著者
金岡 毅 清水 博 松岡 功 田口 星 白川 光一
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.233-242, 1982-02-01

妊娠初期に胎児頭殿長または大横径の超音波計測によって在胎週数が確認されており,妊娠末期に胎児腹囲および大横径の超音波計測を打ってWarsof et al.の方法で算出した推定胎児体重が,仁志田の日本人における胎内発育曲線で10 percentile以下であった子宮内胎児発育障害の22例について,母体の安静,高蛋白食,allylestrenol 1日30mg投与からなる出生前治療を行い,胎児推定体重,腹囲,大横径,母体血漿エストリオール,血漿ヒト胎盤ラクトーゲン,血漿プロゲステロン,血清耐熱性アルカリフォスファターゼおよびロイシンアミノペプチターゼの治療前後の変化を観察した.その結果,(1)平均発見週数33.8±2.1週で平均1431±284gであった胎児推定体重は,治療の結果最終在胎週数39.5±1.8週で平均2612±451gと増加し,1週あたり平均212±67gの体重増加を示した.これは仁志田の胎内発育曲線の1週あたり平均体重増加162±43gと比較して有意に高い増加率であった.しかしながら出生体重においては仁志田の基準で22例中11例(50%)がなお10 percentile以下であった,(2)推定胎児体重の最終計測値と出生体重との間には相関係数0.82,Y=1.01X+17.5の相関があり,Warsof et al.の推定胎児体重測定法が子宮内胎児発育障害の出生前診断に極めて有用であることが判明した.(3)母体生化学値のうち,血漿エストリオール値が最も子宮内胎児発育障害の診断に有用であることが見出された.出生前治療によって,血漿エストリオールは平均2.1土1.5から2週後には4.1±3.6ng/mlに,尿中エストリオールは平均14.0±6.9から2週後には23.7±11.2mg/dayに,血漿プロゲステロンは平均110±14から2週後には133±31ng/mlに,それぞれ推計学上有意に増加した.これらのステロイド値増加は,少なくともその一部はallyletrenolの胎盤賦活作用によるものと推定された.
著者
葉 清泉 田中 博志 有松 直 浜井 潤二 北園 正大 西田 敬 西村 治夫 有馬 昭夫 薬師寺 道明 加藤 俊 石田 禮載 天神 美夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.549-556, 1984-04-01
被引用文献数
1

上皮内癌,Ia期癌およびIb期癌のコルポスコピー所見を詳細に分析し,更に点数評価による組織推定診断を試みたところ次の結論を得た.1.コルポスコピー点数1〜10点を上皮内癌,11〜18点をIa期癌および19点以上をIb期癌とし,点数評価による組織推定診断を試みたところ上皮内癌66.7%,Ia期癌59.4%およびIb期癌76.5%の正診率であった.2.上皮内癌のコルポスコピー所見は腺口を有する白色上皮とそれに伴なう葬薄な白色上皮.赤点斑およびモザイクが特徴的で,白色上皮単独で出現することが多かった.3.Ia期癌のコルポスコピー所見は異型血管,不規則た血管を有する赤点斑および異常線口の集合からなるモザイクが特徴的で,各種所見が合併および重複して複雑た外観を呈することが多かった.4.Ib期癌のコルポスコピー所見は浸潤癌所見が主体で,白色上皮,赤点斑およびモザイクが認められないことが多かった.比較的浸潤が浅いIb期癌ではコルポスコピー所見の複雑性が認められIa期癌との鑑別は困難であった.5.Ia期癌およびIb期癌になると,コルポスコピー異常所見が移行帯のほとんど全域を占め外側では扁平上皮あるいは晩期化生上皮に接し,内側に正常所見が認められないことが多かった.
著者
太田 誠
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.73-82, 1985-01-01

客観的,連続的な胎動記録ができ,同時に胎児心拍数図が記録できる超音波ドブラ胎動計を用いて妊娠各期の胎動を記録し検討した.1)電子スキャンで認めた胎動は,胎動計記録と100%に一致し,胎動計記録の約90%が電子スキャン観察でも認められた.Mモードによる胎動記録に一致して胎動計記録が得られた.2)胎動バーストには,妊娠23週以降,胎児一過性頻脈の同時併発をみ,28〜3i週で42〜87%,36〜40週で91〜100%の併発率であった.バーストに伴う心拍数増加の振幅は,23〜38週で直線的に増大し,妊娠30週ではその平均値から約15bpmと推定された.単発信号では一過性頻脈の併発はなかった.3)胎児のしゃっくり様運動は妊娠24週から記録され,4分20秒〜17分持続し,25〜28cpmの規則的なスパイクが連続した.一過性頻脈の併発はなかった.4)母体の胎動自覚率は,記録振幅13mm以上の胎動では平均27.7%,胎動バーストでは平均67.7%であり,個人差は大であった.記録振幅10mm以下では,母体の自覚はなかった.5)妊娠初期では11週以降(CRL54mm以上)で胎動が記録された.6)日中の長時間の記録では,active phaseの胎動バーストの持続は,15秒以内,15秒〜1分,2分以上の3つに大別された.resting phaseの持続は10〜36分で,その出現は13時台と16時台に多く,resting phaseの発生間隔は24〜152分であった.7)日中の各時刻帯1時間あたりの記録振幅13mm以上の胎動数の最大値は2,860回,最小値は15回,平均値では差は少なかった.8)母体の昼食前後の胎動数の変化は,増加または減少の一定の傾向を認めなかった.今後の胎動評価において,胎児に個体差があることから,経時的な胎動観察が重要である.
著者
池田 良
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.303-311, 1976-03-01

性ステロイド投与に際しては,その長期連用の下垂体前葉に対する影響が問題となるが,この点について未だ十分な解明はなされていない.そこで若者は下垂体前葉に与える影響をLH-RH testとRadioimmunoassayにより系統的に検討し以下のような結果を得ることができた. 対象は経口避妊薬(norgestrel 0.5mg+ethinyl estradiol 0.05mg合剤)長期投与例で,これに対照正常周期例,norgestrel単独投与例,ethinyl estradiol単独投与例を比較対照した. 結果:合剤投与では下垂体機能抑制がみられた.その程度は内服の各時点で異なり,一定周期内では,LH-RH testの前値,反応とも周期後半になるに従い進行し,休薬期には,抑制がとれてreboundの傾向を示し,次周期に再び抑制されていくという周期的変化を呈した. 服用期間による影響は,前値1〜2年で抑制著明,反応はFSHが最初の1〜2年に低下したが,その後は有意な進行はなかつた. 年令差(20代と30代)は特にみとめられず,むしろ個人差が大きい.FSH/Lh ratioは対照同様test後低下した.服用中止後は5〜10日でFSHが正常値以上にreboundし,%increaseはFSHの方が小さかつた.中止後1〜5ヵ月では,test成績の回復に従い正常月経周期回復がみられた. 単味剤では,ゲスタゲン,エストロゲンともこの量での抑制はみられなかつた. 以上により今回の合剤での抑制はゲスタゲンとエストロゲンの相乗効果と推定されたが長期投与でも抑制はほぼreversibleであつた. また下垂体のみならず間脳にも影響を与えていることが示唆され,FSHとLHの放出に差のあることもみられた.このように,ステロイド投与時の下垂体機能を,LH-RH testによりうかがい知ることができた.
著者
植田 勝間 豊川 元一 中森 宏 迫 久男 梅咲 直彦 須川 佶
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.569-573, 1977-05-01

近年,卵巣癌の発生頻度は増加する傾向にあると考えられるが,現在一般に施行されている本疾患に対する診断法(双合診,細胞診,超音波断層法および骨盤内血管撮影法など)は,いずれも腫瘍の存在を把握し得たとしても良性か悪性かの鑑別には未だ十分な根拠とはなつておらず,とくに早期診断には全く無力と言つても過言ではない. 本研究は免疫学的側面より卵巣癌診断へのアプローチをおこない,その有用性を追求したものである.まず,卵巣癌の癌塊の大きさと患者末梢血の血清効果(plant mitogenによる健常人リンパ球DNA合成能を抑制する血清の効果)の対比検討をおこない,次いで患者末梢血の血清効果の増大を惹起させ得る最小の癌塊の大きさの限界を把握することから,本法が卵巣癌の早期診断に有力なる診断法となりうるかを検討した. その結果, (1) 卵巣癌患者のリンパ球のPHAに対する反応性は,対照群に比して若干低下していた(P<0.05). (2) 卵巣癌患者の末梢血の血清効果は,健常人および良性卵巣腫瘍患者のそれに比して,有意に増強していたが(P<0.01),後2者間においては有意差は認められなかつた. (3) 卵巣癌患者において,癌塊の大きさが増大するにつれて,患者末梢血の血清効果が増強する傾向がうかがわれ,且つ又,鵞卵大の癌腫において,すでに良性卵巣腫瘍に比して著明な血清効果が認められた(P<0.01). 以上の成績より,卵巣癌患者における血清効果の強弱は癌組織由来の免疫抑制因子の量的増減により惹起されるものと考えられ,また卵巣癌の診断において比較的早期の例においても本法が有用であると考えられた.
著者
入江 隆
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.38, no.9, pp.1623-1631, 1986-09-01
被引用文献数
1

概要 分挽詩の胎児心拍数自動解析の諸指標を自動坪芯虎\示して、臍帯動脈血所見との関連を検討した。対象ぱ挽出前30分以上の記録が得られた妊娠33〜42週の108例て、1分Apgar什例を除いて8点以上てあつた。自己相関計式心拍数計の外潮沫で得られた胎児心拍数と子宮収縮信号をdux PDS、V のADCに入力し、前田の胎児心拍数自動解析BASIC餅杆徘によつて処理した5分ことの自動解析の諸指標(胎児仮死指数、子宮収縮面積値、心拍数什A一過性徐脈数、胎児心拍数基線、細変動、lag time)の自動坪芯虎霖┰餅擴上に表示した。臍帯動脈血分析にぱ全自動のRadlometer ABL-2を用い、pH、BE、HCO恥Po2、Pco2を測定し、以下の結果を得た。(1)胎児仮死指数の最高得点によつて4群に分類した。胎児仮死指数の上昇に伴い済帯動脈血pH、BE、HCO苔の平均値ぱ低下する傾向かあり、0点群と3点以上群てぱそれそれに有意差を認めた。(2)心拍数什o前0〜10分から挽出前50〜60分まての11詩点て10分間合計し、済帯動脈血各指標との間の相関係数を求めた。臍帯動脈血pHぱ挽出前5〜15分間(r=-0 47)の、BEとHCOびま挽出前10〜20分間(r=-0 60、r=-0 45)の心拍数什蛯滑W数か得られた。(3)胎児仮死指数と心拍数什謔閨A分娩経過を坪芯虎D群と不良群に分類した。良好群ぱ80例、不良群ぱ28例で、両群間で、臍帯動脈血各指標の平均値すべてに有意差を認めた。(4)坪芯虎D群でぱ、Po2を除いて90%以上の症例が正常の臍帯動脈血所見を呈していた。臍帯動脈血pH<7 25、BE<-6 0mEq/1を予測する鋭敏度、特異変ぱそれそれ70%以上てあり良好てあつた。以上より、胎児仮死指数と心拍数什高w標であることか確認された。また坪芯虎D群、不良群の分類ぱ分娩時の胎児監視悉恥として有用と思われた。
著者
大野 剛
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.376-384, 1971-05-01

抗腫瘍剤は抗腫瘍効果が同じであつても, 腫瘍細胞に対する作用機序は必らずしも同じではない. 抗腫瘍剤Bleomycinの腫瘍細胞に対する作用機序を解明し, 抗腫瘍効果を確めるため, HeLa細胞にBleomycinを種々の濃度で作用させ, 異数性変化, 細胞分裂の変化, 異常染色体の発現について染色体学的立場より検討を加え, 以下の結果を得た. なお, 細胞分裂の変化, 異常染色体の発現については後日発表したい. (1)HeLa細胞の染色体数モードは低3倍域(58〜65個)にある. (2)HeLa細胞の染色体数は28〜30時間毎に同じ様な細胞分布を示し, モードは一定の周期で変動する. (3)高濃度(10〜100μg/ml)のBleomycinは2倍体よりも3倍体, 高倍体に強く作用する. (4)低濃度(0.1〜1.0μg/ml)のBleomycinは3倍体に阻止作用を示すが, 効果発現には, 時間を要した.
著者
仲地 廣順
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.2235-2243, 1982-12-01
被引用文献数
2

先天性ト症の診断に役立てる目的で,ト抗体価陽性を示す妊婦55例とその児56例(双胎1例を含む)を対象とし,母体では妊娠各時期,分娩時および産褥1カ月時に,児では生後1年まで定期的に血清中のIgG,IgM,IgA,IgGト抗体価およびIgMト抗体価を測定し,これらの値の母児間の相関々係を検討するとともに,ト抗体価陽性妊婦より出生した児の臍帯血より生後1年目までのIgGト抗体価の値よりト抗体価の半減期を求め,その減衰曲線を作成して,以下の結果を得た.1.妊婦ト症での免疫グロブリン定量値はその抗体活性を表す指標にはなりにくい.2.母体のIgMト抗体価が陽性でも,ほとんどの児にこれを認めない.また,単一検体によるIgGト抗体価およびIgMト抗体価から急性か慢性かの判断は困難なことがある.3.妊娠中のIgGト抗体価の測定値は,分娩時の値が児の生後1年間の推移と最も高い相関を示す.4.分娩時の母体血と臍帯血のト抗体価の比較で,母体=臍帯(A群),母体>臍帯(B群),母体<臍帯(C群)の3群に分けて,児の出生後のト抗体価の推移をみると,A群とC群では生後1年,B群では生後6ヵ月で全例陰性となる.5.出生の直後(臍帯血)から1ヵ月,1ヵ月から3ヵ月,3ヵ月から6ヵ月までのト抗体価Xと半減期Tは,それぞれ,X=N_0×2^<-(1.345±0.510)×t/30>,16.18日<T(平均22.31日)<35.93日.X=N_0×2^<-(1.125±0.698)×t/60>,32.91日<T(平均53.33日)<140.5日.X=N_0×2^<-(1.667±1.434)×t/90>,29.03日<T(平均54.00日)<386.8日.(N_0=初期値,t=day)と表すことができる.6.半減期から移行抗体の減衰曲線を作成し、出生後のト抗体価がこの曲線より高く逸脱する例に,先天性ト症の疑いがあると思われる。
著者
小松崎 一則 小崎 俊男 橋野 正史 矢内原 巧 中山 徹也 森 弘
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.1095-1102, 1987-07-01

副腎性ステロイドの一つであるC^21Δ^5系Pregnenolone sulfate(P_5S)は胎盤性Progesterone(P_4)の前駆体として知られ、妊娠時に母体胎盤胎児系をめぐる内分泌環境に大きな影響を及ぼす重要な物質の一つである。しかし、in vivoにおけるP5Sの母体胎盤胎児系における代謝動態に関しては不明な点が多い。そこで、非標識P_5S及び重水素標識P_5S(2,2,4,6-d_4-P_5S)を妊娠末期母体へ投与し、追跡実験を行った。I.非標識P_5S投与例:妊娠末期母体(5例)へP_5S(30mg)投与し、15分、30分、60分、120分、24時間後の母体血中P_5S、20P_5S、P_4、20P_4及びDHA-S値を安定同位体を内部標準として用いたGas chromatography-Mass spectrometry(GC-MS)法で測定した。 (1)P_5S:投与後15分で前値に比し約4倍に増量し以後減少、24時間後に前値レベルとなった。 (2)20P_5S:15分後に速やかに約2倍に増加し、120分まで高値を持続、24時間後に前値に復した。 (3)P_4及び20P_4は、実測値では増加傾向を示すが有意差はなく、投与前値を100とした変化率では、15分より上昇し、30分でピークに達し120分まで有意に増加、P_4は24時間で前値に復したが、20P_4は24時間後でも前値に比し高値を示した。 (4)DHA-Sは、実測値、変化率共に時間的変化が認められなかった。 II.重水素標識P_5S(d_4-P_5S)投与例:妊娠末期母体(1例)へd_4-P_5S(30mg)を投与し、60分後の母体血、胎盤組織、臍帯静脈血、及び投与後120分間の母体尿中のP_5S関連ステロイドをGC-MS法にて検索し、各ステロイドごとにd化ステロイドの割合(d%)の算出を試みた。 1)母体血:P_5S(84.5%)、17P_5S(95.5%)、16P_5S(51.6%)、20P_5S(85.1%)、20P_5(71.2%)、P_4(10.9%). 2)胎盤組織:20P_5(16.1%)、20P_4(3.2%)、P_4(3.1%). 3)臍帯静脈:P_4(11.2%). 4)母体尿:P_5S(40.6%)、20P_5S(56.6%)、5β-pregnane 3α、20α diol(34.8%)いずれの検体よりもC_19、C_18系ステロイドは検出されなかった。以上より(1)母体血中P_5SもP_4の前駆物質となり得ることがin vivoで示された。しかし、妊娠血中に著増するP_4の材料としては、母体血中P_5S以外に主に由来することが示唆された。(2)母体血中P_5Sは、C_19、C_18系ステロイドへは、容易に転換されないことが示唆された。
著者
飯野 宏
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.389-397, 1967-04-01

所謂精子免疫による女性不妊の研究の一環として,抗原を雌動物に経腟経路で投与した場合にみられる現象を検討した.即ち,モルモツト睾丸乳剤を用いこれを雌モルモツト性器内に注入して経腟免疫が可能であるか否かを検べ,次いで異種蛋白を用いて経腟免疫動物にみられる免疫現象の特徴を追求した.同種睾丸乳剤で経腟免疫すると,循環抗体はFreund's Adjuvantを使用したときのみ出現するが低値であつた.しかし子宮感作はAdjuvant使用や免疫期間と関係なく著明であつた.異種蛋白で経腟免疫すると,Adjuvantを使用しなくても抗体を認めたがやはり低値であつた.これに対し子宮は生体で抗原を作用させたとき著明に収縮した.又螢光抗体法で全身の網内系組織に抗体を認めなかつたにも拘らず子宮頚管組織には明らかな螢光を認めた.以上の事より経腟免疫動物にみられる免疫現象の特徴は循環抗体よりも性器が強く感作される事であつた.
著者
中村 幸雄 宮川 勇生 石丸 忠之 加藤 紘 木下 勝之 黒島 淳子 小辻 文和 玉舎 輝彦 中村 幸雄 楢原 久司 野田 洋一
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.755-761, 1999-08-01
参考文献数
10
被引用文献数
18

18歳以下の続発無月経症例を対象としてアンケート調査を行い, 依頼した90施設のうち53施設(回収率59%)より288例(有効症例280例)の回答を得た. 無月経に至った誘因としては, 減食による体重減少が44%を占めた. 第1度無月経の誘因は, 不明が最も多く, 減食がこれに次いだ. 第2度無月経の誘因は, 減食が最も多く, 61%を占めた. 減食が誘因の第2度無月経では同誘因の第1度無月経に比較して初診時までの体重減少が有意に著しかった(p<0.02). 第2度無月経では第1度無月経に比較してBMIが有意に低かった(p<0.001). 第2度無月経のBMIのcut off値は18.1であった. 第2度無月経では第1度無月経に比較して有意に無月経の期間が長かった(p<0.001). 第2度無月経では第1度無月経に比較して有意にE_2が低値であった(p<0.0001). 第2度無月経のE_2のcut off値は28.2pg/mlであった. 治療法は, 主としてクロミフェン又はカウフマン療法が行われ, hMG-hCG療法はほとんど行われていなかった. 第2度無月経では約9割にカウフマン療法が施行されていた. 治療により, 基礎体温において第1度無月経の61%に二相性が確認されたが, 第2度無月経では二相性が確認されたのは33%に留まった. 思春期の続発無月経は, その後の妊孕性や骨粗鬆症の発生にも重大な影響を与えることから, 今後, prospectiveな検討をもとにした有効な治療法の確立が必要であるとともに, 減食を中心とした誘因がいかにして除去できるかが重要であると考えられた.
著者
松山 茂麿
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.8, no.11, pp.1255-1256, 1956-10-01

1907年Harrisonによつて始められた組織培養は,その後Fischer, Carrel,木村等によつて術式も改良されて多方面に亙つて研究され,我國でも木村門下その他諸氏の數々の業績が見られる.子宮頸癌の組織培養についても堀・江崎,成田,上野,榊原等がCarrelの懸滴法で固形培地を用いて子宮頸癌組織を培養し,その發育増殖の状態を観察している.Morre (1952, 1955)は子宮頸部組織を培養して,惡性病變は比較的増殖し易いが良性病變は比較的増殖し易いが良性病變増殖し難いと發表した. 私は短冊状硝子上培養法及びGey(1933, 1936)の考察したroller tube法で子宮頸部組織を培養し,病理組織学的に色々議論されている上皮内癌の診斷の補助とする爲,定型癌や糜爛,正常組織について下記實驗を行つた.
著者
関 隆 有澤 正義 二河田 雅信 寺西 貴英 古谷 正敬 持丸 文雄
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.23-28, 1999-01-01
参考文献数
15

羊水細胞より抽出したDNAを用いて胎児RhD血液型の診断を試みた. RhD陰性(RhD(-))妊婦12例およびRhD陽性(RhD(+))妊婦30例より超音波ガイド下に羊水5mlを採取した. また妊婦血液5mlを採取し, それぞれ核酸抽出剤SepaGeneを用いてDNA抽出を行った. PCRを行うにあたり次の四つのプライマーを作成した. RhCE遺伝子とRhD遺伝子に共通した136 base pair(bp)のPCR産物を得るためA1(5'-TGTGTTGTAACCGAGT-3'), A2(5'-ACATGCCATTGCCG-3')を合成し, またRhD遺伝子に特異的な186bpのPCR産物を得るためA3(5'-TAAGCAAAAGCATCCAA-3'), A4(5'-ATGGTGAGATTCTCCT-3')を合成した. PCRは25μlの反応系で35回のサイクルを行った. PCR産物は3%アガロースゲルで電気泳動を行い解析した. RhD(+)血液試料では136bpと186bpの複バンドが検出され, RhD(-)血液試料では136bpのみの単バンドが検出された. 羊水細胞による分析では136bpと186bpの両者が検出された症例をRhD(+)胎児, 一方136bpのみが検出された症例をRhD(-)胎児と判定した. その結果40例がRhD(+)胎児, 2例がRhD(-)胎児で判定不能な症例はなかった. またすべての症例において, 羊水細胞によるDNA判定は臍帯血による血清学的判定と完全に一致した. 以上より羊水細胞による胎児RhD血液型のDNA診断は信頼性が高く臨床応用への道が開かれた.
著者
小寺 敏雄
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.12, pp.1471-1478, 1967-12-01

腟トリコモナス (以下腟トと略す) に関しては従来より形態学, 病原性, 感染経路, 治療など多くの研究がなされて来た. 特に本症の難治性が問題点であったが新薬の開発とその内服療法により今では解決されたかに思われる. しかし腟トの感染率は成熟女性の約1割に達し, 本症に悩む女性は減少していないのが現状である. 腟トと子宮腟部癌の関係を指摘する研究者もあり, 本症を減少させるためには感染経路を確立して一般女性を広く啓蒙する事が必要であると考えられる. 著者は性交感染, 入浴感染, 病院内感染について臨床的, 実験的に各々の感染経路の可能性及び重要性を検索し次の結果を得た. 1) 性交感染 : 少年鑑別所に収容された少女 (非行少女) を実験対称とした. これら少女の過去の性的な既往を調査すると共に腟内容について検鏡及び培養法により腟ト感染の有無を検索した. 成績は115名中55名に腟ト陽性で48.7%と高率を示し, 過去の性関係が多い程感染率は上昇する傾向を示し, 性経験のない7名には腟トを認めなかった. その結果これら非行少女の腟ト惑染は性行為によるものであり性交感染の重要性を立証したものと考えられる. 2) 病院内感染 : 入院患者について入院時及び退院時に検鏡法, 培養法により腟ト感染の有無を検索した. 実験期間中の入院患者には12.4%の腟ト感染者を認めたが, 入院時腟ト陰性で期間中に退院した116名中3名に病院内感染を認め, 病院内感染が実際に起り得ることを立証した. 3) 浴場感染 : 温水に対する腟トの生存力を実験し, さらに市中の公衆浴場より腟ト検出を試みた. 腟トな37℃の温水に入れると温水の量を増す程生存期間は短縮し, 又入浴温度41℃では腟トは更に短時間で死滅する事が判った. この結果実際的に浴槽内より感染が起る事は不可能と考えられる. 公衆浴場よりの腟ト検出は出来なかったが洗場での接触感染は否定出来ない.
著者
齋藤 正淳
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.59-67, 1968-01-01

ヒト子宮筋組織内に於ける Progesterone (以下prog. と略す)は, 検体からの抽出, 及び微量検出法が困難な事から, 従来尿中の Pregnanediol (以下PGと略す) 及び血中のProg. を測って推定していたに過ぎない. 私は, gas-liquid-chromatography (GLC) を用いる prog.の微量定量法により, 妊娠各期の子宮筋 (胎盤附着部と非附着部), 及び胎盤の prog.を定量し, prog.の妊娠, 分娩に及ぼす影響, 特に分娩発来との関係について検討した. 子宮筋組織内の prog.の平均値は, 妊娠17週以前に於て, 附着部 0.86μg/g, 非附着部 0.25μg/g, 妊娠31〜38週で陣痛のないものは附着部 2,54μg/g, 非附着部 2.55μg/g, 陣痛のあるものは, 附着部 3.14μg/g, 非附着部 0.51μg/g, 妊娠39週以後で陣痛のないものは, 附着部 1.49μg/g, 非附着部 0.19μg/g, 陣痛のあるものは附着部 0.69μg/g, 非附着部 0.83μg/g, 胎盤は 5.96μg/gであった. これらの成績によると, 胎盤の Prog.は子宮筋に直接浸透して妊娠維持作用を行なうものと思われる. 即ち子宮筋組織内の prog.は妊娠の経過と共に次第に増加し, 妊娠末期になると減少する傾向があり, 特に陣痛発来後では胎盤非附着部 prog.の減少がみられ, 陣痛発来前では附着部prog.は減少していない事から, prog-block説は妊娠末期のヒトの子宮についてはある程度合理的であるといえるが, 妊娠中期に於では必ずしも合理的ではない. 即ち prog.-block消退は陣痛発来の一要因ではあるが, 妊娠末期になると急増する子宮収縮増強因子も陣痛発来機序に大いに貢献するものと思われる.