著者
本間 智介
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.421-430, 1966-05-01

私はSmythのGuardring式陣痛外測計改良型を用い, 第1にそれにより画かれた曲線が子宮筋の収縮のみを表わすのか, 羊水圧の変化のみを表わすのか又は, その両者の綜合されたものを表わすのかについて1)模型実験, 2)外測法, balloon法, 穿刺法による羊水圧曲線と子宮筋収縮曲線の同時記録による比較, 3)臨床実験を行い, 検討を行つた結果, 私達の外測計では主に検圧部直下の子宮筋の収縮を記録し, 羊水圧による影響はわずかであるという事がわかつた., 第2に上記陣痛外測計の3誘導同時記録を165名の妊婦について行つた結果, 1)妊娠10ヶ月に入ると子宮底部の収縮の強いものが増加する, 2)初産婦, 経産婦とも妊娠21週以後に子宮収縮が出現し妊娠10カ月より急激に増加し, これを分娩日より逆上つて見ると分娩前7日頃より急激に増加している. 又規則的子宮収縮も妊娠10カ月以後に急増し, 分娩日より見ると7日前より増加している, 3) 10分間に出現する子宮収縮数を分娩日より逆上ると7日前より増加する, 4)妊娠時子宮収縮の伝達速度は毎秒3.2cmであつた.
著者
真鍋 麻美 鍵谷 昭文 丹藤 伴江 越前屋 成広 相良 守峰 齋藤 良治
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.399-404, 1996-06-01
被引用文献数
4

妊娠中にはX線被曝の問題があるため妊婦の骨量を測定したデータは少なく, とくに骨量変動の著しい海綿骨の含有率の高い椎体や大腿骨などの骨量を妊娠中にDual energy X-ray absorptiometry (DEXA) 法を用いて測定した報告はほとんどみられない。今回私たちは, 妊産褥婦および非娠婦の骨量を超音波骨量測定装置 (Achilles Bone Densitometer: Lunar社製) を用いて測定するとともに生化学的骨代謝パラメーターを測定し比較検討した。1. 超音波骨量測定装置による超音波伝播速度 (Speed of sound: SOS) と超音波減衰係数 (Broadband ultrasound attenuation: BUA) から算出されるstiffnessは, 非妊婦群, 妊娠初期群, 妊娠中期群, 妊娠後期群, 産褥群でそれぞれ, 88.3±11.0, 88.4±11.5, 86.5±8.6, 81.4±10.6, 85.3±12.5%で, 妊娠後期群では妊娠初期群と比較して有意 (p<0.05) に減少していた。2. intact osteocalcine (i-OC) は妊娠初期群で5.0±2.3ng/ml, 妊娠中期群で3.7±1.0ng/ml, 妊娠後期群で4.4±0.9ng/mlと非妊時の正常範囲内にあり, 産褥群では11.3±4.2ng/mlと妊娠中に比較して高値であった (p<0.01)。尿中Pyridinoline (Pyr)/Creatinine (Cre) および尿中Deoxypyridinoline (D-Pyr)/Creは, 妊娠初期群でそれぞれ34.0±10.1pmol/μmol, 4.7±1.0pmol/μmol, 妊娠中期群で46.0±6.7, 6.1±1.0, 妊娠後期群で52.0±11.7, 8.0±2.0と妊娠経過とともに増加した。産褥群ではそれぞれ71.7±6.0pmol/μmol, 9.3±2.7pmol/μmolと高値を示し, 妊娠各時期と比較して有意差 (p<0.01) を認めた。3. 補正した血清カルシウム (Ca) とイオン化Ca (i-Ca) およびintact parathyroid hormone (i-PTH) には妊娠産褥期には有意の変動は認められなかった。以上の成績より, 妊娠中期群および妊娠後期群の骨代謝は骨吸収優位であり, 産褥4週目では骨形成優位の高代謝回転状態にあること, さらに妊娠時には血清Caおよびi-Caは非妊時の正常値域に保たれており, 副甲状腺機能亢進状態にはないもののCaのturnoverは亢進していることが示唆された。
著者
川島 一也
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.20, no.11, pp.1399-1408, 1968-11-01

妊娠時に胎児, 胎盤及び腫大した子宮組織へのO_2や代謝産物の供給及び排泄等を考慮すれば子宮への血流量が非妊時に比べて増加していることに疑いはない. そこで私は家兎に関し妊娠時及び非妊娠時子宮の血流動態を検討した. 血流計としてはThermistor血流計を試作使用し, 血圧測定にはStrain-gage manometerを用い, 血管の弾性率を容積と圧関係から求めた. 又ヒト子宮に分布する血管壁の妊娠時変化を組織学的に検討した. その結果, 妊娠時は非妊時に比べ股動脈に於てThermistor血流計出力は2.3倍, 脈圧は1.2倍, 平均血圧は1.09倍, 又股動脈の弾性率は1/2.4倍となった. このことから流体力学的理論より計算すると, 妊娠時の脈流量は弾性率の変化から1.55倍, 又Thermistor出力から2.3倍に増加している. 血管壁の組織学的変化から考察しても妊娠時の弾性率の低下及び血流量の増加に対し, 有利な所見を示した. 即ち血管腔は拡張を示し又血管壁は疎な肥厚と弾性線維が増生して血管の伸縮性を助けて妊娠時の血流量増加に対し合目的な変化を示しているといえよう.
著者
安達 弘章
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.155-164, 1964-03-01

近年, 種々ステロイドが合成され, 臨床的に広範囲に使用されているが, 私は2, 3の合成皮質ステロイド及び蛋白同化ステロイドが副腎皮質に及ぼす影響を尿中17-OHCS排泄値(Porter-Silber chromogens)の測定によつて検して見た. 合成皮質ステロイド, paramethasone及びbetamethasoneの常用量9日間漸減投与により, 尿中17-OHCS値の減少を来たし薬剤の漸減と共に増加したもの, 増加傾向のなかつたもの, 又一方薬剤投与により却つて増加したもの等が見られた. 投与終了後のACTH-Z負荷試験では一般に低調, 遷延傾向となつた. 蛋白同化ステロイド, 4-chlorotestosterone acetate及び4-chlorotestosterone capronate 1回投与により健康人(第1群)ではむしろ増加傾向を示し, 術後回復期等のもの(第2群)では著明に減少した. 又4-chlorotestosterone acetate 3日間連続投与は健康人に尿中17-OHCS値の増加傾向を来たさしめ, その後のACTH responseぱ遷延, 上昇傾向を示した.
著者
小泉 邦夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.414-422, 1971-05-01

子宮筋の収縮弛緩機序は非常に複雑で, 明らかではないが, sex steroid hormoneが何らかの形で作用していることは多くの人が認めている. しかしその作用機序は不明であり, 子宮筋の細胞膜に作用する可能性もあり, また子宮筋収縮性蛋白質に直接作用することも大いに考えられる. そこで私は人子宮筋収縮性蛋白質, myosinおよびactomyosinを単離し, 分子レベルでそれに対するprogesteroneの効果を調べた. (1)精製されたmyosinは紫外部吸収曲線, 超遠心分析, およびATP sensitivityからほゞ純粋なものと考えられる. (2)人子宮筋のmyosin-ATPaseは若干の点で骨格筋myosinと異つた性質を示す(EDTAによる活性化等)が, 他の平滑筋myosinとはよく似た性質を示した. (3)しかしKCl依存性では他の平滑筋myosinおよび骨格筋myosinとも異なり, 両者の中間型を示している. (4)人子宮筋のmyosin-ATPaseに対するprogesteroneの効果は, 約16%の阻害がみられた. (5)actomyosinでもprogesteroneで約20%の阻害を示した. (6)人子宮筋actomyosinの超沈澱は骨格筋および他の平滑筋よりも超沈澱形成速度は遅く, 超沈澱形成量は増大し, progesteroneの効果は人子宮筋actomyosinのみに顕著であつた. 上記の効果はCaの濃度が10^<-6>Mの時に著しく, 5×10^<-4>Mではなくなる. 即ちprogesteroneは人子宮筋actomyosinのCa感受性を約500倍高めたと考えられる. この現象は人子宮筋actomyosin以外の系ではみられない. 以上のことから人子宮筋myosinは骨格筋myosinと異るだけでなく, 他の平滑筋myosinとも2, 3の点で明らかに違つた性質を示し, 特にprogesteroneによつて特異的に影響をうけることがわかつた. 就中(6)の結果はCa感受性の増大, 即ちprogesteroneが人子宮筋myosinと特異的に結合して活性中心の性質をかえ, progesteroneの存在しない時には収縮を起しえない低Caイオン濃度で収縮を引きおこす, 即ち子宮平滑筋細胞内へのprogesteroneの浸透による子宮筋収縮の調節の可能性を示唆するものである.
著者
桜井 博
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.1213-1221, 1967-10-01

最近リンパ系造影法に対する関心が高まり,各方面で活発な研究がなされているが,その読影,副作用,手術前後経過等についての一連の研究は少なく未知の分野が多い.私は教室における婦人性器悪性腫瘍に関する研究の一環として,対照6例を含む64例に計66回の直接的リンパ系造影法と264回の撮影を施行し,その副作用,組織変化及び術前術後診断の関連性等について検討を行なつた.その概要は次の如くである. i)本法実施後の問題となる直接的副作用は37.5℃以上の発熱で,53.1%にみられた.ii)胸管出現した37.5℃以上の発熱群には全例に胸部微細陰影を認め,発熱原因は胸部の微細な油性栓塞であると推定された.iii)対照群のリンパ節造影数は閉鎖節の他はほぼレ線によるリンパ節解剖学に関する成書に記載されている所見と一致した.iv)造影リンパ節数は左側より右側に多く,年令と子宮頚癌の進行期とに関係が認められた.v)リンパ節転移確診例数については,術前レ線診断が組織学的最終診断に最も近い数を示し,確診例数は転移初期像より転移末期像に多かつた.vi)反復リンパ系造影像は初回造影伝と異なり,リンパ管遺残やリンパ節の淡い陰影欠損の傾向が認められた.vii)本法はリンパ系組織を障害し,リンパ節本来の組織像を失わしめるので,生活現象の適応に影響を与えるものと考えられる.なお,読影基準表を作成し,これより直接的リンパ系造影法による進行期別のレ線像を読影し,造影リンパ節数,摘出リンパ節数を算出した報告は本邦において初めてと考える.
著者
狐塚 重治
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.32-38, 1978-01-01

娩出直後の胎盤の復元は未だ実現されていないが若しこれが出来るようになつたら臨床上の利点は非常に大きいと思われる.私は昭和37年依頼妊娠,分娩を通じて自分自身で取扱つた約10,000例の分娩を対象として胎盤を含めた卵膜腔の展開および復元のための基礎的な研究を行ない,ようやくその方法を確立し得た.その結果胎盤の付着部は1つの壁の場合もあり,両壁の場合もあり,それに伴つてその形態にも種々変化があることを認め,これを次のように分類した.即ち胎盤が1つの壁に附着するものを1壁附着,前後両壁に跨つて附着する場合を両壁附着とし,更に1壁附着を中央附着(これを細分してM_1, M_2, M_3, M_4に分けた)と側方附着(これを細分してS_1, S_2, S_3, S_4に分けた)に分け,また両壁附着を2M, 2S_1, 2S_中,2S_2, 2S_3に分けた. この分類法に従つて,昭和49年より昭和51年までの3年間の分娩例,4,231例の中,不詳78例,前置胎盤16例,双胎23例,子宮奇形32例を除いた4,082例(96.5%)を分類すると,1壁附着は3,811例(90.1%)量壁附着271例(6.4%)となつた.即ち1つの壁(主として後壁)に附着する場合が絶対的に多く,中でも側方附着が多いことがわかつた.更に細かく分けてみると,S_1が17%で最も多く,ついてM_2, S_4, S_2, M_1, S_3, M_4と次第に少なくなりM_3は特に少なくなつている.両壁附着は非常に少なく,271例,6.4%を占めるに過ぎないが,形態に変化が多く,形態異常と言われる例の大部分が之に属している.尚前置胎盤,子宮奇形,双胎等はそれぞれ特異な興味ある形態を示す.
著者
松井 武彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.17, no.9, pp.947-956, 1965-09-01

近年, 妊娠貧血に関する研究は多方面に亘り, その進歩には目覚しいものがある. 古くは末梢血の検索が主たる研究課題であったが, 最近は優秀な理化学器械の出現と放射性同位元素の応用などにより研究方法が一新したかの感がある. 末梢血の検索が貧血の診断に重要であることは今更申すまでもないが, 更に一歩前進して血液中の造血資材の検索はそれ以上に診断的価値があるものと信ずる. 妊娠貧血の原因については未だ氷解しない面が多いようであるが, その大部分は鉄欠乏性のものであるとの意見が強い. 私は健常妊婦の末梢血の検索の結果, 低色素性のもの以外に高色素性の貧血をかなりの頻度に認めた^&lr;22)>. このことが動機となり健常妊婦の血清鉄および血清ビタミンB_<12>量の変動を追求した. 1) 昭和37年1月から昭和39年1月まで約2年間に亘り, 長崎大学産婦人科外来健常妊婦330例について検索を試みた. 2) 末梢血の検索は一般に行われている方法で行った. 3) 血清鉄および不飽和鉄結合能の測定はSchade et al ^<37)>の原法に従って行った. 発色剤は2, 2', 2"-terpyridine, 試薬はすべて特級を使用した. ガラス器具は硝酸:水=1:1に一昼夜以上浸し鉄イオンの排除につとめ, 洗滌は再溜水で何回も行った. 4) 血清ビタミンB_<12>量の測定はMeynell et al^<26)>の原法に従って行った. 定量用菌株は, Lactobacillus leichmannii, 保存, 前培養および定量用培地はDifco社製市販既成培地, ビタミンB_<12>標準原液はRubramin(Squibb社製)を用いた. 試料中の菌の増殖度は試料のpHの変化から求めた. 研究成績 : 赤血球数, ヘモグロビンおよびヘマトクリット(以下それぞれをRBC, Hgb, およびHct. と略記する)は妊娠初期にすでに健常非妊婦に比し推計学的に有意の減少(P<0.05)を示した. 妊娠月数の進行につれてその減少は著明となり, 妊娠中期に最大の減少が認められ, 以後やゝ恢復傾向が認められたが, 妊娠初期の値にまでは達しなかった. 初経産別では経産群に有意の減少(P<0.05)を示した. 大部分のものは正球性正色素性を示したが, この外, 小球性低色素性および大球性高色素性のものがかなりの頻度に認められた. 血清鉄は健常非妊婦に比し有意の減少(P<0.05)を認め, 不飽和鉄結合能は有意の増加(P<0.05)を認め鉄欠乏の存在を確認した. 血清ビタミンB_<12>量は健常非妊婦に比し有意の減少(P<0.05)を認めなかった. 妊娠月数の累加にともない減少傾向にあり, 妊娠中期に有意の減少(P<0.05)が認められた. 妊娠後期ではやゝ恢復の傾向を認めた. 小球性低色素性群にも血清ビタミンB_<12>量の欠乏を認め, 又大球性高色素性群にも血清鉄の減少を認め妊娠中は鉄欠乏とビタミンB_<12>の欠乏の両者が合併しているために複雑な病相な呈するのではないかという結論に達した.
著者
大場 鉄志
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.459-468, 1967-05-01

私は今迄に妊娠時妊婦は内因性のCa欠乏状態に陥っているという事,又妊娠4カ月よりCa含有製剤を投与する事により内因性のCa欠乏状態を防止する事が出来るという事を報告したが,このCa欠乏状態の臨床的に持つ意味については不明な点が多い.そこで私は妊婦に見られるleg cramp即ち下肢痙〓の概念及びそれとCaとの関係について検討を加え次の結果を得た.1)leg crampは妊婦の32.3%に認められ経産掃に幾分多い.大部分は妊娠7ヵ月以降に発現し産褥には1例も発現していない.2)1eg crampは2〜3日間隔で起るものが最も多く,大部分はcrampと共に激しい疼痛を訴えている.3)大部分は深夜から明け方にかけて発現しているが,両側腓腸筋に同時に起るものは少ない.4)leg crampを訴える妊婦にCa製剤の静注を行なうと,全例著効を示し,大部分は静注開始後2〜3日目に効果の発現を見ている.5)Ca製剤内服群では全例著効又は有効を示し,治療効果は内服開始後3週間以内に現われている.6)1eg crampを訴える妊婦の血清総Ca濃度の変化は正常妊婦のそれと著差を見ないが,尿Ca/Creatinineはより低値を示す.7)Ca製剤投与群の内,著効例では血清総Ca濃度及び尿Ca/Creatinineの著明な増加を認める.有効例では血清総Ca濃度の軽度上昇と尿Ca/Creatinineの明らかな増加が認められる.8)Ca製剤投与群43例中,投与中止後4例に再発を見たが,Ca剤の再投与によりいずれも症状は消失した.そして血清総Ca濃度より尿Ca/Creatinineの変化に再発との相関関係が明らかに認められた.9)妊婦に見られるleg crampは妊娠時Ca欠乏状態が原因であると考えられ,血清総Ca濃度よりもむしろ尿Ca/Creatinineの変化を追跡する事によりleg crampの消長を知る事が出来,従ってその治療又は予防を行なう事が出来るのではなかろうかと考えられる.
著者
大場 鉄志
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.1309-1316, 1966-11-01

妊娠時には内因性のCa需要が増加する事はよく知られており, 妊娠末期の胎児は25〜30grのCaを含んでいるが, その大部分は妊娠末期に母体保有のCaから摂取されたものといわれている. その他母体は妊娠による全身的変化や胎盤形成の為にもCaを必要とし, その増大した需要のため母体は内因性のCa欠乏状態に陥つているという事が考えられる. この内因性のCa欠乏状態及びそれに対する対策については案外に検討されていない様である. 従つて私はまず, 妊娠, 産褥時のCa代謝の変化を知り, 更にそれに対する対策を明らかにし, 妊婦栄養指導の参考に供したいと思う. 本編ではCa含有製剤非投与妊婦について, 妊娠, 産褥時のCaの推移を窺うと共に, Ca負荷試験を行い, 内因性のCa欠乏状態を調べ次の結果を得た. 1)血清総Ca濃度は共存するP濃度が5mEq/L以下であれば423mμのCa Bandを使つて焔光法で測定出来る. 2)1日尿中排泄Ca量は任意に採尿した尿についてCa-Creatinineより推定出来る. 3)血清総Ca濃度は季節的に変動を見ない. 4)血清総Ca濃度, 尿中排泄Ca量は妊娠5ヵ月より低下し始め, 妊娠10ヵ月で最低となり, 産褥7日目にほぼ非妊婦値に回復するが, その低下度は尿中排泄Ca量が遥かに著明である. 5)血清イオン化Ca濃度は, 妊娠, 産褥時共に殆んど変化が認められない. 6)妊娠の進行に併う腎細尿管Ca再吸収率の変化は見られない. 7)臍帯血総Ca濃度, イオン化Ca濃度は, 母体血のそれより高値を示し, しかもイオン化Ca濃度は非妊婦値より高値である. 8)妊婦に負荷試験を行うと、妊娠月数が進む程血清総Ca濃度の上昇度, 毎時尿中排泄Ca量の増加が低下して行き, 産褥6日目では非妊帰の変化に近い傾向を示す.
著者
田中 達
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.231-234, 1965-03-01

新生児の生理的な尿の組成については, 現在迄いくつかの報告がみられるが, 未だに定説はなく, また我が国ではまだその報告もすくない. そこで私は主に生後10日目迄の, 新生児548例(未熟児104例を含む)の自然尿について, Ames社製の試験紙或は試験錠剤を使用して尿中の蛋白・糖・pH. アセト酢酸とアセトン・ビリルビン・フェニールケトン・赤血球を夫々検査し次の如き結果を得た. 蛋白尿は33.0%, 糖尿は99%, アセト酢酸或はアセトン尿は1.8%, ビリルビン尿は22.5%, フェニールケトン尿は10.5%, 赤血球尿は6.4%を夫々示し, また平均pHは5.9であった. これらは何れも生後1〜3日目に最も多く現れて, その後次第に減少し成熟児では生後11日目以降ではいづれの反応も陰性であった. しかし未熟児では生後11日目以降でも各反応について陽性をみたものがかなりあり, 特に生下時体重2,000g未満のものでは生後10日目以内でも成熟児に比して陽性を示す例が多く, また生後かなりの日数をすぎても未だに陽性を示したものがあった.
著者
井谷 嘉男 野田 恒夫 伊藤 公彦 安達 進 東條 俊二 新谷 雅史 大西 泰彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1099-1106, 1997-12-01

乳癌術後 tamoxifen (TAM) 内服による内性器および血中性ホルモンへの影響を検討した. (1) TAM 内服73例(TAM 群)の婦人科受診理由を調査したところ, 月経異常, 性器出血, 帯下増量感など TAM との関連を疑わせた症例は33%(24/73)であった. (2) TAM 群73例と基礎疾患がなく TAM 群と年齢分布に差を認めない非内服例68例(対照群)で, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を成熟指数(MI)および核濃縮指数(KPI)にて比較した. 閉経前では差は認めなかったが, 閉経後では TAM 群で有意に中層細胞は減少(p=0.002), 表層細胞は増加しており(p < 0.0001), KPI も上昇していた(p < 0.0001) (unpaired t test). (3) TAM 群閉経前12例と閉経後25例で血中 LH 値, FSH 値, エストラジオール(E_2)値, プロゲステロン(P)値を測定した. 閉経前では一定の傾向はみられなかった. 閉経後ではE_2値は閉経後正常範囲内に分布し, LH 値は48%(12/25)で, FSH 値では52%(13/25)で閉経期正常値の範囲に達せず低値であった. (4) TAM 群において上記各ホルモン値と MI, KPI間に相関は認めなかった(スピアマンの検定). (5) 閉経後 TAM 内服例において子宮内膜の増殖性病変を57%(12/21)に認めた. うち3例に子宮内膜癌が存在した. 以上より, TAM はエストロゲン(E)様効果を発現することがあり, その機序は TAM の内性器への直接作用と考えられた. 特に閉経後では TAM の E 様効果が顕在化, 持続しやすく, 子宮内膜増殖病変の危険因子となり得る. TAM 内服者の管理は, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を算定し, TAM の内性器への影響を評価することが重要である. 子宮膣部上皮細胞の成熟度が上昇した閉経後の TAM 内服例では, 内膜細胞診と共に経膣超音波断層法などによる子宮内膜の肥厚の評価や, 内膜組織診による内膜病変のより正確な把握が必要である.
著者
棚田 省三
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.960-966, 1983-07-01

下垂体からのluteinizing hormone(LH)の分泌に関する視床下部の働きについては,主にratにおいて研究されているが,よりヒトに近いと思われる霊長類においては,あきらかではない.そこで,ニホンザルmacacas fuscatusにおいて視床下部諸核に電極を刺入,電気刺激を加え,血中LHの変化を調べた.その結果,(1)弓状核,腹内側核においては,250μA,500μAの電気刺激と共に血中LH値は上昇した.(2)室旁核,視索上核においては,250μA,500μAのいずれの刺激によっても血中LH量の変化は認められなかった.(3)視索前野において,血中LH量は内側核の250μAの刺激によっては変化しなかったが,500μAの刺激によっては上昇した.また外側核の250μA,500μAの刺激には,いずれも変化を認めなかった.(4)放出されたLHの血中からの半減期は35.4分,33.4分,48.4分,43.1分とヒトLHの血中よりの半減期に比べて,短かいものであった.以上の実験結果から,下垂体よりのLH分泌には,視床下部の弓状核,腹内側核が主に関与し,また視索前野内側核も関与しているが,弓状核,腹内側核とは異なることが朗らかとなった.
著者
藤田 喜久
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.1377-1386, 1969-12-01

妊婦尿中に著増するestrogenは胎児副腎から分泌されるdehydroepiandrosterone(以下DHEAと略す)を材料として胎盤で主として産生される.このDHEAの胎児副腎からの分泌調節機序解明の為,生後数日間の新生児にACTH,HCG,dexamethasoneなどを負荷し,その前後の尿中DHEAの排泄量及びPorter-Silber chromogen(以下PSCと略す)排泄量をも測定し,比較検討した.DHEAの測定法についてはColasの方法にアルカリ洗浄による尿色素の除去及びisotope dilution法を導入改良検討してその精度を高めることが出来た.即ち本法による最低測定限界は5μg,回収率は80%であつた.薄層クロマト上のRf値及び硫酸発色による吸収spectrumの検定によりDHEAであると同定した.本実験結果から1)新生児の尿中DHEA及びPSC排泄量は出生後数日間は余り変化がなく,この時期では副腎胎児層の退縮はいまだ軽微であることが示唆された.2)ACTH投与群ではDHEA測定値は222μg/dayより939μg/day(P>0.06)に,PSCは224μg/dayより1451μg/day(P>0.02)といずれも著増な示し,dexamethasone投与群ではDHEAは279μg/dayより63μg/day(p>0.02)と著減し,PSCも270μg/dayに比し162μg/day(P>0.06)と減少した.これらのことから,胎児副腎の内分泌機能はACTHの調節下にあるものと思われ,HCGに関しては投与前後において両ステロイド共変化がみられなかつたことから,その調節因子としての意義を持たないことが示唆された.
著者
菊池 義公 大森 景文 木澤 功 喜多 恒和 宮内 宗徳 岩野 一郎 加藤 宏一
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-86, 1988-01-01

この研究は, ヒト卵巣癌移植ヌードマウスを用いてカルモデュリン拮抗剤(W-7およびW-5)との併用によつてシスプラチンの抗腫瘍効果を増強するべく行なわれた. シスプラチンとW-7またはW-5との組合せで治療されたヌードマウスの腫瘍発育はW-7単独, W-5単独またはシスプラチン単独で治療されたヌードマウスのそれに比べて有意に抑制された. シスプラチン単独投与は腫瘍移植ヌードマウスの脾細胞の本腫瘍標的細胞に対する障害活性を著しく阻害した. しかしながらシスプラチンによるこの阻害効果はW-7またはW-5との併用によつて除かれ得た. シスプラチン単独, W-7単独およびW-5単独投与群の間でその生存期間において有意差は見出されなかつた. シスプラチン投与に引き続いてW-7またW-5が投与された時, W-7またはW-5によるシスプラチンの抗腫瘍効果の有意な増強が, 腫瘍発育の抑制という点ばかりでなく生存期間の延長という点でも観察された.
著者
高橋 久寿 乾 泰延 三村 経夫 加藤 秀之 山野 修二 大野 義雄 竹内 悟 江崎 洋二郎 森 崇英
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.2163-2171, 1982-12-01

hMG-hCG療法時のovarian hyperstimulation syndrome(OHS)における血清estradiol(Ed),androstenedione(A)とtestosterone(T)の変動を検討し、特にandrogen測定の意義について以下の知見をえた.1)47例の無排卵症患者(無排卵周期症2例,第1度無月経23例,第2度無月経22例)に143周期の治療を行つたところ,軽度OHSは4例,中等度OHSは4例で排卵誘発成功例の25%を占めた.2)Edは卵胞成熟徴候に平行して増加し,排卵前のピーク値は排卵成功OHS非発症群(n=9)では514.7±194.3pg/ml(増加率14.7倍),軽度OHS群では1003.5±409.9pg/ml(増加率11.8倍),そして中等度OHSでは2374.3±1345.1pg/ml(増加率42.1倍)と著明に増加し,Edのピーク値とOHSの発症とその重症度とは相関し,8例のOHSのうち,6例のEdが1000pg/mlを越えたので,このEdレベルがOHS発症予知の一応の目安と考えられた.3)Aの変動は正常周期にはみられないようなピークがEdのピークとほぼ一致してみられた.すなわち,OHS非発症群では7.3±3.2ng/ml(増加率1.4倍),軽度OHS群では8.3±3.2ng/ml(増加率2.4倍),中等度OHS群では8.4±3.3ng/m1(増加率2.7倍)であり,OHSの重症度によって増加が著しく,Edの場合と同様の傾向を認めた.4)排卵成功例の治療前T値は正常排卵周期例に比べ有意(P<0.01)に高く,治療中のTの変化はhMG投与には殆ど反応せず,hCGに切換えてから急増した.すなわち,OHS非発症例(n=6)では治療前値の2.2倍,軽度OHS群(n=4)では2.2倍,中等度OHS群(n=4)では4.7倍とOHSの重症度によって増加率があがった。5)dexamethasone抑制hCG刺激試験において,hCG刺激によるTの増加率は正常排卵周期で30.3%,第1度無月経(n=7)で63.1%であるが,多嚢胞性卵巣疾患(n=8)では166.3%と異常に高いことが示された.以上の知見から、hMGとhCGの順次投与法において,hMG投与中にはAの,hCGに切換えたあとはTの一過性の上昇がみられ,その増加率はいずれもOHSの発症と相関していることが判明した.したがって,OHS発症予知の一手段として従来から用いられているEd測定のほかにA,Tの測定も意義あるものと考えられる.
著者
上野 雅清
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.10, pp.1207-1216,i-iii, 1966-10-01

抗生物質の普及は感染症の治療を容易にした反面, 耐性菌の出現, 菌交代症, 弱毒性菌の病原性化等のわずらわしい現象を招来する結果となり, 弱毒性菌としてあまりかえりみられなかつたD群レンサ球菌の分野においても, 本菌を起因菌とする胆嚢炎, 心内膜炎, 虫垂炎等の発生が注目され始め, その報告もみられる. 私はたまたま本菌による重症産褥敗血症を経験して以来, 産婦人科領域において単に腟内常在菌としか考えられていなかつたD群レンサ球菌においてもこのような現像が想定され得ると考え, 従来本菌研究の障害とされた亜型が多く出現する生物学的同定法をさけ, 血清学的同定法を導入することにより本研究を行つた. その結果, 本菌を単独起因菌とする尿路感染症の存在を確認し, 菌数10^4/mlをもつて本菌の成立とみなした. また, 尿路感染症の他, 産褥熱, 流産後子宮内感染症において検出される本菌の菌型を対照群と比較検討した結果, 感染群の尿, 血中, 子宮, 腟より分離されたVI, VII, VIII型に起炎性との関連を認めるとともに, 本菌による上記感染症の感染経路を追及して直腸, 大腿内側上部, 外陰部, 腟, 子宮, 尿路における感染経路を知り得た. さらに本菌の毒力を観察する目的からマウスを用いて実験を行い, 病巣由来株は非病巣由来株よりも毒力が強く, 副腎皮質ホルモン投与により死亡率の上昇, 死亡までの日数の短縮がみられ, 組織学的にも心, 肺, 肝, 腎に小膿瘍の形成を認め, グラム染色により本菌の存在を確認した. 本菌の抗生物質に対する感受性は他群のレンサ球菌と異なり, 耐性株が多く, 多重耐性株も多数認められ, 抗生物質を使用した感染症の直腸, 腟における細菌叢の変動を観察した例においてもProteus等と同様に, 菌交代症の菌種として出現する傾向がうかがわれた. 以上の実験成績から, 単に常在菌と考えられていたD群レンサ球菌といえども, 抗生物質, 副腎皮質ホルモン投与等の外的, 内的因子の負荷に伴う共存細菌の急激な変動, 本菌の増殖, 菌型の変動, 耐性株の増加, 耐性度の上昇, 網状内皮系統の貧菌力の低下等, 菌側, 宿主側の諸条件が加わるならば, 異所に侵入して病原性を発揮することも可能であると考えられ, 日常臨床においてこれ等諸条件を観察し, その予防に留意しなければならない.