scoring)による新生児neurobehaviorの評価では生後3〜6hで低スコアの傾向がみられるものの生後4日目には局麻剤投与群と無麻酔群での差はみられなかつた. bupivacaineの臍帯静脈血レベルは154.4±24.5ng/ml(UV/MV0.26)で生後4日自には71%の例で10ng/ml以下であつた. 妊娠正期正常例では局麻剤投与によりhypoxic stressが負荷され得るが一過性であり臨床的には何ら問題はない.しかしながらIUGRなどfetal reserve低下例では慎重な産科麻酔法の選択,より厳重な胎児管理が必要になるものと思われる.
著者
友田 明
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.12, pp.2123-2131, 1979-12-01

Gonadotropin(PMSとHCG)による幼若ラットの排卵誘発におよぼすreserpineの影響およびreserPineによる排卵誘発の抑制効果に対するcatecholamineの影響を検討し,以下の成績をえた.1)PMS投与42〜27時間前に投与されたreserpineは排卵率および排卵卵子数に影響を与えなかった.2)PMS投与24〜1時間前に投与されたreseopineは排卵率および排卵卵子数をともに抑制Lた.3)HCG投与47〜39時間前に投与されたreserpineは1)と同じく抑制効果を示さなかった.4)HCG投与37〜1時間前に投与されたresepineは排卵率および排卵卵子数をともに著明に抑制した.5)HCG 投与1〜3時間後および6〜8時間後に投与されたreserpine は排卵率および排卵卵子数を完全に抑制した. しかし,HCG 投与4〜5時間後に投与されたreserpineの抑制効果は軽度であった.6) 以上のごとくreserpine による排卵誘発率および卵子数において,ともに抑制効果の回復現象が認められた.以上の実験結果から,reserpine には卵巣レベルで排卵を直接抑制する作用があり,その作用にはcatecholamine が関与している可能性が示唆された.
著者
平井 康夫 郭 宗正 清水 敬生 中山 一武 手島 英雄 陳 瑞東 浜田 哲郎 藤本 郁野 山内 一弘 荷見 勝彦 増淵 一正 佐野 裕作 平田 守男
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.40, no.11, pp.1707-1710, 1988-11-01

1971年より1985年の間に, 癌研婦人科で初回治療として開腹手術を施行した子宮体癌連続235症例について, 術中腹水細胞診を施行し, 進行期別に再発や生存率との関連を検討し以下の成績を得た. 1. 腹水細胞診の陽性率は, 全体で18.7% (235例中44例), I期 14.5% (173例中25例), II期 21.2% (33例中7例), III期 32.0% (25例中8例)であつた. 2. I期体癌の腹水細胞診陽性例のうち, 術中に腹膜転移を認めないのに腹水細胞診が陽性であつた20例の5年および10年累積生存率は, それぞれ94.7%, 94.7%であり, 陰性例の92.7%, 90.9%とくらべ, 有意差を認めなかつた. また, この期の再発率は, 細胞診陽性例で12.0%, 陰性例で9.5%であり, 両者に有意差を認めなかつた. 3. II期およびIII期体癌のうち, 術中に腹膜転移を認めないのに腹水細胞診が陽性であつた9例の生存率と, 同期の腹水細胞陰性例47例の生存率との間にも有意差を認めなかつた. 4. 子宮体癌においては, 術中に肉眼的腹膜転移を認めない場合は, 術中腹水への悪性細胞の出現の有無は, 予後と関連しなかつた.
著者
金山 尚裕 シャイナロン リンバラパス 成瀬 寛夫 山本 信博 藤城 卓 前原 佳代子 森田 泰嗣 寺尾 俊彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.477-482, 1992-04-01
被引用文献数
4

切迫早産において頚管に浸潤した顆粒球から放出される顆粒球エラスターゼ (エラスターゼ) が頚管の熟化, 開大に密接に関係することが知られている。エラスターゼのインヒビターであるウリナスタチン (UTI) の腟剤が切迫早産の治療に有効であるかを検討した。43例の切迫早産を4群に分類し次の治療法を行った。A群 (N=12): Ritodorine点滴, B群 (N=9): UTI (1,000U) 頚管内投与, C群 (N=14): Ritodorine点滴+UTI頚管内投与, D群 (N=8): Ritodorine点滴+UTI頚管内投与+全身抗生物質療法。これら4群のエラスターゼ値は治療前A群0.76±0.40μg/ml (Mean±SD), B群0.93±0.43μg/ml, C群0.85±0.40μg/ml, D群0.90±0.41μg/mlで各群間で有意差を認めなかった。治療開始後 (3日目から7日目) のエラスターゼ値はA群0.75±0.47μg/ml, B 群0.27±0.35μg/ml, C群0.27±0.33μg/ml, D群0.30±0.19μg/mlとなりB, C, D群は著明に下降した。子宮収縮の改善度を検討すると, 子宮収縮が30分に1回以下になるまでの時間は, A群65±66分, B群375±336分, C群70±64分, D群58±53分で, B群が有意 (p<0.05) に時間を要した。4日以上子宮収縮抑制が得られた時点で上記治療を中止した。その後の子宮収縮の再発率はA群58%, B群11%, C群14%, D群13%でA群の再発率が高かった。以上よりUTI腟剤の頚管内投与は頚管内エラスターゼ量を低下させ子宮収縮抑制の補助療法として極めて有用であることが判明した。
著者
矢吹 朗彦 杉浦 幸一 加藤 俊明 桑原 惣隆 木村 晋亮
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.29, no.8, pp.913-921, 1977-08-01

1974年から1975年にかけ,石川県七尾市を中心とした無脳症の集中的多発的発生を見,能登地方をはじめ北陸三県に於ける本症の疫学的調査と病因的ウイルス感染の存在について検討し,次の結果を得た. (1) 1975年迄の過去5年間で,石川県を中心とした北陸三県に於いて78例の無脳症が確認された. (2) 本症の男女比 : 41対35(75例調査,双胎1例),初産経産婦比 : 26対31(57例調査)であつた. (3) 妊娠初期経過(24例調査) : 無症状3,悪阻9,感冒及び発熱9,性器出血8及び糖尿病2例あり,16例が投薬を受けた. (4) 無脳症娩出後,次の妊娠分娩を追跡し得た12例は正常児分娩9,反復無脳児分娩3であつた. (5) その他の事項として,羊水過多症11(27例中),双胎無脳症1,母体疾患として糖尿病2,心疾患1,精神分裂症1例があつた. (6) 1975年迄の過去5年間の北陸三県に於ける無脳症罹患率は,平均0.08〜0.4%であり,最高は七尾市能登病院の0.4%で,その発生には地域的集中傾向がうかがわれた. (7) 年次的には1974-1975年に多発傾向を見,しかも1974年に妊娠初期を経過したものが多数を占めた.年次的最高罹患率は,能登病院の1974年に於ける0.6%であつた, (8) 10症例の無脳症及びその両親の血清22検体について,ウイルスHI抗体価11項目とCF抗体価20項目について検査し,抗サイトメガロウイルス抗体を19検体に,抗コクサッキーBウィルス4及び5型抗体を,夫々21及び20検体に証明した. (9) 結論として,無脳症の発生病因は,まず遺伝的因子の存在(又は欠除)が考えられ,さらにそれを誘発する要因として,サイトメガロウイルス及びコクサッキーBウイルスの重複感染があり得ると推論された.
著者
岡田 雄一 一戸 喜兵衛 馬渕 義也 横田 栄夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.600-606, 1979-05-01
被引用文献数
2

排卵やホルモン産生にあずかる卵巣の機能廃絶は,閉経の到来によって象徴されるが,この卵巣機能の寿命を支配する因子を求めるにあたり,明治11年より大正11年までに和歌山県で出生した2,943名の閉経婦人について統計的観察を行った.(1)巷間,初潮発来が早ければ閉経が遅れるとか,逆に早くなる,などといった俗説が横行しているが,この点を明確とすべく初潮および閉経の両輪が明らかな婦人について検討した.しかし初潮の遅速と閉経齢のそれとの問には相関性がみとめられなかった.(2)妊娠期から授乳期間を通じほぼ2年近く生理的に排卵を休止するものはまれではないが,この妊娠から授乳までの期間の多寡が閉経齢に影響しないか検討した.しかし分娩0回の未産婦から9〜10回の多産婦まで,閉経齢の遅速には有意の差はみられなかった.(3)片側卵巣を摘除された婦人では,遺残卵巣は以後2個分の過剰排卵の場となる.20歳から30歳前半で片側卵巣を摘除された婦人の閉経齢を調査したが,これらの婦人は同時代の一般婦人のそれとなんら変わらぬ閉経齢分布を持つことが立証された.以上より,卵巣機能の寿命の決定因子は,排卵の回数の多寡による卵子消耗という単純な観点からは,捉え難いことが示唆された.
著者
Koishi Takiko
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.351-358, 1983-03-01

胎芽,胎児の放射線感受性は母体に比し高度で,出生前の被曝は異常個体発生の原因となり得ることは,よく知られている.しかし発生の根源へさかのぼって,受精前の生殖細胞への放射線の影響は,まだ明確にされていない.そこで今回は,特に未知である排卵前の時期別X線照射による未受精卵の放射線感受性を成熟雌チャイニーズ・ハムスターを用い究明した.採卵はすべて発情期に行ない,採卵よりみて5周期前より12時間前の間を4時期に細分し,X-ray 200Rを照射し,卵子第2成熟分裂時の染色体分析をホルモン剤などによる排卵誘発の影響なしに行ない,非照射群である対照群と比較した.照射より採卵までの時間が短くなる程,放射線感受性は増加した.予定排卵の5時間前(第1成熟分裂中期)に照射した群での染色体異常卵子出現頻度は42.1%と高率であった.採卵より2-4日前照射群,1周期前照射群共に対照群に比し,有意に高い異常卵子出現をみたが,5周期前照射群では有意差がなかった.更にX線照射による数的異常,構造異常の頻度についても検討したところ,異常卵子出現頻度は,数的異常より構造異常において,時期による差が著しく認められた.以上の結果より,排卵期及びより以前の時期においても,放射線被曝による危険性があることを示した.
著者
飯田 和質 平井 敏雄 富永 敏朗 津田 利雄 松田 春悦 山田 良 土田 寿 竹内 桂一 大月 恭範 大森 正弘
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.2171-2177, 1986-12-01
被引用文献数
1

概要 福井県の車集検は昭和47年より開始され、昭和49年に福井県健康管理協会が発足して全県下を一本化して実施して現在に至つている。昭和49年から昭和58年までの10年間の成績について若干の知見を得たので報告する。 福井県ぱ人口約81万人て30歳の対象婦人は昭和58年て249、392人である。受診率は昭和49年の39%から58年の62%と増加しているがまた低い。要精検率ぱ0 77〜2 02%てあり、精検受診率は86 3%〜97 7%で比較的良好な成績である。痛検出率ぱ0 08%〜03%であり、上庄内痛の検出率ぱあまり変らないが浸潤痛ぱ年毎に低下している。異型上皮は年毎に増加し、49年の0 11%に対し57年は0 35%であつた。異型上皮、上庄内痛、浸潤痛の比は49年〜53年の前半は13 17 10であり、54年〜58年の5年間ぱ61 25 10となつている。上皮内痛およひ浸潤癌発見まての受診回数てぱ子宮頭癌Ib期以上でぱ全員が初回受診時に発見されている。頭痛Ia期てぱ31人中3人が2回目て、28人ぱ初回に発見され、上庄内痛146人中126人か初回、14人が2回目、6人が3回目以上であつだ。細胞診成績てぱclass ? の72例でぱ異型上皮87%、上皮内癌56 9%、浸潤痛12 1%てfalse posltlveは22 2%てあり、class ?の51例でぱ異型上皮19%、上皮内癌45 1%、浸潤痛47 1%でfalse posltlve ぱ58%にみられた。福井県のCAIを診療検診と車検診の合計で計算し、昭和57年ぱCAI 152、 58年ぱCAI 148、 59年ぱCAI 177であつた。福井県子宮癌検診も今後は日母方式の施設検診を加えて検診者の増加をはがり子宮癌死亡0を目さして努力している。
著者
小畑 孝四郎
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.890-902, 2003-08-01
被引用文献数
11

卵巣がんにおける病理組織学的な検討で,卵巣子宮内服症の合併頻度が卵巣明細胞腺癌や卵巣類内膜腺癌で高率であることから,卵巣子宮内膜症がこれらの癌の発生母地となっている可能性が注目されている.そこで,卵巣子宮内膜症と卵巣癌との関連性を明らかにし,さらに,卵巣子宮内膜症に対する腹腔鏡下手術の適応を含めた卵巣子宮内膜症の治療戦略について検討した.まず,卵巣子宮内膜症の診断基準を新たに設定し,病理組織学的に検討した結果,卵巣癌における卵巣子宮内膜症の合併ならびに卵巣子宮内膜症から癌への移行像が類内股腺癌や明細胞腺癌に多く,卵巣子宮内膜症はこれらの癌の発生母地となりうることが示唆された.次に,卵巣癌および卵巣子宮内膜症におけるPTEN遺伝子の遺伝子解析ならびにPTEN proteinの免疫組織学的検討から,卵巣子宮内膜症が発生母地であると考えられる卵巣類内膜腺癌や卵巣明細胞腺癌のうち,類内股腺癌の発生にPTEN遺伝子の異常が深く関わっていることが示唆された.また,類内膜腺癌および明細胞腺癌に合併する卵巣子宮内膜症の性格の違いとその発生の由来を調べる目的で,エストロゲンレセプター,プロゲステロンレセプタ-,Ber-EP4,Calretininを免疫染色し,その発現状態を検討した.その結果,卵巣類内膜腺癌や卵巣明細胞腺癌に合併する子宮内膜症は共に卵巣表層上皮由来で,中皮の性格を強く持つ卵巣子宮内股症から明細胞腺癌が,また,ミューラー管型上皮に分化した卵巣子宮内股症から類内股腺癌が発生している可能性が示唆された.さらに,臨床データーの解析から,これら卵巣癌の発生母地となりうる卵巣チョコレート嚢胞の摘出を考慮する基準は,40歳以上または嚢胞の長径が4cm以上の症例であり,卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下手術はCT,MRIで充実部分が認められず,かつ,多量の腹水がない長径10cm以下の症例に行われるのが望ましく,超音波カラートップラー法にて嚢胞内に血流が認められる症例は卵巣癌に準じた対応が必要であることがわかった.
著者
佐久本 哲男
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.4-12, 1964-01-01

指尖容積脈波の臨床的応用はかなり古いが, 脈波計の使用時, 生体に接続する部分の装置の当て方によつてはその都度脈波の波形が異るものがかなり多くこのことが脈彼の臨床上の信頼性を欠いていた. 最近では性能のよいセシウム, カドミウムなどが現われ光電管プレティスモグラフは描写が正確であり容積脈波を測定するのに最上のものであることがわかり, 光電管を使用しこれにより末梢血管中に流入する血液量の変動状態を知ることが出来る, 産婦人科領域においても諸家は妊婦殊に妊娠中毒症にこれを応用して末梢血管拘縮のあることを認め, 更に症状発生を予測しうること, 後遺症予後判定からfollow upに役立つこと, 薬剤の効果判定などについて述べているが, 妊娠中毒症は全身の各臓器, 各組織の血管変化が主体であり, それに伴う複雑な病態像は果して単なる指尖容積脈波のみで全貌を掴めるか否かが問題である. 脈彼の成績が妊娠中毒症の臨床像と一致するという成績よりもさらに深く追求してその得られた所見が妊娠中毒症の種々な病態像のうちとくにどれと近似性をもつかを解明することに興味がある. この意味から種々の検査方法を行つてこれを追求した. 妊娠中毒症94例, 正常妊婦39例, 健康婦人32例, 子宮癌患者26例, 合計191例について検査を行つた. 指尖容積脈波を検査する装置として光電管MCP-71を用い波形の高忠実性を計り、従来の装置の最も欠点であつた指尖固定部に改良を加え, 波形を完全に安定させることに成功した. 脈波の判定基準を検討した結果Anacrotic wave, Plateau, 下向脚時間×100/波長時間が40以上のいずれかを示すものが不良であることを確定した. 妊娠中毒症では純粋型よりは混合型, 後遺症に脈被不良のものが多い事実を認めた. 妊娠中毒症の重軽度と脈波所見とは有意の関係がなく, 蛋白尿, 浮腫のみの所見から検討しても脈波所見と有意関係がないことと一致するものと考えられる. しかしながら高血圧のみをとりあげて検討すると脈波所見と有意関係にある. 妊娠中毒症患者の腎生検と脈波とは有意の関係が認められた. 又脳波, 眼底所見とも有意関係にあることが知れた. これらは高血圧と深い関係にあるためと考えられ, 一方年令の上昇するにつれて脈波所児の不良なものは著明に増加する. 妊娠中毒症の予後として後遺症を残すか否かを妊娠中に予知することについては確定的な結果は得られなかつた. 以上から脈波は妊娠中毒症そのものの病態像全部を表示するものでなく, 主として現存する高血圧の状態を知るのに参考となるであろう.
著者
太田 博孝 福島 峰子 真木 正博
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.525-529, 1989-05-01
被引用文献数
4

排卵障害に有効な漢方薬における卵巣直接作用のうち, とくにアロマターゼへの影響をラット卵胞を用いて検討した。卵胞はPMSG処理未熟雌ラットから分離した。また卵胞のアロマターゼ活性を阻害する目的で4-hydroxy-4-androstene-3, 17-dione (4-OHA ; 10^<-5>M) を用いた。各卵胞は培養液中で種への濃度 (10〜500μg) の当帰芍薬散, 桂枝茯苓丸, 温経湯, あるいはその生薬成分を加え, 24時間器官培養した。培養液中に4-OHA (10^<-5>M) を添加すると培養液中estradiol (E_2) 分泌量は対照群の38% (p<0.05) まで低下した。同時に上記漢方薬を添加すると, 100, 500μgの量でいずれもE_2分泌を有意に増加させた。このE_2分泌刺激作用がこれら漢方薬の構成生薬のいずれの作用によるかを知るため, シャクヤク, センキュウ, トウキ, ボタンビ, ケイヒにつき検討した。その結果シャクヤクのみがE_2分泌刺激作用を示した。シャクヤクはこれら3種の薬剤に共通に含まれる唯一の生薬であることを考えるときわめて典味深い。
著者
平出 公仁
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.1265-1274, 1966-11-01

妊娠時における十二指腸からの鉄吸収についてその特異性を知るために, 放射性鉄を用い十二指腸拡置法によつて, 正常, 貧血, 鉄負荷時の鉄吸収, アミノ酸, 有機酸同時注入による影響, 胆汁中への鉄排泄と鉄の腸肝循環の可能性, progesterone, estrogenの鉄の吸収に及ぼす影響について観察した. 1)胃腸管ではすべての部位において鉄は吸収されるが, その中で十二脂腸では最もよく吸収が行われ, 回腸, 胃と続き, 結腸では僅少であつた. 2)妊娠時の鉄吸収は非妊時より亢進し, 臓器内鉄移行も増加している. 3)貧血妊娠時では正常妊娠時に比し鉄吸収が著しく迅速かつ大量である. 鉄負荷妊娠時は正常妊娠時に比し鉄吸収は抑制される. 母体臓器, 胎仔, 胎盤への鉄移行も正常時に比し貧血時は増加し鉄負荷時は抑制されている. 4)十二指腸内に微量鉄投与を行ないその鉄吸収を電子顕微鏡的に観察すると, 貧血妊娠時では正常, 鉄負荷時に比し十二指腸粘膜細胞のinterdigitation (指状篏合)が強く認められ, その吸収容積を拡大させ形態学上, 鉄吸収を容易にする状態にあること, 及び細胞内のlysosomeの存在は細胞内物質代謝の旺盛なることが考えられる. 5)十二指腸内に, ある種のアミノ酸, 有機酸が存在すると鉄吸収は亢進する. 6)生理的にも胆汁中に鉄が排泄され, ステロイドホルモンにおける腸肝循環と同様に, 鉄においてもこれが成立する可能性がある. 7)十二指腸における鉄吸収はestrogenによつて著しく影響される.
著者
武内 享介 乾 昌樹 森 敏之
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.1443-1449, 1992-11-01
被引用文献数
2

妊娠時のマグネシウム投与のカルシウム代謝に与える影響につき, 切迫早産症例において血清, 尿中ミネラルおよびカルシウム代謝調節ホルモンの動態に着目して検討し, 以下の結果を得た. (1)血清Mg濃度は硫酸マグネシウム投与0.5時間後で著明に増加(1.91±0.06mg/dl→4.6±0.71mg/dl, p<0.01), 以後徐々に低下し2時間後からは3.65〜3.88mg/dlの間を推移した. 尿中Mg排泄量(Mg/Cr ratio)は前値(0.05±0.01)に比べ1時間後には3.18±0.8と明らかに増加した後(p<0.01), 緩徐に低下し最終的には1.97〜2.35の範囲内を推移した. (2)蛋白補正血清Ca濃度は投与前は9.04±0.47mg/dlであったが, 血清Mg濃度の増加に伴つて低下, 投与0.5時間後には8.3±0.27mg/dlとなつた(p<0.01). その後はほぼ一定であったが, 30時間後より徐々に上昇し60時間後には8.52±0.31mg/dlにまで回復した. 尿中Ca排泄量(Ca/Cr ratio)は投与前値(0.06±0.03)に比べ投与0.5時間で1.85±0.16と有意に増加した(p<0.01)が, その後徐々に低下し0.58〜0.92の範囲内を推移した. (3)血清PTH濃度(前値181±76.9pg/ml)は投与1時間後に118±42.2pg/mlへと軽度低下したが, 6時間後には294±121pg/mlへと上昇した(p<0.05). (4)血清1α, 25-(OH)_2 vitamin D_3濃度(前値89.3±44.2pg/ml)は投与24時間後には126±38.7pg/mlと有意に増加した(p<0.05). (5)血清CT濃度には経過中有意な変動を認めなかつた. 以上の知見より, 切迫早産におけるリトドリン治療下では, 硫酸マグネシウム投与は尿中Mg排泄量と尿中Ca排泄量の増加を惹起し, 血清Ca濃度の低下を招来する. その結果, PTH分泌の増加とそれに引き続く1α, 25-(OH)_2 vitamin D_3の産生促進が生じ, 血清Ca濃度は正常化に向かう可能性が示唆された. なお, CTの関与は少ないものと思われた.
著者
宮本 耕佑
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.471-477, 1965-06-01

習慣性または切迫流早産に対するVitamin Eの治療効果については, 若干の報告があり, おおくはその有効なことをみとめているが, いまだそのさいの作用機序については明確にされていない. そこでその一端をうかがう目的で, Vitamin Eが生体子宮運動にどのような影響をおよぼすかということを, ウサギについてバルーン法によって実験をおこない, つぎのごとき知見をえた. 1) 非妊成熟ウサギの子宮収縮運動は Vitamin E の投与によって抑制される. とくに投与量の増加や投与日数の延長に比例して, 抑制効果も増強する. 2) Vitamin E により抑制された子宮運動は, Estrogen (Estradiol)の併用によりまもなく回復にむかい, ついには著明な昂進をしめしてくる. すなわち Vitamin E の抑制作用は Estrogen の子宮運動昂進作用を抑制するほど強力なものではない. 3) おなじくはじめから Vitamin E と Estrogen を併用投与すると, Vitamin E の抑制効果はきわめてよわく, 投与期間の延長とともに Estrogen の効果のみが顕著にあらわれてくる. 4) Vitamin E と progesterone の併用投与では, Progesterone 単独投与あるいは Vitamin E 単独投与の場合ととくにかわった所見はなく, 波形上からのみでは両者に相剰作用があるかどうかはあきらかにしえなかった. 5) 下垂体後葉ホルモンに対しては, Vitamin E による子宮運動の抑制度にほぼ平行して感受性が低下し, progesterone の場合と類似の経過をとる. しかし Vitamin E に Estrogen を併用したときは, その投与期間に比例して, 感受性が昂進してくる. 以上のごとく Vitamin E ぱ生体子宮の運動を抑制するもので, あたかも Progesterone 様の作用があることを確認した.